{
2008/08/25(月) }
静止画を見ているようだった。
少女の頬には、一滴、二滴と、血が付いている。立ち尽くす少女は少し俯き、目元はその黒髪で隠されていた。薄い唇には、口紅の類は一切塗られていなかったが、艶やかな自然の紅みを帯びている。
彼女の足下に、塊が三つ、四つ。奇妙な形に歪んだその男たちは皆、俺の会社の同僚だった。今はまるで大きなゴミのように、砂浜に横たわっている。
ある者は腹を抱えて蹲り、ある者は大の字で仰向けに倒れている。いずれも血溜まりの中に沈んでいた。
時折ピクピクと痙攣する彼らの姿を見ていると、これが決して静止画などではなく、動画――いや、紛れもない現実なのだということを実感させられる。それを認めることが怖かった。
少女が、一歩前へと踏み出す。俺は自然とその足に目を遣る。白い素足に、ピンクのラインの入ったスニーカーを履いている。そのスニーカーにも、赤黒くなった血痕が残っていた。
背は小さい。黄色いキャミソールを身に着け、太腿まで露出するデニムショートパンツを穿いている。まだ膨らみを見せない胸や細い手脚は、未だ成熟していない。筋肉など全く付いていないように見える。それを考えると、先ほど自分の目の前で起こったことが、どうしても受け止めきれなくなるのだ。
混乱する俺を余所に、少女はまっすぐに俺の方へと歩を進めてきた。悪びれる様子もなく、倒れている彼らの頭や背中、腹などを踏み付けながら進んでくる。その度に、彼女のスニーカーの血痕が一つ、また一つと増えていった。
ひと気のなくなった海岸。大きく、赤く、姿を変えた太陽が水平線にその身を隠していく。普段であれば、心安らかに一日の終わりを感じ、感傷にでも浸っている時間だったはずだ。
『遊んで』
その時、少女から言われたその言葉が全ての始まりだった。
突然の高い跳躍と同時に少女の脚がグルリと回転した時、大石が呻き声とともに地面に崩れ落ちた。うつ伏せになった彼の喉から赤黒い液が溢れ、じわじわと砂を染めていった。
続けて彼女は自分の両側に向けて一発ずつ突きを繰り出した。次の瞬間には、花木と吉岡が身体をくの字に曲げていた。二人は息の漏れるような声を出し、やがて彼女の目の前を交差するようにして倒れ込んだ。気を失った彼らの口元からも液が垂れ流され、自らの顔回りを赤い池へと変えていった。
有倉のことは思い出したくなかった。
怯えた彼はその場から逃げ出そうと振り返ったところを、少女の足払いによって倒された。そのまま彼の首は彼女の脚に絡め取られ、太腿でじわじわと絞められていった。彼の顔は見る間に赤くなり、目は大きく見開かれた。もがけど、その抵抗は無意味に等しかった。
泡を吹き、涎を垂らし、失禁し、ついには口の端から血を滴らせた。有倉が白目をむいて失神した時、彼女は彼の首をへし折った。彼女からは躊躇の欠片も感じられなかった。
時間にすればものの数秒だったのだろう。とにかく速かった。しかし俺には、少女の動きや様子がはっきりと見えていた。食い入るように見つめてしまっていたのかもしれない。あまりにも予想外で、あまりにも異常なその光景が、俺から瞬きそのものを奪っていたのかもしれない。それらがまるで、スローモーションのかかった映像のようだと感じられたから。
情けないことに、その間、俺は恐怖で足が竦んでしまい、全く身動きできなかった。
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少女の頬には、一滴、二滴と、血が付いている。立ち尽くす少女は少し俯き、目元はその黒髪で隠されていた。薄い唇には、口紅の類は一切塗られていなかったが、艶やかな自然の紅みを帯びている。
彼女の足下に、塊が三つ、四つ。奇妙な形に歪んだその男たちは皆、俺の会社の同僚だった。今はまるで大きなゴミのように、砂浜に横たわっている。
ある者は腹を抱えて蹲り、ある者は大の字で仰向けに倒れている。いずれも血溜まりの中に沈んでいた。
時折ピクピクと痙攣する彼らの姿を見ていると、これが決して静止画などではなく、動画――いや、紛れもない現実なのだということを実感させられる。それを認めることが怖かった。
少女が、一歩前へと踏み出す。俺は自然とその足に目を遣る。白い素足に、ピンクのラインの入ったスニーカーを履いている。そのスニーカーにも、赤黒くなった血痕が残っていた。
背は小さい。黄色いキャミソールを身に着け、太腿まで露出するデニムショートパンツを穿いている。まだ膨らみを見せない胸や細い手脚は、未だ成熟していない。筋肉など全く付いていないように見える。それを考えると、先ほど自分の目の前で起こったことが、どうしても受け止めきれなくなるのだ。
混乱する俺を余所に、少女はまっすぐに俺の方へと歩を進めてきた。悪びれる様子もなく、倒れている彼らの頭や背中、腹などを踏み付けながら進んでくる。その度に、彼女のスニーカーの血痕が一つ、また一つと増えていった。
ひと気のなくなった海岸。大きく、赤く、姿を変えた太陽が水平線にその身を隠していく。普段であれば、心安らかに一日の終わりを感じ、感傷にでも浸っている時間だったはずだ。
『遊んで』
その時、少女から言われたその言葉が全ての始まりだった。
突然の高い跳躍と同時に少女の脚がグルリと回転した時、大石が呻き声とともに地面に崩れ落ちた。うつ伏せになった彼の喉から赤黒い液が溢れ、じわじわと砂を染めていった。
続けて彼女は自分の両側に向けて一発ずつ突きを繰り出した。次の瞬間には、花木と吉岡が身体をくの字に曲げていた。二人は息の漏れるような声を出し、やがて彼女の目の前を交差するようにして倒れ込んだ。気を失った彼らの口元からも液が垂れ流され、自らの顔回りを赤い池へと変えていった。
有倉のことは思い出したくなかった。
怯えた彼はその場から逃げ出そうと振り返ったところを、少女の足払いによって倒された。そのまま彼の首は彼女の脚に絡め取られ、太腿でじわじわと絞められていった。彼の顔は見る間に赤くなり、目は大きく見開かれた。もがけど、その抵抗は無意味に等しかった。
泡を吹き、涎を垂らし、失禁し、ついには口の端から血を滴らせた。有倉が白目をむいて失神した時、彼女は彼の首をへし折った。彼女からは躊躇の欠片も感じられなかった。
時間にすればものの数秒だったのだろう。とにかく速かった。しかし俺には、少女の動きや様子がはっきりと見えていた。食い入るように見つめてしまっていたのかもしれない。あまりにも予想外で、あまりにも異常なその光景が、俺から瞬きそのものを奪っていたのかもしれない。それらがまるで、スローモーションのかかった映像のようだと感じられたから。
情けないことに、その間、俺は恐怖で足が竦んでしまい、全く身動きできなかった。
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2008/07/24(木) }
逆リョナ街道模索中。
いつも当鬼畜サイトへのご来訪、誠にありがとうございます。
今回の作品については、特筆したいことは何一つございません。
たまにはこんなのもありかな、と。軽い気持ちで読んでくだされば幸いです。
ただ、「これ、小説?」というキツイ言葉責めは、どうぞご勘弁を(苦笑)
ところで話は変わりますが、今回触れておきたいことがあります。
web拍手についてです。
いつもお気持ちをボタンに込めてくださっている方々に、あらためてお礼を申し上げます。
本来なら特典も何もないweb拍手なんて、正直押すメリットなど無いと思うのです。
にも関わらず、日々拍手を押してくださるご来訪者の方々が何と多いことか。
本当に、感謝の念が尽きません。
皆様の真心がしみじみと伝わってくるようで、つくづく幸せだなぁと感じています。
毎度、皆様のご訪問や応援に励まされ、創作意欲を刺激していただいています。
これからも何卒ご贔屓に。
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いつも当鬼畜サイトへのご来訪、誠にありがとうございます。
今回の作品については、特筆したいことは何一つございません。
たまにはこんなのもありかな、と。軽い気持ちで読んでくだされば幸いです。
ただ、「これ、小説?」というキツイ言葉責めは、どうぞご勘弁を(苦笑)
ところで話は変わりますが、今回触れておきたいことがあります。
web拍手についてです。
いつもお気持ちをボタンに込めてくださっている方々に、あらためてお礼を申し上げます。
本来なら特典も何もないweb拍手なんて、正直押すメリットなど無いと思うのです。
にも関わらず、日々拍手を押してくださるご来訪者の方々が何と多いことか。
本当に、感謝の念が尽きません。
皆様の真心がしみじみと伝わってくるようで、つくづく幸せだなぁと感じています。
毎度、皆様のご訪問や応援に励まされ、創作意欲を刺激していただいています。
これからも何卒ご贔屓に。
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2008/07/24(木) }
相変わらず、みっともない格好ね。
裸になって、仰向けに横たわって。無様な姿を晒して……
つくづく気持ち悪い子。よく恥ずかしくないね。
何この弛んだお腹は? 何この薄汚れたお尻は? 何この腐ったような臭いは?
あなたの存在の全てが醜いの。わかるでしょ?
こんなこと言われて、あなたはまた下品なところを膨らませてるのね。
その手をどうしたいの?
まさか私の前で下半身を触るなんていう馬鹿な真似はしないよね。
あら? どうして泣くの?
そう。いいのよ、私は別に。欲望に忠実になりなさいよ。
その時は、私があなたをここから解放してあげるから。
そしたら、もう二度とあなたが私を見ることはなくなるでしょうけど。
……ふふっ。目から鼻から口から、どんどん汚い液が垂れてきてるじゃない。
そんなに嫌なの? そんなに怖いの?
それなら、その手はどうすればいいかわかるよね?
私の前で跪くことができることに感謝するのね。
絶対に手の届かないその場所が、あなたにはお似合い。
いつまでも私を眺めてればいいの。
それ以上を望むような悪い子は要らないから。よく覚えておきなさいね。
私の目に触れさせてる自分の存在を恥ずかしいと思いなさい。
何の価値も無いあなたが、そうやって生きてることを悔やみなさい。
でも、私はもちろんそんなあなたを慰めたりしない。温めたりしない。
あなたはそんな期待をするような下劣な子かしら?
それとも、ご主人様の言いつけをちゃんと守れる惨めで愚かな生き物かしら?
……そう。
いい子にはご褒美をあげる。
罵倒して、愚弄して、嬲って、嘲って、殴って、蹴って、絞めて、縛って、切って、刺して……
その時にあなたは、……そう。私に心から感謝の意を伝えなさい。
側にいたいんでしょ? 捨てられたくないんでしょ?
それならどうすればいいか、わかるよね。
身を尽くして、私を楽しませなさい。
それができるなら……
……そうね。私が飽きるまでは飼っていてあげようかしら。
END
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裸になって、仰向けに横たわって。無様な姿を晒して……
つくづく気持ち悪い子。よく恥ずかしくないね。
何この弛んだお腹は? 何この薄汚れたお尻は? 何この腐ったような臭いは?
あなたの存在の全てが醜いの。わかるでしょ?
こんなこと言われて、あなたはまた下品なところを膨らませてるのね。
その手をどうしたいの?
まさか私の前で下半身を触るなんていう馬鹿な真似はしないよね。
あら? どうして泣くの?
そう。いいのよ、私は別に。欲望に忠実になりなさいよ。
その時は、私があなたをここから解放してあげるから。
そしたら、もう二度とあなたが私を見ることはなくなるでしょうけど。
……ふふっ。目から鼻から口から、どんどん汚い液が垂れてきてるじゃない。
そんなに嫌なの? そんなに怖いの?
それなら、その手はどうすればいいかわかるよね?
私の前で跪くことができることに感謝するのね。
絶対に手の届かないその場所が、あなたにはお似合い。
いつまでも私を眺めてればいいの。
それ以上を望むような悪い子は要らないから。よく覚えておきなさいね。
私の目に触れさせてる自分の存在を恥ずかしいと思いなさい。
何の価値も無いあなたが、そうやって生きてることを悔やみなさい。
でも、私はもちろんそんなあなたを慰めたりしない。温めたりしない。
あなたはそんな期待をするような下劣な子かしら?
それとも、ご主人様の言いつけをちゃんと守れる惨めで愚かな生き物かしら?
……そう。
いい子にはご褒美をあげる。
罵倒して、愚弄して、嬲って、嘲って、殴って、蹴って、絞めて、縛って、切って、刺して……
その時にあなたは、……そう。私に心から感謝の意を伝えなさい。
側にいたいんでしょ? 捨てられたくないんでしょ?
それならどうすればいいか、わかるよね。
身を尽くして、私を楽しませなさい。
それができるなら……
……そうね。私が飽きるまでは飼っていてあげようかしら。
END
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2008/06/23(月) }
グリム童話『子供たちが屠殺ごっこをした話』をヒントに執筆した作品です。
残虐性が高いため、途中から削除された物語だったかと思います。
オマージュではありません。オリジナル作品です。それから、フィクションです。当然。
本作は当初、全三話完結の短編として執筆しました。
ですが、連載途中で気が変わりました。
もう少し、この残酷な物語を膨らませてみたいという衝動に駆られました。
後半の"piece"部分が、後に加筆したものになります。
男の子の書いたノートなので、非常に読みにくいとは思いますが(汗)
併せてご覧いただければ幸いです。
作品を気に入ってくださった方は、ぜひ拍手のクリックをお願いします。
よろしければ、ブログランキングのクリックにもご協力ください。
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残虐性が高いため、途中から削除された物語だったかと思います。
オマージュではありません。オリジナル作品です。それから、フィクションです。当然。
本作は当初、全三話完結の短編として執筆しました。
ですが、連載途中で気が変わりました。
もう少し、この残酷な物語を膨らませてみたいという衝動に駆られました。
後半の"piece"部分が、後に加筆したものになります。
男の子の書いたノートなので、非常に読みにくいとは思いますが(汗)
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2008/06/23(月) }
ルリエちゃんの家についたら、やくそく通りセンタッキをかしてもらえました。
カリンちゃんとユラミちゃんもいっしょです。お家の人は、るすだったけど、ルリエちゃんがセンタッキのつかい方をおしえてくれたので、できました。
お家とちがって、カンソウキとかいうのもあって、センタッキが終わったら、そこに入れます。
カンソウキは、すごかったです。すぐに、ようふくもズボンも、かわきました。
せんたくが終わったときには、三人とも外に出ていました。ようふくをきて、ズボンをはいて、お家を出たときには、ちょうどルリエちゃんが、お家のお手つだいをしていました。
ニワトリ小屋がありました。
はねがバタバタとふるえる音がしていました。
耳がいたくなるくらい大きいニワトリのなき声がしていました。
ルリエちゃんの手が見えました。
すごくびっくりしました。ルリエちゃんの手が血だらけになっていたからです。お手つだいのとちゅうでけがをしたんだと思いました。でも、カリンちゃんもユラミちゃんも、ニヤニヤして手を見ているだけだったので、ぼくはまたびっくりしてしまいました。
ぼくはいそいで、ルリエちゃんの方に走りました。
ルリエちゃんとユラミちゃんとカリンちゃんがいっせいにこっちを見ました。
首のないニワトリがたくさんいました。
たくさんの血が見えました。
ルリエちゃんがぼくをにらみました。にらんでないのかもしれません。わかりません。おこったかおはしてなかったのに、ぼくはその目がこわくてたまりませんでした。
ぼくは足がふるえて、動けなくなりました。
そのあと、ルリエちゃんは、カリンちゃんとユラミちゃんにないしょ話をしました。
三人がニヤニヤしているのが見えました。
ルリエちゃんが、ぼくのそばに歩いて来ました。そのときには、やさしいかおにもどっていました。
けがじゃないし、そういうお家のおしごとなんだと聞いて、ほっとしました。
まだ何かされるのかと思ってこわかったけど、もう帰っていいと言われました。
もっとうれしかったのは、帰るときにルリエちゃんが言ってくれたことです。
ぼくはうれしくて、泣いてしまいました。
男の子なのにまた、泣いてしまいました。
もういじめないと言ってくれたんです。
「あしたで終わりにするね」って。
(以降は破られている)
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カリンちゃんとユラミちゃんもいっしょです。お家の人は、るすだったけど、ルリエちゃんがセンタッキのつかい方をおしえてくれたので、できました。
お家とちがって、カンソウキとかいうのもあって、センタッキが終わったら、そこに入れます。
カンソウキは、すごかったです。すぐに、ようふくもズボンも、かわきました。
せんたくが終わったときには、三人とも外に出ていました。ようふくをきて、ズボンをはいて、お家を出たときには、ちょうどルリエちゃんが、お家のお手つだいをしていました。
ニワトリ小屋がありました。
はねがバタバタとふるえる音がしていました。
耳がいたくなるくらい大きいニワトリのなき声がしていました。
ルリエちゃんの手が見えました。
すごくびっくりしました。ルリエちゃんの手が血だらけになっていたからです。お手つだいのとちゅうでけがをしたんだと思いました。でも、カリンちゃんもユラミちゃんも、ニヤニヤして手を見ているだけだったので、ぼくはまたびっくりしてしまいました。
ぼくはいそいで、ルリエちゃんの方に走りました。
ルリエちゃんとユラミちゃんとカリンちゃんがいっせいにこっちを見ました。
首のないニワトリがたくさんいました。
たくさんの血が見えました。
ルリエちゃんがぼくをにらみました。にらんでないのかもしれません。わかりません。おこったかおはしてなかったのに、ぼくはその目がこわくてたまりませんでした。
ぼくは足がふるえて、動けなくなりました。
そのあと、ルリエちゃんは、カリンちゃんとユラミちゃんにないしょ話をしました。
三人がニヤニヤしているのが見えました。
ルリエちゃんが、ぼくのそばに歩いて来ました。そのときには、やさしいかおにもどっていました。
けがじゃないし、そういうお家のおしごとなんだと聞いて、ほっとしました。
まだ何かされるのかと思ってこわかったけど、もう帰っていいと言われました。
もっとうれしかったのは、帰るときにルリエちゃんが言ってくれたことです。
ぼくはうれしくて、泣いてしまいました。
男の子なのにまた、泣いてしまいました。
もういじめないと言ってくれたんです。
「あしたで終わりにするね」って。
(以降は破られている)
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2008/06/23(月) }
今日は何回も何回も「いやだ」と言いました。いっぱいいっぱい言いました。走ってにげようとしました。
すぐにつかまってしまったけど、たくさんからだを動かしました。がんばって動かしました。
でもカリンちゃんとユラミちゃんにりょう手とりょう足をつかまれたときは動けなくなりました。
そしたら、ルリエちゃんがわらいながら、ぼくのあそこをつま先で思いっきりけりました。
すごくいたかったです。がまんできないくらい、いたかったです。
ぼくは、またたおれてしまいました。
でも、ぼくは泣きませんでした。なみだは出たけど、泣いてません。
お母さん。またうそをついてしまってごめんなさい。
ようふくをやぶったのは、ほんとはカリンちゃんとルリエちゃんとユラミちゃんです。
ぼくがたおれて動けなくなったから、三人で力いっぱいやぶったんです。
今日はそれからズボンもぬがされました。
でも、ズキズキおなかの中までいたくなってきて、しゃべれません。
すごくはずかしかったけど、そのほうがあそこをけりやすいんだと言われました。男の子は女の子よりいたいんだって、楽しそうに言われて。
さっきもすごくいたかったし、苦しかったから、ぼくはほんとにこわかったです。
こわくて「ゆるしてください」と言ってしまいました。
でも、三人ともニヤニヤしながらぼくを見てるだけでした。
けられました。やっぱりすごくいたくて、一回でたおれてしまいました。
そしたらまた立たされて、またけられました。また、たおれました。また、立たされました。
なかなかゆるしてくれませんでした。
あそこをけられるのは、ものすごくいたいです。たくさんたくさん、けられました。
でも、ぼくは男の子だから、がまんしました。がまんして、何回も何回も「いやだ」と言いました。
そしたらなまいきだって言われて、またいっぱい、けられました。
今日はようふくはあまりよごれなかったけど、からだがドロだらけになってしまいました。
ぼくはお母さんのおしおきがこわかったです。
だから、いっしょうけんめいユラミちゃんとカリンちゃんとルリエちゃんにおねがいしました。
みんなの家にもきっとセンタッキがあると思ったからです。
めいれいを一こずつ聞いたら、かしてもらえることになりました。
カリンちゃんは「足がよごれたからなめなさい」と言いました。ぼくはびっくりしました。
もっとこわいことを言われると思ったからです。
ルリエちゃんが「もっといいめいれいにしなよ」とわらいながら言うと、カリンちゃんは「いいじゃん。あしたもどうせやるんだし」と言いました。
ぼくはすぐにカリンちゃんの足をなめました。いっしょうけんめいなめました。カリンちゃんの足には、土や草が少しついていました。なめていると、ときどきぼくのかおをけります。でも気もちよさそうにしていました。
ぼくはセンタッキをかしてもらうために、がんばりました。
ユラミちゃんは「馬になりなさい」と言いました。ぼくはまたびっくりしました。
カリンちゃんも同じだったけど、いつもみたいにいじめられるよりずっとかんたんです。ルリエちゃんはまたわらっていました。
ぼくはユラミちゃんの馬になってグルグルと歩きました。「ヒヒーン」と馬のなき声をまねすると、みんながわらいます。ときどき、かみの毛をひっぱられたり、あたまをたたかれたり、かかとでおなかをけられたりします。でも楽しそうにしていました。
カリンちゃんとルリエちゃんもそれを見てたくさんわらっていました。そしたら、ぼくも少しだけうれしくなってきました。大きな声で、なきまねをしました。
ぼくはまた、センタッキをかしてもらうために、がんばりました。
ルリエちゃんのめいれいは一番びっくりしました。カリンちゃんもユラミちゃんもびっくりしていました。「手をつないで家までいっしょに来なさい」と言われたからです。
カリンちゃんとユラミちゃんは、ルリエちゃんに「バカじゃん」とか「何それ」とか言いながら、ずっとわらっていました。
ルリエちゃんはちょっとおこっていました。はずかしそうなかおもしていました。「いつまで、はだか見せてんの、バカ」と言われました。
ようふくをきることをゆるしてもらえてよかったです。ズボンもはきました。
ぼくは、すぐにルリエちゃんの手をにぎりました。そしたらルリエちゃんは「フン」と言いました。でも、ちゃんとぼくの手をにぎっていました。
ぼくは、しっかりとルリエちゃんの手をにぎって歩きました。カリンちゃんとユラミちゃんも、わらいながらついてきます。
ルリエちゃんはときどき「いたいよ、バカ」と言ってあたまをたたきます。「はなしたら、だめだからね」と言って、つないでいる手をかんだりしました。
でもぼくは、はなしませんでした。ルリエちゃんのお家につくまで、ずっとはなしませんでした。
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すぐにつかまってしまったけど、たくさんからだを動かしました。がんばって動かしました。
でもカリンちゃんとユラミちゃんにりょう手とりょう足をつかまれたときは動けなくなりました。
そしたら、ルリエちゃんがわらいながら、ぼくのあそこをつま先で思いっきりけりました。
すごくいたかったです。がまんできないくらい、いたかったです。
ぼくは、またたおれてしまいました。
でも、ぼくは泣きませんでした。なみだは出たけど、泣いてません。
お母さん。またうそをついてしまってごめんなさい。
ようふくをやぶったのは、ほんとはカリンちゃんとルリエちゃんとユラミちゃんです。
ぼくがたおれて動けなくなったから、三人で力いっぱいやぶったんです。
今日はそれからズボンもぬがされました。
でも、ズキズキおなかの中までいたくなってきて、しゃべれません。
すごくはずかしかったけど、そのほうがあそこをけりやすいんだと言われました。男の子は女の子よりいたいんだって、楽しそうに言われて。
さっきもすごくいたかったし、苦しかったから、ぼくはほんとにこわかったです。
こわくて「ゆるしてください」と言ってしまいました。
でも、三人ともニヤニヤしながらぼくを見てるだけでした。
けられました。やっぱりすごくいたくて、一回でたおれてしまいました。
そしたらまた立たされて、またけられました。また、たおれました。また、立たされました。
なかなかゆるしてくれませんでした。
あそこをけられるのは、ものすごくいたいです。たくさんたくさん、けられました。
でも、ぼくは男の子だから、がまんしました。がまんして、何回も何回も「いやだ」と言いました。
そしたらなまいきだって言われて、またいっぱい、けられました。
今日はようふくはあまりよごれなかったけど、からだがドロだらけになってしまいました。
ぼくはお母さんのおしおきがこわかったです。
だから、いっしょうけんめいユラミちゃんとカリンちゃんとルリエちゃんにおねがいしました。
みんなの家にもきっとセンタッキがあると思ったからです。
めいれいを一こずつ聞いたら、かしてもらえることになりました。
カリンちゃんは「足がよごれたからなめなさい」と言いました。ぼくはびっくりしました。
もっとこわいことを言われると思ったからです。
ルリエちゃんが「もっといいめいれいにしなよ」とわらいながら言うと、カリンちゃんは「いいじゃん。あしたもどうせやるんだし」と言いました。
ぼくはすぐにカリンちゃんの足をなめました。いっしょうけんめいなめました。カリンちゃんの足には、土や草が少しついていました。なめていると、ときどきぼくのかおをけります。でも気もちよさそうにしていました。
ぼくはセンタッキをかしてもらうために、がんばりました。
ユラミちゃんは「馬になりなさい」と言いました。ぼくはまたびっくりしました。
カリンちゃんも同じだったけど、いつもみたいにいじめられるよりずっとかんたんです。ルリエちゃんはまたわらっていました。
ぼくはユラミちゃんの馬になってグルグルと歩きました。「ヒヒーン」と馬のなき声をまねすると、みんながわらいます。ときどき、かみの毛をひっぱられたり、あたまをたたかれたり、かかとでおなかをけられたりします。でも楽しそうにしていました。
カリンちゃんとルリエちゃんもそれを見てたくさんわらっていました。そしたら、ぼくも少しだけうれしくなってきました。大きな声で、なきまねをしました。
ぼくはまた、センタッキをかしてもらうために、がんばりました。
ルリエちゃんのめいれいは一番びっくりしました。カリンちゃんもユラミちゃんもびっくりしていました。「手をつないで家までいっしょに来なさい」と言われたからです。
カリンちゃんとユラミちゃんは、ルリエちゃんに「バカじゃん」とか「何それ」とか言いながら、ずっとわらっていました。
ルリエちゃんはちょっとおこっていました。はずかしそうなかおもしていました。「いつまで、はだか見せてんの、バカ」と言われました。
ようふくをきることをゆるしてもらえてよかったです。ズボンもはきました。
ぼくは、すぐにルリエちゃんの手をにぎりました。そしたらルリエちゃんは「フン」と言いました。でも、ちゃんとぼくの手をにぎっていました。
ぼくは、しっかりとルリエちゃんの手をにぎって歩きました。カリンちゃんとユラミちゃんも、わらいながらついてきます。
ルリエちゃんはときどき「いたいよ、バカ」と言ってあたまをたたきます。「はなしたら、だめだからね」と言って、つないでいる手をかんだりしました。
でもぼくは、はなしませんでした。ルリエちゃんのお家につくまで、ずっとはなしませんでした。
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{
2008/06/22(日) }
(男の子のノートより)
ぼくはクラスの女子にいじめられています。
カリンちゃんとルリエちゃんとユラミちゃんです。カリンちゃんは目が大きくて、かみの毛が長い子です。ルリエちゃんはかみの毛を二つにむすんでいて、色が白い子です。ユラミちゃんはせが高くて、口が小さい子です。
ぼくはよわいから、いつも泣かされてしまいます。
三人ともすごくつよくてこわいです。
でも、まえにお母さんが「男の子はつよくないといけない」と言ってました。
お父さんは「いやなことはちゃんといやだと言いなさい」と言ってました。
だからぼくは、がんばりたいです。男の子だからつよくなります。ちゃんと「いやだ」と言います。
今日はでん気あんまをすると言われました。
カリンちゃんとルリエちゃんに体をおさえられました。
ユラミちゃんにりょう足をつかまれて、あそこをグリグリされます。「やめて」と言ったけど、ゆるしてくれません。
体も動きません。ずっとずっとグリグリされました。すごくいたかったです。
でもぼくは「いやだ」と言えませんでした。男の子なのに。
はずかしかったから、お家に帰ってもお母さんには言えませんでした。
せなかに土がついていたのは、ほんとはいじめられたからです。ふざけてやったんじゃないです。
ぼくはお母さんにビンタされました。すごくいたかったです。
ぼくがよわいからうそをつかないといけません。うそをつくから、おしおきでたたかれてしまいます。
あしたはちゃんと「いやだ」と言いたいです。つよくなりたいです。
今日はおなかをたくさんパンチされました。
ルリエちゃんが後ろからぼくをつかんで、カリンちゃんとユラミちゃんがこう代しながらパンチしてきます。キックもされました。
何回も「おえっ」てなったけど、なかなかやめてくれません。ものすごく苦しかったです。
でも今日は、ちゃんと「いやだ」と言えました。
だけど、お家に帰ったらまたお母さんにビンタされました。かべにあたまもぶつけられました。
それは、ぼくがまたうそをついたからです。
お母さん、ごめんなさい。
今日はおなかにパンチとかキックとかいっぱいされたから、どうしてもがまんができませんでした。
帰るとちゅうでゲロゲロしました。ゲロゲロでよごれたようふくがはずかしかったから、わざとドロにつけました。やんちゃでやったんじゃないです。
ぼくがよわいから、またおしおきされます。「いやだ」と言えたけど、まだつよくなってないです。
でも、おしおきはほんとにこわいです。あしたはぜったいつよくなります。
もっと大きな声で「いやだ」と言います。
今日はすぐに「いやだ」と言いました。でもそしたら、何回も何回もビンタされました。
ぼくは泣いてしまいました。
いつもみたいに、ユラミちゃんとカリンちゃんとルリエちゃんにこう代でされました。
すごくくやしい。くやしい。
きのうお母さんにビンタされたばかりだったから、すごくいたかったです。
ぼくが泣いたらカリンちゃんは「男のくせによわいよねー」と言ってわらいました。
ユラミちゃんもルリエちゃんもわらいました。「ちょうきもい」とか「しね。ばか」とかいっぱい言われて、ぼくはもっと泣いてしまいました。
そしたら、ユラミちゃんが「うるさい」と言って自分のクツをぼくの口に入れました。土が気もちわるくて「おえっ」てなります。においでくらくらします。
そのあと、ルリエちゃんにあたまをけられてたおれたので、またようふくがよごれてしまいました。
たおれたら、かおとか、せなかとかいろんな所をふまれます。つぶれるくらいつよくふまれました。
からだ中が、ものすごくいたいです。ずっとわらわれるのが、ものすごくくやしかったです。
ようふくは土とか、はな血とかでまたよごれてしまいました。
でも今日は、からだ中にもいっぱいキズがあって血が出てたので、ようふくをすぐにぬげませんでした。
だから、ようふくをきたままおふろに入りました。ふざけてたんじゃないです。
ぼくがよわいせいで、いつもお母さんをおこらせてしまいます。
ビンタがほんとにほんとにいたい。おふろの水にしずめられたときはすごくこわかったです。
もうおしおきはいやです。こわいです。つよくなりたい。つよくなりたい。
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ぼくはクラスの女子にいじめられています。
カリンちゃんとルリエちゃんとユラミちゃんです。カリンちゃんは目が大きくて、かみの毛が長い子です。ルリエちゃんはかみの毛を二つにむすんでいて、色が白い子です。ユラミちゃんはせが高くて、口が小さい子です。
ぼくはよわいから、いつも泣かされてしまいます。
三人ともすごくつよくてこわいです。
でも、まえにお母さんが「男の子はつよくないといけない」と言ってました。
お父さんは「いやなことはちゃんといやだと言いなさい」と言ってました。
だからぼくは、がんばりたいです。男の子だからつよくなります。ちゃんと「いやだ」と言います。
今日はでん気あんまをすると言われました。
カリンちゃんとルリエちゃんに体をおさえられました。
ユラミちゃんにりょう足をつかまれて、あそこをグリグリされます。「やめて」と言ったけど、ゆるしてくれません。
体も動きません。ずっとずっとグリグリされました。すごくいたかったです。
でもぼくは「いやだ」と言えませんでした。男の子なのに。
はずかしかったから、お家に帰ってもお母さんには言えませんでした。
せなかに土がついていたのは、ほんとはいじめられたからです。ふざけてやったんじゃないです。
ぼくはお母さんにビンタされました。すごくいたかったです。
ぼくがよわいからうそをつかないといけません。うそをつくから、おしおきでたたかれてしまいます。
あしたはちゃんと「いやだ」と言いたいです。つよくなりたいです。
今日はおなかをたくさんパンチされました。
ルリエちゃんが後ろからぼくをつかんで、カリンちゃんとユラミちゃんがこう代しながらパンチしてきます。キックもされました。
何回も「おえっ」てなったけど、なかなかやめてくれません。ものすごく苦しかったです。
でも今日は、ちゃんと「いやだ」と言えました。
だけど、お家に帰ったらまたお母さんにビンタされました。かべにあたまもぶつけられました。
それは、ぼくがまたうそをついたからです。
お母さん、ごめんなさい。
今日はおなかにパンチとかキックとかいっぱいされたから、どうしてもがまんができませんでした。
帰るとちゅうでゲロゲロしました。ゲロゲロでよごれたようふくがはずかしかったから、わざとドロにつけました。やんちゃでやったんじゃないです。
ぼくがよわいから、またおしおきされます。「いやだ」と言えたけど、まだつよくなってないです。
でも、おしおきはほんとにこわいです。あしたはぜったいつよくなります。
もっと大きな声で「いやだ」と言います。
今日はすぐに「いやだ」と言いました。でもそしたら、何回も何回もビンタされました。
ぼくは泣いてしまいました。
いつもみたいに、ユラミちゃんとカリンちゃんとルリエちゃんにこう代でされました。
すごくくやしい。くやしい。
きのうお母さんにビンタされたばかりだったから、すごくいたかったです。
ぼくが泣いたらカリンちゃんは「男のくせによわいよねー」と言ってわらいました。
ユラミちゃんもルリエちゃんもわらいました。「ちょうきもい」とか「しね。ばか」とかいっぱい言われて、ぼくはもっと泣いてしまいました。
そしたら、ユラミちゃんが「うるさい」と言って自分のクツをぼくの口に入れました。土が気もちわるくて「おえっ」てなります。においでくらくらします。
そのあと、ルリエちゃんにあたまをけられてたおれたので、またようふくがよごれてしまいました。
たおれたら、かおとか、せなかとかいろんな所をふまれます。つぶれるくらいつよくふまれました。
からだ中が、ものすごくいたいです。ずっとわらわれるのが、ものすごくくやしかったです。
ようふくは土とか、はな血とかでまたよごれてしまいました。
でも今日は、からだ中にもいっぱいキズがあって血が出てたので、ようふくをすぐにぬげませんでした。
だから、ようふくをきたままおふろに入りました。ふざけてたんじゃないです。
ぼくがよわいせいで、いつもお母さんをおこらせてしまいます。
ビンタがほんとにほんとにいたい。おふろの水にしずめられたときはすごくこわかったです。
もうおしおきはいやです。こわいです。つよくなりたい。つよくなりたい。
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{
2008/06/22(日) }
風間の視線の先には女の子たち三人の弱々しい後ろ姿が映っていた。俵田もそれに気付き、同じように彼女たちに視線を注ぐ。
「それにしても彼女たち……」
と、風間が呟く。
俵田は視線を三人へと向けたまま、彼の言葉に耳を傾ける。風間の瞳は焦燥感を湛えていた。
「いじめは残酷なものです。できれば彼女たちには一生……」
風間はそこで口篭る。俵田には彼の真意がよく分かっていた。
「そうだな。だがな……。彼女たちの人生はこれからでもあるんだ」
「……やっぱり、いつかは忘れてしまうんでしょうか?」
「望まないか?」
「……分かりません。でも、本来なら……やはり、一生背負っていくべきことだと思います」
風間はそれ以上口を開かなかった。俵田は明るく、しかし毅然とした口調で言った。
「君の仕事は、そうやって落ち込むことか?」
その言葉を聞いて、風間はその瞳に光を取り戻す。
「……分かっています」
そこまで話した後、二人は車に乗り込んだ。
「お母さん。またうそをついてしまってごめんなさい。ようふくをやぶったのは、ほんとはカリンちゃんとルリエちゃんとユラミちゃんです」
カリンは歩きながらポツリと呟いた。それを聞いた二人はその視線をカリンへと注ぐ。ユラミがそれに続くように口を開く。
「あそこをけられるのは、ものすごくいたいです。たくさんたくさん、けられました。でも、ぼくは男の子だから、がまんしました」
ユラミの声もまた小さなものだった。
それは男の子が残したノートの内容だった。
「二人とも、おぼえてたんだね」
ルリエは下を向いたまま、囁くように言った。
カリンが再び、静かに口を開く。
「うん。でも、しょうこをのこしてたなんて」
「びっくりしたね……」
ユラミがそこで口を紡ぐ。
カリンとユラミの視線が一気にルリエに注がれる。ルリエはその雰囲気を感じ取り、そっと自分のポケットに手を入れる。そこから引き出されたのは、ちぎれた小さな紙の切れ端だった。
――男の子が、一番最後に残した言葉。
ルリエはその紙をしばらく見つめると「私も覚えたよ」と声を張る。そして彼女はその紙を細かくちぎり、排水溝に捨てた。ゆっくりと口を開く。
「今日は、とさつごっこ?とかいうあそびをするって言われました」
三人の口元が歪み、奇妙な笑みをつくった。
END
→ 【 piece : ノート断片より 】
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「それにしても彼女たち……」
と、風間が呟く。
俵田は視線を三人へと向けたまま、彼の言葉に耳を傾ける。風間の瞳は焦燥感を湛えていた。
「いじめは残酷なものです。できれば彼女たちには一生……」
風間はそこで口篭る。俵田には彼の真意がよく分かっていた。
「そうだな。だがな……。彼女たちの人生はこれからでもあるんだ」
「……やっぱり、いつかは忘れてしまうんでしょうか?」
「望まないか?」
「……分かりません。でも、本来なら……やはり、一生背負っていくべきことだと思います」
風間はそれ以上口を開かなかった。俵田は明るく、しかし毅然とした口調で言った。
「君の仕事は、そうやって落ち込むことか?」
その言葉を聞いて、風間はその瞳に光を取り戻す。
「……分かっています」
そこまで話した後、二人は車に乗り込んだ。
「お母さん。またうそをついてしまってごめんなさい。ようふくをやぶったのは、ほんとはカリンちゃんとルリエちゃんとユラミちゃんです」
カリンは歩きながらポツリと呟いた。それを聞いた二人はその視線をカリンへと注ぐ。ユラミがそれに続くように口を開く。
「あそこをけられるのは、ものすごくいたいです。たくさんたくさん、けられました。でも、ぼくは男の子だから、がまんしました」
ユラミの声もまた小さなものだった。
それは男の子が残したノートの内容だった。
「二人とも、おぼえてたんだね」
ルリエは下を向いたまま、囁くように言った。
カリンが再び、静かに口を開く。
「うん。でも、しょうこをのこしてたなんて」
「びっくりしたね……」
ユラミがそこで口を紡ぐ。
カリンとユラミの視線が一気にルリエに注がれる。ルリエはその雰囲気を感じ取り、そっと自分のポケットに手を入れる。そこから引き出されたのは、ちぎれた小さな紙の切れ端だった。
――男の子が、一番最後に残した言葉。
ルリエはその紙をしばらく見つめると「私も覚えたよ」と声を張る。そして彼女はその紙を細かくちぎり、排水溝に捨てた。ゆっくりと口を開く。
「今日は、とさつごっこ?とかいうあそびをするって言われました」
三人の口元が歪み、奇妙な笑みをつくった。
END
→ 【 piece : ノート断片より 】
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{
2008/06/21(土) }
夫は美奈子の肩を擦りながら、三人の女の子に語りかけた。
「君たちの気持ちはちゃんと伝わったよ。この子をこんな姿にしたのは君たちじゃない」
彼が息子の方へと目を移す。その首は無惨に切り裂かれ、付着した血液は既に凝固していた。
女の子たちは声を失い、ただすすり泣くばかりだった。夫は言葉を続ける。
「ただ、君たちがこの子をあんな所へ呼び出さなかったら……。いや、そもそもいじめなんてなければ、こんなことにはならずに済んだかもしれないとは思ってる」
彼が一呼吸おく。
「おじさんたちがそれを忘れることはない。もちろん君たちを許すことも」
その口調はとても重々しかった。女の子たちは拳を固く握り締め、正座したまま肩を震わせていた。彼女たちの涙は留まるところを知らず、未だ床を湿らせ続けていた。
「もう帰ってくれるかな。酷いことを言うようだけど……この子もきっと、君たちの顔をいつまでも見ていたくはないだろうから……」
女の子たちは何も言わなかった。頭を下げ、一人ずつ家を出て行く。
しばらくすると、家の中にいた警察官たちは夫婦の前に集った。
「今日はこれで失礼いたします。ご協力、ありがとうございました」
俵田がそう言って丁寧に頭を下げる。他の警察官たちも黙って深く礼をした。夫は項垂れていた顔を力なく上げ、軽く会釈をする。美奈子が顔を上げることはなかった。
風間は去り際に再度、亡き者となった男の子の首筋をじっと見つめた。
他の警察官たちがいそいそとパトカーへ乗り込んでいく中、風間はひたと足を止めた。考え込む。
男の子が発見されたのは夕方四時三十三分。埠頭の工場跡で首を切り裂かれて即死。現場に凶器は見当たらなかった。普段は人一人いない、今は使われていない工場だ。さっきの女の子たちの通報がなかったら、発見はもっと遅くなっていたかもしれない。いじめを肯定するわけではないが、彼女たちの連絡のおかげで早期発見に繋がったこともまた事実だ。
複雑な心境の中、風間は事件を頭の中で整理していた。その様子を見た俵田もまた、彼の横で立ち止まっていた。風間にとってどうしても腑に落ちなかったのは、男の子が残したノートについてだった。
風間は隣に俵田がいることを確認し、そっと耳打ちする。
「よかったんでしょうか、言わなくて……」
俵田は首だけを家の方へと向け、
「今は、そっとしておいてあげたい。お二人が落ち着いた頃にまた来よう」
と、冷静な声で応える。しかし彼の拳は固く握られ、その唇は強く噛み締められていた。
「そうですね。真相もまだ分からないですし。ただ……」
「分かっているよ。ちぎられたノートのことだろ?」
「……そうです。現場にあった破片は、全てじゃなかった。本当に隠したかったのは……」
風間がそこで口を噤む。俵田も胸中は同じだった。
――まだ見つかっていない、最後のページの破片……
「おそらく、それが重要な手がかりになるはずだ」
俵田は語気を強めてそう言い放った。
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「君たちの気持ちはちゃんと伝わったよ。この子をこんな姿にしたのは君たちじゃない」
彼が息子の方へと目を移す。その首は無惨に切り裂かれ、付着した血液は既に凝固していた。
女の子たちは声を失い、ただすすり泣くばかりだった。夫は言葉を続ける。
「ただ、君たちがこの子をあんな所へ呼び出さなかったら……。いや、そもそもいじめなんてなければ、こんなことにはならずに済んだかもしれないとは思ってる」
彼が一呼吸おく。
「おじさんたちがそれを忘れることはない。もちろん君たちを許すことも」
その口調はとても重々しかった。女の子たちは拳を固く握り締め、正座したまま肩を震わせていた。彼女たちの涙は留まるところを知らず、未だ床を湿らせ続けていた。
「もう帰ってくれるかな。酷いことを言うようだけど……この子もきっと、君たちの顔をいつまでも見ていたくはないだろうから……」
女の子たちは何も言わなかった。頭を下げ、一人ずつ家を出て行く。
しばらくすると、家の中にいた警察官たちは夫婦の前に集った。
「今日はこれで失礼いたします。ご協力、ありがとうございました」
俵田がそう言って丁寧に頭を下げる。他の警察官たちも黙って深く礼をした。夫は項垂れていた顔を力なく上げ、軽く会釈をする。美奈子が顔を上げることはなかった。
風間は去り際に再度、亡き者となった男の子の首筋をじっと見つめた。
他の警察官たちがいそいそとパトカーへ乗り込んでいく中、風間はひたと足を止めた。考え込む。
男の子が発見されたのは夕方四時三十三分。埠頭の工場跡で首を切り裂かれて即死。現場に凶器は見当たらなかった。普段は人一人いない、今は使われていない工場だ。さっきの女の子たちの通報がなかったら、発見はもっと遅くなっていたかもしれない。いじめを肯定するわけではないが、彼女たちの連絡のおかげで早期発見に繋がったこともまた事実だ。
複雑な心境の中、風間は事件を頭の中で整理していた。その様子を見た俵田もまた、彼の横で立ち止まっていた。風間にとってどうしても腑に落ちなかったのは、男の子が残したノートについてだった。
風間は隣に俵田がいることを確認し、そっと耳打ちする。
「よかったんでしょうか、言わなくて……」
俵田は首だけを家の方へと向け、
「今は、そっとしておいてあげたい。お二人が落ち着いた頃にまた来よう」
と、冷静な声で応える。しかし彼の拳は固く握られ、その唇は強く噛み締められていた。
「そうですね。真相もまだ分からないですし。ただ……」
「分かっているよ。ちぎられたノートのことだろ?」
「……そうです。現場にあった破片は、全てじゃなかった。本当に隠したかったのは……」
風間がそこで口を噤む。俵田も胸中は同じだった。
――まだ見つかっていない、最後のページの破片……
「おそらく、それが重要な手がかりになるはずだ」
俵田は語気を強めてそう言い放った。
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{
2008/06/20(金) }
――このノートはお父さん、お母さんへの手がみです。一生わたすことはないと思うけど。
ノートには、そこかしこにちぎられた跡があった。
切れ切れのノートに綴られた文字を見ながら、彼女は涙を流し続けている。
変わり果てた姿で家へと戻ったその子が動くことはもうない。
あの子の気持ちに気付いてあげられなかった。その後悔の念が、彼女を容赦なく責め立てる。
「美奈子……」
沈み込む彼女に夫が声をかけた。側に寄り添い、静かに頭を撫でる。彼もまた、彼女と同じ気持ちだった。ただ、今は精一杯彼女を支えてあげなければならない。夫はそう感じていた。
二人の側を慌しく動き回る何人もの警察官たち。
同情の念もあろうが、何しろ彼らにとっては仕事の時間だ。二人を慰めている時間などなかった。
若い刑事――風間が、俯く彼女に囁く。
「奥さん、すみませんがちょっとお話が……」
しかし彼女は動く様子を見せなかった。すぐに別の刑事が彼の行為を制する。俵田という年輩の男だった。声を出さずに首だけを小さく横に振る。風間はため息をつき、夫婦の側を離れた。
――今日はでん気あんまをすると言われました。カリンちゃんとルリエちゃんに体をおさえられました。ユラミちゃんにりょう足をつかまれて、あそこをグリグリされます。「やめて」と言ったけど、ゆるしてくれません。体も動きません。ずっとずっとグリグリされました。すごくいたかったです。でもぼくは「いやだ」と言えませんでした。男の子なのに。
美奈子の視線が、自然とそこにいる女の子たちの方へと向けられる。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
座り込んだ三人の女の子は大粒の涙を流し、夫婦の側に座り込んでいた。反省の念を顕わにする彼女たちに追い討ちをかけるような真似はできない。正確に言えば、美奈子にはそんな気力すらも残っていなかったのだった。美奈子は再び肩を落とし、ノートに目を通す。
――今日はおなかをたくさんパンチされました。ルリエちゃんが後ろからぼくをつかんで、カリンちゃんとユラミちゃんがこう代しながらパンチしてきます。キックもされました。何回も「おえっ」てなったけど、なかなかやめてくれません。ものすごく苦しかったです。でも今日は、ちゃんと「いやだ」と言えました。
美奈子の涙が、指紋防止用の手袋の上にポタリポタリと零れていった。夫は美奈子を気遣いながら、その涙をハンカチで拭う。そこには、息子の残したノートが濡れてしまわないようにという配慮もあった。
――何回も何回もビンタされました。ぼくは泣いてしまいました。いつもみたいに、ユラミちゃんとカリンちゃんとルリエちゃんにこう代でされました。すごくくやしい。くやしい。
そこまで読んだ時、とうとう美奈子は大声を上げて泣き崩れた。
彼女の泣き声に呼応するように、三人の女の子もまた大声を張り上げて泣いた。
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ノートには、そこかしこにちぎられた跡があった。
切れ切れのノートに綴られた文字を見ながら、彼女は涙を流し続けている。
変わり果てた姿で家へと戻ったその子が動くことはもうない。
あの子の気持ちに気付いてあげられなかった。その後悔の念が、彼女を容赦なく責め立てる。
「美奈子……」
沈み込む彼女に夫が声をかけた。側に寄り添い、静かに頭を撫でる。彼もまた、彼女と同じ気持ちだった。ただ、今は精一杯彼女を支えてあげなければならない。夫はそう感じていた。
二人の側を慌しく動き回る何人もの警察官たち。
同情の念もあろうが、何しろ彼らにとっては仕事の時間だ。二人を慰めている時間などなかった。
若い刑事――風間が、俯く彼女に囁く。
「奥さん、すみませんがちょっとお話が……」
しかし彼女は動く様子を見せなかった。すぐに別の刑事が彼の行為を制する。俵田という年輩の男だった。声を出さずに首だけを小さく横に振る。風間はため息をつき、夫婦の側を離れた。
――今日はでん気あんまをすると言われました。カリンちゃんとルリエちゃんに体をおさえられました。ユラミちゃんにりょう足をつかまれて、あそこをグリグリされます。「やめて」と言ったけど、ゆるしてくれません。体も動きません。ずっとずっとグリグリされました。すごくいたかったです。でもぼくは「いやだ」と言えませんでした。男の子なのに。
美奈子の視線が、自然とそこにいる女の子たちの方へと向けられる。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
座り込んだ三人の女の子は大粒の涙を流し、夫婦の側に座り込んでいた。反省の念を顕わにする彼女たちに追い討ちをかけるような真似はできない。正確に言えば、美奈子にはそんな気力すらも残っていなかったのだった。美奈子は再び肩を落とし、ノートに目を通す。
――今日はおなかをたくさんパンチされました。ルリエちゃんが後ろからぼくをつかんで、カリンちゃんとユラミちゃんがこう代しながらパンチしてきます。キックもされました。何回も「おえっ」てなったけど、なかなかやめてくれません。ものすごく苦しかったです。でも今日は、ちゃんと「いやだ」と言えました。
美奈子の涙が、指紋防止用の手袋の上にポタリポタリと零れていった。夫は美奈子を気遣いながら、その涙をハンカチで拭う。そこには、息子の残したノートが濡れてしまわないようにという配慮もあった。
――何回も何回もビンタされました。ぼくは泣いてしまいました。いつもみたいに、ユラミちゃんとカリンちゃんとルリエちゃんにこう代でされました。すごくくやしい。くやしい。
そこまで読んだ時、とうとう美奈子は大声を上げて泣き崩れた。
彼女の泣き声に呼応するように、三人の女の子もまた大声を張り上げて泣いた。
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