{
2008/03/23(日) }
信じられない光景に目を疑ったのは、どうやらオレだけではなかったらしい。洋介さんの顔からはさっきまでの余裕のある表情が消え、口をポッカリと開けたまま呆然としていた。オレもきっと他人から見たら同じような顔をしているに違いない。それほどまでに予想外の、突然の出来事だった。
「弱っ。」
茶髪女の短いその一言がやけに鋭く響いた。女の瞳はとても冷たい光を湛えていた。
稔さんの顔は、既に赤く腫れ上がっていた。鼻血を垂らしながら四つん這いになっている稔さんに向かって、茶髪女がゆっくりと近付いていく。
受けた衝撃で、稔さんは足が利かなくなっている様子だった。四つん這いの体勢のままで、身体中を震わせていた。もしかしたらそれは、茶髪女の強さに対する恐怖心からなのかもしれないが……
間もなく女は、稔さんの側まで近付いた。
彼の横に立った女は足を後ろに引き、彼の腹を思いきり蹴り上げた。
「ぐはあぁぁっ!」
稔さんの苦悶の声が響く。すかさず女は、勢いで仰向けになった稔さんの腹の上にドスンと腰を下ろした。再び稔さんが悶絶する。女は嘲笑うような表情で稔さんの目を見つめると、髪を掴んで顔を持ち上げた。
「……死ね。」
茶髪女の囁きが耳に入った。次の瞬間、女は稔さんの顔面めがけて勢いよく拳を振り下ろした。
……鈍い音が聞こえた。
女がゆっくりと立ち上がった時には、既に稔さんはピクリとも動かなかった。
オレは、今目の前で起こったことがまだ信じられなかった。
いつでも強くて、カッコよくて、オレたちのリーダーだった稔さん。向かうところ敵なし。ヤクザですら避けて通るという噂すら聞いたことがあった。そんなオレの理想のオトコを、この茶髪女は見事に打ち砕いてしまった。こんなに細くて華奢な、女子高生が……
ふと洋介さんの方を見る。彼は震えていた。そのことが、皮肉にも今起こったことが全て現実であるということをオレにあらためて確信させる。
――洋介さん……
彼もオレにとっては手の届かない存在だ。その懐は広くてたくましくて。オレなんかとは比べ物にならないほどデカくて、イカしてて。その背中にすら手が届かない。
――オレの理想とするオトコが、まだここに残っているんだ。洋介さんなら、きっと……
しかし、そんなオレの彼に対する信頼や敬愛は、いつしか跡形もなく切り刻まれた。
洋介さんはボブカット女をあっさりと手放すと、軽い口調で言葉を連ねた。
「あ、いや、こりゃ参ったな。ハハ。んじゃ、俺はこの辺で。」
言いながら洋介さんは、ゆっくりと後ずさり、逃げるようにその場を離れようとする。
……ショックだった。
オレを支えていた価値観の全てが逆転するような絶望感を覚える。
茶髪女はその隙にボブカット女へと走り寄り、彼女を気遣いながらその場に座らせているようだった。失望の中、ふと茶髪女へ目を向ける。その時、オレは背筋が凍るような感覚に襲われた。
茶髪女の視線に、殺意のようなものが窺えたから……。
Back | Novel index | Next
「弱っ。」
茶髪女の短いその一言がやけに鋭く響いた。女の瞳はとても冷たい光を湛えていた。
稔さんの顔は、既に赤く腫れ上がっていた。鼻血を垂らしながら四つん這いになっている稔さんに向かって、茶髪女がゆっくりと近付いていく。
受けた衝撃で、稔さんは足が利かなくなっている様子だった。四つん這いの体勢のままで、身体中を震わせていた。もしかしたらそれは、茶髪女の強さに対する恐怖心からなのかもしれないが……
間もなく女は、稔さんの側まで近付いた。
彼の横に立った女は足を後ろに引き、彼の腹を思いきり蹴り上げた。
「ぐはあぁぁっ!」
稔さんの苦悶の声が響く。すかさず女は、勢いで仰向けになった稔さんの腹の上にドスンと腰を下ろした。再び稔さんが悶絶する。女は嘲笑うような表情で稔さんの目を見つめると、髪を掴んで顔を持ち上げた。
「……死ね。」
茶髪女の囁きが耳に入った。次の瞬間、女は稔さんの顔面めがけて勢いよく拳を振り下ろした。
……鈍い音が聞こえた。
女がゆっくりと立ち上がった時には、既に稔さんはピクリとも動かなかった。
オレは、今目の前で起こったことがまだ信じられなかった。
いつでも強くて、カッコよくて、オレたちのリーダーだった稔さん。向かうところ敵なし。ヤクザですら避けて通るという噂すら聞いたことがあった。そんなオレの理想のオトコを、この茶髪女は見事に打ち砕いてしまった。こんなに細くて華奢な、女子高生が……
ふと洋介さんの方を見る。彼は震えていた。そのことが、皮肉にも今起こったことが全て現実であるということをオレにあらためて確信させる。
――洋介さん……
彼もオレにとっては手の届かない存在だ。その懐は広くてたくましくて。オレなんかとは比べ物にならないほどデカくて、イカしてて。その背中にすら手が届かない。
――オレの理想とするオトコが、まだここに残っているんだ。洋介さんなら、きっと……
しかし、そんなオレの彼に対する信頼や敬愛は、いつしか跡形もなく切り刻まれた。
洋介さんはボブカット女をあっさりと手放すと、軽い口調で言葉を連ねた。
「あ、いや、こりゃ参ったな。ハハ。んじゃ、俺はこの辺で。」
言いながら洋介さんは、ゆっくりと後ずさり、逃げるようにその場を離れようとする。
……ショックだった。
オレを支えていた価値観の全てが逆転するような絶望感を覚える。
茶髪女はその隙にボブカット女へと走り寄り、彼女を気遣いながらその場に座らせているようだった。失望の中、ふと茶髪女へ目を向ける。その時、オレは背筋が凍るような感覚に襲われた。
茶髪女の視線に、殺意のようなものが窺えたから……。
Back | Novel index | Next

