{
2007/10/21(日) }
男が凛の顔に向かって、よろよろと手を伸ばす。反撃かと思い凛は警戒したが、彼の手は凛に害を為すつもりはないようだった。指先を凛の耳の側にまで伸ばす。
虫の息で、男は言葉を絞り出した。
「……覚えてるか? 去年のクリスマスに買ったプレゼントを……」
凛の瞳が、一瞬大きく揺れた。
彼女の耳に付いたプラチナのピアスがキラリと光る。
「大切にしてくれてるんだな……。ありがとう。」
男は本当に嬉しそうに微笑んだ。身体の痛みや苦しみを忘れたかのように清々しい笑顔だった。それは、凛が一番よく知っている彼の、古嶋隼人の顔だった。
凛は攻撃の手を緩めた。そして、静かに男に語りかけた。
「私は……」
声が震える。
「……私は、あなたの恋人である瀬川凛です。ただ、同時に私は警察官でもあります。」
凛は彼に対し、真っ直ぐな視線を向けていた。淡々と彼女は言葉を続けた。
「容疑者に自白をさせるのが、私の仕事です。それが……私の正義です。」
男は項垂れた。しばらくの間、沈黙が二人を支配した。
どのくらいの時が経ったのだろう。
男がポツリと呟いた。
「殺すしか……なかったんだ……。」
「あいつは……ずっと凛をストーカーしてたんだから……。」
「…………」
「俺もずっと嫌がらせを受けてた。本当にしつこくて、陰湿な……。」
「…………」
「あんなやつ……死んで当然なんだ……。」
男がとうとうと言葉を吐き続ける間、凛は口を挟まなかった。
ただ、哀れみにも似た目で彼を見つめていた。
ずっと冷静な顔だった凛の瞳に、涙が溜まっていく。
男の頬にそっと手を沿え、彼の口を自らの唇で塞いだ。
突然の出来事に男は言葉を失う。途惑いつつ、彼は目を閉じた。おそらく最後のキスだろう。口付けを交わす二人の姿は、愛し合う恋人同士そのものであった。
唇を離した時、そこには柔らかい笑顔の凛の姿があった。
凛はしばし彼を優しく見つめた後、表情を引き締めた。
「それでも……殺人は、罪です。」
男は顔を歪め、やがて泣き崩れた。
Back | Novel index | Next
虫の息で、男は言葉を絞り出した。
「……覚えてるか? 去年のクリスマスに買ったプレゼントを……」
凛の瞳が、一瞬大きく揺れた。
彼女の耳に付いたプラチナのピアスがキラリと光る。
「大切にしてくれてるんだな……。ありがとう。」
男は本当に嬉しそうに微笑んだ。身体の痛みや苦しみを忘れたかのように清々しい笑顔だった。それは、凛が一番よく知っている彼の、古嶋隼人の顔だった。
凛は攻撃の手を緩めた。そして、静かに男に語りかけた。
「私は……」
声が震える。
「……私は、あなたの恋人である瀬川凛です。ただ、同時に私は警察官でもあります。」
凛は彼に対し、真っ直ぐな視線を向けていた。淡々と彼女は言葉を続けた。
「容疑者に自白をさせるのが、私の仕事です。それが……私の正義です。」
男は項垂れた。しばらくの間、沈黙が二人を支配した。
どのくらいの時が経ったのだろう。
男がポツリと呟いた。
「殺すしか……なかったんだ……。」
「あいつは……ずっと凛をストーカーしてたんだから……。」
「…………」
「俺もずっと嫌がらせを受けてた。本当にしつこくて、陰湿な……。」
「…………」
「あんなやつ……死んで当然なんだ……。」
男がとうとうと言葉を吐き続ける間、凛は口を挟まなかった。
ただ、哀れみにも似た目で彼を見つめていた。
ずっと冷静な顔だった凛の瞳に、涙が溜まっていく。
男の頬にそっと手を沿え、彼の口を自らの唇で塞いだ。
突然の出来事に男は言葉を失う。途惑いつつ、彼は目を閉じた。おそらく最後のキスだろう。口付けを交わす二人の姿は、愛し合う恋人同士そのものであった。
唇を離した時、そこには柔らかい笑顔の凛の姿があった。
凛はしばし彼を優しく見つめた後、表情を引き締めた。
「それでも……殺人は、罪です。」
男は顔を歪め、やがて泣き崩れた。
Back | Novel index | Next

