{
2007/08/03(金) }
夜の闇が辺りを漆黒に染め上げていった。
僕は股間を真っ赤に腫らしながら、ふらふらと駅へと向かっていた。
――今日だけでどれほど股間を蹴られたことだろう。どうしてこんな目に遭うのだろう…
考えれば考えるほど分からなくなっていった。
途中で躓き、手帳が胸ポケットから落ちる。開いたページには名前と住所が所狭しと並んでいた。
もちろんその名前と住所は一ページ分だけに留まるものではなかったのだが。
しかしそれでも、結局僕の股間を蹴るよう依頼した人物が一体誰なのか、未だに知ることはできなかった。
脱力し、家に帰る気力すらも失いそうになる自分に鞭打って改札口を潜る。
――明日は仕事に行こう。今日あったことは全て幻で、明日になれば全てが元通りになる。そうだよ。今日は何かが狂っていた日なんだ。明日になれば、きっと…
そんな風に自分に無理矢理言い聞かせながら、僕は途方もない手帳の名前と住所の数々に目を落としていた。
やがて電車がホームに入り、朝と同じように人混みが車内から流れ出てくる。
疲れきった僕は全員の降車を確認すると、滑るように中へ入った。
終電の時間が近くなっているせいか、車内は混雑していた。
車内の光景がいつもと違うことに気付いたのは、電車が走り出してすぐのことだった。
うかつにも僕は女性専用車両に間違えて乗ってしまっていたのだ。無論、他の乗客は全て女性だった。
今更になって慌ててみてももう遅い。
僕は自分の単純なミスを情けなく思いながら、次の駅で一旦降りようと考えていた。
女性たちの中に紛れている恥ずかしさから、僕は頭を上げることができなかった。
その時、ふと異様な視線を感じた。
――やっぱり僕が男だから警戒されているのだろうか…。不審者だと思われているのだろうか…。
恐る恐る顔を上げる。しかしそこにあったのは蔑みでも警戒でもない眼差しだった。例えるなら、腹を空かしたライオンが…檻の中に投げ込まれた一匹の餌を…見るような?…そんな?…
うかつだった。これほど自分の軽率な行動を後悔し、恨んだことはなかった。
少し考えれば分かることだったはずなのに。
警戒が必要だったのは…むしろ僕の方…
女性たちの視線の全てが僕に向けられていた。…いや…正確には、僕の…股間に…
――はは…きっと世の中全ての女性が…僕を…はは…ははははは…
次の駅に無事辿り着けるのかどうか、僕には分からなかった。
END
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僕は股間を真っ赤に腫らしながら、ふらふらと駅へと向かっていた。
――今日だけでどれほど股間を蹴られたことだろう。どうしてこんな目に遭うのだろう…
考えれば考えるほど分からなくなっていった。
途中で躓き、手帳が胸ポケットから落ちる。開いたページには名前と住所が所狭しと並んでいた。
もちろんその名前と住所は一ページ分だけに留まるものではなかったのだが。
しかしそれでも、結局僕の股間を蹴るよう依頼した人物が一体誰なのか、未だに知ることはできなかった。
脱力し、家に帰る気力すらも失いそうになる自分に鞭打って改札口を潜る。
――明日は仕事に行こう。今日あったことは全て幻で、明日になれば全てが元通りになる。そうだよ。今日は何かが狂っていた日なんだ。明日になれば、きっと…
そんな風に自分に無理矢理言い聞かせながら、僕は途方もない手帳の名前と住所の数々に目を落としていた。
やがて電車がホームに入り、朝と同じように人混みが車内から流れ出てくる。
疲れきった僕は全員の降車を確認すると、滑るように中へ入った。
終電の時間が近くなっているせいか、車内は混雑していた。
車内の光景がいつもと違うことに気付いたのは、電車が走り出してすぐのことだった。
うかつにも僕は女性専用車両に間違えて乗ってしまっていたのだ。無論、他の乗客は全て女性だった。
今更になって慌ててみてももう遅い。
僕は自分の単純なミスを情けなく思いながら、次の駅で一旦降りようと考えていた。
女性たちの中に紛れている恥ずかしさから、僕は頭を上げることができなかった。
その時、ふと異様な視線を感じた。
――やっぱり僕が男だから警戒されているのだろうか…。不審者だと思われているのだろうか…。
恐る恐る顔を上げる。しかしそこにあったのは蔑みでも警戒でもない眼差しだった。例えるなら、腹を空かしたライオンが…檻の中に投げ込まれた一匹の餌を…見るような?…そんな?…
うかつだった。これほど自分の軽率な行動を後悔し、恨んだことはなかった。
少し考えれば分かることだったはずなのに。
警戒が必要だったのは…むしろ僕の方…
女性たちの視線の全てが僕に向けられていた。…いや…正確には、僕の…股間に…
――はは…きっと世の中全ての女性が…僕を…はは…ははははは…
次の駅に無事辿り着けるのかどうか、僕には分からなかった。
END
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