Black Onyx [ブラックオニキス];2012/ 08の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2012年 08月 に掲載した記事を表示しています。
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精神面重視の偏向制作。
自覚しています。最近は、割と顕著ですね。
ご好評やご批判を熱心に下さっている読者様方、どうもありがとうございます。

基本的に、書きたいものしか書きません。
理由は、書けないからです。
そんなに不器用なのに、こうして書いています。
理由は、書きたいからです。

いつも物語をご覧くださっている方々に、感謝申し上げます。
今後とも、どうぞお付き合いくださいませ。

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「素晴らしい死の世界」
 それなら――
「どうして、黙って静かに死ねないの?」
「っ――!」
「どうして、ひとりで勝手に死ねないの?」
「…………」
「どうして、望んで死んでいくあなたが、死後のこの世の反応を気にするの?」
 ――そんなにも素晴らしい所に向かうのに、どうして?
 君の目は再度、大粒の涙を流した。
 苦痛は身体の痛みによるものか、それとも心の痛みによるものか。
 ――そう。あなたは、死よりも不安が怖い。
 君は顔を歪めながら微震していた。
 そっと君の瞳の奥を覗き込んだ女の、
「それがあなた。その大きな大きな不安を、解決してほしいの。……誰かに、ね」
 柔らかで温かい身体を前に、君は頬を濡らしたまま、
「……怖い」
 素直な感情を口にした。
「怖くて……、怖くて仕方がない。どうしようもなく、怖くて――」
「……ん」
「等身大でいたかった。でも、できなかった。それなら、笑ってるか、死ぬしかない、そうだろ? いつからこうなった。なんでこうなった。……なんで」
 君の心の声が響く。その身体をしっかりと抱き止めた女は、君の鮮血で覆われた手で、君の頭を優しく、優しく撫でた。
「きっと――、ありのままの自分を、あなた自身が愛してあげなかったから」
「……俺自身が?」
「あなたは大きな子どものまま。成長は、今の自分でいいと、自分が自分を認めてあげるところが始まり」
「…………」
「自己を肯定できて初めて自信がもてて、その自信があるからこそ、より大きく成長していける。草木や花が、大地に支えられ、それをしっかりと踏みしめて伸びていくように」
「草木と同じ……」
「現実なんて、あなたが思っているほど大変な所じゃないのに」
 それまで包まれるばかりだった君は、
「――ありがとう」
 このとき初めて、自ら彼女を強く抱きしめた。
「私は何もしてないよ」
「聴けて……、よかった」
「うん」
 おかげで――
「幸せな人生だった……なんて、……そんな風に思い込んだまま死なずに済んだ」

 その言葉を最後に、君はそこから身を投げた。
 これ以上ないほど、幸せそうな表情だった。
 君を見つめる彼女の瞳が、彼女の心を鮮明に映していた。


 そう。
 幸福は存在しない。
 ただ、幸福を求める心があるだけで。



END

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「――いいって?」
 瑞々しく潤った女のきめ細かい肌が、君の身体を包んでいた。
 先ほどまで、君は肩を落としていた。今は一転、虚空を見つめている。
「もう、どうでもいいんだ。放っておいてくれ」
「そっか」
「…………あぁ」
 それが、ひどくか細い声だったため、彼女はつい苦笑してしまう。
「そんな言い方されてもね」
「言い方?」
「遠慮は、愛情を要求する手段だから」
 彼女は君の背中に爪を立て、つ――、と肌を裂いた。爪痕が白く残り、じわりと血が滲む。行為を繰り返されるたび、君は苦痛の声をあげては、それを噛み殺す。悶声の合間に、
「殺してくれ」
 君は、幾度もそう口にした。
「想像通りの言葉。この世がダメだから、あの世に縋る?」
「違う! 俺が、……俺のほうから、死を選ぶんだ!」
「どうして?」
 そよぐ風が彼女の髪を靡かせ、君に甘い香りを運んでくる。
「愛想が尽きたんだよ、この世に」
「この世を捨てるの?」
「ああ」
「違うよ」
 彼女は、柔和な笑みを君に向けたまま、しかし、
「この世が、あなたを捨てるの」
 ばっさりと君の言葉を否定した。
「――え?」
「そんなことをしてみても、この世は、決してあなたを認めはしない」
 君の表情が、みるみるうちに青ざめていく。
「……何を、言ってる?……馬鹿な。……死ぬんだぞ!」
 情動が君を襲い、
「真似できるのかよ。……そんな勇気が、お前にあるか!?」
 君は震えた声を張り上げる。
 彼女は表情を変えぬまま、
「この世を否定し――」
「…………」
「死の素晴らしさを誇示し――」
「…………」
「そこに足を踏み入れた偉大な強者である自分は救われる者、そこに踏み入らない、あるいは、踏み入ることのできない卑小な弱者は救われない者――と、あなたはこう叫ぶのでしょうね」
 冷然と言葉を連ねた。
 もう何本刻まれたか分からない君の背中の爪痕が、またひとつ増えた。

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 ふたりの間を、やわらかな風が吹き抜けた。
 女は、そのすらりと長い脚で君の身体を絡め取りながら、
「他人に反発心をもっているのに他人に従い、他人を信じないのに他人を頼る」
 両手で、君の頬を優しく包み込んだ。
「嫌われることや傷つくことが怖いから、苦笑いで引き受ける。そして、断れない自分に言い訳する。悔しい思いを、人間愛という綺麗な言葉で塗り潰してね。それが――」
 わずかに間を置き、
「この世にあって幸せだと叫ぶあなたが、この世を否定しているという矛盾を生む理由だよ」
 彼女は結論付けた。さっきも言ったように――、と、前置きをしてから、
「それが答え」
 静かに、先ほどの言葉を繰り返した。

 言葉を失い、
「うぅ……」
 と、肩を落とす君の首元に、彼女の両腕がするりと巻き付いた。彼女の体温が、次第に、抱かれた君へと伝わっていく。彼女の右手はいつしか君の首元を離れ、腹部に宛がわれていた。
 トン。
 さり気なく放たれた掌底は、君の中身を掻き乱し、
「う……、えええっ……」
 君はそこで嘔吐した。
 彼女の右手が再び動く。指先が、君の身体を執拗に這いずり回った。君の身体は嬌声を上げ、局部がじわじわと肥大していく。やがて彼女の指は、君の指の中に収まった。ふたりの指が美しく絡んでいる。彼女は再び、そっと君を抱き寄せた。
 彼女はその間、ずっと黙ったままだった。
 君の涙が、頬を伝って流れ落ちていく。泣きじゃくる君の声が、静かなこの場所に響いた。
 この世を否定しなければ、君はもう心のバランスを保てない。矛盾していても、論理的でなくても構わない。自分の考えることが事実――そう思い込まなければ、君の心が崩壊してしまう。そのことを、彼女は熟知していた。
 君は項垂れた。
 ふと顔を上げれば、そこにはさっきまでの君とは違う表情が浮かんでいる。
 彼女が微笑み、君の唇を奪う。二、三秒ほどで、ふたりの顔は離れた。二人の口を繋ぐ唾液の糸は儚く切れた。
「あなたは、心の底では自分の不幸を知っている」
「…………」
「認めてほしいんだよね?」
「……もう、……いいんだ」
 それが、ようやく君の口から出た言葉だった。

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 女はその切れ長の瞳で君を見下ろし、
「ぐうぅ……」
 今度は腹を、ぐいと踏み付ける。
「もちろん、あなたは頑張ってきたよ。……だから報われない」
「な、にっ! ぐ……、あああぁ」
「迎合も、誇張も、あなたの弱さゆえ。不憫だね……、本当に……」
 すらりと伸びた長い脚が、さっきよりよく見えた。その脚を包む靴の底は、君の腹にじわじわと負荷をかけ、やがて、ずぶずぶと埋まっていく。圧迫感によって、君の言葉は断続的なものへと変わる。
「う、ぐぅ、うるさ、いっ!……、お、まえに、……ぐ。何が分か……っぐあ!」
 踏み躙りながら、彼女は舌を覗かせ、己の唇をペロリと舐めた。それからゆっくり、滔々と言葉を発する。まるで流麗な詩のようだ。
「あなたは結果的に、自分を苦しめただけ。期待する効果なんてなかった。むしろ、好かれようと思えば思うほど、そうなるように行動すればするほど、あなたからはだんだん人が離れていった。それは、その努力が、自己犠牲のうえに立っているから。自分のためではなくて、他人のための努力だから。利用されるだけされて、そのぶんだけ軽く扱われて、心の底では馬鹿にされて、あなたには不満や憎しみが積もって……」

「――それでも、あなたは、笑っていたんでしょう?」

「っ……!」
 慈愛に満ちた、それでいてどこか冷たさを帯びた視線が、君の心を貫いた。

 女はしゃがみ、君を優しく抱き起こした。目線の高さを合わせ、
「あなたがしてきたのは、逃げるための努力。不安を隠すための努力」
 君の耳元で、
「気に入られたいから、認められたいから、頑張った」
 囁いた。
 君は悔しくて、彼女の言葉をなんとか否定したくて、
「そんなくだらない奴らに気に入られて、こんな世の中に認められて、嬉しいもんか!」
 声を荒げた。
「……この世が腐ってるんだ。どうしようもなく!」
 そうするしかなかったのだ。もちろん、彼女にはその意味がよくわかっていた。
「それが答え」
 彼女は美しい微笑を湛え、君の顎を指先でくいと持ち上げた。そして、ふっ――、と君の耳に息を吹きかける。
 唐突なその行為に、君は戸惑った。

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 幸福は存在しない。
 だから、君は、
「幸せだ!」
 精一杯、そう叫んだ。
 時も所もわからぬまま、君は大の字になって寝転び、見知らぬ女を見上げていた。背の高い、黒髪のよく似合う、清楚で神々しい雰囲気を纏った女だった。
 君の言葉を耳にしたとき、彼女は、
「そう。そんな風に、無理やり言わなければならないほど――」
 口元にわずかな笑みを浮かべながら、
「……不幸なのね」
 君の喉を強く踏み躙った。
「ぐっ……あ、ああ……っ」
「可哀想に」
 膝上まで覆う靴が、皮特有の音を奏でながら君を苦しめる。うめき声とともに、君の口からは涎が零れてくる。呼吸困難に陥りそうになり、必死で彼女の足の下でもがいている。それでも君は、
「無理やり、じゃ……ない」
 言葉を絞り出した。妥協できない思いが、君を突き動かしていたのだ。
 しかし、目の前に立つ女が心を乱すことはない。
「孤独なのね。恐ろしいまでの絶望を、あなたから感じる」
「馬鹿な。俺は幸せだ!」
「幸せなら、わざわざそれを謳ったりしない」
 彼女は大きなため息を吐き、
「あなたの声は、心の悲鳴なの」
 捕らえていた君の喉を解放する。間もなく、君は激しく咳き込んだ。
「本当は気づいているんでしょ?……願うほど、あなたは愛してもらえなかった」
 その言葉につられるように、
「……俺は、頑張ってきた」
 君はポツリと零す。
 それが引き金となり、
「なのに、不幸になるなんて……、許されるわけがない。努力は絶対に……、絶対に、報われるはずなんだ。報われなきゃならないんだ! だから……、今でも俺は、自信をもって言える。思える。俺は、幸せだ。……幸せだ。幸せだ!」
 言葉は勢いよく流れ出た。
 目に涙、口に涎を光らせながら、君はその声を次第に大きくしていった。

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