{
2008/05/01(木) }
俺は尽き果て、余韻に浸る。
彼女に再び御礼を述べた後、俺は何度も意識を失いそうになった。見る影もなくなったであろう身体は、あまりの痛みでピクリとも動かなくなっていた。しかし、今ならはっきりと言える。
俺は「彼女の物」である、と。
ふと彼女を見る。彼女は俺に素敵な笑顔を向けていた。
逆光が鬱陶しく思えたが、それでも俺の瞳にはしっかりと彼女の表情が見えていた。とても温かくて、優しくて、美しい。間近で見れば見るほど、彼女の整った顔立ちがあらためてはっきりと分かる。
彼女は俺の身体中を愛撫し始めた。服を肌蹴させ、直接肌に唇を吸い付ける。優しく撫でるように、舌を這わせる。俺はしばらくその悦楽に浸っていた。やがて彼女は無言ですっと立ち上がった。
俺は彼女がどこかへ行ってしまうのではないかという不安に駆られる。
――もう俺は、あなた無しでは生きていけない身体になりそうです……
心の叫びは声にならなかった。しかし彼女にはそんなつもりは無いようだった。彼女はゆっくりとその両手を俺の両足へと運び、まるで当然のことのように俺の股を広げて腰の辺りに固定した。
ふと違和感を覚える。
――これは……。?……
先ほど自分が味わった恐怖と苦痛、そしてこの目で見た彼女の殺戮の光景、それらがまざまざと脳裏に蘇り、彼女の今の行為が俺の恐怖心と共鳴する。
「……あ、……あの――」
彼女の声には一片の曇りもなかった。
「じゃあ、そろそろ本番ね。」
その言葉に俺は戦慄する。耳を疑う。
――まさか――そんな……
しかし俺のわずかな期待は現実になりそうになかった。冗談などではないのだ。俺の目を覗き込んだ彼女の瞳には再び鋭い眼光が宿っていたのだから。
「……どこから壊していこうかな。」
あっけらかんとした口調。
まるで、ショッピングで服を選ぶのに迷っているかのような、楽しげな声だった。
「ここからにするね。」
彼女は俺の睾丸に、ヒールの先をぐいと押し当てる。ヒールは既に血塗れになっていた。
俺はこの時になってようやく、本当の危機に気が付いた。性欲が解消されるとともに、理性の方が強く顔を出してきたのかもしれない。まだ終わらない。終わるとすれば、それは――
――それは……俺が完全に壊れた時……。彼女は、俺の存在そのものを潰そうとしているんだ。
次第に、心の底から恐怖心が形となってふつふつと湧き上がってくる。
――潰される。壊される。殺される。……俺は、……雨上がりのカエル――
「待ってください!」
必死で叫んだ。「何?」という彼女の言葉も掻き消し、ひたすら謝罪の言葉を口にする。
――怖い。怖い。
まだ生きていたい。俺はまだ大学生なんだ。サークルで遊んで、仲間たちとだらだら騒いで。歳だって二十歳になったばかりだ。これからの人生を思うと、どうしても踏み切ることなんてできない。
俺は彼女の物。その意識に嘘などない。彼女に身を捧げたのも本心からだ。でも……でも……
――ここで殺されてしまっては……全てが終わってしまう……
やはり覚悟はできなかった。喉が枯れるほど泣き、命乞いを繰り返した。
俺は、取引をした。
人として最低だとか、そんなことはもうどうでもいい。我が身可愛さに、俺は……
震える手で、俺は携帯のボタンを押した。幾度かのコール音の後、プツッという受信音が通話口から聞こえてくる。
俺は努めて楽しそうな声で、受話器の向こう側へと語りかけた。
「清水。これからうちで飲まないか? いい女、紹介するからさ――」
END
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彼女に再び御礼を述べた後、俺は何度も意識を失いそうになった。見る影もなくなったであろう身体は、あまりの痛みでピクリとも動かなくなっていた。しかし、今ならはっきりと言える。
俺は「彼女の物」である、と。
ふと彼女を見る。彼女は俺に素敵な笑顔を向けていた。
逆光が鬱陶しく思えたが、それでも俺の瞳にはしっかりと彼女の表情が見えていた。とても温かくて、優しくて、美しい。間近で見れば見るほど、彼女の整った顔立ちがあらためてはっきりと分かる。
彼女は俺の身体中を愛撫し始めた。服を肌蹴させ、直接肌に唇を吸い付ける。優しく撫でるように、舌を這わせる。俺はしばらくその悦楽に浸っていた。やがて彼女は無言ですっと立ち上がった。
俺は彼女がどこかへ行ってしまうのではないかという不安に駆られる。
――もう俺は、あなた無しでは生きていけない身体になりそうです……
心の叫びは声にならなかった。しかし彼女にはそんなつもりは無いようだった。彼女はゆっくりとその両手を俺の両足へと運び、まるで当然のことのように俺の股を広げて腰の辺りに固定した。
ふと違和感を覚える。
――これは……。?……
先ほど自分が味わった恐怖と苦痛、そしてこの目で見た彼女の殺戮の光景、それらがまざまざと脳裏に蘇り、彼女の今の行為が俺の恐怖心と共鳴する。
「……あ、……あの――」
彼女の声には一片の曇りもなかった。
「じゃあ、そろそろ本番ね。」
その言葉に俺は戦慄する。耳を疑う。
――まさか――そんな……
しかし俺のわずかな期待は現実になりそうになかった。冗談などではないのだ。俺の目を覗き込んだ彼女の瞳には再び鋭い眼光が宿っていたのだから。
「……どこから壊していこうかな。」
あっけらかんとした口調。
まるで、ショッピングで服を選ぶのに迷っているかのような、楽しげな声だった。
「ここからにするね。」
彼女は俺の睾丸に、ヒールの先をぐいと押し当てる。ヒールは既に血塗れになっていた。
俺はこの時になってようやく、本当の危機に気が付いた。性欲が解消されるとともに、理性の方が強く顔を出してきたのかもしれない。まだ終わらない。終わるとすれば、それは――
――それは……俺が完全に壊れた時……。彼女は、俺の存在そのものを潰そうとしているんだ。
次第に、心の底から恐怖心が形となってふつふつと湧き上がってくる。
――潰される。壊される。殺される。……俺は、……雨上がりのカエル――
「待ってください!」
必死で叫んだ。「何?」という彼女の言葉も掻き消し、ひたすら謝罪の言葉を口にする。
――怖い。怖い。
まだ生きていたい。俺はまだ大学生なんだ。サークルで遊んで、仲間たちとだらだら騒いで。歳だって二十歳になったばかりだ。これからの人生を思うと、どうしても踏み切ることなんてできない。
俺は彼女の物。その意識に嘘などない。彼女に身を捧げたのも本心からだ。でも……でも……
――ここで殺されてしまっては……全てが終わってしまう……
やはり覚悟はできなかった。喉が枯れるほど泣き、命乞いを繰り返した。
俺は、取引をした。
人として最低だとか、そんなことはもうどうでもいい。我が身可愛さに、俺は……
震える手で、俺は携帯のボタンを押した。幾度かのコール音の後、プツッという受信音が通話口から聞こえてくる。
俺は努めて楽しそうな声で、受話器の向こう側へと語りかけた。
「清水。これからうちで飲まないか? いい女、紹介するからさ――」
END
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