Black Onyx [ブラックオニキス];2008/ 03の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2008年 03月 に掲載した記事を表示しています。
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入学、進級、進学シーズンとなりましたね。
今回は、女子高生シリーズの中では比較的長編の物語をご紹介いたしました。
この作品からご覧になった方は、シリーズを通して見ていただけるとより楽しんでいただけるかと思います。
お時間のある方はぜひ、他の作品にもお目通しくださいませ。

本作は中学生視点ということで、中学生らしい文章表現を心がけましたが……まだまだですね(苦笑)
登場人物の年齢相応になりきって事実や心情を描写するのは本当に難しいものです。
今回も、温かい目でご覧いただければ幸いです。

話は変わりますが、ここ数日の間に別々の方から同じような内容のメールを頂きました。
「『逆リョナ』という言葉はryonazさんが生み出したものですよね?」といった感じのものです。
どういう目的で、またどういう経緯でこういったメールが何通も届くのかが謎ではありますが。
とりあえず、私がこのサイトを立ち上げる際に、一応こういう言葉が存在するのかと思って検索はしてみました。
その限りでは、まだこの言葉は一つも見つかりませんでした。
ただ、厳密に私が起源かと問われると、やはり答えに窮してしまいます。
「リョナ」という言葉はその時点で存在しました。
そして同時に、こういった嗜好をお持ちの方なら、誰かは考えつきそうな単純な造語ですので(苦笑)
私としては「『リョナ』という言葉を利用して、私が自分の頭で考えた言葉」と答えるのが精一杯です。
メールを下さった方、申し訳ありません。
・明確な回答ができない
・ご来訪いただいているその他の方々にもご理解を頂きたい
以上のような理由から、この度、ここに書かせていただきました。
どうぞご了承くださいませ。

しかしながら、最近になってこの「逆リョナ」という言葉を諸所で見かけるようになったことは確かですね。
それについては、やはり嬉しく思います。
この調子で、今後もこういう嗜好が知られていけばいいなと思っています。

今回も連載中に本当にたくさんの拍手を頂き、有難うございました。
皆様のそのワンクリックが、私にとっては大きな活力となっています。
あらためて、この場をもって御礼申し上げます。
今後とも、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。

●渚のキャラ絵 →  
●紗希のキャラ絵 →   
●渚の台詞ボイス →

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 今やオレは二人の魅力の虜となっていた。
 気を失っている風を装いながらも、オレは彼女たちから目を離すことができなかった。
「私、渚。さっきは危ないところをありがとう。」
 茶髪を靡かせながら渚が呟く。その言葉に、ボブカット女は虚をつかれたような顔をする。
「……礼を言うのは、私の方だよ。」
 二人は互いに顔を綻ばせ、くすりと笑い合う。
 ボブカット女は少し照れながら「ありがとう」と口にし、そのまま渚に背を向けた。
 渚は笑顔を浮かべ、大きく頷いた。そして再びボブカット女に話しかける。
「あの。あなたの名前は?」
 ボブカット女が再びふり返る。
「紗希。麻美大嶋に行ってるんだ。良かったら、今度遊びに来なよ。」
 渚の笑顔に応えるように、紗希はにっこりと笑顔を返した。
 そういえば、あの華やかなダークレッドの制服は、麻美大嶋学園のものだった。
「うん。また会おうね。ところで……」
 渚がふと立ち止まり、口篭もる。それが気になったのか、紗希もまた足を止める。
 やがて決心したように、渚が声を出す。
「何で、あんなに強いのに黙ったままでいたの?」
 その質問に、紗希は再び小さく笑った。
「私立だから。受験の時の癖かな。良い子にしてたからさ。それに、あなた強かったし。」
 オレは『受験』という言葉にピクリと反応した。再びオレの中の価値観が大きく揺れ動くのを感じる。
 自分の目標とは? 自分の生き方とは? 常に何かに逆らって生きることを決めた意味とは? 己の信念とは? オレ自身の生き方とは? そして……本当に信頼すべきものとは?
 様々な葛藤が渦巻く。あれほどまでに嫌っていた、世間の波や大きな圧力。それに流されたり潰されたりするのは弱い男の証だと思っていた。先輩二人について行くことが、オレの道だと思っていた。世の中全てに牙をむいて生きることを決めた。
 そんなオレは今、こうして女子高生によって完膚なきまでに叩きのめされ、怯え、気絶したふりをしている。
 ――本当の強さとは……?
 渚は紗希の答えに軽く頷き、「そっか」と明るく声を出した。渚はベンチに向かい、そこにある学生鞄を持つ。おそらく自分のものだろう。女の子らしい可愛いストラップがついている。オレたちに向かってくる前に、邪魔だから置いておいたようだ。
 二人はそれぞれに帰ろうとして、ふと、倒れ込んだオレの横でピタリと足を止める。
 ――気付かれた!? くそっ……許してくれ……
 気絶したふりをしながら動揺するオレに向かって、渚が優しい口調で語りかけた。
「君も、もっと大人になりなよ。そしたら、調教してあげてもいいよ。」
 調教という言葉に、オレは何故か心の奥を強く刺激されるような思いがした。温かく、そして力強い声。それはオレの脳内に強く、本当に強く響いた。
 ――この人には敵わない。
 そう自覚した瞬間だった。紗希が続けて言葉をつなぐ。
「分かってると思うけど、次に馬鹿やったら……」
 オレは必死で、何度も首を縦に振った。そんなオレの姿を見ながら、二人はにっこりと微笑んだ。
 その笑顔は、驚くほど無邪気で柔らかかった。目を奪われずにはいられないほどに……


 半年後、オレは麻美大嶋学園の門をくぐった。
 真新しいダークレッドの制服を身に着けて。



END

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 さっきまでの騒音は嘘のように消え去っていた。
 風の音やそれになびく木の葉の揺らぐ音が耳に入り、それが却ってこの場の静寂を強調していた。
 茶髪女は無言のままゆっくりと洋介さんの身体を解放した。彼の顔面は見る影も無くボロボロになり、身体中が血塗れになっていた。無論、それは洋介さんだけの話ではない。身体を起こした女もまた、返り血でセーラー服を赤く染め上げていた。その女の姿に、何故かオレは再び女性としての魅力を感じていた。
 茶髪女はしばらくの間、じっと洋介さんを見下ろしていた。
 ふいに、女は洋介さんのズボンの中に手を入れる。オレは女のその突拍子もない行動に、思わず呆気に取られた。どうやら女は、洋介さんの陰茎を弄っている様子だった。
 そして、ポツリと呟く。
「脈あり。こいつは調教次第かな……」
 言いながら茶髪女は「ふふ」と笑う。それから洋介さんのポケットに手を入れて生徒手帳を探り当てると、それをそっと自分の手の中に収めた。そして今度はオレの方へと顔を向け、意味ありげにその表情を緩める。オレは無意識にサッと顔を下げ、気絶を装う。「この子もいずれ、かな」という言葉がかすかに聞こえる。その女の奇怪な言動や行動の意味は、オレには全く分からなかった。
 ふと、木の葉のざわめきが大きくなったような気がした。嫌な雰囲気を感じる。ちらと再び目だけを茶髪女の方へと向ける。そこでオレは、想像もしなかったものを見た。女を見つめるオレの目に同時に映ったものがあった。それは、稔さんだった。
 血塗れになった稔さんはいつの間にか意識を取り戻し、茶髪女の背後にまで迫っていたのだ。その手にはナイフが握られ、月の光を反射してギラギラと光を放っていた。女は彼の存在に気付いていないようだった。勝ち誇った稔さんの表情がはっきりと見えた。彼はゆっくりとナイフを頭上に翳した。


 ――それは、あっという間の出来事だった――
 ボブカット女がふいに稔さんの背後に回り込み、ポンと肩を叩く。稔さんがふり返ると同時に、女は抱きしめるようにして稔さんに身体を密着させた。今にも唇が触れるほどの距離だった。
 稔さんがわずかに頬を染めたのが分かった。ボブカット女の見せる魅惑的な表情や仕草は、瞬時に稔さんを虜にしていたのだ。その時、オレは直感的に稔さんの負けを確信した。
 ボブカット女が右肘を後ろにゆっくりと引き、フッと稔さんの耳元に吐息を吹きかける。次の瞬間には、稔さんの頬はまるで餌を頬張ったリスのように滑稽に膨らみ、その瞳は大きく見開かれていた。
 オレにははっきりと見えた。稔さんの腹に手首まで突き刺さったボブカット女の腕が。
 女が拳を引き抜くと同時に稔さんは声もなく膝を折り、四つん這いのような姿勢で地面に突っ伏した。稔さんを見下ろすボブカット女がうっすらと微笑みを浮かべていたのを、オレは見逃さなかった。
 稔さんの口からはやがて吐瀉物がゲロゲロと吐き出された。身体を地面に横たえ、彼はピクリとも動かなくなった。


 心臓の音が聞こえてしまわないかと不安になった。
 再び静寂に包まれたこの公園の中で静かに佇む女子高生二人と、倒れ込む三人の男たち。その絵面は、他人が見たらどれほどシュールなものに映るのだろう。そんなことを考えながら、何とか心を落ち着けようと必死になっていた。
 オレが目にした数々の信じられない光景。その全てが現実だと思い知らされた。圧倒的な強さをもつ女子高生二人の存在を前にし、オレはもはや戦意の欠片すらも無くしていた。
 今のオレにできるのは……気絶したふりだけ。
 薄目を開けたまま、彼女たちの姿をただぼんやりと眺めていた。

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 茶髪女を相手にした洋介さんは完全に無力だった。
 洋介さんが手を伸ばせばその手を背中の方へと捻り上げられる。殴りかかる度に顔面や後頭部、腹や股間にカウンターのパンチや蹴りを受ける。倒れ込めば瞬時に絞め技や固め技をかけられる。その度に、洋介さんは吠えるように絶叫した。
 いつの間にか洋介さんの全身は血塗れになり、服のあちらこちらに解れができていた。洋介さんは既に、立っているのがやっとといった状態だった。
 女が洋介さんに語りかける声が聞こえてくる。
「ねぇ、そろそろ殺しちゃっていい?」
 息切れ一つしていないように見える茶髪女。対する洋介さんは、その女の言葉さえも耳に入っていない様子だった。
 しかし、洋介さんは決して負けを認めようとはしなかった。
「くっそおおおっ! 畜生おおおっ!!」
 ふらつきながら必死で拳を振り回す。
 洋介さんを支えているのは勝利への執着なのか、この女への憎しみなのか、それとももっと別の何かなのか……。それはオレには分からなかった。
 茶髪女は殴りかかる洋介さんの腕を手前に引き寄せ、睾丸へ膝を叩き込む。
「ぐおおぉっ……」
 呻き声を上げ、洋介さんは身体をくの字に曲げる。女は即座に洋介さんの髪を掴み、下がった顔面へ向けて思いきり膝蹴りを見舞った。
「があああああっ!」
 絶叫とともに洋介さんの身体は大きく跳ね、ドサリと地面に叩き付けられた。女は仰向けになった洋介さんの上に馬乗りになり、顔面を何度も殴打した。その度に飛び交う洋介さんの血が、二人の周りを覆っていった。オレは蹲ったまま、その光景をただじっと見ていた。
 気付くとオレは失禁していた。人間の持つ、動物に悉く近い本能による争いを目の当たりにし、オレは恐怖心で一杯になっていた。しかしそれと同時に、オレは下半身をパンパンに膨らませてもいた。オレは、あの茶髪女のもつ色香と優しさ、そして攻撃性の全てに魅力を感じ始めていたのかもしれない。
 無意識だった。
 オレは洋介さんをボコボコにしていく茶髪女の姿を見ながら、何故かズボンの中に手を入れていた。
 女の声が響く。
「じゃあ、そろそろ逝かせてあげる。」
 その言葉はもちろんオレに向けられたものではなかった。しかしオレはこの時、何故か女の言葉に性的な高ぶりを覚えていた。さっきまであれほど抱いていた恐怖心が、次第に興奮へと変わっていくのを感じる。オレはいつしか、洋介さんに自分を重ねていた。
 茶髪女は洋介さんの背後から、その全身を両足で固めていた。腕は首に絡みついている。がっちりと決まったチョークスリーパー。洋介さんは次第に抵抗を弱め、口から泡を吹きながら痙攣を始めた。しばらくするとその首はガクッと下に折れ、彼は完全にその動きを止めた。
 女は洋介さんのその様子を彼の背後から見ながら、冷酷な笑みを浮かべていた。
 その狂気に満ちた女の表情を見ながら、オレはズボンの中で思いきり射精していた。

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 内臓を鷲掴みにされたような感覚が、絶えずオレを襲う。
 オレは茶髪女が手にしたナイフに酷く怯えた。いや、きっとオレは、あの女の存在そのものに対して恐怖心を抱いていたのだろう。身体の震えが止まらない。
 女は間もなくオレの目の前にまで迫ってきた。立ち止まり、下目遣いでオレを見下ろす。顔だけを上げたオレは、女から視線を逸らすこともできず、ただその瞳をじっと見つめていた。
「君は私に調教されたい? それとも……」
 先ほど女の口から聞いた言葉を思い出す。『……ここで死にたい?』
 ――殺される……。殺される! 怖い……。怖い!
 そんなオレの心を見透かしたかのように、女は口元を弓なりに曲げる。「お子様にはまだ早いか」と小さく呟くと、女はオレに向かってナイフを思いきり振り下ろした。
 恐怖心がピークに達し、瞬時に閉じた目はしばらく開けることができなかった。身体は一層ガクガクと震え、手足のどこにも力が入らない。腰も完全に抜けてしまっていた。
 くすくすと笑う声が聞こえ、オレはそっと目を開ける。見ればオレの股の間すれすれの地面に、ナイフは深く突き刺さっていた。万が一それがオレの陰部を貫いていたらと思うと背筋が凍る思いがした。
「これが恐怖。」
 女はさらりとそう言った。視線をボブカット女の方へと向け、さらに言葉を続ける。
「君があの子に与えようとしたものだよ。」
 ボブカット女は大木を背にして、小さく座り込んでいた。
 オレには返す言葉が見つからなかった。
「そして君の心はこのナイフと同じ。それじゃダメ……」
 女がオレに顔を寄せる。唇が触れてしまうのではないかと思うほどの距離だった。自分の顔が火照っていくのが分かる。胸の奥が刺激されるような感覚。理性の全てが吸い取られていくようだった。魅惑的な瞳に惹きつけられ、オレは思わず自分の身を女に預けてしまいそうになる。
 ……と、その時、一際大きな叫び声がオレたちを包み込んだ。
 洋介さんだった。
 彼はふらつく身体に鞭打ちながら、必死で立っているような状態に見えた。腫れ上がった顔は真っ赤に染まっている。しかし彼の目には、それを覆い隠してしまうほどの殺意が感じられた。
 オレは思わず身震いをする。
 茶髪女は瞬時に反応し、視線を洋介さんへと移して立ち上がる。女は彼の様子を確認すると同時に、座り込んでいるオレの股間に突然、強烈な後ろ蹴りを見舞った。踵が睾丸に喰い込む。
「ぐぅ……あ……」
 衝撃から苦悶の声を上げる。女はふり返り、再度蹲りそうになるオレの髪を掴んだ。持ち上がったオレの顔に瞳を近付け、じっと覗き込みながらくすりと笑う。そして柔らかな口調で言った。
「痛い? それが君への罰よ。そこで寝てなさい。」
 女が髪を放すと同時にオレは身体を丸め、陰部を押さえて悶絶した。女の言う通りに気を失うことができれば、どんなに楽なことだろう。しかしオレの内部を抉るような苦痛は、決してそれを許してはくれなかった。
 意識が朦朧とする。しかしオレは何故か、これから起こる出来事をしっかりと見届けなければいけないと感じていた。これを義務感と言うのだろうか。何かそういったものに動かされ、オレは苦悶を続けながらもじっと、洋介さんに毅然と向かっていく女の後ろ姿を見つめていた。

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 洋介さんの怒りがビリビリと伝わってきた。
「……ん、の野郎……。何してくれてんだよ……」
 威嚇するような低い響きの声がオレの胸を抉る。洋介さんの鼻からは血が噴き出してきていた。オレの拳にもその血がベットリとついていた。それに気付き、オレは震えた。
 ――オレは……何てことをしてしまったんだ。オレは……オレは……
 我に返ると同時に、早くも自分がしたことへの後悔が頭を擡げてくる。
 ――尊敬する先輩を殴ってしまった。オレ自身が……この手で!
 その罪悪感と洋介さんに対する恐怖心は、あっという間にオレの全身を包み込んだ。鼻を擦りながら、洋介さんがゆっくりと身体を起こす。
「いい度胸してんな、てめえはよ! あぁン!? 何のつもりだコラ!!」
 洋介さんの罵声が響く。ギラついた瞳。混乱したオレは身動きが取れなかった。洋介さんの放つ威圧感は、傷ついた身体とは対照的に思えた。洋介さんが拳を振り上げる。オレは覚悟を決め、目を瞑った。
 しかし、その拳はいつになってもオレに当たることはなかった。
 ふと片目を開けると、オレに背を向けた茶髪女の姿が目前に映った。女は拳をまっすぐ前に突き出している。女の向こうには、顔面を手で覆いながら蹲る洋介さんの姿があった。洋介さんの指の間からは、血が後から後から零れてきていた。女は絶叫する洋介さんを、無言のままじっと見つめていた。
 状況を理解するのには時間がかかった。しかしその時同時に、ふいに一つの考えがオレの頭を過る。鼓動が高鳴るのが分かる。オレは、自分が完全に女の死角に入っていることに気付いていた。
 ――こいつは洋介さんに気を取られてる。やるなら、今しかない!
 オレは再び気持ちを奮い立たせる。そして今度は目の前の女に焦点を当て、拳を握り締めていた。
 ――アシリタス。今こそオレに、力を……
 今のオレに信じられるものは、もはやオレの中に潜む悪魔だけだった。人間なんて、所詮信じるに値しないもの。この時オレはそう悟った。洋介さん。稔さん。そいつらが何だというのだ。尊敬する人間なんて、最初からオレには必要なかったのだ。
 ――そうだよな。アシリタス!
 オレは茶髪女の後頭部目掛けて、勢いよく拳を突き出した。しかし次の瞬間には、オレの目の前は真っ暗になっていた。身体の力が抜け、膝がガクンと折れる。項垂れたオレの目の先に映ったのは、後ろ向きのまましゃがみ込んだ女と、オレの鳩尾に深く減り込んだ女の肘。それに気付いた頃には、オレは既に内部からもよおしてくる強烈な嘔吐感に襲われていた。
 たまらずその場に蹲る。吐き気を必死で堪える。そんなオレの耳に、茶髪女の声が聞こえてきた。
「……あの人は殴って正解。よく出来ました。」
 その口調はとても静かで優しかった。まるで子どもを諭す母親のような声色だった。
 女の言葉に、何故かオレは救われたような気がした。
「ただ、まだまだだけどね」
 と、女は皮肉っぽく付け加える。
 吐き気が後から後から込み上げてくる。オレはその苦しみから、ただその場で苦悶することしかできなかった。そんな中、女がゆっくりとどこかへ向かって歩いていくのが分かった。何かを拾う姿がオレの目の端に映る。オレは懸命に顔を上げ、女の方を見た。
 ……見間違いなどではなかった。女がその手に握っていたのは、オレのバタフライナイフ。それは外灯の光を反射し、女の手の中でキラリと冷たい光を放っていた。
 恐怖心からオレは全身を震わせる。
 ――な、何を……? や……やめてくれ! 許してくれ!
 心の叫びは声にならない。女は冷静な表情で、再びじわじわとオレの方へと歩を進めてくるのだった。

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 洋介さんの抵抗は無意味に等しかった。
 茶髪女は地べたを這いずる洋介さんに難なく近付くと、片腕を掴む。「ひぃぃ」という情けない声。女は洋介さんの身体を仰向けに反転させると、腕をしっかりと胸の辺りに固定する。次の瞬間、女が洋介さんに向かって九十度の方向に仰向けになって倒れ込む。それと同時に、洋介さんは絶叫した。
「ぎぃやああぁっ!」
 これほど見事に決まった腕拉ぎ逆十字固めを見たのは初めてのことだった。オレは我を忘れ、その美しいとも言える光景に思わず目を奪われていた。そんなオレの思考を取り戻すかのように、間もなく洋介さんの言葉がオレの耳を劈いた。
「唯人! 何やってる! 早くこっちに来てこの女をヤれ!」
 声は聞こえた。言葉の意味も理解できた。先輩が助けを乞うているこの瞬間に、自分がしなければいけないことも分かっていた。オレがそこに行かなければ、オレ自身にも危険が及ぶことももちろん分かっていた。しかし身体が動かない。……いや、それも言い訳。オレの身体は多少回復し、気力を振り絞れば何とか動けるだろう。では何故? こういうのを葛藤と言うのだろうか。オレはどうしてもその場へ足を運ぶ気にはならなかった。
 洋介さんが加えて女に向かって叫ぶのが聞こえる。
「お、おい。あいつはまだ無事だ。言っただろ! あ、あいつが責任を取るって!」
 口から溢れた泡を飛ばしながら、洋介さんは必死で叫んでいた。しかしその言葉や態度が、却ってオレの感情をどんどんと冷ましていくのが分かった。
 その言葉を聞くと同時に、茶髪女はちらりとオレに視線を送る。女の表情は驚くほど綻んでおり、その瞳には余裕すら窺えた。それは、必死な洋介さんとは対照的なものだった。
 女が声を上げてオレに尋ねる。
「ねぇ。君は、何でこの人に従ってるの?」
 オレはその問いに答えることができなかった。しかしその問いは、オレに一つの答えを示すものでもあった。先ほどオレが自分自身に問うた『何故』の答え。オレがどうしても二人のいる場所へ行けなかった理由。それが分かった時、オレはそれがあまりに単純なものであることに驚いた。そしてそれは、オレのこれまでの価値観を大きく覆すものでもあった。
 茶髪女がようやくその力を緩めた時、洋介さんは腕を押さえて悶絶した。オレはその様子を見ながら立ち上がると、まっすぐ二人のところへ歩いて行った。
 洋介さんはオレを見ながら声を荒げる。
「遅えんだよ、唯人! 早くそいつヤっちまえ! そしたら、お前の好きにしていいからよ!」
 オレはその言葉を自然と受け流していた。ふと茶髪女へと目を向ける。女はにっこりと笑顔をオレに向けていた。まるで、オレの心の奥底まで読まれているような深い眼差しだった。
 再び倒れ込んだ洋介さんに目を移す。オレにはもはや迷いは無かった。
 オレは拳を握り締め、力一杯洋介さんの顔面を殴った。ドッという鈍い音とともに、洋介さんは地面に手をつく。『何が起こったのか分からない』と、彼の表情が物語っていた。
 そんな洋介さんを見ながら、オレは叫んだ。
「てめえは……クズだ!」
 精一杯の言葉だった。オレの目から再び涙が溢れ出てくるのが分かった。

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 茶髪女はオレへと向けていた視線を、再び洋介さんへと戻す。
 その時の洋介さんの表情に、オレはどこかぎこちない違和感のようなものを感じた。
 洋介さんはオレが意識を取り戻した――かのように他人からは見える――ことを確認すると、態度を一変させた。少し落ち着いた声で、女に小さく呟く。
「……悪かったよ。」
 その声にはわずかな震えが感じられた。しかし洋介さんには、先ほどまでの取り乱した様子は無くなっていた。オレの知っている洋介さんのたくましさが蘇ったような気がした。きっとオレの心の叫びが届いたに違いない。そう思うと、オレはこんな状況下でも喜びの表情を隠すことができなかった。洋介さんのプライドを再び呼び覚まさせた。自己満足だとは分かっている。ただそれでも、オレは今日初めて、自分自身を肯定することができた気がした。
 茶髪女が洋介さんをじっと見つめながら口を開く。
「……それで?」
 無感情な言葉。女はこのまま終わりにする気は無さそうだった。それはもちろんオレたちにとっても同じことだ。こいつには、オレたちに逆らったことを後悔させてやる必要がある。
 オレは再び気持ちを奮い立たせ、身体を持ち上げる。しかし女から受けたダメージは思った以上に大きく、オレは腹を押さえ、膝を地面についてしまう。情けない。しかし、今のオレには自信が溢れていた。何と言っても、今のオレにはあの洋介さんがついているのだから。
 洋介さんは小首を傾げ、オレに視線を向ける。そして端然とした口調で言葉を発した。
「あいつが責任を取る。それが下っ端の役目だ。」
 その言葉はオレの耳にもはっきりと聞こえた。続けて聞こえてきた言葉はさらに小さかったが、オレにはどんな言葉よりも大きく、重く聞こえた。
『だから俺は見逃してくれ。な?』
 ……オレは脱力し、無意識に大きく項垂れていた。
 洋介さんへの複雑な感情は、次第に失望感へと変わっていった。言いようのない負の感情が、オレの中でめまぐるしく渦巻く。目を覆う涙を拭い、オレは顔を上げて洋介さんをじっと睨みつけた。
 洋介さんの表情はあっけらかんとしたものだった。それに対し、茶髪女の瞳の先は鋭くつり上がっていくように見えた。恐ろしく冷酷な女の瞳の輝きが、オレの目に焼きついた。
 女は唇を噛むような仕草を見せた後、静かに洋介さんに言葉を返す。
「そう……。」
 冷静に答えながらも、女は腕を緩める様子はなかった。
「ぐ……かはっ……ちょ……」
 みるみるうちに洋介さんの顔は真っ赤になっていく。女は身体をくるりと反転させ、本格的にチョークスリーパーをかける。洋介さんはやがて白目を剥き、口の端から泡を吹き始めた。女が手を放すと、洋介さんはその場にドサリと崩れ落ちた。うつ伏せで腰だけを浮かせたような格好で、洋介さんはピクピクと痙攣を始めていた。
「どうやら死にたいらしいね。」
 そう言い放った茶髪女の口元には笑みが零れていた。洋介さんは意識こそ何とか保っているようだった。地面を這い、必死で女から遠ざかろうとしている。しかしその動きは微々たるものだった。
 そんな洋介さんの無様な姿を、女は冷たく見下ろしていた。

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 身体中を襲う痛みは徐々に引いてきていた。しかし、あの茶髪女の強さを知り、洋介さんがオレたちに背を向けたこの状況で、自分がどう動けばいいのかなど全く分からなかった。オレは横たわったまま、ただ、事の成り行きをじっと眺めていた。
 正直、オレは混乱していた。
 圧倒的な強さをもつと思っていた稔さんの敗北。尊敬していた洋介さんの腰の抜けた態度。そして目の前の女子高生の見せた想像を絶する力。
 自分が恐怖心を抱いているなんて、決して認めたくない。しかし、それならなぜオレはこうやって気絶したふりを続けているのか。
 茶髪女はボブカット女の無事を確認すると、逃げようとする洋介さんに背後から近付き、しなやかなその片腕を洋介さんの首にするりと絡めた。
「ひ……ひいぃ……」
 洋介さんが情けない声を上げる。
 女が洋介さんの耳元にそっと唇を近付けるのが見えた。
 オレと女との間にはいくらか距離があった。しかしこの静まり返った公園の中では、女の囁きはまるでオレの耳元で発せられているのかと錯覚するほどはっきりと聞こえた。

「……生きて帰る気?」

 鋭利な響きをもつ言葉に、オレは身震いした。突き放すような口調。当然、直接その言葉を聞いた洋介さんの表情はさぞかし青褪めていたに違いない。
 洋介さんの声は震え、あからさまに上擦っていた。
「ひえ……ご、ごめ……。やめ、やめて……許して……」
 ……出来ることなら、洋介さんのこんな姿は見たくなかった。
 オレの知ってる洋介さんは、いつだって、どんなにヤバい状況だって、決して怯まず、力まず、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた人間。そんな洋介さんだからこそ、オレは尊敬し、服従してきた。いつか洋介さんのようになりたい。それだけを願ってここまでついてきた。それなのに……
 オレの中の感情がどんどんと高ぶっていくのが分かる。
 茶髪女は洋介さんの首に腕を絡みつけたまま、さらに言葉を続ける。
「私がいい子に調教してあげようか。それとも……ここで死にたい?」
 挑発の言葉を聞き、洋介さんはさらに取り乱す。
 高ぶったオレの感情は、やがて怒りとも悲しみとも言い切れない得体の知れない形となって、胸の奥を覆い尽くした。気付けばオレは地面に突っ伏したまま、顔だけを上げて思わず叫んでいた。
「どうしてだよ! どうして?……なあ、洋介さん!」
 その場にいる全ての人間の視線が、一気にオレに集中するのを感じる。
 ――どうして? どうして? 稔さんがヤられてビビったからか? 女子高生に負けるのが怖いからか? 情けないからか? 相手が……自分より強い相手だったからか? だから……
「……だから……逃げるのかよ!」
 必死で声を振り絞っていた。
 いつの間にかオレの目には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。

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 信じられない光景に目を疑ったのは、どうやらオレだけではなかったらしい。洋介さんの顔からはさっきまでの余裕のある表情が消えていた。口をポッカリと開けたまま呆然としている。オレもきっと他人から見たら同じような顔をしているに違いない。それほどまでに予想外の、突然の出来事だった。
「弱っ。」
 茶髪女の短いその一言がやけに鋭く響いた。女の瞳はとても冷たい光を湛えていた。
 稔さんの顔は、既に赤く腫れ上がっていた。鼻血を垂らしながら四つん這いになっている稔さんに向かって、茶髪女がゆっくりと近付いていく。
 受けた衝撃で、稔さんは足が利かなくなっている様子だった。四つん這いの体勢のままで、身体中を震わせていた。もしかしたらそれは、茶髪女の強さに対する恐怖心からなのかもしれないが……
 間もなく女は、稔さんの側まで近付いた。
 彼の横に立った女は足を後ろに引き、彼の腹を思いきり蹴り上げた。
「ぐはあぁぁっ!」
 稔さんの苦悶の声が響く。すかさず女は、勢いで仰向けになった稔さんの腹の上にドスンと腰を下ろした。再び稔さんが悶絶する。女は嘲笑うような表情で稔さんの目を見つめると、髪を掴んで顔を持ち上げた。
「……死ね。」
 茶髪女の囁きが耳に入った。次の瞬間、女は稔さんの顔面めがけて勢いよく拳を振り下ろした。
 ……鈍い音が聞こえた。
 女がゆっくりと立ち上がった時には、既に稔さんはピクリとも動かなかった。
 
 オレは、今目の前で起こったことがまだ信じられなかった。
 いつでも強くて、カッコよくて、オレたちのリーダーだった稔さん。向かうところ敵なし。ヤクザですら避けて通るという噂すら聞いたことがあった。そんなオレの理想のオトコを、この茶髪女は見事に打ち砕いてしまった。こんなに細くて華奢な、女子高生が……
 ふと洋介さんの方を見る。彼は震えていた。そのことが、皮肉にも今起こったことが全て現実であるということをオレにあらためて確信させる。
 ――洋介さん……
 彼もオレにとっては手の届かない存在だ。その懐は広くてたくましくて。オレなんかとは比べ物にならないほどデカくて、イカしてて。その背中にすら手が届かない。
 ――オレの理想とするオトコが、まだここに残っているんだ。洋介さんなら、きっと……
 しかし、そんなオレの彼に対する信頼や敬愛は、いつしか跡形もなく切り刻まれた。
 洋介さんはボブカット女をあっさりと手放すと、軽い口調で言葉を連ねた。
「あ、いや、こりゃ参ったな。ハハ。んじゃ、俺はこの辺で。」
 言いながら洋介さんは、ゆっくりと後ずさり、逃げるようにその場を離れようとする。
 ……ショックだった。
 オレを支えていた価値観の全てが逆転するような絶望感を覚える。
 茶髪女はその隙にボブカット女へと走り寄り、彼女を気遣いながらその場に座らせているようだった。失望の中、ふと茶髪女へ目を向ける。その時、オレは背筋が凍るような感覚に襲われた。
 茶髪女の視線に、殺意のようなものが窺えたから……。

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 茶髪女に与えられた苦痛によって、オレはやがて動くことができなくなった。涎を垂らし、股間と腹を押さえ、ぐったりと横たわっているのが精一杯だった。
 オレと茶髪女のやり取りの一部始終を見ていた稔さんと洋介さんの目には、明らかにオレへの侮蔑が込められている。自分の不甲斐なさに、オレは心底呆れかえった。
 ――あんな女一人に……くそぉ……くそおっ!
 心の叫びは声にならなかった。やがて洋介さんの怒声がオレへと飛んできた。
「全く、使えねえヤツだな。」
 その言葉が胸に深く突き刺さる。オレの目からは、悔しさから涙が込み上げてくる。それに追い討ちをかけるように、稔さんが言い放つ。
「放っとけ、洋介。それより、ちゃんとそいつ見張っとけ。」
 洋介さんは悪びれない表情でそれに応え、再度ボブカット女をしっかりと押さえつける。
 ボブカット女は、依然として大きく表情を変えることはなかった。
 オレは、自分がこの世で一番みっともない人間のように思えた。女一人に負けた上、尊敬する稔さんや洋介さんからも見放されてしまった。
 ――もうオレには……何も無い……
 空しさが込み上げてくる。
 気力の全てを失ったオレは、涙で霞む目でその後の行く末をただ見ていることしかできなかった。
 稔さんは肩や首、腰と、全身をほぐすように動かすと、すっと構えの体勢を取った。隙など微塵も感じさせない、恐ろしいほどの威圧感。対する茶髪女の方は、髪を手で梳きながらその場にただ突っ立っているだけだった。時々、唇を舌で舐め回すような仕草をする。
「悪いな。女でも手加減はなしだ。」
 稔さんのその言葉を聞き、茶髪女は鼻で笑う。
「手加減なんかしたら、あんたが死んじゃうよ。」
 女の挑発的な言葉に稔さんは怒りを顕わにする。しかし女は、稔さんのその様子に動じる素振りなど全く見せなかった。涼しい顔で口元に笑みを浮かべている。
 ――この女……
 オレは倒れ込んだまま、そのピリピリとした緊張感の漂う光景から目が離せなくなっていた。
 最初に動いたのは、稔さんだった。
「死ねや!」
 稔さんが茶髪女に向かってナイフを振るう。女はすかさずしゃがみ込む。
 ……そのあっという間の出来事は、速すぎてオレにはよく見えなかった。
 気が付くと稔さんの顔面は醜く歪んでいた。ただ、女の履いたローファーが稔さんの顔面に鋭く喰い込んだ。その瞬間だけは、オレの印象にくっきりと残っていた。まるで撮影した写真のように……
「ぐぎゃあぁ!!」
 稔さんの叫び声は間もなく聞こえてきた。
 女の放ったハイキックは強烈だった。稔さんは顔から血を撒き散らしながら宙を舞い、やがてドサリと地面に突っ伏した。ナイフは稔さんの手を離れ、遠くへと転がっていった。
 女は冷静な面持ちで、ローファーに浴びた返り血を足を振って払った。

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 オレはじわじわと茶髪女へと近付いていった。
 ――これはチャンスだ。チャンスなんだ。ボロボロにして……こいつを、犯してやる。
 それが稔さんや洋介さんの背中に近付く第一歩だと思った。オレは彼らのようになりたい。規則や正義などという名の鎖に決して縛られることのない、カッコいい生き方。この女は、これからオレのオモチャになるんだ。オレは……やってみせる。
 その気持ちはオレに勇気を与えた。
「おとなしくしろ。可愛がってやるからよ。」
 声を絞り、精一杯低い声で茶髪女を威嚇する。ゆっくりと女ににじり寄る。しかしその後の女の反応は思いもよらないものだった。何を思ったのか、女はオレの言葉を聞いた途端、大声で笑い始めたのだ。オレは女のそのふざけた態度に怒りを顕わにする。
「何がおかしい! てめえ、マジで殺すぞコラ!」
 言いながらオレはナイフを茶髪女の顔へと向ける。見ると女はオレよりも頭一個分ほど背が高かった。女は落ち着いた様子でオレをじっと見下ろしていた。そして静かに口を開く。
「……チビガキが、言ってくれるね。」
 侮辱の言葉にオレは頭に血が上り、我を忘れそうになった。怒りに任せ、さらに怒声を張り上げる。
「このクソ女! これから……うっ……」
 思わず言葉を失う。茶髪女の笑顔の奥にあるその瞳はギラついていた。猛獣を前にしたような錯覚。その威圧感に、オレは無意識に目を逸らしかける。女は言葉を続けた。
「可愛がるって?……君が、私を?」
 明らかな侮蔑の瞳がオレへと向けられる。次の瞬間、茶髪女の姿がふっと目の前から消えた。気付くと女は低い姿勢で、オレの懐へと潜り込んでいた。
「くっ……」
 とっさに振り下ろしたオレの手は、がっちりと女に捕まれる。抱きつくように身体を近付け、女はオレの股間に強烈な膝蹴りを見舞った。
「があぁっ!」
 オレは呻き声を漏らし、たまらず地面に崩れ落ちた。はずみでナイフが手から滑り落ちる。オレにはそれを拾う余裕はなかった。女はうつ伏せになったオレの身体に馬乗りになり、腕を背中の方へと捻り上げた。その痛みが下腹部を襲う鈍痛と重なり、オレは抵抗できなくなった。
 ――バカな。くそおっ! こんなバカな! この女!
 茶髪女は身動きの取れなくなったオレの耳元で囁く。
「……お生憎様ね。私、調教はする方が好みなの。」
 そう言って「ふふ」と笑った。
 しばらくして腕を解放された時、オレはぐったりと地面に突っ伏した。茶髪女は立ち上がり、突然、オレの目の前でしゃがみ込んだ。スカートの中から下着が覗き、オレは自分が赤面するのを感じた。
「金玉蹴られて、私の足元に倒れ込んで。私のパンツ見て欲情して。ふふ、可愛いね。」
 言いながら女は、髪を掴んで無理矢理オレの身体を起こす。
「……おやすみ。」
 女の拳がオレの鳩尾を抉った。オレは苦しみから地面を転げ回って悶絶した。

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 オレの怒りは頂点に達しようとしていた。
「バ、バカにしてんのかこの女! てめえは……」
 言葉の途中で稔さんに口を塞がれた。オレとしたことが、つい感情的になりすぎたようだ。稔さんの厳しい視線がオレに突き刺さる。オレは感情を押し込め、自分の失敗を再び恥じた。オレのその様子を確認した稔さんは、視線を女へと向けた。見れば洋介さんも、さっきまでとは違った恐ろしい眼光をその目に湛えていた。
 洋介さんがいつになく重く、潰すような声色で呟く。
「……乱暴なのが好みなんだな。」
 稔さんがそれを受けて口を開く。
「どうもそうらしい。ま、それも面白えか。」
 二人の目の色は恐ろしいまでに鋭くなっていた。オレは震えが止まらなかった。これが武者震いとかいうやつなのだろうか。
 洋介さんは女の肩を抱いたまま、ナイフの逆面を喉から首筋、襟元へと滑らせる。稔さんはゆっくりと立ち上がると、ナイフを女の目の前に向けた。それでも女は表情を乱さない。しかしその瞳の奥には、何か冷たく残忍な光が覗いている気がした。オレは怒りとは別に、この女に不思議な感情を揺さぶられているのを感じていた。
 ――これは、恐怖? ……そんなわけあるか、馬鹿らしい!
 女はやがてふうっと溜息を一つ漏らし、呟いた。
「……しょうがない、か。」
 言葉の意味がオレには理解できなかった。妙に落ち着いた女の態度に、何故か胸が疼く。
 その時だった。

「やめなさい!」

 ドスを効かせた張りのある声が響いた。見るとそこには、同じく高校生だと思われる女が立っていた。
 茶髪の可愛い女だった。派手な外見なのに清純な雰囲気をもつ不思議な女だと思った。大きな胸がオレの股間を刺激する。ボブカットの女とは違った種類のセーラー服を着ている。
 洋介さんはボブカットの女をしっかりと抱き留めたまま、目だけでその姿を確認して口を開く。
「あら。おいおい人数増えちゃったよ。しかもまた可愛いし。これ何てエロゲ?」
 その口調は先ほどよりも和らいでいた。
「唯人、そいつ先にヤッちまっていいぜ。」
 そう続けた洋介さんの言葉に、オレの身体がピクリと反応する。
 稔さんはボブカットの女から目を逸らさないまま、洋介さんの言葉に応える。
「5Pはさすがに未経験だな。」
 そう言った稔さんの口元には薄ら笑いが浮かんでいた。
 オレはナイフを茶髪の女へと向け、体勢を整えた。手が震える。足元が覚束ない。それは決して、この茶髪の女そのものに対する恐怖心などからではなかった。人に刃物を突きつける瞬間。それが、オレにとってとても重いものに感じられたからだった。オレは自分の情けなさをあらためて痛感した。
 その時、洋介さんの鋭い声がオレへと飛んできた。
「このチャンスをモノにしろ!」
 その言葉がオレの弱った心を奮い立たせた。

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 ためらいや罪悪感などは少しも感じなかった。
 今オレの中にあるのは、強い信念と意志。そんなオレの心の支えとなってくれるのが、洋介さんと稔さんと悪魔アシリタス。そしてこの重いナイフが、今オレにさらなる力を与えてくれている。
「おい。アイドルクラスだぞ。」
 稔さんの声に洋介さんとオレが反応する。稔さんの視線の先には、外灯の下でポツンと立っている一人の女が見えた。
 私立のものと思われる、目を惹くセーラー服。見たところ女子高生だろうから、オレよりはいくらか年上ということになる。おとなしそうな女だ。背は小さいがスタイルがいい。何と言っても美人で可愛い。時々、風でなびくボブカットの髪をかき上げる仕草に、オレは下半身が熱くなる感じがした。
 洋介さんは手際よくバタフライナイフを手に隠し持ち、軽い足取りで女子高生に近付いていった。稔さんとオレもすぐに後に続く。
 ――やってやる。今日でオレはまた一つ成長するんだ。
 歩きながらオレは、さっきの稔さんの言葉を思い出していた。
 
 オレたち三人が取り囲んだ時、女は表情一つ変えなかった。
 少し違和感をもったオレを稔さんが肘で軽く小突く。もちろん分かっている。こんなことでビビッてしまうほど、オレは弱い男じゃない。
 オレが気を引き締めると同時に、洋介さんが女に声をかけた。
「よっ。久しぶりじゃん。んじゃ早速ヤろっか。」
 軽い口調。自然に女の肩を抱く動作。女の首に回した手にはナイフが握られ、女の喉元をしっかりと捉えていた。さすが洋介さんだ。
 稔さんは女の前で股を大きく広げてしゃがみ込み、言葉をつなぐ。
「ホテルだと高いしさ。野外4Pでいいよな?」
 彼の手にもまたバタフライナイフが自然に握られ、反射した光が女の顔を照らしていた。すかさず洋介さんが片方の手でオレを指差す。
「あ、こいつ? チュウボウ。まだ童貞。お姉さんにいろいろと教えてもらいたいってさ。」
 そう言ってククッと笑う。気さくな態度を目にし、オレは自分がリラックスしていくのを感じた。自分が緊張していたことを恥ずかしく思う。気付けばオレはナイフを両手でがっちりと握り、腰は引けていた。少し震えているのもその時になって初めて分かった。洋介さんの気遣いに感謝すると同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。あらためて体勢を整え、オレも続けて精一杯声をふり絞る。
「じゃ、じゃあ脱げ! おら脱げ! そ、それとも脱がしてやろうか? あぁン?」
 完璧な脅し文句だった。しかし女はビビる様子など少しも見せなかった。その女の態度が癪に障り、さらに大声を出そうとしたところを稔さんに止められた。稔さんの顔が険しくなる。
「嫌だ、なんて言ったら……分かってるよな?」
 ドスの効いた声。オレ自身が竦み上がるほどの迫力だった。しかし、女はやはり顔色一つ変えることはなかった。少しの沈黙の末、女がポツリと呟いた。
「嫌だ……って言ったら?」
 そう言った女の口元には、うっすらと笑みすら零れているように見えた。

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 初めて手にしたバタフライナイフは、思った以上に重かった。
 オレは今まで以上に強大な力を手に入れたような気がした。心臓の音がやたらと大きく耳に響いてくる。闇に覆われたひと気のない公園の外灯が、ナイフに輝きを与える。それは不思議とオレの心を落ち着かせた。
「なかなかサマになってるじゃねえか。」
 オレにそう呼びかけた洋介さんは、オレの憧れの的だ。いつだってオレより一歩前を進み、イカした姿を見せてくれる。オレごときでは、とてもその背中には手が届かない。とてつもなくデカくて、たくましくて……。
 洋介さんの言葉に、オレは無意識に照れ笑いを浮かべる。
 そのやり取りを横で黙って見ていた男がもう一人。彼がオレたちのリーダー、稔さんだ。
「今日お前は、また一つ成長するんだ。」
 稔さんの言葉は、いつもオレを勇気づけてくれる。
 そう。オレは他のガキどもとは違う。それを教えてくれたのも、この稔さんだった。
『唯人。お前になら出来る。』
 その言葉にいつだって支えられてきた。


 夏休みが明けると、教室の空気は一変していた。
 信頼してきた仲間の変貌。それを自覚した時、オレは心底社会というものを恨んだ。
 ヤツらは変わりやがった。
 受験という名の鎖に、ヤツらの心はすっかり囚われてしまったのだ。話をする間も惜しみ、できるだけ多くの知識を得ようと必死になる。教師に気に入ってもらうためだけに、行儀よく真面目に見せる。
 何度も聞かされた『君たちの将来のためだ』という腐った言葉。それが教師どもの恐ろしい洗脳作戦だったことに気付くまでには、ずいぶんと時間がかかった。オレも一時はその作戦にハマり、納得のいかないまま周りのヤツらに合わせていた。しかしそんな時、オレの中に潜む悪魔――オレはそれをアシリタスと呼んでいる――がオレにそっと囁いた。
『お前は、それでいいのか』と……。
 あの苦しみは今でも忘れられない。
 ――やはりオレにはそんなカッコ悪いことなんてできない。したくない。オレはオレ自身でいたい。
 その思いを受け止めてくれたのが、この先輩二人だった。


 自分の目標、自分の生き方……。誰に何と言われようが、常に何かに逆らって生きる。己の信念を貫く。それがオレ自身の生き方だということに気付いた。
 そうだ。オレは世間の波や大きな圧力という得体の知れないものに、流されたり潰されたりするような弱い男じゃない。
 それからオレは、世の中全てに牙をむいて生きることを決めた。

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作品についてのアンケートへのご協力、本当にありがとうございます。
今回で三回目に入りましたが、これほど多くのご投票を頂けて嬉しい限りです。
前回に引き続き、皆様から頂いた投票の結果をもとに、人気作品を掲載させていただきました。
初めてお読みいただく方や、まだお読みになっていない作品のある方の参考になれば幸いです。
またこの結果は、今後の作品制作の参考にさせていただきます。(3/17現在まで)
→ ◆アンケート◆(※投票停止しました。)

■1位
由香利ノート(由香利)

■2位
放課後の夕暮れ(優美子)

■3位
正当拷問自白法(凛)

■4位
瀕死遊び(彩香)
僕は狙われています(金蹴り女)
罪には罰を(凛)

■7位
ラッシュアワー(女子高生)


※ryonaz所見
今回もまた、「正当拷問自白法シリーズ」の全作品がランクインしました。
掲載当初から、特に由香利の人気は常にトップをキープしています。
彼女の人気の秘密は何ぞ? ……はい。私自身が一生懸命考えます(笑)
また、ブラオニ処女作『放課後の夕暮れ』が、前回に続いて再びランクイン。
自分の創作とはいえ、初期の作品になかなか敵わないというのも複雑なものですね(苦笑)
ますます精進していかねばと、あらためて自覚させられました。
また「女子高生」や「金蹴り」なども、根強い人気キーワードといったところでしょうか。
これからも頑張って作品制作を続けていきます。応援、どうぞよろしくお願いします。

今後もアンケートへの回答をお待ちしておりますので、お気軽にご投稿くださると嬉しいです。(※投票停止しました。)
既にブラオニには欠かせない人物、suzuroさんの新作をご紹介いたします。
紗希のイメージ画を頂きました。私にもこんな画才が欲しいですね。
いつも当サイトへのご協力、本当にありがとうございます。
※画像をクリックすると、拡大します。携帯の人はこちら→拡大


● 柳本紗希 1 (※二枚目はこちらに掲載)
女子高生シリーズ」より
 suzuroさんコメント…ラフ画ですが、こんな感じの子かなぁと。紗希はお気に入りキャラです。
 ryonazコメント…私のイメージにマッチし過ぎていて驚きました。クールな表情が魅力的です。

作品を気に入ってくださった方は、ぜひ拍手のクリックをお願いします。

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Black Onyx [ブラックオニキス]
 各ページのご案内です。

当サイトについて [ ABOUT THIS SITE ]
   注意書きとサイトの説明です。初めて訪問された方は、ご一読ください。

小説目次 [ NOVEL INDEX ]
   小説置き場です。(オリジナル)

イラスト目次 [ CG INDEX ]
   イラスト置き場です。(頂き物)

企画 [ PROJECT ]
   リンク先サイト様との合同企画です。

コトバ [ IMPLICATION ]
   コトバです。

逆リョナ情報 [ INFOMATION OF Gyaku-Ryona ]
   メディアに登場する逆リョナシーンについての情報カテゴリーです。(まとめ→ 逆リョナ@wiki [ Gyaku-Ryona@wiki ]

Pick up 等 [ CAREFULLY SELECTED SITE etc ]
   管理人が特にお世話になっているサイト様やその作品などの紹介カテゴリーです。

リンク [ LINKS ]
   素敵なサイト様へのご案内カテゴリーです。
   当サイトへのリンクについてもこちらから。 ( How to link )

※ 各種機能メモ
 ページ最上部のBlack Onyx [ブラックオニキス]のタイトル文字をクリックすると、トップページへ戻ります。
 ページ上部の「全記事一覧」クリックで、当サイトの全ての記事がリスト表示されます。
 右サイドバーにあるカテゴリーやアーカイブ機能もぜひ使ってみてください。慣れると便利です。
●まじかる☆タルるートくん 江川達也 [集英社]
 3巻:腹にパンチ (※ポンタさん情報)
 15巻:腹にパンチ
 19巻:腹を踏み付け

●風の伝承者 原作・若桑一人 作画・山本智 [小学館]
 壱巻:腹にストンピング
 〃 :腹にドロップキック、胃液、苦悶
 弐巻:腹にエルボードロップ、胃液、気絶
 参巻:腹に掌底(?)、呼吸困難

●椿ナイトクラブ 哲弘 [秋田書店]
 1巻:腹叩き、連打、吐血、気絶
 〃 :腹にパンチ、吐血
 〃 :腹に蹴り、吐血、気絶
 3巻:腹に頭突き、胃液
 4巻:腹に突き出し、胃液、吹き飛び
 7巻:腹にパンチ、気絶、泡吹き

●女神の赤い舌 ウヒョ助 [小学館]
 2巻:腹に膝蹴り、嘔吐、苦悶


※注
 ・全て女から男への腹責めです。
 ・記載したキーワードは全て、私の見た限りの独断です。
 ・逆リョナ情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください。
  (尚、「逆リョナ@wiki」に掲載する情報は、匿名をデフォルトとさせていただきます。)
  → ◆逆リョナ@wiki [ Gyaku-Ryona@wiki ]
●無敵看板娘 佐渡川準 [秋田書店]
 2巻:腹にパンチ、苦悶
 14巻:腹に蹴り
 15巻:腹にヒップドロップ、胃液、咳き込み
 16巻:腹に手刀、気絶
 17巻:腹にパンチ

●無敵看板娘N(ナパーム) 佐渡川準 [秋田書店]
 vol.1:腹に蹴り
 vol.3:腹にパンチ、胃液


※注
 ・全て女から男への腹責めです。
 ・記載したキーワードは全て、私の見た限りの独断です。
 ・逆リョナ情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください。
  (尚、「逆リョナ@wiki」に掲載する情報は、匿名をデフォルトとさせていただきます。)
  → ◆逆リョナ@wiki [ Gyaku-Ryona@wiki ]
2008.03.07をもってBlack Onyx [ブラックオニキス]は、設立一周年を迎えました。
ここまで歩んで来られたのも、これまで温かく見守ってくださった読者の皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。
同時に、当サイト立ち上げの際に私がテーマに掲げた「逆リョナ」という造語。
最近になって、この単語が諸所で使われ出しているのを見かけるようになりました。
語られる場所によって諸説が出てきていますし、捉え方や解釈も様々ですが、このような嗜好が言葉によって理解され、使われていくことは、大変意味のあることだと私は考えています。
同士の方々の間にますます広まっていったらいいなと、密かに思っております。
これからもサイトの発展を目指して、精進していきます。
今後とも、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。


[ 追記 ]
作品についてのアンケートのご協力、本当にありがとうございます。
申し遅れましたが、第一~三回アンケートに一言コメントを頂いた方々にも、併せて御礼申し上げます。
まだまだ募集中ですので、お時間のある方はぜひともご協力をお願いいたします。
→ ◆アンケート◆(※投票停止しました。)
加えて、毎度頂いているたくさんのweb拍手は、私の心の支えです。
いつもありがとうございます。今後も応援、よろしくお願いします。

また、この度ブログ右サイドバー下部の「検索/ポータル」に個人サイト様や実写系サイト様と同じように、バナーページへのリンクを設置いたしました。
「検索/ポータル」各サイトバナー
管理人がお世話になっている検索サイト様です。
お時間のある方は、ぜひ足をお運びになってみてください。
今回の執筆にはかなりの日数を要しました。
自分で好き勝手な作品を書き続けてきた私にとっては、リクエストに基づく作品制作は思った以上に壁が大きかったです。
構成や描写に頭を悩ませ続けました。初リクエスト作品であるが故に、かかる緊張とプレッシャーも相当なものでした。
拙作ではありますが、こうして一つの作品に仕上げることができ、内心ホッとしています。
私のできる範囲で頑張って執筆した作品です。温かい目で見ていただけたら幸いです。
皆様のお気に召していただけたなら、それは作者にとってこの上なく嬉しいことです。
余談ですが、私は「キャビンアテンダント」「フライトアテンダント」という用語には未だに慣れません。
ですので、作品中では呼び慣れた用語を使用させていただきました。
どうぞ、ご容赦ください。
また機会があれば、リクエストを受け付けることがあるかもしれません。
これに懲りず、その際にはまたどうぞご協力をお願いいたします。

今回もまた、作品をお読みいただいた方々に感謝申し上げます。
今後も、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。

作品を気に入ってくださった方は、ぜひ拍手のクリックをお願いします。
よろしければ、ブログランキングのクリックにもご協力ください。

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 ――痛い。痛い……。苦しい……
 俺には既に抵抗の余地は無かった。この歳で男じゃなくなるなんて、何て人生だろう。
 茜と里佳子が俺の両肩を足で押さえ付ける。そんな中、恵美は俺の睾丸を狙って何度も足を振り下ろした。足の裏で踏み付ける。ヒールの先で突き刺す。爪先を突きつける。踵を叩き落とす。彼女の脚力は相当なものだった。潰されるのは時間の問題だろう。しかし俺の陰茎は、その恐怖心に反比例するかのように、何故か再び大きく膨れ上がっていくのだった。
 彼女の瞳は今や、狂気そのものだった。
 この痛みと苦しみはいつまで続くのだろう。いっそのこと一思いに潰れてしまえば、楽になるのかもしれない。美しいスチュワーデスによって去勢される。むしろそれは幸せなことなのかもしれない。今はとにかく、この地獄に等しい苦痛から早く解放されたい……
 その音が聞こえてきたのは、まさにそんな考えが脳裏を過った時だった。
 ノックの音。それに反応して恵美は動きを止める。
「すみません。あの、先ほど呼ばれた男性の知人です。ちょっと心配になって……」
 声の主は俺の彼女の春海だった。
 茜と里佳子は即座に俺の肩から足を放す。恵美もまた、俺の両足からその手を放した。
 その時、諦めかけていた気持ちが再び俺の中に蘇ってくるのを感じた。
 ――睾丸の一つは無事だ。今なら逃げられる。逃げられるんだ!
 俺はすぐさま助けてほしい旨を彼女に伝えようと、声を張り上げた。しかし、既に枯れてしまっている俺の喉から漏れるのは、やはり囁く程度の声でしかなかった。
 恵美が穏やかな口調で返事をする。
「すみません。今開けますので。」
 恵美の返事に何となく違和感を覚えた。しかし、ここで扉を開けなかったらそれこそ怪しい。
 ――大丈夫だ。きっと成功する。
 俺は決心していた。
 里佳子が恵美にカードキーを渡す。恵美はそれを手にゆっくりと扉へ近付いていった。
 ――そうだ。開けろ。その隙に俺はここから……
 恵美が鍵を開けたのを確認し、俺は不自由な身体に鞭打ちながら扉へと急いだ。
 その時、恵美の口からは意外な言葉が発せられた。
「助けてください! あの方が私たちを!」
 恵美が俺に指を差す。
 見ると三人の制服は淫らに肌蹴ていた。恵美が指差した方向には……全裸で勃起した俺の姿。
 里佳子が扉へと歩を進め、春海にテープを手渡す。
「盗撮です。問い詰めたら、急に……」
 そう言って里佳子は涙を流した。
 
 焦燥感が俺の全身を包み込む。こんなことって……
 慌てて春海を見る。春海の瞳の端はきつくつり上がっていた。

「……この、変態!」

 春海の強烈な膝蹴りが睾丸を襲う。ゴリッという先ほど聞いた音が室内に響き、俺は崩れた。
 亀頭から、再び赤と白の混じった液体が噴き出した。

 それが、雄として最後に得た悦びとなった。



END

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 少し考えればすぐに分かることだった。睾丸を潰されて射精などできるはずがないのだ。しかし俺の思考は、彼女たちから与えられ続けた苦痛によって、完全に麻痺していたのだろう。
 恵美が俺の足を持ち、俺の身体をぐるりと反転させる。俺は仰向けになった。俺を見下ろす恵美の表情は、恐ろしいほど険しい光を湛えていた。そこには人間らしい感情が全く見えなかった。茜も里佳子も同じように、鋭い眼光で俺を見ていた。
 意味を理解した時にはもう遅かったのだ。俺は発する言葉を失っていた。
「あぁ……あっ……」
 恐ろしかった。声にならない怯えた声が漏れる。
 茜はしゃがみ込み、そっと俺の股間を覗いた。そして大きく溜息をつきながら呟いた。
「一個、残っちゃってましたね……」
 そう。俺は快楽に溺れ、自らをさらなる窮地に追い込んでしまっていたのだ。俺の睾丸の一つは、まだ何とか生きていたのだ。しかし、それに気付くのが遅すぎた。俺は自分の愚かさを呪った。
 恵美が、仰向けになった俺の両足を開いて持ち上げ、自分の腰に固定する。

「……これで、本当に終わり。」

 殺意を感じた。
 俺はこの時、恵美の本性を垣間見たような気がした。低く、ドスの効いた声。それは、先ほどまでの彼女からは想像もできないほど、恐ろしい響きをもって俺の脳内に喰い込んだ。
 身体の震えが止まらない。
 恵美の瞳は揺らめく青い炎のように、静かに燃え上がっていた。既に見る影もなく変色した俺の陰部。彼女はそれを冷静に、しばらくの間見つめていた。
「や、やめて……やめ……」
 声を出すのも辛かった。自分の声の振動すら、俺の内臓を抉るようだった。それほどまでに、俺の身体は限界を迎えていたのだ。
 しかし俺は叫んだ。精一杯叫んだ。それが内緒話程度の音量にしかなっていないことを理解していながら、なおも叫んだ。
 それが、今の自分にできる最大の抵抗だったのだから。
 恵美は無表情だった。まるで感情そのものが消えてしまっているかのように。
 茜も里佳子も、やはりこのことで態度が豹変していた。彼女たちの中からも笑い声が聞こえてくることはない。笑み一つ浮かべず、冷徹な表情を保っている。二人の瞳がだんだんと鋭くなっていく。彼女たちの瞳は、まっすぐ恵美へと向いていた。
 すっと息を一つ吸い込み、恵美は足を大きく振り上げる。彼女の白くて美しい脚が露わになる。その魅力的な脚が、俺にはとてつもなく恐ろしく見えた。
 恵美は躊躇なく、足で俺の睾丸を思いきり踏み付けた。
「うぅぁ……ぐ……あぁ……」
 俺は弱々しく叫んだ。強烈な痛みに、それしかできなかった。力ない声。それが囁き程度の音であることは、俺自身がよく分かっていた。

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 口から泡のようなものが溢れてくる。
 うつ伏せになった俺には、もはや身体を動かす気力も体力もなかった。涙で翳んだ俺の目には、彼女たち三人のすらりと伸びた白い足だけが映っていた。
 股間が熱い。絶えずじんじんと突き上げてくる痛み。はらわたをじわりじわりと、時間をかけてゆっくりと蝕まれているような不快な苦しみ。
 俺はたまらず、口から吐瀉物を吐き出した。
 彼女たちの表情は見えなかったが、三人とも静かに俺を見下ろしていることだけは雰囲気で分かった。見下すような視線。弓なりに曲げた口元。それを想像するのは容易だった。
 恵美の声が耳に入ってくる。
「素敵な音でしたわね。」
 その声はとても遠くから聞こえた気がした。既に俺の耳も正常ではなくなってきているのだろう。
 続けて里佳子の言葉も聞こえてきた。
「苦しいですよね。これで少しは懲りましたか?」
 それは俺への問いかけだった。しかし当然、俺にはそれに答える力など残ってはいない。
 二人の言葉に紛れるように、茜の荒い息遣いが聞こえていた。
「すごく気持ちがよかったですわ。」
 息を切らしながら、茜は満足そうな明るい声で言った。
 俺を苛む肉体的苦痛は、生き地獄と呼んでも決して過言ではなかった。止むことのない激痛は、俺の全身をしっかりと捕らえて放してはくれない。しかし同時に、今の俺にとってはそれに伴う精神的苦痛もまた大きすぎた。俺はもう、男として……
 悔しさで涙がいっそう込み上げてくる。
 恵美はそんな俺の姿を見て微笑した。ボロクズのようになった俺の顎を指先で持ち上げると、極めて優しい口調で話す。
「これでもう、過ちを犯すことはないですね。」
 その瞳は澄んでおり、少しの曇りもなかった。
 彼女はうつ伏せになった俺の股の間に足をそっと入れ、残った陰茎をグリグリと弄ぶ。俺は既に、痛みを感じる神経すら麻痺してきてしまっているのだろう。股間を甚振られる感触を、むしろ心地よいとすら思った。睾丸を潰されてもなお、陰茎を擦られるのは気持ちがよかった。
 興奮が高ぶる。恵美の綺麗な足が、今まさに股間に触れている。同時に、先ほど見た茜と里佳子の下着が映像となって脳裏を過る。俺は込み上げてくる欲情を抑えることができない。
 その時だった。
 俺の亀頭から、血の混じった白い精液が勢いよく噴射したのだ。俺はその瞬間、溜め込んでいた欲望を一気に爆発させた。
 俺はその快楽に身を委ねた。苦痛の中で味わう快楽は、とても不思議で複雑なものだった。しかしその時俺は同時に、背中に冷水を浴びせられたような感触を覚えていた。三人の表情こそ見えなかったが、さっきまでの楽しそうな雰囲気は跡形もなく消え、代わりに陰湿な空気が漂っているのを感じたのだ。
「……どうして?」
 その里佳子の一言が、俺を一瞬で我に返らせた。

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 剥き出しの陰部は、あまりにも無防備だった。
 腰を引くこともできない。内股にすることもできない。もちろん手で覆い隠すことも。
 両脇をがっちりと固めた恵美と里佳子の力は、一般女性の域を逸脱していた。股間の激痛こそあれ、男の俺が全力をかけてもピクリとも動かせない。そのことが、俺から抵抗感そのものを奪っていた。
 茜はステップを踏んで俺の睾丸を蹴り上げる。そして再び俺との距離を取る。また勢いをつけて蹴り上げる。離れては、蹴り上げ。また離れては、蹴り上げ。
 彼女の蹴りは容赦がなく、強烈だった。
 茜が俺との距離を取る度に、恐怖心から腰が引ける。蹴りが入る度に、苦悶の声を上げる。
 何度も何度も襲いかかる痛みとそれに伴う苦しみで、俺はまともに言葉を話すことすら出来なくなっていた。今出せるのは、呻き声と悲痛な叫びだけ。
 真っ赤に腫れていた俺の睾丸は、いつの間にか黒みがかった紫色へと変色していた。
 彼女は俺の股間を蹴り上げる度に、子どものような声を上げて笑った。
 俺の半身を押さえ込んでいる里佳子が声を出す。
「茜さん。そろそろ潰してしまってはいかがですか?」
 恵美もまた微笑みながらそれに同調の意を示す。
「爪先がよろしいかと思いますよ。ここを狙って、突き刺すように……」
 そう言って恵美は、俺の睾丸の一つを指差す。
 俺は、全身を呪い覆うような鈍い激痛に、思わず涙を流す。嘔吐感が内部から込み上げてくる。口から涎を垂らす。そして、同時に襲いかかるこの上ない恐怖心から、身体を大きく震わせる。呼吸困難に陥る。情けない声を上げる。冷や汗が後から後から流れてくる。
 精神力を保っていられるのは、もはや時間の問題だと思った。ただ、俺のたった一つの望みだけは叶うようにと、強く祈っていた。
 ――どうか、睾丸を潰されることだけはありませんように……
 心の中で何度も叫んでいた。
 しかし、そんな俺の思いに彼女たちが気付くはずもない。ましてやそれを叶えるつもりなど、毛頭ないのだろう。その証拠に、茜はまるで、恵美と里佳子の期待に必ず応えるとでも言わんばかりの意気込みを見せていた。期待することが、そもそも間違いなのかもしれない……
 生き生きとした表情で彼女が身構える。そして、勢いよく俺に向かって走った。

 ……ゴリッという一際鈍い音が密室に響いた。

「ぎ……ぃやああああぁっ!」
 俺は声の限りに絶叫した。それは、これまで体験したことのない地獄の痛みだった。
 彼女は俺の睾丸に深々と喰い込んだ自分のヒールの爪先を嬉しそうに見つめる。その後、その視線を俺へと移し、満足そうな笑みを浮かべながら俺の反応を楽しんでいるようだった。
 音を聞くと同時に、恵美と里佳子は俺から手を放す。もはや自分で立つことすら出来なかった俺は、その瞬間、額から床にドスンと崩れ落ちた。

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 俺の睾丸はみるみるうちに腫れていった。
 里佳子の急所への猛攻に為す術のないまま、俺はぐったりとその身を里佳子に預けていた。
 ――痛い……。痛い……。苦しい……
 もし気絶することができれば、どんなに楽だろう。
 あまりの苦痛の大きさに、俺はそんなことを考える。しかしその衝撃は俺に気を失わせるどころか、却って意識を覚醒させる効果しかもたらしてはくれなかった。
 突然、彼女の攻撃の手が緩む。
 ぐったりと項垂れた俺は、一時的にでもその連打が収まったことに安堵した。しかし彼女のその行動の理由は、決して俺の期待するようなものではなかった。
 ふと視界に入る茜の姿。俺の足を抱きかかえながら、必死に目で里佳子に合図を送っている彼女の様子が、俺の目に映っていた。
 里佳子は茜に視線だけで答えたようだった。そしてポツリと呟く。
「そろそろ飽きてきたところでしたので。」
 その言葉を聞き、茜は瞳を輝かせていた。
 あっという間に茜と里佳子の位置が入れ代わっていた。俺にはもはや抵抗する気力すらなかった。ただされるがままに、身体を動かした。彼女たちの交代は実にスムーズなものだった。
 その間に恵美は俺の足から片手だけを放し、俺の手を同時に押さえ込む。俺の半身は見事に、がっちりと固められていた。恵美の反対側に位置した里佳子も、彼女と同様に俺の片方の手足をしっかりと拘束する。裸体のまま両足を広げて万歳をするような体勢になった自分の姿。それはあまりに間抜けなものだっただろう。
 二人に拘束されて全く身動きが取れなくなった俺の目の前には、茜の姿があった。彼女は軽いストレッチをしながら、身体をほぐしていた。手足を軽く振り、首を回す。ポンポンと跳びはねる。そうすることで、全身の筋肉を柔らかくしているように思えた。
 やがて彼女はゆっくりと背筋を伸ばし、姿勢よく立った。
「楽しみですわ……」
 茜の口調はあくまで上品だった。大きな瞳がギラギラと輝きを放つ。
 ――怖い……怖い……
 彼女の魅惑的な肢体を見ながら、最大限に男を強調している自分がそこにいた。しかし俺の意識を支配していたのは、彼女への恐怖心だけだった。
 茜は唇の端を、ゆっくりと弓なりに曲げた。
「……壊して差し上げますね。」
 そう言うが早いか、彼女は俺に向かって突進する。俺の虚ろな瞳に映ったのは、まるでサッカーボールを蹴るようにステップを踏んだ彼女の姿だった。
 ドスッという鈍い音が部屋に響く。彼女の足の甲は見事に俺の睾丸を捉えていた。
「がっ……あああぁっ!」
 俺は再び枯れた声を振り絞る。痛い。苦しい。これほどまでの苦痛を与えられた時、きっと人間にできるのは、こうして叫ぶことだけなのだろう。全く身動きが取れない状態での金蹴りはとてつもなく恐ろしいものだということを、俺は身をもって痛感していた。

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 無我夢中で突進した。
 頭の中にあったのは、先ほどの里佳子の仕草だった。
『どの道、ここからは出られませんからね。』
 そう言って彼女は確かに自分の胸ポケットを見た。間違いない。カードキーはそこにある。それを奪ってここから絶対に逃げ出してやる。
 その思いを胸に、俺は必死で走った。
 時間にすれば一秒もかからなかっただろう。しかし俺にとってはとても長い時間に感じられた。まるで時間が止まってしまったのではないかと思えるほどに。
 里佳子の顔は既に目の前にあった。
 勢いよくぶつかって里佳子を倒し、その隙にポケットからカードキーを奪い取る。呆気に取られた恵美と茜は、その場に立ち尽くす。俺は扉の前まで瞬時に移動し、鍵を開けて外へと飛び出す。
 ……そういう計画だった。
「ぐ……があぁ……うっ……」
 しかし現実は、俺の計画とは程遠いものだった。目前の里佳子は俺ににっこりと笑いかけていた。
 鋭い痛みが身体中を巡る。俺は大きく目を見開いたまま、開け放した口から涎を垂らしていた。
「びっくりしましたわ。突然なんですもの。」
 里佳子は淡々とした口調で、俺の耳元にそう囁いた。しかしその言葉は、俺の脳には届かなかった。目の前が真っ暗になり、里佳子にもたれかかる。
 彼女は膝を持ち上げていた。それが、俺の股間を見事に打ち抜いていたのだ。
 俺の突進の勢いがカウンターとなり、その衝撃は何倍にも膨れ上がったのだろう。狂いそうなほどの鈍痛を睾丸に感じ、俺は反射的に崩れ落ちそうになる。しかし、里佳子はそれを許してはくれなかった。俺の両脇に手を入れ、抱きつくような姿勢で俺の身体を支えた。
「はしたない子。」
 子どもを窘めるような口調で、里佳子はそう呟いた。しかし彼女の目は決して笑ってはいなかった。
 切れ長の瞳の端が鋭く持ち上がる。彼女はそのままの体勢で、さらに何度も俺の股間に強烈な膝蹴りを見舞った。ビデオカメラを踏み潰せるほどの彼女の脚力を、俺は今、身をもって体感していた。
「があああっ!……かはっ……ぐうぅぅああっ!」
 掠れた声を振り絞り、俺は絶叫する。
 体全体が大きく揺さぶられるかのような振動。刺すような痛みに加え、後から内部へと込み上げてくる不快感。まるで、剥き出しにされた内臓をしつこく踏み躙られているような七転八倒の苦痛。
 俺は睾丸を庇おうと腰を引く。無意識に内股になる。しかしその抵抗は、全く意味を為さなかった。恵美と茜がとっさに俺の足に飛びかかったからだ。二人に両足をしっかりと固定され、股を強制的に開かされる。里佳子は俺の身体を再びしっかりと抱き寄せ、膝を後ろに引く。
「や、やめ……や……ぎぃやあああっ! ぐふうぅぅっ!」
 俺の声は、やはりまともな言葉にはならなかった。
 里佳子の膝が何度も何度も俺の睾丸に突き刺さり、俺は悶絶を繰り返した。倒れることも、睾丸を守ることも出来ない。俺はまさに今、里佳子の人間サンドバッグと化していた。

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 穏やかで落ち着いた声の主は恵美だった。
「そんな格好で、どちらへ?」
 ……うかつだった。その言葉は俺の固まった意志を、容赦なく斬りつけた。
「う……うぅ。」
 思わず足が止まる。
 あらためて自分の全身を見回した。目に映ったのはみすぼらしく頼りない、生まれたままの俺の姿。トランクス一枚すらつけていない。仮に外に出られたとしても、これでは変質者そのものだ。
 三人は俺の様子を見てくすくすと笑っていた。きっとこれも、俺の服を脱がせた理由の一つだったのだろう。
 そこへ里佳子が口を挟む。
「どの道、ここからは出られませんからね。」
 彼女はそう言いながら、制服の胸ポケットにちらりと視線を送る。
「そうですね。少なくとも……私たちに去勢されるまでは。」
 茜が楽しそうにそう言葉をつなぐ。
 俺は絶望感からがっくりと肩を落とした。
 考えてみれば、カードキーでロックされているような扉が、俺の体当たりごときでぶち破れるはずなどないのだ。動揺と恐怖感で頭に血が上っていたためか、俺はそんな単純なことにすら気付いていなかった。
 為す術が見当たらなかった。
 ――このまま俺は、彼女たちによって睾丸を潰されてしまうんだ。そして、今後は勃起することもなく……当然セックスもできず、一生……
 焦燥感が全身を覆い尽くす。
 力なく項垂れた俺は、ショックで今にも気を失ってしまいそうだった。そして度々頭を掠めるのは、睾丸を嬲り潰されることへの恐怖。これから起こるはずの経過も結果も、俺にとって人生最大の苦難であることは間違いなかった。
「さぁ。今度はどうしてあげましょうか。」
 恵美が冷静な口調で茜と里佳子に問いかける。二人はしばし考え込んでいるようだった。
 里佳子が先に口を開く。
「正直言って、私はそろそろ飽きてきましたわ。一思いに壊してしまってはと。」
 俺の身体がビクッと反応する。壊すという言葉がこんなに怖いものだとは思ってもみなかった。
 対して茜は、まだ気分が高揚したままのようだった。
「私はもっと遊びたいですね。あの方の苦痛の表情を見ていると、何だかとても楽しくて。」
 どちらにしても俺にとっては最悪な回答だった。
 気力を無くした俺は、三人が話し合う様子をぼうっと眺めていることしかできなかった。全裸で。しかもモノを大きく膨れ上がらせて。そんな自分が本当に情けなく思えた。しかしその時、ふと一つの考えが俺の頭に浮かんできた。
 ――あるじゃないか、方法が。大体これは報復という名のリンチだ。黙ってされるがままになっていることなんてないんだ。俺には……まだできることがある。
 俺は再び気力を振り絞り、里佳子に目を向けた。

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 三人の高らかな笑い声が、狭い密室に反響し続けていた。
 どれほどの時間、責められていたのだろう。茜がようやく俺の足から手を放した時には、既に俺は正常な精神を失いかけていた。痛みからか、恐怖心からか、俺の身体は痙攣し始めていた。呻き声や叫び声を上げ続けていたため、喉はガラガラに枯れてしまっていた。
 茜が責めるのを止めると同時に、恵美と里佳子も俺の身体からすっと離れる。
 大の字に倒れ込んだまま、俺はしばし放心状態になっていた。目の端には、俺を見下ろす三人の顔が映っていた。痛みによる条件反射からか、俺の目は涙で一杯になっていた。かすむ目から見た彼女たちの顔には、やはり不敵な笑みが湛えられているのだった。
 里佳子が口を開く。
「とても気持ちがよかったみたいですね。」
 誰ともなしに問いかけているようだった。冗談じゃない。地獄の苦しみの中で、どうやって気持ちいいなどと感じられるものか。
 しかし、それを聞いた恵美の反応は意外なものだった。
「そうですわね。こんなに大きく膨れ上がらせて……」
 俺は耳を疑う。だが、正気が戻ってくるにつれて、彼女たちの言葉の意味が嫌でも分かった。
 そう。俺は確かに勃起していた。突っ張るような下半身の感覚。目を向けずとも、自分のモノが今どういう状態になっているのかくらいは容易に分かる。
 ――こんな馬鹿なことが……
 恐怖でおかしくなったのかもしれない。確かに責められている間に卑猥なことを考えなかったと言ったら嘘になる。彼女たちの脚や下着に興奮しないという保証はない。しかし……
 俺は自分が分からなくなっていた。現に今も、性欲を完全に忘れてしまってなどいない。その理由は理解し難かった。これだけの苦しみと恐怖の中で、どうして俺は?
 しかし次の茜の言葉で、そんな悠長な思考は俺の頭から全てかき消されてしまった。
「今後は勃たなくなるんですけど。」
 淡々とした彼女の口調に、却って俺の恐怖心が増大する。何故、などと考えている余裕などなかったのだ。恵美の言う「源流」。それを絶たれてしまったら、俺は男として終わってしまう。
 どこかで現実逃避をしていたのかもしれない。このままでは、俺は……
 内臓に絶えず響く不快感を堪えながら、俺は必死で立ち上がる。そんな俺を見た彼女たちは、別段驚いた様子も見せなかった。
「あら、お元気ですのね。」
 恵美が皮肉めいた口調で言葉を投げかける。俺はそれには答えず、ふらつく足で身体を何とか立たせた。茜と里佳子は、まるでその姿が滑稽であるとでもいうように、くすくすと笑った。
 三人は俺の様子をじっと観察していた。
 彼女たちとは一定の距離があった。俺はじりじりと後ずさる。
 ――逃げなければ……。絶対に、ここから……
 自分を奮い立たせる。
 痛む身体に鞭打ち、俺は覚束ない足取りで再び扉の方へと走った。

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