[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
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 騒音たちこめる街並みを足早に歩いていた。
 毎日のように続く残業に、俺は心底疲れていた。
 突き刺さるような寒気が肌に痛い。我が身を守るようにコートの襟を持ち上げ、俺は帰路を辿った。
「お客さん!」
 呼び止める声に、ふと目を遣る。妙に切迫した口調が気になったからだ。
 シャッターの閉まった店の前に、ほのかな棒状の光が見えた。街灯の当たりにくい場所であるためか、そこにいるはずの人物の姿がよく見えない。
「お待ちください! お客さん!」
 再び呼ばれる。俺はつと足を止め、暗がりに目を凝らす。
 置かれた小さな机が目に入る。と同時に、ようやくそこにいる人物の輪郭が見えてくる。
 薄い紫色のヴェールで口元を隠した、若そうな女性だった。さらに近くに寄ると、先ほどの棒状の光に「占」という文字が見えた。小さな椅子に腰掛けた女性が手招きしている。彼女の目の前には水晶玉が置かれていた。聞かずとも、彼女が占い師だということはすぐにわかった。
 占いなどには全く興味はないし、若い女性だから近寄ったわけでもない。むしろ、一刻も早く家に帰って暖を取りたかったのだ。しかし、俺はさらに彼女の方へと歩を進めた。
 緊迫感の漂う声色の意味を知りたい。ただそれだけの理由だった。
「はい?」
 声をかける。本当ならこの寒い中、一秒でもこんなところに立ち止まっていたくなどない。しかし、占い師は俺が近くに寄ると、急に押し黙ってしまった。手をかざし、じっと水晶玉を覗き込んでいる。「あの!」と、今度は強めの口調で呼びかけてみるが、やはり彼女は返事をしない。俺は、その馬鹿にしているような態度が癪に障り、とうとう声を荒げる。
「俺を呼び止めたんじゃないんですか? だからここに来たんだけど」
「…………」
「ちょっと、いい加減にしてください! 仮にも俺は客です。挨拶のひとつくらいあっても!」
 業を煮やして大声を出す。しかしそれでも占い師は声を発しない。俺は途端に馬鹿らしくなった。これでは埒が明かない。「ったく!」と捨て台詞を吐いてその場を去ろうとする。その時――
「待って!」
 占い師が口を開く。踵を返しかけていた俺は足を止め、彼女に向き直る。
 よく見れば、水晶玉を覗き込む占い師の額にはうっすらと汗が滲んでいた。緊張がひしひしと伝わってくる。時折、俺の方へと手を掲げ、また水晶の上に戻す。そして重いため息をつく。
「一体、何だっていうんです? 忙しいんですよ、俺は。何かあるならさっさと――」
「静かに!」
「――っ、……」
 強い口調で命じられ、俺は動けなくなった。何がなにやら訳がわからない。ただ、占い師の様子を見ていると、言いようのない不安が押し寄せてくる。それほど、彼女の瞳は真剣だった。
 しばらくすると、占い師はようやく手を下ろす。そして、
「犬です。……注意なさい」
 俺の目を見つめながら、それだけを口にした。

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