[18禁] 逆リョナ小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
 呼び鈴が鳴った。
 ベッドの上で夢見心地でいた私にとって、それは目覚まし時計の音以上に不快なものだった。
 休日の、しかもこんな早朝から友人が来るわけがない。ネット商品の類も注文した覚えはないし、もちろん出前なども頼んでいない。
 宅配便だろうか。それとも何かの勧誘? もしかしたら宗教団体かもしれない。
 いずれにしても、今はまだ起きる気にはなれなかった。勧誘などの人間であれば無視していればいい。宅配便であっても、不在伝票のひとつも置いていくだろう。後から連絡しなおせば済むことだ。第一、私はまだネグリジェ姿のままだ。わざわざ着替えるのも億劫だった。
 エアコンから流れる涼しい風が心地良い。私は夏用の薄い毛布に包まり、再び夢の中へと誘われていく。
 しかし間もなくベルが二、三度続けて鳴らされ、眠りを妨げられる。呼びかける声はない。また二、三度。なかなかその音が鳴り止む気配はない。さらに二、三度。そのうち、音は嵐のようになって部屋を包み込んだ。
 しつこい。だんだんと苛立ってきた。怒りが沸々と込み上げてくる。
 しばらく間を置いた後、ドンという大きな音が鳴った。思わずビクッと身を凍らせる。再度、同じ音が鳴る。どうやら入口のドアを叩き始めたらしい。音の間隔も短くなってきた。
 もはや我慢の限界だった。
 ベッドから身を起こすと、寝ぼけ眼のままワンピースに着替える。すっぽり被れて、着替えが楽だったからだ。ドアを開けずに声をかける。
「誰なの?」
 強い語調になる。朝早くからの非常識な呼びかけと、眠りを妨げられたことに憤りを覚えていたからだ。しかしながら、ドアの向こうからは応答する声がない。ますます苛立ちが募る。覗き穴からドアの向こうを見る。そこには確かに人影があった。
「誰かって聞いてんの! 返事くらいしたら?」
 感情的になる。何とか怒りを抑え、覗き穴の向こうへとじっと目を凝らす。面識のない人物だった。小柄な老人。白いスーツに身を包み、洒落たネクタイをしている。白髪は綺麗に整えられ、髭などは生えていない。さっぱりとした上品な印象の老人だった。ドアの向こうで軽く会釈している。
 少し拍子抜けしたような気分になる。おそらくこの人物に少しでも小汚い印象を受けたなら、怒鳴りつけて追い返してやろうという気持ちにもなっただろう。しつこいようなら、頬の一発でも張ってやろうかと思っていたほどだ。しかし目の前の老人は、私からそんな気持ちの一切を取り去ってしまった。
 さっきまでの怒りがまるで嘘のようにも感じてくる。老人はドアの前で屈託のない朗らかな笑みを浮かべていた。先ほどの失礼な行為など全く意に介していないような悪びれない表情。
 私はこの老人の不思議な魅力に惹かれるように、無意識にドアを開けていた。
「あの、どちら様でしょうか?」
 私は当初の勢いを失っていた。その言葉を聞いた老人は、無邪気に微笑んだ。ドアとの隔たりが無くなった今、その老人の顔ははっきりと見える。幼さすら感じさせる無垢で憎めないその表情に、私はすっかり心のドアも開いてしまったような安心感を抱いていた。

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