Black Onyx [ブラックオニキス];2007/ 05の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2007年 05月 に掲載した記事を表示しています。
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 外はもうすっかり暗くなってきていた。赤々とした光を零していた窓からはすでに光は入ってこない。
 窓から見える暗闇が、豆電球のみで照らされたこのおぞましい空間を引き立てているようであった。
「お前…今すぐ亮平を解放しろ。」
 ドスの効いた作り声を振り絞る。状況は圧倒的に俺の方が不利であることは百も承知だ。
 しかし、断片的にでも記憶を取り戻した俺にとって、今や守るべきものの存在は明白だった。
 そして何より、この得体の知れない女に対する憎悪は、これまで味わったこともないほどの激しい怒りとなって俺を包み込んでいた。
「その調子だと、まだ完全には思い出してないみたいね。」
 女はそんな俺の肩を透かすように、冷静な声でそう呟く。
「何が目的なんだ。俺たちを一体…どうするつもりなんだ!」
「そうねぇ…」
 再び笑みを浮かべた女は亮平の方に向き直り、身体中を舐めるように見回した。
 怯える亮平の様子が遠目にも手に取るように分かる。
 女はふいに亮平から目を逸らすと、部屋の隅へと歩き始めた。そしてフックに吊り下げられているジャックナイフを手に取る。
 まさか…まさか…
 女は躊躇無くそのナイフを亮平の肩に突き刺した。亮平の絶叫が部屋中に響き渡る。
「ふふ…痛いね…。雪乃の痛み…百倍にして返してあげるから…」
 なおも女はナイフで亮平の身体中を浅く、何箇所も切り刻んでいく。その度に亮平は断末魔の声をあげ続けた。
「亮平!亮平ー!!」
 友を助けようと必死でもがいてみるが、きつく縛られている縄は俺に身動きをさせてはくれない。

 …こ…こいつは…悪魔だ…

 俺の中には少しずつこの女に対する恐怖心が芽生え始めていた。しかしその反面、俺の中にはもう一人冷静な別の自分が存在していた。俺は、まだ心のどこかに何か引っかかるものを感じていたのだ。
 雪乃…雪乃…。まだ記憶がはっきりしない。心の中のモヤモヤしたものがもどかしい。
 俺は亮平が無惨に痛めつけられる姿を見ると同時に、自分の記憶とも格闘していた。
 亮平の姿は、もはや死人のようであった。身体中の力はすっかり抜け、チェーンに縛り付けられたままだらりと体をそこにぶらさげている。
 俺はこんな状況下で何もできないでいる自分を心底不甲斐なく感じていた。
 ふいに、彼女はチェーンと亮平とを縛り付けている縄をナイフで掻き斬った。そして、崩れ落ちる亮平の鳩尾に膝蹴りを思いきり突き刺した。
 下から突き上げる角度で強烈に決まった蹴りに、亮平は腹の底から込み上げる嘔吐を抑えきることができなかったようであった。亮平の口を塞いでいたガムテープは、とうとう亮平が吐き出した血の混じった吐瀉物によって勢いよくはがれた。
 口から血を大量に垂れ流しながら、亮平は腹を抱えて地面を転げまわった。

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「…なぁ一輝。お前…あいつのこと…どう思う?」
 …
 誰だ…
 …
「俺な、明日…告白しようと思ってるんだ。」
 …お前は…

「あたしたちはいつでも四人一緒。仲良し四人グループだもんねー。」
「古臭えなそれ。もう少しまともな名前考えられないもんかね。」
「何よー。一輝のいじわるー。」
「こらこら雪乃。あんまり膨れっ面してるとそんな顔になっちゃうぞ。」
 …雪乃…雪乃?…

 …
「一輝…。実はね。雪乃…あなたのこと…」
 …この女は…さっきの…

「畜生!…畜生ー!!…あんなやつ…あんなやつ…」
 …落ち着け、亮平。…そうだ、こいつの名前は…亮平だ。
「あの女…殺してやる…俺がこの手で殺してやるからよ…」

 …
 待て…早まっちゃいけない!…落ち着くんだ、亮平!

 …
「どうして?…ねぇ…どうしてこんなことするの?亮平くん…」
「雪乃…俺はお前を…お前のことを…」
 …


「うわああああああ!!」
 気付くと俺は再び大きな叫び声を上げていた。気絶している間に、どうやら夢を見ていたらしい。
「…雪乃…。」
 うわ言のように言葉が俺の口をついて出る。女は俺の言葉に反応して答える。
「ふふ…ずいぶんと思い出してきたみたいね。」
「亮平!亮平!!」
 俺はその言葉を無視するかのように男に呼びかけた。
 男はそんな俺の姿を見て、安心とも不安ともつかぬ表情を浮かべていた。
「お前…一体誰なんだ。亮平にこんなことして…ただで済むと思うなよ…」
 啖呵を切る。不完全ではあるが、俺の記憶は少しだけ蘇ってきていた。今、目の前で暴行を加えられている男は亮平。紛れもない、俺の親友の亮平であった。

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 部屋の壁には様々な拷問用と思われる道具が一式揃えられている。
 女はその中にある金属バットを手にすると、真っ直ぐに男を見据えた。男は既に怖気づき、ただただ身を捩って身体全体を震わせている。
「ねぇ、これ…。分かるでしょ?」
 男の目の色が変わる。それを見た男の表情は先ほどとは全く違っていた。
 虚ろな目…まるで全身から生気を抜かれてしまった者をそのまま絵に描いたような姿であった。
 バットという凶器に対する恐怖心ではない。それは傍目から見ても明らかだった。
 何かの影に怯え、許しを乞うような…俺の目にはそんな風に男の姿が映っていた。
 女はそのバットで男の身体中を力いっぱい殴りつける。
 …やめろ…やめろ…
 俺の声はまともな声にならない。男にも既に抵抗する意志は残っていないようだった。
 殴られるままに男の身体は揺れ、また元の位置に戻る。まさに人間サンドバッグの状態だ。
 みるみるうちに痣が身体中に広がる。しかし女はその手を止めようとはしなかった。

「やめろ!やめてくれ!それ以上やったら、そいつ…死んでしまうぞ!」
 精一杯の声を振り絞って叫んだ。男への同情でもない。女を犯罪者にしたくないという思いでもない。
 人が一人、目の前で殺されるということに、何故か俺は強烈な嫌悪感を抱いていたのだ。
 俺の言葉を聞いた女はやっとその手を止める。
「へぇ…まだしゃべれたんだね。…ふふ…そうだよね。もう人が死ぬのは…嫌だよね。」
 女はぞっとするほど冷たい表情で俺をじっと見つめた。
「私だって…本当は見たくないんだよ。」
 俺にはこの女の言っている意味が全く分からなかった。
 もう人が死ぬのは?…もう?…本当は見たくない?
 俺の頭はさらに混乱した。
 どういうことなんだ。一体俺の身に何があったと言うんだ。教えてくれ!教えてくれ!
 女は突然俺の方を向き直ると、胸につけたペンダントを俺の目の前に突き付けた。
 恐ろしいまでのきつく、責めたてるような声で俺に叫ぶ。
「このペンダントを前にもう一度その言葉、言ってみな。」
 俺はさっきのそのペンダントを見た瞬間のことを思い出した。
 きっとこれには何かがある…。俺の記憶と密接にリンクしている。直感的にそう感じていた。
 ペンダントをじっと見つめる。思い出せ…思い出すんだ…。
 俺は自分の記憶を探るようにそのペンダントを見つめ続けた。
 その瞬間だった。女の素早いハイキックが目の前をかすめた。
 身体中を痛めつけられていた俺に、それをかわす力など到底残っていなかった。
 為す術もないまま延髄に強烈な痛みを感じ、俺はそのまま気を失った。

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 …
「どうして?…ねぇ…どうしてこんなことするの?」
 …
「俺な、明日…告白しようと思ってるんだ。」
 …
「あの女…殺してやる…俺がこの手で殺してやるからよ…」


 ……!!!……

「うわああああ!!」
 思わず叫び声を上げていた。
 …何だ?…今のは…
「ふふ…少しは思い出した?」
 俺の頭はますます混乱していた。先ほどから続く頭痛が一層激しく俺を襲う。
 走馬灯のように頭を駆け巡る断片的な記憶だったとでも言うのだろうか。
「このペンダントね。あの子がとっても大切にしてたものだったんだよ。」
 そう言うと女は俺の腹に拳を突き刺した。
「うっ!」
 突然の不意打ちに、俺は思わず椅子の上で身体をくの字に曲げる。
「こんなものじゃ済まされないからね。あの子の痛み…あなたたちにも味わわせてあげる。」

 俺には依然として分からないことが多すぎた。先ほどの走馬灯も相俟って、俺はますます自分が分からなくなっていた。
『あなたには…まだまだ思い出してもらわなきゃいけないことがある…』
 さっきの女の言葉が引っかかる。その通りだな…。俺にはまだ、確かに思い出すべきことがある。
 吊るされた男は、さらに恐怖の表情を顕にし、怯える小動物のように小刻みに身体を震わせていた。
 あいつも…今回の件と何か関係しているのだろう…。聞きたいことは…まだたくさんある。
 俺は身動きが取れないまま、為す術なく目の前の女に殴り続けられる。
 顔、胸、腹、睾丸…。あらゆる部位を責められ、俺は苦痛に顔を歪めた。
 俺は…何をしたんだ?…ここまで痛めつけられなければならないことを…俺がしたのか…
 女のアッパーカットが俺の顎にジャストミートし、俺は座ったままの姿勢で崩れた。
 不敵な笑みを浮かべながら彼女は踵を返し、再び男の元へ向かうのだった。

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「あっははは!面白いこと言うじゃない。あんた馬鹿でしょ。その格好、案外似合ってるよ。」
 女は、さも可笑しそうに俺の姿を見て大声で笑った。
 俺は虚をつかれ、一瞬言葉を失った。
 こいつが…こいつが俺をこんな目に?…一体何のために?
 口調からしてどうやらあいつは俺のことを知っているらしい。でも…くそっ、どうして思い出せないんだ?…俺の方は?…俺はあいつのことを知っているのか?…いや…俺はあいつのことなど知らない…知らないはずだ。
 男が必死で俺に何かを訴えかけている。もちろんガムテープ越しで何を言っているのかは聞き取れない。
 …もしかしてあの男のことも?俺は…誰なんだ?俺は…何か重要なことを忘れている…
「ほうら、見てごらん?こんなんなっちゃってるよー。」
 冷酷な笑みを浮かべながら女は手に持った鎖を男の首に巻きつけ、身体を背負うような形で再びその首を絞め上げていた。男は苦しみ悶え、口から噴き出した泡のようなものがテープの端から漏れる。
「ぐ…く…」
 俺には男に対する同情の念はなかった。しかし、目の前で見せつけられるこのあまりにも残酷な光景と、それを楽しむかのような女の態度が俺には許せなかったのだ。
 しかし俺自身もまた固定椅子に拘束されているため、身動きが取れない。
「や…やめろ!やめてくれえ!」
 俺は思わず叫んだ。その言葉を聞いた女はその手を止め、恐ろしいほどの冷たい声色で俺に言った。
「…その言葉…雪乃は何度あなたたちに言ったと思う?」
 …訳が分からなかった。俺はそんなこと言われた記憶は…第一俺にはそんなことする理由が…
「雪乃?…そんなやつは知らない。お前は…そしてその男は…一体誰なんだよ!」
 俺は心の中にずっと引っかかっていた言葉を声に出して訴えた。
 その俺の言葉に二人は困惑した様子を見せた。
「覚えてないなんて言わせないよ。記憶喪失だとでも言うつもり?」
 女は気丈な態度で俺に食ってかかる。しかしその女の態度とは裏腹に、そこで吊るされている男の態度はみるみる豹変した。身体は震え、その細い目からは大粒の涙が流れ始めた。
 俺は言葉を続けた。
「こんなことして…お前は何を企んでいるんだ。」
「ふふ…あなたに言われる筋合いはないよ。」
「どういうことだ?」
「あなた、本当に何も覚えてないのね…。何もかも忘れちゃったっていうのも…案外幸せなものかもね。」
 俺にはこの女の言わんとするところが全く理解できなかった。しかし…俺はこの女の言うことを一つも聞き逃してはいけない…。そんな気がしていた。
 それはひとえに…俺の記憶がなくなっているという事実に基くもの…。
 女はさっきまでの微笑混じりの笑みを抑え、極めて無表情になって俺に諭すように語りかけた。
「あなたには…まだまだ思い出してもらわなきゃいけないことがある…」

 気付けば窓から差し込む日の光が赤く染まっていた。おそらく夕刻になったのだろう。彼女のペンダントに反射した光が俺の目に差し込んでくる。
 その途端、俺は激しい頭痛に襲われた。
 こ…これは…ああああ…

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「こ…これは一体…どういうことだ…」
 かろうじて声を絞り出す。しかし女は俺の言葉には答えなかった。
 チェーンの先には、手首を頑丈に縛り付けられた男の姿があった。足は地面に付くか付かないかギリギリのところで固定され、口にはガムテープがしっかりと巻かれていた。
 …声を出すことは出来なそうだ。いや…それ以前に…
 男の身体は見るも無惨であり、まともな人間では直視できないほどの姿であった。
 身体中が傷つけられ、所々に大きな痣が目立つ。どこからともなく溢れ出したのであろう血が彼の全身を覆い、その一部は既に固まり始めていた。
 女は吊り下げられたまま無抵抗でいるその男の腹に、強烈な膝蹴りを見舞った。
「ぅぐ…」
 吐血したものと思われる血がガムテープ越しに滲み、男の呻く声が聞こえる。
 男の身体は突き上げられた衝撃で数十センチ宙に浮き、再びぐったりとしたもとの状態に戻る。
「な…何を…おい!…おい!!」
 その無惨な姿を見かねて俺は声を荒げて叫んだ。彼女はそんな俺に見向きもせず、さらに男を痛めつけ続ける。

 俺は必死でもがいた。あの見知らぬ男を助けようといったかっこいいものではない。
 ただ…今、目の前で起こっていることが俺には許せなかった。
 そして…俺の置かれているこの状況は一体何なのか、全てを確認したかったのだ。
 手足を死に物狂いで動かす。縛り付けられた縄を椅子に擦り合わせる。身体をバタバタと揺らして何とか抜け出そうとする。しかし、それは全て無駄な足掻きにしかなっていなかった。
 女は身に着けていた鎖を取り出すと男の首に巻きつけ、じわじわと絞め始めた。
「ぐ…」
「どう?苦しい?ふふ…簡単には殺さないからね…覚悟しな。」
 男の目は大きく見開かれ、顔はしだいに真っ赤に染まっていく。
 これは…これは何なんだ?…何故あいつが…そして何故俺が…こんな目に?…
 俺には何が何だか分からない。しかし女はそんな俺を尻目に男を責め続ける。
「ほら…こんなもんで死なれちゃ困るんだよ。」
 女が手の力を緩めると同時に男の荒い息遣いがテープ越しに聞こえる。
 男の目は虚ろであり、今にも白目を向きそうになっている。
 しかし彼女は再び鎖で男の首を絞め上げ、心なしか嬉しそうな笑みを浮かべている。
 こんなこと…こんなこと許されるわけがない…。
「やめろ!やめろ!!この犯罪者が!こんなことしてただで済むと思ってるのか!!」
 俺はたまらず、再び声を荒げた。意外にもその言葉を機に女はその手をぴたりと止めた。
 俺に後ろ姿を向けたまま肩を震わせる。
 …?…わ…笑って…いるのか?…この状況で…。何が…何が可笑しいんだ。
 同時に男の反応にも変化があった。何かを訴えるように、その虚ろな目を俺に向ける。
 どういうことだ?…これは一体…どういうことなんだ!

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 目が慣れてくるにつれて、部屋の様子が少しずつ分かるようになってきた。
 鉄筋コンクリートで全体を覆われた小さな部屋。所々に張り巡らされたロープのようなもの。磔台に拘束具…。
 SM関係の部屋?…いや…俺にそんな趣味はない…。一体…
 俺はさらに部屋全体をぐるりと見回す。部屋の隅にあるフックには小道具のようなものが吊り下げられていた。
 その道具を見た時、俺は一瞬息が詰まった。
 消毒液であろう液体の入った試験管の中に入れられた何種類もの針、今もなお生々しさを漂わせる血液のついたジャックナイフ、カッター、猟銃、桐、鎌…
 おどろおどろしい道具の数々にさすがの俺も一瞬目を逸らす。一体…ここは…
 不安な思いが募り、俺は少し弱気になってきていた。
 先ほど日の光でうっすらと照らされていたチェーンも、次第にその全体像を 映し出していった。

 …!!!…ぁ…あぁ!…

 俺は言葉を失った。
 天井から長く吊り下げられたチェーンのようなもの…その先にはあるものが繋がれていた。
 それは俺の恐怖心を最大限まで高めるには十分すぎるほどのものだったのである。

 その瞬間部屋の扉が開き、一人の女が入ってきた。
 薄暗いその部屋の中で、彼女のシルエットが映し出される。
 彼女がおもむろに壁際に手をやると、ぱっと豆電球が部屋全体を照らし出した。
 開かれていた瞳孔に差し込んだ急な光に耐え切れず、俺は目を閉じる。
 女はそんな俺の姿を見ると、落ち着いた声で語りかけた。
「あ、気付いたんだね。」
 少しずつ目を開く。彼女の口元にはうっすらと笑みが零れていた。
 女はストレートロングの髪をシニヨンにまとめ上げていた。身に纏ったドレスはすらっとした丈の短いもので、鮮やかな紺碧色であった。首にはルビーのついたペンダントをしている。その豪奢な姿は、この無機質な空間にはあまりに不釣合いだと感じた。
 彼女の肌は雪の如き白さを保ち、それが燃えるような唇の紅をさらに際立たせていた。
 まだ二十代前半といったところだろうか。身体中から強さと若々しさを滲ませる、精気溢れる女性のように見えた。
「お…お前は?…」
 女は俺の質問など意に介さぬ様子で俺からすぐに目を離すと、その視線をチェーンの先に繋がれたソレに向けた。俺も視線を彼女と同時にソレへと移す。
 …聞きたいことは山ほどある…しかし…
「ふふ、素敵な格好ね。これからどうしてほしい?」
 彼女が語りかけたのはチェーンの先に繋がれたソレへだった。
 その先にあるのは…さんざんに痛めつけられてぼろ屑と化した生身の人間の身体であった。

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 狭く薄暗い空間。言いようもない閉塞感。その全てが俺の恐怖心を煽る。
 相変わらず恐ろしいまでの静けさを保ったこの部屋の中で、俺は何をするでもなくただじっと時が過ぎるのを待っていた。
 怖い…これから俺は…どうなるんだろう…。もしかしたら…ずっとこのまま…。
 誰でもいい。誰かこの状況を説明してくれ。俺は、ここで何をどうすればいい?
 何がどうなってる?…俺は誰だ?…
 …
 考えていても…何も始まらないか…
 ひとしきり考えた後、俺は諦めの気持ちを強くする。
 俺は少しでも気持ちを落ち着かせようとした。身体を動かせはしないかと身を捩ってみる。
 がっちりと、完全と言っても過言ではない拘束感…。俺はすぐに無駄な力を使うことをやめた。
 何が何だかさっぱり分からないまま…ただ自分の置かれている立場を受け入れる…。
 どうして俺がこんな目に?…俺が一体、何をしたって言うんだ…
 この空間では、ネガティブな思いが際限なく俺の頭の中を巡る。
 為す術のない俺にとってここでこうしている時間はあまりにも長かった。その長い長い時間…俺はただじっと耐えるしかなかった。

 どれくらいの時間が過ぎただろうか。部屋の外からわずかではあるが物音が聞こえてきた。
 何かを動かす音…物が移動する音…。この音は…人間が活動する音だ…。
 俺は直感的にそう感じていた。
 今の俺にとってはそれだけで十分だった。そのことが不思議と俺に少しの勇気と気迫を取り戻させる。
 考えてみれば当然のことだ。自然にこんな状況が作られるわけがない。
 誰かが俺をこのような状態に追い込み、誰かが何かを目的に俺をここに閉じ込めていることは、火を見るよりも明白な事実だ。
 そう考えた時、初めて俺の中にある芯の部分が大きく高鳴りを見せたように思った。
 俺をこのような状態に追い詰めた者への憎悪という一つの形が、俺に再び人間としての理性を取り戻させたのだ。
 それは、自分が独りではないのだと気付いた時の感覚に似ていたのかもしれない。
 誰かを敵にすることで、自分が自分であることを再確認する。
 そんな意味合いが含まれていたのかもしれない。

 手荒い歓迎…受けてやるよ…。お前の姿をこの目でしっかりと拝んでやる。来るなら来い…
 俺はこの状況を作り出した未だ見ぬ悪の影の存在を、うっすらと頭に描いていた。
 これが何者かによる陰謀なのであればそれもまた一興。
 それに抗い得るだけの精神力を、自分がもち合わせていることだけには自信があった。
 ただ…今はこの状況を受け入れるしかない。相手がどう出てこようが…まずは受け入れるしかない。
 今の俺には、何が何だかまるっきり分からないのだから…

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 手首に喰い込んだ縄が痛かった。
 俺の身体をしっかりと拘束している仰々しい固定椅子は、俺に微動だに一つも許してはくれない。
 こじんまりとした薄暗い部屋。高みに一つだけある窓から、わずかながら漏れる日の光。
 無機質なその空間は、俺の精神を圧迫するには十分すぎるほど、おぞましい雰囲気を保っていた。
 …ここは…
 状況に途惑いながら俺は周囲を見回す。物音一つ聞こえてはこない。
 静まり返った部屋の中をじっと観察してみても、暗がりでほとんどの物の輪郭は見えてこない。
 監獄?…独房?…いや…そんな馬鹿な…。一体…何がどうなって…
 わずかに漏れてくる光の先にはうっすらと鉄のようなものが見える。
 それは天井から長く吊るされたチェーンのようであった。それが何を意味するものなのか、当然俺には分からなかった。
 それ以前に、俺にはもっと重要な何かが欠けていたのだ。
「…俺は一体…誰だ?…」
 思わず口をついて言葉が出る。
 そう…。今の俺の中には記憶というものが存在していなかった。
 分かっているのは…今、自分自身がこの暗い部屋の中でこうやって拘束されているというその事実だけ。
 どうして…こんなことに?
 俺は必死でもがいた。何とかこの縄を解いてこの空間から脱したい。
 その先に何が待っているのか、何が見えるのか、今の俺には全く検討がつかない。
 しかしそれでもなお、この状況を打開したいという思いが俺の中に強く残っていた。
 痛っ…
 手首だけではない。身体中に突き刺すような痛みが走る。
 よく見ると、俺の身体には至る所に生傷が浮かび上がっている。
 さっきから常に感じている後頭部の激痛…。
 俺がこうして記憶を失ってしまっていることと何か関係があるのだろうか。

 薄暗いこの空間の中では時間帯は全く分からない。一体俺はどれくらいの間、気を失っていたのだろう。
 ここで…一体何が行われているんだ?…
 …俺を…どうするつもりなんだ。誰がこんなことを…。何のために?…
 想像もつかないことにしばし思いを巡らす。もちろん、何も思い浮かんではこない。
 分からない…。全く、何も分からない…。
 これは悪い夢なのではないか…。そんな考えすら頭を過る。
 しかしそれもまた俺の中であっけなく否定される。
 俺を襲う身体中の痛みが、これが紛れもない真実であるということを肯定し続けているのだ。
 途方に暮れた俺は拘束されたままの姿勢に身を委ね、天井を見上げる。
「誰か、助けてくれ…誰か、教えてくれ!」
 俺は見えない相手に思いをぶつけるように叫んでいた。

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サイトを立ち上げてから約二ヶ月半。
おかげさまで、サイトのアクセス数5,000ヒットを達成しました。
これも、読者の方々に支えられてきた結果です。本当にありがとうございます。
今後とも、Black Onyx [ブラックオニキス]をどうぞよろしくお願いいたします。

つきましては、これを機に今後の作品の参考を兼ねてアンケートを実施したいと思います。
簡単なものなので、よろしければぜひご協力ください。(複数回答可


●アンケートは◆こちら◆(※投票停止しました。)

●旧アンケート結果(※投票停止)
5,000ヒット記念と称して、ショート小説を書いてみました。
作者が不意打ち「された」経験がもとです。
立場と視点を変えれば、こんな形もありなのかな、と。
謝罪の言葉ひとつなく去っていったあの方の顔は……、……もう忘れました(笑)

箸休めになれば幸いです。

●紗希のキャラ絵 →   

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 自分はMである。
 それだけであれば、日常生活には全くと言っていいほど支障はない。
 それは時として、ささいな出来事から一瞬にして発現する。

 日曜日の昼下がり。昼食の買い出しにコンビニにふらりと入る。
 昼時とあって店内には人が多かった。
 スーツ姿の社会人から学生まで、荒い人波が店内に溢れている。
 特に社会人にとっての昼食は、まさに時間との戦いそのものなのだろう。
 その点、僕は暇な自由人。いわゆるニートだ。時間は無限にある。
 のらりくらりと人の波の間を潜り抜けながら、ゆっくりと目的のものを探す。
 僕はパンを三つと牛乳一本、デザートにとプリンを手にし、長蛇の列が出来上がったレジ前に並んだ。
「お次のお客様、こちらへどうぞ」
 店員が別のレジ口を開いて声をかける。そちらにもまた人が流れていく。
 僕の後ろに並んでいるOL風の女性は、今か今かと自分の番が来るのを待っている様子だ。
 ――大変なんだなぁ、社会人は。
 呑気なことを考えながら、僕は僕でぼうっと順番待ちをしている。
 前にいる女子高生数人は、騒がしい声で喋っている。
「うっそ、マジヤバイってそれ!」
 髪をポニーテールにした長身の子がそう言ったのに対し、
「……ウザイね」
 と一言、ボブカットの子が相づちを打つ。彼女は朗らかな笑顔を浮かべていた。
 胸が高鳴る。
『ちょっとおっさん、目障りだからどっか行ってくんない? そしたら殺さないであげるからさぁ』
 ……
 妄想に耽る。そんな言葉をかけられたら、僕は一瞬で昇天してしまうだろうに。
 しかし時間というものは思った通り、いやそれ以上に普通に刻々と過ぎていくものなのだ。
 何事もなく、ただ一歩、また一歩とレジへ近付いていくだけ。
 後ろのOLは、相変わらず時計を見ながらそわそわしている。
 とうとう僕の前の女子高生たちの順番が回ってきた。
『おい、とろとろレジ打ってんじゃねーよ。早くしねーと明日から仕事来られなくするよ?』
 ……気付くと僕は妄想している。これは一種の病気じゃないだろうか。
 僕は黙ったまま自嘲する。
「二百九十円になります」
 女子高生は財布から小銭を取り出し、お釣りをもらってレシートの受け取りを断る。
 小さなレジ袋を手に、さっと後ろをふり返る。
 と、
「――っ!!」
 思わぬ幸福に僕は昇天しそうになった。
 ふり返りざまに、ボブカットの子の肘が、見事に僕の腹に深くめり込んでいたのだ。
 息が詰まった。苦しみはその後を追うように僕に襲いかかってくる。
「ぐうぅ……」
 僕は込み上げてくる吐き気と必死で闘った。
 ――この瞬間が僕にとっての永遠。……この瞬間を切り取っていつまでも残しておきたい。
「あ、ごめんなさい」
 と、本人が謝罪する。他の女子高生たちはそそくさと出口の方へ向かっていく。
『てめぇ、何ぶつかってきてんだよ。ちょっと来いよ』
 彼女からそう言われたのは、やっぱり僕の頭の中でだけ……
 僕の妄想の中でだけ……



END

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今回の作品は、以前連載しました『正当拷問自白法』の続編として執筆したものです。
瀬川凛に憧れる女刑事由香利の、日記風ノートを紹介する形で書かせていただきました。
今回から作品を読んでいただいた方は、前作も併せてお読みくだされば、より楽しんでいただけるかと思います。
法律のもつ強制力の怖さや、正義の名の下に残虐な行為を平然と行う女性の怖さ。
そういったものを演出してみたのですが、如何でしたでしょうか?

尚、今回の作品につきましては非常にグロテスクな表現が多かったかと思います。
現実と妄想の区別をしっかりとつけ、あくまでフィクションとして楽しんでいただけたら幸いです。
万が一、嫌悪感を抱いた方にはお詫び申し上げます。
こんなサイトですので、どうぞご容赦ください。

いつもの変わらないコメントで恐縮ですが、ご愛読いただいた方にはあらためて心より感謝いたします。
今後も作品の執筆に励んでいきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

●由香利のキャラ絵 →
●凛のキャラ絵 →  

作品を気に入ってくださった方は、ぜひ拍手のクリックをお願いします。
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 最初の仕事であると同時に、その相手が正当拷問自白法成立以来初めての違反者だったということもあり、正直最初は緊張して仕方がなかった。
 しかし彼に刑を執行しているうちに、私は確実にこの仕事を楽しく思えてきていた。
 こんなに楽しいなら、これから先もやっていけると思う。

 私は彼の顔をじっと見つめた。彼が弱い小動物のように見えた。
 身体をぶるぶる震わせながら小さくなっていた。
 彼の取調べを担当した凛先輩は、『強情を絵に描いたような人だった』って言ってたけど…正直、全く印象が違っていた。
 今の彼は…ただ怯えるだけの小動物。絶対的な力に服従するだけの…ふふ…
 私は可笑しくて仕方がなかった。今にも笑い出しそうになるのを堪えながら、私は彼に堂々と近付いた。
「お…お願いします…もう…もう…」
 私は彼の顎を指先で優しく撫でた。こんなにも愛しさを感じるなんて思ってもみなかった。
 許し難い大犯罪者…それなのに…
 私は彼の口を片手で掴み、無理矢理口を開けさせた。無抵抗な彼の前歯をペンチでゆっくりと挟み込む。
「は…や…や…」
 我慢できずに彼の頭を撫でる。身体を摺り寄せる。
 …この感動をいつまでも覚えていたい…
 そんな思いを胸に私は彼の前歯を勢いよく引き抜いた。涙目の彼の口から血が溢れ出す。
「がああああああああああああああああ!!!!」
 ふふ…よく叫ぶ人…
 すかさず私は彼の背後に回り、右腕を捻りあげる。
 彼には既に抵抗する意志はない様子だった。泣きながら何かを呟いている。
 私はそんな彼を目に焼き付けるように見ながら、その関節を痛打した。骨が折れる感触が伝わってくる。
「ぐうあああああああああああ!!ああああああああああああ!!」
 彼は声を搾り出すかのように叫んだ。
「これで今日のメニューは終了です。おつかれさまでした。」
 私の目からは何故か涙が溢れていた。感動で今にも胸が張り裂けそうになっていたのかもしれない。
 これからも頑張っていきたい。この時私は、そう思わせてくれた大谷さんへの感謝の思いでいっぱいだった。

 ***


 いくつかのページを読み終えた時、彼女の唇からは自然と笑みが零れていた。
 彼女はその忘れ物のノートを閉じ、由香利のロッカーに返してあげるべく仮眠室を後にした。
「ふふ…まだまだ指導が必要みたいね。」

 そう小声で呟いた彼女は、瀬川凛その人であった。



END

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 ***

 受刑者番号一番 大谷悟 二十七歳

「今日のメニューは爪剥ぎと抜歯、それから右腕の骨折です。担当刑事の後藤由香利です。よろしくお願いします。」
 婦警のかっちりとした制服に身を包んだ私は、内心の緊張を抑えながら告げた。
 怯えきった様子の彼は私が挨拶をするなり突然叫び出した。
「お…俺は八人の女を強姦して殺したんだよ!死刑にしてくれ!死刑にしてくれ!!」
「そうですよね、分かってますよ。ただ大谷さんの刑は死刑じゃなくて拷問刑なんです。今日は私が担当させていただきますので、よろしくお願いしますね。」
「い…嫌だ!俺は…」
 私は言葉を待たずに彼に跳びかかり、首を掴んで壁に押しつけた。苦しそうな声が喉から漏れる。
「ちょっと静かにしてもらいますね。すぐに終わりますから。」
 笑顔でそう告げると私は彼の鳩尾を拳で一突きして気絶させた。押さえつけていた手を離し、床に寝かせる。
 用意していたペンチで慎重に彼の小指の爪を掴む。私は力いっぱい彼の爪を引き抜いた。
 あっと言う間に血が滲む。彼は痛みのあまり意識を取り戻し、同時に絶叫をあげた。
「ぎやああああああああ!痛い!!があああああああああ!!」
 彼の目に涙が浮かぶ。
「やめて…やめ…」
 私の側を離れ、彼は壁にもたれかかるようにして縮こまった。その姿が不思議と私を魅了する。

 …可愛い…

 それが私の正直な感想だった。小さく身体を丸めながら許しを乞う姿がこんなに可愛らしいなんて…。
 私はついその姿がもっと見たくなってしまった。
 もっともっと可愛らしいあなたを…見せて…
 口元が緩んでしまう。笑顔のまま私は彼に一歩一歩近付く。
「ひぃぃぃ…」
 怯える様子を見て、私は意気を高める。
「サービスしてあげましょうか…。全部抜いちゃってもいいんですよ…ふふふ…」
 彼はその言葉に大きく反応すると、再び気を失った。
 私は彼の反対の手の小指を掴むと、再度その爪を引き抜いた。彼はまた意識を取り戻し、絶叫した。
「ぐあああああああああああああ!!!ああああああああああああ!!!」
 ついついサービスで三つも抜いてあげてしまった。そろそろ抜歯に移らないとね…

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 しばらく弄んだ後、再びお腹を思いきり踏みつける。何度も…何度も…
 その度に男は苦悶の声を上げ、心地よい悲鳴を上げる。
「げほぉぉぉ!…う…うぇ…うげぇ…がはああああ!!!」
 とうとう彼は白目を向き、ぐったりとしたまま口から血を噴き出した。床が彼の血で染まる。
 彼はかろうじて呼吸をしているようだった。私はその姿を見ながら必死で笑いを堪えていた。
「今日のメニューは終了です。おつかれさまでした。」
 虫の息で倒れ込んだ彼を担いでベッドに寝かせる。私はいつものように救護担当にコールした。

 今日の仕事も無事終了。


 私は毎日楽しく仕事を頑張っている。
 これまでたくさんの人を処刑してきたけど、やっぱり一番緊張したのは最初の仕事の時だったと思う。あの人の名前は今でも忘れない。
 大谷悟さん二十七歳。
 今考えると、あの日は私にとってすごく重要な意味をもつ日だったんだと思う。
 何と言っても、初任務でいきなり新法案「正当拷問自白法」の違反一件目の人の担当に当たったんだから。
 気を引き締めていかなくちゃ!ってドキドキしてた。
 …任務前にサインもらっておけばよかった…なんて後で思ったりもした。
 『俺は八人の女を強姦した後、殺したんだ!』ってしきりに叫んでたのを覚えてる。
 だったらどうして自白しなかったんだろう?
 それがすごく不思議…。
 極刑を免れてよかったじゃない。結果的に拷問刑を選択したのは自分自身なのにね…

 ***


 彼女は、そこで一度ノートを置いた。
 仕事の疲れからか眠気がピークに達してきている。
 少しでも身体をほぐそうと片方の手で肩や腰を叩き、ぐっと背伸びをした。
 床に寝転んだまま、しばしぼうっと天井を見上げる。
 その瞳には、どこか悲しげな表情が見て取れた。

 彼女はふと、思いついたかのように受刑者記録の最初のページを開いた。

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「今日のメニューは次で最後になります。頑張ってくださいね。」
 私の言葉に、彼はまたも返答しようとはしなかった。虚ろな目をしながら、うわ言のように同じ言葉を繰り返しながら天井を見つめていた。
「た…す…け……助けて…助けて…。俺はやってない…やってない…。」
 この人は本当に同じ言葉しか言わない。私はその姿が何となく滑稽に思え、笑いが込み上げてきてしまっていた。
 ぼうっと立ち尽くす彼をしばらくじっと見つめ、それから私は勢いよく彼に向かって走った。

 …!!…

 渾身の力を込めたボディブローを彼のお腹に叩きつける。
 その瞬間彼は我に返ったのか、目を大きく見開き、頬を膨らませた。強制的にその瞳に光が戻される。
「うぐううえええええっ!!!」
 彼はお腹を抱えて蹲った。必死で押さえるその手を引き剥がすようにしながら、私はなおもボディブローを彼に何度も突き刺していった。
「はううっ!おえええっ!!げほおおお!!」
 拳を叩きつける度にまた搾り出すように声を上げる。私は彼に馬乗りになり、さらに何度もパンチを入れる。
「げえっ!もう…くるし…く…がはあああ!!うぐはあああ!!」
 私はその後立ち上がると、今度はそのお腹を踏みつけた。徐々に体重を乗せていく。
「う…お…おおぉぉ…」
 力を緩め、そしてまた体重を乗せることを繰り返す。彼は顔を真っ赤にして苦しみに耐えている。
 しばらく踏みつけを行うと、彼は脱力して動かなくなった。
 私はその無防備になったお腹に全体重をかけてニードロップをした。
「ぐうえあああああああああ!!げおおおお…お…」
 絶叫とともに彼は悶絶し、やがて嘔吐した。顔面は蒼白になり、すでに半分白目をむいていた。
 変な感じ…やっぱり、何となくだけど…
 私は男を甚振る度に高揚していく自分の気持ちに少しずつ気付いていた。不思議な感覚…
 お腹を抱えて蹲る彼を蹴り上げ、再び身体を仰向けにさせると、そのお腹を力いっぱい踏みつけた。ぐりぐりと踏みにじる。
 私は自分の行為にまた言いようもないエクスタシーを感じていた。

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 受刑者番号百十一番 光村隆介 二十九歳

 思えばたくさんの人を処刑してきた。
 どうして犯罪は無くならないんだろう。どうしてきちんと自白しないんだろう。
 私にはどうしても理解することができなかった。

 彼は一家全員を皆殺しにした凶悪犯だ。絶対に許すことはできない。
 先日デパートで購入したばかりのチュニックにスキニージーンズ姿で部屋に入る。ネイルサロンで塗ってもらったばかりの爪が私の気分をわくわくさせる。
 私が部屋に入るなり、男は喚いた。
「頼むよ!頼むから!俺をここから出してくれ、な?お願いだ。」
 どうしてここに来る人たちは皆、こんな感じなんだろう。結局は自分で選んで来た道でしょ?
 私は彼の言葉に反応することなく、言葉を発した。
「担当の後藤由香利です。よろしくお願いします。」
「頼む!もう許してくれ!頼む!俺は本当に、何もしてないんだから。」
 …さっきからくだらないことばかり言ってる…
 私は言葉を続けた。
「今日のメニューは、左手全指骨折と内臓損傷です。」
 男は私の言葉など聞いている様子はなかった。
「た…助けてくれ…助けてください…」
 こういう受刑者には、まず自分の置かれている立場をしっかりと理解してもらわなければいけない。

 私は黙って男に近付くと、その首を掴んで床に勢いよく倒した。
「抵抗は無意味です。刑はしっかりと受けていただきます。それが、あなたの務めですよ。」
 にっこりと微笑みながら語りかける私の目を見て、男は涙を溢れさせた。
 彼はぐったりと脱力し、肩に全く力が入らなくなっているようだった。
 迅速にその腕を取り、股の間に挟みこむと相手と一緒に倒れ込んだ。腕拉ぎをかける。
 男はそれでもなお絶叫を上げ、じたばたと抵抗しようとする。
「では、一つ目のメニューです。」
 私は関節を決めた左腕をがっちりと固めたまま、彼の手をそっと握る。
 そして彼の指を小指から順番に、関節とは逆の方向に折り曲げて一本一本丁寧に折っていった。
「ぐあああああ!!ぎぃやいやあああああ!!うっぐあああああああ!!!」
 骨折と同時に彼の絶叫が小部屋に大きく響き渡る。既に彼の喉は枯れ果て、かすれた、声にならない声がその部屋全体を覆い尽くしていた。
 左手の全ての指の機能を奪われた彼は、完全に生気を失っていた。その目に光はなく、ただただ小刻みにその身体を震わせながら小さく身体を丸めていた。

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 今日は私の担当する処刑業務はなかった。その代わりに、別室でトレーニングを行うことになった。
 私を指導してくださったのは瀬川凛先輩だ。スレンダーな美しい肢体。
 訓練のことなんて忘れて、その身体にしばらく見惚れてしまっていた。互いに向き合い、素手でぶつかり合う。凛先輩との格闘は私にとって幸せそのものだ。
 殴りかかる私の腕を掴み、鮮やかに身体を腕の下にくぐらせる。
 私は身体を倒され、腕拉ぎをかけられた。完全に関節を決められている。
 う…くうう…
「ふふ…まだまだ指導が必要ね…」
 …かっこいい…
 胸の高鳴りが治まらなかった。先輩の姿が未だに目に焼きついて離れない。
 いつかは私も先輩のようにかっこいい人間になりたい。

「ねぇ、あなたはどうしてこの仕事に就こうと思ったの?」
 凛先輩が私に問いかける。トレーニングを終えたばかりの私は倒れ込み、身体を起こすこともできない。天井を見上げながら私は答えた。
「悪人をこの世から全て消したいんです。」
 息を荒げながら答える私の顔を凛先輩はそっと覗き込み、微笑を浮かべていた。
「そう…。これからのトレーニングもしばらく私が付き合うから。そのつもりでいなさいね。」
 笑顔のまま私のおでこに軽くキスをする。
 彼女の言葉やその行為の意味は、正直なところ私にはまだ分からない。でも、憧れの凛先輩からこれから先も指導していただけるのだと思うと、私の胸はさらに大きく高鳴った。
「先輩…」
 私はかろうじて身体を起こして凛先輩の方に向き直った。彼女は既に汗を拭うとその場でスーツに着替え始めていた。その後ろ姿に再び私は見惚れてしまい、背中の汗を拭う先輩から目が離せなくなっていた。
「執行人としての誇りと自覚をもって、これからも頑張っていきます。」
 その言葉を聞いた私の憧れの人は涼やかな笑顔を見せ、優しく私に言葉をかけた。
「ふふ…頑張ってね。」

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「…処刑人さん…ちょっと、いいですか。」
 鞭打ちを終わらせた頃、彼が私に話しかけてきた。
「あの…普段はメニューを先に教えてもらっていたはずです。方針が変わったのでしょうか。」
 …あ…しまった…
 うっかりしていた。最初にメニューを告げるのは処刑人マニュアルの基本であった。
 私自身これまでしっかりと行ってきたことであったはずだが、この時はすっかり忘れてしまっていた。
「申し訳ありませんでした。最初にお伝えするところを…」
「いえ…」
 私は慌てて最後のメニューを彼に告げた。しかしその途端、彼の態度が豹変した。
 これまでの落ち着いた雰囲気とはうってかわり、明らかに取り乱した様子を見せた。
 その姿に驚いた反面、何故か私は彼に親しみを感じたような気がした。
「ほ…本当にか…本当にそれが…。あ…あ…やめ…やめて…」
 人間同士の心と心が触れ合う時…それはお互いが素の自分を曝け出した時なのかもしれない…
 そんな思いがふと私の頭を過った。相手が憎むべき違反者であることも忘れ、私は彼に魅かれる自分を感じた。
「最後の仕上げ…精一杯行わせていただきますね。」
 それは私の心からの言葉だった。しっかりと真心をもって最後の作業を行わなければ失礼だ。そんな風に考えていた。
「た…頼むーーー!それだけは…それだけは勘弁してくれ!!お願いしますーー!!」
 私は彼に微笑むと抵抗する彼の首を絞めて気絶させた。変形型の拘束具を着せてベッドに縛り付けて固定する。
 彼の左の手首から上だけが剥き出しになり、残りの全てが拘束具で包まれている。

 しばらくすると彼は目覚めた。目は大きく見開かれ、彼は恐怖のためか絶叫をあげ続けた。
「やめてくれーー!!助けてくれーーー!!」
「これが最後のメニューです。」
 彼の親指にナイフを突きつける。彼の息を呑む音が耳元で大きく聞こえる。
 私は片手で彼の手をしっかりと押さえつけると、反対の手で力いっぱいナイフを叩きつけ、親指を切断した。
「ぎぃやあああああああああああああ!!!」
 絶叫が部屋全体に響き渡る。そして彼は失禁し、気絶した。
 …ちょっとだけかっこよく感じちゃった。私って駄目な女。相手は法律違反者なのに…
 とにかく、今日の仕事も完了。

 私は今まで以上に、この仕事が楽しいと思えるようになってきている。

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 受刑者番号七十九番 定岡直人 三十五歳

 この緊張感からいつかは解放されるのだろうか。
 まだまだ仕事に対する不安は大きいけど、しっかりと頑張っていこうと思う。

 彼はお年寄りの家に次々と放火してまわった、いわゆる愉快犯。彼もやっぱり容疑を否認し続けて自白法違反となった人だ。
 許せない…。罪もない、しかも…か弱いお年寄りだけを狙うなんて…
 だからと言うわけじゃないけど、処刑メニューはしっかりとこなそうとあらためて心に誓った。
 今日はキャミソールにフリルのついたミニスカート。これらの服は買ったばかりなので私のお気に入りだ。気を引き締めて拷問部屋に入る。
「担当の後藤由香利です。よろしくお願いします。」
 彼の第一印象は、暗く、疲れ果てた老人のようで、とても三十五には見えなかった。
 入所してから何日も経っていたためか、ずいぶんと元気がなかったように思う。
「最初は身体全体への刺針です。」
 彼は諦めきった様子で、指示に対しては大きなリアクションをしない。
「はい…」
 叫び声を上げるのが得意な罪人はすごく多いけど、彼は驚くほど無抵抗だった。
 ここでのやり方を既に理解し、無駄な抵抗をしないようにしているのかもしれない。
 もっともその方が私は仕事がしやすくてとても助かるのだけれど。
 自らベッドに横たわった彼の身体中に、16Gの針を一つ一つ刺していく。
 胸、腕、顔、腿、そして陰茎。至る所に穴を開けていく。刺し傷から血が滴る。
 彼は俯きながら一生懸命耐えていた。

「次は鞭打ちです。」
「はい。」
 私は皮製の乗馬鞭で、ついたばかりの傷跡が目立つその身体全体に鞭を振り下ろしていく。
「ぐ…あぁっ…がああああ…」
 彼は声を押し殺しながら必死で耐える。その姿が私を高揚させる。これは私の悪い癖だ。
 私は、男が苦痛に耐える姿に言い知れぬ興奮を覚えることを既に自覚していた。
 ついつい鞭を持つ手に力が入る。
「ほら。痛いですね。ふふ…一生懸命我慢してるんですね。たくさん痛めつけてあげますからね。」
 何度も…何度も…何度も…何度も…
 私は自分の欲望の赴くままに鞭を振り下ろす。自制が効かなくなっていく自分が少し怖かった。
 さすが、年の功といった感じだった。本当に我慢強い。その強さが私の感情をさらに高ぶらせていくことに、私自身この時は気付いていなかったのかもしれない。

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「お…おいおい…ちょ…待ってくれ。まさか本気でやるわけじゃないんだろ?」
 彼は脂汗を垂らしながら私を見つめる。その怯えた表情に、私は若干のエクスタシーを覚えた。
 …ふふ…本気じゃなかったらこんなところに来ないでしょ…
 私は心の中で笑った。心の奥底が急激に冷えていく感覚が私を覆う。
 無表情のまま備え付けの手枷を手際よく彼の両腕に付け、磔台の低い位置に固定する。
 腰を床につけたままの姿勢でいる彼の足を持ち、限界まで股を開かせる。彼は悲痛の声を上げた。
 そのままの形で部屋の両脇についているリングと彼の両足をチェーンで繋ぐ。
 片方のリングには車輪がついていた。事態を察知した彼は予想通り悲鳴を上げる。
「や…やめてくれ!…たのむ…やめて…」
「それじゃいきますね。声はいくら出しても大丈夫ですからね。」
 優しく彼にそう告げる。それから私はリングの車輪を少しずつ少しずつ巻いていくのだ。
 ギリギリと音を立て、彼の股がどんどんと開かれていく。この瞬間が本当に楽しい。
「ぎいいっやああああああ!!た…助けて!!…助けて!!」
「はい、痛いですねー。これからもっともっと痛くなりますからねー。」
 私はさらに車輪を巻く。だんだんと車輪が重くなってくる。私はそれに合わせて力いっぱい車輪を回さなければならないのだ。これが結構な重労働。
「ぐが…あ…あああああああああああああ!!!」
 絶叫が部屋の中いっぱいにこだまする。私の力が限界に達した頃、彼の股関節が音を立てて外れた。

 彼は絶叫し、気を失った。私は一息つくと、彼の裂けた股の間から垂れ下がっている睾丸を強く握りしめ、強制的に意識を取り戻させる。
「ぎゃあっ!!…はぁ…はぁ…いいいいいい…痛い…痛い…ごめんなさい。助けて…」
 泣きながら訴える彼の姿がとても可愛らしく感じた。
「今日のメニューはあと一つで終わりです。もう少しですからね。」
 私はまた優しくそう答える。
「ま…待ってくれ…あと一つって…だってそれは…たのむから!それだけは!」
 この部屋は最新の技術が駆使してあり、防音は完璧だ。こんなに叫ぶんだから当然必要なシステムだよね。
 ただ…近くにいる私はすごく耳が痛くなる。最初にメニューを伝えてあるんだからその瞬間になってそんなに叫ばなくたっていいのに…。
 彼は狂ったように身体を捩り、必死でもがいている。しかし完全に身体を固定されているため、それは無駄な足掻きにしかなっていない。
 私は彼のズボンのチャックの中から睾丸を引き出す。
「それじゃ、いきますね。」
「や…やめて…やめ…やめーーー!!!」
 私は片方の睾丸の皮膚を持って床に押し付けた。片方の足で皮膚を押さえつけ、もう片方の足を振り上げる。

 ……!!!!!…

 私は彼の睾丸を足で力いっぱい踏み潰すと、亀頭から血が噴出してくるのを確認した。彼の断末魔の声が響き渡る。
 今日の仕事はこれで終了。再び気を失った彼を見つめながら私はほっと肩を撫で下ろした。

 明日もまた仕事だ。頑張らなくちゃ!

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 ***

 受刑者番号五十番 横山菅生 二十三歳

 彼は強盗殺人の罪を最後まで否認し続けた。正当拷問に対しても反抗的な態度だったため、自白法違反で拷問刑が確定した。
 私はタンクトップにデニムスカートを履いた服装で拷問部屋に入る。罪人との初対面であるこの瞬間はいつも緊張する。私は中にいるその人物の様子を観察した。
 今時の若者って感じですごくイキがいい。彼は法律違反者となって今日が初めての拷問の日だった。
「担当の後藤由香利です。よろしくお願いします。」
 私は形式的な挨拶をする。彼は私を見るといきなり私の胸を触ろうとしてきた。
「俺に気持ちいいことしてくれるのかな。」
 …ずいぶんと笑わせてくれる…
 私は笑顔のままその腕を捻り上げ、背中の後ろで固定する。彼は苦痛の声を上げて抵抗をやめた。
「い…いだだ…くあっ…」
「ふふ…変な抵抗しちゃ駄目ですよ…」
 そのまま背後に回りこみ、もう片方の腕で首を絞める。声帯を絞められたことで声が出せなくなっている。
 私は抵抗をやめた彼をそのまま仰向けに倒し、首を絞めたままお腹を思いきり殴り続けた。
「ごほおっ!…ご…ごめんなさ…いぐっ…げほおっ!…」
 こういう男性はとにかく芯が脆い。ちょっと本気出すとすぐこれだから…。
 私はつい感情的になり、そのまま彼が泡を吹くまでやってしまった。

 ここからが私の仕事。
「今日のメニューは股裂きと片側の睾丸潰しです。」
 私は既にぐったりと倒れ込んだ彼にそう告げる。
 彼は私の言葉を冗談だと思ったのか、半信半疑の面持ちで不安そうに私を見つめる。
 無理もないか…今日は彼にとっての『初体験』だもんね…

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 夜になっても署内は慌しかった。
 夜勤との引き継ぎが終わってもなお、日勤の人間が残務に励んでいる。彼女もまた、そんな忙しい人間の一人であった。疲れのせいもあろうか、彼女からは溜息が絶えない。
 事務処理が一段落ついた頃、彼女は休憩を兼ねて座席を離れると、仮眠室に向かった。
 仮眠室は署内の騒がしい様子とは打って変わった静けさを漂わせている。
 堅いベッドの脇には一冊のノートが置かれていた。彼女はそのノートに手を伸ばす。
 五百ページはあろうかという分厚いノートの表紙には、大きく『由香利ノート』と記されている。
 表ページの見開きに大きく書かれた文字。

『正当拷問自白法 違反者記録』

 新法案、正当拷問自白法成立から早二年が過ぎようとしている。
 連日のように起こる凶悪犯罪件数は未だ衰えるところを知らない。しかしそれとは裏腹にその自白率は年々右肩上がりの良傾向を見せている。

 彼女は複雑な思いを胸にノートを開いた。そこには丁寧な文字で仕事の記録が残っている。二年分の文字の量は膨大だ。
 最初のページには由香利の思いが切々と込められていた。


 今日から仕事が始まった。なかなか就職先が見つからなかった私にとっては、願ってもない話だった。
 全ての悪人がこの世からいなくなったら、どんなに幸せな世界ができるんだろう。
 生きてる間に悪人に地獄を見せてやれたら、相手の気持ちが少しは分かるんじゃないか。
 そんな風に考えていた私にとって、この仕事はまさに天職であるかのような思いがした。
 正義の処刑人として働くことができるようになれて、私は今心底幸せを感じている。
 正当な拷問を受けても自白しないような悪人は…私がこの手で処刑してあげる。


 彼女はおもむろにパラパラとページをめくっていった。

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「女王様と奴隷」
自分の中ではすっかりシリーズとして、定着してきています。
今回の作品はその第三弾となります。
南国の海で営まれる主従関係を描きました。
個人的に夏の海は大好きなので、そこでのプレイを想像してみました。

今回もまた、ご愛読いただいた方々に感謝。

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「こんなにおっ勃てて。本当に馬鹿な子だねお前は。」
 そう言われて僕は初めて、自分が最大限に勃起していることに気付いた。
 女王様はそんな僕の股間を掴み、手の中で二つの玉を弄ぶように擦り合わせる。
「ひ…ひぃぃぃぃ…」
 痛みと恐怖で僕は声を上げる。声を上げる度に女王様は笑いながら僕の身体に爪を立てていく。
「恥ずかしい子だね、大声で。」
「ごめんなさい。ごめんなさい。う…ひぃぃぃ…」
 情けない自分の姿に呆れる女王様を見ながら、僕はその痛みに必死で耐える。
 しかし、僕を襲う下半身の激痛は僕が声を出すことに抗うのを許してくれないのだ。
 何度も声を上げた。そして何度も引っ掻きのお仕置きを受ける。
 本当に駄目な奴隷だ。僕は本当に駄目な奴隷だ。
 女王様はなおも手加減することなく僕の玉を擦り合わせ、同時に水の中に再び僕を沈めると首を強く絞め上げる。
 執拗に繰り返される水の中での責め。僕はその激痛と苦しみでとうとう意識を失ってしまった。

 気付くと浜辺で横になっていた。強い陽射しが僕の顔に容赦なくその光を放っている。
 熱せられた砂が、僕の背中に無数についたと思われる引っ掻き傷に障った。身体中に心地よい痛みが残っている。
「じょ…女王様…」
 僕は不安だった。またしてもこんな情けない醜態を晒してしまった自分が心底憎かった。
 きっと僕は女王様に呆れられてしまったのだ…。
 しかし女王様はいつもと同じ姿でそこにいた。僕の側に腰を下ろし、冷たい飲み物を飲んでいる。
「あはは…おはよう。」
 その笑顔に僕がどれだけ救われたか…女王様…あなたにこの気持ちが通じていますか。
 僕は泣いた。顔をぐしゃぐしゃにしながら…泣いた。泣いた。泣いた。
 女王様は僕の臀部を軽く叩くと、僕の頭の横に冷たいアイスコーヒーを静かに置くのだった。

 女王様…僕は一生、あなたについていきます…



END

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 しばらくすると女王様は海に向かって進み始めた。海水を浴びに行ったのだろう。
 僕は当然その間は荷物の番をする。遠目に手を振る女王様…
 分厚く着込んだ僕の服の中にはしっかりと縄が施され、下に入れたバイブは常に僕を刺激する。
 こんなに遠くにいても、女王様の意識は僕を縛り付けてくださっているのだ。
 僕はうれしさのあまり涙が止まらなかった。こんな僕をこんなにも気にかけてくださる。
 しばらく泳ぎを堪能し、女王様は再び僕のもとに戻って来た。
「行くよ。」
 僕の言葉は当然決まっている。
「はい。」
 当てていたバイブを取り除き、女王様は僕の服の一つ一つを引き剥がしていく。
 露出していく肌に吹きつける風が何とも心地よい。最後に姿を見せた菱縛りの僕の裸体は、周りの目にどう映ったのだろう。
 まぁ、そんなことは正直ぼくにとってどうでもいいことなんだけれど。
 最後に残った縄を外していただき、僕は生き返ったような気持ちで大きく深呼吸をした。
 赤ちゃんがおむつをつけてもらう時の格好で、女王様に海水パンツを穿かされる。
 しかし…当然のことながら僕を締めつけている首輪だけは外すことを許されなかった。
「ありがとうございます。」
 僕は土下座をして、解放していただいたことへの感謝の気持ちを述べた。

 女王様は首輪を引っ張りながら海へと僕を連れて行く。
 二人の時間…二人だけの空間…あぁ…女王様…
 僕と女王様は向かい合って海に浸かる。至福の瞬間…
 僕は自分の幸せにまた涙が出そうになった。
 女王様はふいに両足で僕の身体を挟み込み、僕の髪の毛を掴んで水の中に沈めた。
 苦しさから僕はもがく。しばらくすると僕の顔が水面上に上げられる。
「ぶはっ!はぁっ…は…あぶ…」
 再び沈められ、しばらくしてまた顔を出すことを許される。
「ほら、気持ちいいでしょ?」
「ぐぶ…は…はひぃ…ブクブク…。ぷはぁ!き…気持ちい…ゴボゴボ…」
 女王様の高笑いが聞こえる。
 海水が鼻の粘膜に与える痛みは、真水の比ではない。苦しい…苦しい…でも…
 こんなにも女王様が楽しそうにしていることが、苦しみを幸福へと変える。

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 首と首輪の間から汗が滴ってくる。
 僕は女王様と一足早い夏を満喫していた。南国の太陽はじわじわと僕の体力を削っていく。
 女王様とリゾートなんて、夢にまで見た至極の時間…
 ワンピースにヒール姿の女王様はとても高貴で美しく、その艶かしさに高揚してしまうことに僕はひどく罪悪感を覚えていた。そんな自分が心底みっともない存在に思える。
「馬鹿な格好だね、お前は。」
 女王様の罵倒がそんな僕を安堵に導く。Tシャツの上にジャケットとフリースを着込み、コートを身に纏っている。さらには首輪の上に毛糸のマフラーをつけ、大きめのブーツを履いている。
 海水浴場に女王様と二人きり。なんて幸せな時間なんだろう。このまま時が止まってしまえばいいのに…
 そんな風に真剣に考えてしまう。
 海水浴客で賑わう浜辺にはたくさんの人が密集し、それぞれが開放的にこの時間を楽しんでいる。
 当然僕は、他人から見たら変人そのものだろう。そう考えると僕の心はいっそう羞恥心を増す。いや…
 しかしそんなことは関係ない。僕には目の前の女王様が全てなのだから。

 ビーチにパラソルを立て、その陰にビニールシートを敷く。
 もちろんこれは僕の仕事だ。暑さで早くも頭が朦朧としてきた。それに気付いた女王様からは当然お叱りの言葉が僕に浴びせられる。
「何やってるの。もっと手際よくしなきゃ日焼けしちゃうでしょ?」
 言うと同時に女王様は僕の臀部を蹴り上げる。
「ご…ごめんなさい。すぐご用意いたしますので。」

 準備が整った頃、僕たちは二人でシートに腰掛ける。
 女王様はその艶かしい身体全体を伸ばし、うつ伏せになってシートの上に寝そべった。
 余計な言葉は決して言わない。
「失礼します。」
 僕は日焼け止めクリームを手にし、女王様の全身に万遍なくクリームを塗っていく。
 この肌のきめ細かさ…美しい肌の色艶…あぁ…
 僕はここに至福の時を感じていた。恐れ多くも女王様の身体に触れている…
 これ以上ない喜びと罪悪感を同時にもちながら、僕は丁寧にクリームを塗っていくのだ。

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短編って意外と難しいものだと実感しました。
余計な部分を削除しながら最低限で内容をまとめる。
何となく「四百字以内でまとめなさい」みたいな論文の難しさに似ている気がしました。

箸休めのつもりで読んでいただけたら幸いです。

●紗希のキャラ絵 →   

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 俺は焦った。
 こ、こいつ……
 彼女は切れ長の瞳を俺に向けながら、冷酷な笑みを浮かべている。こうしている間にも彼女の尖った肘は俺の内部を何度も深く抉る。
 ――ぐ、ぐえええ。お……、ええええええ……
 ネクタイを引く力も緩める気配がない。
 苦しい。苦しい。畜生。
 彼女は俺の全身を流し目で舐めるように見回した後、今度は膝を曲げて踵を後ろに振り上げた。
 ――ぐ……、かはっ!
 踵は俺の大きくなった下半身に命中した。内臓に激痛が走る。
 そしてすぐに彼女は俺の下半身を掴んで握りしめると、ギリギリと玉を思いきり擦り合わせた。
 ――ぎいいいいやあああああああ!!
 辛うじて声を押し殺す。
 叫び声を上げるわけにはいかない。しかし、このままでは……
 俺の首は相変わらず絞め上げられたままだ。地獄の苦しみ――
 わ、悪かった。許してください。許して……
 声にならない声。当然それが彼女に伝わるはずはなかった。


 しばらくすると電車は次の駅に到着し、扉が開いた。
 降車する人間たちが出口に流れ始めたその瞬間、彼女は俺の睾丸の一つを一際強烈に握り捨て、さらに俺の腹に再び強烈なパンチを見舞った。
 流れていく人混みの中…俺はたまらず絶叫し、胃液を吐いてその場に崩れ落ちた。
 周りの視線が一斉に俺の方へ向き、ざわめきが車内を包み込む。
「運が悪い人」
 その言葉とともに、彼女は開いた扉へ向かう。
 敗北への片道切符を手に、俺は蹲りながら必死で顔を上げた。
 意識が遠のいていく俺の目には、女子高生の後ろ姿が焼きついていた。



END

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