{
2008/03/24(月) }
身体中を襲う痛みは徐々に引いてきていた。しかし、あの茶髪女の強さを知り、洋介さんがオレたちに背を向けたこの状況で、自分がどう動けばいいのかなど全く分からなかった。オレは横たわったまま、ただ、事の成り行きをじっと眺めていた。
正直、オレは混乱していた。
圧倒的な強さをもつと思っていた稔さんの敗北。尊敬していた洋介さんの腰の抜けた態度。そして目の前の女子高生の見せた想像を絶する力。
自分が恐怖心を抱いているなんて、決して認めたくない。しかし、それならなぜオレはこうやって気絶したふりを続けているのか。
茶髪女はボブカット女の無事を確認すると、逃げようとする洋介さんに背後から近付き、しなやかなその片腕を洋介さんの首にするりと絡めた。
「ひ……ひいぃ……」
洋介さんが情けない声を上げる。
女が洋介さんの耳元にそっと唇を近付けるのが見えた。
オレと女との間にはいくらか距離があった。しかしこの静まり返った公園の中では、女の囁きはまるでオレの耳元で発せられているのかと錯覚するほどはっきりと聞こえた。
「……生きて帰る気?」
鋭利な響きをもつ言葉に、オレは身震いした。突き放すような口調。当然、直接その言葉を聞いた洋介さんの表情はさぞかし青褪めていたに違いない。
洋介さんの声は震え、あからさまに上擦っていた。
「ひえ……ご、ごめ……。やめ、やめて……許して……」
……出来ることなら、洋介さんのこんな姿は見たくなかった。
オレの知ってる洋介さんは、いつだって、どんなにヤバい状況だって、決して怯まず、力まず、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた人間。そんな洋介さんだからこそ、オレは尊敬し、服従してきた。いつか洋介さんのようになりたい。それだけを願ってここまでついてきた。それなのに……
オレの中の感情がどんどんと高ぶっていくのが分かる。
茶髪女は洋介さんの首に腕を絡みつけたまま、さらに言葉を続ける。
「私がいい子に調教してあげようか。それとも……ここで死にたい?」
挑発の言葉を聞き、洋介さんはさらに取り乱す。
高ぶったオレの感情は、やがて怒りとも悲しみとも言い切れない得体の知れない形となって、胸の奥を覆い尽くした。気付けばオレは地面に突っ伏したまま、顔だけを上げて思わず叫んでいた。
「どうしてだよ! どうして?……なあ、洋介さん!」
その場にいる全ての人間の視線が、一気にオレに集中するのを感じる。
――どうして? どうして? 稔さんがヤられてビビったからか? 女子高生に負けるのが怖いからか? 情けないからか? 相手が……自分より強い相手だったからか? だから……
「……だから……逃げるのかよ!」
必死で声を振り絞っていた。
いつの間にかオレの目には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。
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正直、オレは混乱していた。
圧倒的な強さをもつと思っていた稔さんの敗北。尊敬していた洋介さんの腰の抜けた態度。そして目の前の女子高生の見せた想像を絶する力。
自分が恐怖心を抱いているなんて、決して認めたくない。しかし、それならなぜオレはこうやって気絶したふりを続けているのか。
茶髪女はボブカット女の無事を確認すると、逃げようとする洋介さんに背後から近付き、しなやかなその片腕を洋介さんの首にするりと絡めた。
「ひ……ひいぃ……」
洋介さんが情けない声を上げる。
女が洋介さんの耳元にそっと唇を近付けるのが見えた。
オレと女との間にはいくらか距離があった。しかしこの静まり返った公園の中では、女の囁きはまるでオレの耳元で発せられているのかと錯覚するほどはっきりと聞こえた。
「……生きて帰る気?」
鋭利な響きをもつ言葉に、オレは身震いした。突き放すような口調。当然、直接その言葉を聞いた洋介さんの表情はさぞかし青褪めていたに違いない。
洋介さんの声は震え、あからさまに上擦っていた。
「ひえ……ご、ごめ……。やめ、やめて……許して……」
……出来ることなら、洋介さんのこんな姿は見たくなかった。
オレの知ってる洋介さんは、いつだって、どんなにヤバい状況だって、決して怯まず、力まず、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた人間。そんな洋介さんだからこそ、オレは尊敬し、服従してきた。いつか洋介さんのようになりたい。それだけを願ってここまでついてきた。それなのに……
オレの中の感情がどんどんと高ぶっていくのが分かる。
茶髪女は洋介さんの首に腕を絡みつけたまま、さらに言葉を続ける。
「私がいい子に調教してあげようか。それとも……ここで死にたい?」
挑発の言葉を聞き、洋介さんはさらに取り乱す。
高ぶったオレの感情は、やがて怒りとも悲しみとも言い切れない得体の知れない形となって、胸の奥を覆い尽くした。気付けばオレは地面に突っ伏したまま、顔だけを上げて思わず叫んでいた。
「どうしてだよ! どうして?……なあ、洋介さん!」
その場にいる全ての人間の視線が、一気にオレに集中するのを感じる。
――どうして? どうして? 稔さんがヤられてビビったからか? 女子高生に負けるのが怖いからか? 情けないからか? 相手が……自分より強い相手だったからか? だから……
「……だから……逃げるのかよ!」
必死で声を振り絞っていた。
いつの間にかオレの目には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。
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