{
2008/05/30(金) }
机に置かれた火のついたタバコを手に取る。
私は刑事さん二人をかき分け、暴れる嶺岸さんの首筋にタバコの先をぐいと押し当ててみた。
「ぐああああっ!」
叫び声とともに、彼がエビみたいに大きく身体をのけぞらせる。その反動で彼は刑事さん二人の手を離れる。私はすかさず持っていたタバコを捨て、同時に彼のお腹に力いっぱい拳を叩き込んだ。
彼は呻き声を上げ、そのまま床に倒れ込んで悶絶した。
……バタバタしてる姿がちょっと可愛い。
刑事さん二人は「ふうっ」と大きく息を吐きながら呼吸を整え、襟元を正し始めていた。
私は転げ回る彼の喉元をブーツの底で踏み付けて押さえ込みながら、
「担当の後藤由香利です。よろしくお願いします。」
と、自己紹介をする。
取調執行人としての仕事がこれから始まるのだと思うと、胸のドキドキが収まらない。私は自分の緊張を解すように、大きめの声で彼に告げたつもりだった。けれど彼はその言葉がまるで聞こえていないかのように、目を大きく見開いたまま、顔を真っ赤にして痙攣し始めていた。
……せっかくの自己紹介なのに、タイミング悪いな。
一呼吸ついた刑事さん二人は、まるで何事もなかったかのように彼に背を向け、
「では、ひとつよろしく頼むよ。」
「お願いしますね。」
と、私に声をかけた。私が「はい」とだけ答えると、彼らは無言のまま取調室を出て行った。
ドアの閉まる音を背中で聞きながら、私は嶺岸さんの喉仏にさらに体重を乗せる。彼はやがて口から泡を吹き、ぐったりと全身の力を抜いた。失禁し、ズボンの下半身がじわじわと濡れていく。
……ちょっとやりすぎちゃったかな。これから尋問しなきゃいけないし。
私は足を彼の喉元から放す。周囲を見回すと、ちょうど刑事さんが残していったライターが目に入った。手に取り、彼の耳を炙る。肉がじりじりと焦げる音を立て始めた頃、彼は悲鳴を上げて飛び起きた。何が起こったのか分からないといった様子で耳を押さえている彼の姿が滑稽で面白い。
私は再度、自己紹介をした。今度はちゃんと聞いてくれたと思う。
「じゃあ、早速質問させていただきますね。」
呆然としている彼に向かって、私はさらに言葉を続ける。
「あなたは京握区内で、無差別に罪のない多くの人たちを殺傷した爆弾魔ですね。」
その言葉を聞いても彼は無言のままだった。相変わらず耳を押さえたまま、身体を震わせ始める。
私がさらに「答えてください」と言った時、彼が突然私に飛びかかってきた。
「ふざけんな! 俺はやってねえ!」
と怒声を吐きながら、私に掴みかかる。
とてもそんなことをするような人には見えなかったので、すごくびっくりした。何より、私はこの時あらためて、処刑人と取調執行人の違いを実感していた。私が今まで拷問してきた人たちは皆『違反者』という肩書きをもった人たちだった。そんな彼らには法の下、適切なメニューが与えられていた。態度も基本的には従順だった。私はそういう人たちに、メニューの一つ一つを与えていただけ。でも、今は違う。目の前の彼もそうだけど、ここに来る人たちは皆、まだ自白もしていない容疑者なのだ。こうやって襲いかかってくることも多々あるのだろう。
彼のお陰で、私はまた一つ勉強することができた。
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私は刑事さん二人をかき分け、暴れる嶺岸さんの首筋にタバコの先をぐいと押し当ててみた。
「ぐああああっ!」
叫び声とともに、彼がエビみたいに大きく身体をのけぞらせる。その反動で彼は刑事さん二人の手を離れる。私はすかさず持っていたタバコを捨て、同時に彼のお腹に力いっぱい拳を叩き込んだ。
彼は呻き声を上げ、そのまま床に倒れ込んで悶絶した。
……バタバタしてる姿がちょっと可愛い。
刑事さん二人は「ふうっ」と大きく息を吐きながら呼吸を整え、襟元を正し始めていた。
私は転げ回る彼の喉元をブーツの底で踏み付けて押さえ込みながら、
「担当の後藤由香利です。よろしくお願いします。」
と、自己紹介をする。
取調執行人としての仕事がこれから始まるのだと思うと、胸のドキドキが収まらない。私は自分の緊張を解すように、大きめの声で彼に告げたつもりだった。けれど彼はその言葉がまるで聞こえていないかのように、目を大きく見開いたまま、顔を真っ赤にして痙攣し始めていた。
……せっかくの自己紹介なのに、タイミング悪いな。
一呼吸ついた刑事さん二人は、まるで何事もなかったかのように彼に背を向け、
「では、ひとつよろしく頼むよ。」
「お願いしますね。」
と、私に声をかけた。私が「はい」とだけ答えると、彼らは無言のまま取調室を出て行った。
ドアの閉まる音を背中で聞きながら、私は嶺岸さんの喉仏にさらに体重を乗せる。彼はやがて口から泡を吹き、ぐったりと全身の力を抜いた。失禁し、ズボンの下半身がじわじわと濡れていく。
……ちょっとやりすぎちゃったかな。これから尋問しなきゃいけないし。
私は足を彼の喉元から放す。周囲を見回すと、ちょうど刑事さんが残していったライターが目に入った。手に取り、彼の耳を炙る。肉がじりじりと焦げる音を立て始めた頃、彼は悲鳴を上げて飛び起きた。何が起こったのか分からないといった様子で耳を押さえている彼の姿が滑稽で面白い。
私は再度、自己紹介をした。今度はちゃんと聞いてくれたと思う。
「じゃあ、早速質問させていただきますね。」
呆然としている彼に向かって、私はさらに言葉を続ける。
「あなたは京握区内で、無差別に罪のない多くの人たちを殺傷した爆弾魔ですね。」
その言葉を聞いても彼は無言のままだった。相変わらず耳を押さえたまま、身体を震わせ始める。
私がさらに「答えてください」と言った時、彼が突然私に飛びかかってきた。
「ふざけんな! 俺はやってねえ!」
と怒声を吐きながら、私に掴みかかる。
とてもそんなことをするような人には見えなかったので、すごくびっくりした。何より、私はこの時あらためて、処刑人と取調執行人の違いを実感していた。私が今まで拷問してきた人たちは皆『違反者』という肩書きをもった人たちだった。そんな彼らには法の下、適切なメニューが与えられていた。態度も基本的には従順だった。私はそういう人たちに、メニューの一つ一つを与えていただけ。でも、今は違う。目の前の彼もそうだけど、ここに来る人たちは皆、まだ自白もしていない容疑者なのだ。こうやって襲いかかってくることも多々あるのだろう。
彼のお陰で、私はまた一つ勉強することができた。
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