[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
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 灰色。
 どこまでも広がる曇天を見つめながら、俺はただじっとしていた。
 自分がそれまで無心の状態にあったことに気付いたのは、病室のドアの開く音が聞こえたからだった。もう何度耳にしたかわからない、つまらない音。だが、
「お目覚めですか?」
 その後には決まって、飽くことのない妙なる響きが全身を愛撫してくれる。それを知っているからこそ、この、全てが嘘で造られたような真っ白い空間の中にあっても、俺は穏やかな気持ちを忘れずにいることができるのかもしれない。
「はい」
 と、視線だけを声のほうへと向ける。主治医――白鳥佳代は、今日もとても美しかった。
 俺の返事を聞くなり、彼女は俺が横になっているベッドのほうへと歩を進めた。
 羽織った純白のドクターコートが靡き、足を覆う淡いベーシュのティーストラップシューズがコツコツと床を鳴らす。腰まで伸びた黒いストレートロングの髪が、さらさらと揺れる。サイドに流した前髪の奥で、切れ長の目が俺の心を射抜く。いつものように、彼女の瞳は、酷薄な光と底の見えない闇を同時に灯していた。
「いい天気ですよ」
 そう言ってカーテンを開ける。
 極めて事務的な口調と内容だ。その声色は、怜悧というよりは無感情といったところだろうか。もちろん内心は、悲痛に震えているのだろうけれど。
 初対面のときの明るくて健康的で快活な印象は、すでに欠片も残っていない。顔も声も、相変わらず蠱惑的ではある。だが、そこにはもう、俺の知っている白鳥先生はいない。彼女の表情は日を追うごとに、ゆっくりと、しかし確実に変わっていった。深い深い海床を目指して、延々と沈んでいくように。
 無理もない。
 毎日、俺という大変な患者を相手にしてきたのだ。彼女が今、再び明るく応対するようになっていたとしたら――それこそ、彼女の精神状態を疑うべきだろうと思う。口の端をくっと持ち上げ、彼女が窓の向こうを指差す。
「ほら、あそ――」
「ずいぶんと、お疲れのようですね」
 俺は、そんな白鳥先生の言葉を遮り、
「無理しないでください」
 そう続けた。
 彼女はそのとき、少しだけ――、ほんの少しだけ口元を震わせたように見えた。が、俺がそう認識しそうになったときには、
「患者さんに心配されてちゃ、世話ないですね」
 すでに、表情も口調も、普段の白鳥先生に戻っていた。
 いい人を気取るつもりはない。ただ、同情が欲しくなかっただけだ。頑張り続ける不器用な彼女の見せるそれが、彼女自身を傷つけていくようだったから……

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