Black Onyx [ブラックオニキス];2007/ 11の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2007年 11月 に掲載した記事を表示しています。
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久しぶりに長編を執筆しました。
ここまでお付き合いいただいた方々に、感謝いたします。
楽しんでいただけたのなら幸いなのですが、いかがでしたでしょうか。
今回の作品は、随分前から構想を練って温めていたものです。
これからシリーズものとして続編やサイドストーリーなども執筆していきたいと思っています。

毎回作品終了の際に、また作品連載の間にもたくさんの拍手をいただき、感謝の言葉もありません。
ryonazにとって皆様からいただく一票一票は本当に温かく、大切な宝物です。
あまりに大袈裟かと思われるかもしれませんが、一言この場でお礼を言わせていただきます。

その他、ブログランキングや小説アンケート(※現在停止)、リクエスト投票や掲示板など。
本当にいろいろとご協力を頂き、ありがとうございます。
ご来訪いただいている方々に対する要求が多すぎるのではと、ちょっと冷静になってみて反省しました。
新しい試みを! 新しい刺激を! 充実、快適、安心なサイトを!
そんな風に考えて、ここ数週間突っ走ってきたような気がします。

こんな頼りない管理人ですが、皆様に支えられることで今もサイトを続けていけます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

●女主人のキャラ絵 →

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「その首輪が、あなたが私のものであるという証。」
 ふいに女性が僕の首輪を指差してそう言った。
「あなたが私の玩具として生きることの証よ。」
 僕は頷いた。これからこの女性に仕えていくのだという決心に迷いはなかった。


 しばらくすると、軍服の男二人が部屋の中に入ってきた。
「失礼いたします。面会終了でよろしいでしょうか。」
 女性は男たちの方を見もせずに、軽く頷いた。
「首輪を付けたわ。意味が分かるでしょ?」
 今度は男たちが頷いた。
 女性はリモコンのスイッチを押した。僕を拘束していた手枷や足枷、陰部の柔らかいものが一気に外れる。僕は解放感でしばし放心状態に陥っていた。
「じゃあ、連れて行くわ。」
 さらりと男たちに告げると、僕に服を着せて手を引いた。痣と傷だらけの僕は、女性にもたれかかるようにして歩いた。軍服姿の二人は、扉へと向かって歩いていく女性と僕に向かって敬礼をしていた。
「どうぞ。お気をつけて。」



 僕たちは、長い長い廊下を抜けた。
 女性が扉の横にあるパネルに触れる。
 英数字を打ち込んでいるようだ。やがて、ピピッという機械音と共にドアが開き始めた。

 その先に広がっていたのは――

「ほら、これがあなたの見たかった空よ。」

 僕は扉の外へと、一歩を踏み出す。
 涙は止められそうになかった。



END

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「マナ……」
 突然ショートネームを呼ばれ、僕は意識が覚醒させられた。
「……はい。」
 僕は掠れた声で応える。『……逝っちゃ駄目よ……』という女性の言葉が脳裏を過ぎる。きっと「いく」というのはこのことだったのだと直感する。僕は必死で謝った。許しを乞うた。
 ――僕は取り返しのつかないことをしてしまった。女性の命令に背いて……
 自己嫌悪に陥り、僕はしばらく身体の震えが止まらなかった。女性はそんな僕の肩に軽く手を乗せると、腹に思いきり膝蹴りを見舞った。その強烈な蹴りは僕の内部を破壊した。胃の中から込み上げてくるものを僕は吐き出した。地面が再び赤く染まった。
 女性はそんな僕の姿を見ると、その手を肩から頬へと静かに動かし、僕に語りかけた。
「あなたを、私の玩具にするから。」
 願ってもない言葉だった。それは、つまり女性が僕を認めてくれたということ。そう考えて間違いはないのだろうか。
 女性が手元にある発信機で外部へ連絡をしようとする。
「ま……待ってください!」
 僕は声を振り絞った。女性が手を止める。
「ぼ……僕は、その……」
 この女性に仕えたい。玩具として、この女性にもらってほしい。その気持ちに偽りはなかった。ただ一つ、僕にはどうしても心に引っかかっていることがあった。
「僕には……その資格がありません。」
 女性に意見をすること。それは許されざるべき行為だ。僕はこれで二度、この女性に意見をした。本当に罰当たりだ。この身がどうなっても文句は言えない。でも……
 女性は真剣な眼差しで僕の目を見つめている。
「僕は……あなたにもらわれたくて来たんじゃないんです。」
 僕はありのままを告白した。考えてみれば、最初から僕の動機は不純だった。外に出たい。ただその願いを叶えるために、僕はこの女性を……
 女性は俯いたままの僕をひしと抱きしめた。柔らかい肌の感触。我を忘れてしまうほどの心地よい、素敵な香り。それらの全てが僕を包み込んだ。
「あなたみたいな子を探してたの。これからもあなたで遊ぶわ。マナ。」
 優しく、温かい言葉に僕の心は洗われるようだった。
「全部知ってたの。全部。もう、そんなこと気にしなくていいのよ。」
 忘れていた。あの呼び出しの日のことを、この女性は全て知っていたんだ……
「じゃあ、それを知ってて……僕を……」
 女性はにっこりと笑って僕の頭を撫でた。
 救われた気がした。心に引っかかっていた棘が全て抜けていくような、そんな感覚が僕の全身を覆った。僕は泣いた。声を出して泣いた。大声で泣いた。

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 女性は両手の指先で僕の涙を拭った。僕の顔を持ち上げ、視線が合うようにじっと僕の瞳を覗き込む。
 僕は申し訳なさと恥ずかしさから、どうしても視線を合わせることができなかった。動揺し、目が自然と泳いでしまう。
「……気に入ったわ。」
「え……」
 思いがけない言葉に僕は、無意識に視線を女性へと向ける。涙で霞んだ瞳からは、女性の表情の細部までは読み取ることはできなかった。しかし、その表情は穏やかに見えた。
 女性はどこからか取り出した金属製であると思われる輪状のものを、僕の首に付けた。
「これは……? 首輪?」
 僕の言葉への返答はなかった。それが何を意味するものなのか、僕には分かるはずもなかった。
 女性は「ふふ」と少し笑みを零したかと思うと、その首輪をじわじわと手元に引き寄せた。それに反応して首輪は締まり、僕の喉を圧迫する。首輪を繋ぐ鎖に付いたボタンを女性が押すと、痺れるような強烈な痛みが首から全身に伝わる。きっと電流が流れてきているのだ。
「ぐ……くああああっ……ああっ!」
 苦しさと痛みから僕は声にならない声を漏らす。呼吸が止まる。脳の中が真っ白になっていくように感じる。すうっと力が抜けていくような感覚が僕を包む。
 女性がボタンから手を放して力を緩めると、首輪は再度元通りに広がった。電流らしきものも流れなくなった。一気に頭に血が巡ってくるのが分かる。
「ごほっ……ご…」
 再びぐいと首輪を引っ張られる。目が虚ろになっていくのが分かる。気を失いそうになる。
「ぐ……がはっ……」
 女性が力を緩めると、僕はまた激しく咳き込む。
 首絞めは延々と繰り返された。
 ――これは、何かの儀式なのだろうか? 僕は一体、どうなるんだろう?
 答えの分からない考えが脳裏を過ぎるが、首を絞められることで思考能力が奪われる。僕は次第に絞められることに安心と快楽を得るようになっていった。
「気持ちいいの?」
 女性が僕に問いかけながら、首輪を引っ張る。心を見透かされたような気がして恥ずかしかった。しかし、何故絞められることで快楽を得るのかは、僕には分からなかった。
 女性が力を緩める。
「き……気持ち…うっ…」
 答えを聞かずに女性は再び首輪を引っ張る。僕の口からは泡のようなものが零れてきていた。それを見ながら女性は満面の笑みを浮かべている。
「ほら、答えなさい。」
 そう言って女性はさらに強く首輪を引っ張る。目の前が真っ白になり、僕はとうとう苦しみの中で絶頂を迎えてしまった。亀頭から何やら白いものが噴射される。僕はそれを初めて見て、途惑った。陰部に付けられた柔らかいものはそれでもまだ微振動を止めることはなかった。女性が力を緩めた時、僕は意識が朦朧として、何が何だか分からなくなっていた。
 ぐったりとした僕を、女性は黙って静かに見下ろしていた。

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 僕の身体は既に限界を迎えていた。
 全身から力が抜け、ぐったりと前のめりになっていた。繋がれていなければ、今すぐ前に倒れ込んでしまうだろう。
 虚ろな目で女性を見上げる。女性はうっすらと笑みを零しながら、僕を痛めつけることを楽しんでいるように見えた。
「まだ終わらないからね……」
 女性は身に着けた上着から細い刃物を取り出す。
 ――!!――
 思わず息を止める。キラリと光るそれが僕の目を覚まさせる。
「怖いの?」
 女性は悪戯混じりに僕に問いかける。
「は……はい……」
 僕の声には力が入っていなかった。女性が持つその刃物の切先だけを無意識に目で追ってしまう。
「そう……」
 言いながら女性は僕の肩から下へと刃物を躊躇なく振り下ろした。
「ぐああっ!」
 冷たいような感触が一本の線となって僕に襲いかかる。後から伴う痛みと同時に、その線は見る間にじわじわと赤く染まっていった。
 女性は刃物で僕の身体中をなぞる。軌道の全てから血が滲む。その度に僕は恐怖と痛みから叫び声を上げ続けるのだった。
「いい顔ね。」
 身体中を襲う強烈な痛みに僕は悶絶し、怯えた。一瞬にして女性が凶器と化したように感じる。僕は恐怖心から、拘束されていることも忘れて狂ったようにもがいた。しかし、女性の手は止まることを知らなかった。
 次々と出来ていく傷痕は網目のようになり、僕の身体を赤く彩った。身体の各所から鮮血が飛び散り、地面を汚していく。足元は滴る血で覆われていた。
「ゆ……許してください。お願いします。お願いします!」
 僕は女性に許しを乞う。それがどれほど罪深いことかはよく分かっていた。女性から与えられる苦痛や恐怖心は、僕からそんな礼節や理性すらも奪っていた。
「意見するのね。私に……」
 女性が手を止める。その時初めて、自分がどれほど荒い息遣いをしていたのかが分かる。僕は自責の念を強くした。ぐったりと項垂れたまま、視線を足元へと向ける。女性に目を向けることが躊躇われた。
 ――僕は……女性を裏切ってしまった。期待を、裏切ってしまった……
 後悔の念が後から後から込み上げてくる。
 僕は泣いた。涙が頬を伝って次々と零れ落ちてくる。
 女性はそんな僕を見ると、両手でそっと僕の頬を包み込んだ。その手は柔らかく、温かかった。それが、不思議と僕に安心感を与えてくれた。

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 女性の前で裸で大の字になる時が来るなんて、想像できたはずもない。
 僕は拘束されていることに、確かに快感を覚えてきていた。陰部の刺激も相俟って、どんどん思考力が失われていく。僕は、自分がただ感じるだけの道具になったような気分だった。
 ――いや……道具じゃなくて……女性の、玩具か……
 微振動が陰部を刺激し続けるのがもどかしい。しかし女性からの命令は絶対だ。
 僕は感じることに身を任せながらも、絶頂を迎えられないもどかしさと必死で闘っていた。
「気持ちいいの? こんな情けない格好なのに?」
 そう言って女性は僕を嘲笑う。
「本当にみっともない。あなたの生きている価値って、何なの?」
 羞恥心が顔を出す。しかし何故かそれすらも次第に快感へと変わっていく。女性の前で惨めな姿を晒すことに快楽を覚えている自分がいる。
 ――僕はきっと変態なんだ。どうしようもない、変態なんだ。
 そう思うことで、そしてそのように女性に侮辱されることで、それらは全て安心へと変わっていった。
 罵倒される。侮蔑の瞳で見つめられる。僕はそれに応じてだんだんと興奮していく。快感を得る。
 僕は女性の前で完全に骨抜きにされ、ぐったりと身体の力が抜けていた。
 女性は立ち上がり、身動きの取れない僕に容赦なく鞭を何度も振り下ろした。バシッという音が部屋全体に響き渡る。
「あうっ! ううっ……はぁっ!」
 僕は苦痛に顔を歪めながら、その快感に身を委ねた。
「感じちゃってるの? 変態な子だね。もっと苦しみなさい。」
 女性は鞭を放り出し、今度は拳で僕の腹を殴った。
「ぐふっ!……うえ……」
 胃が掻き回されるような気持ち悪さが込み上げてくる。女性はそんな僕の反応を楽しむかのように、笑みを零しながら殴り続けた。
「げほおっ……おぉ……うええっ!」
 衝撃が内臓に直接響く。僕は中身が口から押し出されそうになる感覚に必死で耐えた。しかし、女性の腹責めは延々と続いた。時には肘で、時には膝で、何度も僕の腹を突き刺した。僕はとうとう堪えきれなくなり、血の混じったゲロを吐き出した。
「げぼおおおっ……」
 吐瀉物が勢いよく地面を汚した。女性はそれを見て口元を弓なりに曲げると、僕の顔をまじまじと見つめた。
「汚い子。私を汚すつもりだったのかしら?」
 滅相もない! と口だけを動かす。しかしそれは苦しみの呻き声となって空しく響いただけだった。
 相変わらず陰部に付けられたものは微振動を続けている。
 女性から痛みと苦しみ、そして快楽を同時に与えられ、僕の思考能力は完全に停止していた。
 ただ一つ分かること。それは、僕がこの女性の玩具になることを望んでいるということだけだった。

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 男の薄汚い身体。女性はそれをここで晒せと命じた。間違いではない。
 困惑する僕を見ながら、女性はくすくすと笑いを漏らした。
「ほら。あなたの全てを、ここに晒すの。みっともないその姿をね。」
 僕はどうしていいのか分からず、しばらく黙ってもじもじと身体を動かしていた。
「嫌……なの?」
 首を横に振る。女性からの命令に背くなど、男として為すべからざる行為だ。
「いえ……」
 何とか声を振り絞る。
 女性は椅子に深く腰掛けたままで僕の顎を蹴り上げた。弾かれたように後ろへと倒れ込む。女性は足を組むと、僕を見下ろした。口元は弓なりに曲がっていた。しかしその瞳はとても冷たく感じた。
「早くしなさい。」
 僕にはもう選択肢は残されていなかった。いや、最初から僕に決定権などない。
 僕は「はい」と小さく答え、簡易服を脱ぎ始めた。女性に自分のみっともない姿を見せるのだと思うと気が退ける。しかしこれは命令。女性の命令は絶対なのだ。
 思考力は奪われ、僕はうつろな瞳のままで肌から衣類を剥がしていく。僕の大きくなった下半身は、僕の情けなさを際立たせているようだった。
 心許ない感覚。女性に自分の全てを曝け出しているのだという羞恥心と罪悪感。
 僕は身体を縮こめ、上目遣いで女性を恐る恐る見上げた。
「いい格好ね。惨めで……情けなくて……」
 女性はくすくすと笑い、リモコンを手に取る。
「あっ……」
 カチリという音とともに壁から手のような機械が出てきて、僕の手足を拘束する。
「う……うぅ……」
 再び女性がリモコンのスイッチを押す。
 気付けば僕の陰茎には穴の開いた柔らかい感触のものがはまっていた。今まで感じたことのない気持ちよさが、僕を包み込む。静かな微振動が僕を愉悦に浸らせていた。
「本当に、みっともないね。」
 女性は椅子に深く腰掛けたまま、恍惚となっている僕の瞳をじっと覗き込んだ。
「……はい……」
 無意識に出た言葉だった。
 僕は今、とんでもない姿を女性の前に晒しているのだ。神聖なる女性の前で生まれたままの姿になり、手足の自由を奪われ、陰茎を刺激されて感じている。
 この瞬間になって僕は、自分が人間であるのかどうかも怪しく感じてきていた。
 
 『あなたは私の玩具になるの。』

 さっきの女性の言葉を思い出すと、今の自分の状況がしっくりきた。僕は抵抗せず、感じるままに身を任せる。僕の心は不思議と安心感で一杯になっていた。

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 自分の下心が醜い。
 僕は、自分が外に出るための手段として、この女性を『利用』しようとしているのだ。外に出たいという思いがあることを自覚しながら、今、この女性の好意に甘えようとしている。
 そう意識した時、僕は胸が痛くなる。
 女性に飼ってもらえるということが、この上なく光栄であることもまた事実だ。しかしその心に正直になろうとすればするほど、それをあざ笑うように僕の下心が顔を出す。罪悪感は募っていくばかりだった。
「うっ!」
 突然腹を爪先で蹴り上げられ、僕は小さく蹲った。うつ伏せの体勢になっていたため、下がっていた内臓に直接衝撃が響く。口から涎が糸を引いて垂れてくる。
「返事がないね……。私のことが気に入らないのかしら?」
 とんでもない!……と口だけが動く。腹に受けた衝撃でそれは声にはならなかった。ただ呻き声がわずかに漏れただけだった。
 さらに女性の蹴りが、脇腹、背中、足へと飛び交った。僕は蹲ったまま、必死で耐える。
「決めたわ。あなたは私の玩具になるの。」
 これは僕が女性の好意を裏切ることへの報い。
 そう考えると、自然と僕の身体は女性の行為の全てを違和感なく受け入れることができた。下心から来る罪悪感は、この女性に甚振られることによって少しだけ緩和されるような気もした。
 ――この身を女性に預けること――
 それが、今の僕にできる唯一の選択であると思った。
 僕は「はい」とだけ応えると、身体を女性の方へと向けた。
 

「いい子ね。」
 女性は言いながら、再び椅子に腰を掛けた。
 僕は顔を上げることができず、土下座の体勢を保っていた。女性から痛めつけられることで免罪を与えられるという期待。罪滅ぼし。そんなものを期待していたのかもしれない。
 僕は黙って、ただただ女性からの制裁を待った。
「脱ぎなさい。」
 女性からの言葉は、僕の想像の域を超えていた。
「え……?」
 言葉に詰まる。あまりに唐突なその命令に、僕はしばし硬直した。
「聞こえなかったかしら? 脱げって言ったの。」
 女性は再び、淡々と同じ命令を口にした。
 僕は動揺を隠せなかった。

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「その……畏れ多くて、とても……」
 再びバシッという音が鳴る。僕は困惑した。
 ショートネームは僕たちの間でのみ使われる俗称みたいなものだ。とても高貴な方に伝えるべきものではない。まして女性にそんな下衆な名前を教えるなど、僕には到底考えられないことだった。
「私の言うことが聞けないの?」
 僕はますます動揺し、すぐに言葉を発することができなかった。
 親しい間柄で使うショートネームを、女性が教えるよう要求している。『興味がある』という……これ以上ないほどの有難いお言葉もいただいた。
 ――これを女性の僕への好意だと受け止めることは……罪なのだろうか。
 困惑する中、女性は「ふふ」と笑ってその足を僕の背中から下ろした。僕の前にしゃがみこみ、髪を掴んで顔を持ち上げられる。太腿の隙間から下着が一瞬見え、僕は顔を赤らめる。女性はそんな僕の顔をじっと見つめた。
「言いなさい。」
 その表情は厳しく、鋭い視線は僕を貫いている。
 もちろん女性の言葉に逆らうなど言語道断だ。反抗するつもりなど毛頭ない。ただ、ショートネームを女性に教えるというあまりに無礼な行為。その意識が、僕を躊躇させていた。
「言いなさい。」
 さらに厳しく聞かれ、頬をビンタされる。女性が再び手を振り上げた時、僕は観念した。
「……マナ……です。」
 女性はそれを聞くと、ゆっくりと手を下ろした。にっこりと笑顔を僕に向ける。
「マナ。いい名前ね。」
 僕の涙腺が緩んでいく。女性の言葉の一つ一つに慈悲と愛情深さを感じる。
 こんな高貴で魅力的な人が存在すること。そして今、実際に僕と話をしていること。それどころか……おそらく、僕に好意を抱いてくださっているだろうということ。
 僕は完全にこの女性の虜になっていた。
「ねぇ。私のペットにならない?」
 唐突な言葉に僕は驚く。僕にとっては、最高の言葉だったはずだ。でも……
 僕は即答できなかった。
 僕がここに来たのは……外に出たいから。決して女性に奉仕するためではない。もちろんそれは、奉仕することに拒否反応があるなどという馬鹿げた意味ではない。僕にはその資格がない気がしたのだ。
 ――僕が期待していたのは、外に出ること。この女性は純粋に僕をペットとして飼いたいと言ってくださっているのに……。僕のこの思いは、女性に対する冒涜ではなかろうか……
 渦巻く葛藤に、僕の頭は真っ白になっていた。

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 口を開けるのも躊躇われた。
 下卑たこの自分という存在が、女性に話しかけるということの畏れ多さ。しかし、僕にはどうしても気になっていることがあった。
「あの……」
 僕は思いきって声を出す。
「何?」
 何食わぬ顔で返答してもらえたことに、僕は安堵の溜息を漏らした。感動で震える身体を抑え、僕は言葉を続ける。
「どうして……僕に興味が? 今日、初めてお会いしたのに……。」
 生唾をゴクリと飲み込む。

『私、あなたに興味があるの。』

 僕はさっきの女性の言葉がずっと頭から離れなかったのだ。
 ――こんな下衆な男である僕に、どうして? 初めてなのに、どうして?
 女性は僕を踏みつけたままで笑った。僕は顔を下に向けているため、その表情を見ることはできなかった。
「初めてじゃないのよ。あなたを見るの。」
 訳が分からず絶句する。
「見てたの。あなたたち候補者たちのやりとり。全部。」
 その言葉で僕は初めて事の真相を知った。あの時だ。そう、あの呼び出しの日……。
「ずっと目をつけてたのよ。可愛くて従順な子。私、そういう子嫌いじゃないわ。」
 僕は思わず涙を零していた。女性からそんな有難い言葉をかけてもらえるなんて思ってもいなかったからだ。老人たちはよく話していた。この世を支配する全知全能の神というものの存在を。その心には愛が溢れ、慈悲深く尊い。僕にとってのこの目の前の女性は、まさに神そのものだった。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
 僕は感謝の言葉を何度も口にした。


「そういえば、まだ名前を聞いてなかったわね。」
 女性の質問に、僕は土下座をしたまま答える。
「はい。A-ZUK-0165です。」
 バシッという音が部屋中に響く。どうやら鞭で打たれたらしい。お尻に激痛を感じ、僕は無意識に身体を小さく縮こめた。「ううっ」という声が自然に漏れる。
「違うわ。ショートネーム、あるんでしょ?」
 その言葉と同時にまた一発、二発とお尻を打たれる。
 ――ショートネーム!? 女性が……僕に……?
 僕は戸惑いの表情を抑えることができなかった。

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「では、我々は別室で待機します。モニター監視しますので、何かあればすぐ駆けつけます。」
 そう言い残し、軍服の男たちは全員Zルームを出ていった。
 女性はおもむろに椅子から立ち上がると、正座する僕の太腿に足を乗せる。
「少しお話しましょう。」
 顎を指先で持ち上げられ、顔を見つめられる。僕はたまらず声を失う。既に僕の股間は、はち切れんばかりに膨れ上がってしまっていた。それが僕の羞恥心を煽る。
 僕のその姿を見た女性は、笑みを零しながらその爪先を僕の陰部へゆっくりと動かした。反り返った陰茎を撫でるように、足の裏で僕の股間を刺激した。
「うっ……はぁっ……」
 思わず声を漏らしてしまう。女性は僕の反応を見ながら、陰茎を擦り続ける。僕の股間は最大限に膨れ上がり、今にも絶頂を迎えそうだった。何より、女性に股間を触られているということが、これ以上ない快感と罪悪感を僕に与える。
 僕は身体中の力が抜けていくように感じた。逆に、僕の下半身は常に興奮を隠しきれなかった。
「あっ……ああっ……。」
 快楽は絶頂に近付いていく。女性の足に股間を擦られながら……。
 ――何て気持ちがいいんだろう……
 僕はもう限界だった。しかし絶頂を目前に、女性からは思いも寄らない言葉が飛んできた。
「……逝っちゃ駄目よ……」
 口元は笑っていた。しかしその瞳は真剣だった。僕はその美しい瞳に魅入られ、しばらく呆然としていた。
「い……行くって? どこへですか?」
 女性は一瞬驚いた表情を見せ、それからくすくすと笑い出した。
「あなた、何も知らないのね。ますます気に入ったわ。」
 女性は足を僕の股間から離した。何となく感じるもどかしさから、僕は身体をくねらせる。
「もっと、楽しませてもらうわ。」
 女性は、今度は爪先で僕の腹を突き刺すように蹴った。
「うっ!」
 呻き声が漏れる。苦しさから、僕は思わず身体を前のめりにする。正座をしていたため、ちょうど土下座をするような体勢になった。
 女性はまた「ふふ」と笑うと、僕の背中を足の裏で踏み躙る。
「男って愚かな生き物よね。」
 もちろんその通りだ。僕は男であるが故に外に出られず、男であるが故に女性を敬う。当然のことだ。
「はい。」
 土下座の格好のままで、僕は答えた。
「知性もなければ品の欠片もない。薄汚い存在。」
「はい。」
 女性という崇高な方とこうやって会話ができることに、僕はあらためて感謝した。

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「ねぇ、待ってよ。」
 最初は人の喉から発せられた言葉なのか耳を疑った。僕たちが出すものより高い音のその声。そこには、吸い込まれてしまいそうな魅力があった。
 軍服の二人が足を止める。僕を取り巻いていた男たちもあらためて背筋を伸ばす。
「しかし、この男……あまりに無礼な……」
 男の一人が応対する。その声には緊張の色があった。
「私は、その子と話がしたいの。こちらへ連れて来て。」
 応対していた男は戸惑いながらも「仰せのままに」と応える。両脇の男は顔を見合わせ、僕を引きずるようにしてヴェールの前まで連れて行った。
「私、あなたに興味があるの。」
 あまりに唐突な言葉に、僕は返す言葉が見当たらなかった。それが女性から自分に向けて発せられた言葉だということを考えると、とても平静を保ってはいられなかった。貧血を起こし、倒れ込みそうになるところを軍服の二人が受け止める。
「あ……あの……」
 僕の何がこの女性にそう思わせたのか、全く解らなかった。
「こっちに来て。」
 軍服の二人は僕から手を放し、足で軽く僕の臀部を蹴る。「行け」という合図なのだろう。しかし相変わらず僕の足はガクガクと震えるばかりで先に進むことができない。二人は呆れた様子で僕を見ると、今度は思いきり僕の背中を押した。
 
 ――!!――

 ヴェールの中に転がり込む。僕は驚愕した。女性。女性……。そこにはあまりに美しい人がこちらを向いて座っていた。
 仰々しい椅子に座る、あまりに小さな存在。素敵な香りがふわりと僕を包む。僕たち男とは違った妖艶な身体つき。僕と同じ黒い髪。そこにはウェーブがかかり、とても艶やかだ。紅い唇に吸い込まれそうな魅惑を感じる。身体のラインを強調するタイトな淡い色のワンピースは膝上までで途切れており、白くて美しい生脚がそこから覗いている。女性は素足だった。
 その服は見たこともない素材でできており、とても煌びやかだった。きっと僕たちが着ることなどないほど、貴重なものなのだろう。
「こんにちは。」
 にっこりと笑って僕をじっと見つめている。僕は赤面し、無意識に目を逸らす。あまりに魅惑的な女性という存在を直視できない。失礼だとは分かっている。でも……
「あ……あぅ……」
 急いで体勢を整え、正座する。その後は、もじもじと身体を動かすのがやっとだった。女性はそんな僕の姿を見ると、「ふふ」と笑った。
「あの……あの……」
 女性は、途惑う僕を面白がって見ているようだった。

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 その日。僕は朝から緊張していた。
 いつ呼び出しがかかるのかと、ランプを見たり目を逸らしたりを繰り返している。
 どれくらいの時間が経っただろう。
 とうとう僕の部屋のランプが点滅を始める。ついにその時がやってきたのだ。
 僕の心臓がはち切れんばかりに、大きく脈打つのが感じられる。
『A-ZUK-0165 第8号棟5F Zルームへ』
 既に身嗜みを整え、何度も鏡でチェックをした。精神を統一するようにできる限り努めてきた。
 ――行かなきゃ……
 しかし、いざとなるとなかなか部屋の扉を開けることができない。
 僕は自分の意志を再度確認する。
「大きな空が、見たい。絶対、見たい。」
 声に出して呟き、僕は勢いよく部屋の扉を開けた。



 Zルームのドアの両脇では、銃を脇に抱えた二人の軍服姿の人間が見張りをしていた。
「入れ。」
 僕は指示されるままに、部屋のドアを開けた。
 中に入ると、入口にいたのと同じ軍服姿の人間が十名ほど、部屋を囲んで待機していた。
 僕はその威圧感に耐えるのに必死だった。
 全てが真っ白なここZルーム。この部屋の奥は少し段が高くなっており、薄いヴェールで仕切られていた。こちらから向こうの様子は全く見えない。
 ――あの向こう側に……女性が?
 鼓動が激しく脈打つ。
 あれほどまでに憧れを抱いていた女性と同じ空間に、僕はいる。
 そう考えただけで、僕は頭に血が上ってくらくらとしてきていた。
 映写機でしか見たことのない、神秘的な存在。それが、今まさにヴェールを隔てた向こう側に……
 心臓の音が周りに聞こえそうだと思った。
 軍服の人にヴェールの前まで移動するよう促される。しかし僕は緊張で足が震え、立っているのがやっとだった。どうしても最初の一歩を踏み出すことができない。
「失礼な奴だ。A-ZUK-0165。これで面会終了とするか?」
 僕は慌てて大きく首を横に振る。しかし、足がどうしても動かない。しばらく待ってもらうも、僕はその場に立ち尽くすのがやっとだった。
「A-ZUK-0165。これにて面会終了。」
 目の前が真っ暗になった。軍服の人二人が僕を両脇から抱え、ドアの方へと連れて行く。
 ――ま……待って! 待って! もう少し……
 しかしその思いは声にはならなかった。

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 皆が思い思いに期待や不安について話し合っていた時、一人の中年男性が立ち上がった。
 ずっと壁にもたれかかっていた彼は、精悍な感じの渋い男の人だった。
「私は、一生をここで終えても満足だ。」
 正直、僕は驚いた。皆、出たいものだと思っていたから。
 ロジは一瞬鼻白んだものの、すぐに彼を馬鹿にした目で見つめた。
「ハッ……。大人はこれだから。」
 中年男性は、ロジの言葉に動じた様子もなく、言葉を続けた。
「逃げ出した者の話を、聞いたことがあるか?」
「逃げ出す? ……脱走かよ……」
 ロジは驚いた様子だった。穏やかではない言葉に、ルーム内も騒然とする。
 僕もそれは初耳だった。脱走者のことなど、誰も話してくれない。
「おかしいと思わないか? 脱走を夢見る奴の話は聞く。だが、脱走を試みた者の話は誰も知らない。」
 確かにその通りだ。脱走したい人はたくさんいるのだから、誰か一人くらい脱走を試みることがあってもおかしくないはずだ。
「逃げ出した者は、……恐ろしい目に遭って存在ごと消される。そう噂されている。」
 男性が重く発した言葉に、皆がごくりと唾を飲んだ。
 やはり、ここから出る方法は三つ以外にないのだ。この審査の重大さをあらためて実感する。
「外には何があるか分からない。だから、私はこのセンターで十分だ。」
 男性はどこか諦めた顔でそう言った。ロジだけが、その男性に反発した。
「……フン。そうやって一生ここで燻ってろ!」
 彼を罵ると、ロジは皆に再び向き直った。
「候補に選ばれたのは、一生に一度のチャンスだ。俺は……モノにするぜ。」
 その言葉には、彼の決意の強さが表れていた。
「キーア、お前はどうする?」
 傍らの少年に声をかける。
「うん……。僕も頑張る。」
 キーアは不安な顔をしながら、それでもはっきりと答えた。ロジがそれに頷く。
「おい、弱虫。……お前は?」
 ロジが、僕に向けた顎をしゃくった。僕に尋ねているらしい。
「僕は……。」
 僕はどうすればいいのだろう。何も分からないこの状態で、どうしていいかなど答えが出るはずもない。
 でも、自分の夢が叶おうとしていることだけは分かっていた。
「……僕は、大きな空が見たいんだ。」

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 青年は言った。
「俺は出たい。絶対にこんなクソセンターから抜け出してやる!」
 隣にいた少年が、その言葉を聞いて慌てる。
「駄目だよ、ロジ……。そんな呼び方をしたら、懲罰室に連れて行かれちゃうよ。」
 少年が彼をたしなめる。二人は旧知の仲のようだった。
 ロジと呼ばれた青年は、小さく舌打ちした。瞳を野心的に輝かせて言う。
「じゃあキーア、お前は一生ここで暮らして満足なのか?」
「それは……」
 キーアという少年が言いよどむ。ロジはそんな彼を鼻で笑った。
「綺麗事言ってんじゃねーよ。本当は出たいくせに。みんな、表面だけ誤魔化して……」
 ロジは野心的なタイプのようだった。センターでは、礼儀を一番厳しく指導されるはずなのに。
 ルーム内がざわついてくる。「俺も出たい」と言い出す者もいた。
 部屋をよく見回すと、いろんなタイプの人間が混じっていることに気が付いた。皆美形ではあるけど、年齢や雰囲気はそれぞれ違っている。その中で、僕が一番、何ももっていない人間のような気がした。
 ざわめきの中で先ほどの少年、キーアが怯えながら言う。
「でも怖いよ……。品定めってどんなのだろう。」
「さぁな。遊び相手ってんだから、遊びがうまい奴なんじゃないのか?」
「遊びって、どんなのだろう……。」
 キーアはどうしても不安なようだった。
 正直言うと、僕も不安だ。どんなことをすれば、気に入ってもらえるのだろうか。
「……もしかしたら……」
 ずっと黙っていた、金髪の男の人が喋り出す。
「恋人を探してるのかもしれないよ。」
「恋人っ!?」
 皆が一気にざわめき出す。
「だって、男はみんなガーディアンセンターにいるだろ。だから女性が恋人を欲しいと希望した時に、『遊び相手』として呼ばれるのかも……。きっとそうだよ。」
 金髪の男性は言いながら確信をもったらしい。
 皆も半信半疑ながら、にわかに希望をもち出したようだった。
「でもそんなの……。畏れ多いよ……。」
 僕は思わずそう言っていた。
 あれほどまでに美しく、神々しい女性と恋人になるなんて、考えたこともなかったからだ。
 僕がわずかに震えていると、ロジが僕を指差して言った。
「お前、名前は何て言うんだ?」
「……マナ。」
「マナ、お前弱虫チャンだな。」
 嘲笑されて、僕は少し赤くなった。でも、考えられないんだから仕方がない。
 僕はかつて映写機に映し出された、あの美しい女性のことを思い出していた。

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 僕がCルームに入った時には、既に十人ほどの人が先に並んで待機していた。
 口を開く者は一人もいない。もちろん僕と一緒や、その後に入ってきた男たちもまた同様だ。ざっと見渡したところ、呼ばれた中では僕が最年少のようだった。
 Cルームには、担当の人間らしい人物が四、五名ほどいた。僕とそれ以外の人たちは横一列に整列し、その人たちの前に対峙した。一人の担当官が一歩前に出る。
「お前たちは、審査対象に選考された。」
 審査の噂は、何度か耳にしたことがあった。本当にあったのか。
 青い空。海や川などの綺麗な水場。人工的ではない緑、自然。そして、恋愛と……自由と……。
 以前に聞いた老人の話を思い出しながら、僕は希望に胸を膨らませていた。
 そんな夢にまで見た外の世界が、もう少しで手に届く。
 僕は緊張しながら、担当官の説明を聞いていた。
 センターから出る方法は三つだけあるらしい。
 一つ、政府の祭典。もちろん男性全員ではなく、ほんの一握りの人間。
 二つ、特殊な仕事。例えばセンターの管理人になるなど、特別な職務に就く場合。
 三つ、女性の遊び相手に選ばれる場合。
「例外は存在しない。」
 担当官はそう言って、僕たちを厳しく睨み付けた。その目に威圧され、僕は小さく身震いした。
「今回は……」
 もったいぶった口調で、担当官が告げる。
「女性がお前たちの品定めに来られる。」
 鼓動が、周りに聞こえてしまうのではないかと思った。
 ――女性と会える……?
 僕の胸は高鳴り、緊張を隠せなかった。
 担当官は、当日の心構え、審査の期日等を告げて、Cルームを出ていった。
 僕は足の震えが止まらず、しばらくその場を動けなかった。他の者も、ルームを離れようとはしなかった。


 十分も経つと、一人二人と内緒話をする者が出てきた。
 ルーム内がにわかにざわつく。
 その中で、一人の青年が大きく声をあげた。
「お前ら……ここから出たいか?」
 ここから出たいか……。そんなの答えは決まっている。けれど、僕は「出たい」と口に出来ずにいた。なぜなら、ここから出ることを表立って言うことは、ずっと禁止されていたからだ。男は一生センター内で暮らすのが当たり前のこの世界で、禁忌とされていた言葉だ。
 問いかけたその青年が、大きな溜息を吐く。
「みんな、弱虫だな……。」
 自分の弱さを見透かされ、僕は恥ずかしくなった。あれだけ、外の世界に出たいと願って生きてきたのに。

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 同じ種類の動物でありながら、これほどまでに僕を惹きつける女性という存在。僕は女性への憧れの気持ちをどんどんと膨らませていった。映写時間が過ぎた後も、僕はしばらく放心してその場を動くことができなかったほどだ。
 いつまで経ってもその時の映写機の女性の姿が忘れられなかった。その容姿を想像する度に、胸が締め付けられる。何となく股間の辺りが熱くなる。身体中が疼いて、いてもたってもいられなくなる。そんな不思議な気持ちに囚われてしまうのだった。そんな時僕は、未だ直接見たこともない女性と自分が外の世界で触れ合う妄想をする。ご主人様に付き従う夢など、何度見たか分からない。
 この何とも言えない感情をどう抑えていいのか、そんなことを教わったことはない。しかし、僕の中に芽生えたこの欲求はどうすれば解消されるのか。それが僕には分からなかった。何となく下半身が熱くなるような不思議な感覚。胸が締め付けられるような苦しい思い。それは日に日に大きく膨らみ、僕を欲望の渦へと巻き込んでいってしまうのだった。



 その数週間後。僕はその衝動を自分で発散する方法を発見した。
 センターから各自に与えられた個室に篭った時、身体がうずうずして仕方がなかった。想像の中のその人は、僕をじっと見つめていた。身体に触れてきた。顔を近付け、唇を全身に這わせた。
 僕は無意識に地面に横たわり、想像の中で寄り添う女性と身体を絡ませ合っていた。陰部を床に擦り付ける。すると、不思議とこれまで感じたこともない快感が僕を包み込むのだ。僕は陰部を擦り続けた。ずっとずっと擦り付け続けた。そこで得た快楽は、僕には忘れることができないものとなった。
 ――何だろう……この感覚は?
 高まった感覚は頂点へと向かい、弾けた。あまりの気持ちよさに声を出すことすらできなかった。ただその快楽の果てに僕を包み込んでいたのは、空しさと罪悪感であった。



 個室のランプが赤く点滅している。音は鳴らない。これはセンターからの呼び出しの合図だ。その下に取り付けられた電光板の表示を確認する。
『A-ZUK-0165 第15号棟2F Cルームへ』
 番号と呼び出し場所を確認する。僕は身なりを整えて個室を出た。長い廊下には秩序正しく部屋が並んでいる。僕以外にも呼び出しを受けた人間がいるのだろう。個室の扉が一つ、また一つと開き、中から人間が出てくる。五人くらいだろうか。皆、緊張した面持ちで廊下へ出ると、静かに僕と同じ方向へと歩き始めた。

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 今のシステムが確立したのは、ほんの数世代前――今老いている人たちが子どもだった頃のことだ。
 彼らは教育施設こそ男女別だったものの、成長すれば女性と一緒の区域に住むことができた。
 その頃の出産比率は、男女で七対三程度だったらしい。それでも当然女性は貴重で、人々の間で大事にされていた。
 遠い昔には、男女の出産率がほぼ同じであった時代もあったらしい。だが少しずつ女性は減り、こういった男性過多社会となった。
 出産管理の為、男女の婚姻には政府の認可が必要で、カップルになるにも越えなければならないハードルがいくつもあった。
 ほとんどの男は、女性に触れる機会すらなく生涯を終えていたそうだ。
 だが、性欲を抑えきれなくなる男もいる。一部の男たちは暴走し、女性を無理矢理強姦してしまう事件が頻発していた。強姦致死にまで至るケースも多々あったらしい。
 女性を保護する為、そして人類が生き残る為という大義名分を得て、世界は完全な管理社会に突入した。
 子どもの教育機関だったはずのガーディアンセンターは、人類全ての面倒を見る施設となった。
 ガーディアンシステムは、社会秩序を守る最善の方法だ。
 そう教えられて、僕らは育った。



 世界について学んだ知識は、僕にとっては現実感を伴わない。
 僕が育った現実は、ここ――ガーディアンセンターが全てだからだ。
 人類の守護者。ガーディアンという言葉には、そんな意味が込められているらしい。
 ガーディアンセンターは、世界各所に存在する。全ての施設が男女別で、そこで人間は様々な教育を受けて育つ。秩序ある安全な生活が保障され、生涯平穏に暮らしていける。ここは世界の楽園なのだと教務官は言った。
 今僕が過ごしている環境が、幸せなのか不幸せなのかは分からない。でも楽園だと言われるのは、もっと悪い場所があるからだろう。だとすれば、僕はセンターに感謝しなければいけない。
 ここの教育で一番大事な授業は、人類保護論だ。人類保護論の中で、女性の存在は人類にとって何より大切で、守っていかなくてはならないということも教わる。女性がどんな姿をしているのかも習った。女性とは神々しいまでに美しく、柔らかくしなやかな身体をしていて、喋る声は素晴らしく美しいのだと教科書に書いてあった。
 授業中に立体映写機で映し出された女性の姿に、僕は時を忘れるほど見惚れた。
 軽く伏せられた瞳と、かすかに開いた唇が、僕の瞳に焼きつけられた。

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 ***

 僕は外の世界を見たことがない。
 ガーディアンセンターと呼ばれるこの施設の中で僕は生まれ、育った。
 僕はマナと呼ばれている。しかしこれは正式な名前ではない。僕たちは番号で区別されている。
 ここは、全てが塀に囲まれている。
「外に出ればもっともっと広い世界があるんだよ。ここの何千倍、何万倍という大きさだ。」
 そう話してくれた老人はもうこの世にはいない。
 僕は彼の話す夢のような世界の話を、目を輝かせて聞いていたものだ。僕らが外と呼ぶ世界。一目でいいからその世界を見てみたいと今でも願っている。
 老人曰く、外には青い空が広がっていて、海や川などの綺麗な水場があるらしい。外には人工的に作られたものではない緑や、自然があるらしい。外には、檻に入っていない動物がいるらしい。
 皆が集まって飲んだり歌ったりする場所もある。若者たちは女性と自由に恋をしたりしながら、好きなように生きていける。
 老人の語った世界の全てが本当に存在するなら、世界とは何と素晴らしいものだろう。
 僕は未だ見ぬ、いや……これから先も見ることはないであろう世界を想像することだけが楽しみだった。



 ガーディアンセンターは巨大なドーム状の官営施設だ。ここには男しかいない。
 男女は別々に育ち、そして殆どの男は女性を見る機会すらなく死んでいく。大きな理由は、男が多すぎるからだ。
 現在の世界の出産男女比率は、著しく偏っている。実に九割以上が男なのである。
 女性は滅多に産まれないため、手厚く保護されて育つ。女性専用のセンターで教育を受けた後、大きくなれば住居区に移り住む。その後も、警護する者や身の回りの世話をする者が与えられるなど、いろんなサービスを受けられるシステムがある。それは全ての女性に対し、生涯に渡って保証されているらしい。
 男にそんな自由はない。生涯の生活保障はあるが、住居区に住むどころか、センターの敷地内から出ることすら許されていない。外出許可など、夢のまた夢である。かといって無断で外に出るなど言語道断だ。どんな処分が下るか、考えるだけで恐ろしい。
 そもそも男女が別々に暮らす社会になったことには、理由があったらしい。
 教育の時間に、僕はこの社会の歴史を教わった。

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 その艶のあるしなやかな脚は、真っ直ぐに僕へと伸びてきた。
「綺麗にしなさい。」
 ご主人様の足の指の間にゆっくりと舌先を絡める。
「あっ……」
 喘ぎ声と共に、ご主人様はその全身をびくっと痙攣させ、愉悦に浸る。
 舌を指全体から足の至る所、やがては脚へと移していく。
 唇の先からご主人様の瑞々しい肌の感触を享受する度に、僕もまた言葉では表現できないほどの快楽を賜る。
「ご主人様……ご主人様……。」
 ただそう口にするのが精一杯で、僕の言葉は乏しいものばかりだった。それ以外に感情を表現する手段が分からなかった。
 ご主人様に対する感謝の念は、これから先もずっと変わることはないだろう。僕が今こうしてここで生きていられるのは、全てこの方のお陰なのだから。
 僕はご主人様の脚を唇で撫でながら、止め処なく流れてくる涙を堪えることができなかった。
 時々、ご主人様の蹴りが僕の頬を打つ。僕はその度に「ありがとうございます」と応え、またその脚を丁寧に舐めていく。
 彼女が上着の第三ボタンを押すと、その中から鞭が顔を出す。ご主人様は慣れた手つきでその鞭を手に持つと、しばしそのフィット感を楽しむ。そして少し手に馴染ませた鞭を、思いきり僕へと振るうのだ。
 バシッという音が一つ鳴る。次の瞬間、僕は背中に斬るような痛みを感じて倒れ込んだ。
「いい子ね。ほら、気持ちいいでしょ?」
 ご主人様は鞭を片手に微笑を浮かべ、仰向けになった僕の腹を足で踏み躙る。
「うぅ……」
 内臓が圧迫される苦しみから、僕は思わず呻き声を漏らす。
 続けて鞭の音が二発、三発と鳴る。その度に僕は声を上げる。苦痛の中、見上げたご主人様の姿はとても美しかった。
 妖艶な身体のライン。ウェーブのかかった艶やかで雅な黒髪。魅惑をもつ唇の紅。ぴったりと全身に身に着けた黒い衣装は、彼女の身体の美しい線をしっかりと形取っている。
「ううっ……。ぐうあ……」
 僕に付けられた金属製の首輪の間から脂汗が滲む。首輪には発信機が付けられており、僕の行動は常に監視されている。これこそが、僕がご主人様のものであるという証だ。そしてそれは、僕がこうしてご主人様の下で生きるための命綱でもある。
 ご主人様は首輪についたリングの先を手元に手繰り寄せる。僕の首は圧迫され、僕は目が虚ろになる。呼吸を妨げられ、少しずつ気が遠くなっていく。僕は歓喜に震えた。
 鞭の痛みと首を絞められる苦しみに耐えながら、僕はあらためてご主人様に感謝するのだった。

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もうすぐサイトアクセスが100,000ヒットに達します。(※11/8現在達成!)
いつもご来訪いただいている読者の方々には、深く感謝申し上げます。
お礼の気持ちを込め、企画として、小説のリクエストを受け付けることにしました。
100,000ヒットに先立ちまして、リクエスト投票所を設置しましたので、どうぞご投票ください。

■ リクエスト上位のどれかを小説にします。(一位のものとは限りません)
■ オリジナルキャラのみです。版権キャラNG。
■ 細かい設定をされるより、大まかな設定をされた方が書きやすくて助かります。

※投票期限は、現在のところ十一月の末日頃までと考えています。投票数によっては、変更の可能性もあります。(※11/30現在:十二月初旬までに変更 → ※12/04〆切日決定:12/10の0:00をもって受付〆切とさせていただきます。ご協力いただいた方々、本当にありがとうございました。 → ※12/10現在:リクエスト投票の受付を締め切りました。)

あなたの願望を、ぜひお聞かせください。
項目は自由に増やせます。投票は一日一回までです。

◆リクエスト投票◆ (※終了)
いつもBlack Onyx [ブラックオニキス]にご訪問いただき、ありがとうございます。
逆リョナやSMについて語れる場が少ないと思い、掲示板を仮設置してみました。
皆様の、逆リョナやSMに対する思いを語ってください。
また、情報掲示板や皆様の交流の場としてもお使いいただければ有難いです。

需要があるようなら、このまま設置しておこうと思います。
掲示板は仮運営中なので、何か不手際があるかもしれません。予めご了承ください。

◆ブラオニBBS◆(※閉鎖)
本日もsuzuroさんのイラストをご紹介します。
今回頂いた作品は、これで全てです。
ご協力いただいたsuzuroさんに、あらためて感謝。
本当に、どうもありがとうございました!
※画像をクリックすると、拡大します。携帯の人はこちら→拡大


● 安藤彩香
女子高生シリーズ」より
 suzuroさんコメント…麻美大嶋の制服を考えさせていただきました。
 ryonazコメント…腹責め彩香。この構図が素敵ですね。脚が綺麗! 吐く男子生徒も良い味出してます。

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suzuroさんが再び、キャラクターイメージ画を二枚描いてくださいました。
リクエストもあったため、緊張していたとおっしゃっていましたが(笑)
人物想像の一助となればということで、まずは一枚UPしてみましたが、いかがでしょうか?
皆様のお声を、ぜひお聞かせください。
※画像をクリックすると、拡大します。携帯の人はこちら→拡大


● 春菜・奈津菜
赤い糸ふたつ」より
 suzuroさんコメント…双子って、同じ顔のようでも違いがありますよね。特徴ちゃんと合ってますか?
 ryonazコメント…美と死の調和が最高ですね。双子の特徴は、私のイメージ通りです。

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