[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
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 もはや、自分が生きているのか死んでいるのかすらわからなかった。
 次の日も、その次の日も、俺は朝から晩まで、サティーンの館に何度も出向いた。家に帰る時間すら惜しくなり、館の前で夜を明かしたこともあった。しかし、待てども待てどもシャッターが開くことはなかった。
 時折、見慣れた街並みを見回す。――そこには何もなかった。
 色褪せてでも感じていたはずの街は、今や姿そのものを消してしまっている。溢れていたはずの騒音も、人の流れも無い。それらの全てが、俺の錯覚だったのかもしれない。
 この上ない虚無感が、絶えず自分を覆い尽くしている。ただそれだけが、俺にとっての真実であるように思えた。

 五日ほど経っただろうか。
 ベッドの上。俺は携帯電話の呼び出し音で目を覚ました。会社からだ。受話器の向こうから、正式に処分が決まった旨を告げられる。
「荷物はこちらから自宅に送ります。今まで、ご苦労様でした」
 その言葉が最後だった。
 プツリと電話が切れる。それは、俺が社会から完全に切り離された音のように感じられた。
 項垂れ、ただじっと膝を抱えていた。何も思わず、何も考えず、ただ、じっと……

 陽が傾き始めた。
 今頃、会社では、俺がクビになったことを嘲笑して盛り上がっているだろうか。それとも、今回のことを一社員の不祥事として扱い、皆が偽りの同情を部長に向けているだろうか。これを機に「ますますの会社の発展を」などとして、宴会のひとつも開くのかもしれない。いや――
 もしかしたら何事もなかったように、皆がいつも通りの勤務を行っているのかもしれない。そして、俺が果たした正義……。果ては、俺が会社にいたという事実すら、皆の記憶から失われていってしまうのかもしれない。
 俺自身だって、もう自分が何なのかわからない。己の存在自体が疑わしい。
 ――自分の存在を肯定してほしい。自分が自分であることを、誰かに証明してほしい。
 いてもたってもいられなかった。俺は再度、家を飛び出した。

 相変わらず閉まったままのシャッター。それを背凭れにして、地面に座り込む。
 何気なく斜め向かいに視線を動かした時、生ゴミの袋を漁る野良犬の姿が偶然目に入った。
 ――俺は、こいつと同じなのかもしれない……。俺は……、野良犬。
 苦笑し、ふらりと近寄る。撫でようと手を伸ばす。野良犬は、唐突にその俺の指先に噛み付いた。
 激昂し、犬を振り払う。思いきり蹴り上げる。野良犬は弱々しい声を上げてその場を去った。
「俺は、お前みたいなクソ犬とは違うんだよ!」
 声を張り上げる。すると、通りすがりの中の幾人かがこちらに注目するのがわかった。睨みつけるように目を遣れば、誰もがさり気なく目を逸らす。俺を恐れ、あからさまに避ける。それは、俺が人間であることの十分な証明だった。なぜなら、人間がこんな風に恐れる相手は、結局、人間しかいないのだから。
 心がすっと軽くなる。気持ちが大きくなる。そこには確かに、生きた人間の鼓動が存在していた。
 ずいと身体を起こす。勢いに任せ、俺はたまたま目に留まった居酒屋にふらりと入った。

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