[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  〜美しき女性たちの狂気〜
 しばらくの間、女性は締めつけるような視線を男に送り続けた。男は萎縮したように、ただ黙っている。それはまるで、躾の最中の犬とご主人様の関係のようだった。一喝されて小さくなった男と、それを下目で睨みつける女性。
 沈黙の時間が、刻々と流れていった。
 やがて女性がその表情をふっと緩める。毅然とした態度はそのままに、女性は穏やかな口調で再び話し始めた。
「聞いたことあった? この地下室のこと」
「……はい」
 女性の表情の変化を窺うように視線を巡らし、男が答える。女性は笑みを浮かべながら話を続ける。
「どこまで知ってるの?」
「……っと。あるらしい、っていうことくらいで、詳しくは……」
「実際に、ここを見た人を知ってる? 一人でも」
「…………いえ」
「そっか。どうしてだろうね?」
 そう問い、女性は意味深な表情を作る。男はしばらく間を置いた後、重く口を開く。
「殺されてしまう……から……」
「その通り」
 そう言って、女性はくすくすと笑った。
 男の表情は絶望に帰していた。顔を上げ、縋るような瞳で女性を見ながら、
「じゃ、じゃあ……やっぱり俺も……?」
 と、弱々しい声を絞る。女性は表情を変えないまま、
「そこで、さっきの話だよ」
 と涼やかな声で言い、悪戯っぽく笑う。
「た、助けてくださるっていう!」
 男の表情に希望の光が灯る。語気も強くなっていた。しかし女性は、
「あなた次第でね」
 と、さらりと返す。肯定とも否定ともつかないその言葉に、男は歯痒さを表情に滲ませる。
 気にせず、女性は話を続けた。
「ここはあなたの思ってる通り、罪人の処理場だよ」
「……はい」
「でも、私たちの娯楽場でもあるの」
 その言葉に違和感を覚えたのか、男は怪訝な顔つきで女性を見る。やはりここでも女性は、男を気にする素振りを見せない。彼女は淡々と言葉を重ねた。
「中継されてるの。この部屋」
「え! で、でも……担当官が、監視はつかないって――」
「うん。監視じゃないよ。観客だもの。観てるのは、女たち」
「じゃあ、さっき話してたのは、その人たちなんですか……?」
「そう。だって担当官は男だよ? 私を止める指示なんてできるわけないでしょ」
 女性はそう言って不敵な笑みを浮かべる。男は身震いしながら、口を開く。
「……だったら一体、何の目的で……?」
 その言葉を聞いて、女性が吹き出す。彼女はそこで一呼吸置くと、
「観て楽しみたいんだよ。私があなたを、もっともっと嬲ってから殺すのをね」
 と言い放った。まるで当然のことのように。ごく自然に。

Back | Novel index | Next
「本当にか? 本当に、助け――」
 言葉の途中で男は咳き込んだ。口から鮮血の混じった胃液が吐き出される。女性は意味深な微笑を湛えたまま、ただじっと口を噤んでいる。
「信じて……いいのか?」
 と、男はさらに言葉を重ねる。弱々しい声だ。女性の瞳を食い入るように見つめている。そんな男の様子を一瞥してから、女性はゆっくりと口を開いた。
「ところで――」
「いいから答えろ!」
 男は切迫の度を高めたのか、語気を強める。その時、女性の表情からすっと笑みが消えた。
「答え……ろ?」
 そう言った女性の目尻は鋭く吊り上がっていた。眼力に怯んだのか、男は身体を硬直させる。女性は男の瞳を覗き込みながら、顔を近づける。威嚇するような口調で「答えろ……?」と、再び男に詰め寄る。
 男は先ほどの勢いを失い、全身を震わせる。「あ……あっ……」と、言葉にならない声を喉の奥から漏らした。その額に汗が滲む。女性はその瞳に、未だ鋭い眼光を閃かせている。手中に男を捉えた女性は、
「態度が悪いなぁ。殺されたいのかな?」
 と冷やかに呟き、その拳をゆっくりと男の目前に突きつけた。男はビクッと身体を震わせる。表情がみるみるうちに青ざめていく。
「す、すす……すみません! ごめんなさい!」
 と、男は慌てた口ぶりで謝罪の言葉を発する。同時に、縋るような声を絞る。
「お、教えて……ください!」
「何を?」
「だか……、ですから、その……本当に――」
 と、そこで再び男は咳き込む。すぐさま女性が口を挟む。
「本当に、何?」
「はい。あの、本当に助けてくれ、……くださるんでしょうか?」
 男は真剣な眼差しで女性を見つめながらそう言った。それと同時に、女性は表情をほっこりとほぐす。
「礼儀正しくできたね」
 言いながら、女性は握っていた拳をゆるめた。再び朗らかな笑みを湛え、
「それじゃ、教えてあげようかな」
 と、言葉を紡いだ。
 男は緊張の糸がほどけたように、深く息を吐き出した。しかし女性は、
「ところで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 と、またも話題を逸らす。
 男は大層もどかしかったに違いない。それでも、何とか平静を取り繕おうと、表情を整えようとしている様子だった。しかし、焦る感情は隠しきれなかったのか、またも語調が強くなる。
「だから、それより――」
「聞きなさい!」
「うっ……」
 男の言葉を途中で切り裂く女性の怒声。その迫力に圧倒されたのか、男は息を呑み、それ以上は口を開かなかった。

Back | Novel index | Next
 男を見下ろしながら、女性は膝を持ち上げていた。ピンヒールの先が男の首筋を捉えている。
 しかし男は抵抗しなかった。正確に言えば、抵抗できなかったのだろう。彼はその身体を痙攣させながら、しきりに吐瀉を続けていた。
「この足を下ろしたら……おしまいね」
 女性が舐めるような声で語りかける。しかしその時には、既に男は反応を示さなかった。どうやら気を失ってしまったようだ。微動だにしない男を見ながら、女性はその表情を引き締める。その時、女性はその視線を胸元へと移動した。両胸に挟まれた無線通信機が振動を始めたからである。先ほど担当官から預けられた、小さなイヤホン型の物だ。
 女性は呆れたような表情で、ふっと息を吐く。
 男の首筋を捉えていたピンヒールの先が焦点を変え、ゆっくりと床へ下ろされた。
 女性は胸元に手を忍ばせて通信機を取り出すと、右耳にそれを取り付けた。
「……うん。所詮、男だから。もう限界だよ」
 女性の声だけが、地下室の静寂を破る。ちらりと男に目線を送り、くるりと背を向ける。そして、再び通信機の向こう側に語り続ける。
「え? 急な話ね……」
「……まぁ、ある程度はね――」
 女性がイヤホンを通して会話を続ける。地下室に女性の声だけが響く。その間に、閉じられていた男の瞳がわずかに開く。意識を取り戻したのだろう。呼吸の乱れも少しずつ治まってきているようだった。しかし身体が動かないのか、彼はうつ伏せの体勢のままでいる。
 男は女性のやり取りに気付いたのか、視線だけを女性に向ける。もちろん彼には、その通信機の向こう側に何があるのかまでは知る由もない。彼は深呼吸をし、女性の様子を観察しながら、ただ聞くともなしにその声に耳を傾けていた。女性はそれに気付かず、話を続ける。
「それも面白いかもしれないけど」
「……不満って、……あんたたちって、ホント勝手よね」
「わかった。とにかく一回、処置してみる」
 そこまで話し終えると、女性は小型イヤホンを耳から外し、再び胸元へと押し込んだ。大きなため息をひとつ零し、男の方へとふり返る。男の視線はまっすぐに女性の瞳を捉えていた。女性は驚いたようにピクリと身体を反応させ、やがてくすっと笑った。
「失神しちゃったと思ってたのに。聞いてたのね」
 落ち着いた声だった。男はそれに答えず、伏せた体勢のままでいる。女性は脚を高く振り上げ、
「怖いでしょ? 逃げなよ」
 と、さらに声をかける。しかし、男は依然として動かない。虚ろな瞳をその目に湛え、声を絞る。
「……身体が、動かないんだ」
「殺されてもいいの?」
「逃げても……殺すんだろ?」
「んー。でも、それじゃ困るんだよね」
 そう言って女性は苦笑する。男が怪訝な表情を浮かべる。女性はしばし何かを考える素振りを見せた後、
「じゃあ、助けてあげようか?」
 と、明るい声を出した。足を再び床へと下ろし、男の傍らにしゃがみ込む。
 男の目が大きく見開かれた。

Back | Novel index | Next
 男は走り続けた。
 完全に息が上がっているのか、男の喉からヒューヒューと音が鳴っている。対する追手の女性は、未だ軽快な足取りで、じわじわと男を追いかけていた。手錠がしきりに鬩ぎ合い、高い金属音を放つ。男の両腕には次第に擦り傷が刻まれ、両腕を徐々に削っていった。女性は口元に笑みを浮かべ、無言のままヒールの音を奏でている。
 男は泥酔したような足取りだった。
 右へ左へと不規則にふらつきながら「はぁ……はぁ……」と擦れるような呼吸音を絞り出している。そして男の足がひたりと動きを止める時、女性の一撃が彼を容赦なく襲う。
「がああああぁっ!」
 背中を蹴り飛ばされ、男は絶叫とともに床に突っ伏す。ピンヒールの先が突き刺さったのか、倒れ込んだ彼の背骨脇の一点から、血液がじわりと顔を覗かせる。
 再び振り下ろされた踵を、彼は寸でのところでかわす。男に休む余裕は与えられないのだ。そして再び鈍足を懸命に駆使する。その繰り返しだった。彼の体力がもはや限界を超えていることは、火を見るより明らかである。それでも女性のヒール音は一定のリズムを奏でながら、確実に男を捉えていく。
 男がよろめき、屈み込む。女性は間髪入れず、男の弛んだ腹に鋭い膝蹴りを叩き込む。
「ぐええぇっ!」
 ふわりと男の足が床を離れる。吐き気を催したのか、男は身体を折り曲げたまま、喉から奇異な音を立てる。小刻みに震えたまま、とうとう男はその足の動きを止めた。女性はその姿を見るなり、男の髪をむんずと掴む。女性の目尻が下がり、口元はゆっくりと弓なりに曲がる。
「……捕まえた」
 言いながら女性は、屈み込んだ男を押さえつける。
「や、やめ――」
 と、男が叫ぶ。それは小さく、酷くしわがれた声だった。しかし女性の表情は変わらなかった。顔中に湛えた朗らかな笑みを絶やすことなく、
「覚悟はいい?」
 と鋭利な口調で言を放ち、男の腹を再び膝で突き上げた。
「ぐふうううぅっ!」
 男の擦れた叫びが地下室を包む。出張った腹に女性の膝が深々と突き刺さる。内臓が下がる体勢であるため、その衝撃は直接、身体の中へと響く。
「っはっ……げえっ!」
 それは内部から遡ってくる悲痛な悶声だった。しかし女性の蹴りは止まらない。
「いい声」
「うぐぅっ!……っかはっ!」
「もっと?」
「……ぐうっ……ごほおあっ!」
 苦渋に満ちた喉声が絶えず地下室を覆った。男の膝には既に力が入っていないのか、掴まれた髪を支点に身体が宙吊りになっていた。
 やがて、男は嘔吐し、白目を剥いた。女性はくすりと含み笑いを零すと、彼の髪から手を放す。
 男は意識をもたない人形のように、顔から床にドサリと崩れ落ちた。

Back | Novel index | Next
 この地下室は、巨大官営施設ガーディアンセンター深部の一角に位置していた。
 目的は罪人の処刑である。しかし、その存在は明らかにされていない。センターに居住する人間をいたずらに不安に陥れたり、精神を不安定にさせたりする状態は好ましくないからだと、センター職員には説明されていた。


 男はセンターからの脱走を企て、実行した罪によって処刑対象者となった。犯行現場をセンター警備員に見られたのだ。当然、捕まった彼に弁明の余地があったはずもない。罪人とされ、間もなくセンターからの処分命令が下った。命令書には『罪人"D-EAD-5502"を籠の中のゴキブリの刑に処す』と明記されていた。
 男が地下室に連れて来られた時には、身に着けた衣類は全て剥がされていた。後ろ手に手錠をかけられ、担当官二人に両脇を固められての連行だった。地下室に男が蹴り入れられる。そこは、全面を白で覆われた、狭い閉鎖空間だった。その中にはただ一人の人間が、黙ってこちらを向いて立っていた。
 切れ長の目が特徴的な、見事なアジアンビューティーの姿がそこにあった。セミロングの黒髪は絹糸のように繊細で艶やかだ。唇の紅が、その美貌をさらに際立たせていた。左耳につけた煌びやかなイヤリングが輝いている。身に着けた白を基調としたビスチェは豪奢なレースで飾られ、黒のリボンが胸元のアクセントになっていた。黒のスカートは短く、キメの細かい柔らかそうな太腿を惜しげもなく晒している。漆黒のピンヒールブーツが、爪先から膝までをすっぽりと覆っていた。
 紛れもなく、それは女性だった。
 男はその姿を目の当たりにすると同時に、ハッと息を吸った。目を丸くし、ゴクリと唾を嚥下する。一歩、後ずさったところを、担当官にぐいと押し戻される。女性を目の前にした彼の顔には、動揺の色がはっきりと浮かんでいた。
 女性は一歩前に足を踏み出し、
「あなた。脱走を謀ったそうね」
 と、穏やかな口調で声をかける。口篭る男の背中を担当官がドンと張ると、彼は「あぁ」とぶっきらぼうな返答をする。その態度を見た担当官は目尻を吊り上げ、再び手を振り上げる。しかし、今度は女性が、手で合図のようなものを送ってそれを制する。
「ごくろうさま。後はこちらで……」
 女性がそう言ったのを機に、担当官二人は同時に敬礼する。そして一人が、
「処罰規定により、モニター監視はつきません。非常時にはこれを」
 と言って、イヤホン型の小さな無線通信機を差し出す。女性は無言のままそれを受け取り、無雑作に胸の谷間に押し込む。それを確認すると、二人は再び敬礼し、地下室を後にした。
 静かな地下室に、カチッという非情な電子ロックの音が鳴り響いた。

 
 男が今まさに地下室にいるという事実は、センター居住者の誰一人として知る由もなかった。当然、今その場所で何が行われようとしているのかなど、想像できたはずもない。
 かくして男は、人知れず、救いのない鬼ごっこを始めることとなった。

Back | Novel index | Next
 この鬼ごっこに終わりはなかった。
 逃げ惑う男は生まれたままの姿を晒し、後ろ手に手錠がかけられている。全身から汗と血の雨を降らせ、それが地面をひたひたと湿らせていく。表情はない。ただ静寂を打ち破る荒い息遣いだけが、時を追うごとに大きくなっていった。
 淡い人工光が、ほのかに二人を照らし続けている。
 両者の影は時に接近し、時に離れ、しかしいつまで経っても、二人の距離が一定の範囲を超えることはない。それは、ここが密室であるという事実からすれば、当然の摂理だった。
 出口のない地下室の内部は、冷たくて硬いシェルターの壁で覆われていた。
 もちろん、この部屋からも外を見ることなどできない。当然、自然の光が入ってくることもなく、唯一の光源は弱々しい人工光だけだ。部屋には物品ひとつ置かれておらず、歩みの障害になるものは何もない。ただ、とにかく狭い。仮に部屋の対角線上を一般男性が普通に歩いてみても、かかる時間はせいぜい四、五秒程度といったところだ。
 そんな無機質な豪箱の中、それでも男の足は動き続けていた。
 足取りは重く、時折ふらつく。倒れ込みそうになることもあれば、壁に凭れて亀のように鈍足になることもある。反対に、ふいに勢い付いたかのように速度を上げることもある。
「ほら、また追いついちゃうよ」
 そう呼びかける追手の声は爽然としていた。足取りも軽い。それは、逃げる男のそれとはまるで正反対の様相を呈していた。身に着けた黒いピンヒールブーツが、コツコツと快適なリズムを刻んでいる。
 男はその高い声と足音にビクッと身体を反応させる。追手には背を向け、決して目を合わせない。無言のまま乱れた呼吸音だけを発し、足を速める。
 この密室でいくら足を動かしたところで、当然逃げ場はない。もちろん男の方も、それがわからないほどの馬鹿ではない。
 しかし男は、決してその足を止めようとない。いや、止めることを恐れている、と言った方が、この場合は適切であろう。男は、嫌でも理解せざるを得ない法則を、既にその身にインプリンティングされているのだから。
 足を止めることが何を意味するのか。どうしてそれが恐ろしいのか。
 今まさに、再びその答えが男に突きつけられようとしている。
 今日何度目のことかはわからない。男の体力がまたも限界を迎えたのか、その足が止まろうとしている。すぐ背後にまで迫った追手の気配を感じたのか、男の顔面はみるみるうちに蒼白になっていった。
 肩を小刻みに震わせながら男がふり返る。しかし時は既に遅く、男の眼前には、血塗れになった追手のブーツの尖った爪先が迫っていた――
「がはあぁぁっ!」
 バキッという快音に混じり、男の獣のような絶叫が地下室内に反響した。
 男の身体が宙に舞い、ドサリと床に落ちる。唇の端が切れ、そこから血液がポタポタと零れていく。それでも次の瞬間には、震える膝を持ち上げて立ち上がり、再び覚束ない足取りで遅走し始める。それが功を奏し、追手が続けて男へと繰り出した蹴りは、間一髪のところで空を切った。
 壁に凭れかかるようにしながら、男はまた走り出した。

Back | Novel index | Next
久しぶりに長編を執筆しました。
ここまでお付き合いいただいた方々に、感謝いたします。
楽しんでいただけたのなら幸いなのですが、いかがでしたでしょうか。
今回の作品は、随分前から構想を練って温めていたものです。
これからシリーズものとして続編やサイドストーリーなども執筆していきたいと思っています。

毎回作品終了の際に、また作品連載の間にもたくさんの拍手をいただき、感謝の言葉もありません。
ryonazにとって皆様からいただく一票一票は本当に温かく、大切な宝物です。
あまりに大袈裟かと思われるかもしれませんが、一言この場でお礼を言わせていただきます。

その他、ブログランキングや小説アンケート、リクエスト投票や掲示板など、本当にいろいろとご協力をいただき、ありがとうございます。
ご来訪いただいている方々に対する要求が多すぎるのではと、ちょっと冷静になってみて反省しました。
新しい試みを! 新しい刺激を! 充実、快適、安心なサイトを! などと考えて、ここ数週間突っ走ってきたような気がします。

こんな頼りない管理人ですが、皆様に支えられることで今もサイトを続けていけます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

作品を気に入ってくださった方は、ぜひ拍手のクリックをお願いします。
よろしければ、ブログランキングのクリックにもご協力ください。

Back | Novel index | Next
「その首輪が、あなたが私のものであるという証。」
 ふいに女性が僕の首輪を指差してそう言った。
「あなたが私の玩具として生きることの証よ。」
 僕は頷いた。これからこの女性に仕えていくのだという決心に迷いはなかった。


 しばらくすると、軍服の男二人が部屋の中に入ってきた。
「失礼いたします。面会終了でよろしいでしょうか。」
 女性は男たちの方を見もせずに、軽く頷いた。
「首輪を付けたわ。意味が分かるでしょ?」
 今度は男たちが頷いた。
 女性はリモコンのスイッチを押した。僕を拘束していた手枷や足枷、陰部の柔らかいものが一気に外れる。僕は解放感でしばし放心状態に陥っていた。
「じゃあ、連れて行くわ。」
 さらりと男たちに告げると、僕に服を着せて手を引いた。痣と傷だらけの僕は、女性にもたれかかるようにして歩いた。軍服姿の二人は、扉へと向かって歩いていく女性と僕に向かって敬礼をしていた。
「どうぞ。お気をつけて。」



 僕たちは、長い長い廊下を抜けた。
 女性が扉の横にあるパネルに触れる。
 英数字を打ち込んでいるようだ。やがて、ピピッという機械音と共にドアが開き始めた。

 その先に広がっていたのは――

「ほら、これがあなたの見たかった空よ。」

 僕は扉の外へと、一歩を踏み出す。
 涙は止められそうになかった。



END

Back | Novel index | Next
「マナ……」
 突然ショートネームを呼ばれ、僕は意識が覚醒させられた。
「……はい。」
 僕は掠れた声で応える。『……逝っちゃ駄目よ……』という女性の言葉が脳裏を過ぎる。きっと「いく」というのはこのことだったのだと直感する。僕は必死で謝った。許しを乞うた。
 ――僕は取り返しのつかないことをしてしまった。女性の命令に背いて……
 自己嫌悪に陥り、僕はしばらく身体の震えが止まらなかった。女性はそんな僕の肩に軽く手を乗せると、腹に思いきり膝蹴りを見舞った。その強烈な蹴りは僕の内部を破壊した。胃の中から込み上げてくるものを僕は吐き出した。地面が再び赤く染まった。
 女性はそんな僕の姿を見ると、その手を肩から頬へと静かに動かし、僕に語りかけた。
「あなたを、私の玩具にするから。」
 願ってもない言葉だった。それは、つまり女性が僕を認めてくれたということ。そう考えて間違いはないのだろうか。
 女性が手元にある発信機で外部へ連絡をしようとする。
「ま……待ってください!」
 僕は声を振り絞った。女性が手を止める。
「ぼ……僕は、その……」
 この女性に仕えたい。玩具として、この女性にもらってほしい。その気持ちに偽りはなかった。ただ一つ、僕にはどうしても心に引っかかっていることがあった。
「僕には……その資格がありません。」
 女性に意見をすること。それは許されざるべき行為だ。僕はこれで二度、この女性に意見をした。本当に罰当たりだ。この身がどうなっても文句は言えない。でも……
 女性は真剣な眼差しで僕の目を見つめている。
「僕は……あなたにもらわれたくて来たんじゃないんです。」
 僕はありのままを告白した。考えてみれば、最初から僕の動機は不純だった。外に出たい。ただその願いを叶えるために、僕はこの女性を……
 女性は俯いたままの僕をひしと抱きしめた。柔らかい肌の感触。我を忘れてしまうほどの心地よい、素敵な香り。それらの全てが僕を包み込んだ。
「あなたみたいな子を探してたの。これからもあなたで遊ぶわ。マナ。」
 優しく、温かい言葉に僕の心は洗われるようだった。
「全部知ってたの。全部。もう、そんなこと気にしなくていいのよ。」
 忘れていた。あの呼び出しの日のことを、この女性は全て知っていたんだ……
「じゃあ、それを知ってて……僕を……」
 女性はにっこりと笑って僕の頭を撫でた。
 救われた気がした。心に引っかかっていた棘が全て抜けていくような、そんな感覚が僕の全身を覆った。僕は泣いた。声を出して泣いた。大声で泣いた。

Back | Novel index | Next
 女性は両手の指先で僕の涙を拭った。僕の顔を持ち上げ、視線が合うようにじっと僕の瞳を覗き込む。
 僕は申し訳なさと恥ずかしさから、どうしても視線を合わせることができなかった。動揺し、目が自然と泳いでしまう。
「……気に入ったわ。」
「え……」
 思いがけない言葉に僕は、無意識に視線を女性へと向ける。涙で霞んだ瞳からは、女性の表情の細部までは読み取ることはできなかった。しかし、その表情は穏やかに見えた。
 女性はどこからか取り出した金属製であると思われる輪状のものを、僕の首に付けた。
「これは……? 首輪?」
 僕の言葉への返答はなかった。それが何を意味するものなのか、僕には分かるはずもなかった。
 女性は「ふふ」と少し笑みを零したかと思うと、その首輪をじわじわと手元に引き寄せた。それに反応して首輪は締まり、僕の喉を圧迫する。首輪を繋ぐ鎖に付いたボタンを女性が押すと、痺れるような強烈な痛みが首から全身に伝わる。きっと電流が流れてきているのだ。
「ぐ……くああああっ……ああっ!」
 苦しさと痛みから僕は声にならない声を漏らす。呼吸が止まる。脳の中が真っ白になっていくように感じる。すうっと力が抜けていくような感覚が僕を包む。
 女性がボタンから手を放して力を緩めると、首輪は再度元通りに広がった。電流らしきものも流れなくなった。一気に頭に血が巡ってくるのが分かる。
「ごほっ……ご…」
 再びぐいと首輪を引っ張られる。目が虚ろになっていくのが分かる。気を失いそうになる。
「ぐ……がはっ……」
 女性が力を緩めると、僕はまた激しく咳き込む。
 首絞めは延々と繰り返された。
 ――これは、何かの儀式なのだろうか? 僕は一体、どうなるんだろう?
 答えの分からない考えが脳裏を過ぎるが、首を絞められることで思考能力が奪われる。僕は次第に絞められることに安心と快楽を得るようになっていった。
「気持ちいいの?」
 女性が僕に問いかけながら、首輪を引っ張る。心を見透かされたような気がして恥ずかしかった。しかし、何故絞められることで快楽を得るのかは、僕には分からなかった。
 女性が力を緩める。
「き……気持ち…うっ…」
 答えを聞かずに女性は再び首輪を引っ張る。僕の口からは泡のようなものが零れてきていた。それを見ながら女性は満面の笑みを浮かべている。
「ほら、答えなさい。」
 そう言って女性はさらに強く首輪を引っ張る。目の前が真っ白になり、僕はとうとう苦しみの中で絶頂を迎えてしまった。亀頭から何やら白いものが噴射される。僕はそれを初めて見て、途惑った。陰部に付けられた柔らかいものはそれでもまだ微振動を止めることはなかった。女性が力を緩めた時、僕は意識が朦朧として、何が何だか分からなくなっていた。
 ぐったりとした僕を、女性は黙って静かに見下ろしていた。

Back | Novel index | Next