Black Onyx [ブラックオニキス];2009/ 01の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2009年 01月 に掲載した記事を表示しています。
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 派手な電飾看板とは裏腹に、店内は実に質素なものだった。
「いらっしゃいませ!」
 軽快に響く威勢の良い声が、今の俺には少し鬱陶しく思えた。
「お一人様ですか?」
 バイトらしき若い女の店員が、張り切って声をかけてくる。俺は虫の居所が悪かった。
「……見りゃわかるだろ。一人じゃ悪いのか?」
「あ、いえ。決してそのような――」
「じゃあ、一匹にでも見えたのか?」
「と、とんでもないです。あの、お席へご案内します」
 うわべを飾った笑顔の奥から、戸惑いと嫌悪感が透けて見える。俺は鼻で笑い、後に続いた。
 名も知らぬウィスキーを、ロックで何杯も仰ぐ。不味い。それでも注文を繰り返し、その都度、喉に流し込むようにグラスを傾け続ける。とにかく全てを忘れたかった。
 どれだけの時間そこに腰を落ち着けていたのか、見当もつかない。
 気付けば、店にいた客のほとんどが姿を消していた。先ほど俺を案内した女の店員が、閉店の旨を伝えに来る。決して居心地の良い店だと思っていたわけではなかったが、俺は従う気にはなれなかった。
「……出たくねぇんだよ」
「ですが、そういうわけには……」
「金は、後でちゃんと払うからよ」
「すみませんが、営業時間が決まっておりまして」
「……お前も、俺に、指図するのか?」
「いえ、決してそのような――」
「いちいちうるせぇ女だな!」
 感情に任せてグラスを床に叩きつける。――破裂音。同時に響く、悲鳴とざわめき。それらは、とても遠くから聞こえた。激情に駆られた俺は、
「そんなに俺が邪魔かよ。あ?」
 席を立ち、女店員の胸座を掴み上げる。女の表情は、見る間に恐怖の色を湛えていった。
 その時――
「……女に暴力をふるうのが、宇崎さんの言ってた男らしさ?」
 聞き覚えのある、落ち着いた声が背後から聞こえた。
 腕をぐいと捻り上げられ、悲鳴を上げる。振り返ると、シャギーの茶髪がまず目に入った。切れ長の目に薄めの唇。そこにあったのは、元同僚の日野の顔だった。動揺する俺を横目でじっと見る。その眼差しからは、俺に対する明らかな軽蔑の念が窺えた。
 日野は何枚かの札を店員に渡し、頭を下げた。それから俺を、無理矢理、店の外へと引きずり出す。俺には為す術がなかった。彼女は俺の身体を、路上にドンと押し出す。そして――
「ぐほおぉっ!!」
 俺の腹を拳で突き上げた。
 内部にまで響く衝撃に、俺はたまらず地面に横たわる。呼吸ができない。彼女はさらにパンプスの爪先で俺の腹に追撃を加え、そのままグリグリと内部を抉った。
 俺は堪えきれず、胃の内容物を勢いよく路上にぶちまけた。

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「パワハラ?」
 PC画面に釘付けだった日野の視線が俺に移る。
「そう。……訴えようかと思って」
「部長を?」
「うん」
「それで? 具体的には?」
 話に興味を抱いたのか、日野が身を乗り出す。俺も同じように、身体を彼女の方へ向けた。
 互いに身を寄せ合い、声を小さくする。ざわついた課内ではあるものの、こういった繊細な事柄に関しては、警戒してし過ぎることはない。俺は思い切って、昨日、相談室内であったことの全てを告白した。
「……だから、俺は部長を――」
「馬鹿じゃないの?」
 日野は吐き捨てるような口調で、俺の言葉をばっさりと切った。彼女はさらに言葉を重ねる。
「謝罪を強要され、手の甲をヒールで踏まれました。その時に、宇崎さんは何て言ったって?」
「あ、……ありがとう、…………ございます、って」
「頭を踏み付けられて、何て言ったって?」
「あ、あ……ありがとうございます、です」
「涙まで流して、そう言ったんだよね?」
「うぅ……」
 日野は大きなため息をひとつ吐く。
「それで、その言葉は強制されたもの? それとも、本心から?」
「それは……んっ、と……」
「……宇崎さん自身は、仕事を辞めたいの?」
 その言葉に動揺した自分に驚いた。確かに俺はこの会社が嫌いだ。しかし、現実に仕事を辞めることになるかもしれないと、真面目に考えたことはなかったのかもしれない。
 口ごもってしまった俺を余所に、彼女はなおも言葉を続ける。
「きつい言い方だけど、もともと営業成績も良くない上に訴えたりなんかしたら、まず一生、出世はできないよ。結果的に、辞めることになるかもしれない」
「…………」
「その覚悟があるなら止めないけど」
「俺は……仕事なんて……、あ、でも……、――うっ!」
 突然、日野の拳が俺の鳩尾に喰い込んだ。
「か……、あっ、ぐ……」
 涎を垂らして呻く俺の瞳を、日野がじっと覗き込む。彼女の瞳は呆れ返っているように見えた。
 日野がようやく俺の腹から拳を引き抜いた時、俺は即座に身体を小さく丸めて悶絶した。
「私は男らしくない人は嫌いなの。覚悟もないくせに」
 彼女はそう言い放ち、俺の睾丸をぐいと握る。絶叫しそうになるのを必死で堪える。
「一応ついてんだ。宇崎さんは、単なる負け犬ね」
 ――犬……。また……犬。俺は……、俺は……
 気付くと立ち上がっていた。
 内臓をかき回すような鈍痛に耐えながら、俺は課を飛び出した。

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「あなたは昨日の……。何かございましたか?」
 閉店の準備をしていた占い師を前に、俺は息を切らしながら、
「あったどころか……、もう最悪だよ!」
 溜め込んだストレスをぶちまけるように、大声を上げてしまう。彼女は驚いた様子ひとつ見せず、
「そうですか」
 と、答える。あまりにも淡白なその口調に、俺は感情を抑えきれなくなる。
「そうですかって……。その態度はないだろ? もとはと言えばあんたが――」
「私が?」
「そうだよ! あんたが占ったことで気になって、会社で失敗ばかりして……」
「私は、注意なさいと申しただけです」
「何に? それをちゃんと説明しろって言ってるんだよ! 犬って、会社の犬ってことか?」
「…………」
「じゃあ、あの部長の犬か? とにかく、どういうことなんだ?」
「詳しい説明はできません。ただ、私は今言える最大限のことを申したつもりです」
「無責任だ! もともとあんたが占ったから、こうなったんだろ!」
「……では、もう私は占いません」
「っ……!」
「原因を見誤ってはいけません。私はあくまで、その原因に繋がるキーを申しただけのこと」
「…………犬、……注意する?」
「そう。少なくとも、私はできる範囲でそれを示しました。それでご不満なら――」
「ちょ、待ってくれ。……わかった。わかりました。だから、やめないでください」
「ご理解、ありがとうございます。ではどうぞ、あと二日のご様子見を」
「でも、その……。今のままでは明日もまた……。そう思うと怖くて。俺はどうしたら?」
「わかりました」
 そう言うが早いか、占い師は俺の目の前に両手を翳した。「目を閉じて」と呟き、何やら呪文のようなものを唱え始める。絵に描いたような胡散臭さだ。しかし、これで少しでも不幸が避けられるのなら……
 俺は藁にもすがる思いで瞼を閉じた。

 数分と経たないうちに、その儀式らしきものは終わった。
 占い師がうっすらと額に汗を滲ませながら、口を開く。
「現状に従うか、それとも打開するか。それはあなたの自由です」
「もちろん、打開したいに決まってる!」
「その小さな打開が、後に大きな災いを招くとしても?」
「……そ、そうなのか?」
「それはあなた次第です。災いは必ずしも不幸と同一ではありません。あなたに幸あらんことを」
 占い師は一度大きく手を掲げ、すぐにその手を下ろす。「お代は結構です」と言い残し、彼女は店の奥へと入っていった。
 疑問を挙げたらキリがない。喰らいついたところで、余計な疑問が増えるだけかもしれない。
 そう思い、俺は仕方なく店を後にした。

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 コッ――、と爪先が目前に迫り、俺は項垂れた。鼓動が高鳴り、握った手は汗ばんでいる。
「新しい言葉、まだ覚えられないのかしら?」
 常盤部長の声が狭い室内に響く。さっきとは打って変わった優しい声色だ。それでも、
「すみません。……すみません」
 俺の口から出るのはその言葉だけだった。と――、突然、刺すような痛みを感じ、
「ぐあぁぁ……あっ……!」
 思わず声を上げる。見れば、彼女のヒールの先が、俺の左手の甲を押し潰していた。踵を軸にして爪先を振り、俺の手を踏み躙る。ほとばしる激痛に俺は悶声を上げ、無意識に四つん這いの体勢を取る。
「な……何を……? うぎいぃっ……」
「痛いでしょ? だったらほら、しっかりと謝罪してみせなさい」
 常盤部長は、なおも俺の手の甲を嬲り続ける。俺は身体を丸め、痛む左手に反対の手を添える。
「う……ぎぃああぁ!」
「新しい言葉どころか、日本語も忘れちゃったのかしら?」
「ひぃ……いっ……があああっ!」
 手の甲の一点が紫に変色していく。彼女はそこでようやく足の力を緩めた。ヒールの先が俺の手から離れる。痛みから解放された俺は、
「あ、ありがとうございます」
 安堵感から、ついそう口走っていた。自分でも信じられない言葉だった。
 戸惑う俺を余所に、常盤部長は俺の前にしゃがみ込む。手の甲を押さえて未だ苦悶する俺の頭を、柔らかい手がそっと撫でた。顔を上げる。目に入った彼女の表情はとても穏やかだった。そして――
「どうしようもない奴」
 そう吐き捨て、俺の頬を張る。唐突な行為に、俺はますます動揺する。常盤部長はそんな俺を見ながら「土下座しなさい」と、命じた。
「口が駄目なら態度で示しなさい」
 俺には、そう言葉を紡いだ彼女に逆らう気力すら残っていなかった。背筋を伸ばし、正座する。そして、言われるがままに、頭を深々と下げた。
 その時、後頭部に強い力が加えられた。前のめりに倒れ、頬を床に擦り付ける格好となる。その頬が、強い力で押し潰されていく。硬くて冷たい。その感触の正体は、常盤部長の靴底だった。床とヒール靴に顔を圧迫されながらも、
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
 俺はさっきより大きな声で、感謝の言葉を口にしていた。なぜか自然と涙が溢れてくる。そんな自分がひどく情けなく思えた。彼女の嘲笑が耳に響く。
「あなた。まるで犬だね」
 頭上から聞こえてきた言葉が、俺の胸に突き刺さった。

 相談室を出て課に戻った時には、すっかりひと気がなくなっていた。
 常盤部長は何事もなかったように、早々に支度を済ませて退勤していった。
 俺はひとり、机に座ってしばらく放心していた。時が経つにつれ、彼女に対する怒りが再び沸々と煮えたぎってくる。俺は犬じゃない……犬じゃない!
 感情のままに小さな紙切れを手に取る。――サティーン。それは占い師にもらった名刺だった。

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『犬です。……注意なさい』
 昨日の占い師の言葉を思い出す。
 ――犬……。会社の、犬……? 冗談じゃない!
 嫌な考えを振り払いたくて、無意識に湯のみに手を伸ばす。並々と注がれた冷めた茶。そこでふと思い立ち、課内をぐるりと見回す。――いた!
 課の一角。そこに相川さんの姿があった。目が合う。彼女は昨日と変わらぬ穏やかな笑顔を見せてくれた。俺も微笑み返し、茶を掲げてぐいとそれを飲み干す。彼女がそれを見てくすりと笑う。俺の心の奥がすっと楽になっていく。彼女の口が「頑張りましょうね」と動いたように見えたのは、俺の錯覚だったのかもしれないが。
 所詮占いじゃないか。こんなことで振り回されるなんて、馬鹿らしい。今日はたまたま、悪いことが重なっただけだ。そう自分に言い聞かせ始めた頃、背後から声がかかる。
「宇崎さん。ちょっといいですか?」
 予想はしていたが、やはりその瞬間が来るのは嫌なものだ。
「……はい」
 振り返ると、薄い黒ストッキングが真っ先に目に入った。視線をゆっくりと上げていく。見慣れた臙脂色のスーツの上には、想像通りの顔があった。常盤部長だ。その瞳は冷たい光を宿していた。俺を見下ろしながら、顎だけで指図する。俺は促されるまま、相談室へと連れて行かれた。

 狭い。
 中に入るのは初めてだった。設置された電灯は薄暗く、入口についている曇りガラスを除けば、この部屋には窓ひとつない。俺を招き入れた常盤部長が内側から鍵をカチリとかけた時、この部屋は完全な密室と化した。相談室とは名ばかりの部屋。実際、社員の間では懲罰室と呼ばれているほどだ。現在のように、普段は開放されている入口の扉が閉まっている時は、誰もここには近づかない。
 常盤部長は扉を背に、俺をじっと見据える。コツコツとヒール音を鳴らしながら、ゆっくりと俺に向かって歩を進める。彼女が目の前に立った時、自分の方がわずかに背が低いことに気付いた。妙な威圧感を受け、自然と額に汗が滲む。彼女は腰に両手を当てたまま俺をじっと見下ろした。そして、いつものようにウェーブのかかった髪を一度かき上げると、
「何なんですか、あのザマは」
 威嚇するような声色で口火を切った。
 俺にとっては心当たりが多すぎる問いかけだった。今日は何をやってもうまくいかなかった。どのことについて言われているのかもわからなければ、それに対してどう答えたものかもわからない。
「すみません」
 俺は項垂れ、とにかく言い慣れたその言葉を口にする。常盤部長は鼻で笑い、
「またそれ? その後は、部長にはいつもご迷惑をおかけして……って続くのかしら?」
 嘲るように言い捨てる。彼女は、黙したまま目を伏せる俺にさらに一歩近付き、
「ふざけんじゃないよ……!」
 と、低く、ドスの効いた声で俺に詰め寄った。
 冷や水を浴びせかけられたように感じた。腰が抜け、俺は無様に床にへたり込んでしまった。

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 納得がいかない。気味の悪さともどかしさが、同時に芽を出す。
 いそいそと商売道具を片付け始めた占い師を見ながら、
「おい。どういう意味だよ。犬って……噛まれたりするのか?」
 と、訊ねた。しかし彼女は素知らぬふりで片付けを続ける。まるで関わりたくないといった風だ。俺はいよいよ不安が大きくなり、
「ちゃんと説明してくれよ!」
 大声を出してしまう。いつの間にか俺は占い師の腕を掴んでいた。
 細くて柔らかかった。ついと上げた彼女の顔を見た時、俺の胸が大きく高鳴る。ヴェールの上から覗く瞳が、想像以上に美しかったからだ。
「放してください」
 弱々しい声でそう訴えられ、俺は我に返る。思わず手を放す。しかし、当然、不安は払拭されない。俺は深呼吸をし、なるべく冷静な声で言った。
「すみません。でも、これはあんまりじゃないですか?」
「…………」
「あなたは私を呼び止めましたよね?」
「はい」
「それで私を占った。……勝手に」
「はい」
「それなら、さっきの言葉の意味を、しっかりと説明してくれるのが筋じゃないですか?」
「…………」
「驚きませんから、ちゃんと教えてください」
 占い師はしばらく黙ったままだった。しかし俺としても、ここで引き下がるわけにはいかない。変に気になって仕事が手につかなくなることだって考えられる。妙な不安を抱えて生活したくもない。
 しかし占い師は、最後まで答えらしきものを口にしなかった。この場ではとても言えないからと言い、代わりに名刺をよこした。そこには大きく「サティーン」と書かれていた。当然、本名ではないだろう。脇には店の名前と所在地、電話番号が記されていた。彼女が落ち着いた声でゆっくりと話す。
「ここ数日で突然何かが変化する、というわけではありません。その点はご安心ください」
「いや、でも……」
「今日の分のお代は結構です。どうぞ三日間、様子を見てください。その間に何か異変があるようでしたらこちらへ」
 そう言って占い師は、名刺の所在地を指差す。腑に落ちない点は多々あったが、彼女が片付けを終えてその場を去るまで、俺は口を開くことができなかった。

 次の日は会社の仕事が全く手につかなかった。心のどこかで昨日の出来事が気になっていたのだ。
 商談は自分の失敗で決裂。電話の応対もうまくいかない。パソコンでの入力作業にもやたらと時間がかかる。単なるコピーすら部数を間違える。そんな具合だ。
 一日が終わる。
 次々と退勤していく同僚たちを横目に、俺は今日も残業を余儀なくされた。

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 騒音たちこめる街並みを足早に歩いていた。
 毎日のように続く残業に、俺は心底疲れていた。
 突き刺さるような寒気が肌に痛い。我が身を守るようにコートの襟を持ち上げ、俺は帰路を辿った。
「お客さん!」
 呼び止める声に、ふと目を遣る。妙に切迫した口調が気になったからだ。
 シャッターの閉まった店の前に、ほのかな棒状の光が見えた。街灯の当たりにくい場所であるためか、そこにいるはずの人物の姿がよく見えない。
「お待ちください! お客さん!」
 再び呼ばれる。俺はつと足を止め、暗がりに目を凝らす。
 置かれた小さな机が目に入る。と同時に、ようやくそこにいる人物の輪郭が見えてくる。
 薄い紫色のヴェールで口元を隠した、若そうな女性だった。さらに近くに寄ると、先ほどの棒状の光に「占」という文字が見えた。小さな椅子に腰掛けた女性が手招きしている。彼女の目の前には水晶玉が置かれていた。聞かずとも、彼女が占い師だということはすぐにわかった。
 占いなどには全く興味はないし、若い女性だから近寄ったわけでもない。むしろ、一刻も早く家に帰って暖を取りたかったのだ。しかし、俺はさらに彼女の方へと歩を進めた。
 緊迫感の漂う声色の意味を知りたい。ただそれだけの理由だった。
「はい?」
 声をかける。本当ならこの寒い中、一秒でもこんなところに立ち止まっていたくなどない。しかし、占い師は俺が近くに寄ると、急に押し黙ってしまった。手をかざし、じっと水晶玉を覗き込んでいる。「あの!」と、今度は強めの口調で呼びかけてみるが、やはり彼女は返事をしない。俺は、その馬鹿にしているような態度が癪に障り、とうとう声を荒げる。
「俺を呼び止めたんじゃないんですか? だからここに来たんだけど」
「…………」
「ちょっと、いい加減にしてください! 仮にも俺は客です。挨拶のひとつくらいあっても!」
 業を煮やして大声を出す。しかしそれでも占い師は声を発しない。俺は途端に馬鹿らしくなった。これでは埒が明かない。「ったく!」と捨て台詞を吐いてその場を去ろうとする。その時――
「待って!」
 占い師が口を開く。踵を返しかけていた俺は足を止め、彼女に向き直る。
 よく見れば、水晶玉を覗き込む占い師の額にはうっすらと汗が滲んでいた。緊張がひしひしと伝わってくる。時折、俺の方へと手を掲げ、また水晶の上に戻す。そして重いため息をつく。
「一体、何だっていうんです? 忙しいんですよ、俺は。何かあるならさっさと――」
「静かに!」
「――っ、……」
 強い口調で命じられ、俺は動けなくなった。何がなにやら訳がわからない。ただ、占い師の様子を見ていると、言いようのない不安が押し寄せてくる。それほど、彼女の瞳は真剣だった。
 しばらくすると、占い師はようやく手を下ろす。そして、
「犬です。……注意なさい」
 俺の目を見つめながら、それだけを口にした。

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 腹が立って仕方がなかった。
 部長に対しても、同僚に対しても、会社に対しても、そして、他ならぬ自分に対しても……
 やりどころのない怒りを払い除ける思いで、俺は冷めきった茶を一気に飲み干した。
 と――、ふと背後に人の気配を感じた。
 てっきり、残っているのは自分ひとりだと思い込んでいたため、俺は少し動揺する。振り返ると、そこには同僚の女が立っていた。名は、相川といったか。手に急須を持っている。
「おつかれさまです。あの、お茶、いかがですか?」
 穏やかな声色が、凝った身体を解してくれるようだった。空になった湯のみを差し出し、
「あ、ありがとう」
 と礼を言う。彼女は朗らかな笑みを浮かべ、手渡した湯のみに茶を注いでいった。
 間もなく湯のみはいっぱいになる。再度、礼を言った後で、湯のみに口を付けた。喉を通る茶が、俺の心を温め、潤してくれる。少しリラックスできた俺は、
「相川、さんだよね。ありがとう。うまいよ」
 と、話しかける。彼女は再びにっこりと笑顔を湛えると、俺の隣席に腰を下ろした。
 小柄だ。大きな瞳は可憐だが、その奥には力強さを感じさせる光がある。化粧はしていないが、顔立ちは整っており、可愛らしい。愛嬌もある。ロングの黒髪は後ろでしっかりと束ねられており、身に着けたスーツも一切乱れていない。いかにも真面目な女子社員といった雰囲気だ。
 俺が仕事の手を止めると同時に、彼女が口を開く。
「残業ですか?」
「うん。もちろん帰れるもんなら早く帰りたいけどね」
「はぁ……。大変ですね」
「そう言う相川さんこそ、残業?」
「あ、はい。私は仕事が遅いので……。持ち帰り仕事もあります」
「そっか。お互い大変だな」
 俯き、ため息を吐く。机上に置いた湯のみが目に入り、ふと思いつく。
「そう言えば……」
「はい?」
「今まであまり気にしたことなかったんだけど。このお茶って、いつも相川さんが?」
「あ、気付いてくださって嬉しいです」
「どうもありがとう。でも、その時間に仕事をひとつでも片付けられたんじゃ?」
「いえ、お気になさらず。私なんか、今日は結局、怒られるだけで半日が終わりましたから」
「そんなこと言ったら、俺なんて一日中……、っつーか、一年中か」
 その言葉を聞いた彼女は、
「じゃあ、私たち、似た者同士ですね」
 くすりと笑う。俺もそれにつられて、さらに大声で笑う。課内が二人の笑い声に包まれていく。
 それは、俺がこの会社で得た唯一の至福の時間だった。

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 受話器を手に、俺は動揺を隠せなかった。
 次々に飛んでくる質問に、俺は何度も言葉に詰まってしまう。口調が乱れ、言葉遣いが崩れる。自分の話に筋が通っていないことを感じる。慌ててフォローしようとして、支離滅裂な内容になる。
 こめかみから汗が滴るのがわかった。
 その時、すっと横から手が伸びてきた。デスクを並べた隣の同僚は、ついと俺の手から受話器をかすめ取ると、丁寧に対応を始めた。
 ――先月は五人、今月に入ってからも、既に二人だったか。あいつらには高嶺の花だな。
 日野のにこやかな横顔を見ながら、俺はそんなことを考える。
 切れ長の目に薄めの唇。控え目な化粧が、彼女のもつ魅力を引き出している。シャギーの入った髪は、わずかに茶色に染められていた。スタイルも良く、短いスカートから覗く脚が何とも艶かしい。
 一分と経たないうちに話はついた様子だった。受話器の向こう側に挨拶をし、同僚が電話を切る。机上のPC画面に目を戻すと、受話器だけを俺の目の前に差し出した。
「あ、ありがとう。助かったよ」
 負い目を感じ、同僚に話しかける。しかし、同僚はそれに答えない。俺と一切、目を合わせることなく、キーボードを叩く。バツが悪くなり、俺はさらに言葉を重ねる。
「日野さんは、やっぱりすごいな」
「……すごい?」
「あ、うん。すごいよ。俺じゃ無理だったから」
「そう? 普通のことでしょ?」
「い、いや。仕事ができる人だなぁって思うよ」
「……宇崎さんができないだけじゃない」
「うっ……」
 俺には返す言葉が見当たらなかった。
 日野は悪びれることなく、キーボードを叩き続ける。
 他の同僚の女どもの囁き声が、いつものように俺の耳をチクチクと突き刺した。

 午後十時を回っていた。
 残業は俺の日課だ。俺は山積みになった書類の束をPCに入力していく。今日中に帰れるだろうか。……まぁ、帰っても明日の仕事がやってくるだけだが。
 そんなことを考えていると、常盤部長も席を立った。デスクも整理されている。ようやくこれで心の枷が解かれると思ったが、それはどうやら甘かったらしい。カバンを提げた部長は、俺のデスクへと向かい、
「これもお願いね。明日までに」
 書類の束をドサリと机上に置く。溜まっている書類とほぼ同量だ。
「ちょっ……、いくらなんでも――」
 と、反論しようとする俺に「残業って、いい稼ぎになるんでしょ?」と毒づき、彼女は課を後にした。

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 電話が鳴った。
 反射的に手を伸ばし、取った受話器を首に挟んでメモの用意をする。
「はい。臨地産業株式会社です」
 明るい声色で応対しながら、ペンを素早く紙上に走らせる。受話器を置くと同時に席を立ち、メモを片手に部長のもとへと向かった。内容の報告を終え、再び仕事机に向き直った時、
「それで、どなたからのお電話?」
 部長の這うような声が、俺の背筋を凍らせる。
「え、と……、その……」
 口ごもる俺を見て、部長は深いため息をついた。
 形の良い眉をしかめて俯き、首を軽く横に振る。ウェーブのかかった髪をかき上げ、
「宇崎さん。あなた、この仕事、何年目?」
 と、冷たい視線を俺に浴びせる。濃い紅色の唇がわずかに歪んでいる。
 年下の上司であるため、俺は日頃からこの女に対する劣等感を抱えていた。頭脳明晰。容姿端麗。いわゆるデキる女の雰囲気を全身から醸し出していることも、癪に障る。そして、この嫌味な物言い。
 そういうわけで、俺に蓄積されたストレスも尋常ではなかった。しかし、
「あ、はい。三年目です」
「そう。それで、ようやく日本語を覚えてきた程度なのかしら?」
「いえ、そんな……。今日のは私のミスです。すみません」
「謝って済む仕事は楽ね。責任を取るのは誰?」
「っ……、はい。部長には、いつもご迷惑ばかりおかけして――」
「それは昨日も聞きました。そろそろ新しい言葉も覚えたらどう?」
「…………」
 俺はどうしても強気な態度に出ることができなかった。
 机上で鳴る電話の受話器を部長が取ったのを確認し、俺は一礼してから仕事机に戻った。

「また?」
「うん。まぁ、しょうがないけどね、宇崎さんの場合」
「毎回、同じようなことで怒られてね。少しは学習すればいいのに」
「何でクビにならないのかな? それが不思議」
「案外、常盤部長のお気に入りだったりして」
「ほら、あんまり言うと聞こえるよ」
 ――もう、とっくに聞こえてるんだよ……
 陰口はせめて本人のいないところで言ってほしいものだ。慣れているつもりだが、やはり良い気分はしない。課の一角に固まっている同僚の女たちをひと睨みすると、何事もなかったかのようにそれぞれの仕事に戻っていく。全く暇なものだ。
 大きく深呼吸をする。
 誰が入れてくれたものかもわからない茶をすすり始めた時、再び机上の電話が鳴った。

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●たたかえ!たらんてら 葉生田采丸 [集英社]
 1巻:腹に打撃、気絶(?)
 〃 :腹に蹴り、胃液
 〃 :腹に蹴り、吹き飛び
 〃 :腹にパンチ、白目
 〃 :腹(?)に蹴り、吹き飛び
 〃 :腹に跳び蹴り、白目

●マジンガーエンジェル 原・永井豪 画・新名昭彦 [講談社]
 1巻:腹に膝蹴り、胃液(?)

●マイアミ☆ガンズ 百瀬武昭 [講談社]
 1巻:腹に膝蹴り、苦悶

●9番目のムサシ ミッション・ブルー 橋美由紀 [秋田書店]
 3巻:腹に膝蹴り、気絶(?)

●フレフレ少女 原・橋本裕志、渡辺謙作 画・よしづきくみち [集英社]
 1巻:腹を竹刀で抉り
 〃 :腹にパンチ、白目、気絶


※注
 ・全て女から男への腹責めです。
 ・記載したキーワードは全て、私の見た限りの独断です。
 ・逆リョナ情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください。
  (尚、「逆リョナ@wiki」に掲載する情報は、匿名をデフォルトとさせていただきます。)
  → ◆逆リョナ@wiki [ Gyaku-Ryona@wiki ]
●HUNTER×HUNTER 冨樫義博 [集英社]
 No.10:脇腹にパンチ、苦悶、吐血
 〃  :腹にパンチ、吐血
 No.18:腹に蹴り

●マイティハート マツリセイシロウ [秋田書店]
 4巻:腹に打撃、気絶

●東京バトル 原・成田洋 画・MEE [JIVE]
 1巻:脇腹に後ろ回し蹴り、胃液
 〃 :腹に蹴り、苦悶、白目
 〃 :腹に跳び蹴り、苦悶

●秘書のカガミ 堀戸けい [日本文芸社]
 1巻:腹に膝蹴り

●スパイラル ~推理の絆~ 原・城平京 画・水野英多 [スクウェア・エニックス]
 1巻:腹(?)にパンチ、苦悶


※注
 ・全て女から男への腹責めです。(※一部、性別不詳キャラクターあり)
 ・記載したキーワードは全て、私の見た限りの独断です。
 ・逆リョナ情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください。
  (尚、「逆リョナ@wiki」に掲載する情報は、匿名をデフォルトとさせていただきます。)
  → ◆逆リョナ@wiki [ Gyaku-Ryona@wiki ]
お姉ちゃん、信号無視してる! 声が聞こえた

坊や、偉い子ね ちゃんと知ってるんだね どこで覚えたの? お家? 学校?

お姉さんも、教えてもらったよ だから、お姉さんも、知ってるよ

何で守らないのって? 難しいね 急いでるからかな? 面倒臭いだけかな?

じゃあ、今度はお姉さんが、お礼に別のことを教えてあげるね

口は禍の門 雉も鳴かずば撃たれまい 鳴く虫は捕らる 出る杭は打たれる 沈黙は金

知らないでしょ? 知ってたらやらないもの これは教えてくれなかったのかな? お家でも 学校でも

ひどいね いろいろなところから、簡単に教えてもらえることなのに

世間からも 会社からも 社会からも 国からもね……

偉い人たちがテレビを通してきちんと教えてくれてるけど、坊やにはまだ難しいかな?

皆と考えの違う人や、皆に合わせない人は、責められてる

皆がよってたかって攻撃してる 意見を言う人より大きい声で 逆に、おとなしい人は、誰も責めない

でも、子どもには、坊やみたいな姿勢を勇気があるって教えて褒めるの 大人にはできないから 危険だから

どういうことかわかる? 難しい? じゃあ、お姉さんがちゃんと教えてあげる

坊やみたいに口を開くとね ……こういう目に遭うってこと

どう? 痛いでしょ? 苦しいでしょ? それは痛み それは苦しみ

泣いても喚いても、許してあげないよ いい顔ね それは恐怖の表情 怖いって気持ちの表れだよ

そして、それは傷 それは痣 それは涙 それは涎 それは胃液 それは吐瀉物 それは血液……

ほら、まだ寝ちゃダメ 一番大事なことなんだから、ちゃんと聞いて?

せっかく教えてあげたのに…… 実践する前に―― 残念



END

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今年も、彼らは自然と関係を紡いでいってくれます。
作者自身、これからの二人がどんな成長を見せてくれるのか、楽しみになっています。

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 突如、顎に衝撃が走った。
 鈍い音とともに、僕の身体が大きく仰け反る。アッパーカットだ。
 瞼の上で火花が散ったように思えた。目の前の光景が反転し、壁に頭をぶつけてしまう。その反動で、僕は身体を女王様に預ける形となった。
「もう寝るつもり?」
 再度、女王様のパンチが僕の内臓を揺さぶる。
「ふぐううぅっ!」
 同時に僕の頬にグローブが叩きつけられ、顔が横に振られる。間髪入れず、反対の頬にも衝撃が走る。右へ、左へ――。パンチは交互に、連続して僕に襲い掛かった。
 女王様の思うがままに頭を揺さぶられる。脳がぶれるような感覚に陥る。朦朧としてくる。何も考えられない。
 やがて、鼻血が一滴、二滴と、床に零れ落ちていった。
「反撃してきなさいよ」
 女王様は一度手を止め、そう僕に命令した。そして再び、左右から拳の嵐を注ぐ。
 僕は困惑した。女王様に手をあげるなど、考えられないことだ。しかし、これは僕に与えられた命令なのだ。女王様の命令は、絶対だ。
「……はい」
 反射的に出た言葉だった。
 理解力や判断力など、正常な機能を失いかけている僕の脳には、もはや存在しないのだろう。ただ、反撃しなければならない――その意志だけが、僕の意識にしっかりと擦り込まれた。
 精一杯、拳を繰り出す。しかし、それに伴う衝撃は拳ではなく、常に僕の頬や顔面、腹に与えられた。もちろん故意に手加減をしているつもりもなければ、そんな思考も働かなかった。
 女王様には隙がないのだ。
 まるで羽を相手に拳を突き出しているかのように、僕のパンチは悉くかわされていった。反対に、僕の身体は確実に壊されていく。顔が腫れていくのがわかる。胃からせり上がってくるものを感じる。
 一発も当てられないまま、僕はマウスピースを吐き出し、勢いよく嘔吐した。背を折って屈むと、鮮血が目の前の床を赤く染めていく。もうどこから流れた血なのかもわからない。
 呼吸を荒げ、それでも必死で身体を持ち上げた。
 その時だった――
 女王様がため息をつきながら時計を確認している。ファイティングポーズは解かれている。
 ――隙だ。やっと……、やっと見つけた。今なら……
 僕は拳を握った。顔を注視し、狙いを定める。しかし、僕の腕は全く動かない。
 限界には至っていない。もちろん誰かに押さえ付けられているわけでもない。この時、僕の前に立ちはだかっていたのは、……忠誠心という名の壁。
 ――女王様のお言葉は命令だ。命令は絶対だ。そんなことはわかっている。それでも……
 次の瞬間、一際強烈な衝撃が顎に走った。僕の足は床を離れ、やがて身体ごと床に倒れ込んだ。
 
 しばらく気を失っていたらしい。
 頬に柔らかいものが当たっている。それは女王様の白い太腿だった。
 そしてすぐに、ダウンする前のことを思い出した。
 僕は壁を越えられなかった。命令を最優先にすべき奴隷が、何たる無様を晒してしまったんだろう。女王様はきっと怒っているだろう。僕は恐る恐る、傍の人を見上げた。
 目が合う。
 女王様は、僕の顔を見下ろしながら微笑んでいた。いつもの気高く美しい顔が、今は柔らかく、温もりに溢れている。
 この優しい顔に傷をつけなくてよかった。僕はそう思い、痛む唇を緩めて笑った。



END

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「やってみる?」
 それは問いかけではなかった。僕にとって女王様の言葉は命令だ。そして、命令は絶対なのだ。
 キュッと足を止める音が鳴り、館内は静寂に包まれる。
 夕方の小さなジム。貸し切りのため、他の利用者はいない。
 僕の答えを待たずして、青いボクシンググローブが手渡される。手の上のそれを見つめながら、僕は唾を嚥下した。
「うぅ……」
 つい不安の声を上げる。女王様は既にコートを脱ぎ、ストレッチを始めているところだった。
「ん?」
「あ、いえ……」
 僕はそれ以上、言葉を口にしなかった。正確には、口にすることを忘れていたのだ。
 顕わになった女王様の肢体に、僕の瞳は釘付けになってしまっていた。
 白いTシャツに黒いスパッツ。
 ごく自然な服装が、なぜか僕の胸を高鳴らせ、同時に思考を停止させる。
 しなやかな上に引き締まっている見事なプロポーション。レースの入った薄い水色のブラジャーがわずかに透けて見え、僕はたまらず視線を落とす。膝上スパッツからすらりと伸びる白くて長い脚が、健康的な色気を感じさせる。適度な肉付きが何とも艶かしい。その魅惑的な足先は、室内用トレーニングシューズに収まっていた。白にピンクのラインの入ったデザインが、女性らしさを強調している。
 女王様は左手のグローブを着け終え、右手のグローブ紐を口で結び始めていた。両拳が赤く彩られる。
 僕は我に返ると、慌ててコートを脱いだ。上半身は裸だが、下半身には短パンを着用している。公共施設だということで、今日は特別に女王様に着用を認められたのだ。ただ、リードは外されているものの、首輪は付けられたままだった。
 準備が整うと、女王様は両手首を手前で擦り合わせる仕草を見せ、それから準備運動を始める。僕も急いでグローブを着け終え、それに倣う。
 一通り柔軟を終えると、女王様は自分の両拳を勢いよく打ち合わせた。パンというグローブのぶつかり合う音が、ジム内に軽快に響く。僕は恐怖心から、早くも身体が震えてきていた。
「準備はいい?」
「はい」
 弱々しい自分の声が情けない、――と思った瞬間、僕の身体はくの字に曲がっていた。
「うえっ……」
 咥えたマウスピースを吐き出しそうになる。腹への重い衝撃に、僕はふらつく。無意識に腹を庇う。しかしその間をぬって、女王様はさらに一発、二発、三発と、僕の腹を容赦なく抉る。
 ――苦しい……
 既に呼吸がままならない。僕は早々に、壁際に追い込まれてしまった。それでも女王様の猛攻は止まらない。「ほら、ほら」と余裕の表情を浮かべたまま、僕にグローブを叩き付ける。
「むうっ!……んふっ!……ぐうおぉっ!!」
 くぐもった苦悶の声を上げ、僕は身体を丸めた。

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怪力娘・筋肉娘、大集合。怪力娘症候群のネムレスさんが、CGを手懸けてくださいました。
年末のお忙しい時期だったことを思うと、感動が止まりません。日頃から様々なご協力を頂いています。
イメージはryonaz作品「赤い砂」の少女ということで。キャラクター絵を頂けるなんて、とても光栄です。
ネムレスさん、本当にありがとうございます!
※画像をクリックすると、拡大します。携帯の人はこちら→拡大


● 少女
赤い砂」より
 ryonazコメント…魅惑的な少女。笑顔のままで男に血を吐かせる凄まじいボディブロー。シビレますね。

ネムレスさんのサイト 【怪力娘症候群】
怪力娘症候群
(過激な裏サイト「怪力娘末期症状」も必見です。)

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残念なことに、また小説の無断使用がありました。悲しい限りです。
海外サイトのようです。
http://mossun.blog.163.com/
(お知らせくださった方、本当にありがとうございました。)

転用されたのは、以下の小説です。「過ちの代償」ですね。
中国語(?)のサイトでしょうか?
TOP → 日志 → 小説
http://mossun.blog.163.com/blog/static/23795082200892322156407/
http://mossun.blog.163.com/blog/static/2379508220089233153286/
http://mossun.blog.163.com/blog/static/2379508220089237029703/

無断転載・転用は禁止していますので、削除依頼を出したいのですが、方法がわからず困っております。
コメント欄らしき箇所にはなぜか入力できず、管理人様へのコンタクトの取り方もわかりません。
いろいろと手を尽くしてはみたのですが、正直お手上げ状態です。
皆様の中で、海外サイトに明るい方がいらっしゃいましたら、コンタクトの方法を教えてください。
どうか、ご協力をよろしくお願いいたします。

----------
ご連絡くださった方へ。(2009.01.06)

親切・丁寧なメールを、ありがとうございます。
ご紹介いただいた方法で、当方からも投稿を試みましたが、それでも入力できずに困っておりました。
ふと思い立ち、URLの一部を削ったところ、投稿ができました。
貴重な助言を下さり、本当にありがとうございました。
今後、相手方が良心的な対応をしてくださることを期待するのみです。

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未解決です。(2016.06.06現在)
「AFJ」
AFJ
管理人:Ashi_O様
 
  短編小説を寄贈させていただきました。

■ 「ココロの音」
  → "Gift"ページに、ご掲載いただきました。
   (掲載箇所までの道のり : "Enter"→"Gift"→"Novel" )
2009年に頂いた、コメントのバックアップです。
たくさんのコメント、ありがとうございます。
[コメント バックアップ 2009年]の続きを読む
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
ご来訪者の皆様。昨年は、大変お世話になりました。
この場をもって、あらためて御礼申し上げます。

「努力なきところに成果なし」ということで、新年一発目から冒険しています。
お正月くらい、明るく楽しい物語もいいかなぁ……と、魔がさしたことから生まれた作品です。
たまには当サイトの掲げる世界観「やみ(病・闇)」をぶち壊してみるのも面白いかな、と。
今年は、ますます作品の幅を広げていきたいと思っています。
勉強の一環。どうぞ大目に見てやってください。

また、昨年末にお願いいたしました、作品アンケート(※現在停止)にご回答いただいた方々、本当にありがとうございます。
まだ分析もままならない状態ですが、今年の方向性を考える上での参考にさせていただきます。
パッと見、「女王様シリーズ」の人気が高いようですね。個人的には意外です(笑)
今後も随時、ご回答をお待ちしております。お時間のある際には、ぜひご協力くださいませ。(※投票停止しました。)

それでは、今年も実りある一年になりますように。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

●彩香のキャラ絵 →  
●紗希のキャラ絵 →   
●美里のキャラ絵 →   

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「今年も一年、ケンカ三昧!」
 血の海に沈んだ男を前に、彩香は無邪気な笑みを見せた。美里は俯き、深いため息を吐く。
 残った男は怖気づいていた。美里の胸座を放さぬまま、美里の背後に回りこみ、反対の腕で首を絞めた。チョークスリーパーの体勢だ。男はそのまま後退り、
「こ、こっち来るなよ! さっさと行け!」
 そう声を震わせる。
 すっと力を抜き、美里は少し頬を赤らめる。抵抗する気配はない。苦しそうな表情を浮かべる美里の様子を見ながら、男はホッと安堵の息を吐く。
「お前らが行ったら、こいつは放してやるから。もう行け!」
 今度は強い語調で命令する。彩香と紗希は苦笑し、
「じゃあ、美里。私たちは先行くね」
「楽しんできな」
 くるりと踵を返す。遠ざかっていく二人を見ながら、男は、
「ふぅ、危ねぇ。最近の若い娘は怖いねぇ」
 と、強張った表情を緩める。それにしても――、と男は前置きし、
「友達を見捨てるなんて、酷いよな。俺が慰めてやるからな」
 片手を胸座から離し、指で胸を弄り始める。首を絞めるのをやめ、下半身に手を伸ばす。その瞬間、美里の瞳が鋭く閃いた。男の腕をぐいと手前に手繰り寄せ、顎に肘を入れる。
「ぐっ!」
 と呻いた男の身体が宙を舞う。
「せっかくの首絞めだったのに、少しも気持ちよくなかったです」
 そう囁く美里の笑顔を、男は逆さまに見た。
「ぐっは!」
 一本背負い。背中から地面に叩き付けられた男は、呼吸困難に陥る。美里は男を見下ろしながら、
「女を舐めると痛い目に遭います。わかりましたか?」
 笑顔のままそう問いかけ、同時に足を振り上げる。男は美里の靴の裏に視界を遮られたまま、
「はいいいいぃっ!」
 と、一も二もなく答えていた。それが、男が意識を失う直前に見た光景だった。
 グシャッと響く快音。それもまた、すぐに雑音の中に消えていった。
 美里は倒れた男たちには目もくれず、二人の後ろ姿を追った。

「はぁ……。気分悪い」
「彩香は、元気がないくらいで丁度いいんだよ」
「じゃあ、もう一回、お参りしていきませんか? 口直しに」
 彩香と紗希は、同時に頷いた。

 三人で勢いよく鐘を鳴らす。
 手を叩き、深く頭を下げた。

 ――今年も、楽しい年になりますように。



END

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 間もなく、男の開いた口から濁った液体が流れ出る。既に意識はない。
「飲酒の後の胃って、極端に弱いからね」
 と、紗希はさらりと呟いた。
「あぁ……。穏便にって言ったのに……」
 美里は倒れた男の側にしゃがみ込み、顎をくいと持ち上げて気道を確保する。ハンカチで口内を拭うと、男は一度ゴボッという音を立てた。呼吸音を確認してから、美里は再び立ち上がる。
「おい! シャレんなんねぇって、これ!」
「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!」
 中年男二人が怒号する。勢いづいてはいるが、歯切れが悪い。そんな彼らの声を背中で聞きながら、
「残念、本気。ふざけてたら助かったのに」
 紗希は、極めて冷淡な声色で答えた。
 男たちの目が険しくなる。二人は身構え、じりっと足を鳴らした。先ほどまでとは雰囲気が違う。黙したままで、じわりと紗希ににじり寄る。紗希はそれを意に介する様子もなく、ただ静かに立っていた。
 ――と、その時だった。それまで紗希の隣で呆然としていた彩香が、突然、
「ちょっと!」
 大声を張り上げる。紗希の行動が信じられないといった風だ。対峙した双方の間に割り込み、紗希を睨みつける。
「どういうつもり? 私はちゃんとルール守ってたよ!」
「あぁ、なるほど。学校内でってやつ?」
「そう! なのに、どうしてあんたが――」
「馬鹿」
「え?」
「火の粉は払わないと、火傷しちゃうんだよ」
「っ……、じゃあ……」
「そういうこと」
 二人は微笑み合い、それから鋭い視線を男たちに向けた。美里は慌てて、
「い、一年の計は元旦にあり! お、穏便に……穏便にいきましょ?」
 と彼女らに訴え、男たちには何度も頭を下げた。しかし、一人の男にぐいと胸座を掴まれる。
「頭下げたくれぇで怪我が治りゃ、病院は要らねんだよ」
「傷害のおまけ付きだ。謝って済むなら警察も要らないな」
 もう一人の男も荷担する。
 危機的な状況下にもかかわらず、彩香の表情はみるみるうちに活力を帯びていった。
「美里。あんた、良いこと言うね」
 そう言って、彩香は瞳を輝かせる。その様子を見た紗希は苦笑し、
「彩香らしい発想だね。いいよ。つまり、元旦にケンカすると――」
 声と同時に、彩香と紗希は男一人を挟むように立った。美里を掴んでいる男には目もくれない。
 嬉々とした表情の二人を前に、男がたじろぐ。もう一人の男もまた、美里を掴んだまま、身体を小刻みに震わせ始めた。
「があぁっ!」
 次の瞬間、男の絶叫が鳴り響いた。二人が同時に繰り出した蹴り。彩香の蹴りは男の顔面を、紗希の蹴りは男の後頭部をそれぞれに捉え、男の顔は見事に押し潰された。
 流血とともに、また一人、男が崩れた。

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 砂利を擦る音は、初詣で賑わう人々の音の波に流されていった。
「ウザいな、もう。新年早々……」
 彩香が立ち上がる。頬や膝からは血が滲んでいた。
 脇を通り抜けようとする彩香の前に、三人の中年男が立ち塞がる。どの顔も頬を赤く染め、足取りが覚束ない。ひどく大きな声で、
「ごめんな。おじさん、手が滑っちゃって。お詫びに看病するわ」
「確かにひどい血だ。ここだけとは限らんぞ。家に連れてって全身手当てだ」
「ちょうどいい。今なら俺たちの全身総舐めサービス付きだしな」
 口々に絡み、馬鹿笑いする。呂律が回っていない。
「嫌だよ。急いでるし。友達が迷子になってて忙しいの」
 彩香はそう言って足を踏み出すが、再び男たちが取り囲む。
「それを早く言わんかい」
「一緒に探してやるから……な?」
「とりあえず、おじちゃんたちについて来れば大丈夫だから」
 さらに三人は大笑いする。話が一向に通じない。
「どっちが迷子だよ」
 社の陰から呆れた声を発したのは紗希だった。彩香と三人の男が同時に顔を向ける。
「大丈夫ですか?」
 傷のできた彩香の顔を見て、美里が心配そうな表情を形作る。
 三人の男の瞳が、俄かに輝きを増す。
「あらら、可愛いお嬢さんたち。お友達?」
「あ、痛てて。何か俺も怪我してたみてぇだわ。俺の手当てもしてもらおうかな」
「そうだな。あ、俺も痛くなってきた。とりあえず、皆で移動しよ、移動」
 紗希は、厭らしい笑みを浮かべる男たちの横をするりと抜け、
「行くよ」
 と、彩香の手を取る。美里は鞄から消毒液と絆創膏を取り出し、彩香の傷口を素早く手当てする。
 男の中の一人が、後ろから紗希の肩を掴んだ。
「なぁ。無視しないでよ。おじさんたちも、一緒に手当てするからさ」
 言いながら、そのニヤけた表情を紗希に向ける。紗希は一度ため息を吐き、
「……だって。どうする?」
 彩香に問う。彩香は「要らない」とだけ答えた。
「そういうことですので」
 紗希はそっけなく言を発し、歩を進めようとする。しかし、男は紗希を放さない。別の男二人が、
「俺も怪我しちゃったんだよ。こっちはどうしてくれるんだ?」
「知らないじゃ済まないよ。俺たちだって痛いんだからさ」
 と、絡む。紗希は再びため息を漏らす。彩香の手を放すと同時に、背後の男の鳩尾に勢いよく肘を叩き込む。
「ぐっ!!……んふぅ……」
 声とともに、背後の男は腹を抱えて蹲り、倒れた。

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