{
2008/07/11(金) }
呼吸を整え、高鳴る鼓動を必死で抑える。
実習初日ということもあり、名前がわかる生徒はごくわずかだった。それが悔やまれる。名前がわからなければ、その人間関係を掴むことなど到底できない。その結果がこれだ。
目の前にある異常な光景。それを目の当たりにした僕は今、軽いパニックに陥っている。ともすれば未然に防げた事態かもしれない。対応も考えられたかもしれない。そう思うと、後悔の念が尽きない。
しかし今となっては、そんな悠長なことを言っている余裕もなかった。
――事実が変わるわけではないのだ。
僕は必死で状況の把握に努めた。
一人の男子生徒が複数の女子生徒に取り囲まれていた。二人の女子が、直接男子を押さえつけている。羽交い絞めにしている子と、足を固定させている子。そしてまた別の女子一人が、無防備になった男子の腹を延々と責め続けていた。
――彼女の名は、……安藤彩香といったか。
明朗快活で容姿端麗。繊細で艶やかなストレートロングが印象的な綺麗な子だった。クラスでも一際目立つ存在だ。そのため、僕も彼女の名前は辛うじて覚えていた。
男子は口に泡を浮かべ、同時に黄色い液体を垂れ流している。彼の目は次第に白くなってきていた。
――これはいじめだ。暴力だ。リンチだ。見逃してはいけない。止めなきゃ……
勇気を振り絞る。しかし、いざとなると足が震え、なかなかその一歩が踏み出せない。
思わず扉の前を離れ、隠れるように壁に寄りかかる。眩暈がする。情けない……
その時、一人の女生徒が僕の脇をすり抜け、教室の扉をサラリと開けた。よく見る制服だと直感的に感じた。しかしそれは学園指定のものではない。しばし呆気に取られる。
その女生徒は教室内にすっと入り、
「紗希。遊びに来たよ」
と、元気に声をかけた。
その声に心臓がドクンと脈打つのを感じた。後ろ姿にも見覚えがある。
――僕はこの子を知っている。
再びパニックに陥る。足は依然として動かない。
そんな中、彼女の呼びかけに応じる声が教室内から聞こえてきた。
「あなた……渚? どうしたの、急に?」
「ん。ただのサボり。暇だったからさ」
その言葉に僕は仰天し、我を忘れるほどの衝撃に見舞われる。
――渚ちゃん? 渚ちゃん! どうして? 一体、何が目的で……?
扉の陰からそっと中を覗き込む。見れば渚ちゃんは、クラスの女子一人と親しげに話していた。
――確かさっき、渚ちゃんは「サキ」と呼んでいた。知り合い? どうして?
サキだと思われるその子は、端正な顔立ちにボブカットがよく似合っている。小柄だが魅力的な肢体をしている。射抜くような瞳が印象的な子だった。
サキが「強いよ、この子は」と、他の女生徒に渚ちゃんを紹介している。何がなにやらわからず、僕は頭を抱える。その間にも彩香は男子を痛めつけ続けていた。彼女がふとその手を止める。その口元からは笑みが零れていた。
「じゃあ、あなたも後でやってみる?」
彩香のその言葉を聞いた男子は「ひぃっ」と声を上げ、間もなく失禁した。
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実習初日ということもあり、名前がわかる生徒はごくわずかだった。それが悔やまれる。名前がわからなければ、その人間関係を掴むことなど到底できない。その結果がこれだ。
目の前にある異常な光景。それを目の当たりにした僕は今、軽いパニックに陥っている。ともすれば未然に防げた事態かもしれない。対応も考えられたかもしれない。そう思うと、後悔の念が尽きない。
しかし今となっては、そんな悠長なことを言っている余裕もなかった。
――事実が変わるわけではないのだ。
僕は必死で状況の把握に努めた。
一人の男子生徒が複数の女子生徒に取り囲まれていた。二人の女子が、直接男子を押さえつけている。羽交い絞めにしている子と、足を固定させている子。そしてまた別の女子一人が、無防備になった男子の腹を延々と責め続けていた。
――彼女の名は、……安藤彩香といったか。
明朗快活で容姿端麗。繊細で艶やかなストレートロングが印象的な綺麗な子だった。クラスでも一際目立つ存在だ。そのため、僕も彼女の名前は辛うじて覚えていた。
男子は口に泡を浮かべ、同時に黄色い液体を垂れ流している。彼の目は次第に白くなってきていた。
――これはいじめだ。暴力だ。リンチだ。見逃してはいけない。止めなきゃ……
勇気を振り絞る。しかし、いざとなると足が震え、なかなかその一歩が踏み出せない。
思わず扉の前を離れ、隠れるように壁に寄りかかる。眩暈がする。情けない……
その時、一人の女生徒が僕の脇をすり抜け、教室の扉をサラリと開けた。よく見る制服だと直感的に感じた。しかしそれは学園指定のものではない。しばし呆気に取られる。
その女生徒は教室内にすっと入り、
「紗希。遊びに来たよ」
と、元気に声をかけた。
その声に心臓がドクンと脈打つのを感じた。後ろ姿にも見覚えがある。
――僕はこの子を知っている。
再びパニックに陥る。足は依然として動かない。
そんな中、彼女の呼びかけに応じる声が教室内から聞こえてきた。
「あなた……渚? どうしたの、急に?」
「ん。ただのサボり。暇だったからさ」
その言葉に僕は仰天し、我を忘れるほどの衝撃に見舞われる。
――渚ちゃん? 渚ちゃん! どうして? 一体、何が目的で……?
扉の陰からそっと中を覗き込む。見れば渚ちゃんは、クラスの女子一人と親しげに話していた。
――確かさっき、渚ちゃんは「サキ」と呼んでいた。知り合い? どうして?
サキだと思われるその子は、端正な顔立ちにボブカットがよく似合っている。小柄だが魅力的な肢体をしている。射抜くような瞳が印象的な子だった。
サキが「強いよ、この子は」と、他の女生徒に渚ちゃんを紹介している。何がなにやらわからず、僕は頭を抱える。その間にも彩香は男子を痛めつけ続けていた。彼女がふとその手を止める。その口元からは笑みが零れていた。
「じゃあ、あなたも後でやってみる?」
彩香のその言葉を聞いた男子は「ひぃっ」と声を上げ、間もなく失禁した。
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