[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
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 だんだんと世界が色付いていった。
 木々の見せる青々とした色を意識することができた。夏には蝉の歌声が鳴り響き、冬には白い雪が降ることもわかった。
 毎朝すれ違うあのサラリーマンは、もちろんそんなことに気付きもしないのだろう。
 新聞というちっぽけな紙切れの世界に釘付けになっている。こんなにも壮大な景色の中で。
 笑いが止まらない。でもそれを笑う資格もない。だってその人も、以前の私と何ひとつ違わないから。
 書類と時計が、あの頃の私の全世界だったのだから。
 夫は常に私の側にいた。どうして気付かなかったのか、不思議でならない。考えてみれば、夫は専業主夫なのだから当たり前だ。ずっと。そう、いつだって私の側にいてくれた。今ならはっきりとわかる。そして、今ならきちんと感謝できる。何より、感謝する時間が取れる。
 日々の忙しさは、そんな日常の簡単なことや、当たり前のことすら忘れさせてしまうものなのかもしれない。感謝や感動、胸の高鳴りや心臓のリズミカルな鼓動。
 感情を動かすことすらなくなっていくのかもしれない。
 それを人間性の欠如と言わずに、何と言えばいいのか。

 私はいつの間にか、人間を名乗る機械と化していたのかもしれない。
 でも今は、こうやって周りを観察することができる。
 息をしていることが嬉しい。歩くことが楽しい。

 今日も病院。診察を受け、薬をもらい、一ヶ月後の予約をする。
 新聞って何だっけ? あんなに毎日熱心に見るほど、楽しいものだったっけ? 書類も、時計も。
 一ヶ月前の私とは少しだけ違う。何が違うかはわからない。でも、変わっていってることだけはわかる。それで充分なのだ。
 やっぱり今日も、空はとてつもなく青い。緑が鮮やかだ。そして夫が側にいる。
 それだけわかれば、他に必要なものなんてない。世界もうまく回っているに違いない。
 
 いつの間にか夫の顔は、随分と老けてしまった気がする。
 声も変わってきた。疲れているのだろうか。
 そんな時、私は決まって空の青さを夫に教えてあげる。
 夫は微笑み、「そうだね」と答える。少しでも夫を元気にできるなら、私は何度でも教えてあげよう。
 彼が以前の私のように、人間を名乗る機械と化してしまわないように。

 でも――
 日に日に夫の眼つきは変わっていった。口数は減り、家でもデスクに向かう時間が多くなっている。
 私に対する態度も変わってきた。精気が感じられない。
 夫はきっと、大切なものを見失いかけているのだ。
 だから私はまた教えた。自然の素晴らしさを教えた。

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