{
2007/07/29(日) }
駅のホームは混雑していた。
夏も本番となり、その熱気は思考能力を悉く奪っていく。
ワイシャツが汗で背中に貼り付き、緩めようと触れたネクタイも既に湿り気を帯びていた。
夏の朝の通勤ラッシュは地獄に等しい。
人混みをかき分けながらやっとの思いで乗車口まで来た時、さわやかな一筋の風が頬を撫でる。
その一瞬で幸せを感じられるほど、今日の暑さは酷かった。
これほどの人数がいる中で、乗車口のすぐ側を陣取ることができたのは、幸運だった。
「電車がまいります」と表示する電光掲示板をぼんやりと眺めながら、電車が来るのをただただ待つ。
やがて、ホームに電車が入ってくるのが見え、僕は何となく呼吸を整えた。
……その時だった。
突然、僕の股間に強烈な衝撃が走った。
どうやら後ろから股を思いきり蹴り上げられたらしい。
内臓に込み上げてくる言いようのない激痛に、僕はたまらず崩れ落ちそうになる。
目の前に入ってきた電車はまだ徐行するに至っていない。
このままでは電車に撥ねられてしまうと、必死で倒れ込みそうになる自分を抑えた。
――な…何てことを…
たちまち憎悪が胸いっぱいに広がる。無理もない。一歩間違えば自分は命を落としかねなかったのだ。
痛みを堪え、必死で辺りを見回す。
やがて電車が停車すると、降車口から人の群れが大量に溢れてきた。
僕は、自分を命の危険に晒した悪人を突き止めようと、動き出した人混みを必死で凝視した。
――!!――
先ほど降車した人の群れの中に混じって、そいつは確かにそこにいた。
冷たい瞳とうっすらと口元に浮かべた笑み。女だった。
顔だけをこちらに向け、僕をじっと見つめたままで、人混みに紛れて遠ざかっていく。
僕はその女が犯人だと直感的に感じ取った。
身体を少し前屈みにしながらも、その女から絶対に目を離さないようにして後を追う。
――何が目的なんだ。何故、僕を…
もはや会社どころではなかった。幸い今日は少し早めに家を出た。あいつを問い詰めてからでも十分間に合うだろう。いざという時は休暇の連絡をすればいい。
――とにかく絶対にあの女を捕まえて問いただしてやらねば。
人混みをかき分けながらどんどんと距離を縮める。
やっとのことで彼女に追いつくことができたのは、改札前にまで来た時だった。
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夏も本番となり、その熱気は思考能力を悉く奪っていく。
ワイシャツが汗で背中に貼り付き、緩めようと触れたネクタイも既に湿り気を帯びていた。
夏の朝の通勤ラッシュは地獄に等しい。
人混みをかき分けながらやっとの思いで乗車口まで来た時、さわやかな一筋の風が頬を撫でる。
その一瞬で幸せを感じられるほど、今日の暑さは酷かった。
これほどの人数がいる中で、乗車口のすぐ側を陣取ることができたのは、幸運だった。
「電車がまいります」と表示する電光掲示板をぼんやりと眺めながら、電車が来るのをただただ待つ。
やがて、ホームに電車が入ってくるのが見え、僕は何となく呼吸を整えた。
……その時だった。
突然、僕の股間に強烈な衝撃が走った。
どうやら後ろから股を思いきり蹴り上げられたらしい。
内臓に込み上げてくる言いようのない激痛に、僕はたまらず崩れ落ちそうになる。
目の前に入ってきた電車はまだ徐行するに至っていない。
このままでは電車に撥ねられてしまうと、必死で倒れ込みそうになる自分を抑えた。
――な…何てことを…
たちまち憎悪が胸いっぱいに広がる。無理もない。一歩間違えば自分は命を落としかねなかったのだ。
痛みを堪え、必死で辺りを見回す。
やがて電車が停車すると、降車口から人の群れが大量に溢れてきた。
僕は、自分を命の危険に晒した悪人を突き止めようと、動き出した人混みを必死で凝視した。
――!!――
先ほど降車した人の群れの中に混じって、そいつは確かにそこにいた。
冷たい瞳とうっすらと口元に浮かべた笑み。女だった。
顔だけをこちらに向け、僕をじっと見つめたままで、人混みに紛れて遠ざかっていく。
僕はその女が犯人だと直感的に感じ取った。
身体を少し前屈みにしながらも、その女から絶対に目を離さないようにして後を追う。
――何が目的なんだ。何故、僕を…
もはや会社どころではなかった。幸い今日は少し早めに家を出た。あいつを問い詰めてからでも十分間に合うだろう。いざという時は休暇の連絡をすればいい。
――とにかく絶対にあの女を捕まえて問いただしてやらねば。
人混みをかき分けながらどんどんと距離を縮める。
やっとのことで彼女に追いつくことができたのは、改札前にまで来た時だった。
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