Black Onyx [ブラックオニキス];2010/ 10の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2010年 10月 に掲載した記事を表示しています。
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 こんなにも重いなんて、思ってもみなかった。
 それは確かに、私の手元にあった。ずっと、ずっと。この世に生を受けてから、ずっと。
 手放したことなんてない。そんな風に思ったことすらないかもしれない。意識さえせずに持ち続けてきたこの荷物が、どうして今になって、こんなにも煩わしく思えるのか。どうして今になって、こんなにも大きなものだと感じるのか。
 重い。どうしようもなく重い。
 ――そんなの持てるはずないよ。
 声が聞こえた気がした。
 それは、私が望んだから。誰かにそう言ってほしかったから。空しい言葉は所詮、私の中でしか音を立てない。だから当然、私に響いてくるはずもない。
 私には……、私の声すら聞こえない。
 重い。重い。
 ズシリとのしかかる重みで、今にも潰されそうで――
 だから私は、そっとこの刃をあなたに向けた。
 何かが変わるかもしれない。そんな甘い希望を抱くほど、私だって馬鹿じゃない。この荷物を裂くことができるかもしれないなんて、夢にも思ってない。そう信じるのであれば、もうとっくに自分に向けている。
 歌え。歌え。
 あちらから、こちらから、耳鳴りのように響く声はいったい誰のもの?
 冷たい鈴の音がひどく痛い……
 歌え。歌え。
 いつまでも続くその鳴りに、私は拒絶の意を示す。
『君はもう……』
 ――何?
 問い返す。
 その返事が私の期待通りだったから、私は笑いを堪えることができなかった。ようやく笑うことができた、と言ってもいいのかもしれない。ただ単純に、嬉しかった。
 去りゆくものは、いつだって美しい。私は、静かなこの時間の流れが嫌いじゃない。尤も、この時間を創っている者がいるとするなら、話は別だけれど。でも……、そんなことはもうどうでもいい。
『痛い。……痛い』
 見えない声が、私を誘う。
 大丈夫。すぐ楽にしてあげる。君も、私も、後悔することはわかっているけど。
 振り上げた私の手にあったのは、やっぱり荷物の重み。
 それは、心の重み。
 だから私は、また涙を零した。



END

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千速さんより、作品を頂きました!
お忙しい中、温かいメッセージと熱い思いを届けてくださり、感無量です。
これまでの絵もそうですが、求めるものの感覚が本当に近いなぁ……と、つくづく。
ニッチ嗜好なので、とても心強いです。
千速さん、本当にありがとうございます!
※画像をクリックすると、拡大します。携帯の人はこちら→拡大


 千速さんコメント…ごめんなさい。愛してます。
 ryonazコメント…私の下手なコメントはいりませんね。千速さんのコメントが全てだと感じます。

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 先日の仕事の失敗が、修造を焦らせていたのかもしれない。だからこそ、成功を第一に考えた。もちろん、そのための用心には考えを巡らせた。それこそ、彼でなければ思いつきもしないほど慎重に。
 事の段取りは全て彼女が行った。日と時刻は指定され、手段も彼女から提示され。
 修造は土俵に立つだけでよかったのだ。それがこんなに楽なものだとは思わなかった。
 ――身の回りの用心だけを考えればいい。
 その体制を受け入れたことが、修造の遅すぎる反省だった。
 例えるなら、車だ。車体の周囲の安全を確認し、車に乗り込んだ。シートベルトを着用し、アクセル・ブレーキテストを行ってから車を走らせた。キープレフトを守り、道行く人や対向車を常に意識し、スピードメーターを常に確認し――
 その結果の、……信号無視。
「ごほっ! ごほおっ!」
 麻耶に注がれる水が、修造の呼吸とプライドを同時に奪っていく。その水の冷たさは、彼女の微笑によく似ている気がした。
「案外、無用心なのね」
 麻耶の言葉が修造の胸を抉る。
 周りへの細かい気配りが、事の本質を見誤らせた。欠けていたのは――
「依頼者は協力してくれるとでも?」
 ――この女への警戒心。
 信号なんて目に入っていなかった。あんなにも赤く主張する光を見落とすなんて、思いつきもしなかったのだから。
 女は狡猾だ――、とは誰の台詞だったか。修造は己の愚かさを嘆きながら、
「ごお、げほおっ! っはぁっ!」
 自責の念とともに、再び水を吐き出した。
「……苦しい?」
 色めいた肌を彼に寄せながら、麻耶が問う。もちろん、彼に答えられるはずもない。その青ざめた表情をじっくりと観察し、楽しむように、
「無様ね」
 彼女は嘲笑を含んだ冷たい声を、室内に響かせた。

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 残酷な現実。
 それを修造に教えたのは、身体を拘束している木台と地獄の苦しみだった。
 みるみるうちに呼吸を奪われ、
「っ……、ごほおっ……!」
 修造はまた、口から大量の水を吐いた。
 への字型に曲がった木台に仰向けに寝かされた彼の体と手足は、トラロープで木台の裏にしっかりと固定されていた。漏斗が口内に押し込まれており、
「やめ、やめろ……、っ! ごぼっ!」
 彼の言葉は、絶えず注がれる水によって遮られる。
 木台は、腹が頭より高い位置になり、首がわずかに持ち上がる形状になっていた。そのため、必然的に水を飲み込む速度は遅くなり、呼吸困難に陥りやすい。
 女は終始、無言のままだった。
 その美貌に表情は無く、その瞳は一縷の光も宿していない。咳き込む修造の口元を見ながら、ただ淡々と、断続的に水を流し続けるだけだ。
「ど、どうしっ……かはっ! げほっ!」
 声は虚しく宙に舞う。
 疑問の渦ばかりが、修造の心を覆い尽くした。


 星井麻耶から連絡があった時、修造は思わず笑いそうになった。
 ――案ずるより産むが易し、か。
 当の本人が殺しのセッティングをしてくれるなどとは、考えてもみなかったからだ。
「お待ちしています」
 彼女のその言葉が、あれこれと悩んでいた自分を嘲っている。修造はそんな風に感じていた。己に迫る危機など、察することすらできないまま――
 神経質で用心深い性格。それは修造自身も、また彼を知る人間も、異議を唱えないところだった。
 彼はいつものように革手袋を身に着け、アリバイを確保し、考えられる限りの用心をしてから待ち合わせ場所へと向かった。

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