{
2008/07/18(金) }
気が付くと、僕は渚ちゃんの膝枕で寝かされていた。
びっくりして跳び上がりそうになる。が、身体はまだ動きそうになかった。
場所はおそらく教育相談室だろう。校内案内の時に、やたら暗い教室だと印象に残っていた。
――僕は、生きているんだ。
それを実感した時、安堵で再び全身の力が抜けていくようだった。
「おはよ」
と、渚ちゃんが声をかけてくる。僕は申し訳なく思い、謝罪の言葉を口にする。
渚ちゃんはくすっと笑いを零すと、僕の頭をそっと撫でた。
僕は渚ちゃんの優しさに、つい涙を流してしまう。美里がそこにいることに気付いたのは、その時だった。僕と渚ちゃんの様子を見ながら「ふふっ」と笑い声を漏らす。
美里はあらためて僕に「おはよう、お兄ちゃん」と呼びかけ、屈託のない笑顔を見せた。
僕はそんな美里に会わせる顔がなく、つい目を背けてしまう。
「本当は心配してたの」
と、美里が口を開く。ひと息つき、再び言葉を続ける。
「お兄ちゃんが家庭教師に行って、いつも痣つくって帰って来てるの……知ってたから」
僕はその言葉を聞いてますます恥ずかしくなる。
昨日部屋を出る前に妹が口にした『家庭教師様』の引っかかりの理由がわかった気がした。あれは美里なりの皮肉の言葉だったのだ。
――でも、家庭教師だったのは本当だ。決してやましい気持ちで始めたんじゃない。
それだけは信じてもらいたかった。しかし、喉が痛くて話せない。たくさん絶叫したためだろう。しかし美里は頷き、「わかってる」と僕の両手を握り締めた。僕は救われた気がした。
「紗希さんから渚さんのこと聞いたの。お兄ちゃんが寝てる間、いろいろ話したんだよ。本当に素敵な人で、安心した」
美里の言葉に、渚ちゃんが少し頬を染める。美里がさらに続ける。
「それにね……あなたは私のお兄ちゃんだからね」
――どういう意味だ?
「Mだって、全然不思議じゃないよ」
渚ちゃんと美里が目を合わせ、微笑み合う。その視線が僕の首元に注がれているのがわかった。見れば、身に着けていた上半身スーツは脱がされ、僕はワイシャツ一枚の姿になっていた。ネクタイが緩められ、ボタンは上から四つ目まで外されていた。
当然、首輪は剥き出しになっていた。僕はまた恥ずかしさから項垂れる。
「一応、私なりに他人行儀にしようと頑張ったんだけどね。お兄ちゃん、私にも感じちゃうし」
そう言って、美里はまた「ふふっ」と笑う。
「美里ちゃん以上にドMってことでいいのかな」
と、渚ちゃんが言い、二人は笑い合った。僕は、ただ俯くことしかできなかった。
渚ちゃんと出会ってから、僕の周りがどんどん変化していく。
彼女は僕を捕え、檻に閉じ込めてしまった。
もがいても、決して出ることはできない心の檻――
その鍵は、彼女だけが持っているのだ。
今でも、そして、これからも。
END
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びっくりして跳び上がりそうになる。が、身体はまだ動きそうになかった。
場所はおそらく教育相談室だろう。校内案内の時に、やたら暗い教室だと印象に残っていた。
――僕は、生きているんだ。
それを実感した時、安堵で再び全身の力が抜けていくようだった。
「おはよ」
と、渚ちゃんが声をかけてくる。僕は申し訳なく思い、謝罪の言葉を口にする。
渚ちゃんはくすっと笑いを零すと、僕の頭をそっと撫でた。
僕は渚ちゃんの優しさに、つい涙を流してしまう。美里がそこにいることに気付いたのは、その時だった。僕と渚ちゃんの様子を見ながら「ふふっ」と笑い声を漏らす。
美里はあらためて僕に「おはよう、お兄ちゃん」と呼びかけ、屈託のない笑顔を見せた。
僕はそんな美里に会わせる顔がなく、つい目を背けてしまう。
「本当は心配してたの」
と、美里が口を開く。ひと息つき、再び言葉を続ける。
「お兄ちゃんが家庭教師に行って、いつも痣つくって帰って来てるの……知ってたから」
僕はその言葉を聞いてますます恥ずかしくなる。
昨日部屋を出る前に妹が口にした『家庭教師様』の引っかかりの理由がわかった気がした。あれは美里なりの皮肉の言葉だったのだ。
――でも、家庭教師だったのは本当だ。決してやましい気持ちで始めたんじゃない。
それだけは信じてもらいたかった。しかし、喉が痛くて話せない。たくさん絶叫したためだろう。しかし美里は頷き、「わかってる」と僕の両手を握り締めた。僕は救われた気がした。
「紗希さんから渚さんのこと聞いたの。お兄ちゃんが寝てる間、いろいろ話したんだよ。本当に素敵な人で、安心した」
美里の言葉に、渚ちゃんが少し頬を染める。美里がさらに続ける。
「それにね……あなたは私のお兄ちゃんだからね」
――どういう意味だ?
「Mだって、全然不思議じゃないよ」
渚ちゃんと美里が目を合わせ、微笑み合う。その視線が僕の首元に注がれているのがわかった。見れば、身に着けていた上半身スーツは脱がされ、僕はワイシャツ一枚の姿になっていた。ネクタイが緩められ、ボタンは上から四つ目まで外されていた。
当然、首輪は剥き出しになっていた。僕はまた恥ずかしさから項垂れる。
「一応、私なりに他人行儀にしようと頑張ったんだけどね。お兄ちゃん、私にも感じちゃうし」
そう言って、美里はまた「ふふっ」と笑う。
「美里ちゃん以上にドMってことでいいのかな」
と、渚ちゃんが言い、二人は笑い合った。僕は、ただ俯くことしかできなかった。
渚ちゃんと出会ってから、僕の周りがどんどん変化していく。
彼女は僕を捕え、檻に閉じ込めてしまった。
もがいても、決して出ることはできない心の檻――
その鍵は、彼女だけが持っているのだ。
今でも、そして、これからも。
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