{
2008/06/29(日) }
額から、じわりと汗が垂れた。
女王様の踵が、何度も僕の腹を抉る。
僕は呻き声を上げながら、身体を小刻みに震わせる。
視線を下へと落とした僕の視界の隅には、すらりと伸びた女王様の脚が映っていた。
内部から込み上げてくる苦しみが、僕の興奮を煽る。
背中に感じるお尻の感触と重量感も相俟って、僕の陰部は大きな膨らみを見せていた。
どのくらいの間こうしているのかなんてもう忘れてしまった。
床についた膝や肘の感覚はとうに無くなっていた。
読書に勤しむ女王様は沈黙を保ったまま、時折ページをめくる音を立てる。そして時々僕の腹を蹴り上げる。痛烈な痛みが襲う。吐き気を堪えながら、僕は必死で両手足に力を込める。
今、女王様の意識の全ては目の前にある本の世界に入っているのだろう。反対に、僕の意識は全て女王様に向けられているのだ。いや、そもそも意識をもつこと自体が罪なことなのかもしれない。
なぜなら僕は、椅子なのだから。
それ以上でもそれ以下でもない。もちろん昨日までの僕は椅子ではなかった。しかし今日、僕は椅子になった。それは当然、僕の意思によるものではない。
女王様がそう望んだから。
僕にとって、それ以外の理由など必要なかった。
女王様の手元から伸びたリードは、僕の首輪にしっかりと繋がれている。
再び腹を蹴り上げられ、僕はたまらず蹲りそうになる。しかし当然、椅子である僕が崩れることは許されない。
リードがぐいと引かれる。それが僕への合図。僕は同じ姿勢を保たなければならないのだ。
項垂れていた頭が持ち上げられる。
窓の向こうで降り続く雨が視界に入った。
女王様は依然として読書に執心している。その瞳が、その意識が、女王様自身がこちらに向くことばかりを、知らず知らずのうちに考えてしまう。下品な部位を肥大化させながら。僕は自分の欲深さに落胆する。
僕は女王様によってのみ価値を与えていただける下衆だと言うのに……
椅子であるという価値が与えられて初めて、僕は僕の存在価値を知ることができると言うのに……
限りなく募っていく自分のエゴが許せなかった。
ビクビクと脈打つ汚らしい自身に嫌気が差していた。
暗雲は陽光を見事に遮っていた。
以前、女王様に、あなたは雲みたいなものだと言われたことがある。あれはどういう意味だったのだろうか。太陽の輝きを背中で受け止めるあの雨雲。彼は一体、何を思っているのだろう。
陽光を自分の身ひとつで遮断できることを誇りつつ、恵みの雨を地上へ届けようと自信をもって必死で頑張っているのだろうか。それならあの雨は、雲の流す汗なのかもしれない。
逆に、生命の源である陽光を地上から断ち切り、人間や動物たちに鬱陶しく思われる雨をその身から流していることを嘆いているのだろうか。それならあの雨は、雲の流す涙なのかもしれない。
そこまで考えた時、僕は自分の口元が少し皮肉に歪むのが分かった。
今の僕と、とても似ているような気がしたから。
Back | Novel index | Next
女王様の踵が、何度も僕の腹を抉る。
僕は呻き声を上げながら、身体を小刻みに震わせる。
視線を下へと落とした僕の視界の隅には、すらりと伸びた女王様の脚が映っていた。
内部から込み上げてくる苦しみが、僕の興奮を煽る。
背中に感じるお尻の感触と重量感も相俟って、僕の陰部は大きな膨らみを見せていた。
どのくらいの間こうしているのかなんてもう忘れてしまった。
床についた膝や肘の感覚はとうに無くなっていた。
読書に勤しむ女王様は沈黙を保ったまま、時折ページをめくる音を立てる。そして時々僕の腹を蹴り上げる。痛烈な痛みが襲う。吐き気を堪えながら、僕は必死で両手足に力を込める。
今、女王様の意識の全ては目の前にある本の世界に入っているのだろう。反対に、僕の意識は全て女王様に向けられているのだ。いや、そもそも意識をもつこと自体が罪なことなのかもしれない。
なぜなら僕は、椅子なのだから。
それ以上でもそれ以下でもない。もちろん昨日までの僕は椅子ではなかった。しかし今日、僕は椅子になった。それは当然、僕の意思によるものではない。
女王様がそう望んだから。
僕にとって、それ以外の理由など必要なかった。
女王様の手元から伸びたリードは、僕の首輪にしっかりと繋がれている。
再び腹を蹴り上げられ、僕はたまらず蹲りそうになる。しかし当然、椅子である僕が崩れることは許されない。
リードがぐいと引かれる。それが僕への合図。僕は同じ姿勢を保たなければならないのだ。
項垂れていた頭が持ち上げられる。
窓の向こうで降り続く雨が視界に入った。
女王様は依然として読書に執心している。その瞳が、その意識が、女王様自身がこちらに向くことばかりを、知らず知らずのうちに考えてしまう。下品な部位を肥大化させながら。僕は自分の欲深さに落胆する。
僕は女王様によってのみ価値を与えていただける下衆だと言うのに……
椅子であるという価値が与えられて初めて、僕は僕の存在価値を知ることができると言うのに……
限りなく募っていく自分のエゴが許せなかった。
ビクビクと脈打つ汚らしい自身に嫌気が差していた。
暗雲は陽光を見事に遮っていた。
以前、女王様に、あなたは雲みたいなものだと言われたことがある。あれはどういう意味だったのだろうか。太陽の輝きを背中で受け止めるあの雨雲。彼は一体、何を思っているのだろう。
陽光を自分の身ひとつで遮断できることを誇りつつ、恵みの雨を地上へ届けようと自信をもって必死で頑張っているのだろうか。それならあの雨は、雲の流す汗なのかもしれない。
逆に、生命の源である陽光を地上から断ち切り、人間や動物たちに鬱陶しく思われる雨をその身から流していることを嘆いているのだろうか。それならあの雨は、雲の流す涙なのかもしれない。
そこまで考えた時、僕は自分の口元が少し皮肉に歪むのが分かった。
今の僕と、とても似ているような気がしたから。
Back | Novel index | Next

