{
2007/05/23(水) }
自分はMである。
それだけであれば、日常生活には全くと言っていいほど支障はない。
それは時として、ささいな出来事から一瞬にして発現する。
日曜日の昼下がり。昼食の買い出しにコンビニにふらりと入る。
昼時とあって店内には人が多かった。
スーツ姿の社会人から学生まで、荒い人波が店内に溢れている。
特に社会人にとっての昼食は、まさに時間との戦いそのものなのだろう。
その点、僕は暇な自由人。いわゆるニートだ。時間は無限にある。
のらりくらりと人の波の間を潜り抜けながら、ゆっくりと目的のものを探す。
僕はパンを三つと牛乳一本、デザートにとプリンを手にし、長蛇の列が出来上がったレジ前に並んだ。
「お待ちのお客様、こちらへどうぞ。」
店員が別のレジ口を開いて声をかける。そちらにもまた人が流れていく。
僕の後ろに並んでいるOL風の女性は、今か今かと自分の番が来るのを待っている様子だ。
大変なんだなぁ…社会人は…
呑気なことを考えながら、僕は僕でぼうっと順番待ちをしている。
前にいる女子高生数人は、騒がしい声で喋っている。
「うっそー。マジヤバイってそれ!」
髪をポニーテールにした長身の子がそう言ったのに対し、
「ウザイね。」
と一言、ボブカットの子が相づちを打つ。彼女は朗らかな笑顔を浮かべていた。
胸が高鳴る。
『ちょっとおっさん、目障りだからどっか行ってくんない?そしたら殺さないであげるからさぁ。』
…
妄想に耽る。そんな言葉がかけられたら僕は一瞬で昇天してしまうだろうに…
しかし時間というものは思った通り、いやそれ以上に普通に刻々と過ぎていくものなのだ。
何事もなく…ただ一歩、また一歩とレジへ近付いていくだけ。
後ろのOLは、相変わらず時計を見ながらそわそわしている。
とうとう僕の前の女子高生たちの順番が回ってきた。
『ちょっと、とろとろとレジ打ってんじゃねーよ。早くしないと明日から仕事に来られなくしてやるよ。』
…気付くと僕は妄想している。これは一種の病気じゃないだろうか…
僕は黙ったまま自嘲する。
「二百九十円になります。」
女子高生は財布から小銭を取り出し、お釣りをもらうとレシートを受け取るのを断る。
小さなレジ袋を受け取ると、すぐにでも出口へとさっと後ろをふり返る。
……!!!……
…思わぬ幸福に僕は昇天しそうになった。
ふり返りざまに、ボブカットの子の肘が、見事に僕の腹に深くめり込んでいたのだ。
息が詰まった。苦しみはその後を追うように僕に襲いかかってくる。
「ぐうぅ…」
僕は込み上げてくる吐き気と必死で闘った。
…この瞬間が僕にとっての永遠…この瞬間を切り取っていつまでも残しておきたい…
「あ、ごめんなさい。」
と、本人が謝罪する。他の女子高生たちはそそくさと出口の方へ向かっていく。
『てめぇ、何ぶつかってきてんだよ。ちょっと来いよ。』
彼女からそう言われたのは、やっぱり僕の頭の中でだけ…
僕の妄想の中でだけ…
END
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それだけであれば、日常生活には全くと言っていいほど支障はない。
それは時として、ささいな出来事から一瞬にして発現する。
日曜日の昼下がり。昼食の買い出しにコンビニにふらりと入る。
昼時とあって店内には人が多かった。
スーツ姿の社会人から学生まで、荒い人波が店内に溢れている。
特に社会人にとっての昼食は、まさに時間との戦いそのものなのだろう。
その点、僕は暇な自由人。いわゆるニートだ。時間は無限にある。
のらりくらりと人の波の間を潜り抜けながら、ゆっくりと目的のものを探す。
僕はパンを三つと牛乳一本、デザートにとプリンを手にし、長蛇の列が出来上がったレジ前に並んだ。
「お待ちのお客様、こちらへどうぞ。」
店員が別のレジ口を開いて声をかける。そちらにもまた人が流れていく。
僕の後ろに並んでいるOL風の女性は、今か今かと自分の番が来るのを待っている様子だ。
大変なんだなぁ…社会人は…
呑気なことを考えながら、僕は僕でぼうっと順番待ちをしている。
前にいる女子高生数人は、騒がしい声で喋っている。
「うっそー。マジヤバイってそれ!」
髪をポニーテールにした長身の子がそう言ったのに対し、
「ウザイね。」
と一言、ボブカットの子が相づちを打つ。彼女は朗らかな笑顔を浮かべていた。
胸が高鳴る。
『ちょっとおっさん、目障りだからどっか行ってくんない?そしたら殺さないであげるからさぁ。』
…
妄想に耽る。そんな言葉がかけられたら僕は一瞬で昇天してしまうだろうに…
しかし時間というものは思った通り、いやそれ以上に普通に刻々と過ぎていくものなのだ。
何事もなく…ただ一歩、また一歩とレジへ近付いていくだけ。
後ろのOLは、相変わらず時計を見ながらそわそわしている。
とうとう僕の前の女子高生たちの順番が回ってきた。
『ちょっと、とろとろとレジ打ってんじゃねーよ。早くしないと明日から仕事に来られなくしてやるよ。』
…気付くと僕は妄想している。これは一種の病気じゃないだろうか…
僕は黙ったまま自嘲する。
「二百九十円になります。」
女子高生は財布から小銭を取り出し、お釣りをもらうとレシートを受け取るのを断る。
小さなレジ袋を受け取ると、すぐにでも出口へとさっと後ろをふり返る。
……!!!……
…思わぬ幸福に僕は昇天しそうになった。
ふり返りざまに、ボブカットの子の肘が、見事に僕の腹に深くめり込んでいたのだ。
息が詰まった。苦しみはその後を追うように僕に襲いかかってくる。
「ぐうぅ…」
僕は込み上げてくる吐き気と必死で闘った。
…この瞬間が僕にとっての永遠…この瞬間を切り取っていつまでも残しておきたい…
「あ、ごめんなさい。」
と、本人が謝罪する。他の女子高生たちはそそくさと出口の方へ向かっていく。
『てめぇ、何ぶつかってきてんだよ。ちょっと来いよ。』
彼女からそう言われたのは、やっぱり僕の頭の中でだけ…
僕の妄想の中でだけ…
END
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