Black Onyx [ブラックオニキス];2008/ 11の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2008年 11月 に掲載した記事を表示しています。
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 玄関先での談笑が続く中、悠馬は隠れたままで様子を見ていた。
 依然、祖父と女性との会話が続いている。祖父は恐縮している風だった。

「ありがとうございました。それで、お貸しいただいた不足分の金額の方は?」
「いえ。そんなの要りません」
「いやいや、そういうわけには。親御さんにもご迷惑がかかりますし」
「わたしがバイトで貯めたお金ですので。本当に、お気になさらないでください」
「お言葉は有難いですが。……それでしたら、せめてお茶でも飲んで行ってくださいませんか?」
「……じゃあ、せっかくですので。ありがとうございます。お言葉に甘えて」
「そりゃよかった。汚い家ですがね。どうぞお上がりください」

 一通り会話が終わった後、三人が居間の方へ向かって歩いてきた。悠馬はそれを見て驚く。慌てて、居間の押入れに身を隠すと、ふすまを静かに閉めた。
 悠馬には、三人が低いテーブルを囲んで座っていることは、見なくてもわかった。相変わらず、会話に花を咲かせている。そのうち、言葉に混じって、お茶を啜る音やお菓子を嗜む音が、彼の耳に届いてきた。僕も一緒に――と何度も思った。しかし内気な彼には、やはりそこから出て行く勇気がない。
 悠馬は押入れのふすまを少しだけ開けた。すると、祖父が辺りをキョロキョロと見回しているのが目に入った。彼は動揺した。自分を探している。そう直感したからだった。
 ――やめて、おじいちゃん。探さないで!
 しかしその思いも空しく、祖父の口が開く。
「ところで――」
 そう口にした祖父の言葉に割り込み、怜治が、
「ねぇねぇ、お姉ちゃん! お名前、何て言うの?」
 と、勢いよく声を発する。悠馬は内心ホッとしていた。女性はにっこりと微笑み、
「花音だよ」
 と、怜治の質問に答えた。
「カノンさん、か。ねぇ、これからはカノンお姉ちゃんって呼んでいい?」
 そう元気よく懐く怜治の言葉に、花音は「もちろん」と、笑顔で頷いた。
 悠馬はひとり暗闇の中、必死で胸の高鳴りを抑えようとしていた。

 談笑が続く中、悠馬は次第に心細さを感じてきていた。親しそうに話し合う三人の姿を、ただぼうっと見ている。
 怜治は既に花音に好意を寄せているのか、普段よりも甘えた口調になっていた。クラスで流行っている遊びや趣味、仲の良い友達など、怜治の話す内容はほとんど自分のことばかりだ。それでも花音は嫌な顔ひとつしない。柔らかい微笑みを浮かべ、頷いたり、驚いたりしながら、興味深げに怜治の話を聞いている。
 悠馬はその様子を、ただ羨ましそうに眺めていた。

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 悠馬は驚いた。
 ごく平凡な音のインターホンが家中を包む。悠馬が何度も聞いてきた音だ。決して不快な音ではない。彼が特別、音に敏感な体質であるわけでもなければ、そういった精神状態にあるわけでもない。しかし、彼はその音を聞くと緊張してしまう。
 悠馬にとってのそれは、来訪者がドアの向こうにいることを告げるものに他ならない。
 その音が鳴ると、決まって祖父は「はい」と答え、ドアへと歩を進める。ドアを開けると、祖父の知人か、あるいは見知らぬ人が現れる。悠馬にとっては、そういったありふれたことが苦痛であり、緊張のもとだった。
 要するに、人見知りなのだ。
 今日はどんな声が聞こえてくるのか。女性の優しい声かもしれないし、男性の怖い声かもしれない。知らない人かもしれないし、ひょっとしたら挨拶をさせられるような人かもしれない。
 いずれにしても、祖父が来訪者の対応をしている間、悠馬はいつも不安に駆られてしまう。
 いっそのこと居眠りをしているふりでもしていればよさそうなものだが、悠馬はそうしない。単にそういった知恵がないのだ。しかし無視することもできない。誰が来たのかも気になってしまう。
 悠馬は居間で身体を固くしたまま、静かに耳をそばだてた。
 いつもの如く、ガラガラと玄関のドアが開かれる音がした。
 間もなく聞こえてきたのは、穏やかな女性の声と、兄の声だった。外出していた兄の声が混じっていたことで、悠馬は少し安堵する。
 挨拶が済んだかと思うと、すぐに話の内容が聞こえてきた。
 悠馬は少し開いた居間のふすまの陰に隠れ、その会話を黙って聞いていた。

「それはどうも。お世話になりました」
「いえ、大したことじゃないので。でも、一人でコンビニにおつかいなんて、偉いですね」
「恐縮です。本当なら私が行ければいいんですがね。この歳になると身体がねぇ……」
「そうですか。確かにここからだと遠いかも。それで、いつもこの子が助けてくれてるんですね?」
「まぁ、そんなとこです。でも、親切な方がいてくれてよかった。怜治、ちゃんとお礼を言いなさい」
「あ、もう十分言ってくれましたから。本当にしっかりしたお孫さんで」

 悠馬は、居間のふすまの隙間から、そっと顔を覗かせる。好奇心からだった。しかし、玄関から自分の姿が見えないように気を遣うことは忘れない。
 すぐに、来訪者の姿が悠馬の目に入った。女性だ。彼女は今まさに靴を脱いでいる最中だった。
 かなり明るく染められた髪は腰の辺りまで伸びていた。下を向いていた女性の髪を、外の風がなびかせる。女性はその髪をかきあげ、すっと顔を上げた。
 十代くらいの若い女性だった。目鼻立ちの整った大人びた顔立ちだ。切れ長の目と、艶やかな唇が、色香を醸し出している。ベージュのコートを脱ぐと、女性の紺のセーラー服姿が顕わになった。黒いソックスは、膝下までを覆っていた。
 無論、悠馬の目には、彼女は「若い女性」ではなく「綺麗なお姉さん」として映っていたわけだが。

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suzuroさんのスケッチブック公開!
献身的なご協力で、当サイトを支えてくださっています。お気持ちが心に染みます。
※画像をクリックすると、拡大します。携帯の人はこちら→ 1 2

    
suzuroさんコメント…
 今回の絵は、どちらもスケッチです。漫画体型フィルター入れましたけどw
 格闘と女体は本当に難しいですね。
ryonazコメント…
  躍動する蹴り足。妖艶で鋭い瞳。これぞ真の凶器! 涙は女の武器、という世界とは無縁ですね。

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合同企画。題して、「小説ボイス化」です。
(……とは言え、私は大して何もお力になれていないのですが・汗)

Solitaire * ソリティア * のイコさんが、当サイトの小説のいくつかの台詞を読んでくださいました。
素敵なお声をご提供いただき、大変嬉しく思っています。イコさん、ありがとうございました。
興味のある方は、ぜひお聴きになってみてください。(※携帯サイト不可です。申し訳ありません。)

台詞はこちら →  
(「邂逅」 : 小説:女子高生シリーズ より) → もっと聴きたい方は◆こちら◆

※小説の選択は、私の方でさせていただきました。
  当サイトで行っている、作品アンケート(※現在停止)を参考にしています。
  (皆様のお声が、直接数字で反映されているものがよいだろうという考えからです。)
  なお、台詞の選択は、イコさんに一任しました。


ボイスブログという稀少なコンセプトで、日々、言葉責めをされていらっしゃるイコさん。
彼女のセクシーボイスで、毎夜、逝かされているM男性も多いのでは?
まだご覧になっていないM男性は必見です。ぜひ、ご来訪なさってみてください。
Solitaire * ソリティア *

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「破壊」を「創造」することに貪欲な作者です。
……が、二人の絆は思った以上に堅く。手強いですね(笑)
未だに、私自身が見守りモードでおります。
本作も楽しんでいただけたなら幸いです。

晩秋、紅葉、寒風。
季節柄、いろいろなキーワードが浮かびます。創造の秋ですので。

本作タイトル(からくれなゐ)は、在原業平氏の和歌から拝借いたしました。
聞くところによれば、彼は大層な色男だったそうですね。
物語の内容と和歌の関連性はありませんが。

【 参考 】
ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
-在原業平朝臣-
(醍醐天皇選 『古今和歌集』、藤原定家選 『小倉百人一首』)

いつもご来訪いただいている皆様、本当にありがとうございます。
今後も、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。

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 震えが止まらなかった。
 もちろん、寒さのせいなどではない。何よりの証拠は、僕の全身から滲み出る汗だった。
 しかし、女王様は話題を逸らしてはくれない。毅然とした態度で、
「言わなきゃいけないことは?」
 と再度、僕を問い詰める。女王様の瞳が、揺らぐことのない強い意志を如実に物語っていた。
 ――僕には……奴隷にも、ペットにも……なる資格なんてない。
 鼻の奥の辺りにツンとした刺激を感じる。
 首吊り台は、既に女王様によって用意された。後は、僕が……台から足を放すだけ――
 僕は覚悟を決め、目を閉じた。大きく深呼吸をした後で、喉の奥から声をふり絞った。
「い、今まで……、ありがとうござ……ぐはああぁっ!」
 一際強烈な衝撃を腹に受け、僕の決死の言葉は途中で切られた。喉元に酸っぱいものが込み上げてくる。女王様の意図がわからず、戸惑いを隠すことができない。
 目を開けると、女王様の端正な顔が目前に見えた。怒りとも、悲しみとも、諦めともつかない複雑な表情だった。
「それは誰の意志なの?」
 女王様の言葉に虚をつかれ、僕は吐き気を堪えながら考え込む。
「誰が決めたの? 誰の命令?」
 再び重ねられた女王様の言葉に、僕は困惑する。
 当然の報いだと思っていた。訣別という名の地獄。それが、僕には一番ふさわしいと感じていた。でも、それを決めたのは? それを命じたのは――?
 そう自問した時、僕はあらためて自分の愚かさに気付いた。
 ――それを決め、命じたのは、……他ならぬ、僕自身だ。
 再び、何度も蹴りを加えられる。女王様の瞳は少し寂しそうに見えた。項垂れる僕に対し、
「あなたが従うのは、誰?」
 と、問う。僕の口は反射的に「女王様です」と答えていた。僕が従うのは、女王様ただ一人。失敗から逃げるのは僕の我侭だ。決して女王様の意志ではない。それなら、女王様が求めているのは……
 そう考えた時、今、自分が言うべき言葉がはっきりとわかった気がした。女王様の瞳をしっかりと見ながら、僕は、
「本当に、申し訳ありませんでした」
 と、涙声を絞り出した。掠れた酷い声だ。しかし女王様は真剣に僕の瞳を見つめていた。女王様は、口元にうっすらと笑みを湛えると、静かに口を開いた。
「捨てるくらいなら、お仕置きなんてしに来ないよ」
 女王様の蹴りが臀部に入る。それはとても軽いものだった。
 僕は泣いた。恥ずかしげもなく、大声で、ただただ泣いた。

 
 ポルシェのエンジン音が、再び鳴り響いた。
 女王様は僕に目を向けることなく、その場を去っていった。音が遠ざかっていく。
 僕はその方向をしばらく見つめていた。やがて見えなくなった車に向かって、僕は深々と頭を下げた。
 誠実な反省。
 自分のするべきことがわかった今、僕から迷いは消えていた。
 女王様はまたここに戻って来られる。心から、そう信じることができた。

 ――お待ちしております。僕の女王様。



END

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 女王様と目を合わせることができなかった。
「あ、あの……」
 意を決してそう口にし、顔を上げる。その瞬間、僕の目の前が暗転した。どうやら睾丸を蹴り上げられたらしい。下腹部から内臓へと鈍痛が伝わり、再び項垂れる。喉の奥から呻き声が漏れる。
「反省できてないみたいだね」
 女王様は、冷然とした口調でそう言い放つ。視線の先に、地につけた女王様の足が見えた。
 腹の内部を鷲掴みにされたような感覚、とでも言うのだろうか。
 女王様のヒールの爪先は僕の睾丸を的確に突いたようだった。吐き気が込み上げてくる。思わず咳き込む。身体を屈めようとするが、手足を縛られた状態ではそれも無理な話だ。
 僕には、ただ身体をわずかにくねらせ、その苦痛が遠退いていくのを待つことしかできなかった。
「うぅ……うっ、く……」
 苦悶の声が漏れる。女王様は相変わらず冷徹な瞳で僕を見据えていた。再び足を持ち上げ、ヒールで僕の陰部を撫で回す。そのことで、僕は再び自分の卑しさ、愚かさを自覚させられた。
「これ、……何?」
 そう問うた女王様の声色は、極めて無感情なものだった。嘲りでも罵倒でもない。強いて言えば、呆れ果ててしまった声に近いだろうか。当然だ。足で撫で回す度、僕の陰部が汚らわしい反応を示すのだから。
 先ほどの女王様の言葉を思い出すと、身を切り裂かれるような思いがして辛い。自責の念が僕を締め付ける。
 僕は自分の失態を反省するためにここにきたはずだった。実際に自分の行為を後悔し、憎みもした。だからこそ、女王様が来ることを恐れ、怯えていたはずなのだ。しかしそんな状態にありながらも、僕の中には、女王様に来てほしいという期待があったことは否めない。
 そして、いざ女王様の姿を目にした時、僕は性懲りもなく陰茎をそそり立ててしまった。言うなれば、欲情の虜。己の欲望に忠実になり、飼い主の指示を守ることすらできない。女王様は、僕の意地汚いその本心を見抜いていたのだろう。
 ――僕は……ペット以下の存在……
 脱力感が全身を覆う。
 ――飼う価値すらない……用無しの……
 自虐精神が全身を覆い始めた頃、女王様の前蹴りが飛んできた。ヒールの爪先が腹に突き刺さる。
「ぐふうっ!……うっ……」
 内部を抉る鋭い衝撃が、何度も僕を襲った。一言も発することなく、女王様は何度も僕の腹を潰すように蹴った。僕は悶声を上げ、咳き込み、胃液を口に溜め、苦痛にひたすら耐える。しかし、意に反して、僕のモノだけは、先ほど以上の漲りを見せてしまっていた。自分の惨めさが嘆かわしい。
 女王様はそんな僕の様子を、冷やかな眼差しでじっと見つめていた。
 ようやく女王様の蹴り足が止まった時には、僕の呼吸は乱れきっていた。そうであるにも関わらず、僕のモノは聳え立ったままだった。よりにもよって、先から透明の液体まで吐き出して……
 僕は肩を落とした。自分の情けなさに、声も出なかった。しかし、女王様はそんな僕に言葉を要求する。落ち着いた声で、
「言うべきことがあるでしょ」
 と、僕を追い詰める。それは、死刑執行の宣告に聞こえた。

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 舞い散る枯葉を、ただ見つめていた。
 張り詰めた空気が、徐々に体温を奪っていく。一切の衣を身に纏わない僕の姿は、晩秋の砌を頭から無視するものだった。
 住宅地から少し離れた場所にある林の中。ここまで入ってくる住人はまずいない。
 手足を木に括り付けられているため、当然、手足の自由などない。悴む両手を後ろで擦り合わせながら、僕はただじっとその場に立ち尽くしていた。
 時折、寒風が身体を貫く。僕はその度に身を捩り、悶える。
 散っていく木の葉の色はくすみ、冬の到来を意識させる。しかし、風を受けて舞う数々の枯葉の音は、僕には聞こえてこない。いや、正確には、僕の脳がそれを受け付けていないのだ。
 女王様の立てる音。
 今の僕は、それだけに耳を傾けていた。期待と同時に、恐れ、慄き、怯えるその対象に――
 出来心だったと言って許されるものではない。眠っている女王様の艶かしい姿に興奮し、その裸体を想像した。脳内で都合よく女王様を動かした。愚息に手を宛がって擦った。下半身から白濁液を勢いよく噴出させた。……敬服すべき存在を、よりにもよって僕は、欲望の捌け口にしてしまったのだ。
 思い出す度、耐え難い羞恥心に苛まれる。自己嫌悪に陥る。何度も失敗を繰り返す自分に対し、ひどく失望感を覚える。
 ――このまま僕は捨てられてしまうのだろうか。
 自業自得。そう言ってしまえばそれまでなのだ。考えてみれば、これまで数々の非礼を行ってきた。むしろこの時まで、こんな僕を飼ってくれた女王様に感謝すべきなのかもしれない。しかし、そう割り切ることは、僕には到底できそうになかった。
 女王様の姿を思い浮かべる度に、涙が溢れてくる。このまま捨てられてしまうのかと思うと、発狂しそうになる。失う怖さに身体が震える。罵倒され、嘲笑され、痛めつけられ……。精神的にも肉体的にも苦痛を与えられることは、僕にとっての悦びだった。
 何よりも怖いのは、捨てられてしまうこと。山間に吹く風を受けながら、女王様とともに夕日を浴びたあの日――
 僕はそれを実感したはずだった。それなのに……
 一体、僕は何を学んだと言えるのだろう。何が変わったと言えるのだろう。

 どれほどの時間が経ったのか見当もつかない。
 最初は幻聴ではないかと疑った。しかしその音は、確かに僕の耳へと届いてきていた。

 目の前にポルシェが停まる。その重厚なエンジン音が切られた時、僕は安堵の息を漏らしてしまう。思わず瞳が潤む。
 待ち焦がれた女王様が、今ここに存在する。その悦びは、僕を幸福の渦へと誘い込んだ。ベージュのトレンチコートに身を包み、ダークレッドのヒールを履いている。すらりと伸びた脚は薄いストッキングで覆われていた。魅惑的な立ち姿に、つい見惚れてしまう。しかし、今の僕には当然、それを悦ぶ資格はない。そんな身分や立場にもない。敬愛の念を忘れさせるほどの罪悪感と羞恥心、恐怖心が僕に襲い掛かる。
 女王様は車を降りると、一歩、また一歩と僕に迫ってきた。射抜くような鋭い瞳が、僕に容赦なく突き刺さる。落ち葉にメロディを奏でさせる女王様のヒールが、何故か残酷な凶器に見えた。
 僕は萎縮し、俯く。女王様は僕の目の前に立ち、黙ったまま僕を見据えていた。

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いつも、ryonazへのメッセージを、ありがとうございます。
ご意見・ご感想等は、各記事のコメント欄、あるいはメールフォームより承っております。

なお、管理人にのみ通知される「秘密コメント」につきましては、できるだけ簡素なお返事を心がけております。
(内容や、個人の特定を防ぐためです)
とても有難いコメントを頂いた際にも、かなり事務的な返答になり、申し訳なく思うこともあります。
すみませんが、どうぞご了承くださいませ。

以前から気にしていたことなのですが、言及する機会を失しておりました。
今更ですが、ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
返信の必要なコメントに関しては、公開コメントでご投稿いただくか、メールフォームよりお寄せください。
価値観多様化の時代。愛情表現もまた然り……?
二人が幸せになれることを、作者自身が祈っております。
ライトタッチ、且つ、グロ。
一見、相容れないこの両者のコラボに挑戦してみたのですが……なかなか難しいものです。
初めてのカニバ執筆です。
私自身にこの嗜好は無いのですが、こういった世界観は好きなので。
この手のものは苦手な方もいらっしゃるかと思いますが、このようなサイトゆえ、何卒ご理解ください。
今後も、精進あるのみ。応援、よろしくお願いいたします。

更新ペースについてのご意見や記事に拍手を下さった方々、本当にありがとうございました。
ご提案は、参考にさせていただきます。励ましのお言葉や拍手は、作者の心の支えにさせていただきます。
感謝の念は尽きませんが、この記事をもって、御礼の言葉とかえさせてください。

無い頭を搾っていろいろと悩んではみたものの、結局は私の裁量に任せていただくしかないのかな、と。
更新ペースも、作品の質についても、感じ方は皆様それぞれ違って当然ですので。
……考えてみれば、当たり前のことなんですよね(汗)
ひとまず、今後は不定期更新とさせていただきます。
毎日更新の時もあれば、期間を空ける時もある。そういった形で運営してみようと思っています。

今後もご意見、募集しております。
皆様の方から何かしら運営に対するご要望などがあれば、その都度、改善策を考えていく。
それが今、私にできる限界かと思いますので。

これからも、性懲りもなくこういったことで頭を悩ませることがあるかもしれません。
思い込みで突っ走りやすい管理人ですが、以後も、どうぞよろしくお願いいたします。

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 居間へ戻ると、良い香りが二人の身を包んだ。
 テーブルの上で、ステーキとポトフがほのかな湯気を上げている。
 二人は、向かい合って座った。
 マイはフォークとナイフを手にし、ミナトは両手でポトフの食器を抱える。
 ちょうどミナトがポトフに口を付けた頃、マイが素っ頓狂な声を上げた。彼は身体をビクッと震わせた後、そっとポトフをテーブルへと戻す。
「どうした?」
 彼が問う。
「ごめん……ステーキにかけるソース忘れちゃって」
「何だよ。そのくらい取って来るよ」
「ううん。そうじゃなくて……買い忘れたの」
 マイはシュンと肩を落とし、
「もうスーパーはどこも閉まっちゃってるし……。コンビニだと高いし……」
 と力なく呟いた。同時に、マイの瞳は、真っ直ぐミナトへと向けられていた。
「ミナトくん……いい?」
 彼女のお約束の台詞だった。ミナトは優しく微笑むと、
「わかったよ。で、どこがいい?」
 と、穏やかに答えた。マイの考えていることは手に取るようにわかるのだろう。彼女は「ありがとう。ホントに」と、手にしたナイフを持って彼の傍らに寄って座った。そして、
「ここがいいかな」
 と、指を差した。さすがのミナトにも想像できなかったことだったのか、彼は一瞬、言葉に詰まる。しかし、次の彼の言葉に迷いは感じられなかった。
「うん」
「ホントに?」
「おぅ。男に二言はない。……ただ、遠近感が心配だけどね」
 そう言ってミナトは声高に笑った。

 マイの手にしたナイフがミナトの左の眼球をほじくった。彼の目から鮮血がほとばしる。カーペットに血溜まりができていく。ミナトの身体中を、同時にマイの身体中を、赤い液体が彩っていった。
 グリグリと抉るマイの懸命な様子をもう片方の目で見ながら、ミナトは苦笑する。
 やがて、ミナトの目から眼球が刳り抜かれた。
 ホッとした表情を浮かべながら、マイは手を翳した。眼球が握り潰され、赤と透明な液の混じったソースが、お互いのステーキ皿へと降り注いだ。
「ありがと。美味しそうにできたよ、ミナトくん」
 と、彼の胸に飛び込んだ。ミナトは左目から溢れる鮮血を袖で拭いながら、
「やっぱり、マイは料理が上手だな」
 と、片目だけを細めて笑った。
 食事を口へと運ぶ二人の表情は、この上ない至福の色を湛えていた。

「明日の夜は、シチューだよ」
「そっか、楽しみだ。明日の夜もマイの笑顔が見られるかな?」
 彼女は答えず、残ったミナトの右目を愛しそうに撫でた。



END

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 ステーキの良い香りが鼻腔をくすぐり始めた。
 ポトフは未だ弱火を当てられたまま、グツグツと煮立っている。浮き沈みを繰り返す肉片から赤い液体が染み出し、鍋に溶け込んでいく。徐々に赤みがかっていくスープを見ながら、二人はまた微笑み合った。
「ミナトくん……いい?」
 相変わらずマイは言葉足らずだが、ミナトは彼女の要求を察するのが早い。鍋の取っ手を持った彼女の身体を胸元に抱き寄せながら、彼は右手を鍋へと伸ばす。そして、バツが悪そうに、その包帯だらけの手を引っ込める。それを見て、マイが笑う。
「忘れっぽいのね。そんなとこもステキ!」
「そりゃどうも」
 苦笑しながら、ミナトは反対の手をまな板の上に置く。少し短くなった小指の先端には、絆創膏が貼られていた。彼はそれを手際よく剥がし、念入りに水で洗う。
「雑菌が入るといけないからね」
 ミナトはそう言いながら、あらためて左手を伸ばした。手首まで鍋に浸かった彼の手が、みるみるうちに赤みを帯びてくる。マイの瞳は潤み、煌いていた。「ありがとう」と小さく囁いた彼女の声は、おそらくミナトには届いていない。
「そうだな。ソーセージ、人参、キャベツ。……うん、どれも頃合いだね」
「ありがと。じゃあ、完成だね!」
 そう言って、マイは火を止めた。
 鍋から抜かれたミナトの手は、真っ赤に茹で上がっていた。所々に白く小さな火脹れが出来上がってきている。彼は居間から裁縫箱を取り出してくると、中から針を取り出し、それを潰していった。
 マイは料理の盛り付けを終え、部屋のテーブルに食事を運ぶ。それから、再びミナトに抱きついて甘え始めた。彼の胸に頬を摺り寄せながら、精一杯じゃれている、といった風だ。
「ミナトくん。今日も手伝ってくれてありがと」
「いや、当然のことだよ。いつもありがとな」
 そう言ってミナトはまた、ひとつの火脹れを潰す。
「それ、私もやりたい!」
 彼女がそう口にするのを予期していたかのように、ミナトは速やかに針を手渡した。
「マイは器用だからな。頼むよ」
「うん」
 と、マイが空返事をする。嬉々とした表情で、彼女はミナトの白い火脹れだけを凝視していた。
 プチンという音とともに、ミナトの手から汁が噴き出る。針は見事にミナトの肌を貫き、深々と皮膚に突き刺さっていた。血液が零れる。それでもなお、針の先端はグリグリと皮膚の内部を抉っていく。ひとつ見つけ、またひとつ見つけ――。彼女は無邪気な顔で、お手伝いを続けた。
 一通り潰し終わると、マイは、
「これでどうかな? ミナトくん」
 と満足そうな声を上げ、その針を彼に返した。ミナトはそんな彼女を温かい瞳で見つめながら、
「ありがとな」
 と声をかけ、再びその身体を抱擁した。

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 静かな時間が、二人の間をゆっくりと流れていった。
 次第に傾いていく陽射が、彼らに様々な色彩を与えていく。
「……マイ」
「ミナト……くん」
 唇が重なり、二人は愛欲に溺れていった。
 言葉はない。そこには二人だけの時間と空間が広がっていた。世界が二人を抱擁していた。
 やがて太陽は、その身を地平線の向こう側へと隠していった。


 夕食の準備をしながら、マイはちらりとミナトを見る。
「あの……ミナトくん」
「ん? あぁ、そっか」
 マイの声色と様子を見ただけで、ミナトはすっと立ち上がった。居間からキッチンへと足を運び、彼女の身体を後ろからひしと抱きしめる。自分の頬を彼女の頬にそっと寄せる。
「寂しかった? ごめんな」
 そう言って、ミナトは右手をまな板の上に差し出した。その時、自分の手に包帯が巻かれているのを見て、彼は苦笑する。その手を引っ込め、反対の手をまな板の上に置く。マイもまた、そんな彼の様子を見てくすりと微笑んだ。
 ミナトは、片手でマイを抱擁したまま、
「今日は?」
 と声をかける。彼女は、
「ステーキ、アンド、ポトフだぞぉ。期待してよね!」
 と、溌剌とした口調で答えた。ミナトはさらに、マイを力強く抱きしめ、
「それは楽しみだ。じゃあ――」
 と言葉を切り、彼女の手を優しく撫でる。包丁を持った彼女の手がピクリと反応する。
「……隠し味、だね」
 ミナトはそう言葉を重ねた。まな板の上に乗せた左手を握り、小指だけを立てる。マイは彼の左手にそっと自分の手を添えると、その小指の先に包丁を宛がった。彼女が微笑みながら、口を開く。
「ミナトくん。ホントに、優しい人」
「俺が側にいたいからだよ」
「ううん。そうじゃなくて……。味付けのことまで――」
「――考えて当然。男は台所に立つな、なんて時代はもう終わったんだよ」
 二人は笑い合った。
 マイは包丁を持つ手にぐいと力を込め、刃先でミナトの指先の皮膚を削っていった。徐々に血が溢れ、彼の手を赤く彩っていく。マイの手もまた、ミナトの左指から溢れる血で染まっていく。
 必死の形相を湛えるマイを微笑ましく見守りながら、ミナトは優しく言葉をかける。
「まだうまくならないね。そんなとこも可愛いよ」
「……ごめんね。もう少し」
「うん」
 ミナトが返事をした瞬間、鮮血がほとばしる。彼の小指の先端がコロリと落ちた。

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 目的は――?
 そう訊かれたら、二人は答えに窮するかもしれない。
 身を寄せ、静かに時の流れを共感する。互いに触れ合う。求め合う。欲望を擦り合わせる。絡み合う。そういった行為に意味を求めること自体、野暮な話だ。
 必要な時間。この上なく意味のある時間。そこに確かに存在する幸福。
 それを決めるのは決して他人ではない。他ならぬ二人自身なのだ。例え彼らがそれを言葉で他人に説明できなくとも。例え他者から見てそれがいかに異様なものであっても。

 二人の間に随時交わされる満面の笑みが、全てを物語っているのだから。


 ミナトはマイの腰をそっと抱いた。
 陽光を窓が切り取り、部屋の隅に置かれたベッドの上には陽だまりができている。柔らかい光と熱を背に受けながら、二人は肩を並べてベッドに座っていた。少し開いた窓から風が漏れ入り、カーテンをほのかに揺らす。秋とはいえ、立冬を過ぎればもう風は寒い。ミナトは包帯の巻かれた右手を伸ばし、窓を静かに閉めた。
 二人はいつも一緒だった。
 休日はもちろん、平日であっても講義のない時間帯はいつも側にいる。付き合って三年ともなれば、お互いに会話が減ったり、ギクシャクしたり、浮気の話がどちらからともなく出てきたりしてもおかしくないようなものだ。しかし二人にとっては、どうやらそういった社会通念的な話は蚊帳の外らしい。
「行かないで」
 マイがミナトの服を掴む。色白で華奢な指先だった。切れ長の瞳を潤ませ、上目遣いで彼を見上げている。すっと通った鼻筋と、小さな唇。グロスで濡れたそれが、薄桃色に艶めく。
 彼女は時折、妙に大人っぽい表情を見せた。シャギーロングの毛先には軽いウェーブがかかっており、それが却って、生来の幼い顔立ちを際立たせていた。
 栗色の髪は二つに分けてリボンで束ねられ、緩やかにロールを巻いている。白のフリルをたっぷり使ったカットソーに、赤い花柄をモチーフにしたスカート。ひらひらしたスカートはパニエで膨らみ、いかにも女の子らしいシルエットを作っていた。
 ミナトの趣味で身に着け始めたファッションだったが、それは見事なまでにマイに似合っている。もちろん部屋着としては実用性に欠ける。しかし、ミナトはそんなことを気にする様子は全く見せない。彼女の姿が目に映る度に、愛でるような温かい眼差しになる。
 依然として服にしがみついているマイを見つめ、ミナトはにっこりと微笑みかけた。
「窓を閉めただけだよ。風邪引くと困るだろ?」
 ミナトは穏やかな声で答え、再びマイの方へ向き直る。そして、彼女をしっかりと抱きしめた。
「よかった。ミナトくん」
 そう言って、マイは安心したように肩の力を抜く。そんな彼女の背中をゆっくりと擦り、
「ずっと側にいるから」
 と、ミナトが囁く。彼はマイを抱く手の力を少しだけ強めた。

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はじめに、毎度、当サイトにご来訪・ご協力いただいている方々に、感謝申し上げます。

「妄想を好き勝手に書いています。リクエストは受け付けておりません」
当サイトは、このような我侭スタンスから立ち上げ、変わらず現在に至っています。
とは言え、ここまでサイトを存続してこられたのは、皆様のご支援、ご協力があってこそです。
楽しんでいただければ嬉しい。そうでなければ悲しい。我ながら単純なものだと思いますが。
「やはり、ご来訪者の方々なくしてサイトは成り立ち得ない!」
今でもそれが基本だと思っています。そう考えつつ、あらためて自サイトを見直してみました。

……多いですね。作品が。非常に……。既に、50作品を超えています。
そこでまた、以前と同じような悩みが顔を覗かせてきました。更新ペースについてです。
以前とは似て非なる理由ではありますが……
 1.膨大な量のため、ご来訪くださっている方々が、作品について来られていないのでは?……という不安。
 2.ハイペースを保っているが故に、作品の質が落ちてきているのでは?……という懸念。
上記はいずれも、作品アンケート(※現在停止)や拍手数、ランキングを見た上での分析による、私自身の反省です。
特に、最近の作品の人気がイマイチ伸びていないのが気になっています。
勝手に書く!を貫けば、今後も私のペース。でも、それが読者様の負担や不満足に繋がるのは不本意(葛藤)

そんなことを考えつつ、現在は、更新ペースを緩めるのが妥当なのではないか、と考え始めています。
 1.せっかく興味をもってご来訪いただいている方々の「置いてけぼり」を防止できる?
 2.時間をかけて、より表現や構成を練ることで、作品の質を向上させることができる?(←自信はありませんが)
こういったメリットがあるかと思いますので。

まだ悩んでいる最中です。これからまたいろいろと考え、模索していきたいと思っています。
もしも、これについて何らかのご意見やご提案、アドバイス等がございましたら、何卒、救いの手を!
どんな些細なことでも構いません。ぜひお声を下さい。(何事においても独断と偏見に陥りやすい作者ゆえ・汗)

長文、駄文、失礼いたしました。
次作の掲載についてはまだ未定です。これからの成り行きと思案次第で決めさせてください。
手探りの多い管理人でお恥ずかしい限りですが、より良い運営を心がけていきたいと思っています。
今後も、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。
いつも当サイトへご来訪いただき、誠にありがとうございます。

~新村明菜登場の巻~です。
まだまだ新参者ですが、彼女なりに精一杯努力しております。
今後の成長を含め、応援をよろしくお願いいたします。

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皆様には、本当にたくさんのご協力を頂き、支えられているのだと、常々感じています。
特に、この度はアンケートへのご回答をたくさん頂き、本当に嬉しいです。
我侭ばかりで振り回してしまい、申し訳ありません。とても参考になります。
個人的な感想ですが、逆リョナ系サイトなだけに、女王様シリーズの高人気は意外でした。正直、驚いています(笑)
皆様にご協力いただいていることの全てが、私の活力となり、励みとなっています。ありがとうございます。

それから、……時々LOVEメールを下さる方が何人かいらっしゃいますね。男性・女性ともに(;^▽^;A)
どの方からも、小説への思い入れが伝わってきます。そのお気持ちはとても嬉しいです。
ですが、中には、少々お返事に困るものもございます(汗)
頂いたメールにはできる限り返信させていただいてますが、回答できかねる場合もございます。
あくまでオリジナル小説公開サイトです。出会いやリアルサービス等を目的としたサイトではありません。
その点、どうぞご理解くださいませ。この場をもって、切にお願い申し上げます。

これからも精進していきたいと思っています。
今後も、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。

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●由香利のキャラ絵 →

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「次で最後です」
 先輩の囁く声を聴き、私はあらためて書類とペンを拾い上げた。おそらく、先輩はソツなくこなしてしまうのだろう。しかし、本当にそれでよいのかという懸念が、私を突き動かしていた。
「由香利先輩……」
 思わず、私は先輩に声をかけていた。
「もう。……もう終わりにしては、ダメですか?」
 私がそう言葉を重ねた時、男の表情がにわかに精気を帯びてくるのがわかった。しかし同時に、先輩の表情はみるみるうちに険しくなっていった。
 先輩は男に一礼し、私の元へと歩を進めた。しかし、私もまた毅然とした態度を崩さなかった。先輩が私の目の前で立ち止まった時、私は、
「先輩、酷すぎます!」
 と、半ば感情的に、内に溜めていた思いを吐き出した。先輩は私の言葉を聞き、ふっと穏やかな笑みを私に向ける。
「さっきも言ったでしょ? 私たちは法律の――」
「わかってます。でも先輩は、その、冷たい……と思うんです」
「冷たい?」
「そうです。容赦も躊躇もない。手加減も一切しない」
「……その考えは違うよ」
 そう言った先輩の表情は、少し寂しさを感じさせるものだった。先輩がさらに口を開く。
「さっきの執行中、あなたは手加減してたの?」
「いえ。……一生懸命やりました。でも、痛がったら躊躇する。それが人間だと思います」
「違う。どんな過程を経ても、刑は実行する。あなたの過程がもたらしたのは、何だった?」
 そう訊かれ、私は答えに窮する。先輩は微笑し、言葉を重ねた。
「恐怖と痛み、苦しみの継続。……違う?」
「っ……」
「それはじわじわと甚振る行為と同じ。それは優しさじゃない。苦しみを長引かせるだけなの」
「……で、でも、頑張ってたんです。情を捨てようと、必死で――」
「一生懸命なのはわかってたよ。だけどね……」
 そこで一呼吸置き、先輩はあらためてじっと私の瞳を見つめた。そして、
「違反者は実験道具じゃない。人間なの。尊厳を損ねる行為は……許されない」
 と、言葉を紡いだ。
 私の価値観が壊れていくのを、はっきりと感じた。

 私は、踵を返した先輩の横を通り抜けた。
 横目でちらりと見た先輩の顔には、とても穏やかな笑みが浮かんでいた。
「頑張ってね」
 その言葉を背中で聞きながら、私は男の方へと真っ直ぐに進んでいった。
 彼の表情は、若干和らいでいるように見えた。その縋るような瞳を見た時、私はようやく心から微笑むことができた。私の中で彼が、受刑者――神沼誠次から、人間――神沼誠次へと変わった瞬間だった。
 拳を固く握りしめ、神沼さんの睾丸を凝視する。
 振り下ろす拳――。私はもう迷わなかった。



END

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 理解できなかった。
 ――どうして? なぜ、先輩が泣いて……?
 先輩は男の手をしっかりと握り、自分の胸元に固定する。そして――
「ぐあああああぁっ!」
 ……もう片方の手で、彼の薬指の関節を躊躇なく折る。
「も、もうだ、……ダメ、やめ……」
 と、枯れ果てた声で叫ぶ男の声を聞きながら、手際よく中指の関節も手懸ける。
「ぎぃ……いぃやああああっ!」
 聞くに堪えない絶叫に、私は思わず耳を塞いでしまう。身体が震える。渡されたペンと書類を拾うことも忘れ、ただ目だけをしっかりと開いていた。正確には、その光景に目を奪われてしまっていたのだろう。職務を忠実に執行する、先輩の手腕に見惚れるかのように。
 しかし先輩は、さらに私に無言の指示を重ねた。横目で私を見ながら、自分の耳を二、三度指差す。耳を塞ぐことすら許されないのだ。両耳から手を放した私の耳に「ちゃんと聴くのが礼儀だよ」という先輩の声が響いてきた。
 再び男をしっかりと見据えた先輩は、
「痛いですよね」
 と、問いかける。そして、
「も、もう、……本当に……ぐがああああっ!!」
 と懇願し、断末魔の声を上げる彼をにこやかに見ながら、手際よく指を折っていった。気付けば、既に残った指は親指だけになっていた。拷問を施す先輩の瞳からは、不思議と慈愛のようなものが感じられる。
「ひぃ……ひ……お願い……」
「最後の一本ですね」
 そう囁き、先輩は微笑んだ。もはや抵抗する気力も失ったのか、既に男が手を動かすことはなかった。青ざめた表情のまま目を大きく見開き、ただ先輩を見ていた。先輩はその笑みを崩すことなく、彼の親指の関節に手をかける。
「ぐっ……ああああああっ!!」
 拷問部屋を覆う男の悲鳴とともに、第二のメニューである『片手全指骨折』が幕を閉じた。

 男の絶叫が響く中、先輩は私へとその視線を注いだ。目が自然と泳いでしまう。先輩は私の肩をポンと叩くと、穏やかな口調で話し始めた。
「私たちは、警察官なの。法に従って職務を遂行する。それが仕事だよ」
 そう言うと、再び彼の方へと視線を向ける。
 ――そんなこと、わかってる。でも……
 私は、躊躇なく違反者を痛めつける先輩に対する反感を、どうしても拭い去ることができなかった。
 確かに先輩が言っていることは正論だ。法律に背くことは許されない。しかし、だからと言って、あんなにも事務的に……。いや、それも違う。だからこそ、余計にわからない。先輩は、決して冷酷な人間でもないのだ。むしろ人一倍、情深くも見える。
 拷問を行う際の笑顔。慈愛に満ちた瞳。何より、さっきのあの涙の意味――
 考えれば考えるほどわからなくなっていった。
 そして、今まさに、先輩は男を抱きしめている。震える背中を優しく擦り、耳元に唇を寄せていた。

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 あらためて男の前に立ち、非礼を詫びる。同時に、横目でちらりと由香利先輩の顔を睨みつける。
 ――やってやる。……見てなさいよ。
 私は再度、視線を目の前の男に向けた。
 男の様子に目立った変化はない。相変わらず、時に怒号を上げ、時に弱々しい目を向ける。私は同情心を振りきり、再びその指に手を伸ばした。
「ひ、ひぃ! ひいぃ!……助け……おね、お願いします……」
 男のその言葉に、私はつい手をピクリと反応させてしまう。彼は咳き込み、目を真っ赤に腫らし、後から後から涙を零し続けていた。嗚咽を漏らし、存分に顔を崩した彼の姿は、とても哀れに思えた。
 手が動かない。
 男は私の触れている指を懸命に動かし、抵抗の意思を表す。あまりにも非力だ。人間は、手首を拘束されているだけで、こんなにも力を無くしてしまうものなのか。例え、それが大の男であっても。
 私は男の手をしっかりと捕らえ、小指を掴む。それは容易いことだった。しかし――
「や、……やめ……。ゆる、やべでぇええ!」
 ……彼の悲鳴が、私にとっての歯止めとなってしまう。
 無駄な抵抗。それは自明なことだった。私にとっても、もちろん、この制度を知っているであろう彼にとっても。ここで公務をきちんと執行することが、今の私に課せられた義務なのだということも、十分承知していた。それなのに……
 自分の額に汗が滲んでくるのがわかった。男の手を辛うじて掴んだまま、私は困惑する。理性と感情が鬩ぎ合い、葛藤を起こす。無意識に先輩に視線を送ってしまう。
「ゆ、由香利先輩……あの……」
 喉から出たのは、紛れもない怯声だった。私は救いを待った。しかし、先輩は毅然とした態度を崩さない。その瞳は凛とした光を湛え、ただ男と私をじっと見つめていた。そして、
「甘えないで」
 と、毅然とした表情のままで言い放つだけだった。その態度に、私は再び感情を逆撫でされる。
 ――別に、甘えてなんかない! 言われなくたって……
 意を決し、私は男の小指の関節に親指を宛がう。手を添え、ぐいと力を込める。
「ひっ……、いや……嫌だあっ!」
 彼の懇願の声が痛々しい。それを振り払うように目を瞑り、さらに力を加える。しかし、想像していた以上に関節の骨は硬かった。じわじわと力を強めていくにつれて、彼の叫びも大きくなる。
「やめえええぇ!……ぎぃ、があっ! いいいいっ!……ああああっ!!」
 ――黙って! お願い。もう少し……
 その時、ボキッという鈍い音が鳴った。ようやく男の小指の骨が折れたのだ。しかしそれは、私の本意ではなかった。当然だ。それは私の手による骨折ではなかったのだから。
 男の絶叫が鳴り響く中、私は目を開いた。先輩の瞳が、私を貫いていた。
「酷い! 私、頑張ってたのに……最後までやらせてくれないなんて!」
 私は無意識に、感情を先輩にぶつけてしまう。しかし先輩は、無言のままだった。すぐに私から目を逸らし、男に視線を戻す。そして、
「本当に、ごめんなさい」
 と、彼に頭を下げた。先輩の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。

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 受刑者――神沼誠次の口から鮮血が溢れ出した頃、唐突に由香利先輩から声をかけられた。
「新村さん、交代ね」
 その言葉に、私は耳を疑った。
「えっ……!?」
 素っ頓狂な声と同時に、私は再びペンを落としてしまう。思わぬ指示に、戸惑いを隠せなかった。先輩は私に一度にっこりと微笑むと、痙攣し始めている彼に、
「こちら、研修生の新村明菜です。実践経験の一貫として、ここで交代させていただきます」
 と呼びかけると、私に手招きをした。
 足の震えが止まらなかった。
 見ているだけでもこんなに恐ろしいのだ。実際に拷問を行うなんて、できるはずがない。しかし、先輩の瞳は真剣そのものだった。私の手を引き、
「失礼のないように、ね」
 と、優しい口調で私に囁く。
 私は困惑していた。
 ――できるわけ、ないじゃん……
 その思いだけが、私の中に広がっていく。男がゴボゴボと喉から異様な音を立て始めるのを見ながら、私は無意識に首を横に振っていた。
 その時、バシッという音とともに、私の首が大きく横に振られた。頬を張られたのだ。じわじわと熱を帯びてくるのがわかる。無意識に涙が溢れる。霞んで見える先輩の表情には、鋭い眼光が湛えられていた。
「遊びじゃないの」
 冷然とした口調で言い放った先輩の言葉が、私の全身を貫いた。
 先輩はそっと私の手を取り、男の前へと立たせる。私の手からペンと書類を抜き取り、先輩がそれに目を通す。そして、極めて事務的な口調で、
「内臓損傷終了です。残るメニューは――」
 と、確認するように内容を読み上げる。もちろんメニューは頭に入っていた。だからこそ、こんなにも震えが止まらないというのに……どうして……?
「真剣にね」
 そう言葉を加えられ、トンと背中を軽く押される。私は覚悟が決まらないまま、
「た……担当代理の、に、新村明菜です。よろしくお願いします」
 と挨拶をする。
 声が上擦ってしまう。逃げ出したい衝動に駆られる。そんな私の肩に、先輩がそっと手を置いた。
 私は勢いに任せ、恐る恐る男の指に手を伸ばす。それに反応し、彼は触れる前から耳を劈くような悲鳴を上げた。目を大きく見開き、涎を撒き散らしながら声を上げ続ける。
 狂人的なその反応が恐ろしくなり、私はその場で腰を抜かしてしまう。自然と涙が溢れてくる。しかし、先輩は態度を変えなかった。私を見ながら、なおも立つように指示する。
 ――どうして? 私をいじめて、楽しんでるの?
 徐々に、先輩に対する不信感が芽を出してくる。先輩の微笑が鬱陶しい。
 私は深く息を吸い込み、ゆっくりと立ち上がった。怒りが開き直った気持ちとなって、私の動揺を鎮めていった。

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 ペンを持つ手が震えた。
 薄暗い拷問部屋には数々の器具が取り揃えられている。施してきた拷問の歴史を表すように、それらは冷たく、無機質に、その血塗られた姿を晒していた。どれも目を覆いたくなるような品ばかりだ。
 幸い、今日の器具使用は必要最低限のものに留められていた。
 違反者の男の両手足を拘束するための磔台――それ以上のものを使用することはないと、由香利先輩から事前に聞かされていた。実践見学研修の初日では刺激が強すぎるという理由から、先輩がそのように取り計らってくれたのだろう。
 もちろん、いずれそれらを使用しなければならないことも、そのための勉強を欠かせないこともわかっていた。でも、私は少し安心していた。今日だけは、その使用を見なくて済むのだから。
「ご気分はいかがですか?」
 そう問いかける先輩の拳は、男の弛んだ腹に延々と叩き付けられていた。彼の名は神沼誠次。歳は二十九。正当拷問自白法の違反者だ。だぶついた大きな身体だが、身長は低い。呻き声を上げながら、彼は、
「苦し、い……です。お願……す。もう――」
 と、必死で懇願している。私は、彼の様子を事細かに書類に書き綴っていった。

 自白のための拷問を認める法律が正式に制定されたのは、もう何年も前のことだ。そして、その法に違反した者は、拒否罪に問われる。ある者は幾年、ある者は一生、死よりも辛い拷問を受け続けることになる。但し、その刑に服して社会復帰できた者の話は、未だ聞かない。私はその処刑人として、ここに配属された。

 受刑者の顔を見るのがきつい――それが正直な気持ちだった。受刑者の取りがちな行動や、それへの対処法などは、もちろん研修講義の段階で一通り学んでいた。内容が頭に入るまで、マニュアルに何度も目を通した。しかし、実践見学となると話は別だ。私は平静な表情を繕うのがやっとだった。
 手の震えが止まらない。足が竦んでいる。凄惨な場面に、思わず目を逸らしてしまうこともある。
 しかし由香利先輩は、そんな私の行動を敏感に察知する。その時には必ず、
「新村さん」
 と、厳しい声が飛んでくる。叱られるのも当然だ。先輩が実践を見せてくれているのは、他ならぬ私のためなのだから。
 しっかりと見て、学習し、できるだけ多くのことを吸収する。それが、今日の私の義務だ。
 私は「はい!」と返事をして気を引き締め、再び、先輩と受刑者に視線を向ける。
 男は涙を浮かべ、決して叶うことのない願いを叫んでいる。その声は既に掠れていた。目が虚ろだ。時々、激しく咳き込む。喉から荒い息音を発し、口の端から胃液を垂れ流している。
 私はペンを握り直し、書類にその様子を書き留めていった。
「苦しいですか?」
「うぐうっ!……はひぃ……」
「もっと抉りますからね」
「っ……はぐうっ!」
「潰れるまでの我慢ですので」
「っはっ!……ぐふうぉ!」
 先輩は嬉々とした表情を湛え、男の腹を殴り続けた。彼の苦痛を労わる言葉をかけながら、さらなる苦痛を躊躇なく与えている、といった印象だ。
 プロの世界――。私は肌でそう感じていた。

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●学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD 原・佐藤大輔 画・佐藤ショウジ [角川書店]
 1巻:胸をモップの柄で突き、流血
 〃 :心臓をモップの柄で突き刺し、流血
 〃 :脇腹をモップの柄で突き刺し、流血
 〃 :腹をモップの柄で突き、流血
 〃 :腹に木刀突き×2
 〃 :腹(脇腹?)をモップの柄で突き、胃液、苦悶、白目、嘔吐、咳き込み
 〃 :腹に木刀突き

●かんなぎ 武梨えり [一迅社]
 1巻:脇腹に丸めた新聞打
 〃 :腹に蹴り
 3巻:腹に肘打ち


※注
 ・全て女から男への腹責めです。
 ・記載したキーワードは全て、私の見た限りの独断です。
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