{
2008/08/26(火) }
小波の音が穏やかだった。
少女はゆっくりと歩みを進めてくる。彼女が一歩進む度に、俺への危険性が跳ね上がっていく。そんなことはわかりきっていた。しかし、俺の足はまるで石膏で固められたかのように、微動だにしない。
いつの間にか少女は、俺の目の前にまで迫ってきていた。
彼女がゆっくりと俺の顔を見上げる。
そこにあったのは、透き通るような美貌だった。目鼻立ちが恐ろしいほど整っている。近くで見る少女の肌はきめ細かで、黒子やソバカスなどはひとつとして無かった。綺麗な肢体を血に染めた彼女の姿は、どことなく神秘的に感じられた。
少女の大きな瞳は漆黒の色を湛えていた。
綺麗な丸い瞳に吸い込まれていくような錯覚に陥る。頭ひとつ分は違うかと思われる身長差だった。しかし俺には、彼女の姿がとても大きく見えた。
「ど、どうして……こんなことを……?」
言葉を発した時、俺は喉の奥が焼けるようだった。今更になって、唾を飲み込むことすら忘れていたことに気付く。
必死の思いで絞り出した言葉であったが、少女は反応を示さなかった。相変わらず感情のこもらない瞳でじっと俺を見つめ続けている。ただ波だけが、変わらない音を響かせていた。
「……俺たちが、何をしたって言うんだ?」
そこまで言って、また唾を嚥下する。その音が自分の中で大きく響く。
今日まで一度だって会ったことのない少女なのだ。当然、彼女に恨まれる覚えなどない。
汗が背中をゆっくりと伝っていくのがわかった。それはもちろん暑さのせいなどではない。緊張感に耐え切れず、俺は二度、瞬きをした。一回、二回――
次の瞬間、突然目の前が闇に覆われた。
腹部に強烈な鈍痛を感じ、俺は思わず身体をくの字に曲げる。落とした視線の先には、俺の腹に手首まで喰い込んだ少女の細い腕が見えた。
熱い。
まるで刀で突き刺されたかのような痛みと衝撃だった。この華奢な身体から繰り出された力だとは、到底思えなかった。
俺はたまらず砂浜に膝をつく。苦しさから呼吸困難に陥る。激しく咳き込む。内部から何かがせり上がってくるのがわかる。
跪いた俺の視界を、少女の血塗れのスニーカーが遮った。
それを正しく認識する前に、俺の身体は宙に舞っていた。顎を捉えた至近距離からの鋭い蹴りは、骨にまでその衝撃を伝えた。
世界が反転し、俺は砂浜に仰向けに叩き付けられる。同時に、喉へと遡ってきていた液体が口から勢いよく吐き出される。鉄に似た味がする。
それは先ほどまで俺が目にしていた、同僚の出したモノと同じ色をしていた。
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少女はゆっくりと歩みを進めてくる。彼女が一歩進む度に、俺への危険性が跳ね上がっていく。そんなことはわかりきっていた。しかし、俺の足はまるで石膏で固められたかのように、微動だにしない。
いつの間にか少女は、俺の目の前にまで迫ってきていた。
彼女がゆっくりと俺の顔を見上げる。
そこにあったのは、透き通るような美貌だった。目鼻立ちが恐ろしいほど整っている。近くで見る少女の肌はきめ細かで、黒子やソバカスなどはひとつとして無かった。綺麗な肢体を血に染めた彼女の姿は、どことなく神秘的に感じられた。
少女の大きな瞳は漆黒の色を湛えていた。
綺麗な丸い瞳に吸い込まれていくような錯覚に陥る。頭ひとつ分は違うかと思われる身長差だった。しかし俺には、彼女の姿がとても大きく見えた。
「ど、どうして……こんなことを……?」
言葉を発した時、俺は喉の奥が焼けるようだった。今更になって、唾を飲み込むことすら忘れていたことに気付く。
必死の思いで絞り出した言葉であったが、少女は反応を示さなかった。相変わらず感情のこもらない瞳でじっと俺を見つめ続けている。ただ波だけが、変わらない音を響かせていた。
「……俺たちが、何をしたって言うんだ?」
そこまで言って、また唾を嚥下する。その音が自分の中で大きく響く。
今日まで一度だって会ったことのない少女なのだ。当然、彼女に恨まれる覚えなどない。
汗が背中をゆっくりと伝っていくのがわかった。それはもちろん暑さのせいなどではない。緊張感に耐え切れず、俺は二度、瞬きをした。一回、二回――
次の瞬間、突然目の前が闇に覆われた。
腹部に強烈な鈍痛を感じ、俺は思わず身体をくの字に曲げる。落とした視線の先には、俺の腹に手首まで喰い込んだ少女の細い腕が見えた。
熱い。
まるで刀で突き刺されたかのような痛みと衝撃だった。この華奢な身体から繰り出された力だとは、到底思えなかった。
俺はたまらず砂浜に膝をつく。苦しさから呼吸困難に陥る。激しく咳き込む。内部から何かがせり上がってくるのがわかる。
跪いた俺の視界を、少女の血塗れのスニーカーが遮った。
それを正しく認識する前に、俺の身体は宙に舞っていた。顎を捉えた至近距離からの鋭い蹴りは、骨にまでその衝撃を伝えた。
世界が反転し、俺は砂浜に仰向けに叩き付けられる。同時に、喉へと遡ってきていた液体が口から勢いよく吐き出される。鉄に似た味がする。
それは先ほどまで俺が目にしていた、同僚の出したモノと同じ色をしていた。
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