[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
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 どれだけの時間が経っただろうか。
 動けなくなった彼のまわりに、少しずつ、別の猫たちが戻ってきた。
 ある者は、彼に引っ掻かれた傷跡を見せつけ、同じ場所を抉った。
 ある者は、彼の無様な様子を見ながら嘲り、罵った。
 ある者は、彼の動けない様子を真似て、地に寝転んでみせた。
 ある者は、彼を便器のように扱い、糞尿をまき散らした。
 ――笑いの渦。敵意の渦。蔑みの渦。
 そこから逃げたくて……、
 でも逃げられなくて……、
 たかだか猫相手に逃げるなどという行為が恥ずかしくて……、
 猫ごときから逃げるものか、と自分を奮い立たせて……、
 そうして……、
 彼は渾身の爪を振るった。
 ひどく鈍い。無論、周りを取り囲む猫たちになど、到底届かない。
「くそっ――、もう少し時間があれば、もっと強い虎になれたのに!」
 猫は、このタイミングを呪った。空を切っていた爪は、疲労からパタリと地面に落ちた。猫たちは、ここぞとばかりに爪を振るう。そのとき、庇うように、
『あなたは、猫だよ』
 一匹の猫が、
『弱い虎でも、強い虎でもない』
 彼に覆いかぶさった。
『――猫で、いいんだよ』
 彼にとって、一番聞きたくなかった言葉だった。けれど、彼の目からはなぜか、涙が溢れた。肉で隠したものをすべて見透かされているようで、潰せていない弱さを見抜かれたようで、彼は顔を伏せた。同時に、彼はその猫に惹かれていった。
 縋りつく彼を強く抱きとめた猫は、彼を思う存分、その腕の中で泣かせた。大声で泣く彼を哀れに思ったのか、さっきまで復讐心や嘲笑心をむき出しにしていた猫たちが、呆れ顔とともに、一匹、二匹とその場を離れていった。
 やがて、二匹だけになった。
 彼が泣きやんだとき、猫は抱擁していた手を放した。それでも縋りつこうとする彼の手を、猫は勢いよく振り払った。
「き……、君がいなかったら、僕はもう……立つこともできない。歩くことも、餌をとることも……」
 彼は泣き喚き、側にいてほしいと願った。だが猫は、ただひと言、
『猫なら、それくらいできるよ』
 そう言って微笑み、去った。
 彼は優しい猫を失った自分を憐み、泣いた。
 会いたいと願った。自分を救ってくれたあの猫に、また会いたい。会いたい。
 いつしかあの猫が、彼の中でかけがえのない、憧れの存在になっていった。
 同時に彼は、猫の言葉を思い出していた。
『あなたは、猫だよ』
「僕は、猫だ。猫なんだ。そして、憧れのあの子も猫だった。僕もあの子も、猫!」
 彼は嬉しかった。自分が猫であることが嬉しくてたまらなかった。
 だから、重い肉皮は捨てた。もう着ている必要などなくなったから。
 虎になりたいという思いも捨てた。だって彼は、あの猫のようになりたいのだから。
 猫だから、生きていける。
 身体が軽くなった。
 彼は四本足で大地を踏みしめ、一歩、また一歩と前へ進んでいった。



END

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コメント
この記事へのコメント
彼が求めた醜い虎よりも

軽快な猫でありたいですね。

トラ≠虎

ネコ≠猫

漢字の方が獣を感じますね。

2011/10/16(日) 11:08 | URL | 昼の梟 #LkZag.iM[ 編集]
あるがまま。
コメントを頂けて嬉しいです。ありがとうございます。
軽快な猫という「獣」でありたい――、ということでしょうか。
人それぞれ、目指すものも、もっている能力も違いますよね。
自然な姿。ありたい姿。素直な自分のままで生きられたら素敵だなと思います。
2011/10/16(日) 18:17 | URL | ryonaz #mLlZp4Zg[ 編集]
童話ですね。

主人公の猫には、優しい猫が離れていくところで朽ち果てて欲しいと思ってしまいました。
優しい猫の笑みと言葉に惹かれてしまいました。
2012/02/01(水) 14:48 | URL | そい #NkOZRVVI[ 編集]
ありがとうございます。
物語を楽しんでいただけて何よりです。
童話と言うには大人向けですし、かなり寓意性が強く、直接的な作品となってしまいましたが(笑)
「朽ち果ててほしい」というご感想を拝見して、なるほどそういう結末も面白いなぁ……、と思いました。
大変参考になりました。またぜひ、ご来訪くださいませ。
2012/02/03(金) 19:14 | URL | ryonaz #mLlZp4Zg[ 編集]
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