{
2007/07/21(土) }
僕の頬から涙が一滴落ちる。忘れていた。僕の記憶の中の暗い陰の部分…
今度は本当に全てを思い出した。だからこそ僕は涙を流すことしかできなかった。
彼女たちから受けた仕打ち。僕は彼女たちから逃げ出すとともに、彼女たちの記憶そのものも追い出していたのだ。それなのに…
「忘れちゃったんだよね?」
「じゃあ私たちのこと忘れられないように、しっかり刻み込んであげなくちゃね。」
背筋が凍りついた。鼓動が高鳴り、心拍数がどんどん上がっていくのが自分で感じられるほどであった。あの日の記憶が、今ここに再現されようとしている。
「や…やめてくれ…思い出した。思い出したから…。は…春菜。奈津菜。僕はもうちゃんと思い出したから…頼むから、やめてくれ…」
必死で声を振り絞る。春菜は僕の首を両手でしっかりと掴み、激しく絞めつけた。息ができない。きつい瞳の端がもち上がり、さらに冷たさを帯びている。冷笑を浮かべ、その視線は喰い入るように僕に注がれていた。もうほとんど呼吸もままならなかった。血管が押さえつけられ、血が通わなくなっていく頭が、僕を朦朧とさせる。
同時に奈津菜は、倒れている僕の腹を再び何度も殴りつけた。胃液が込み上げてくる。その度に僕は激しく咳き込み、悶絶した。内部を全て破壊されてしまうほどの鋭いパンチを何度も受け、僕はとうとう口から勢いよく血を吐き出した。僕の顔を伝って血が床に零れ落ちる。
二人に責められ続け、僕は既にほとんど意識を失いかけていた。その姿を見た彼女たちは、笑いながら僕に残酷な言葉を浴びせかける。
「何それ? そんなこと言っても、もう遅いよ。」
「そうだよ。浜木くんは私たちの大切な大切な――」
――人形…。そう、僕は人形なんだ……。あの日のまま……。彼女たちにとって…僕は……
『私たちの部屋、見たんでしょ?』
その言葉が何度も頭の中を駆け巡る。あそこには確かに…彼女たちの「人形」がたくさんあった。
既に僕は意識を失いかけていた。朦朧とする中、二人が僕の身体中を愛撫する。僕のモノを激しく扱く。
快楽は、理性を僕から遠ざけていく。しかし僕には分かっていた。これから起こるであろう結末を。だからこそ、例え叶わなくとも、ここでしっかりと言っておきたかった。殺さないでくれ、と。最後の望みをかけるように……精一杯、そう叫んだ。
「ふふ……面白いね…浜木くん。殺したりなんか…しないよ。大切な人だもん…」
それが僕の言葉の意味を汲み取る答えでないことはすぐに分かった。奈津菜の声は地を這うようにして僕の胸の奥に咬みつく。僕の確信に追い打ちをかけるように春菜が相槌を打つ。
「うん。壊れても…ちゃんと直してあげるから。ずっと遊んであげる……これからもずっと……」
最後の望みはかくも儚く一蹴された。全てを絶たれた僕にはもう、何も残されてはいなかった。
二人はゆっくりとドレッサーに手を伸ばすと、そこから想像通りの物を取り出した。ナイフだった。僕の手と足にナイフが突きつけられる……
二つの手はそれぞれに僕へと愛を語る。手足は徐々に温かくなっていく。最期の瞬間を感じながら、僕はやがて目を閉じた。
………そして僕は、人形になった。
END
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今度は本当に全てを思い出した。だからこそ僕は涙を流すことしかできなかった。
彼女たちから受けた仕打ち。僕は彼女たちから逃げ出すとともに、彼女たちの記憶そのものも追い出していたのだ。それなのに…
「忘れちゃったんだよね?」
「じゃあ私たちのこと忘れられないように、しっかり刻み込んであげなくちゃね。」
背筋が凍りついた。鼓動が高鳴り、心拍数がどんどん上がっていくのが自分で感じられるほどであった。あの日の記憶が、今ここに再現されようとしている。
「や…やめてくれ…思い出した。思い出したから…。は…春菜。奈津菜。僕はもうちゃんと思い出したから…頼むから、やめてくれ…」
必死で声を振り絞る。春菜は僕の首を両手でしっかりと掴み、激しく絞めつけた。息ができない。きつい瞳の端がもち上がり、さらに冷たさを帯びている。冷笑を浮かべ、その視線は喰い入るように僕に注がれていた。もうほとんど呼吸もままならなかった。血管が押さえつけられ、血が通わなくなっていく頭が、僕を朦朧とさせる。
同時に奈津菜は、倒れている僕の腹を再び何度も殴りつけた。胃液が込み上げてくる。その度に僕は激しく咳き込み、悶絶した。内部を全て破壊されてしまうほどの鋭いパンチを何度も受け、僕はとうとう口から勢いよく血を吐き出した。僕の顔を伝って血が床に零れ落ちる。
二人に責められ続け、僕は既にほとんど意識を失いかけていた。その姿を見た彼女たちは、笑いながら僕に残酷な言葉を浴びせかける。
「何それ? そんなこと言っても、もう遅いよ。」
「そうだよ。浜木くんは私たちの大切な大切な――」
――人形…。そう、僕は人形なんだ……。あの日のまま……。彼女たちにとって…僕は……
『私たちの部屋、見たんでしょ?』
その言葉が何度も頭の中を駆け巡る。あそこには確かに…彼女たちの「人形」がたくさんあった。
既に僕は意識を失いかけていた。朦朧とする中、二人が僕の身体中を愛撫する。僕のモノを激しく扱く。
快楽は、理性を僕から遠ざけていく。しかし僕には分かっていた。これから起こるであろう結末を。だからこそ、例え叶わなくとも、ここでしっかりと言っておきたかった。殺さないでくれ、と。最後の望みをかけるように……精一杯、そう叫んだ。
「ふふ……面白いね…浜木くん。殺したりなんか…しないよ。大切な人だもん…」
それが僕の言葉の意味を汲み取る答えでないことはすぐに分かった。奈津菜の声は地を這うようにして僕の胸の奥に咬みつく。僕の確信に追い打ちをかけるように春菜が相槌を打つ。
「うん。壊れても…ちゃんと直してあげるから。ずっと遊んであげる……これからもずっと……」
最後の望みはかくも儚く一蹴された。全てを絶たれた僕にはもう、何も残されてはいなかった。
二人はゆっくりとドレッサーに手を伸ばすと、そこから想像通りの物を取り出した。ナイフだった。僕の手と足にナイフが突きつけられる……
二つの手はそれぞれに僕へと愛を語る。手足は徐々に温かくなっていく。最期の瞬間を感じながら、僕はやがて目を閉じた。
………そして僕は、人形になった。
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