{
2008/09/16(火) }
ゆらりと美里の身体が横に揺れる。
彼女の瞳は完全に据わっていた。瞬きひとつせず、オレを注視している。
沈黙の空間。
美里から放たれる威圧感は尋常でなかった。悪寒が走り、身体が微震する。異様なまでに枯れた喉を潤そうと、再度ゴクリと唾を飲み込む――
と、その一動の瞬間だった。
一迅の風の如く、彼女の身体がオレの目前へと迫る。
――速い!
反射的に繰り出した大振りの拳が空を切る。その反動でバランスを崩し、一歩前へと足を踏み出してしまう。気付けば彼女の姿が視界から消えている。
「……何やってるの?」
耳元から聞こえた低く鋭い声に、思わず身震いする。
――いつの間に……後ろに?
一滴の汗が横額から頬を伝って顎の下へと降りていく。それを待たず、オレはクルリと向き直り、再び迎撃の構えを取る。しかしそこにも彼女の姿はない。
「遅いよ」
再度、耳元から聞こえてくる声。
「うああああぁぁっ!」
恐怖心に駆られ、オレは反射的に身体を捻る。そして自分の背後へまっすぐに蹴りを放った。
ドスンという衝撃音とともに、足の裏に鈍い感触が伝わる。
――当たった!
右手を床についた体勢のまま、感触のあった方へと視線を向ける。
オレの踵は見事に美里の腹を打ち抜いていた。その事実を確認すると同時に、オレは安堵の息を漏らす。それは、想像していた以上に自分が強くなってるのだという確信を、あらためて得たことによるものからだった。
自信を取り戻す。さっきまでの緊張が嘘のように解けていく。
オレは美里の腹から足を抜き取り、反転して彼女の方へと身体を向けて立ち上がった。
「女には手を出さねぇって、決めてたんだけどな。ちょっと本気になっちまった」
余裕の笑みを湛え、オレは彼女に言い放つ。
しかし、オレのその心持ちは、次の瞬間には脆くも打ち砕かれていた。
美里は表情を変えることなく、その場にしっかりと立っていたのだ。無表情のまま、じっとオレを見据えている。口元にはうっすらと笑みすら零れているように見える。小首を傾げ、身に纏ったダークレッド制服の脇腹の辺りを手で払う。まるで何事もなかったかのように、涼やかな表情を浮かべている。
それは、オレが自分の踵に感じた衝撃とはあまりに不釣合いな顔つきだった。
「本気になったって……? もしかして、今のが攻撃?」
と、美里がさらりと言う。オレは動揺を隠しきれなかった。
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彼女の瞳は完全に据わっていた。瞬きひとつせず、オレを注視している。
沈黙の空間。
美里から放たれる威圧感は尋常でなかった。悪寒が走り、身体が微震する。異様なまでに枯れた喉を潤そうと、再度ゴクリと唾を飲み込む――
と、その一動の瞬間だった。
一迅の風の如く、彼女の身体がオレの目前へと迫る。
――速い!
反射的に繰り出した大振りの拳が空を切る。その反動でバランスを崩し、一歩前へと足を踏み出してしまう。気付けば彼女の姿が視界から消えている。
「……何やってるの?」
耳元から聞こえた低く鋭い声に、思わず身震いする。
――いつの間に……後ろに?
一滴の汗が横額から頬を伝って顎の下へと降りていく。それを待たず、オレはクルリと向き直り、再び迎撃の構えを取る。しかしそこにも彼女の姿はない。
「遅いよ」
再度、耳元から聞こえてくる声。
「うああああぁぁっ!」
恐怖心に駆られ、オレは反射的に身体を捻る。そして自分の背後へまっすぐに蹴りを放った。
ドスンという衝撃音とともに、足の裏に鈍い感触が伝わる。
――当たった!
右手を床についた体勢のまま、感触のあった方へと視線を向ける。
オレの踵は見事に美里の腹を打ち抜いていた。その事実を確認すると同時に、オレは安堵の息を漏らす。それは、想像していた以上に自分が強くなってるのだという確信を、あらためて得たことによるものからだった。
自信を取り戻す。さっきまでの緊張が嘘のように解けていく。
オレは美里の腹から足を抜き取り、反転して彼女の方へと身体を向けて立ち上がった。
「女には手を出さねぇって、決めてたんだけどな。ちょっと本気になっちまった」
余裕の笑みを湛え、オレは彼女に言い放つ。
しかし、オレのその心持ちは、次の瞬間には脆くも打ち砕かれていた。
美里は表情を変えることなく、その場にしっかりと立っていたのだ。無表情のまま、じっとオレを見据えている。口元にはうっすらと笑みすら零れているように見える。小首を傾げ、身に纏ったダークレッド制服の脇腹の辺りを手で払う。まるで何事もなかったかのように、涼やかな表情を浮かべている。
それは、オレが自分の踵に感じた衝撃とはあまりに不釣合いな顔つきだった。
「本気になったって……? もしかして、今のが攻撃?」
と、美里がさらりと言う。オレは動揺を隠しきれなかった。
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