Black Onyx [ブラックオニキス];2008/ 07の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2008年 07月 に掲載した記事を表示しています。
 膨らみは女生徒たちによって目聡く見つけられる。
「ちょっと、先生。またここ大きくしてんじゃん」
「ホント、どうしようもないね、このマゾは」
 切り裂くような罵倒を浴び、僕のプライドは既にボロボロだった。背徳感が僕の全身を包む。なぜなら僕は、女生徒たちの知らない事実を知っているから。僕が実の妹に欲情したという事実を……
 僕は妹を汚してしまった。自責の念に駆られる。美里の顔を見るのが怖かった。妹に軽蔑されるのが怖かった。
 ちらりと上目遣いに美里を覗く。彼女は笑っていた。しかし心の中ではきっと……
 その時、ドスンと強烈な一撃が僕を襲った。美里の後ろ回し蹴りが、僕の腹部に見事にクリーンヒットしていたのだ。気付けば彼女の踵は、僕の脇腹に喰い込んでいた。
「うえっ……うげえええぇぇっ……げえぇっ……」
 僕は再び嘔吐した。しかし先ほどのような吐瀉物は出てこない。胃の中が空になってしまっているためか、黄色い液体が喉の奥から絞り出されるだけだった。
 強烈な刺激が鼻を劈く。僕は嘔吐感のみに苛まれ、その苦しさから涙を零した。
「泣いてるの? 先生」
「変なとこ膨らませながら?」
「マジキモイんだけどー」
 再び罵倒の数々を浴びせられる。僕は力なくその場に倒れ込んだ。
 女生徒たちの騒がしい声は、既に僕の脳までは届かなくなっていた。


 意識があるだけに苦悶し続けなければならない。それは本当に残酷なことだと思った。
 突き上げるような嘔吐感をもよおす。しかし吐く物自体がもう内部に残っていない。だから僕は床に突っ伏したまま、何度も胃液を口から垂れ流していた。
 ――もう駄目だ。この子たちはもう、僕ではどうしようも……
 と、その時、扉の窓越しに希望の光が見えたような気がした。淡い期待が幻覚を見せているのではないかとも思ったほどだ。しばし目を疑う。しかし、その姿は確実にそこにあった。担任の先生だ。
 僕はこの時、生まれて初めて神様というものに感謝の気持ちをもった。
「た……たすけ……」
 僕の声は塵にも等しかっただろう。
 思った通り、それは女生徒たちの声によって簡単に消されてしまう。しかし先生がこの現場を見ているという事実が、これ以上ないほどの安心感を僕に与えてくれていた。これで助かるのだ――
 
 ふと違和感を感じる。
 待てども待てども、先生が教室に入ってくる気配がない。それどころか、先生の顔は不自然に強張っているように見えた。目を凝らす。そこにはサキの姿があった。先生の肩越しにサキの朗らかな笑顔が覗く。その瞳は透明感を宿し、口元には淡い微笑を湛えている。彼女はその唇を先生の耳元に寄せていた。ともすれば、直接触れてしまうほどの距離だ。先生は身動き一つ取らない。
 もちろん声は届いてこなかった。しかし、彼女がそっと何かを囁いたと思われたその瞬間、明らかに先生の表情に動揺の色が見て取れた。不敵に笑うサキと微震する先生の表情が窓越しに並んでいた。
 先生はやがて教室に背を向け、逃げるようにその場を離れていった。

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