{
2008/05/08(木) }
真紀の口から「ううん」という言葉が聞こえるまで、随分と長い時間がかかったように思えた。僕はひとまず安堵のため息を漏らすが、まだ不安はこの身を解放してくれない。彼女は未だ心ここにあらずといったように、ただ窓から見える真っ青な空をじっと見ていた。
間違っても、これ以上僕の不安を煽るような言葉を真紀に重ねてほしくなかった。
既に僕の心は深淵に落ちてしまったかのようだ。元気な表情を繕うことすらままならない。いつもの明るい真紀に戻ってほしい。変な気持ちに囚われてほしくない。
真紀の気持ちを別の方へ向けようと必死で考えた。彼女の調子の悪さを何とか説明できれば。そう考え、再び僕は苦し紛れに彼女に問いかける。
「――五月病ってことはないかな?」
僕の言葉に真紀はピクリと反応し、その顔を窓から僕へと向ける。言葉を続ける。
「ほら、よくあるでしょ? 何となく憂鬱になるっていう……ふぐっ!」
唐突に、真紀の肘打ちが僕の鳩尾を捉える。僕はたまらず身体を前のめりにする。
「――な……何を? ……!!……」
……僕は言葉を途中で呑み込まずにはいられなかった。真紀の瞳の端がつり上がり、ギラギラとした輝きを湛えていたからだ。彼女の明らかな変容に翻弄される。
真紀の鋭い眼光が突き刺さり、僕は思わず身体を竦める。彼女はふいに立ち上がって僕の髪を掴むと、再度爪先で僕の鳩尾に強烈な蹴りを放った。
「ぐあ……っはあっ!」
呻き声を吐き出し、僕はその場に倒れ込む。真紀はすかさず僕の背中を踏み付け、グリグリと踏み躙った。
「何それ? 私を馬鹿にしてんの?」
真紀の口調は真剣そのものだった。こんなことは初めてだった。僕は混乱する。
――どうして?
訳が分からないまま腹を押さえて悶絶する。食べた直後に蹴られたため、パスタが喉元へと逆流してくるのが分かる。込み上げてくる吐き気を何とか抑え、必死で彼女に問う。
「ど、どうしたの?……急に……」
真紀が怒った訳を知りたかった。もしかしたら時期の問題もあるのかもしれない。精神的に不安定になっているだけなのかもしれない。とにかく理由が知りたかった。
しかし真紀は無言のままでいる。僕は言葉を続けた。
「もしかして、生理とか? そういう時って、不安定になるもんなんだろ?」
それを聞いた真紀は急に笑い出した。少し頬を染めながら、恥ずかしげに顔を手で覆う。
「や、ヤダ! 違うもん。そんな恥ずかしいこと言わないでよ、変態!」
真紀の蹴りが再び僕の顎を正確に捉える。
「あがっ!」
僕は勢いよく仰向けに倒れ込んだ。真紀の表情はさっきとは打って変わった綻びを見せていた。さっきの行動の意味は分からなかったが、彼女の機嫌が直ったことに僕は安堵する。
「あ、はは。そうだね。いくら彼女でも、失礼だよね。ゴメンゴメン。」
僕はそう言って精一杯の笑みを浮かべる。
「そうだよ。あっはは! もう本当に恥ずかしいよう。」
「でも、ちょっと元気になったみたいで安心したよ。」
「うん。何かすっきりしたみたい。」
「よかった。でも風邪でもないのにどうしたんだろうね?」
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間違っても、これ以上僕の不安を煽るような言葉を真紀に重ねてほしくなかった。
既に僕の心は深淵に落ちてしまったかのようだ。元気な表情を繕うことすらままならない。いつもの明るい真紀に戻ってほしい。変な気持ちに囚われてほしくない。
真紀の気持ちを別の方へ向けようと必死で考えた。彼女の調子の悪さを何とか説明できれば。そう考え、再び僕は苦し紛れに彼女に問いかける。
「――五月病ってことはないかな?」
僕の言葉に真紀はピクリと反応し、その顔を窓から僕へと向ける。言葉を続ける。
「ほら、よくあるでしょ? 何となく憂鬱になるっていう……ふぐっ!」
唐突に、真紀の肘打ちが僕の鳩尾を捉える。僕はたまらず身体を前のめりにする。
「――な……何を? ……!!……」
……僕は言葉を途中で呑み込まずにはいられなかった。真紀の瞳の端がつり上がり、ギラギラとした輝きを湛えていたからだ。彼女の明らかな変容に翻弄される。
真紀の鋭い眼光が突き刺さり、僕は思わず身体を竦める。彼女はふいに立ち上がって僕の髪を掴むと、再度爪先で僕の鳩尾に強烈な蹴りを放った。
「ぐあ……っはあっ!」
呻き声を吐き出し、僕はその場に倒れ込む。真紀はすかさず僕の背中を踏み付け、グリグリと踏み躙った。
「何それ? 私を馬鹿にしてんの?」
真紀の口調は真剣そのものだった。こんなことは初めてだった。僕は混乱する。
――どうして?
訳が分からないまま腹を押さえて悶絶する。食べた直後に蹴られたため、パスタが喉元へと逆流してくるのが分かる。込み上げてくる吐き気を何とか抑え、必死で彼女に問う。
「ど、どうしたの?……急に……」
真紀が怒った訳を知りたかった。もしかしたら時期の問題もあるのかもしれない。精神的に不安定になっているだけなのかもしれない。とにかく理由が知りたかった。
しかし真紀は無言のままでいる。僕は言葉を続けた。
「もしかして、生理とか? そういう時って、不安定になるもんなんだろ?」
それを聞いた真紀は急に笑い出した。少し頬を染めながら、恥ずかしげに顔を手で覆う。
「や、ヤダ! 違うもん。そんな恥ずかしいこと言わないでよ、変態!」
真紀の蹴りが再び僕の顎を正確に捉える。
「あがっ!」
僕は勢いよく仰向けに倒れ込んだ。真紀の表情はさっきとは打って変わった綻びを見せていた。さっきの行動の意味は分からなかったが、彼女の機嫌が直ったことに僕は安堵する。
「あ、はは。そうだね。いくら彼女でも、失礼だよね。ゴメンゴメン。」
僕はそう言って精一杯の笑みを浮かべる。
「そうだよ。あっはは! もう本当に恥ずかしいよう。」
「でも、ちょっと元気になったみたいで安心したよ。」
「うん。何かすっきりしたみたい。」
「よかった。でも風邪でもないのにどうしたんだろうね?」
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