Black Onyx [ブラックオニキス];2009/ 05の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2009年 05月 に掲載した記事を表示しています。
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●デトロイト・メタル・シティ 若杉公徳 [白泉社]
 6巻:腹を踏み付け、連打、吐血(?)

●黒神 原・林達永 画・朴晟佑 [スクウェア・エニックス]
 10巻:脇腹にパンチ、胃液
 11巻:腹に膝蹴り、胃液、白目、苦悶

●バカとボイン こばやしひよこ [集英社]
 1巻:腹にパンチ、気絶

●ヤンほぼ 松山せいじ [秋田書店]
 1巻:腹にパンチ、胃液、咳き込み、吹き飛び

●ぼくのわたしの勇者学 麻生周一 [集英社]
 Vol.1:腹に蹴り、KO

●エルフェンリート 岡本倫 [集英社]
 2巻:腹に蹴り、苦悶

●ヤンキー君とメガネちゃん 吉河美希 [講談社]
 12巻:腹に蹴り、白目、吐血

●トンボー 沼田純 [秋田書店]
 1巻:腹に机打、白目、気絶(?)


※注
 ・全て女から男への腹責めです。
 ・記載したキーワードは全て、私の見た限りの独断です。
 ・逆リョナ情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください。
  (尚、「逆リョナ@wiki」に掲載する情報は、匿名をデフォルトとさせていただきます。)
  → ◆逆リョナ@wiki [ Gyaku-Ryona@wiki ]
――テーマは「人間家具」
それだけの設定で、お互い自由に執筆した作品です。

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、拷問器具の中に「ガロット」というものがあります。
(参考:ガロット [Team@Black wiki] )
初期は、椅子とロープと棒を使って絞首刑を行ったそうで、徐々に改良されていったそうです。
スペインでは、近年まで使われていたそうですね。
(参考:『虐殺の世界史』 編・歴史の謎を探る会 [河出書房新社] )
今回はここに着想を得て、執筆を始めるに至りました。

正直、人間家具と言えば椅子、というのはこの世界では王道ですね。
それをどう活かし、どう展開し、どう終結させるか――
そこに挑戦したいと考え、あえて執筆を試みた次第ですが、互いの作品を見比べてみて……
設定、女性視点、キーアイテム、etc...
そこかしこに見える共通点や類似した着眼点には、驚かざるを得ませんでした。
これはもはや「愛情による絆」としか考えられませんね。
……それは冗談としまして(笑)
古木さんともお話したことですが、ある程度、似通った部分があったからこそ見えたこともありました。
それは、それぞれのもつ「色」です。
「信頼・支配・服従」の古木さん。対して「自分勝手・残忍・破壊」のryonaz。
立ち位置の違いは明確だと、あらためて自覚しました。
本企画では、私自身、勉強になった点が多々あったと感じております。

この企画にご協力くださった、nk archives様に、重ねて御礼申し上げます。

また、本作品をご覧くださった皆様、本当にありがとうございました。
見てくださる方なくして、サイトは成り立ち得ません。いつも、感謝の気持ちでいっぱいです。
互いの作品をお楽しみいただけていれば幸いに存じます。
今後も、様々な形で企画に挑戦することがあるかと思いますが、どうぞよろしくお付き合いください。

これからも、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。

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 多くの障害物が、リラックスチェアーを覆っていた。
 耳障りな音。未だ硬くなったままの突起物。黒い染みと、赤い染み。よく見れば、チェアーの表面全体に汗のような液体も滲んでいる。鼻をつく臭い。
 掃除が必要になってしまったと思うと、少々気だるい。もちろん、今日これから掃除をする気になど到底なれない。ただ、今もなお部屋に響いている音だけは、耳障りで仕方がなかった。
 ――もっと、調整の勉強が必要ね……
 そんなことを考えながら、私はチェアーのレバーに手を掛けた。電源を切るためだ。
「んー!……ん、んぅぅぅぅ……!」
 その時、聞くに堪えない擦り切れたような騒音が鳴った。チェアー全体が激しく揺れる。椅子の頭部から、透明の液体がとめどなく流れる。
 何かを訴えかけるような、縋るような、まるで断末魔のような――
 それを聞き流しながら、
「おやすみなさい」
 私はチェアーに言葉をかけ、グッ――、と一気に力を込めてレバーを絞める。それとともに、下の突起物から、白く濁った液体が勢いよく噴き出された。

 チェアーの音は、完全に消えた。

 気付けば、あれほど私を悩ませた突起物が、みるみるうちに萎んでいく。やがてそれは、最初と同じ、小さな物体に変わっていた。
 試しにレバーを緩めてみた。が、全く音がしない。

 ――壊れちゃったかな……、また。

 私は大きくため息をついた。
 どうにも、このチェアーは長持ちしないらしい。またどこかで新調しなければならないと思った。
 ともかく、それはまた後で考えることにしよう。
 ただ今は、チェアーがようやく無音、無動作、無突起になったことが悦ばしかった。

 チェアーのそこかしこが汚れている。
 私は苦笑した。本当に手間のかかるチェアーだ。だが、掃除は後でいい。
 黒、赤、白、透明、それぞれの液――、その全てを覆うように、私は大きなタオルケットをチェアー全体に掛けた。
 倒れ込むように背中からチェアーに身を預ける。もちろん、音は一切鳴らない。

 チェアーが、次第にひんやりと冷たくなっていく。
 やがて、ひどく透き通った眠りの国が、私を迎え入れた。



END

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 ただただ、煩わしかった。
 うまくいかない音量調整。許可なく起き上がる突起物。煙草を吐き出す灰皿。
 不自由な点ばかりが目につき、私はほとほとうんざりしてきていた。
 首輪を十分に絞めていてもなお、今またリラックスチェアーは、耳障りな音を漏らして不自然に動いている。
「んー! んっ……、ん――」
 まるで、私の攻撃から身を守ろうとしているかのようだ。逃れることなどできないのに。
 感情に任せ、チェアーの突起物に向けて、
「ぅぐうっ……! うっ」
 何度も足を振り下ろす。
「んー、ふんっ!……ん、んぐっ!」
 今ではもう、その音は私に不快感しか与えなかった。突起物を治めるという本来の目的も忘れ、私はただ憎らしさに身を委ねて、機械的に足を動かした。

 十発目ほどで赤く色付き、三十発ほどで腫れ上がり――
 足を叩きつける度、チェアーの鳴らす音は大きくなっていった。そのくせ、肥大した突起物は一向に元に戻る様子がない。それが、私の気分をますます害していく。
 憑かれたように、私は足裏でその一点を踏みつけ続けた。
 何発目なのかは、もうわからなかった。やがて、突起物の先端に赤い液体が滲んできた。ポタリと零れ、黒い染みの下部に、新たに赤い染みを作った。
 灰皿からは泡のようなものが零れ、チェアーは細かく振動し始めていた。

 身体を動かしたことで、幾分落ち着いたような気がした。
 再び、眠気が舞い戻ってくる。同時に、家具相手に感情をぶつけていたことを自嘲する。リラックス用品を前に息を荒げて疲れている自分に気付き、苦笑する。
 最初からベッドで寝ていればよかった。しかし、既にベッドに移動する気力も残っていない。無論、浴室で汗を流そうという気にもなれない。
 仕方がない……。今日はここで――
 チェアーを調整し、平たく倒す。サイドテーブルに置いた文庫本を枕にしようと、チェアーの上部にポンと投げる。と――、
「むぐうっ!」
 またもチェアーから雑音が零れる。
 全く、呆れたものだ。皮肉めいた笑いがこみ上げる。
 多種多様なミュージックが堪能できる。扱い方によっては、いろいろなメロディを聴ける。それは、アナログな作りの良さでもあると思う。
 しかし、疲れた時など――まさに今のような――は、実に操作しにくい装置だ。
 不便な点も多いが、このチェアーはこれからも使っていきたい。途中で邪魔が入ったものの、チェアーの持つリラックス機能は、なかなか良いものだった。
 平静を取り戻した今、私はようやくそんな風に思えた。

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 一瞬にして、熱が冷めた。不快感が全身を包み込む。
 興が醒めた私は動きを止め、電話口へと向かう。着信番号を確認するとともに、私は子機の通話停止ボタンを押した。一日に二度もあのダミ声を聞かされるなんて冗談じゃない。
 脱力感に覆われる。同時に、急激な眠気が私を襲う。
 リラックスチェアーへと戻り、身を横たえる。すぐに腰周りに違和感を覚え、その原因を見据えた。
 チェアーの突起物。それが、まだ硬いままになっていたのだ。今はもうこれを使う気にもなれない。
「邪魔」
 私は爪先でソレを小突いた。
 しかし突起物は治まるどころか、ぐいと持ち上がり、却ってビクビクと反応する。あまつさえ、私の腰や臀部、恥部を不規則にペチペチと叩く。停止機能を探してチェアーの隅々を触ってみるが、反応は変わらない。
 心地良い眠気が全身を包み込んでいく中、膨らんで硬くなっているこの突起物は鬱陶しく、気になって仕方がなかった。
 とにかく鎮めようと思った。しかし、その方法がわからない。
 いっそのこと潰してしまえば、といった考えも頭を過るが、マッサージ機能が失われてしまうのも少々勿体無い気がする。
 私は仰向けになったまま、突起物の両端に付いた二つの玉を握る。コリコリと手の中で擦り合わせてみると、例によって大音量が上がった。
 煩い。
 私は沈みかけた身体に鞭打って上半身を軽く起こす。それから、
「うっ……が、っ……」
 チェアーの後ろに手を伸ばし、レバーを回す。
 もう音楽など必要ない。とにかく眠いのだ。
 このまま眠ってしまおうか、とも思った。しかし、そんな私の眠りを妨げるように、硬い突起物は私の下半身を刺激してくる。
 まるで私を馬鹿にしているような、その間抜けな動きに、苛立ちが募る。
 先ほどまでの快さは、既に消えてしまっていた。眠気も次第に顔を潜めていく。
 私は立ち上がり、足裏でその突起物を踏みつけた。
「ぐむっ……、ぃ、ああっ!」
 十分レバーを絞めているはずなのに、まだ音が漏れてくる。それは、今の私にとってはただ煩わしいだけのものだった。
 何とか膨らみを治めようと、時に撫でるように、時に踏み躙るように、時に指先で擦るように、私は棒状に固まって膨らんだそれを刺激する。しかし、どれも全く功を奏しない。
 その時、チェアー上部の灰皿――男の口から、プッと何かが吐き出された。
 チェアーの中央部と床に、黒い染みができる。それは、先ほど私が捨てた煙草の吸殻だった。「ごほごほ」と咳き込むような音を絞り出すチェアーを見ながら、
「使えない……」
 私はため息混じりに言葉を放った。

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 音は次第に小さくなっていった。
 私は本棚から文庫本をひとつ取り出し、リラックスチェアーに腰掛ける。
「ぐっ……」
 沈んだチェアーが再び、かすかな音を立てた。私は、適度な傾斜になるよう背凭れを調整し、そこに身を預ける。仰向けになって、脚を組む。手にした本を広げ、パラパラとページを捲っていく。
 温かい。柔らかい感触も心地が良い。
 脚を組み替える。体勢を変える。髪を撫でる、かき上げる。
 私の動きに呼応するように、奏でる音楽が変化していく。呻き声や荒い鼻息、興奮したような息遣い。それらは実に多彩で、聴いていて飽きることがない。
 いつの間にか私は、物語の世界に没頭していた。
 眠気が身を包み始めた頃、チェアーの下部に付いている突起物が大きく膨らんでいることに気付く。持ち上がったソレが、私の下半身に当たっている。
 ゆったりと身体の力を抜き、気の向くままに、わずかに身体をくねらせる。それとなく腰や太腿、臀部や恥部をそこに擦りつけると、
「はっ……、ああっ」
 チェアーの音がまた変化を見せた。
 断続的に聴こえてくるそれは、まるでヒーリングミュージックのように、私の耳を優しく撫でていく。同時に、肥大した突起物はドクドクと脈打ち、私の身体にも適度な刺激を与える。
 本をサイドテーブルに置く。
 疲れは幾分回復してきてはいたが、たまには寝る前のマッサージも悪くない。
「あっ……んふっ」
 今夜のチェアーは、今までとは違うメロディを奏でていた。耳当たりが柔らかい。それでいて、激情的で、狂熱的な――
 ……下腹部に熱いものを感じる。身体が火照ってくるのがわかる。
 私は身に着けていた下着をわずかにずらし、突起物を恥部の中へと誘った。身体を上下に揺すり、
「はふっ……、あぁ……」
 様々な色彩を見せるそのメロディに浸る。
 受動的なマッサージが、能動的な運動へと変わる。私の額に汗が滲んでくる。後でもう一度シャワーを浴びなければ……。面倒ではあったが、それでもいいと思えた。今はこうして、快適な音楽と身体への刺激に身を任せていたかった。
 しかし、身体を激しく揺すっていくうちに、
「……あっ、あ、あ、あっ!……ああああっ!」
 零れる低い音は次第に大きくなり、耳障りな響きを帯びていった。――煩い。
 腰を止め、チェアーの上で腹ばいになる。レバーへと手を伸ばし、ぐいと回して絞める。
「ぐっ……、ん……ぁ」
 いつもの快音になったのを確認し、私は再度、腰を揺らした。
 小さな快感の一つ一つを拾い上げ、一所に集めていく。大きな熱い塊が、私を翻弄する。目の前が薔薇色になっていく。まるで夢を見ているようだ。
 弾ける――、と思った瞬間、無礼なコール音が私を呼んだ。

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 吸いかけの煙草を、灰皿の縁に置いた。
 煙草休めは付いていない。火のついた先端は中に押し込まれ、灰皿は自然とそれを咥える。わずかに灰皿が震えている。
 紫煙がゆったりと立ち昇る様を、しばし見つめた。
「ぅぐっ……、う、うぅ……」
 リラックスチェアーから漏れるメロディを聞きながら、私は手にしたグラスに瞳を移す。透明な水を底にためたグラスが、街の光を反射している。鮮やかな虹色の輝きをそれとなく見ながら、グラスをくいと傾ける。
 私は、身体の隅々にまで水分が補給されていく感覚を楽しんだ。
 空になったグラスを、手元のサイドテーブルに置く。
 再び煙草を手に取ると、先端にはまた灰がたまっていた。縁がわずかに濡れたそれをポンと指で弾き、もう一度口元に持っていく。大きく一吸いしてから、灰皿の柔らかい部分に煙草を押し付けた。
 じゅっという音と、焦げた匂い。それとともに、
「……っ! があああっ!」
 一際、大きな音が響く。
 私は、少しばかり不快になった。夜も更けて良い気分なのに、耳障りだ。
 迷わず、チェアーの後ろのレバーに手をかける。くるりと回すと、
「んっ……、ぐぅっ……」
 わずかに呻くような音が鳴り、チェアーは静かになった。
 このリラックスチェアーには、いろいろな機能がついている。消音レバーも、その機能のひとつだ。
 チェアーの後ろのレバーには、金属の輪が接続されている。それは、チェアーの上にいる者の首に回され――

 そう。このチェアーには、男が縛り付けられているのだ。

 両手は後ろ手に縛られ、足もガッチリと固定されている。首は金属の輪で固められ、その首輪は後ろのレバーと連動して、絞めたり緩めたりすることができた。レバーを回すと金属輪の直径が狭まり、男の首に容赦なく喰い込む。喉が圧迫されて、漏れる音も小さくなるという仕組みだ。
 しばし、無音になる。
 絞めすぎたのだろうか。
 無音も何となく淋しい感じがしたので、レバーを少し緩める。
「……っはっ! ううっ……」
 再び音が鳴るが、さっきほどの大音量ではない。なかなか音量調整が難しいチェアーだが、そこから聴こえる音楽は、いつも私の心をリラックスさせてくれる。
 先日、新調したばかりのものだ。できれば、長く愛用していきたい……
 そんなことを考えながら、私は、
「んー、……んんっ」
 穏やかに流れるそのメロディを、しばし堪能した。

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 見るともなしに窓の外を眺めていた。
 マンションの十二階。都会の薄汚さを照らし続けた光が、今静かに地平線にその身を隠していく。唯一美しい橙色の西陽が消えてしまったら、後に残るのは殺風景な見晴らしだけだ。しかしながら、その陽が完全に消えてしまえば、この景色もまた新しい姿を見せる。うまく出来ているものだ。
 列挙した高層ビルの窓に、ひとつ、またひとつと光が灯っていく。
 暗闇がこの地を覆い尽くせば、ビル群が織り成す輝く夜景がその姿を現す。醜い女性が厚化粧をするように、都会もまた闇と人工の光によってその顔を綺麗に塗り上げていく。
 もう何度見たかもわからないそんな目下の世界に皮肉笑いを浮かべながら、手に取ったグラスに冷たいミネラルウォーターを注ぎ込む。綺麗に作られた虚像の世界を見下ろしながら飲む水も悪くない。近頃はそう感じるようになってきていた。
 脚を組んでソファーに腰掛け、グラスを満たした透明な液体を喉へと流し込む。
 浴室から出て十五分ほど経っただろうか。
 下着の上に半透明なネグリジェ一枚という姿でいるには、まだ肌寒い季節なのかもしれない。でもそんなことは、私にとっては蚊帳の外の話に過ぎない。静かに稼働するエアコンが、常にこの部屋を快適な温度と湿度に保ってくれているのだから。
 再びミネラルウォーターで喉を潤し、グラスをテーブルの上に置く。
 手にした煙草に火をつけ、次第にメイクが決まってきた夜景をぼんやりと眺める。間もなく立ち昇る紫煙を横目に、口先から一筋の煙を吐く。グラスを口元へと運ぶ。
 優雅なこの夜のひと時を、私は嫌いではなかった。

 その時、電話のコール音が私を呼んだ。
 電話というのは不躾なもので、その時の私の都合などお構いなしに音を立てる。不快な気分を隠すことができず、私はテーブルの脚を少し乱暴に蹴る。グラスを手に、電話口へと向かう。そこに表示された着信番号が、私の不快感をさらに高めた。
「はい。どなた?」
 子機を手に取り、そっけない口調で応答する。受話器の向こうから、汚らわしいダミ声が聞こえてくる。まるで自分の女であるかのように、私を名前で呼ぶ。妙に親しげなくせに、オドオドした口ぶり。
「二度と掛けてこないでくださいね。不愉快ですから」
 私の言葉に、縋るように何かを訴えてくる。その声を聞いているだけで虫唾が走る。ストーカーという生き物は、こうもしつこいものなのだろうか。私は相手の問いかけを無視し、
「気持ち悪い。臭ってきそうね。あなた生ゴミ?」
 嘲笑混じりに罵倒する。唐突に涙声になるのがまた鬱陶しい。
「明日こそは、死んでくださいね」
 そう言い捨て、電話を切った。

 気付けば、煙草の灰が先端にたまっている。
 電話の側のリラックスチェアーには、灰皿が備え付けてある。
 私は指先で煙草を弾き、そこに白灰を落とした。
 ――チェアーから、くぐもった音がした。

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正統派SM小説サイト、nk archives様との合同企画です。
この度の企画・提案をご快諾くださった古木さんに、心より感謝申し上げます。

企画概要 : 共通のテーマを決め、お互いに執筆する
テーマ : 「人間家具」

●古木さんの小説はこちら → 「沈黙の土曜日

● ryonazの小説はこちら → 「ヒーリングメロディ」 : 小説(短編・中編)


日頃より、管理人が懇意にしていただいているサイト様です。
文章力、表現力は他の追随を許しません。見事に描かれた、S女とM男の関係は必見です。
興味のある方は、ぜひ、ご来訪なさってみてください。
nk archives

| Project index |
小説ボイス化」 第四弾。

前回に引き続き、当サイトの看板娘(?)、優美子の台詞を頂戴しております。続編「償いの闇」からの抜粋です。
台詞に合わせて変わる口調、声色、雰囲気、etc... 声を自在に扱う、Solitaire * ソリティア * のイコさん。
毎度、その力量に感服するとともに、多大なご尽力に感謝するばかりです。
興味のある方は、ぜひお聴きになってみてください。(※携帯サイト不可です。申し訳ありません。)

台詞はこちら →    
(「償いの闇」 : 小説:優美子 より) → もっと聴きたい方は◆こちら◆

※小説の選択は、私の方でさせていただきました。
  なお、ボイス化希望の小説がありましたら、作品アンケートのコメントへ。参考にさせていただきます。
  (ご希望に沿えない場合がありますので、予めご了承ください。)
  今回も、台詞の選択は、イコさんに一任しました。

Solitaire * ソリティア *

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前作「花びら一枚、影ひとつ」の続編です。
今回もまた、完結はさせていません。
三部構成で組みましたので、(計画通りにいけば)本連作は、次回で終了になる予定です。
よろしければ、ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
※女子高生シリーズ自体は、これからも続けていくつもりでおります。

武道に通じた美里。したたかで残酷な花音。狂気を内に秘めた彩香。
本作では、それぞれの個性をより深く描きたいと思っていました。お伝えできていれば本望です。
今回も、無事に第二部を掲載することができ、ホッと胸を撫で下ろしている次第です。
彼女たちが織り成していく関係を、今後もご覧いただけたら嬉しいです。

ご来訪やコメント、拍手やランキングのクリック、アンケート(※現在停止)や逆リョナ@wikiへのご協力。
どれもが私の支えになり、励みになり、力になっています。感謝の念は、尽きることがありません。
毎度、しつこく申し上げて恐縮です。気持ちはきちんと伝えたい性分で……。ご容赦ください。
皆様、いつも本当にありがとうございます。

今後も、当サイトを楽しんでいただけたら幸いです。

●美里のキャラ絵 →   
●花音のキャラ絵 →
●彩香のキャラ絵 →  
●紗希のキャラ絵 →   
●渚のキャラ絵 →  

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[ 受信メール ]

Time 4/ 7 22:52
From lily-nono@bocomo.ne.jp
Sub 金用意しときな

あいつらマジ使えねー

これから来れる?

あんたらに回すわ


DVC00004.jpg



-----END-----

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 勇作の咳き込みが聞こえ、その顔には赤みが戻っていた。
 美里は彩香の身体を両腕で優しく包み込みながら、自分の左肩にハンカチを当てていた。黄色いハンカチに、赤い染みが広がっている。しかしそれが功を奏し、美里の出血は次第に治まりつつあった。
 彩香は美里の腕の中で、未だ嗚咽を漏らしている。同時に、聞き取れないほどの小さな声で、
「……キ。……サキ。……キ」
 うわ言のように、紗希の名を口にしている。美里は、何度も頷きながら、
「わかってます。わかってますよ」
 と囁き、左手で彩香の背中を擦った。彩香はやがて、虚ろな瞳で空を見上げた。
 ――今の彩香さんに必要なのは……
 彼女に対する猜疑心や疑念が払拭されたと言えば嘘になる。ただ、今は――
「……もしもし」
 自分にできる限りのことはしたいと思った。
 美里は携帯電話を強く握り、
「遅くにすみません。紗希さん……。彩香さんが――」
「うん、わかった」
 受話口から端的な言葉が聞こえてきた。淡白な口調。しかし、確信めいた響きのある声色だった。
「相手は無事? 彩香は落ち着いてる?」
「はい。何とか」
「そっか。それじゃ、今から来られるね?」
 唐突にそう問われ、美里は動揺する。
「っ……? どこにですか?」
「さっきまで、美里がいたとこ。彩香も一緒に」
「えっ!?」
「花音もそこにいるから」
「花音さんが!? あの、彼女は無事なんですか?」
 美里の問いかけへの返答はなかった。代わりに受話口から聞こえてきたのは、
「とにかく、待ってるから」
 という、短い言葉だけ。そして、電話は切られた。
 状況を把握できず、美里は混乱する。しかし、紗希の言葉には、不思議と不安を感じさせない力があった。今は、彼女を信じるしかない。美里の戸惑いは決心へと変わっていた。
 美里は濡れた頬を拭い、そっと彩香から身体を離した。そして、
「行きましょ。紗希さんのとこ」
 彩香のサンダルを拾い上げ、彼女の足元にそっと置く。彼女の手を、両手で包み込む。
 少し冷えた夜風が、二人の頬を撫でていく。
 視線がぶつかる。彩香はコクリと頷いた。まるで幼子のように。



END

【 piece : 一通のメール 】

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 二つのサンダルが、地面に転がっていた。
 彩香は、自分が裸足になっていることを気にも留めていないようだった。もはや無抵抗となった勇作の腕や足、胸や腹を力任せに蹴る。踏みつける。踵を叩きつける。
 鈍い音が幾度も響く。時折、骨の損傷音が混じる。彩香の白い脚が、赤黒く飾られていく。
 いつも学校で見ていた明るく、溌剌とした雰囲気は、今の彩香からは全く感じられなかった。
 ――私が、何とかしなきゃ!
 美里は何とか自分を落ち着けようと、深呼吸をする。
 勇作の肢体が不自然に歪み始めた頃、彩香は跳び上がり、男の腹の上に臀部を落とした。わずかに男の身体がくの字に曲がり、再度、口から黄ばんだ液体を吹き出す。既に彼に意識はない。しかし彩香は、彼の腹上に座ったまま、右から、左から、彼の顔面に容赦なく拳を叩きつける。その時――
「や、やめて! もう……、もうやめてくださいっ!」
 美里の喉から、大きな声が吐き出される。それを機に、美里は体全体で彩香に跳びかかった。
 彩香は本来の目的を忘れているようだった。身体に纏わりついてくる美里に構うことなく、容赦ない追撃を勇作に加えていく。美里は懸命に叫んだ。押さえつけようと必死になった。しかし、彩香の力は、今の美里の及ぶところではなかった。手加減を忘れた人間の怖さを、美里は身をもって感じていた。
 勇作の顔は腫れ上がり、今や人相自体が変わっていた。
 彩香はくるりと体勢を変え、脚で彼の背後から喉を絡め取る。太腿絞め――チョークスリーパーの変型だ。その脚が急所をしっかりと捉えていることは、格闘技経験者の美里にはよくわかった。そして、今の彩香がそれをすることの危険性も――
「お願い! 彩香さん! その人、……死んじゃう!!」
 美里の必死の叫びも、空しく宙に舞う。
 彩香の太腿は勇作の喉に深く喰い込み、それに伴って、彼の口から泡のようなものがブクブクと溢れてくる。彼の表情は見る間に赤くなり、やがてすうっと青くなっていく。身体が痙攣し始める。股間が濡れ、血液と混じって異臭を放つ。
「あっ!……ぐうっ」
 その時、苦悶の声を上げたのは美里だった。
 彩香が身体を捻った拍子に、彼女の肘が美里の左肩の傷口を抉ったのだ。
「く……、うぅ……」
 鋭い痛みを感じ、美里はたまらず彩香の身体を離れた。そして、がっくりと項垂れた。
 美里にとっては、これが最後の賭けだった。ここで止められなければ、間違いなく相手が死ぬ。美里はそう確信していた。自分の不甲斐なさ、力の無さをあらためて感じ、自責の念に駆られる。瞳から、涙が止め処なく溢れる。
 次の瞬間、美里の耳に意外な音が飛び込んできた。ゆっくりと顔を上げる。そこには、地面にへたり込み、嗚咽を漏らす彩香の姿があった。
「美里……。ごめんね、美里……。私のせい……、怪我……」
 とぎれとぎれに聞こえてくる単語に、美里は安堵し、涙を流した。それがどんな感情から来るものなのかは、美里自身にもわからなかった。ただ美里は、すすり泣く彩香に、
「大丈夫です。……大丈夫」
 と、優しく声をかけた。頬を濡らしたまま、精一杯の笑みを浮かべて。

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 勝負は圧倒的だった。
 彩香は、男――勇作の髪を掴んだまま地に足をしっかりと付け、立てた膝に彼の顔面を叩きつけた。
 それが、終わりの始まりだった。
 勇作の悲鳴が上がり、ナイフが転がる。間髪入れず、彩香は彼の髪を引っ張って胸元に寄せ、背中に膝を、腹に肘を、同時に突き立てる。手を放すと、彼は仰け反り、背中から地面に倒れる。彼の両手が顔を庇うより先に、足が顔面を踏み潰す。彼は為す術もなく崩れ、身体をピクピクと痙攣させた。
 その一連の攻撃は、実に素早く、容赦のないものだった。
 勇作の顔は傷と血と痣に彩られ、歪に変形している。数本の歯が欠け、鼻からは血液が止め処なく溢れてきていた。
 彩香の圧攻を前に、美里は全く動けなかった。
 相手が悪者だからではない。止める理由がなかったからでもない。刺された肩の痛みが酷かったわけでもない。ましてや、彩香の動きが見えなかったわけでもない。
 ただ、恐ろしかった。手足は震え、思考は停止し、身体は動かなかった。動かすことすら忘れていた。
 ――これが、……彩香さん?
 美里に思考が戻ってくる。しかし頭を過るのは、そんな不思議な疑念だった。
 無様に倒れ込んだ勇作を見た彩香は、声を上げて笑った。まるで奇声のようだ。そんな風に、美里には思えた。彩香は彼の足を掴み、追撃する素振りを見せる。美里に再度、恐怖心が舞い戻る。
「さ、彩香さんっ」
 何とか振り絞った美里の声も、彩香の耳には届いていないようだった。彩香は勇作の両足を持ち上げて開き、自分の腰の位置に固定すると、彼の股に足の裏を叩きつけ始めた。
「ぐあぁっ! いっ!……ぎゃあああっ!!」
 必死で股間を守ろうとする勇作の手までもが、みるみるうちに腫れ上がっていく。彼が絶叫する。許しを請う。しかしそれらは、彩香の攻撃に拍車をかけるものでしかなかった。
「悪いやつ……、こいつ。もっと叫べよ、ほぉらっ!……ふふっ、あっはははっ!」
 ケタケタと笑いながら、彩香は何度も足を振り下ろす。しかし、その目は決して笑っていない。
「助け……ぐうぅっ。た、……があっ! た、助けてええっ……」
 勇作は口から涎や黄ばんだ液体を飛ばしながら、必死の形相で声を絞り出す。やがて彼のハーフパンツの中心部から、じわりと赤い染みが広がった。
「や……、やめ……」
 美里の声は言葉にならなかった。――怖い。
 鬼気迫る彩香の様相に、美里は全身の震えが止まらなかった。さっきまで自分の身が危険に晒されていたことなどとっくに忘れ、美里は相手の無事を祈った。嵐のような彩香の猛攻が止むのを待った。
 やがて彩香は、勇作の両足から手を放した。
 彼には既に、のた打ち回る力も残っていないようだった。白目をむき、大きく開いた口から舌がダラリと零れている。彩香はゆらりと身体を揺らめかせながら、息を荒げていた。
 美里は礼を言うのも忘れ、安堵の息を吐いた。しかしその安心は、
「ちゃんと、……殺してやるから」
 彩香の非情な言葉によって吹き飛ばされた。
 昏倒している勇作をじっと見つめ、彩香は再び声を上げて笑った。

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 埠頭に吹く風は、徐々に勢いを弱めていった。
 波のせせらぎが、却ってその場の静寂を物語っている。
 ほのかな灯りの下で、花音は携帯電話のボタンを忙しく叩いていた。
 目線を携帯電話から逸らさぬまま、花音は咥えていた煙草を片方の手でつまむ。既にフィルター近くまで火が達し、短くなっていた。ふうっと紫煙を吐き出し、椅子代わりにしている晋介の手の甲で煙草を揉み消す。彼はビクッと大きく身体を反応させ、再び動かなくなった。その時――
「いい加減にしな」
 短く鋭い女の声が飛び、花音は携帯電話を地面に落とす。そして、
「だ、誰?」
 弱々しい声を発する。それと同時に、さりげなく立ち上がり、晋介から離れた。
 花音は、素早く携帯電話を拾い上げ、そのまま送信ボタンを押す。
 声の主は黙ったまま花音に近づいていった。花音は瞳を潤ませ、
「怖かった……」
 震える声でそう言った。それでも声の主は言葉を発しない。
「ねぇ、助けて……。この男が、突然――」
「……空寒い演技はいいから」
 ばっさりと花音の言葉を断つ。その時、花音の動きがピタリと止まった。
 女は花音のすぐ側にまで近づいていた。艶やかなボブカットがさらりと流れる。女はその視線を倒れた男に向け、
「派手にやったもんだね」
 落ち着いた口調で、そう言葉を重ねた。それを聞いた花音は、怯えたような声で捲し立てる。
「あなた、何なんですか? わたしは被害者なんですよ? それに、初対面でそんな言い方……」
「ん? デジャヴかな? つい先日も、同じような光景を見たんだ」
「…………」
「それにしてもよく似てる。あの時も血塗れだったかな」
「…………」
 ボブカットの女――紗希は、花音の瞳をじっと見つめた。
 花音は、大きなため息を吐いた後、
「ふーん。バレてんだ」
 口元にうっすらと笑みを零した。その目は据わり、口調は一変して落ち着いていた。
「で? あんたは誰なの?」
「誰でもいいでしょ?」
 紗希は、花音の問いかけをさらっとかわす。しかし、花音も臆する様子は全く見せない。
「じゃあ、何しにこんなトコまで来たわけ? まさか、警察とかバカなこと言わないよね?」
「言わないよ」
「それじゃ、何? 関係ないでしょ? マジウザいんだけど」
「うちの美里が、ここにお邪魔してないかと思ってね」
 紗希の声色は変わらない。しかしその瞳は、切り裂くような鋭さを湛えていた。

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 勇作が美里を発見するまで、それほど時間はかからなかった。
 ドスンという鈍い音とともに、美里は倒れた。制服の左肩が赤く色付いていく。美里はふり返り、
「……あ、あなたっ」
 驚きの声を上げた。
 勇作の手には、ナイフがしっかりと握られていた。鮮血が滴っている。随分と興奮しているようだった。目は血走り、必死の形相を湛えている。
 美里は肩を押さえながら身構え、彼を睨みつけながら、
「花音さんを……、どこへやったの?」
 力なく、それでも威嚇するように声を張った。しかし言葉の気迫に身体がついていかない。ふらりと足がよろめく。勇作は狂ったように笑いながら、
「連れてってやるよ! 来いよっ!!」
 と、叫ぶ。切迫したような、どこか狂気じみた彼の声に、美里は警戒心を強くする。
「本当ですね? 彼女は無事ですよね?」
「ったく、いちいち煩ぇなぁっ! ごちゃごちゃ言わずに来いよおっ!」
「はい。私、行きますから……。だから……、彼女には手を――」
「っ!?……い、いで、痛でででっ!」
 会話は、勇作の拍子抜けした声によって途切れた。彼は身体を仰け反らせたまま動かない。後ろ髪を、誰かが掴んでいるのだ。美里は戸惑いながらも、じっと彼の後方を見遣った。
「美里。……こいつ、悪いやつ?」
 聞きなれた声に、美里は、
「彩香さん!」
 とっさに名前を呼んだ。
 桃色の花の付いた白ワンピースに黄色いボレロを羽織り、可愛らしいサンダルを履いている。ストレートロングの髪。フレグランスの淡い香り。それは間違いなく彩香の姿だった。
 驚きと安心感が美里を包む。しかしすぐに、彩香たちへの不信感が蘇り、美里は複雑な心境になった。
「ねぇ。こいつ、悪いやつ?」
 彩香が再度、問う。美里は「そうです」と答えた後、
「でも、……これは私の問題です。彩香さんには、関係ありません」
 きっぱりとそう言い放った。
 苦痛に顔を顰めながら、美里は立ち上がる。
 ――これは私の問題。彩香さんには関係ない。助けてほしくない。自分で解決する。
 しかし、彩香はその美貌の中に呆けた表情を作り、
「何で?」
 至極、自然に美里に問うた。叫ぶ勇作には目もくれない。しかしその髪はしっかりと掴んだままだ。ナイフを持った彼の腕を捻り上げ、彩香はさらに言葉を続ける。
「悪いやつなんでしょ? 美里、血ぃ出てるじゃん。この悪いやつに、刺されたんでしょ?」
「それは……、そうです。でも…………っ!!」
 美里は絶句した。寒気がした。目の前にいるのは本当に彩香本人なのか、という疑念すら湧いてくる。
 彩香の目は大きく見開かれており、その瞳は光を全く感じさせない。口元には笑みを浮かべている。それなのに、決して笑ってなどいない。それが、彩香の表情に歪な影を覗かせていた。
「外でもさ。……こういう悪いやつなら、……やっていいんだったよね」
 それは普段の彼女からは想像もつかない、静かで低い声色だった。

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「ひいぃっ……」
 勇作の弱々しい声が、波風に乗って運ばれていった。
 緊張が限界を迎えたのかもしれない。それまで保っていた表情は崩れ、足はガタガタと大きく震えて止まらない。今にも腰を抜かしそうだ。喉からは擦り切れるような異音を放っている。
「勇作は……、わかってるよね?」
 俯き、ふり返ることなく、花音が静かに語りかける。勇作はあからさまに怯えた様子を見せた。彼女の問いかけへの答えに窮している、といった風だ。沈黙に耐え切れなかったのか、彼は、
「はいっ!」
 威勢良く返事をする。しかしその声の見事なまでの裏返りが、勇作の嘘を明確に示していた。
 花音がふり返った時、勇作は顔面蒼白になっていた。硬直したまま、全身を小刻みに震わせている。額に滲んだ汗が、頬を伝って流れ落ちる。そんな彼の瞳をじっと見つめながら、花音は、
「……バレバレ。その気合いはわかったけどさ――」
 と前置きし、無表情のままで勇作にゆっくりと近づく。そして、
「嘘は言わなくていいよ」
 言葉を紡ぐと同時に、勇作の鳩尾を拳で小突いた。彼は身体をわずかに折り、
「はいっ! すみません!」
 と、頭を下げる。花音は、彼の髪を掴んで顔を持ち上げた。射抜くような瞳で彼の目を見つめ、
「あの子はね。お前たちみたいなカスより、よっぽど利用できるの」
 ゆっくりと、切り捨てるように言った。勇作は反射的に肯定の意を表す。もはや彼女に従う他に術はないようだ。花音は紫煙を彼の顔に吹きかけ、短くなった煙草を地面に捨てる。それから、
「今から、もっと使える奴、呼ぶから」
 勇作の耳元で囁く。彼は背筋を伸ばし、またも「はいっ!」と声を張る。
「……どうするべきか、わかるよね?」
「はいっ! じ、自分が!」
「そう。察しがいいね、偉いよ。じゃあ……、早く連れ戻して来いよ!」
 花音が語尾を強め、勇作の髪を放す。彼はそれと同時に、
「はい! 行ってきます!」
 即座に走り出そうとする。しかし、
「ちょっと!」
 背後から、再び花音の声がかかる。
 勇作はピタリと足を止め、おそるおそるふり返った。直後、「ひっ」と声を上げる。花音がすぐ真後ろに立っていたからだ。彼の目の前には、花音の手が差し伸べられていた。
「忘れ物、あるよね? まさか犯れなかったからって、踏み倒すつもり?」
 そう言って、掌で勇作の顎をそっと撫でる。花音の目は据わっていた。彼はすぐさま、
「い、いえっ! とんでもないです! すみません!」
 頭を下げ、財布ごと花音に手渡した。花音は、
「物分かりがいいね。じゃ、行ってらっしゃい」
 そう言って、にっこりと微笑んだ。勇作は再度、深々と頭を下げ、逃げるように走り去った。
 静寂が辺りを包み込んだ。
 花音は、脱いだままになっていた片方のミュールを履きなおすと、晋介の前にしゃがみ込んだ。彼のポケットから財布を抜き取る。それから、優雅な面持ちで彼に腰掛け、再び一本の煙草に火をつけた。

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 花音の背後で、勇作は硬直していた。
 額に汗が滲んでいる。足は絶えず微震しており、時折、膝がカクンと折れる。立っていることすらままならない、といった風だ。呼吸も荒い。
 花音は、血塗れになったナイフを勇作の足元に放り投げ、苦悶の声を上げる晋介に軽蔑の眼差しを中てた。
 晋介は両足の自由を奪われ、今や立ち上がることすらできない。仰向けに倒れ込んだまま、
「本当に、本当にすみません! 許し……、許してください!」
 涙を流して訴える。しかし、花音に聞く耳を持つ様子は見られない。彼の傍らに立ち、
「入れ歯、ちゃんと作るんだよ」
 笑顔のままで膝を持ち上げ、ミュールの底をゆっくりと彼の口の前に翳した。
 晋介は悲鳴を上げ、
「す、すみません! ご、ごめんなさいいぃっ!!」
 と、喉から声を絞り出す。
 花音の口元が不敵に歪む。柔らかい声で、
「何? 怖いの?」
 と、晋介に言葉をかける。彼は目に涙を浮かべ、小刻みに、何度も首を縦に振った。
 花音が声を上げて笑う。膝を高く持ち上げ、
「死んじゃわないように、頑張ってね」
 嘲笑の混じった声をかける。
 晋介は狂ったように、繰り返し謝罪の言葉を口にした。
 花音が、翳したその足先で晋介の鼻先に軽く触れる。それに呼応するように、彼が短い悲鳴を上げる。一回、二回、三回、四回……。彼が再び失禁するまで、その「お遊び」が続けられた。彼の粗相を確認した後、花音はその足を彼の腹へと移動した。じわりと踏みつける。
「ぐうふっ……!」
 呻き声を上げた晋介を見下ろしながら、
「あんたをこんなに痛めつけたのって、誰かな?」
 花音が問う。気だるそうに紫煙をたなびかせ、威圧するような声色で、
「わたしかなぁ?」
 と、言葉を連ねる。晋介は花音の真意を捉えられなかったのか、
「…………」
 しばし沈黙する。その瞬間、花音のミュールの爪先が、彼の睾丸に勢いよく突き立てられた。
「んっぐ!!……んふううぅっ」
 晋介は片手で股間を押さえ、悶絶した。
 花音の足が、再び晋介の歯の上へと戻される。それに気付いた彼は表情を強張らせ、
「ち、ちちち、違います! 違いますうぅぅ!」
 慌てて返答した。花音はその言葉を聞いて、にっこりと微笑んだ。そして一言、
「そうだよね」
 と、囁いた後――、彼の口を潰すように、足を踏み下ろした。
 鈍い音が鳴り、晋介は白目をむいた。口から溢れた血液が、花音の黒いミュールを赤く装飾していく。
 花音が足を持ち上げる。幾本かの白い歯が、コロリと地面に転がった。

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「どこなの!?」
 美里は大男の耳元で声を荒げた。気圧されつつも男は、
「し、知らねえ!」
 と、虚勢を張る。しかし、美里は揺るがない。
「言ってください。……もっと酷い目に遭いたくなかったら――」
「こんなに強えなんて……。聞いてねぇよ……」
「答えて!!」
「ほ、本当のことだ! オレたちは、ただ紹介されただけで――」
「紹介? 花音さんを? 誰に?」
「……許してくれ。即ヤリできる女がいるからって聞いて。ここに来れば――」
「だから……、誰に?」
「それは、本当に……」
「言いなさい!」
「ぐ……、できねぇ」
「それが、あなたの最後の答え?」
「た、頼むから、これ以上は――、っ……!」
 言葉の途中で、美里は手加減をやめた。
 万力のような力が、大男の首を圧迫する。男はガクンと首を垂れ、気を失った。薄く開いた瞼の中は、白く反転している。口から止め処なく溢れる泡のようなものが、地面を濡らしていった。
 美里は大男に目もくれずに立ち上がり、
 ――捜さなきゃ!
 当てもなく走り出した。


 埠頭の片隅にある倉庫の陰から、花音と髭の男が同時に姿を現した。
 紫煙を燻らせながら、花音は黙ってゆっくりと歩を進める。髭の男も、彼女の後を追うように歩いた。
 二人が大男の側まで来た時、花音が、
「勇作。ちょっと貸して」
 と、背後にいる髭の男に手を伸ばす。ちらりと送られた視線の先には、彼の持つナイフがあった。
 勇作は戸惑いを隠せなかった。震え始めた彼の様子を意に介す素振りもなく、花音は彼の手からナイフを掠め取る。そして、倒れた大男の左太腿にソレを振り下ろした。彼女には、躊躇の欠片も見られなかった。
 鮮血がほとばしる。背後で、とっさに勇作が「ひっ」と声を上げる。
 大男は、意識を取り戻すとともに絶叫し、地面を転がって悶絶した。しかしその動きも、すぐに止められる。右手首を踏まれ、男の身体は仰向けのまま固定された。
 手首に置かれた足から脚、腰、腹――と、大男はゆっくり視線を上げていった。淡い期待に縋りたかったのかもしれない。額の汗と全身の震え、荒い息。それらが、彼の極度の緊張を表している。視線が花音の顔へと到達した時、男は悲鳴を上げ、失禁した。
「使えない男だね、晋介は」
 花音が言う。柔らかい口調だ。満面の笑みを湛えた彼女を前に、大男――晋介の息遣いはますます荒くなっていく。
「しかも、余計なことまでペラペラと……」
 表情を変えぬまま、花音は晋介の手首を強く踏み躙る。
「ぐあああっ!……す、すみません! つい――」
 言葉を最後まで聞かず、花音は晋介の右太腿にもナイフを捻じ込んだ。
「いっ!……があああああっ!!」
 血飛沫が、冷たいコンクリートを赤く染めていった。

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 美里は体勢を崩さぬまま、身を硬くした。
 コンクリートを擦る音。くぐもった花音の声。ニヤけた大男の視線――
 事は、後方で起こっていた。
 波風の音に紛れていたとはいえ、その異質な気配を感じられなかったことを、美里は悔やむ。
「悪ぃな」
 男の声が、もうひとつ。
 大男を視界に捉えつつ、横目で背後をちらりと確認する。想像に難くない光景に、美里の神経はますます研ぎ澄まされた。
 手で口を塞がれた花音。その喉元には、ナイフが突きつけられている。彼女の肩越しに見える、もうひとつの悪意。大男より幾分年輩に見えるのは、口周りを覆う髭のせいかもしれない。
「来い」
 髭の男が、花音を引きずるようにその場を離れていく。美里はとっさに、髭の男に向かって足を踏み出そうとする。しかし、それは叶わなかった。
「ちょっと、ちょっとぉ。それはないでしょぉ?」
 下卑た笑いを浮かべた大男が、美里の腕をがっしりと掴んだ。美里は顔を顰め、目を伏せる。そして、
「あまり時間が取れないので……」
 ふうっと息を大きく吐く。
「すぐに終えさせていただきます」
 言葉を紡ぎ、美里は鋭い視線を大男に向けた。
 美里は掴まれた腕を力いっぱい自分の方へ引いた。大男は虚をつかれ、「あっ――!」という声とともに前方につんのめる。その隙を逃さず、美里は男の顔面に膝を突き立てた。
「ぎぃあっ!」
 大男がよろめく。その手は美里の腕を離れ、顔へと導かれる。鼻や唇から噴き出した血液が、男の指の隙間からポタポタと滴り落ちる。美里はすかさず、隙だらけになった男の睾丸に、強烈な前蹴りを叩き込んだ。
「ぐあああっ!」
 大男の身体がくの字に曲がり、体勢が低くなる。美里は間髪入れず、天に向かって足を高く振り上げた。素早い動作は、男に体勢を整える暇を与えない。次の瞬間には、前に差し出された男の頭に、美里の踵が勢いよく叩きつけられた。
「うっ……ぐうぅ……」
 力ない声とともに、男はその大きな身体を地面に落とした。

 波風が再び、耳元で大きな音を立てた。
「花音さん!」
 周りをぐるりと見回す。既に、花音の姿はどこにも見当たらなかった。
 美里は昏倒している大男に視線を戻す。腕を男の首に絡め、ぐいと引き上げるように背後から絞めた。喉が強く圧迫され、男は激しく咳き込む。呻き声を漏らす。青ざめ、もがく。しかし、がっちりと決まったチョークスリーパーは解けない。
「……花音さんは、どこですか?」
 そう問うた美里の瞳は、冷たい光を宿していた。

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 夜風が春の匂いを運んでくる。
 走る美里の足取りは軽かった。たまに吹きつける強風が、制服のスカートを幾度も持ち上げる。普段の彼女であれば、下着を隠すことで頭がいっぱいになっていたかもしれない。だが今は、これほどまでに強い風の存在が、むしろ有難い。背中を押してくれている。自分の進むべき道を示してくれている。そう感じられたからだ。全身を撫でていく風に、美里の顔は綻ぶ。
 ――話って、何かな?
 走りながら、美里は再度、携帯電話をちらりと見る。
 込み入った相談かもしれない。そう思うと、わずかに不安を覚えた。しかしそれ以上に、とにかく家を離れて遠くへ行きたい、という気持ちが、今の美里を突き動かしていた。花音とたわいない話が出来たら、この憂鬱な気分を吹き飛ばせるかもしれない。そんな期待を抱いていた。
 美里の大地を蹴る足が、次第に速さを増していった。


 埠頭のその光景は、美里の淡い希望をあっさりと打ち砕いた。
「やめて……。やめて、ください……」
 力なく懇願する花音の腕を、ひとりの男が掴んでいる。大柄だ。百九十センチ近くはあるかと思われる。二十代後半ほどだろうか。花音の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
 フェミニンなイメージを強調した、お洒落なコーディネートだ。
 黒いカットソー。白いティアードスカート。薄い黒ストッキング。身に着けたそれらが、男の引っ張る力によって、今にも破れそうになっている。クロスストラップの付いた漆黒のミュールの片方は、少し離れた場所に転がっていた。
 花音は、半ば諦めたような表情を湛えながら、それでも懸命に抵抗している。彼女の様子を見ているうちに、美里の心は悲しみに満ちた。そしてそれは、みるみるうちに怒りの感情へと変わっていった。
「彼女を放して……」
 俯いた美里の喉から発せられたのは、叫びでも怒声でもない。鋭く低い、威圧感のある声だった。
 二人がその声に気付く。
 美里は瞬時に二人の方へと駆け寄り、手刀を大男の手の甲に叩きつける。大男がわずかに怯む。美里はその隙を逃さず、素早く二人を引き離すと、花音を背に大男と対峙した。
 大男は、物怖じひとつすることなく、
「おぉっ。お友達? 勇ましいねぇ。んー、可愛らしいね」
 粘ついた声を出し、美里を見下ろす。
 身長差が三十センチ以上もある二人が向き合った姿は、まるで大人と子どものようだ。それでも美里は臆することなく、食い入るように大男を睨む。そして、
「花音さんを返してもらいます」
 と、言い放った。
 大男の拳が唸り、美里の頬を掠める。美里が花音の方をふり返ろうとした、まさにその時だった。
「あり得ない。それ、あり得ないから。ボクのコレ、もうビンビンだもんね」
 股間を指差し、大男が下品に笑う。
 美里は黙したまま、すっと半身を引いた。

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 彼が着信音に気付いたのは、家に入った後だった。
 携帯電話に浮かぶ「渚」の文字。廉太郎の手が俄かに震える。ゴクリと喉を鳴らし、目を泳がせる。手が汗ばんでくる。彼が受信ボタンに手をかけるまでには、随分と時間がかかった。
「もしもし」
 上擦った声色が、彼の心境を物語っていた。昨晩叱責を受けたばかりの彼にとっては、それが自然な反応と言えるのかもしれない。再び唾を飲み込む彼の耳に、
「遅いよ」
 渚の声が届く。
 廉太郎は反射的に「すみません」と口にしたが、その表情にはわずかな安堵の色が見える。渚の声が、予想外に穏やかだったからかもしれない。彼女と会話が出来たこと――それ自体が、彼の心を和らげたのかもしれない。
「ちょっと気になることがあって。今、美里ちゃん、いる?」
 渚の言葉の意味がすぐに捉えきれなかったのか、廉太郎はすぐに言葉を発せなかった。まだ頭が混乱している様子だ。それでも、黙って返答を待つ渚の落ち着いた態度に安心したのか、彼の手の震えや汗は既に治まり始めていた。
「い、いえ。今、ちょうど友達から連絡が入ったみたいで……」
「……出かけたんだね」
「はい」
「誰からの連絡?」
「え……、と。それはちょっと、わからないです」
「そっか……」
 一瞬の沈黙。そしてすぐに、
「ん、わかった。ありがと、先生」
 平然とした渚の声が響く。
 廉太郎は、携帯電話を握る手にぐっと力を込めた。そして、
「あの。一体、何が起こってるんでしょうか?」
 意を決したように疑問をぶつける。その語調は強い。返答しない渚に対し、
「僕は未だに、渚ちゃんに叱られた理由すらわからないんです」
 声を絞り、縋るように言葉を連ねる。息を荒げ、返事を待つ廉太郎に、
「……昨日は、いきなり怒ってごめん」
 渚の小さな謝罪の言葉が届く。「いえ、そんなことは――」と恐縮した彼の言葉に、
「でも、今は時間がないんだ」
 渚の言葉が重ねられた。毅然とした口調だった。
「不安にさせてごめんね。でも、今は私を信じて」
「渚ちゃん……」
「明日も仕事なんでしょ? 応援してるから。頑張って、先生!」
 溌剌としたその言葉を最後に、電話が切られた。
 廉太郎は唇を噛み、虚ろな瞳で天井を見上げた。彼の拳が、ほんの少しだけ強く握られた。

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