Black Onyx [ブラックオニキス];2008/ 12の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2008年 12月 に掲載した記事を表示しています。
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今年も精進の一年でした。

サイト立ち上げからもうすぐ二年。一心不乱に、猛スピードで駆け抜けてきたように思います。
悩みも多々ありました。苦労したことや、嫌な思いをしたこともありました。
それでも、ここまで続けてこられたのは、ご来訪と応援を下さる皆様がいらっしゃったからこそです。
本当に感謝しています。今年も一年間、お付き合いいただき、ありがとうございました。

もうすぐ今年も終わりですね。
今後、ますます勉強していきたいと思っております。
来年も、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。

それでは皆様、よいお年を。
2008年に頂いた、コメントのバックアップです。
たくさんのコメント、ありがとうございます。
[コメント バックアップ 2008年]の続きを読む
歳末にあたり、あらためてご協力をお願いいたします。
皆様のお声を、ぜひお聞かせください。

→ お気に入り小説アンケート : ◆回答する◆

今年の締め括りと反省、来年の布石、合同企画にかかわる調査、etc...
方向性を考えていく際の参考にさせていただきたいと思っています。
何卒、よろしくお願いいたします。


(※投票停止しました。)
登場人物は全て架空の人物です。
ryonazへの投石、不幸の手紙、ピンポンダッシュ等は、ご勘弁ください。

昨年に引き続き、今年もクリスマスネタでお送りいたしました。
インターネットスラング満載なので、読み難かった方もいらっしゃると思います。
いろいろな可能性を試してみたいお年頃なもので。どうぞご容赦ください。
作品にお付き合いいただいた方々に、深く御礼申し上げます。

今年も残すところあと数日となりました。
寒さ厳しく、多忙な時期だと思いますが、皆様、どうぞご自愛くださいませ。
今後も、Black Onyx [ブラックオニキス]を、よろしくお願いいたします。

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 ちぃ♪ > ぶっちゃけ、友達でいいじゃん

 ユア@変態 > 甘いよ、ちぃ♪はw それじゃ面白くないじゃんwww

 モモ > 知り合いにも彼女のいない人はいるけど、あまり話したことないな。

 ユア@変態 > 第一、友達が今さらイキナリっていうのも変でしょっwwwwww

 ユア@変態 > そういうことっ! >モモ

 ちぃ♪ > でも、オタ見分けるのって正直ムズくない?

 ユア@変態 > 若い男とでっかいケーキっw

 モモ > ????

 ユア@変態 > 彼女にそんなに大きいのは必要ないでしょっww >モモ

 ちぃ♪ > ネタの可能性大ってことか! >ユア@変態

 モモ > なるほど……

 ユア@変態 > 決まったら即実行っ! 閉店間際っ! 急げっ!

 モモ > ありがと。行ってきますね。

 ちぃ♪ > もうこんな時間なんだね~

 ユア@変態 > いってらー >モモ

 ちぃ♪ > 気をつけてね~ >モモ

 ちぃ♪ > 大丈夫かな?

 ユア@変態 > モモならいけるってw 報告楽しみだね。

 ちぃ♪ > モモ、まだかな。今頃実行中?

 ユア@変態 > ちょっと風呂落ちしまーすw

 ちぃ♪ > いてら☆

 12月24日 20時24分 > ユア@変態 は退室しました。

 ちぃ♪ > 放置プレイされ中w

 ちぃ♪ > なんだかな~

 ちぃ♪ > 暇!!!

 ちぃ♪ > ・・・・・コンビニでも行ってこようかな



 モモ > うまくいきました。

 12月24日 22時49分 > モモ は退室しました。

 12月24日 22時50分 > ルーム17は、ルーム主が退室したため、閉鎖されます。

 12月24日 22時50分 > 『クリスマス中止を願うオタに、夢見させてみない?』 は閉鎖されました。



 > チャットウィンドウを閉じますか?(YES / NO)

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 熱い……!
 背中に固定された無数のキャンドルから滴り落ちる蝋が、容赦なく僕の身体を痛めつける。容易には耐え難い激痛だった。そんな中、桃香さんは仰向けになり、僕の陰茎を咥え、ピストン運動を繰り返している。四つん這いの体勢のまま、僕は必死で四つん這いの体勢を保っていた。なぜなら――
「ぐあっ!」
 と、あまりの苦痛に耐えきれず、時々姿勢を崩してしまえば、その瞬間、桃香さんの口が、あっさりと僕のモノを放してしまうからだ。その度に、僕は、
「すみません。すみません。どうか……」
 と、許しを乞う。もどかしさから身体をくねらせ、肌を打つ蝋の痛みに耐える。何度も失敗し、何度も謝罪し、その繰り返しは延々と続いた。
 ――今の僕は、性欲の虜だ…………
「あっ……ああぁ……い……あああああっ!」
 猥声とともに、僕は果てた。
 全身から力が抜けていくような感覚。独り遊びでは決して味わうことのできない充実感。口の端から白濁液を漏らしながら施される、桃香さんの陰茎の事後処理。そのどれもが、僕にとって新鮮だった。
「あ……ありがとうございました」
 自然に口から出た言葉だった。桃香さんはゆっくりと僕の股座から這い出すと、僕の目前にしゃがみ込んだ。にっこりと微笑み、
「よく頑張りましたね。偉い子」
 と、耳元で囁き、僕の頭を優しく撫でた。
 この時、僕は自分と桃香さんの身分の違いをはっきりと自覚した。

 やがて、キャンドルの全てが桃香さんによって外される。僕は即座にドサリと床に突っ伏した。思った以上に、身体への負担が大きかったのだろう。御礼を述べ、呼吸を整える。
「私も、お腹減ってきちゃいました」
 桃香さんがポツリと呟く。考えてみれば、桃香さんは今日、一口もケーキを口にしていない。あの時間帯に彼氏を待ってあの場にいたことを考えれば、夕食もまだである可能性も高い。
「あの、よろしければ僕が何か買って来ましょうか?」
 僕はそう問い、身体を起こそうとする。その時、桃香さんの踵が僕の背中に叩き付けられた。激痛と動揺が僕を襲う。桃香さんは、再び突っ伏した僕の背中を踏み躙りながら、ゆっくりと口を開いた。
「ケーキが食べたいです」
 表情には相変わらずの愛らしい笑みを湛えながら、指先でそっと僕の背中をなぞる。
 背筋が瞬時に凍りつく。
 ――じょ、冗談……ですよね。どこぞの鬼畜サイトに出てくる狂気女じゃないんですから……
 桃香さんは僕に、右手の人差し指を突き出した。「待て」と命じ、キッチンへと入っていく。
 部屋に戻った桃香さんが手にしていたのは、鋭利なケーキナイフだった。

 指先ひとつで動かされているのは僕だ。僕は『ネ申』なんかじゃない。彼女こそが、本当の――
 
 今年のクリスマスは決行された。その代わり、僕の人生が中止されそうだ……



END

【 piece : もう一つの計画 】

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 自分だけが裸体を晒し、股間を強調する。それがこんなにも恥ずかしいものだとは思わなかった。
 これが現実。僕はおそらく、この世界のことを知らなすぎたのだろう。
「逝きたいですか?」
 桃香さんはそう言って、僕の陰茎をじっと見つめていた。思わず手で股間を覆う。身体が微震する。その時、彼女の眼つきが鋭く閃くのが見えた。テーブルに手を伸ばし、付属のキャンドルを持つと、
「そういう態度なんですね」
 と、口元を妖しく歪める。同時に、手にしたキャンドルに火を点け、僕の身体の上で傾けた。
「ぎぃあっ! あっ、熱っ!……あああっ!」
 悲鳴を上げると同時に、僕は反射的に股間から手を放す。桃香さんはキャンドルの火を吹き消し、しゃがみ込み、すかさず僕の陰茎を口で包み込む。
「っ!……はっ……。あぅっ!」
 強烈な快感が、先ほどの蝋の熱さを一瞬にして忘れさせた。
 これまで味わったことのない悦楽に、僕は思わず身を捩る。彼女は僕の腰から背中へと手を回し、僕の身体をがっちりと固定した。逃げることはできず、僕はただ腰を揺すった。
 刺激が強い。
「くあっ……。も、もう逝き、逝きそ……」
 そう口走った瞬間、桃香さんはその口から僕の陰茎をあっさりと放した。愉悦が去り、性欲が漲る。そのもどかしさから、僕は思わず「ふひぃ……」と情けない声を漏らしてしまう。
 桃香さんは僕を見下ろしながら、今度は足先で僕の陰部をゆっくりと擦り始めた。そして再度、
「逝きたいですよね?」
 と、笑い混じりに問うた。
 さぞマヌケな光景なのだろうと思った。顔が生クリームまみれになっている全裸の男が、足コキに恥らっているのだから。こんな画像を見たら、僕は間違いなく爆笑する。しかし、今は……
 僕にはもう、何が普通で何が変なのかすらわからない。今の僕にできるのは、桃香さんに身体を預け、彼女の指示に従うことだけだと思った。
 床に寝転んだまま、僕はじっと桃香さんの顔を見つめていた。
「逝きたいんですよね?」
 再びそう問われた時、僕に迷いはなかった。自然に僕の口が「はい」と呟く。僕がコクリと小さく頷いた時、桃香さんが口の端をゆっくりと持ち上げるのが見えた。
「じゃあ、ケーキになってください」
「えっ?」
 虚をつかれ、戸惑う。しかし桃香さんは冗談を言っている風ではない。逝きたい……逝きたい……。僕の中で、その気持ちだけがどんどんと膨らんでいった。
 桃香さんは、依然、僕の股間を足で弄りながら、
「……四つん這い。できますよね?」
 と、猫なで声で僕に囁く。擦る足先をピタリと止められた僕に、選択の余地などなかった。
「はい」
 そう小さく答え、僕は身体を丸めた。

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「慰めてくれますか?」
「も、もちろん!」
 僕は即答していた。その言葉に安堵したのか、桃香さんが微笑む。
「じゃあ、お願いしちゃいます」
 その言葉に僕は息を呑む。こ、この展開はやっぱりアレ? アレなのか?
 桃香さんはもじもじしながら、恥ずかしそうに言った。
「服……脱いでください」
「はは、はひいぃっ!?」
 ――い、いきなりセクロスっ!?
 混乱していた。こんなこと現実ではあり得ないはずだ。いや、実はよくあることだったりするのか?
 桃香さんの瞳は真剣だった。ちらりと横を見ると、扉の開いた寝室が目に入る。こじんまりとしたベッドには、薄いピンク色の毛布がかかっている。思わず飲み込んだ唾が、乾ききった喉に痛い。
「あ、あの。ぜ、全部?」
「そうです」
「んあ、そ、あっ……はい」
 僕は何食わぬ顔で服に手をかける。しかし、内心は極限まで動揺していた。
 仮に、これを現実だと認めたとしよう。…………うん。オイシすぎる話だ。大チャンスだ。それは間違いない。だが、……ぶっちゃけ、僕は童貞だ。確かに、エロ知識は豊富だ。でも、実践となると……
 全て脱ぎ終わるのに、それほど時間はかからなかった。しかし、肝心の桃香さんは、全く脱ぐ気配を見せない。こういうものなのだろうか? それとも、フラグが足りないのか?
 僕の心配を余所に、桃香さんは黙ったまま、裸になった僕の方へと歩みを進めた。突然、僕の髪を掴む。そして、景気よくケーキに僕の顔面を叩き付けた。
 ――あれぇ? 何、この新しい展開? どんな前戯よ、コレ?
「むぐうっ……」
「たくさん食べてくださいね」
 ……苦しい。これは明らかにおかしい。いや、でも事実は小説よりも奇なりって言葉もあるくらいだし。でも、もう限界……
「っ……ぷはあっ!」
 桃香さんの手を押し退けるように頭を上げる。その時、目を覆うホイップクリームの隙間から見えたのは、彼女の白い足先だった。彼女はいつの間にかテーブルの上に乗っていた。ゆっくりと持ち上がった足が、僕の頭を踏み付ける。再び僕は、ケーキの海に沈められた。
 桃香さんは、僕の頭をグリグリと踏み躙りながら、
「ほら、もっと食べていいんですよ」
 と、嬉しそうな声を上げる。
 って言うか、これ何のプレイですか? やっぱりSMとか、そういった類の? それとも、新手の足コキとか? いや、確かにそれ系の絵とかは嫌いじゃないけど、これは明らかに違いますよね…………とにかく苦しい。
 もがく。ガタリという音が鳴る。それは、自分が豪快に椅子から転げ落ちた音だった。
 桃香さんは嬉々とした表情を浮かべ、僕を見下ろしていた。ワンピースの下から彼女の下着が覗く。PC越しではなく、直接見る本物の下着だ。それは僕にとって、あまりにも刺激が強いものだった。
 興奮が高まる。こんな異常な状況下にもかかわらず、僕はあっという間に勃起してしまった。

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 これは現実の出来事なのだろうか。
 彼女のフローリングの部屋は、クリスマスらしく飾り付けてあった。小ぶりのツリーの下に、ミニサンタクロースの置物が置いてある。どこからともなくいい匂いが漂ってくる。アロマとかいうヤツか。
 エアコンのスイッチを入れ、彼女は微笑みながら、部屋に飾ったキャンドルに火を灯した。小さな炎が、クリスマスムードをぐっと盛り上げる。
 彼女は桃香さんというらしい。
 部屋が暖かくなってきた頃、桃香さんはおもむろにコートを脱いだ。僕は思わず目を背ける……べきだったのかもしれないが、実際にはガン見していた。薄手の黒いワンピースが顕わになると同時に、彼女の妖艶な肢体が浮き彫りになる。胸元が大きく開いたデザインが、彼女のバストを強調していた。僕はもちろん凝視状態継続だった。彼女がキッチンへと入り、僕の目から離れた時、再び我に返る。
 ――これ、何てエロゲ?
 勢いに任せてついて来てしまった自分の大胆さが信じられない。恐るべし三次元女。しかし、ちょっと待て。よく考えろ。騙されるな、騙されるな! どう考えてもこれは、魔法使い御用達のご都合主義的展開じゃないか。こんなオイシイ話が、現実にあるわけが――
「おまたせしました」
 ホールケーキを手に、桃香さんが部屋へと戻ってくる。同時に、ふわりと良い香りが鼻腔をくすぐる。それはケーキの香りでもアロマの香りでもなかった。二次元には存在し得ない女の香り。その存在を、僕は初めて意識した。彼女の声は溌剌としていて、張りがあって、でも、やっぱりどこか淋しげで……
「ぼ、僕が持つよ」
 無意識に手を差し伸べていた。
 桃香さんがにっこりと笑う。その時、彼女の表情から陰りが消えたような気がしたのは、僕の思い上がりかもしれない。彼女は僕にケーキを手渡すと、
「フラれた者同士、楽しく祝いましょう」
 と言って、大型テーブル付属の椅子に腰掛けた。向かいに座るよう、僕を促す。
「そうだね」
 ケーキをテーブルの上に丁寧に置き、僕もまた椅子に座った。
 依然、緊張は解けない。何を話せばいいのか。何をすればいいのか。全てがわからなかった。嘘をついていることへの罪悪感もあったし、ボロが出ないか不安でもあった。ただ、今は考えること自体をやめようと思った。今だけは、ただ桃香さんの存在を一心に感じていたかった。
「あの……」
 そう自然に言葉を発した自分に驚きを隠せない。
「……はい」
「あの、その、…………元気、出してね」
 口をついて出た言葉だった。桃香さんは少し頬を染め、コクリと頷いた。
 既に神なんてどうでもよくなっていた。この幸せな時間がいつまでも続いてほしい。僕はそう願った。
「淋しいんです。本当は」
 桃香さんのその言葉が、僕の胸の奥をじわりと突いた。

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 ――可愛い。
 素直にそう思った。つまり、危うく罠に引っかかってしまうところだったのだ。意識的に目を逸らし、警戒心を高める。考えてみれば、リアル女と接触したことも、ひとつのネタになる。明日、感想の書き込みでもしよう。ただ、今はそれどころではない。
「もう……いいよ」
 そう言い捨て、再び帰路に足を踏み出す。
 僕は内心焦っていた。こうしている間にも、予告時刻は迫ってきているのだ。こんなところで時間を浪費している場合ではない。一刻も早く、新しいネタを考えなければ。
 無言のまま、一応軽く女に会釈する。と、ふと潰れた小さな箱が視界の隅に映った。彼女の足元だ。何となく気になり、視線をそちらへ移す。彼女は必死でそれを隠そうとしたようだったが、それは既に僕の目にしっかりと入っていた。踵を返し、少しだけ彼女の元へと歩む。
「そ、それ……」
 赤いリボンで飾られたその箱は押し潰されていた。中からはガラス製品らしきものが覗き、既に原形を留めていないようだ。事情を察するのに時間はかからなかった。僕も彼女の物を――
 バツが悪くなり、言葉に窮する。彼女は僕の心境を読み取ったのか、
「あ、いいんです。これはもう、捨てるつもりでしたから」
 と、急に元気な声を張り上げた。まるで湿った雰囲気を打ち消そうとするかのように。
「……捨てるつもりだった、って、それはない……よね。常識的に考えて。だって――」
「フラれちゃいましたから。ついさっき」
 彼女のその一言で、僕は次の言葉を失った。
 ――おいおい、何このパターン。完全に僕が何か言うシーンだよね、コレ。何て言えば? 選択肢は?
 考えようとすればするほど、何も考えられなくなる。どうしていいのかもわからない。だからリアルの世界は嫌いだ。ポーズすら無い自動再生。こうやって考えている間にも、時間は刻々と過ぎていく。
 結局、僕は何も言えないまま、ただ俯くことしかできなかった。彼女は、
「……だから、もういいんです」
 と、言葉を紡ぎ、にっこりと僕に微笑みかけた。ただ、潤んだ瞳と震えている声が、彼女の心情を正直に伝えていた。
「あなたも、それ……。彼女さんのため、だったんですよね?」
 さらに彼女が連ねた言葉に、僕は動揺を隠せなかった。
「あ、えあっと……、これは、その、そんなんじゃ――」
「違うんですか?」
「んあ、えと、……何つか、その――」
「……あっ」
「え?」
「もしかして、私と同じ……ですか?」
「……んっ、と。ま、まぁそんなとこ。ひ、一人でヤケ喰いだぁ!……的な?」
 と――、その言葉の途中で、ほのかな香りが僕を包んだ。
 ふいに彼女が僕の手をそっと握る。温かくて柔らかい感触が、僕の心をほぐしてくれるようだった。
 寒風が吹き荒ぶ。僕は何も考えず、ただ静かに彼女の傍らに寄り添った。

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 気が付くと、書き込みの雰囲気が徐々に変わってきていた。
 ここ何年も僕を神と呼んできた人間まで、掌を返し始める。
『正直、ワンパターンなんだよな』、『期待外れの駄作』、『おまい、もうイラネ』
 ――こいつら……ムカツク…………
 思わずキーボードに両掌を叩きつける。
 つくづく自分勝手なヤツらだ。今までさんざん僕に期待しておきながら……。僕が今まで、どれだけお前らを喜ばせてきたと思ってんだ。
 人間なんて所詮はこんなもんだ。そんなこと、最初からわかっていたつもりだったのに――

『一時間後、うp予定。とっておきのネタだ。おまいら、覚悟しとけ!』

 そう書き残し、玄関のドアを開く。
 寒空の下、僕は近所のケーキショップへと足を進めた。


 街を飾るツリーやネオン。溢れ返るカップル。本当にウザい……
 ケーキショップで、一番高いクリスマス用ホールケーキを購入する。幸い、これが最後の一品だったらしい。お釣りを受け取り、早々に店を出る。こんなに居心地の悪い場所から、一刻も早く離れたかった。
 さて、どうしてやろうか。PC前にこれを置いて、デスクトップにいる嫁に「メリークリスマス」と言わせた動画でも撮ろうか。いや、……甘いか。いっそ、モニターの嫁とキーボードにこれをぶちまけて、僕の笑顔と一緒にうpしてやるか。いつまで余裕ぶっこいてられるか、見てろよクソども!
 そんなことを考えながら、帰路へと足を急がせる。しかし、店を出てほんの数歩のところで、僕の野望は無惨に打ち砕かれてしまった。リアルの他人と、真正面からぶつかってしまったのだ。身体が後ろに弾かれる。「あっ」と声を出した時にはもう遅い。僕のケーキは見事に路上に散乱してしまった。
「痛たたっ……。あっ! あの、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
 柔らかい声が僕の耳に入る。顔を上げた時、そこには若いリアル女の姿があった。僕は声を荒げる。
「ご、ご、ごめんなさいじゃないよぉ! これ、見てよもう! マジ高かったんだぞぉ!」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「どうしてくれんだよぉ、もうさぁ……。これじゃ、うpもなにも――」
「あの……弁償します。本当に――」
「こ、これが最後のケーキだったんだぁ! いいヤツなのっ! これだから三次元女はよぉぉ!!」
「…………」
 女は項垂れ、涙を零したようだった。手にしたハンカチで目元を拭い、再度、顔を上げた。
 大きな瞳が印象的だった。長い睫毛が涙で濡れ、白い頬に一筋の線を描いている。栗色の髪をアップにしている。薄ピンクの唇が艶やかだ。真っ白なレトロ風のベルト付きコートには大きなボタンが付いており、コートの裾から黒いスカートが覗いている。こげ茶色のブーツが、生脚を膝まで覆っていた。
 僕はいつの間にか、彼女に魅入ってしまっていた。

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 痛いほどの視線を感じる。
 百人だろうか? それとも千人? もしかしたら一万人以上かもしれない。
 煌々と光るPC画面が、闇に包まれた部屋を四角く切り取っていた。光の中に映し出されたタイトル文字をあらためて見返し、僕は薄く笑った。

『今年のクリスマスは中止になりました』

 毎年、この手のネタから人が消え去ることはない。
 ここは愛すべき馬鹿たちの巣窟だ。淋しがりで、臆病で、自信がなくて、悪ノリが好きで――。女の品評には煩いくせに、リアルの女には近付くことさえできない。もちろん、僕も同類だけどね。好きでこんな場所にいるんだから。ただ違うのは、僕が「その他大勢」ではないということだけ。
 ――さしずめ、僕は馬鹿の代表ってところか。
 自嘲する。目まぐるしく流れていく書き込みを見ながら、僕は熱いコーヒーを喉へと注いだ。
 ――馬鹿で大いに結構。僕はこの場所で、こいつらを笑顔にさせることができるのだから。
 ここにいる全ての人間が今、僕に注目している。ここにいる全ての人間が、僕が今ここにいることを悦び、僕に期待している。そして、こいつらはあと数秒後には、僕を崇め、尊敬することになる。
 この集団を動かすのは、僕の右手の人差し指一本。そう。僕はこの指先ひとつで集団を動かすことができる存在なのだ。
 僕の思い描いていた世界が、今ここにある。頬と口元が自然と緩んでくる。
 ――愛すべき馬鹿どもに餌をやるのも、僕の務めだ。
 右手の人差し指でマウスを叩くと同時に、想像通りの反響があった。

『ネ申』

 その書き込みは、僕に相応しい称号だと思った。しばし愉悦に浸る。
 羅列されていく賛辞の数々を読み流しながら、僕は次の画像アップロードの準備を始めた。
 その時、ひとつの書き込みが目に留まる。

『ツマンネ』

 ……どこにでもいる荒らしだ。別に珍しいことじゃない。人気者には、必ずアンチが付き纏う。それもまた神の宿命だ。こいつだって、興味がなければわざわざこんなところには来ないのだから。「出る杭は打たれる」とはよく言ったものだ。でも……
 ウザいクレ厨か? それとも他のうp主か?
 クレ厨は、こと好みに関しては滅法うるさい。趣味じゃない――それだけで文句を垂れる。そのくせ、自分では何もしない。
 他のうp主は、プライドが高い。妙な対抗意識をもっているから、嫉妬心も相当なものだ。クオリティの高さが疎ましいから、アラ探しに躍起になる。恥ずかしげもなくこんな書き込みをしたとしても不思議ではない。
 どちらにせよ、放っておけばいい。だがやはり、…………癪だった。

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このサイトに記載されています文章は、作者ゆきな梨央(ryonaz)が著作権を所有しております。
作品の無断転載・転用等はご遠慮ください。


突然の話題で申し訳ありません。どうしてもお伝えしたいことがあって、記事にいたしました。
良識ある方々にとっては、非常に不快な記事であると思います。
関係のない方が大半であることも、重々承知しております。
その上で、あえてここに記します。どうぞお許しください。

先日、某サイトに、Black Onyx [ブラックオニキス]の小説が無断で投稿されてしまいました。
たて続けに数作品。どれも、私の与り知らぬところで行われた無断転載です。
作者名や転載元の記入もなく、まるで投稿者のオリジナル作品であるかのような形式になっておりました。
(もちろん、出典元が記載されていれば、転載が許されるということではありませんが)
注意書きに明記しているだけに、こういったことをされたことは、非常に悲しく、残念に思います。
相手方のサイト様は真摯に対応してくださいましたが、削除後、小説タイトルを変えての投稿もありました。

私は人間であり、決して機械ではありません。
ご来訪者の皆様に支えられ、励まされて、ここまで連載してきました。
勝手に書いていると言いながらも、やはり皆様のお声無しでは、続けてこられなかったと思います。
連載を楽しみにしてくださっている皆様のお気持ちに触発されて、執筆を始めることも多々あります。
執筆の際には無い頭を搾っていますし、文章、構成、その他についても、できる限りの神経を使っています。
ですので、無断で、簡単にコピーペースト……とされてしまいますと、不快感は否めません。

ただでさえ、コアな小説です。読む人も選びます。嗜好を介さない人の目には触れさせたくもありません。
それゆえ、こういった状態が続きますと、さすがに手が止まってしまいます。
小説掲載には二の足を踏んでしまいますし、創作意欲もボルテージも下がってしまいます。

もちろん、こうしてサイト上に文字を羅列しているのですから、転載防止には限度があります。
最終的には、皆様のご良心にお任せするしかありません。
楽しんでくださるお気持ちがございましたら、何卒、ご配慮をお願いいたします。
今後、このようなことのないよう、心から祈っております。

最後に、親切に無断転載場所を匿名メールで教えてくださった方、本当にありがとうございました。
当サイトを思いやってのコメント、お心遣いに、胸が熱くなる思いでした。深く感謝しています。
今後も何かございましたら、ぜひお気軽にご連絡くださいませ。
小説ボイス化」 第二弾です。

またまた、Solitaire * ソリティア * のイコさんが、頑張ってくださいました。
相変わらず、素敵なお声で。当サイトへの熱烈な思いが、大変嬉しいです。
興味のある方は、ぜひお聴きになってみてください。(※携帯サイト不可です。申し訳ありません。)

台詞はこちら →   
(「僕のメイド様」 : 小説(短編・中編) より) → もっと聴きたい方は◆こちら◆

※小説の選択は、私の方でさせていただきました。
  今回もまた、当サイトで行っている、作品アンケート(※現在停止)を参考にしました。
  台詞の選択は、イコさんに一任しています。

Solitaire * ソリティア *

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●OPEN SESAME 河方かおる [講談社]
 VOL.6:腹(胸?)にヒップドロップ

●怪物王女 光永康則 [講談社]
 2巻:腹(脇腹?)に掌底、吹き飛び、気絶、痙攣
 〃 :腹にパンチ、吐血
 〃 :腹に鉄球投げ当て、出血
 〃 :腹に肘打ち、ダウン
 〃 :腹に棒(?)突き刺し、吐血、流血、死
 3巻:腹に蹴り、吹き飛び
 〃 :腹に蹴り
 〃 :腹にパンチ、貫通、流血
 〃 :腹に燭台投げ刺し
 〃 :腹に蹴り
 4巻:腹にパンチ(?)、出血
 6巻:腹に蹴り、吹き飛び

●とある魔術の禁書目録 原・鎌池和馬 画・近木野中哉 [スクウェア・エニックス]
 3巻:腹(?)に蹴り、転倒、咳き込み


※注
 ・全て女から男への腹責めです。
 ・記載したキーワードは全て、私の見た限りの独断です。
 ・逆リョナ情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください。
  (尚、「逆リョナ@wiki」に掲載する情報は、匿名をデフォルトとさせていただきます。)
  → ◆逆リョナ@wiki [ Gyaku-Ryona@wiki ]
●喰霊 瀬川はじめ [角川書店]
 1巻:腹に肘打ち、吐血、白目、吹き飛び、ダウン
 5巻:腹に肘打ち、吹き飛び、白目、吐血、ダウン
 〃 :腹を踏み付け、吐血
 7巻:腹に膝蹴り、吐血
 〃 :腹に手刀刺し、貫通、出血、吐血、瀕死
 8巻:腹に掌底、死

●ロザリオとバンパイア 池田晃久 [集英社]
 seasonⅡ
 2巻:脇腹にタックル、吹き飛び

●銀魂 空知英秋 [集英社]
 5巻:腹にパンチ、白目、気絶
 9巻:腹(睾丸?)に両足立ち、苦悶
 11巻:腹にパンチ×2
 22巻:腹に蹴り
 〃 :腹を踏み付け
 23巻:腹に蹴り、嘔吐(?)、白目 (デフォルメ)
 26巻:腹(胸)を踏み付け


※注
 ・全て女から男への腹責めです。
 ・記載したキーワードは全て、私の見た限りの独断です。
 ・逆リョナ情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください。
  (尚、「逆リョナ@wiki」に掲載する情報は、匿名をデフォルトとさせていただきます。)
  → ◆逆リョナ@wiki [ Gyaku-Ryona@wiki ]
新キャラ「花音」登場です。
女子高生シリーズのお馴染みの彼女たちとは、少し毛色の変わった女の子ですね。
今後の彼女にも、ご期待いただけたら嬉しいです。
連載中はたくさんのコメントを頂き、大変励みになりました。
やはり、皆様方のお声が聞けると自然に意欲が湧いてきますね。基本的に単純な人間なので(笑)

本作では、連載中不定期更新を実施してみました。
私の相談を受け、ご意見・ご提案を下さった方々に、あらためて御礼申し上げます。
今回は、ゆったり更新ペースを意識してみたのですが、いかがでしたでしょうか?
初の試みなので、私自身がペースに慣れず、手探りの状態が続いていました。
ですが、同時に、次回作の制作時間に余裕ができた点は良いかなと思っています。
あくまで個人的な感想ですが(汗)
まだ改善の余地はありそうですし、何かご意見・ご提案などがあれば、お気軽にご連絡くださいませ。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

話は変わりますが、逆リョナ@wikiに関する情報提供も多数頂きまして、大変助かっております。
皆様のご協力に、感謝いたします。今後もぜひ、皆様の「萌えた」シーンをお教えくださいませ。

当サイトを運営していけるのは、応援してくださる皆様に支えられているからこそです。
今後とも、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。

●花音のキャラ絵 →

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 祖父の表情は、情けなさと無念の色を湛えていた。
「そんな物のために……」
 悔しさからか、祖父は擦り切れた声になってなお、言葉を連ねる。
「それなら、最初から――」
「最初から言ったら、くれたの?」
 花音が祖父の言葉を途中で切る。
 穏やかな口調だったが、祖父は、花音の問いには答えなかった。
「コンビニにすらまともに行けないおじいちゃん。でも、これだけは孫に買わせるわけにはいかない」
 花音は独り言のように言葉を続ける。
「だったら、自分で自動販売機で買ってるに決まってるよね」
 そう言葉を紡いだ花音の瞳は、妖しい光を帯びていた。

 花音が、再び祖父の傍らへと戻ってくる。
「次でオシマイにするね。嬉しい?」
 焦燥感からだろうか。祖父はもはや、言葉を発することができる状態ではなくなっていた。花音が膝を高く持ち上げる。床の上で大の字になったまま、祖父はゆっくりと目を閉じた。
 花音は一度大きく息を吸い込むと、全体重を足に乗せ、祖父の睾丸を踏み潰した。
 祖父のズボンの股間部が、じわじわと赤く色付いていった。

 静かになった二体の塊には目もくれず、花音は手に入れたタスポを手の中で躍らせた。
「面倒な世の中になったよねぇ」
 そう言って笑い、花音は家を後にした。


 部屋が静寂に包まれる。
 悠馬には、先ほどまでの騒音が嘘だったかのように感じられた。ただ、エアコンの立て続ける機械的な音と、外から聞こえる雑音だけは、はっきりと聞こえていた。押入れのふすまを開けると同時に、異臭が鼻をつく。
 ――どうすれば……いいの?
 その問いに答えてくれる者はいない。頼りになる兄も、いつも優しい祖父も。
 ――おまわりさん……。ううん、きゅうきゅう車だ! おじいちゃんとお兄ちゃんを助けて!!
 悠馬の小さな手が電話の子機を握る。しかし、肝心の番号が思い出せない。どこを押せば来てくれるのか。どうすれば、助けてもらえるのか。それを試みるには、悠馬はあまりに幼すぎた。
 その時、背後から甘い香りが漂ってきた。優しい女性の声が耳をくすぐる。
 それはとても……とても小さな囁きだった。
 悠馬の手に、別の手が静かに重ねられた。柔らかいが、とても冷たい手。その手が、受話器の赤いボタンを押した。
 ……音が消える。悠馬は竦み上がり、ふり返ることすらできなかった。

「忘れ物があったみたいね――」



END

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 花音は祖父の足首を踏み付けたまま、視線を祖父の股間へと向ける。
「こんなに元気なくせにね。こっちは……」
 嘲笑しながら、花音はもう片方の足で祖父の股間を撫で回し始めた。しかし祖父の陰茎は反応せず、小さく縮こまったままだった。
「もう必要ないよね……これ……」
 と、花音は優しく囁く。そして脚を大きく後ろへ振り上げ、祖父の睾丸を蹴り上げた。
「ぎぃあああっ!……んっ、くっ……うあああっ……」
 今日幾度となく放たれた、祖父の聞くに堪えない叫びが響き渡る。
 花音はそんな祖父の様子を見ながら、嬉々とした表情を浮かべていた。そして――
「ぐぅあああぁ!……ひぃ、ああっ……」
 再び蹴り上げる。間髪入れず、また脚を振り上げる。
「どうせ、あっても役に立たないんだから」
「ぐううっ……ぎゃああっ!」
「潰してあげた方が、むしろ親切じゃない?」
「ひいぃ……ぐうああっ! ああああああっ!」
 掠れた音を喉から絞り出しながら、祖父はその場でのた打ち回った。
 祖父は懸命に身体を捩るが、少し内股にするのが精一杯なようだった。花音は「ふふっ」と笑いを零すと、祖父の右足首にも踵を叩きつけた。祖父の声は、既に風のように微かな音となっていた。
 両足首を骨折させられ、祖父は足の自由を完全に失った。もはや抵抗することも、逃げることもできない。そもそも身体を動かすこと自体が不可能な状態だった。
 それでも花音の蹴りが止むことはない。一発、二発、三発、四発――。花音はひたすら蹴り続けた。
「うっ……が……」
 睾丸を抉られる度に、祖父は呻き、咳き込み、腹を押さえ、苦しみもがいた。
 そこで、花音が口を開く。
「そろそろ飽きてきちゃったな。……財布、どこ?」
 想像外の言葉だったためか、祖父の動きが止まる。そして、気力をふり絞るように喉を震わせた。
「やっぱり……金が目当てだったのか……!」
「馬鹿じゃないの? そんなの要らないっていったじゃん。とにかく持って来てよ」
 そう言って、花音は祖父を足で軽く小突く。しかし、もはやぼろ屑のようになった祖父にとって、それは無理な相談だった。状況に気付いた花音は、
「あ、そっか。動けないのか」
 と、侮蔑のこもった嘲笑を祖父に浴びせかける。
 祖父は抵抗しなかった。震える手を持ち上げ、指を差す。
 花音は口元を歪め、示されたタンスへと向かう。その中から財布を取り出し、中を漁る。目的の物を見つけるのに、それほど時間はかからなかった。
「あった。これこれ。もらっとくね」
 言いながら花音は、屈託のない表情で、祖父ににっこりと微笑みかけた。

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 踵を返すとともに、花音は声を上げて笑った。
 放心し切った祖父の顔が、あまりに滑稽に見えたからだろう。
「なに、その顔?」
 と、花音は嘲る。祖父の顔は涙や涎でベトベトに汚れており、抜け落ちた白髪が諸所に貼り付いていた。そこに表情は全く無い。祖父は、ただうわ言のように、
「どうして……。どう、し……て……」
 と、呟き続けていた。虚ろな瞳だった。まるで生気そのものが抜け落ちたように、ただぼうっと天井だけを見つめている。
 花音は不敵な笑みを零し、祖父の顔の横に立つ。そして、スカートの裾を手で靡かせた。紺色のスカートの奥から白い布地が覗く。しかし、祖父は何の反応も示さない。花音は視線を祖父の股間へと動かすが、やはり反応はなかった。
 花音は口を開かなかった。「ふうっ」と一度、息を吐くと、淡々と祖父の身体を蹴り始める。顔面、首、肩、胸、腹、太腿、足――。花音の蹴りは次第に勢いを増していった。快音と鈍音が入り混じる。祖父は時折、悶声や悲鳴を上げる。身体の至る所が、みるみるうちに赤く腫れ上がっていく。
「生きてたんだね。痛い? 苦しい?」
 そう口にしながらも、花音は攻撃の手を全く緩めなかった。苦痛にもがく祖父の様子を見ながら、活き活きとした表情で蹴り続ける。花音の猛攻を前に、祖父はただ身体を小さく丸めて耐えるばかりだった。身を捩る。這い回る。しかし次第にその動きも鈍っていく。そんな時だった。
「ぎぃやあああっ!」
 一際大きな声が、祖父の口から放たれた。花音が、祖父の折れた左足首を踏み躙り始めたからだった。
 少し息を切らした花音は、
「まだまだ元気じゃん」
 と言い放ち、執拗に足首を甚振り続けた。祖父の絶叫が、絶えず部屋を包み込んでいた。
 ――もうやめて!……やめて! おじいちゃんを助けて! 助けて! 助けて!!
 悠馬は心の中で、必死に叫んでいた。
『良い事をすれば幸せになれる。悪い事をすれば地獄に落ちる。ホトケ様はいつも見ているんだよ』
 祖父から何度も教えられてきたことだった。尤も、悠馬には、神様と仏様との区別すらついてはいなかったのだが。
 ――ホトケ様がきっと助けてくれる。
 そう信じて、彼は心の中で懸命に祈り、叫び、救いを請うた。
 その時だった。
 倒れている祖父と、押入れの隙間から覗く悠馬の目がピタリと合った。祖父は少しだけ、微笑んだように見えた。孫の無事を確認できたことによる安堵からだろうか。それとも、孫を安心させるための行為だったのだろうか。
 音もなくゆっくりと動く祖父の口。
『出るな』
 悠馬はそう言われた気がした。

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 花音は怜治の睾丸から手を放し、彼の右手を掴んだ。反対の手と両足は、相変わらず怜治の首と身体に絡みつけたままだ。その体勢のまま、花音は祖父に向かって、
「じゃあ、わたしの質問に答えてもらおうかな」
 と、極めて明るい声を発した。戸惑う祖父の表情を気にかける様子もなく、花音は続ける。
「わたしがここに来たのは、どうしてでしょう?」
 それは、祖父にとっての一番の疑問だった。祖父は頭を抱え、必死で考えている様子だった。青ざめた顔から、汗が滴り落ちていく。「早く」と花音に急かされ、祖父は、
「お、お金……が、欲しく、て……?」
 と、震える声で答えた。その瞬間、怜治の右手を掴んでいる花音の指がすっと動き――
「ぎゃああああっ!……い、痛い。痛いよおおっ!」
 ボキッという鈍い音とともに、怜治が絶叫する。花音が彼の右手の小指を折ったからだった。祖父は何が起こったのかわからないといった様子で、ただ「怜治!……怜治!」と叫んだ。花音はくすっと鼻で笑うと、
「わたし、女子高生だよ。わざわざこんな家に来なくても、お金なんてどうにでもなるの」
 と、吐き捨てた。祖父は全身をガタガタと大きく震わせた。孫を人質に取られているため、下手に動けないのだろう。悠馬は兄の常軌を逸した声に耐え切れず、思わず耳を塞いでいた。花音は、腕の中で暴れる怜治の首をさらに強く絞め、声を殺させる。それから言葉を続けた。
「他には?」
「…………」
 祖父は答えない。惨い仕打ちに脱力したのか、言葉を出すことができないようだった。息が荒い。そんな祖父の様子を見ながら、花音は怜治の薬指に手をかける。先ほどと同じ、鈍い音が鳴る。
「い、いぃ……痛いいいいぃっ! うわあああっ!」
 再び、怜治の騒声が部屋中を覆った。花音は怜治の様子を横目に「時間切れ」と祖父に伝えた。祖父は慌てて「頼む!……頼むから、もう少し時間を――」と哀願するが、花音に聞く耳はなさそうだった。間もなく、花音から同じ質問が飛んでくる。祖父は必死の形相で、
「ゆっ、ゆか……愉快犯、……というかその、遊びのつもり……とか」
 と、たどたどしく呟いた。既に呂律が回っていない。
 花音がにっこりと笑う。同時に、またも耳を劈くような悲鳴が、怜治の喉から絞り出された。

 ひとしきり叫んだ後、怜治は静かになった。
「もう終わりなの? つまんない……」
 花音はそう言って軽く舌打ちをし、怜治の身体を解放した。彼女の手から滑るように、怜治は床に崩れ落ちていった。失禁によって濡れ広がった股間が臭気を放つ。時折、ピクピクと痙攣を起こしている。
 花音が冷笑を浮かべる。怜治を見下ろしながら、彼女は足を大きく振り上げた。
 祖父が掠れた声で「や、やめて……ください!」と叫ぶ。花音は黙ったまま、怜治の顔面に、その足の裏を容赦なく叩きつけた。
 無惨に崩れた怜治の顔が、溢れてくる鮮血によって赤々と彩られていった。

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「どう許さないのか、教えてもらおうかな」
 花音はそう言うと、くるりと踵を返し、壁の方へと歩を進めた。祖父が身体をビクッと震わせる。押入れの中の悠馬も同じ反応を見せる。
 当然だ。花音の向かった先には、気を失ったままの怜治がいたのだから。
「な、な……何を?」
 先ほどまで勢い付いていた祖父の声は震え、力無いものになっていた。花音はそれには答えず、倒れ込んだ怜治の前にしゃがみ込む。無表情のまま、花音は怜治の髪を掴み、
「ほら、起きて!」
 と、鋭く言葉を投げかけ、反対の手で頬を張った。
 右から、左から、花音の強烈なビンタが怜治を襲い、頬を腫らす。「や、やめ――」という祖父の言葉を十分に待たずして、怜治はその目を開いた。虚ろな瞳で、ぼんやりと周りを見回している。正面を見る。そこに花音の顔があることに気付いた瞬間、怜治は悲鳴を上げた。間髪入れず、花音は怜治の首を掴み、喉元を親指で押さえ込んだ。唇が触れ合うほどの距離まで顔を近づけ、「ふふ」と微笑む。怜治は呻き、咳き込み、やがて声を上げるのを止めた。
「失礼でしょ? 女子高生の顔見て叫ぶなんて」
 甘い囁きと同時に、花音は怜治の睾丸を掴み上げた。怜治の喉から「い、ぎぃ……」と悶声が漏れる。花音はそのまま、自分の身体をするりと怜治の背後に滑り込ませると、チョークスリーパーの体勢を取った。花音の両足は、怜治の太腿の上で固定される。怜治が少しでももがけば、喉と睾丸に激痛が走る。
 怜治は呼吸を乱しながらも、そこで抵抗をやめた。
「これでも、同じことが言える?」
「う……」
 祖父は花音の問いかけに答えることができなかった。つい先ほどまで剥き出しにしていた敵意は、既に影を潜めていた。眼力は消え失せ、今や縋るような瞳で花音を見ている。
「……す、すみませんでした」
 そう言って、祖父は土下座の体勢を取った。嘲笑する花音を前に、祖父は重ねて、
「お願いします。もう、出て行ってください。お願いします……!」
 と、懇願した。怜治は事の成り行きがわからず、しきりに肩を震わせていた。悠馬もまた、ふすまの向こうで起こった様々な惨劇を受け止めきれず、ただ声を殺して泣くばかりだった。
 花音は、怜治の身体をがっちりと固定したまま、
「うん。いいよ」
 と、淡白な口調で答えた。その反応に虚をつかれたのか、祖父が素っ頓狂な声を上げる。
「ほ、本当ですか?……あ、ありがとうございます。ありがとうございます」
「でも……タダってわけにはいかないかな」
 そう言って花音は、意味深な笑みを湛えた。もちろん祖父に選択の余地はない。
「な、何でもします。何でもしますので……、どうか……」
 頭を床に擦りつけ、祖父は涙声でそう答えた。花音の顔が妖しい微笑を形づくった。

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 祖父の言葉に、花音は心外だとでも言いたげな表情を浮かべていた。踏み付けている足に、さらにじわりと力を加え、
「わたし、誘われたから家に入ったんだけど」
 と、苦笑しながら祖父を見下ろす。祖父が再び悲鳴を上げる。苦悶の表情を浮かべたまま、祖父はそれでも声を絞り出す。
「そ、それはそうだが。こんな酷いことをされたら――」
「酷いこと? おじいちゃんがわたしを襲おうとしたことかな?」
「馬鹿を言うんじゃ、……うぐうっ!」
 祖父の言葉を遮るように、花音が祖父の胸を目掛けて足を叩き付ける。グリグリと踏み躙る。祖父は喉の奥からヒューヒューと音を立て始めた。花音は腰を屈め、そんな祖父の瞳をじっと覗き込む。そして、ゆっくりと口を開いた。
「わたしはお子さんの不足金を立て替えて、お宅にお邪魔しました」
「ぐ……うぅ……」
 祖父が呻く。時々、大きく咳き込む。花音は演技がかった口調で言葉を重ねる。
「おじいちゃんが出てきて、家に入るよう言われました。お茶を出してくれました」
「…………」
「お子さんが急に苦しみ始めました。そしたら急に、おじいちゃんがわたしに襲い――」
「ち、違う!」
 そこで祖父が声をふり絞る。しかし花音は、微笑を浮かべたまま続ける。
「わたしはとっさに、お子さんを守ろうと突き飛ばしました。結果的に怪我をさせてしまって――」
「違う!……違う……違う!」
「そしたらすぐに、おじいちゃんは……わたしに襲い掛かって、靴下を……舐め回して……」
「あ、あぁ……」
「……証拠ですか? ソックスに付いた唾液を調べてもらえれば……」
「う……うぅ……うあああっ!」
「でも、わたしは大丈夫です。おじいちゃん、……きっと寂しかったんだと思います」
 そこで花音は口を噤んだ。相変わらず口元にうっすらと笑みを浮かべ、涙を拭う真似をしながら。
 祖父の目は虚ろだった。花音の足下で、放心したように天井を見上げている。
「よくできたシナリオじゃない? 世間の人って、こういう話題にどう反応すると思う?」
 そう言って花音は声を上げて笑った。しかし当然、祖父は笑わない。花音の言葉に抵抗するように、彼女の足下で身体を懸命に捩る。次の瞬間、祖父は花音の足を手で払い、すかさずその脛に噛み付いた。「痛っ!」という声とともに、花音が祖父の身体から距離を取る。
「この、外道が……。許さん……絶対に。……絶対に!」
 そう言い放ち、祖父は花音をじっと睨みつけた。いつの間にかその瞳には、鋭い眼光が宿っていた。
 花音の口元から笑みが消えた。
「そっか。……そういう態度なんだ」
 言いながら花音は、祖父の目をじっと見つめる。彼女の瞳は、とても冷たい光を帯びていた。

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 覚束ない足取りで、祖父は立ち上がった。
 身体を右へ、左へと揺らめかせながら、射抜くような視線を花音に向けている。
「出て行け……!」
 開口一番、祖父はそう声をふり絞った。その声はごく小さなものだったが、花音に対する明確な敵意をもっていた。威圧感のある声だ。しかし、花音はそれを意に介した様子は微塵も見せない。
「おじいちゃん。足、震えてるし」
 と、嘲笑の混じった声で話題を逸らし、上目遣いに自分の前髪を梳く。
 汚れが気になったためか、花音はソックスを脱ぎ捨てた。右足だけでなく、左足のソックスも同様に。花音の瑞々しく透き通るような素足が顕わになる。
 祖父は怒号した。
 肩に全体重を乗せ、ふらつく足取りで花音へと突進する。しかし次の瞬間には、祖父の怒声は悶声へと変わっていた。花音が瞬時に持ち上げた膝が、祖父の睾丸を見事に突き上げていたからだった。
「ぐぅおおあっ……あっ、あぐうぅ……」
 股の間に膝を喰い込ませたまま、花音は足をしばらく固定していた。祖父は全身を震わせながら、目を大きく見開いている。身体をくの字に曲げた祖父の表情が、みるみるうちに青ざめていく。
 そんな祖父の姿を見下ろしながら、花音は、
「遅っ!」
 と、鼻で笑う。
 祖父は股間を両手で押さえながら、その場に倒れ込んだ。身体を小さく丸め、苦悶する。
「……ソレ、年寄りでも痛いんだね。もう役に立たないくせに」
 花音はそう吐き捨てるように言うと、祖父の臀部の方向から睾丸に追撃を加えた。
「ぎぃやあああっ!」
 絶叫し、祖父がうつ伏せに倒れる。間髪入れず、花音は祖父の腹を何度も蹴り上げる。
 花音は、やがて仰向けになった祖父の左足首に自分の足を乗せ、意味深な笑みを浮かべた。身の危険を感じたためか、祖父の喉からは「ひっ」という声が漏れる。
 花音の瞳が閃く。彼女はすっと膝を持ち上げ、踵を祖父の足首に叩きつけた。

 居間はもはや、叫喚地獄と化していた。
 祖父の左足首は、不自然な方向に折れ曲がっていた。
 狭い闇の中。祖父の悲鳴を聞いた悠馬は、恐怖心から失神しそうになる。呼吸を荒げながらも、喉から漏れる音を必死で押し殺す。全身の震えが止まらない。二人が助かってほしいという気持ちだけが膨らんでいった。
 祖父は足首を抱え、床の上をのた打ち回った。
 花音は一度髪をかき上げると、祖父の行動をじっと観察し始めた。踊り狂う祖父の胸を右足でぐいと踏み付け、床に磔にする。祖父の動きが止まる。悶絶しながらも、掠れた声で、
「頼むから、出て行ってくれ……」
 と、祖父は弱々しく言い放った。痛みのためか、それとも悔しさか、悲しさか、無力さゆえか――
 祖父の目からは、涙が止め処なく零れ続けていた。

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「理由が知りたいの?」
 言いながら花音は、蹲る祖父の頬をじわりと踏み付ける。彼女の瞳は据わっていた。
「う……ぐあぁ……」
 祖父が苦悶の声を上げる。花音の足の裏と床との間に顔面を挟まれ、祖父は横向きに身体を倒す。
 花音は常時その顔に笑みを湛えながら、グリグリと祖父の顔を踏み躙った。
「どうし……て……?」
 と、再び祖父が問う。しかし花音はそれに答えようとはしない。瞳を輝かせ、さらに足に力を込める。それに呼応するように、祖父は呻き声を大きくする。
 ――やめて……やめて……
 押入れの中。次第に歪んでいく祖父の顔を見ながら、悠馬は祈った。
 花音はやがて、すっとその足を持ち上げ、床に下ろした。同時に祖父は仰向けになり、一気に息を吐き出した。既に呼吸は荒く、乱れていた。時折、咳き込む。頬は赤みを帯び、額には汗が滲んでいた。
 悠馬がホッとしたのも束の間のことだった。
 祖父が呼吸を整えるのを待たずに、花音は右足の爪先を祖父の口の中に挿入した。祖父がもがく。喉に障る異物を吐き出そうとするように、再び激しく咳き込む。
 花音はそんな祖父の様子を嬉々とした表情で見つめながら、なおも足の指先で口内を弄り続けた。黒いソックスの先が、次第に唾液で汚れていく。
「汚さないでよ、おじいちゃん。これ高いんだからさ」
 と、悪戯っぽく笑う。言葉の内容とは裏腹に、花音は少しも気にしている風ではない。さらにぐいと爪先を押し込む。
 祖父の目は大きく見開かれ、涙が溢れてきていた。喉から掠れた音を鳴らしている。
「ほら、苦しい?」
「もっ……ほごぉ……」
「なに言ってんのかわかんないよ。ほら……ほら……」
 花音は執拗に嬲り続ける。祖父の口からは大量の涎が零れ落ちていた。
「それにしても、あの子……」
 怜治の姿をちらりと見ながら、花音がそう呟く。祖父はその言葉にピクリと反応し、身体を硬直させる。花音は再度、視線を祖父へと戻すと、
「全然、動かないね。殺しちゃったかな?」
 と声高に言い放ち、大声を上げて笑った。
 悠馬の身体がガクガクと震え出す。無意識に兄の方へと目を遣る。その無惨な姿が、悠馬の鼻の奥の方を刺激する。涙が自然と零れてくる。
 その時「痛っ!」と花音が短く叫んだ。祖父が花音の足に噛み付いたのだ。悠馬が驚いて視線を戻すと、蹲って咳き込んでいる祖父の姿が目に入った。花音は小首を傾げ、祖父をじっと見下ろしていた。
「痛いんだけど。……どういうつもり?」
 そう口にした花音の瞳は、狂気の色を湛えていた。口元には相変わらず、微笑を浮かべたままで――

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 ――え?……えっ?
 突然の出来事に、悠馬は混乱していた。
 居間へと戻ってきた祖父は、慌てた様子で怜治に駆け寄る。
「ど、どうした? 怜治!」
 と、酷く動揺した声を上げる。花音は怜治の身体を両手で包み込んだまま、祖父に目を遣ると、
「きゅ、急にお腹が痛いって言って! どうしたら……」
 と言い、視線を怜治へと戻す。そして「大丈夫?……ねえ! 怜治くん!」と必死な様子で叫んだ。花音の口元にうっすらと笑みが零れているのが見えたのは、悠馬ただひとりだった。
 怜治は口を必死で動かすが、呻き声ばかりで言葉にならない。涙が溢れてくる。先ほど飲食したお菓子やお茶が胃からせり上がり、口から漏れる。
 祖父はかなり動揺している風だった。花音の傍らに座り、海老のように丸まった怜治を見ながら、
「痛むのか? 腹か? どんな風に痛い……どれくらい痛いんだ?」
 と、質問を続ける。しかし怜治はそれに答えることができない。その時、花音がゆっくりと手を前に伸ばす。そして――
「んっ……ぐふうっ!」
 祖父の腹に勢いよく肘を叩き込んだ。祖父もまた、腹を抱えて蹲る。花音は微笑を浮かべながら、
「これくらい……痛いんじゃないの?」
 と、祖父に向かって冷然と言い放った。それまでの優しい口調とは全く違った声色だった。
 悶え蠢く祖父を横目に、花音は怜治を蹴り飛ばした。まるでサッカーボールを蹴るような、力強い蹴りだった。怜治の軽い身体は宙を舞い、壁に叩きつけられた。頭から血が滴り落ちてくる。口から吐瀉物を吐き出す。ぐったりと身体の力を抜き、怜治は床に横たわったまま動かなくなった。

 悠馬は、生まれて初めて見る恐ろしい光景に、全身の震えが止まらない。
 ――お兄ちゃん……? おじいちゃん……?
 事態を把握しきれず、小さなふすまの隙間から、ただじっと様子を見ている。
 ――怖い……。……怖い!
 彼はあまりに幼かった。何をするべきなのかわからない。自分には何もできない。むしろ、そういった思考を巡らすことさえも、年端のいかない彼には困難なことだった。恐怖心に身を包まれる。ただ怯え、慄き、声を堪えて涙を流す。それが、今の彼に出来る限界であった。

「げふっ……うぅ……」
 口から液を垂れ流しながら、祖父が呻く。花音は、そんな祖父の様子を見ながら、涼しい顔で肌蹴たスカートを整えていた。
「……ど、どうして、……こんな?」
 ようやく絞り出した祖父の言葉を聞いた時、花音の口がゆっくりと弓なりに曲がった。

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 怜治と花音の会話は続いていた。

「ねえ。高校生って楽しい?」
「んー、楽しいこともあるし、そうじゃないこともあるかな」
「楽しくないことって……勉強とか?」
「その通り!」
 二人が笑い合う。怜治は花音にますます好意を抱いたのか、身を乗り出して言葉を続ける。
「やっぱり、カノンお姉ちゃんもそうなんだ!」
「うん。怜治くんくらいの歳の頃から、もう勉強が嫌で嫌で……」
「そうだよね。そうだよね。でもオレは体育だけは好きなんだ!」
「あ、それ、わたしもだ」
「そうなんだ! じゃあ、オレたちって似てるね」
「うん。似てる似てる」

 祖父は紫煙を燻らせながら、そんな二人の様子を微笑ましく見ていた。
 灰皿には吸殻が山のように溜まっている。祖父がそれに気付いたのは、咥えていた煙草が短くなった時だった。煙草をしっかりと揉み消すと、立ち上がってキッチンへと入っていく。そこに置かれた小さなスーパーの袋に吸殻の群れを入れて口を閉じ、ゴミ箱に投げ入れる。空になった灰皿を水で軽く洗い、布で水気を取る。それは祖父の日課だった。
 いつになく高いテンションでいる怜治の声は、キッチンにいる祖父の耳にまで届いてきていた。

「じゃあ、カノンお姉ちゃんの楽しいことって何?」
「えっと。うーん、それはいろいろあるけど……」
「教えてよ!」
「例えば、友達と喫茶店でくだらない話をすることとか」
「いいなぁ……。オレが喫茶店なんか入ったら、先生に怒られるよ」
「んー、怜治くんは、もうちょっと大きくなってからだね」
「じゃあじゃあ、他には?」
「……そうだね。例えば、……こんなのとか、かなっ!」
「うっ!」

 それは一瞬のことだった――
 怜治のくぐもった声が響く。悠馬は、思わず声を上げそうになった。花音の拳が突如、怜治の鳩尾を深く抉ったのだ。小さな身体が持ち上がるほどの打撃だった。
 全身を丸め、呼吸困難に陥っている怜治に、花音は妖しげな笑顔を向けていた。
 涙と涎を垂らしながら、腹を抱えて床に蹲る兄の姿が、悠馬の瞼に焼き付いた。

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