[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
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 またひとつ、誠一の傷が増えた。
 ろくに腕が使えないのだから当然だ。つんのめった彼には、全身で地面を受け入れる他に術がなかった。彼には痛みに悶える時間など与えられてはいない。いや、そこに心を囚われている余裕すら無い、と言ったほうが、より正確だろうか。
 鬼気迫る表情で立ち上がった誠一は、再び走り始めた。ずるずると、亀よりは、蝸牛よりは、芋虫よりは、はやく――
 春の宵が、密集した市街地を呑み込んでいた。
 誠一の荒い息遣いが、闇の静寂にわずかな皹を入れる。狭く、入り組んだ複雑な路地を右へ折れ、左へ折れ、また左へ折れ、ただ走る。目的地はない。走るという手段があるだけだ。目的は、実の娘――愛華から逃れること。
 そのためだけに、誠一は無心で、ひたすら己が足を動かした。

 ひときわ強い夜風が、誠一の頬をかすめた。
 彼は無意識に、風の吹いてきた方向に目を遣る。そこには狭い空地があった。売地と書いたプレートが下がっているため、通常なら無関係の一般人が足を踏み入れることはない。だが、彼はプレートを支えているビニール紐をくぐり、中へと入っていく。隣家のコンクリート塀の奥のほうが、わずかに、内に彎曲しているのが見えたためだった。
 誠一は、その隙間へ勢いよく身を投げ、
「――っはぁ……、はぁ……」
 ようやく、ここまで動かし続けた足を止めた。
 どこまで走ってきたのか、誠一には想像もつかなかった。ここまで無我夢中で走ってきたのだから、無理もない。ましてや彼は、赴任したてである。たとえ近所であっても、通勤や生活するために必要とする道以外は知らないのだ。ただひとつ、彼がわかっているのは、大して遠くへは来ていない、ということだった。亀よりは、蝸牛よりは、芋虫よりは――そんなはやさで懸命に走ったところで、たかが知れている。
 誠一は、込み上げる咳を堪えていた。
 喉を潤したくても、口内は乾き切っている。飲み込むための唾すら無い。
「…………」
 息を潜め、誠一はただじっとしていた。
 呼吸が整ってくるにつれて、少しずつ戻ってくる先ほどまでの記憶。そこに現れるのは、愛華の笑みと声、あの躰と手足、そして、今なお続く自身の彼女に対するおびただしい畏怖の念だった。
「――っ!」
 足音が聞こえた気がして、誠一は縮めた身体をいっそう丸める。愛華の影を間近に感じ、ガタガタと身を震わせる。そして――
「……ふうっ」
 それが風による何かしらの音だと気付き、静かに息を吐く。
 そうした行為を、彼は幾度となく繰り返した。

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コメント
この記事へのコメント
実の娘に責められる恐怖、誠一の気持ちが良く伝わってきます。とても面白いです。
2011/04/22(金) 12:18 | URL | ひらき #-[ 編集]
大変励まされます。
ひらきさん、こんばんは。
連載開始早々のご感想、ありがとうございます。
彼の心情に浸っていただけて嬉しいです。
2011/04/22(金) 18:20 | URL | ryonaz #mLlZp4Zg[ 編集]
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