{
2008/03/27(木) }
洋介さんの怒りがビリビリと伝わってきた。
「……ん、の野郎……。何してくれてんだよ……」
威嚇するような低い響きの声がオレの胸を抉る。洋介さんの鼻からは血が噴き出してきていた。オレの拳にもその血がベットリとついていた。それに気付き、オレは震えた。
――オレは……何てことをしてしまったんだ。オレは……オレは……
我に返ると同時に、早くも自分がしたことへの後悔が頭を擡げてくる。
――尊敬する先輩を殴ってしまった。オレ自身が……この手で!
その罪悪感と洋介さんに対する恐怖心は、あっという間にオレの全身を包み込んだ。鼻を擦りながら、洋介さんがゆっくりと身体を起こす。
「いい度胸してんな、てめえはよ! あぁン!? 何のつもりだコラ!!」
洋介さんの罵声が響く。ギラついた瞳。混乱したオレは身動きが取れなかった。洋介さんの放つ威圧感は、傷ついた身体とは対照的に思えた。洋介さんが拳を振り上げる。オレは覚悟を決め、目を瞑った。
しかし、その拳はいつになってもオレに当たることはなかった。
ふと片目を開けると、オレに背を向けた茶髪女の姿が目前に映った。女は拳をまっすぐ前に突き出している。女の向こうには、顔面を手で覆いながら蹲る洋介さんの姿があった。洋介さんの指の間からは、血が後から後から零れてきていた。女は絶叫する洋介さんを、無言のままじっと見つめていた。
状況を理解するのには時間がかかった。しかしその時同時に、ふいに一つの考えがオレの頭を過る。鼓動が高鳴るのが分かる。オレは、自分が完全に女の死角に入っていることに気付いていた。
――こいつは洋介さんに気を取られてる。やるなら、今しかない!
オレは再び気持ちを奮い立たせる。そして今度は目の前の女に焦点を当て、拳を握り締めていた。
――アシリタス。今こそオレに、力を……
今のオレに信じられるものは、もはやオレの中に潜む悪魔だけだった。人間なんて、所詮信じるに値しないもの。この時オレはそう悟った。洋介さん。稔さん。そいつらが何だというのだ。尊敬する人間なんて、最初からオレには必要なかったのだ。
――そうだよな。アシリタス!
オレは茶髪女の後頭部目掛けて、勢いよく拳を突き出した。しかし次の瞬間には、オレの目の前は真っ暗になっていた。身体の力が抜け、膝がガクンと折れる。項垂れたオレの目の先に映ったのは、後ろ向きのまましゃがみ込んだ女と、オレの鳩尾に深く減り込んだ女の肘。それに気付いた頃には、オレは既に内部からもよおしてくる強烈な嘔吐感に襲われていた。
たまらずその場に蹲る。吐き気を必死で堪える。そんなオレの耳に、茶髪女の声が聞こえてきた。
「……あの人は殴って正解。よく出来ました。」
その口調はとても静かで優しかった。まるで子どもを諭す母親のような声色だった。
女の言葉に、何故かオレは救われたような気がした。
「ただ、まだまだだけどね」
と、女は皮肉っぽく付け加える。
吐き気が後から後から込み上げてくる。オレはその苦しみから、ただその場で苦悶することしかできなかった。そんな中、女がゆっくりとどこかへ向かって歩いていくのが分かった。何かを拾う姿がオレの目の端に映る。オレは懸命に顔を上げ、女の方を見た。
……見間違いなどではなかった。女がその手に握っていたのは、オレのバタフライナイフ。それは外灯の光を反射し、女の手の中でキラリと冷たい光を放っていた。
恐怖心からオレは全身を震わせる。
――な、何を……? や……やめてくれ! 許してくれ!
心の叫びは声にならない。女は冷静な表情で、再びじわじわとオレの方へと歩を進めてくるのだった。
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「……ん、の野郎……。何してくれてんだよ……」
威嚇するような低い響きの声がオレの胸を抉る。洋介さんの鼻からは血が噴き出してきていた。オレの拳にもその血がベットリとついていた。それに気付き、オレは震えた。
――オレは……何てことをしてしまったんだ。オレは……オレは……
我に返ると同時に、早くも自分がしたことへの後悔が頭を擡げてくる。
――尊敬する先輩を殴ってしまった。オレ自身が……この手で!
その罪悪感と洋介さんに対する恐怖心は、あっという間にオレの全身を包み込んだ。鼻を擦りながら、洋介さんがゆっくりと身体を起こす。
「いい度胸してんな、てめえはよ! あぁン!? 何のつもりだコラ!!」
洋介さんの罵声が響く。ギラついた瞳。混乱したオレは身動きが取れなかった。洋介さんの放つ威圧感は、傷ついた身体とは対照的に思えた。洋介さんが拳を振り上げる。オレは覚悟を決め、目を瞑った。
しかし、その拳はいつになってもオレに当たることはなかった。
ふと片目を開けると、オレに背を向けた茶髪女の姿が目前に映った。女は拳をまっすぐ前に突き出している。女の向こうには、顔面を手で覆いながら蹲る洋介さんの姿があった。洋介さんの指の間からは、血が後から後から零れてきていた。女は絶叫する洋介さんを、無言のままじっと見つめていた。
状況を理解するのには時間がかかった。しかしその時同時に、ふいに一つの考えがオレの頭を過る。鼓動が高鳴るのが分かる。オレは、自分が完全に女の死角に入っていることに気付いていた。
――こいつは洋介さんに気を取られてる。やるなら、今しかない!
オレは再び気持ちを奮い立たせる。そして今度は目の前の女に焦点を当て、拳を握り締めていた。
――アシリタス。今こそオレに、力を……
今のオレに信じられるものは、もはやオレの中に潜む悪魔だけだった。人間なんて、所詮信じるに値しないもの。この時オレはそう悟った。洋介さん。稔さん。そいつらが何だというのだ。尊敬する人間なんて、最初からオレには必要なかったのだ。
――そうだよな。アシリタス!
オレは茶髪女の後頭部目掛けて、勢いよく拳を突き出した。しかし次の瞬間には、オレの目の前は真っ暗になっていた。身体の力が抜け、膝がガクンと折れる。項垂れたオレの目の先に映ったのは、後ろ向きのまましゃがみ込んだ女と、オレの鳩尾に深く減り込んだ女の肘。それに気付いた頃には、オレは既に内部からもよおしてくる強烈な嘔吐感に襲われていた。
たまらずその場に蹲る。吐き気を必死で堪える。そんなオレの耳に、茶髪女の声が聞こえてきた。
「……あの人は殴って正解。よく出来ました。」
その口調はとても静かで優しかった。まるで子どもを諭す母親のような声色だった。
女の言葉に、何故かオレは救われたような気がした。
「ただ、まだまだだけどね」
と、女は皮肉っぽく付け加える。
吐き気が後から後から込み上げてくる。オレはその苦しみから、ただその場で苦悶することしかできなかった。そんな中、女がゆっくりとどこかへ向かって歩いていくのが分かった。何かを拾う姿がオレの目の端に映る。オレは懸命に顔を上げ、女の方を見た。
……見間違いなどではなかった。女がその手に握っていたのは、オレのバタフライナイフ。それは外灯の光を反射し、女の手の中でキラリと冷たい光を放っていた。
恐怖心からオレは全身を震わせる。
――な、何を……? や……やめてくれ! 許してくれ!
心の叫びは声にならない。女は冷静な表情で、再びじわじわとオレの方へと歩を進めてくるのだった。
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この記事へのコメント
りょうさん、さっそく みていただいて、ありがとうございます!(笑) うすっぺらーなホムペですが、たまーにみてくださーい(笑) きをつかって、名前まで変えてもらってすみません(笑) ありがとうございます!
あたしのパンチ好きなのは、りょうさんしか 知らないので、な…い…しょ(笑)
あと、琴は、母が師範で、ボランティアとかで、施設をまわったり、集会場とか、コンサートとかやってて、なかなか耳にできないかたなどに、少しでも、音楽を通して、癒されたり、元気になってほしいと、活動しています!
なにもできないけど、出来ることはしていきたいですo(^-^)o
日記とか、ふざけてますが、ちらちらみてください(笑)
りょうさんのこのサイトをみつけて、よかったです!
あたしも毎日みさせてくださーいo(^-^)o
日記とかみて、ますます 変なやなーって思わないでねっ(笑)
ながながと失礼しました!
あたしのパンチ好きなのは、りょうさんしか 知らないので、な…い…しょ(笑)
あと、琴は、母が師範で、ボランティアとかで、施設をまわったり、集会場とか、コンサートとかやってて、なかなか耳にできないかたなどに、少しでも、音楽を通して、癒されたり、元気になってほしいと、活動しています!
なにもできないけど、出来ることはしていきたいですo(^-^)o
日記とか、ふざけてますが、ちらちらみてください(笑)
りょうさんのこのサイトをみつけて、よかったです!
あたしも毎日みさせてくださーいo(^-^)o
日記とかみて、ますます 変なやなーって思わないでねっ(笑)
ながながと失礼しました!
2008/03/27(木) 01:42 | URL | あゆみ #-[ 編集]
ryonazなだけに「りょう」などと、捻りも何も無くてすみません。
分かっていただけて良かったです。もちろんパンチ好きはここだけの話にしますのでご安心を(笑)
それから、すみませんが当サイトでは私のことはryonazと呼んでください。
混乱防止のため、ご協力をよろしくお願いいたします。
あゆみさんの日記が「変」だとしたら、私の小説はどんな位置付けになるのやら(苦笑)
大丈夫です。どうぞご心配なく。またお邪魔させていただきますね。
それにしても、お母様が琴の師範とはすごいですね。その志も素晴らしいと思います。
いつも当サイトをお褒めいただき、有難うございます。またぜひご来訪ください。
分かっていただけて良かったです。もちろんパンチ好きはここだけの話にしますのでご安心を(笑)
それから、すみませんが当サイトでは私のことはryonazと呼んでください。
混乱防止のため、ご協力をよろしくお願いいたします。
あゆみさんの日記が「変」だとしたら、私の小説はどんな位置付けになるのやら(苦笑)
大丈夫です。どうぞご心配なく。またお邪魔させていただきますね。
それにしても、お母様が琴の師範とはすごいですね。その志も素晴らしいと思います。
いつも当サイトをお褒めいただき、有難うございます。またぜひご来訪ください。
2008/03/27(木) 20:20 | URL | ryonaz #mLlZp4Zg[ 編集]
ryonazさん、了解しましたo(^-^)o
今日も一日お疲れ様でしたー!
毎日 楽しみにしています!
今日も 琴の練習をいまからしますが、続きは、お布団のなかにくるまりながら、にやにやしながらみさせていただきます(笑)★
2008/03/27(木) 21:19 | URL | あゆみ #-[ 編集]
あゆみさん、こんばんは。ryonazへのご協力、感謝します。有難うございます。
いつも同じことを言うようで恐縮ですが、毎日のご来訪に加えてたくさんのコメントを頂けることは、私にとって大変光栄なことです。とても嬉しく思っています。
ただ、くれぐれもご無理はなさらないようにしてくださいね。
気が向いた時に書いていただけるだけでも、十分幸せなことですので。
琴の練習、大変お疲れ様です。本日も、どうぞお付き合いくださいませ。
いつも同じことを言うようで恐縮ですが、毎日のご来訪に加えてたくさんのコメントを頂けることは、私にとって大変光栄なことです。とても嬉しく思っています。
ただ、くれぐれもご無理はなさらないようにしてくださいね。
気が向いた時に書いていただけるだけでも、十分幸せなことですので。
琴の練習、大変お疲れ様です。本日も、どうぞお付き合いくださいませ。
2008/03/28(金) 00:03 | URL | ryonaz #mLlZp4Zg[ 編集]

