{
2008/08/13(水) }
男は老人の死体をじっと観察していた。時々、喉の奥から唸り声を上げる。それはまるで、感心でもしているかのようだった。
男が低い声でポツリと呟く。
「四肢の全てを破壊」
その言葉に悪寒を感じ、私は身震いする。全身に冷水を浴びせかけられたような心持ちだった。
男はさらに言葉を連ねた。
「おそらく一本一本……。骨の感触を味わいながら折っていったのではないかと」
「…………」
「興奮……いや、欲情と断言してもいいと思ってます。そうでなければ、ここまではできない。この睾丸の潰し方など、もう見事としか言いようがありません」
「…………」
「そしてあなたは、彼の頭まで潰した」
男は再び、死体をじっと見つめる。
「躊躇の欠片も見られません。理由は、あなたの欲望を満たすため。それ以外に考えられますか?」
「…………」
男が話し続けている間、私は口を挟むことができなかった。否定することができなかったからだ。
しかし男の態度は終始、冷静そのものだった。
「ご安心ください。先ほども言いましたが、私は警察関係の類の者ではありません。この男は私の責任の下で、しっかりと処分いたしますので。あなたに罪が降りかかることはありません」
そう言ってにっこりと笑った。しかし、私の中でその「罪」という言葉はあまりにも重かった。
こんなことになるなんて思ってもみなかった。
今日の朝までは普通の人と同じ生活をしてきたのだ。あの最初の呼び鈴が、私の全てを変えてしまった。
再び罪悪感が頭を擡げてくる。私はそれまで噤んでいた口を開いた。
「おっしゃりたいことはわかりました。私にはそういう性癖があるということですね。事実を目にした今は、それも認めざるを得ないと思います。でも……」
私はそこで一度言葉を区切る。
「……罪は罪です。そのご老人の人生を私が奪ってしまったことには変わりないんですから」
「では、自主されますか?」
「……はい。それがせめてもの――」
私がそう言いかけたところで、男が口を挟む。
「この老人への償いのつもりなのでしたら、その必要は一切ありません。それが彼の意志ですから」
男は不敵に笑った。そして、それから再び爽やかな笑顔を私に向けると、
「もしご入会いただけるようなら、電話を下さい」
と言って、名刺を差し出した。
男は再度、処理の人間に指示する。まるでゴミのように袋に詰められていく老人の亡骸を前に、私は手を合わせることしかできなかった。天寿より仕事を全うしたこの老人の強い意志が、ひしひしと伝わってくるようだった。勧誘こそが、彼にとっての命だったのだろう。
男は私に一礼をすると、処理の人間たちを引き連れて早急に部屋を後にした。
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男が低い声でポツリと呟く。
「四肢の全てを破壊」
その言葉に悪寒を感じ、私は身震いする。全身に冷水を浴びせかけられたような心持ちだった。
男はさらに言葉を連ねた。
「おそらく一本一本……。骨の感触を味わいながら折っていったのではないかと」
「…………」
「興奮……いや、欲情と断言してもいいと思ってます。そうでなければ、ここまではできない。この睾丸の潰し方など、もう見事としか言いようがありません」
「…………」
「そしてあなたは、彼の頭まで潰した」
男は再び、死体をじっと見つめる。
「躊躇の欠片も見られません。理由は、あなたの欲望を満たすため。それ以外に考えられますか?」
「…………」
男が話し続けている間、私は口を挟むことができなかった。否定することができなかったからだ。
しかし男の態度は終始、冷静そのものだった。
「ご安心ください。先ほども言いましたが、私は警察関係の類の者ではありません。この男は私の責任の下で、しっかりと処分いたしますので。あなたに罪が降りかかることはありません」
そう言ってにっこりと笑った。しかし、私の中でその「罪」という言葉はあまりにも重かった。
こんなことになるなんて思ってもみなかった。
今日の朝までは普通の人と同じ生活をしてきたのだ。あの最初の呼び鈴が、私の全てを変えてしまった。
再び罪悪感が頭を擡げてくる。私はそれまで噤んでいた口を開いた。
「おっしゃりたいことはわかりました。私にはそういう性癖があるということですね。事実を目にした今は、それも認めざるを得ないと思います。でも……」
私はそこで一度言葉を区切る。
「……罪は罪です。そのご老人の人生を私が奪ってしまったことには変わりないんですから」
「では、自主されますか?」
「……はい。それがせめてもの――」
私がそう言いかけたところで、男が口を挟む。
「この老人への償いのつもりなのでしたら、その必要は一切ありません。それが彼の意志ですから」
男は不敵に笑った。そして、それから再び爽やかな笑顔を私に向けると、
「もしご入会いただけるようなら、電話を下さい」
と言って、名刺を差し出した。
男は再度、処理の人間に指示する。まるでゴミのように袋に詰められていく老人の亡骸を前に、私は手を合わせることしかできなかった。天寿より仕事を全うしたこの老人の強い意志が、ひしひしと伝わってくるようだった。勧誘こそが、彼にとっての命だったのだろう。
男は私に一礼をすると、処理の人間たちを引き連れて早急に部屋を後にした。
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