{
2008/09/13(土) }
オレのその言葉に、ようやく紗希は興味を示したようだった。
椅子からすっと腰を上げてオレに近付き、しげしげと全身を眺め回す。オレの周囲を一回りした後、紗希はオレの目の前に立ち、今度はじっとオレの顔を見つめ始めた。額が掠るかと思うほどの距離だ。
「な、何だよ……?」
気恥ずかしさが全身を包む。紗希はそれには答えず、なおもオレの瞳を食い入るように見つめ続ける。彼女の表情は涼やかだったが、その瞳は鋭利な刃物のように感じられた。
思わず目を逸らす。その瞬間――
「うぐっ!」
呻き声が喉の奥から漏れ、無意識に背を丸めて紗希に凭れ掛かる。世界が暗転し、嘔吐感に襲われる。
どうやらボディブローを入れられたようだった。気付けば既に拳は抜かれ、込み上げる不快感だけがうっすらと内部に残っていた。
「……なに、すんだよ……」
咳き込みながら、かろうじて声を絞り出す。敵意を感じ、必死で紗希に威嚇の目を向ける。
紗希は気まずそうな表情を浮かべていた。突拍子もない彼女の行動と理不尽な反応に呆気に取られる。意図が汲み取れず、困惑する。紗希はそんなオレの背中を擦りながら、
「悪い。気絶させ損ねた」
と、悪びれることなく、怖ろしい言葉を口にする。おそらく本人にとっては謝罪の言葉のつもりなのだろうが、もちろんオレとしては納得がいかない。吐き気を堪えながら怒号する。
「いきなりこんな……。どういうつもりだ! あぁ?」
睨みを効かせて紗希を見る。彼女はふうっと一息、ため息を漏らすと、詰問に答える。
「やめといた方がいいかなって思ったから。ちょっと力加減、失敗したけど」
笑いの混じった冷静な声だった。紗希の真意が理解できず、オレはさらに憤る。
「復讐にでも行くと思ったってか? ふざけんなよ!……喧嘩じゃねーんだよ!」
「それは目でわかったよ。第一、それなら止める必要はない。あなたじゃ彼女には敵わないだろうし。それに、あなたの復讐を私がここで本気で止めようと思ったら……今頃、地獄逝きだよ」
「うっ……」
刹那、あの夜の稔さんの表情が脳裏に浮かび、身震いする。
「じゃ、じゃあ……、何でこんなこと。オレはただ会わせてくれと――」
「渚を好きになったんでしょ?」
「……!」
突然核心を突かれ、言葉に窮してしまう。
「だから止めようとした。そのうち会えるだろうからね。この学校に彼氏がいるんだから」
雷に打たれたような衝撃を受ける。
確かに渚さんは美人だし、彼氏くらいいてもおかしくない。でも、やっぱりショックだった。
「あ、相手は……?」
紗希は悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、この学校に来ている教育実習生だと教えてくれた。
胃から込み上げる不快感が治まってきた頃、オレは黙ってドアへと向かう。
去り際に、紗希が背後から、
「やめといた方がいいと思うけど」
と、無感情な口調で声をかけてきた。その言葉だけが、妙に心に残った。
Back | Novel index | Next
椅子からすっと腰を上げてオレに近付き、しげしげと全身を眺め回す。オレの周囲を一回りした後、紗希はオレの目の前に立ち、今度はじっとオレの顔を見つめ始めた。額が掠るかと思うほどの距離だ。
「な、何だよ……?」
気恥ずかしさが全身を包む。紗希はそれには答えず、なおもオレの瞳を食い入るように見つめ続ける。彼女の表情は涼やかだったが、その瞳は鋭利な刃物のように感じられた。
思わず目を逸らす。その瞬間――
「うぐっ!」
呻き声が喉の奥から漏れ、無意識に背を丸めて紗希に凭れ掛かる。世界が暗転し、嘔吐感に襲われる。
どうやらボディブローを入れられたようだった。気付けば既に拳は抜かれ、込み上げる不快感だけがうっすらと内部に残っていた。
「……なに、すんだよ……」
咳き込みながら、かろうじて声を絞り出す。敵意を感じ、必死で紗希に威嚇の目を向ける。
紗希は気まずそうな表情を浮かべていた。突拍子もない彼女の行動と理不尽な反応に呆気に取られる。意図が汲み取れず、困惑する。紗希はそんなオレの背中を擦りながら、
「悪い。気絶させ損ねた」
と、悪びれることなく、怖ろしい言葉を口にする。おそらく本人にとっては謝罪の言葉のつもりなのだろうが、もちろんオレとしては納得がいかない。吐き気を堪えながら怒号する。
「いきなりこんな……。どういうつもりだ! あぁ?」
睨みを効かせて紗希を見る。彼女はふうっと一息、ため息を漏らすと、詰問に答える。
「やめといた方がいいかなって思ったから。ちょっと力加減、失敗したけど」
笑いの混じった冷静な声だった。紗希の真意が理解できず、オレはさらに憤る。
「復讐にでも行くと思ったってか? ふざけんなよ!……喧嘩じゃねーんだよ!」
「それは目でわかったよ。第一、それなら止める必要はない。あなたじゃ彼女には敵わないだろうし。それに、あなたの復讐を私がここで本気で止めようと思ったら……今頃、地獄逝きだよ」
「うっ……」
刹那、あの夜の稔さんの表情が脳裏に浮かび、身震いする。
「じゃ、じゃあ……、何でこんなこと。オレはただ会わせてくれと――」
「渚を好きになったんでしょ?」
「……!」
突然核心を突かれ、言葉に窮してしまう。
「だから止めようとした。そのうち会えるだろうからね。この学校に彼氏がいるんだから」
雷に打たれたような衝撃を受ける。
確かに渚さんは美人だし、彼氏くらいいてもおかしくない。でも、やっぱりショックだった。
「あ、相手は……?」
紗希は悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、この学校に来ている教育実習生だと教えてくれた。
胃から込み上げる不快感が治まってきた頃、オレは黙ってドアへと向かう。
去り際に、紗希が背後から、
「やめといた方がいいと思うけど」
と、無感情な口調で声をかけてきた。その言葉だけが、妙に心に残った。
Back | Novel index | Next

