{
2008/06/20(金) }
――このノートはお父さん、お母さんへの手がみです。一生わたすことはないと思うけど。
ノートには、そこかしこにちぎられた跡があった。
切れ切れのノートに綴られた文字を見ながら、彼女は涙を流し続けている。
変わり果てた姿で家へと戻ったその子が動くことはもうない。
あの子の気持ちに気付いてあげられなかった。その後悔の念が、彼女を容赦なく責め立てる。
「美奈子……」
沈み込む彼女に夫が声をかけた。側に寄り添い、静かに頭を撫でる。彼もまた、彼女と同じ気持ちだった。ただ、今は精一杯彼女を支えてあげなければならない。夫はそう感じていた。
二人の側を慌しく動き回る何人もの警察官たち。
同情の念もあろうが、何しろ彼らにとっては仕事の時間だ。二人を慰めている時間などなかった。
若い刑事――風間が、俯く彼女に囁く。
「奥さん、すみませんがちょっとお話が……」
しかし彼女は動く様子を見せなかった。すぐに別の刑事が彼の行為を制する。俵田という年輩の男だった。声を出さずに首だけを小さく横に振る。風間はため息をつき、夫婦の側を離れた。
――今日はでん気あんまをすると言われました。カリンちゃんとルリエちゃんに体をおさえられました。ユラミちゃんにりょう足をつかまれて、あそこをグリグリされます。「やめて」と言ったけど、ゆるしてくれません。体も動きません。ずっとずっとグリグリされました。すごくいたかったです。でもぼくは「いやだ」と言えませんでした。男の子なのに。
美奈子の視線が、自然とそこにいる女の子たちの方へと向けられる。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
座り込んだ三人の女の子は大粒の涙を流し、夫婦の側に座り込んでいた。反省の念を顕わにする彼女たちに追い討ちをかけるような真似はできない。正確に言えば、美奈子にはそんな気力すらも残っていなかったのだった。美奈子は再び肩を落とし、ノートに目を通す。
――今日はおなかをたくさんパンチされました。ルリエちゃんが後ろからぼくをつかんで、カリンちゃんとユラミちゃんがこう代しながらパンチしてきます。キックもされました。何回も「おえっ」てなったけど、なかなかやめてくれません。ものすごく苦しかったです。でも今日は、ちゃんと「いやだ」と言えました。
美奈子の涙が、指紋防止用の手袋の上にポタリポタリと零れていった。夫は美奈子を気遣いながら、その涙をハンカチで拭う。そこには、息子の残したノートが濡れてしまわないようにという配慮もあった。
――何回も何回もビンタされました。ぼくは泣いてしまいました。いつもみたいに、ユラミちゃんとカリンちゃんとルリエちゃんにこう代でされました。すごくくやしい。くやしい。
そこまで読んだ時、とうとう美奈子は大声を上げて泣き崩れた。
彼女の泣き声に呼応するように、三人の女の子もまた大声を張り上げて泣いた。
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ノートには、そこかしこにちぎられた跡があった。
切れ切れのノートに綴られた文字を見ながら、彼女は涙を流し続けている。
変わり果てた姿で家へと戻ったその子が動くことはもうない。
あの子の気持ちに気付いてあげられなかった。その後悔の念が、彼女を容赦なく責め立てる。
「美奈子……」
沈み込む彼女に夫が声をかけた。側に寄り添い、静かに頭を撫でる。彼もまた、彼女と同じ気持ちだった。ただ、今は精一杯彼女を支えてあげなければならない。夫はそう感じていた。
二人の側を慌しく動き回る何人もの警察官たち。
同情の念もあろうが、何しろ彼らにとっては仕事の時間だ。二人を慰めている時間などなかった。
若い刑事――風間が、俯く彼女に囁く。
「奥さん、すみませんがちょっとお話が……」
しかし彼女は動く様子を見せなかった。すぐに別の刑事が彼の行為を制する。俵田という年輩の男だった。声を出さずに首だけを小さく横に振る。風間はため息をつき、夫婦の側を離れた。
――今日はでん気あんまをすると言われました。カリンちゃんとルリエちゃんに体をおさえられました。ユラミちゃんにりょう足をつかまれて、あそこをグリグリされます。「やめて」と言ったけど、ゆるしてくれません。体も動きません。ずっとずっとグリグリされました。すごくいたかったです。でもぼくは「いやだ」と言えませんでした。男の子なのに。
美奈子の視線が、自然とそこにいる女の子たちの方へと向けられる。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
座り込んだ三人の女の子は大粒の涙を流し、夫婦の側に座り込んでいた。反省の念を顕わにする彼女たちに追い討ちをかけるような真似はできない。正確に言えば、美奈子にはそんな気力すらも残っていなかったのだった。美奈子は再び肩を落とし、ノートに目を通す。
――今日はおなかをたくさんパンチされました。ルリエちゃんが後ろからぼくをつかんで、カリンちゃんとユラミちゃんがこう代しながらパンチしてきます。キックもされました。何回も「おえっ」てなったけど、なかなかやめてくれません。ものすごく苦しかったです。でも今日は、ちゃんと「いやだ」と言えました。
美奈子の涙が、指紋防止用の手袋の上にポタリポタリと零れていった。夫は美奈子を気遣いながら、その涙をハンカチで拭う。そこには、息子の残したノートが濡れてしまわないようにという配慮もあった。
――何回も何回もビンタされました。ぼくは泣いてしまいました。いつもみたいに、ユラミちゃんとカリンちゃんとルリエちゃんにこう代でされました。すごくくやしい。くやしい。
そこまで読んだ時、とうとう美奈子は大声を上げて泣き崩れた。
彼女の泣き声に呼応するように、三人の女の子もまた大声を張り上げて泣いた。
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