Black Onyx [ブラックオニキス];2007/ 10の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2007年 10月 に掲載した記事を表示しています。
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お馴染み、私立麻美大嶋学園シリーズです。
以前執筆した『瀕死遊び』とほぼ同時期の物語です。
こちらのタイトルから入った方は、他の女子高生シリーズも併せてご覧いただければ、より楽しんでもらえると思います。
一時収束に向かったかと思われた例の遊びは、未だ右肩上がりの傾向を見せている。その所以は……
最前線で活躍(?)する彩香と、背後で糸を引く紗希。明の彩香に暗の紗希とも言えるでしょうか。
実質的な学園の二大トップといったところですね。
SAYAKAとSAKIの頭文字から、私は二人を「ダブルS」と呼んでいますが(笑)
この学園にはまだまだいろいろな闇が隠されていそうです。
今後もこの学園に纏わる物語を順次執筆していきたいと思っていますので、応援よろしくお願いします。

話は変わりますが、サイトコンセプトの「逆リョナ」について、私なりに考察してみました。
よろしければ一度ご覧になってください。
また、それに伴って「サイトについて」も一部修正しています。こちらもぜひご一読を。

毎度申し上げています。
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これを励みに、これからも頑張っていきたいと思います。
今後もBlack Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いします。

●紗希のキャラ絵 →   

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 紗希は去り際に、私に言葉をかけた。
「いいですか、先生。」
「……はい。」
 私にはもう、彼女に逆らう気力は全く残っていなかった。
「これから二つ、あなたに命令します。」
「……はい。」
「一つ。今日のことは誰にも言わないこと。」
 言えるはずないでしょうけど、と彼女は笑って付け加える。
 私は黙って頷いた。
「二つ。今後、私たちの邪魔をしないこと。」
 弾かれたように顔を上げる。
 ――これが、彼女の目的だったのか……。
 しかし私には、もはや頷くことしか選択肢は残されていなかった。



 それから一週間が経った。
 昼休みの間に宿題のチェックを済ませるために、教室にノートを取りに戻ろうとした時のことだった。
 教室内から、悲鳴が聞こえてきた。
「く…苦しいよ。やめて!」
 男子の声だった。女子たちのキャアキャアと騒ぐ声も廊下に漏れている。その中には確かに彩香の声も混じっていた。私の勘が的を射ていたことを、ここで確信する。
 ――例の遊びだ!
 私は慌てて教室に向かおうとする。しかし、ドアの前に立ちはだかる人物がいた。
 紗希だった。
 彼女は私の顔をじっと見て、わずかに笑みを浮かべた。
 それだけで、私の身体から脂汗がどっと噴き出す。あの時の恐怖体験が、私を縛った。
 命令を思い出す。
 『私たちの邪魔をしないこと』

 私は、そっとその場を離れた。



END

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 祈るように私が見つめる中、紗希はしばし逡巡し、ようやく口を開いた。
「じゃあ、何でも言うこと聞くって約束できます?」
「わ……分かった。分かりました。」
 紗希はそれでも表情を変えなかった。
「どうしようかなぁ……」
「このロープを……」
「その前に。」
 紗希が私の言葉を遮る。
「その膨れ上がった汚いもの、いつまでも生徒に見せないでください。」
 彼女の視線が私の股間へと向けられる。
「早く治めてください。」
「いや、でも……」
 自分ではコントロールできないんだという言葉を呑み込む。それを察したのか、彼女は吐瀉物を避けて私に近付くと耳元で囁いた。
「それじゃ、絶対暴れないって約束してください。」
「分かった。約束する。」
 何度も頷いて助けを乞う。私は紗希の言葉に従う他はなかった。
 彼女は腕の縄を解いた。
「じゃあ、さっさと始末してください。」
 私はすぐにはその言葉の意味を理解できなかった。その真意に気付いた時、私は驚愕した。
 ――ここで? ……自分で?
 紗希は冷笑を浮かべていた。


 私は泣きながらせっせと自慰をした。
 早く治まってくれと願うが、私の反り返ったモノはなかなか鎮まらなかった。それどころか、逆にどんどんと膨らんでいった。
「あ……あう……うぅ……」
 声が狭い倉庫内に響く。それがどうしようもなく恥ずかしかった。
 情けなくて、空しくて、もう何が何だか分からなかった。そんな中で、私は逝った。
 紗希はそんな無様な私をずっと見つめていた。

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「そんな恥ずかしい格好晒して……縛られて……」
「うぅ……」
「私の下着見て、蹴られて興奮して……」
「ううぅ……」
「それで、こんなにアソコを膨らませてるんですね。」
「…………」
「最低。このエロ教師。」
 私のプライドはもうズタズタだった。何より、こんな風に屈辱を受けながら最大限に勃起している自分の性が憎らしかった。
「私たち生徒のこと、いつもそんなエロい目で見てたんですか?」
「…………」
「私は真面目です!って顔も嘘だったんですね。見損ないました。」
 紗希は容赦なく私を追い詰めていく。情けないことに、私の目頭は少しずつ潤んできていた。
「あれ? 泣いちゃうんですか? お子様先生。」
 その言葉がトドメだった。堪えきれなくなった涙が大量に溢れ、頬に流れ落ちた。
 紗希は泣いている私を黙って見下ろしていた。その瞳には明らかな侮蔑の念が込められていた。
 彼女は私の目の前にしゃがみ込み、私の腹を突然殴った。
「ぐうっ!」
 声が漏れる。あまりに突然だったため、受け身を取ることすらできなかった。まともに減り込んだ拳が私の内臓を抉った。嘔吐感が後から俄かに込み上げてくる。そんな中、彼女はさらに二発、三発と私の腹を攻撃した。
 休む間もなく何度も突き刺さる彼女の拳に、私の内臓は激しく揺さぶられる。胃がひっくり返るような気持ち悪さが私を襲う。吐き気が堪えきれなくなってくる。彼女がすっと身を引くと同時に、とうとう私は嘔吐した。勢いよく飛び出した吐瀉物は、前方の床を汚した。
「汚い……」
 紗希の吐き捨てた言葉で、私はようやく自分のしてしまったことを理解する。未だ込み上げてくる吐き気に必死で耐える。
 彼女は私との距離を少し開けた。私を汚いものとして扱う彼女の行動に、私はショックを隠しきれなかった。
「先生。本当に汚いですね。」
 そう言い捨て、彼女は踵を返した。私を置いて倉庫から出て行こうとする。
「ま、待ってくれ! 行かないでくれ! 頼むから、ロープを解いてくれ!」
 私は必死で叫んだ。このまま誰かに発見されたらと思うと、背筋が凍る。
 もう彼女に縋るしか方法はなかった。私には既にプライドも何もなくなっていた。

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 紗希は撫でるように私の身体に指先を這わせ、やがて下半身に手を伸ばした。
「な……何をするんだ! やめ……おい!」
 しかし彼女には私の声は届いていないようだった。紗希が剥き出しになった私の陰茎を指で弾いた。
「うっ……や、やめろ!」
 声を振り絞る。しかし情けないことに、私の陰部は紗希が触れたその一瞬で、大きく膨れ上がってしまっていた。
「あれ? 何か大きくなっちゃってますけど。」
「や……やめろ!!」
 ……ゴンという鈍い音が静かな倉庫に響き、紗希の手が離れる。私は思わず、紗希に頭突きをしてしまっていたのだ。紗希はとっさの出来事に驚いたのか、後ろに尻餅をついた。倒れ込んだ彼女は俯いていた。しかし、その顔には不気味なほどの笑みが零れていた。
「先生? これ……体罰ですよね?」
 言葉を失う。
 ――私は、教師として……絶対にしてはいけないことを……
 異常な状況であることは私にだって分かった。しかし、それでも私は教師だ。教育公務員として信用に足る働きを心がけてきた。それが……
 ――!!――
 紗希は尻餅をついたまま片膝を立て、胸元を広げて軽く掻いていた。紗希の白く美しい太腿やスカートから覗く下着。広げた胸元から見えるブラジャー。
 私は興奮を隠しきれず、さらにオトコを強調した。
 ――何を考えているんだ……私は……
 罪悪感に苛まれる。
 ――生徒に手を出してしまった……。そして今、生徒の姿に興奮して……下半身を……
「うわあああっ!」
 思わず声を上げてしまう。紗希はゆっくりと立ち上がると、再び私の方へと歩を進めてきた。
「いいんじゃないですか、先生? 先生だって、人間なんですから。」
 紗希が私の顎を指先でそっと持ち上げ、笑い混じりにその身体を摺り寄せてくる。生徒とはいえ、彼女はやはり女だ。柔らかく、心地よい女性の身体の感触に、私は最大限に勃起してしまっていた。
「ううっ……」
 理性を保とうとすればするほど、私のオトコはそれを茶化すように膨れ上がる。
 紗希はそんな私を弄ぶように、私の股間を上履きの爪先で軽く蹴り上げる。その度に私の陰茎が刺激され、今にも暴発しそうになる。
「柳本……。頼む。もう、やめてくれ……」
 紗希は私の動揺する様を見て楽しんでいるように見えた。
「ふーん。先生、もしかして感じてるんですか?」
 私には返す言葉がなかった。紗希にも、いや自分自身にも、もう嘘をつくことはできないと心のどこかで感じていたのだ。ただ、自分は教師であるという理性だけが、私自身を押さえ込もうと必死になっていた。

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 冷水が身体に叩きつけられ、私は目を覚ました。
 気付くと柱に後手で括り付けられ、足首にもロープが固く巻きつけられていた。体育座りのような格好で、身動き一つ取れない状況だった。
「ううっ……」
 当身を受けた腹が痛む。込み上げてくる吐き気を堪えながら、何とか正気を取り戻そうとする。目の前には紗希の姿があった。
 柳本紗希。端正な顔立ちでボブカットがよく似合う。クラスの中では小柄な方で、それほど目立つ存在ではない。感情を表に出すことが少なく、いつも冷静に物事を見ている。前回の騒動に関与していたという話も聞かない。成績は学年上位だ。
 自分の中にある紗希のデータを思い起こす。そのデータと、今私の目の前にいる紗希との人物像には明らかな隔たりがあった。ましてこの突然の凶行。紗希? ……どうして……
 とにかく今は、どうしてこんなことをしたのか紗希に聞く必要がある。
「柳本。これは……どういうことだ!」
 努めて冷静に、しかし口調だけは強めて問い詰める。
 彼女は口元に冷笑を浮かべながら、黙っていた。私を観察するように、私の全身を舐めるように見回していた。
「おい! こんなことして、冗談じゃ済まないぞ。」
 再度、さらにきつい口調で紗希に言葉をぶつける。
 紗希は相変わらず笑みを絶やさず、じっと私を見つめている。

「……え……!?……」

 自分の異変に気付いたのはその時だった。私は身包みを全て剥がされ、全裸にされていたのだ。羞恥心から私は思わず身体を縮めようとする。しかし当然、それは無意味だった。手足を縛られているため、実際には身体が少しだけ内側に折れただけだった。心許ない感情が湧き上がり、自分の頬が赤く染まっていくのが分かる。
「何ですか、先生。何か言いたいことがあったんじゃないんですか?」
 紗希はあざ笑うように私に声をかける。
「く……」
 私は言葉を失う。自分が今こうしてみっともない姿を晒しているのだと思うと、とても冷静ではいられなかった。教師としてではなく、あくまで一人の人間としての羞恥心。こんなに恥ずかしい思いをすることに、私はとても耐え切れなかった。
「た……頼む、柳本。服を返してくれ。お……お願いだ!」
 紗希は、私を縛り付けている柱の周りをゆっくりと回った。じっと私の身体を見ながら。そして、ポツリと呟いた。
「先生。童貞って、本当ですか?」
 その口元は弓なりに曲がっていた。私は彼女の表情に怖気立った。

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 静寂が教室中を包み込んでいた。
 授業中の彼らの態度は、それこそどこへ出しても申し分ない。寝ている生徒もいなければ、私語一つ聞こえてくることもない。まあ、有名私立高校なのだから当然と言えば当然のことなのかもしれないが。
 しかしそれは彼らの、いや彼女たちの表向きの顔なのだ。生徒を疑うのは心苦しいが、このクラスには確実に、闇に潜む裏の顔がある。それをしっかりと私が認識していなければ、今後はもっと大きな事件が起こりかねないのだ。
 ふと彩香の方へと目を移す。彼女は教科書を片手に熱心にノートを取っていた。
 ――授業態度だけを見ていれば、勉強熱心で優秀な生徒なのに……。どうして……
 彼女の姿を見ていると、生徒を穿った目で見ている自分が間違っているのではないかという気にもなってくる。罪悪感と自己嫌悪が私を包み込む。そんな邪念をふり払うように、私はぼんやりとあの事件のことを思い出していた。私は確かに現場を見た。中心となって暴行していたのは……紛れもない、彩香だった。
 ――ゆっくり時間を取って、彼女の心の奥までしっかりと見つめていかなければ。
 私は決意を新たにした。


 私の学校には中休みがある。二時限目の終わりに二十五分ほどの少し長い休みがあるのだ。
 授業終了のチャイムと同時に私は職員室を出る。この時間に一度、彩香と接触しておきたかった。
 しかし、不測の事態というものはこういう時に限って起こる。
 丁度、私が職員室を出た時、そこには同じクラスの女子生徒である柳本紗希が立っていた。
「先生。真理が大変なんです。すぐに体育倉庫まで来てください。」
「いや、先生はこれから用事が……」
「怪我をしてるんです。早く、お願いします。」
「本当か!」
 私は彼女に引っ張られるように体育倉庫へと向かった。


 体育倉庫は校舎から校庭を挟んで反対側に位置していた。
 外履きに履き替える間もなく、私は紗希についていった。
 紗希が先に立ち、倉庫を開ける。私は彼女を押しのけるようにして中を覗き込んだ。
「どうした! 大丈夫か!? …………?……??…………」
 
 ――誰も……いないじゃないか……。
 
 振り返った時にはもう遅かった。
 紗希に強烈な当身を喰らわされ、私は声もなくその場に崩れ落ちた。

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 クラスでの騒動はひとまず収束に向かった。
 最初はその異様な光景に目を疑った。彼女たちはあくまで遊びだと主張したが、あれはとてもそんな風に軽く扱えるような事態ではなかった。
 女子集団による男子生徒への苛め、暴行。
 あの時犠牲になった男子生徒も、今は順調に回復している。ただ彼に大きな傷を残したのは、身体より、むしろ精神の方だろう。今後はそちらのケアに専念した方がいい。
 ――それにしても……
 あの時のことが社会的に大きな問題とならなかったのは、不幸中の幸いだったと言わなければならない。有名私立高校での騒ぎなどが世間に知られたら、マスコミの恰好のネタになってしまう。彼女たちの今後の人生を考えても、新聞沙汰になるようなことは絶対に避けたい。もちろん私自身の立場のこともある。クラスでの騒動の責任は、私にあるのだ。
 学校側の隠蔽工作があったのは確実だろう。世間的には、何事もなかったことになっている。ただ、あの事件を期に学校内での私への風当たりが厳しくなったのもまた事実だ。
 ――私は今後、彼女たちをどう指導していけばいいのだろう。
 私は職員室の机上に置いたクラスの集合写真を手に取った。
 ――やはり……安藤彩香だろうな……
 可愛らしい顔立ち。サラサラのストレートロング。何度注意しても香水の香りを漂わせて通ってくる。クラスの女子たちのリーダー的な存在だ。今回の事件の実質的な主犯らしい。おそらく彼女の一声がクラスの女子をヒートアップさせたのだろう。集団意識から女子たちの行為が次第にエスカレートし、やがて男子生徒が気絶するほどの事態に陥った。そう考えるのが一番妥当だと思われる。
 私は考えられることを教務手帳にメモしていった。
 ――核となる原因を取り払うことが、解決への早道だ。
 

 気付けば時間は十時を回っていた。
 当然、職員は既に退勤し、職員室にいるのは私だけだ。
 ――明日にでも、安藤とじっくり話をした方がいいだろうな……
 私はそこで大きく息を吐く。考えている間、身体がやたらと緊張していたことに気付く。背筋を伸ばして身体をリラックスさせるように努めた後、私は退勤の準備を整えた。
「下手したら、退学だ。お前にも分かるだろ?」
 声に出してそう呟いてみる。
 騒動はまだ完全に収まったわけではない。クラスの状態をしっかりとした状態に戻すことを心に決め、私は職員室を後にした。

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『正当拷問自白法』に出て来た、凛の過去の物語です。シリーズ第三弾として執筆しました。
愛とは、正義とは、拷問とは。
凛の数々の葛藤を表現したかったのですが、いかがでしたでしょうか。

過去の重い経験から、凛は成長していきます。
凛は今後、何を思って職務を行っていくのか。
この後登場することになる後輩である後藤由香利。彼女をどう教育していくのか。
ちなみに凛はこの後であの例の大物、大谷悟さんと出会うことになるのですが。
その辺りを含めて、シリーズものとして楽しんでいただければ幸いです。


メールフォームからご意見やご感想を送ってくださっている方々、本当にどうもありがとうございます。
大変嬉しく思うと同時に、それが時には励みになり、時には勉強になっています。
ただ、返信が必要な場合はメールアドレス記載をお忘れなく。
感想などはブログのコメント欄でも受け付けています。よろしければどうぞ、そちらにも書いてやってください。
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応援の声をいただくと、本当にやる気が出ます。
今後も、お付き合いをどうぞよろしくお願いいたします。

●凛のキャラ絵 →  

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 男の刑事二人が取調室に入ってきたのは、その時だった。
「お、終わったんか。自白はしたんかいな?」
「終了なら、報告せないかんな。」
 二人の言葉は凛の頭にはしばらく入ってこなかった。ぼうっと気が抜けたように立ち尽くす。それは、これまで凛が見せたことのない、気力を失った表情であった。
「……自白……終了です。」
 そう一言だけ告げる。凛は涙を拭い、男の身体をそっと抱きしめた。
 刑事たちは何が何やら分からず、ただしばらくの間、凛と男を交互に見回すことしかできなかった。



 人を愛するということ。己の中の正義を守るということ。
 プライベートの時間。職務を全うする使命。
 凛は自分の中のさまざまな思いと向き合い、心に深く刻んだ。



 この世に犯罪は尽きない。
 本日も、また新たな容疑者が連れて来られている。彼女の仕事は、拷問し、自白させること。
 凛は、取調室の扉を開けた。
 容疑者に対し、淡々と挨拶した。
「担当の瀬川凛です。よろしくお願いします。」
 深々と頭を下げる。
 容疑者は凛を見て、驚きの声を上げた。
「あ…あれ? お前、凛じゃないか! わかるだろ、兄貴だよ。助けてくれよ!」
 凛はそれには答えず、男の喉元に手をかけた。
「なぁ、凛……冗談だよな?」

 凛には既に迷いはなかった。



END

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 男が凛の顔に向かって、よろよろと手を伸ばす。反撃かと思い凛は警戒したが、彼の手は凛に害を為すつもりはないようだった。指先を凛の耳の側にまで伸ばす。
 虫の息で、男は言葉を絞り出した。
「……覚えてるか? 去年のクリスマスに買ったプレゼントを……」
 凛の瞳が、一瞬大きく揺れた。
 彼女の耳に付いたプラチナのピアスがキラリと光る。
「大切にしてくれてるんだな……。ありがとう。」
 男は本当に嬉しそうに微笑んだ。身体の痛みや苦しみを忘れたかのように清々しい笑顔だった。それは、凛が一番よく知っている彼の、古嶋隼人の顔だった。
 凛は攻撃の手を緩めた。そして、静かに男に語りかけた。
「私は……」
 声が震える。
「……私は、あなたの恋人である瀬川凛です。ただ、同時に私は警察官でもあります。」
 凛は彼に対し、真っ直ぐな視線を向けていた。淡々と彼女は言葉を続けた。
「容疑者に自白をさせるのが、私の仕事です。それが……私の正義です。」
 男は項垂れた。しばらくの間、沈黙が二人を支配した。
 どのくらいの時が経ったのだろう。
 男がポツリと呟いた。
「殺すしか……なかったんだ……。」



「あいつは……ずっと凛をストーカーしてたんだから……。」
「…………」
「俺もずっと嫌がらせを受けてた。本当にしつこくて、陰湿な……。」
「…………」
「あんなやつ……死んで当然なんだ……。」
 男がとうとうと言葉を吐き続ける間、凛は口を挟まなかった。
 ただ、哀れみにも似た目で彼を見つめていた。
 ずっと冷静な顔だった凛の瞳に、涙が溜まっていく。
 男の頬にそっと手を沿え、彼の口を自らの唇で塞いだ。
 突然の出来事に男は言葉を失う。途惑いつつ、彼は目を閉じた。おそらく最後のキスだろう。口付けを交わす二人の姿は、愛し合う恋人同士そのものであった。
 唇を離した時、そこには柔らかい笑顔の凛の姿があった。
 凛はしばし彼を優しく見つめた後、表情を引き締めた。

「それでも……殺人は、罪です。」

 男は顔を歪め、やがて泣き崩れた。

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 凛はパンプスの先を男の股へと近付ける。
 男は全く抵抗しなかった。例え抵抗しようにも、身体はほとんど動かなかったであろう。凛は男の睾丸を思い切り蹴り上げた。
「うぐぅああ……」
 鈍い痛みとともに男は悶絶し、無意識に股を押さえようとする。しかし凛はそれを許さなかった。男の両手をしっかりと掴み、足を蹴って股を開かせる。そして再度、睾丸を蹴り上げた。
「ぎぃああぁ!……ああ……」
 何度も何度も、凛は男の睾丸を蹴り続けた。男は鈍い痛みに必死で耐えることしかできなかった。
 やがて男は口から泡を吹き始めた。
 凛はそれを見ると、男の脇に腕を入れた。強制的に立ち上がらせると、男の身体を壁に立てかけた。
 男は既に一人では立つこともできないほどになっていた。膝から崩れ落ちないように、凛は男の首を左手で掴む。次の瞬間、凛の拳が男の腹に突き刺さった。
「ぐううええっ……」
 鈍い音とともに男はくの字になる。凛は首を掴んで壁へとその身体を押し戻す。そして再び男の腹を殴る。蹴る。時には膝で内臓を抉る。
 凛の攻撃は繰り返された。執拗な腹責めに、男の腹はどんどんと赤く腫れていった。男は次第に白目を向き、頬を大きく膨らませた。
「げええええっ……ぐうえええっ…………」
 男はとうとう吐血した。口一杯に溜めた血を吐き出し、それが床一面を彩った。凛の顔は彼から吐き出された返り血で所々が赤く染まっていた。
 凛が首にかけた手を放すと、男は膝を折ってふわりと前のめりに倒れ込む。凛はその顔を目がけて、容赦なく強烈な蹴りを見舞った。壁に叩きつけられ、壁と足の間に顔が挟まったまま男は動かなくなった。ゆっくりと凛がその足を下ろすと同時に、男は血の海に沈んだ。
「うぅ……」
 男には、もう気力も体力も残っていなかった。
 ただ、凛への思いだけが、彼を支えているようだった。ボロボロになった身体に鞭打ちながら、必死で彼女に呼びかけ続けていた。
「凛……凛……」
 男の顔は腫れ上がり、口の端からは血が流れていた。瞼が切れ、ほとんど開かなくなった片方の目の上からも血が滲んでいる。
 凛は男の呟きを無視するかのように、顔を、腹を、手足を、淡々と殴り続けた。

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「別人……なんだろ? 見た目は凛そっくりだけど、お前は別人なんだろ?」
 男は祈るような顔で、凛の足元に縋り付いて叫んだ。
 言葉に確信はなかった。
 そうであってほしい。そうであったら、どんなに救われるだろう。そんなわずかな期待と願望が、男の口から零れてきているようだった。
「なぁ……そうだと言ってくれよ。」
 男の目が潤む。
 凛はそんな男の口を塞ごうとするかのように、顔を踏みつける力をさらに強めた。男は圧迫に耐え切れず、その言葉はやがてただの呻き声へと変わっていた。
 凛は答えなかった。
 わずかに瞳を伏せ、凛は男の顔を蹴り飛ばした。男の身体は舞うように反転し、床に強く叩きつけられた。衝撃で鼻血を噴き出し、うつ伏せになって倒れ込む。
 凛の冷たい視線は、男の少しの希望を容赦なく切り捨てた。
 男は腑抜けのように口を開いたまま、涎を垂らしている。凛に与えられた攻撃とショックは、肉体的にも、精神的にも彼を打ちのめしていたのだ。
 凛は倒れ込んだ男に近付くと、身体中を蹴り続けた。男はまるで死んでいるかのように、彼女の蹴りに対して全く抵抗しなかった。


 しばらく蹴り続けた後、凛は男が上半身に身に着けているシャツを剥ぎ取り、背中に両手の爪を立てた。ギリギリとその背中を引っ掻いていく。男の背中の皮膚が徐々に破れ、そこから血が滲んできていた。
「ぐ……あああぁ……」
 男は強制的に意識を覚醒させられ、たまらず声を上げる。爪痕はまるで編目のように、その背中を赤く彩っていた。
「意識をしっかりともっていてください。放心されては困ります。」
 凛の言葉は淡白なものだった。
「凛……凛……」
 男の縋るような目や言葉を全て拒否するかのように、凛は男の上半身を無心で引っ掻き続けた。それは、凛にとって一つの決意を貫かんとする行為であったのかもしれない。
 職務を全うすること。
 その強い意志が信念となって、まるで凛の身体を支配しているようであった。

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 睾丸を握りしめられた男は、悲鳴を上げながらも身動きが取れない状態となっていた。怯える男をじっと見つめながら、彼女は睾丸をさらに強く握りしめる。
「あ! がああぁ……。い! 痛い!……い……」
 悲痛な叫びを上げる男の目をしっかりと見つめながら、凛は静かに告げる。
「自白、しますか?」
 男は必死で首を横に振る。黙って、凛の瞳を喰い入るように見つめていた。
「自白してください……!」
 凛の中に焦りが生まれる。自白しない限り、この拷問は終わらないからだ。
 男はまた首を振り、息を吸い込んだ。呼吸を整え、口を開いた。
「……信じてくれ、凛……」
 静かな声。男の瞳には、強い意志が映し出されていた。
 凛はその眼光に動揺を隠し切ることができなくなっていた。愛する者に向けられた真摯な瞳。ほんのわずか、迷いが生まれる。
 しかし彼女は、そんな自分の弱い心に負ける訳にはいかなかった。
「残念です……」
 そう呟き、睾丸を握った手の平に再び力を込めた。
 男の額に脂汗が滲む。しかしそれでも自白する気配は感じられなかった。
 凛は無念そうに、わずかに瞳を伏せた。溜息を吐き、拳の力を大きくしていく。
 万力のようにじわじわと、しかし確実に睾丸への圧力が増えていく。
 最初は我慢していた男も、少しずつまた声が漏れてくるようになった。
「う……うぐぅ…! が……か……」
 男の睾丸が風船のようにぷっくりと膨れ上がる。
「ぐわあああああ!!……ううぅあっ……ぎぃやああああっ!!」
 限界までギリギリと締め付ける。睾丸が破裂するかと思えた時、凛がふいに手を放した。
 男は慌てて身体を後ろに引き、股間を両手で押さえた。狂ったように地面をのた打ち回り、やがてぐったりと動かなくなった。
 凛はゆっくりと男の元へと歩を進めた。その無様な姿を見下ろし、顔をパンプスで踏みつける。
「話してください、古嶋さん。でないと……」
 凛の瞳が鋭く光る。
「一つずつ潰していきますよ……。」
 男はその言葉に大きく震えた。身体を丸めたままガタガタと震えている。
 凛の無言の圧力が男に圧し掛かる。
 やがて男は、身体から絞り出すようにして言葉を吐いた。
「……お前は、俺の知ってる凛じゃない……!」
 その瞳には、恐怖とも嫌悪ともつかぬ感情が溢れていた。

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 凛は無表情のまま、男との距離をじわじわと詰める。
 男は怯え、腰を抜かしていた。立つことすらままならず、部屋の隅へと後ずさる。身体を小さく丸め、ブルブルと震えていた。
「やめてくれ……やめてくれ……」
 訴えかける男の顔からは、もはや精気は感じられなかった。まるで母親に許しを乞い、その愛を信じ求める子供のように、男は何度も言葉を続けた。
「お願いだ……やめてくれ……許してくれ……」
 凛は蹲っている男の身体を、再び勢いよく蹴り上げた。もんどりうって倒れた男を追い詰め、何度も何度も蹴り上げた。その度に男は苦悶の声を上げ、嗚咽を漏らす。怯えきった男にはもはや抵抗する意志はなく、ただその攻撃に耐えることしかできなかった。
「正直に言ってください。これ以上、痛い思いをしますか? それとも……」
 彼女はそこで言葉を一度呑み込む。脅迫でも威圧でもない。ただ純粋に、早く自白してほしいという思いが、その言葉には込められていた。


 男の身体がふいに持ち上がる。凛が男の襟首を掴み上げたからだ。彼女がじっとその瞳を覗き込むと、男はたまらず視線を逸らす。凛はそれを許さず、顎を掴んで顔を自分の方へと向ける。彼女は男の瞳の奥をさらに強い眼光で睨みつけると、その拳を勢いよく男の腹へと捻じ込んだ。
「う……ぐえっ……」
 男の身体がくの字に曲がる。そのままの体勢で凛はさらに二発、三発と膝を男の鳩尾に叩き込んだ。男の呻き声が取調室を包む。それでも彼女はその攻撃の手を止めようとはしなかった。
「うええええっ……ごふうううっ……」
 鈍い呻き声が響き渡り、男は吐瀉物を吐いて倒れ込んだ。口の端からは胃液が糸を引きながら零れてきていた。
 凛は即座に、突っ伏した男の睾丸をしっかりと握り、その手の中で擦り合わせた。
「ぎ……あああっ……がっ……」
 たまらず男は悲鳴を上げる。
「気を失わないでくださいね。あなたには、真実を話していただきます。」
「ううっ……うううっ……」
 凛は相変わらず無表情のままだった。いや、正確には表情を作れずにいたのだ。凛は内心に渦巻く葛藤と、常に闘っていたのだから。

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 ――身体が重い。
 全く疲れが取れていないように凛は感じた。
 少し身体を起こす。
 交代の時間が迫っている。凛は胸元が四角く開いた薄手のTシャツとミニスカートに着替える。動く仕事なので、破れやすいストッキングは身に着けなかった。シンプルでヒールが低めのパンプスを履く。髪を梳かしながら、今日の仕事内容を確認しようと、書類を手に取った。
 そこに書かれた容疑者の名前を見て、凛は凍りついた。



「担当の瀬川凛です。よろしくお願いします。」
 取調室で俯いている男は、凛の声を聞くと過敏に反応した。
 容疑者と対面するのがこれほど嫌だと思ったのは、彼女にとって初めてのことだった。
 男がゆっくりと顔を上げる。その顔が歪むのを見て、凛は思わず目を逸らしそうになった。
 凛のやるせない思いは、表情には出なかった。
「凛。凛……だよな。」
 凛は返事をしなかった。ただじっと、容疑者である男の顔を見つめていた。
 ――古嶋隼人、二十八歳。職業はエンジニア。
 凛は彼のことをよく知っていた。
 ――水瓶座のB型。好きな食べ物はアンチョビパスタ。動物嫌い。想い出の場所は映画館。二人の初デートの場所は……
「良かった! 助けてくれ。俺は何もしていない。凛なら、分かってくれるだろ?」
 彼女は運命を呪った。同情の念を押し込め、凛は己の職務を開始した。



 男は口から胃液を吐き出しながら、無様に倒れ込んだ。
「お……俺じゃないんだ。本当に、何も知らないんだよ……」
 床に這い蹲りながら、男は咳き込みながら必死で凛に訴える。
「もう一度聞きます。先日、区内で起きた路上殺人事件。犯人はあなたですね?」
 凛は足元に縋りついた男の顔面を、容赦なく蹴り上げる。男の身体が勢いよく壁に叩きつけられる。哀願する男の顔は、涙と鼻血でグシャグシャに汚れていた。
「凛……。凛……。」
 男は質問には応えず、ただ凛の名を呟き続けていた。まるで信じられないものを見る目で、彼女を見据えながら……。

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「ぼ……僕じゃない……僕じゃ……」
 凛の瞳がキラリと光る。握りしめた拳を男の目の前に翳し、下目でじっと男を見下ろしていた。ただそれだけでも、男の戦意を喪失させるには十分すぎるほどの威圧感だった。
「まだ、続けますか?」
 凛が冷たくそう言い放つ。男は身体を震わせ、その言葉に大きく反応した。
 男の顔は既に見る影もなく潰れていた。血の混じった吐瀉物が床一杯に広がり、男は身体を小さく丸めてその場に蹲っていた。激しく咳き込み、既に声を出すことも困難である様子だった。剥き出しにされた上半身には至る所に痣ができ、所々に血が滲んでいた。
「わ……分かった。分かりました。ご……ゴホッ……。すみません。僕が……やりました。」
 必死で声を絞り出す。
 凛は安堵の溜息を漏らし、救護担当への連絡のベルを鳴らした。立ち会っていた刑事二人も思わずニヤリと笑みを零す。
「自白終了です。手当てを急いで。」
 受話口から凛は冷静にそう告げた。
 間もなく救護担当の人間が担架を持ってやってきた。無言のまま男を担架へ乗せると、そのまま取調室から飛び出すように出ていった。
 静寂に包まれた取調室をあらためて見回し、再び凛は大きく溜息をついた。
「ごくろうさん。これから詳細を吐かせんとな。後は我々が引き継ぐ。」
 事務的な言葉を聞き流し、凛は二人に一礼すると取調室を後にした。



 仮眠室へと足を運んだ凛は、おもむろにベッドへと身体を投げ出した。
 ――今日は少し疲れた――
 凛は目を閉じて仮眠を取る。ここのところ昼夜を問わず仕事に追われる日々が続いている。
 新法案「正当拷問自白法」が成立してからというもの、警察内部はそれに関わる対策本部の立ち上げや連日の会議で急激に慌しくなっていた。それに伴って管理システムや担当、そして人間関係までもが急速に変化していった。警察署内の忙しさから、警察関係者には次第に余裕がなくなっていった。
 容疑者自白担当は人選が厳しい。そこに係る労力や精神力は半端なものではない。人選にはそれに加えて格闘の才能や努力を惜しまない姿勢、責任感など、あらゆる素質が要求される。凛は、その基準を全てクリアしたものと上層部に判断された。
 任務についてからというもの、凛にとっては毎日が激務の連続だった。それでも彼女は自分に与えられた使命を果たそうと、日々努力していた。

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SとMを繋ぐ信頼関係。主であることと従であることのお互いの同意。
相手への思いがあればこそ成立する、歪んだ愛情の形。
そんな中、少しの不安から揺れ動いていくM男の心。
二人の関係は、今後どういった展開を迎えるのか。

話は変わりますが、先日ネットサーフィン中に、偶然「M的願望症候群」というサイト様を発見しました。
以前に私が執筆した『M的妄想症候群』と名前がそっくり! しかも同じM男もので、驚きました。
Black Onyx [ブラックオニキス]の読者の方の中にも、ご存知の方はいらっしゃったかもしれませんね。
私は恥ずかしながらそのサイトを知らなかったもので、偶然タイトルが被ってしまったようです。
もちろん内容は全く関係のないものです。
あちら様にもご迷惑はおかけしたくありませんので、お間違いのないようお願いいたします。

お陰様で、FC2ブログランキングの方、順位が上昇してまいりました。
ご協力いただいている方々、本当にありがとうございます。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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11日にメールを下さった方へ。

返信メールアドレスが記載されておりませんでしたので、ここでご返答いたします。
『夜霧』へのご感想、ありがとうございました。
楽しんでいただけたようで、大変嬉しいです。
18禁要素が薄かったということでしたが、私はくノ一の殺戮行為自体にエロスを感じています(笑)
まぁ、そんなコンセプトのサイトだと思ってください。
サイトの構成が分かりにくいとの質問があったので、システムの説明をいたします。

<当サイトの見方について>
当サイトはブログの形式を使っております。基本的には、一般的なブログと同じ構成になっております。
一番上のサイトタイトルをクリックすると、トップページが表示されます。トップには最新の小説を置いています。
(※トップページとして、別ページは設けておりません)
サイトについて◆ : 注意書きです。初めての方はご覧ください。
小説目次◆ : 小説一覧はこちらからどうぞ。
上記の二つは、右サイドバー上部からリンクしています。
 窓の外は秋の夕日に彩られ、全ての自然が赤々と燃え滾っていた。
 女王様が、外へと続く扉を開けた。一気に大気が部屋に流れ込む。
 普段は意識していない、さまざまな感覚が鋭敏になる。空気は大分肌寒くなってきており、冬の到来を予感させる。
 心許無い、ということをこんなにも直接的に感じるとは……
 人里離れた山小屋の外には高い木々が生い茂り、風に乗って落ち葉が舞っていた。
 言いようもない不安が心を埋め尽くす。
 ふと横を見ると、女王様はこちらを見つめ、静かな笑みを零していた。
 ……独りになるのが怖い……
 こんなに不安な気持ちになったことはなかった。
 僕は女王様の奴隷として一生を生きていくと心に誓った。どれだけ虐げられても、どれだけ罵倒されても、どれだけ苦痛を与えられても……
 ――それは、僕自身が心から望んでいるもの――
 そう。いつだって、あの方は僕の横にいてくれた。それなら、今のこの『解放』は?
 これがお仕置きなのだろうか。僕は放置されてしまうのだろうか。ひょっとしたらこのまま見捨てられてしまうのだろうか……
 考えるほど、僕の不安はどんどんと膨らんでいく。身体を小さく縮こめてしまう。孤独という名の恐怖と羞恥心が同時に僕を襲い、眩暈で倒れてしまいそうになる。
 立ち尽くしたまま動けないでいる僕の後ろから声が飛んできた。
「行きなさい。」
 僕に下された、女王様からの残酷な命令。

 ――僕……ひとりで?

 僕はこれから、一人だけで歩む日が来るのだろうか?
 一度芽生えた不安は、少しずつその大きさを増していく。
 女王様は、綺麗な笑顔を僕に向けている。夕日の赤が、その美しい顔に映えた。
「ほら、行きなさい。」
 再び命令が下される。
 僕は全裸のまま、コテージから一歩を踏み出した。

 心に喰い込んだ、小さな棘を抱えたままで……



END

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 僕は女王様にされるがままに、その身を委ねた。自分の放つ恍惚の表情が手に取るように分かる。
 女王様はいくつもの針を僕の身体中に突き刺していく。腕、脇腹、腰、そして乳首。身体中が注射針によって彩られていった。
 皮膚が破られる痛みと恐怖に僕は声を出すことすらできない。それを見た彼女はまた嬉しそうに僕の身体中を舐めるように見回すのだった。
 女王様の指先が全身を撫でるたび、僕は大きく反応する。
 肌に触れるか触れないかの境目で、僕の身体中を細い指先が滑っていく。
 僕はもう、女王様なしでは生きていけない身体になってしまっているのだ。あらためてそれを自覚する。
 苦痛と快楽が交錯する中、僕は女王様から目を離すことができなくなっていた。小刻みに震えながら、ただ彼女の次の言葉を待つのみなのだ。
「まだまだ刺せる場所はたくさんあるね。」
 鼻で笑いながら言った女王様のその言葉に、僕は目の前が真っ暗になった。まだこの恐怖が続くのかと思うと、膝がガクガクと震えた。僕は怯え、女王様を見上げる。
「痛いの?……怖いの?……それなら抜いてあげようかな。」
 思いがけない温情の言葉に、僕はみっともないほど慌てて何度も頷いた。
「そう。じゃあ……覚悟はいいね。」
 女王様はくすくすと笑い、手を伸ばした。それを目にした僕は、驚愕のあまりさらに大きく震えた。その手に握られていたのは、鞭であった。
 女王様は躊躇なく、僕の身体に何度も鞭を振るった。その鞭は、時に肌を打ち、時に針を打った。鞭に払われた針が、足元へと散乱していく。打たれる痛みよりも、針が折れてしまうのではないかという恐怖の方が大きかった。
 血が滲んでくる。所々に痣ができていく。僕は恐怖し、彼女は笑う。ただ、僕の下半身はその間も、漲ったままだった。


 やがて僕を繋いでいた手枷と足枷が外された。もちろんそれは、僕の解放を意味するものではない。新たな命令への移行なのだ。
 ――本当に?
 少し心に引っかかるものを感じる。これがもし解放を意味するものであったなら……それは僕にとっての自由?……それとも……恐怖?
 僕は脳裏を過ったわずかな引っかかりをふり払うように、頭を乱暴に横に振った。
 女王様は、鞭で払いきれなかった残りの針を抜いてくれている。
 女王様の指示に従うこと。女王様の意向に沿うこと。女王様の側で生きること。僕の生きる意味は、もう既に決まっているのだ。

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「ぐ……あああぁ……ああぁ……」
 黒いピンヒールの先が、僕の足の甲を突き刺す。じわじわと、幾箇所にわたって女王様のヒールの先は僕の足を痛めつけた。
「いい声ね。もっともっと……聞かせて……。その苦しみの声を……」
 女王様が踏みつける度に僕の絶叫がコテージ内を覆い尽くす。彼女はそうしてしばらく僕を弄んだ後、さらに拳で僕の腹を殴った。一発……二発……三発……
「ぐうおえっ……。ごうっ……。がはあっ……うぶぅ……。」
 女王様の拳は深く僕の腹にめり込む。内臓を圧迫される感覚。僕は嘔吐し、地獄に蠢く亡者のような呻き声を上げる。
 瞳はじっと僕を見つめたまま、僕の肩に手を乗せる。さらに女王様は、膝を大きく後ろに引いた。
「ぐはああっ!……おえっ……。ごほっ……」
 彼女の膝が僕の内臓を抉る。それは僕にとって、苦痛でもあり、快楽でもある。
 苦しい……。身体はこんなにも悲鳴を上げているのに、僕そのものがそれを貪欲に求めている。
 ――もっと……もっと……もっと……
 僕はとうとう胃の内容物を床にぶちまけた。女王様は汚物が床に広がるのを見ながら微笑を浮かべていた。
「汚い子だね。こんなに汚しちゃって……お仕置きだよ……」

 ――!!――

 お仕置きという言葉に僕は大きく反応する。
 ぐったりと身体を前のめりにしたまま、僕は小刻みに震える身体を抑えることができなかった。
「ご……ごめんなさい……僕……」
 女王様は僕に付けた首輪のリードを片手でぐいと引き寄せる。反対の手に握られていたのは、一本の注射針だった。
 背筋が凍りつく感覚を覚える。女王様がゆっくりと僕の太腿に針の先を近づける。今まさに皮膚を突き破られる、その恐怖が僕を縛り付け、身体が硬直する。
「ぐ……うぅ……」
 恐怖と痛みを堪える。そんな僕を見ながら女王様はくすくすと笑い、その針の先端部を指先で弄ぶ。
「震えてるね。怖いの? もっともっとあげるわね。」
 悪戯っぽく僕に声をかける。当然僕には抵抗したり逆らったりする権利は与えられていない。
 必死で恐怖に耐える。しかし反面、僕のモノはやはり大きく膨れ上がっていた。それこそが、女王様に与えられる苦痛と恐怖が僕にとって最高の快楽であることの証だった。

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 空気を切り裂くような音が、コテージ全体に響き渡る。
 全裸の身体に赤い亀裂が入り、僕は悶絶する。それは僕にとってこの上ない快感だ。
 女王様は優しく、そして厳しく僕の身体を何度も鞭で打ち据えた。
 ボンテージと黒の網タイツ。黒手袋にピンヒールを身に纏った女王様はとてもセクシーで煌びやかだ。
 紅いラインの引かれた唇の艶かしさが、僕の心をしっかりと釘付けにする。
 僕はその姿に見惚れながら、全身を揺さぶるほどの衝撃に耐え続けていた。
 手枷と足枷が肌に喰い込む。磔台に固定された僕は身動き一つとることができない。
 一発、また一発と打たれる度に僕は苦痛に耐え、同時に快楽をも得る。そして、また次の一発を乞うように待つ。
「この雄豚が。これが気持ちいいんだろ、ほら。」
 僕は「はい」とだけ答え、なおも与えられる鞭をこの身で受ける。肌は徐々に裂け、そこから血が滲んでくる。それを見て彼女は感嘆の声を漏らす。
 僕は愉悦に浸る。全身からはどんどんと力が抜けていく。
 女王様の鞭の嵐は止むことなく僕に襲いかかるのだ。
 ぐったりと身体を前のめりにした僕の側に彼女が来る。僕の顔を嬉しそうに覗き込む。
 下目遣いに僕を見下ろす女王様に圧倒され、僕は思わず俯く。しかしすぐに指先で顎を持ち上げられ、再びじっと瞳を覗き込まれる。
 女王様の美しい瞳を目の前にし、僕はうつろな視線を弱々しく返す他はなかった。
 ぼんやりとかすむ目で見上げた女王様の口元には、妖艶な笑みが零れていた。

 ――これは肉体と魂の一致なのか、それとも乖離なのか……

 僕はもう自分が何なのか分からなくなってきていた。彼女の瞳は、僕から思考力も判断力も、理性すらも失わせてしまっているのだ。
 女王様はそんな僕の心の中まで見透かすかのように、瞳の奥を静かに見つめ続けていた。僕はもはや、その強くて優しい瞳の虜になってしまっていた。
 全てを女王様の意志に委ねる。
 完全に彼女に骨抜きにされた僕の精神や肉体は、僕にありのままの姿を曝け出させていた。

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趣向を変えて、ちょっとコメディタッチの作品です。
基本的にryonazが好き勝手な作品を書いているサイトです。たまにはこんな作品もありかなと。
実は私の幼馴染に、今回の主人公と同じくらい前向きな男性がおりまして。
愛すべき人物なのですが、彼のことを思い出すと、とても書きやすかったですね(笑)
ちなみに、お気付きだとは思いますが、今回の作品に登場するテレビアニメの名称は故意に変えてあります。
お察しください。脳内変換していただければと思います。

この半年とちょっとの間に、一日に来訪してくださる方々が増えました。
Black Onyx [ブラックオニキス]も、サイトとして少しは成長してきたのではないかなと、嬉しく思っております。
読者の皆様や、相互リンクいただいている各サイト様のお陰です。本当に、ありがとうございます。
まだまだ作品を制作していきたい。そんな思いから、あらためて気合いを入れなおしています。
今後もどうぞ、よろしくお願いいたします。

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 しばらくすると、家内がやってきた。
 彼女は娘が私の腹で跳びはねているのを見ると、「それくらいでお父様が満足されるわけないでしょう。」と、足で私の脇腹や太腿、時には顔面を蹴り上げた。
 さすが私の家内だと、あらためて言わねばならない。常に私のことを第一に考えてくれている。
 娘はその言葉を聞くと、さらに体重をかけたジャンプを私の腹へと見舞った。さっきより強烈な苦し……心地よさが私を包む。
「ぐふうっ! う……はぁ、は……がはあっ!」
 ついつい声が漏れ、口からは泡を吹いてしまう。
 家内の蹴りもまた壮絶だった。特に頭を蹴り上げられたときのあの苦……快感は何とも言い難い。目の前が真っ白になり、ぼうっと何も考えられなくなるのだ。おかげで、今日一日の仕事のストレスや疲れは全て吹き飛んでしまう。次のプロジェクトの発想も、きっとこれで閃いてくるに違いないのだ。こんな時、私はつくづく感謝の念を強くする。
「ぐえっ! うぅ……がはああっ! ごふぅ!……」
 私は何度も声を上げて心地よさを表現した。お分かりだろうか。決して無駄な言葉はいらない。亭主関白の基本は、『言葉数はできるだけ少なく』なのだ。
 妻子は、私の疲れた身体をほぐそうと一生懸命になってくれている。こう見えて私は涙もろいのだ。しかし父親たるもの、こんなところで女々しく泣くわけにはいかない。
「き……気持ちいいぞ。」
 それだけを告げると、家内と娘のマッサージを十分に受ける。
 我が家が実に円満な家庭だということがご理解いただけるだろうか。父親不在や、下手をすればいてもいなくても同じように扱われる家庭。同情する。私のように妻子とのコミュニケーションがしっかり取れていれば、そんなことにはならないであろうに。娘の思いやりも育つ。家内の心遣いもこうして目に見えて分かる。そのためには父親は、しっかりと私のように威厳を保ち続けることが肝要なのだ。これも私の努力の勲章と呼べるものだ。
「ぐうっ……うぅ……がはっ!」
 しばらくして、妻子のマッサージが終わった。二人とも満足そうな面持ちで私を見ていた。私は苦し……気持ちよさから、しばらくぐったりと身体を動かすことができなくなっていた。それを見て二人はくすくすと声を出して笑うのだった。
 誤解しないでほしい。ただ単に優しい妻子に恵まれただけではない。私が家長としてこの家を支えているから、このような素晴らしい家庭を築けたのだ。

 我が家はこれからも安泰だ。世の父親諸君、これからも精進せよ。



END

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 風呂上がり。
 私はリビングのソファで、ビールを飲んでいた。
「お父さん。マッサージしてあげるね。」
 聞いたか、世の父親諸君。君たちの娘にはこんな気遣いなど到底できまい。私は感涙を堪える。そしてもちろん、表面ではいつもと変わらぬ素振りで応えるのだ。
「頼む。」
 娘は跳び上がって喜んだ。本当に可愛い娘だ。
 私がソファから降り、床のカーペットにうつ伏せになると、娘は勢いよく跳び上がった。ドンという音とともに私の背中を激しい衝撃が襲う。娘は両足で私の背中に乗り、全体重をかけて私の身体を踏み付け続けるのだ。
 先ほどの傷跡も相俟って、背中の痛みと内臓を圧迫される感じが同時に私を襲う。
「うぐ……うぅ……」
 決して苦痛の呻き声ではない。声が出るほど気持ちがいいのだ。だからつい声が漏れる。決して痛いわけではない。苦しいわけではない。娘の愛情が嬉しくて仕方がないのだ。
「お父さん、気持ちいい? もっと思いっきりやってあげるね。」
 娘はさらに大きく跳び上がり、私の背中に何度も跳び下りる。娘はくすくすとまた声を上げて笑っていた。きっと私が喜んでいるのが嬉しいのだろう。
「あ……あぁ……ぐうっ!……あ、いや、ぐあっ……」
「どうしたの? 気持ちいいでしょ? ね? 気持ちいいもんねー。」
「あぐ……も……もちろんだはっ!……気持ちいぐふっ!」
「よかった。お父さんが気持ちよくなかったら、もうやらないでおこうかなって……」
 そう言って娘は潤んだ瞳で私を見る。娘は私に期待しているのだ。これほど私に思いやりをもって接してくれる娘の期待を裏切ることなど、絶対にできない。
「じゃあ、お父さん今度は、仰向けね。」
 身体を押され、上を向かされる。ふと見ると、娘がソファの上でじっと私を見下ろしていた。そして次の瞬間、私の腹目掛けて思いきり跳んできた。
「ぐぅ……うぅ……」
 苦し……気持ちいい。うん。とても気持ちがいい。腹に跳び乗ることに果たしてマッサージ効果があるのかどうか、そんなことは大した問題ではないのだ。ここは素直に娘の行為に甘えることが、一番効果的な教育でありコミュニケーションであるという、そのことこそが大切なのだ。
 見ろ。娘はその後何度もソファに乗っては、私の腹に跳び乗ってくる。何度も何度もだ。
「痛いの? 苦しいの? まだまだ平気だよね。」
 その間中、娘から笑顔が消えることはなかった。父親の喜びを自分の喜びのように感じることのできる思いやりのある娘だ。
 これならどこへ嫁に出しても恥ずかしくない。

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 湯の良い香りが風呂場から零れてくる。
 世の中には、体臭が臭いとか垢がたまって汚いなどと言って、父親を一番最後に風呂に入れる家があると聞く。世の親父たちはここまで威厳が落ちてしまったのかと、悲しみを通り越して呆れる。
 父親は一番風呂が鉄則だ。
 もちろん我が家は、私が一番先に風呂に入ることになっている。仕事帰りが遅くなってもそれはけじめとしてきちんと守らせている。この姿勢を少しは見習ってほしいものだ。
 湯に入って大きく息を吐く。全身から疲れが取れていくようだ。間もなく娘がやってくるだろう。あの歳になっても父親と一緒に風呂に入りたがる。まだまだ子どもだ。

 しばらくすると娘が浴室へと入ってきた。学生服を着たまま、そっと浴槽の脇に膝立ちする。しゃがみこんだ際に、白いレースの下着が見える。そこは気付かないふりをしてやるのが、父としての礼儀だろう。
「お父さん。背中流してあげる。」
 この言葉を聞いただろうか。こんなに良い娘が世界中探したっているものか。私はいつもこの言葉に感動する。しかし、もちろんそれを表情に出してはいけない。あくまで面の皮を厚くしていることが大切なのだ。
「うむ。」
 娘は嬉しそうに、掌にボディソープを泡立てていく。そして、爪で私の全身を掻き毟るのだ。
「ぐ……ぐむ……」
 痛い……わけがない。娘が精一杯私を綺麗にしようと努力しているのだ。みるみるうちに背中がヒリヒリと痛み出し、どうやら所々から血が滲んできているようだ。本当に一生懸命に背中を流している。
 私はそんな娘の姿が愛おしくて仕方がない。
 見ろ。娘は楽しそうにくすくすと声まで上げている。こんなに素晴らしい親子愛は、見たことがあるまい。
 娘は「あはは」と声を上げながらなおも私の背中、腕、太腿、足、至る所に爪を立てていく。そして、最後には熱湯を私にかけるのだ。
「ぐ……ああぁ……」
 つい、痛み……もとい、気持ちよさと感動で声が漏れる。
「あはは。お父さん、熱くないの? すごいな。血まで出して。ふふふ……」
 痛い……痛すぎ……るわけがない。愛情をもって娘が流してくれた背中だ。痛くなどない。娘は本当に父親思いの良い子だ。
 そこへ家内も入ってくる。
「あら。今日はあまり力を入れなかったのね。あなた、仕上げは私がしますわ。」
 家内もまた立派な人間だ。わざわざたわしを持ってきて、私の傷跡だらけの背中を再度、入念に泡立てたソープで擦ってくれる。それからまた熱湯で私の背中を流すのだ。江戸っ子はやはり熱い湯に限る。家内も娘もそれをよく理解しているのだ。よくできた妻子に恵まれて、私は本当に幸せだ。
 ヒリヒリする背中などお構いなしに、私は浴槽に浸かる。「世話になった。」とだけ言うと、私はまた浴槽で一息ついた。

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 今日は仕事が早く片付いたので、五時半頃には帰宅することができた。
 念のために言っておくが、私は会社でもそれなりの立場にある。他の社員からも一目置かれる存在である。直接誰かがそんなことを言ってくるわけではないのだが、周りの雰囲気を見ればよく分かる。今日は顎と肘に少し傷をつけて帰宅した。その理由はあえてここで言う必要はあるまい。
 リビングには、さっき帰ったばかりらしい娘の姿があった。
 肩の下まで伸びたしなやかな栗色の髪。もちろん染めさせてはいない。娘の話によれば、身嗜みに使ったドライヤーのせいで茶色がかってしまったらしい。身嗜みであれば致し方ない。整った顔立ちが日に日に大人びてきており、言い寄ってくる悪い虫がいないか心配だ。女の子にしては背が高めで、身体つきも成熟してきている。順調な発育が、父親にとっては何より嬉しいことだ。
 娘は制服のままでソファに寝そべり、テレビを見ていた。娘は帰宅した私を見ると、素早く私の前まで走ってきて、唐突に腹に拳を捻じ込んだ。
「うぐっ……」
 息が詰まる。娘は微笑を浮かべながら、苦しむ私の顔を見て楽しんでいるようだった。
 最近では娘が父親を毛嫌いするケースもあると聞く。全く嘆かわしい。私は娘とこのように、ちゃんとしたコミュニケーションが取れているというのに。
 腹を抱えて跪き、胃から込み上げてくる酸っぱいものを堪えながら私は笑顔を向ける。
「おかえり、お父さん。今日も遊んでくれるんでしょ?」
 容赦のない蹴りが顔に、胸に、腹に、足にと次々に飛んでくる。私はそれに耐えることで、娘との交流を楽しむのだ。ここが父親の強さの見せ所だ。私は何度も娘から打撃を与えられた。娘も手加減など一切することなく、本気で私を責める。『父と娘の本音のぶつかり合い。』……うむ。実に素晴らしいことではないか。
 私の全身には次第に痣ができていった。強烈な蹴りの嵐に、私はとうとう倒されてしまった。息を切らしながら私と娘は見つめ合う。父子愛とはこういうものなのだ。
「相変わらずお父さんは打たれ強いね。本当……倒し甲斐があるよ。」
 娘はそう言って私を見つめると、唇を弓なりに曲げて微笑む。
「いつでも遊んでやるぞ。」
 娘との会話は私にとっても楽しい。日頃から亭主関白を通している私の家では、娘もこのように健全に育っている。やはり誇るべきは亭主関白だ。

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「あなた。お茶が入りました。」
 これだけでも、よく行き届いた家内だと分かるはずだ。
 十歳も離れているため、彼女はまだ若い。セミロングの艶やかな黒髪に切れ長の瞳。しとやかな雰囲気を併せもつ上品な女だ。その気品のある振舞いは、私の家内であれば当然だ。私は彼女への教育も疎かにはしない。気高く、歳相応の色気を兼ね備えている。
 家内は丁寧に入れた茶を盆に乗せて、私の前まで持ってくる。テーブルの上に盆を置き、そっと茶に手を添える。そして、その茶を私の顔目掛けて勢いよくかけるのだ。
「ぶはっ! あづ……う……うむ。」
 いつもここで声を上げてしまうのは私の悪い癖だ。一日の始まりを告げる大切な一場面。そこで亭主が取り乱すようなことをしてしまうなど、愚の骨頂だ。私は反省した。こうやってしっかりと自分自身の行動を反省できる器の大きさも、しっかりと見せておかなければならない。
 家内はそんな私の姿を微笑ましく見ていた。やはり家内には私の心意気がしっかりと伝わっているのだと、あらためて確信する。
 それにしても、今日のお茶の熱さは格別だった。おかげで今日はいつもより寝覚めが早かったように思う。家内の気遣いが身に染みる。
「おかげで目が覚めた。」
 礼を言うが早いか、家内は間髪入れずに私に往復ビンタをし、加えて私の頭を床に押し付けると、足でグリグリと踏み躙った。顔面が強く圧迫され、鼻血が噴き出す。それを見て彼女はまた笑みを零す。
「うぐ……う……」
 床に顔を擦りつけたまま、腰を突き上げるような体勢になる。しかし私は寡黙な大人物だ。ここでは余計な言葉はいらない。家内の行動をそのまま受け入れていればよいのだ。この家内の立派な気遣いを、私はしっかりと理解しているのだから。
 世の亭主諸君には分からないであろう。つまり、お茶だけでも十分さっぱりとした寝覚めであったというのに、彼女はさらに私を念入りに起こそうとしてくれているのだ。ここまでできる家内は、日本中探してもなかなかいまい。
 その心遣いにあらためて感謝する。
 勘違いしては困るが、感謝をするということは決して亭主関白の崩壊を意味するものではない。むしろ、真心をもって相手を思いやることができる大人物だということを、相手に知らせる行為なのだ。もちろん、それが女々しく、くどい感謝の言葉の羅列では到底役に立たない。
 私は「うむ。」とだけ言うと、鼻血を出しながら腕を組んで優雅に起き上がる。『言葉数はできるだけ少なく』……これが、亭主関白の基本なのだ。
 私は家内の足の裏から解放されると同時に、今日一日のやる気が湧いてくるのを感じた。

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 私には家内と一人の娘がいる。
 我が家はまさに男尊女卑を絵に描いたような家庭だ。家内には厳しく、娘の躾に関しても抜かりがない。
 いや、昔はそれが当たり前だったはずなのだ。時代の移り変わりとともに家庭における夫の地位は格段に下がってきている。
 アニメの世界をよく見てみれば、その変化に気付きやすいのではないだろうか。
 日本でお馴染みのアニメをいくつか挙げてみる。
 まず「ササ江さん」では、大黒柱である亭主を中心に家族が成り立っている。子どもは父を尊敬し、頼りにし、時には恐怖する。その妻は陰で夫をしっかりとたてている。これこそが日本家庭の鏡なのだ。
 しかし時代が進むにつれて、その当たり前の相関図にひびが入り始める。
 その後放映され始めた「ちびめる子ちゃん」では夫の地位がぐっと下がり、妻が夫を監視する、あるいは夫の面倒を見るというような関係に変わっている。夫が尻に敷かれる日本の崩れたダメ家庭ぶりがよく表されているのだ。当然その子供が父親を尊敬することなどない。
 さらに後に放映される「クレパスきんちゃん」などは論外だ。ここでは既に父親のみならず、母親にも全く威厳がなくなっている。今度は子供の地位が向上し、親を尊敬するどころか馬鹿にするような口ぶりで軽々しく話すのだ。子供は親を呼び捨てにし、親は子供を躾けることすらできない。全く嘆かわしいことこの上ない。
 ここまで見るだけでも分かるように、日本家庭は今や崩壊の危機に瀕していると言っても過言ではないのだ。私としては、このような時代の愚かしい変化を当然認めるわけにはいかない。
 大体、最近の親は全くなっていないのだ。
 一体いつから日本はこんなくだらない国になってしまったのか。
 男女雇用機会均等法を初め、日本では女性の地位の向上に向けた動きが出て来ている。
 最近では「男女平等主義」だとか「夫が妻の尻に敷かれているのは夫婦円満の証拠だ」とかいう、かくも情けない論評が世間に浸透してきている。新聞を見てみれば、世論調査で「夫は仕事、妻は家庭」に反対する人は半数を超えたそうではないか。全く馬鹿馬鹿しい限りだ。
 第一、当の最近の父親というものが情けないのだ。弱々しく、威厳の一つも保てない。何かあれば妻の言いなり。
 こんな世の中にしてしまったのは、世の軟弱な父親どもではなかろうか。
 ……まあ、こんな愚痴をいつまでも言っていても仕方がない。
 とにかく、世の家庭をお持ちの方々はぜひ、我が家を模範として勉強された方がいいだろう。
 ――亭主関白――
 これが日本家庭の理想像であることは、分かりきっていることなのだから。

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