Black Onyx [ブラックオニキス];2007/ 05の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2007年 05月 に掲載した記事を表示しています。
 早朝の阪西線は混雑していた。
 俺はいつものように出勤前の日課をこなすべく、そっとセーラー服姿の女子高生の背後に身体を滑り込ませる。
 頭一つ分違うかと思われる小柄な身長。膝上十センチはあろうかというミニスカート。ボブカットのストレートヘアー。顔を下げた時のシャンプーのいい香り。全てが一体となって俺の下半身を刺激する。
 密着した身体。身を委ねるようにしながらも、勃起した下半身を悟られないように腰を少しだけ下げる。
 スカートの中にそっと手を伸ばす。ふくよかで柔らかなお尻の感触をしばし堪能する。
 このストレス社会で唯一、癒しを与えてくれるこの時間が俺の生き甲斐だ。
 彼女の身体はその臀部の柔らかさとは裏腹に硬直している。
 へへ、怯えてるのか? こいつはいいカモだ。
 俺はさらにパンツの中へと手を巧みに滑り込ませる。さらに反対の手でそっとその可愛らしく膨らんだ胸に手を伸ばした。
 ふいに彼女は俺の方へ顔を向ける。
 ちっ、まずいな。……確認か?
 彼女が俺に甘えとも訴えともつかぬ、何とも弱々しい笑みを向けた。
 くく、そうか。安心しろ。優しくしてやるからな……
 俺はさらに、胸に伸ばした手をセーラー服の胸元の中に入れる。
 と、
 ――うっ!!
 あっと言う間だった。次の瞬間、鳩尾に強い衝撃を感じて俺は目の前が真っ暗になる。的確に急所を狙った肘鉄――。俺は息を漏らす。
 続けて呼吸がじわじわと遮られていく感覚。彼女は同時に反対の手で俺のネクタイを掴み、背後の俺に笑顔を向けたまま一本背負いの形で首を絞め上げていた。
 浅いくの字の形になったまま身動きが取れない。
 首を絞められたまま、続けて何度も執拗に鳩尾を痛打される。
 く、苦し……、っ!
 ――お、ごほっ、……あぐ……っ!
 目線を周りに向けるが、何しろ足一つ動かせないほどの混み具合である。
 事態に気付いている者はいない。第一ここで気付かれてしまっては痴漢行為そのものがばれてしまう。助けは呼べない。どうにかしてこの状況を打開しなくては。

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くノ一って格好良いですよね。憧れます。
ぜひ、題材にして作品を書きたい。
そんな思いだけで執筆しました。

今回の作品のモデルや世界観は、とあるゲームを参考にしました。
これが結構ハマってしまって、毎日のように時間を見つけてはやっています(^_^;)
私なりのアレンジをしていますが、分かる人にはすぐに分かると思います。
「あぁ、あれか」と、笑ってやってください。

毎度のことながら、読んでくださった方々に深く感謝いたします。

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 目的を果たした椿は速やかに城を脱した。城内には手下の武士がまだたくさん残っていることだろう。
 天誅を悟られる前に身を隠そうと、椿は元来た道へと足を速めた。しかし…
 門の手前まで戻って来たとき、その男は再び姿を現した。伯真であった。
 男の表情から感情は読み取れない。二人はお互いに、ただただ無言のままそこに立ち尽くしていた。
「避けられない…か…」
「ええ…どうやら…。運命って残酷ね…」
 二人は同時に小刀を抜く。
「…いざ…」
「…勝負!…」
 暗闇で蠢く二人を月明かりがぼんやりと照らし出していた。
 二人の影は重なり、そして離れた。二人はしばらく立ち止まり、やがて一方が倒れた。
「任務…終了。」
 椿は、瞳から涙が溢れるのを止められなかった。


 今や廃里となった潮鳴の里に、太陽の光を存分に浴びながら佇んでいる椿の姿があった。
 闘いは終わった。そして…同時に愛する者も失った…。
 私はこれから何を目的に…どうやって生きていけばいいのだろう…
 木陰にもたれかかりながら、椿は項垂れる。
 潮鳴を…立て直そう。それがきっと…老師の願いでもあったはずだから。
 ふと伯真の笑顔が脳裏を過る。
 はくしん…あなたのことはこれからもずっと忘れない…絶対に…。
 その時、忍びの影を背後に感じた。
 …殺気…相手は一人…右後ろ方向確認…
 ふふ、そっか。これが私の生きる道。
 椿はニヤリと笑みをこぼし、そっと小刀を手にした。


 時は文悠538年のことであった。



END

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 次々と姿を現すふすまを慎重に一つ一つ開けていく。
 一際広い部屋に着くと、その奥には大きなふすまが一つ見えた。
 壁を背に、慎重に肩でふすまを少しだけ開ける。中には大名の姿がはっきりと見えた。
 瞑想するように、床に座って座禅を組んでいる。周りに護衛らしきものの姿はなかった。
 …今が…好機…
 椿は音を立てないよう静かにふすまを開けた。
 長く伸びた髭…貫禄を漂わせるがっちりとした風貌…。
 甲冑を身に纏った憎き大名が、今まさに椿の目前にその姿を現した。

「…待っていたぞ、忍び。」
 目を閉じたまま、落ち着いた様子で声をかける。椿は押し黙り、じっと塚本を注視していた。
「誰の依頼だ?…大名の菅原か?…それとも侍大将の伊丹か?」
 塚本はニヤリと口の端を持ち上げた。
「まぁ、素直に答えるわけはないよのう。」
 そう言って塚本は声を上げて笑った。
 椿は意を決し、小刀を片手に塚本に跳びかかった。目を開けた塚本はするりとその身をかわす。
 さらに振り下ろされる椿の小刀を、太刀の鍔で弾き返す。
「潮鳴の里の仇!今こそ思い知れ!!」
「潮鳴? 覚えておらんな。どこだそれは?」
 椿は怒りのあまり、一瞬我を忘れた。
 …この男…絶対殺してやる…
 勢いよく塚本に跳びかかり、喉元を掴んで壁に叩きつける。
「ほぉ…おぬし…少しはやるようだな…」
 塚本は太刀の柄で椿の鳩尾を突く。
「うっ…」
 椿がその手を緩めた瞬間、塚本は素早く背後に回りこみ、椿の髪を掴んで太刀を首の後ろに突きつける。
 憎き…憎き潮鳴の仇…塚本!…。
 椿は身体を斜めに倒し、後ろの塚本に足払いを見舞った。たまらず塚本は倒れ込む。
 椿がその隙をついて小刀を振り下ろす。対する塚本も負けじと太刀を構えてそれを受け止める。
 激しい鍔競り合い…。互いの体力がじわじわと削られていく。
 時に傷つけ、時に傷つけられ…両者は互いに一歩も引かずに攻防を続けた。
「おぬし…名を何と申す?」
「…私は椿…あなたの手で滅びた…潮鳴の忍びよ!!」
「…椿か…覚えておこう…」
 塚本の手の力が一瞬緩んだのを椿は見逃さなかった。太刀を握ったその手を勢いよく蹴り上げると、身を低くして体勢を整えた。
 弾みで落ちた太刀を拾おうと伸ばした塚本の手を、椿が踏みつける。
「ぐぬぅ…おのれ…」
 椿は動きを封じた塚本を見下ろした。
 塚本への憎しみが次から次へと椿に降りかかってくる。
 椿はそれを跳ね除けるように、倒れ込んだ塚本の腹を渾身の力を込めて蹴り上げた。
「ぐふうううっ!!」
 手首を踏みつけられているため、その衝撃の全てが腹に叩き込まれる。
 塚本は血を吐き、再び仰向けになって倒れ込んだ。
 椿はすかさずその腹に腰を降ろすと、片手で髪を掴み、もう片方の手で小刀を構えた。
「覚悟は…いい?…」
「お…お見事…」
 勢いよく横に引かれた椿の小刀は、塚本の喉元を鮮やかに掻き斬った。

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 再び階段を上り始めた頃、運悪く別の武士が先ほどの死骸を発見した。
 ふふ…これも定めかな…
 椿にはもはや最初の緊張感や罪悪感はなかった。それどころか、椿はこの状況を心のどこかで楽しんでいた。
 …覚悟は…いい?…
 背後から武士に近付き、襟首を掴んで手元に引っ張り寄せた。
「ひぃ…」
 壁に武士の背中を押し付け、後ろ手に小刀を突き刺す。武士はそのまま崩れ落ちた。
 腹部から滴り落ちる血の雫が何とも美しく感じられた。
 椿は死骸に背を向けると、再び階段をゆっくりと上り始めた。


 最上部に着くと、ふすまの前にまた一人武士が立っているのが見えた。
 階段の最上段で姿を隠すように身を屈め、その様子を注意深く観察する。
 武士はその場を動く気配を見せなかった。
 椿は腰に提げた袋から十字手裏剣を一つ取り出して片手に持つと、武士の足元に投げつけた。
 パシッ!という音とともに床に手裏剣が突き刺さる。
「!!…何者だ!!」
 注意をこちらに向け、武士が階段付近に走り寄る。しかし既にそこに椿の姿はなかった。
「失礼…」
 武士の背後から声をかけ、膝で股間を思いきり蹴り上げた。柔らかい物が潰れる感触が膝に伝わってくる。
「ぐ…ぅ…」
 唸り声とともに崩れ落ちる。椿は今まさに、男を甚振る快感に目覚めてきていた。
 再び先ほどと同じ感覚が襲い、椿は込み上げてくる笑いを必死で堪えていた。
 苦しむ姿をあざ笑うように、蹲った武士の背中を執拗に踏みにじる。
 武士は既に戦意を失い、立ち上がることすらできなくなっていた。
「忍びか…何故ここに…」
 椿はその質問に応えず、今度は抱きかかえるようにその豊満な胸を武士の背中に押し付けた。
 身体を摺り寄せ、首元に唇をあてがう。武士は全く抵抗しなかった。
 自分の死を予感しているのだろうか…それとも?…
 しばらくそうした時間が過ぎた後、椿は武士の身体を抱きかかえていた両腕を離した。
「…おやすみなさい…」
 椿は武士の頭を掴み、勢いよくその首を回転させた。
 首の骨が折れ、武士は目を大きく見開いたまま亡骸を晒した。

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 …老師の仇…塚本…。嵯峨原城…雇われ忍び、伯真…。
 彼女が悟ったその構図は、あまりにも残酷なものであった。
 過去に椿がただ一人…心を許した男…心から愛した男…。
 今さらになって悔やんでももうどうしようもない。
 あなたは…私の知っているはくしんはもう…。老師の仇は私の仇…あなたは…敵!!
 考えながら椿は走った。疾風の如く建物の中を、隙間を、すり抜けていく。
 そこには既に伯真の姿は見えなかった。


 …目的地からだいぶ離れてしまった…
 気付くと見覚えのある門のところまで戻ってきていた。
 肩を落とし、再び辺りを探りながら摺り足で一歩一歩進む。
 先ほど自分が殺害してきた死骸を横目に、同じ道を静かに進んでいく。
 …気をしっかりもって…私の任務は…大名暗殺…それだけ…
 邪魔するものは全て排除する…。失敗は許されない。
 先ほどよりはスムーズに城内に潜入できた。武士はあらかた始末してきたのだから当然と言えば当然だが。


 城内を再び、一歩一歩摺り足で進んでいく。
 階段を登っている最中、階下で足音が聞こえた。どうやら下にまだ武士が残っていたらしい。
 障子戸を開け、丁度見回りに出てきた様子だった。
 …ふふ…運の悪い人ね…
 椿は頭上から武士に跳びかかった。武士は当然驚いた様子であったが、声を発することはできない。
 そう…椿が跳び移ったのは武士の顔面へだったのだから…
 武士と対面する形で両足の膝裏を武士の両肩に乗せ、股で武士の口を塞ぎ、喉を絞めつけた。
 そして…身体をくるりと反転させて倒れ込んだ。その喉を太腿でしっかり絞め上げたまま…。
「ぐ…あ…」
 武士がもがく。
 武士は必ず無駄な抵抗をするものなんだね…
 そんなことを考えながら、椿は喉を捕まえている太腿に力を込める。
 …!!!…
 ゴキッという音とともに首の骨が折れ、武士は絶命した。
 何故だろう…この感覚は?…ふふふ…
 絶命した武士の死骸を見つめながら、椿は腹の底から込み上げてくる笑いを必死で我慢していた。

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 …!!…

 突然のことだった。提灯の灯りがぱっと目の前を照らしたかと思うと、そこに一人の武士が現れた。
「何者!!」
 刀を抜き、警戒しながら椿に近付いてくる。椿は手にした小刀を素早く隠すと、武士に近付いていった。
「失礼申し上げます。嵯峨原城の大名殿に呼ばれ、ここまで馳せ参じました。」
 怪訝な顔をして武士が尋ねる。
「そなたが?…そんな話は…それに、なにぶんこのような夜更けに…」
 椿は途惑う武士の足元に跪き、真剣な瞳でじっと相手の目を見つめた。
 切れ長で水が滴るような瞳だと言われたこともあるその両の目は、椿の武器の一つだ。
 それに、すらりと伸びた手足も。柔らかな胸も。全てが男を惹き付けることを椿は知っていた。
 武士は案の定、椿の身体から目を離せなくなっているようだった。
 男の喉がゴクリと鳴った。
 椿はその一瞬の隙をつき、武士に身体を摺り寄せた。武士の刀の位置をしっかりと確認する。
 とっさに椿は武士の口を押さえ込んだ。驚いた武士が力いっぱいもがく。
 椿は武士の腹に膝蹴りを入れ、蹲ったところを足で押さえつけた。それと同時に、手に持った鎖を武士の首に巻きつけた。
「…これでお別れね…」
 椿は足で武士の身体を押さえつけたまま、両手で持った鎖を思いきり引き上げた。
 海老反りの形で絞め上げられた武士は、声もなく絶命した。


 最上部は近い。直感的にそう感じていた。警戒にあたる武士の声は全く聞こえてこない。しかし、その代わりに痛いほどの殺気が漂ってくる。
 !!!!
 首元を光るものが掠めた。
 …小太刀?…忍び?…
 椿は警戒を強め、辺りを見回す。
 …あ…あ!…
 椿は動揺を隠すことができなかった。しかしそれは相手にとっても同じことであったようだった。
「はくしん!」「つばき!」
 同時に言葉を発する。
「お…お前…どうしてここ…あっ!おい!」
 椿はその場から走って逃げた。
 …どうして?…どうして伯真が…
 しかし椿にはその答えが分かっていたのだ。分かっていたからこそ、顔を合わせることができなかった。

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 目が覚めると、椿は涙を流していた。
 夢を見ていたらしい。遠い日の、温かくも寂しい夢…
 幼馴染は、もう潮鳴の里にはいない。己の夢のために旅立っていった。
 里が襲われた時、彼がいてくれたら。そう悔やんだこともある。
 戦で里の人手が少なくなっている時に、襲撃は行われた。潮鳴の忍びは腕に覚えのある者ばかりといえど、圧倒的な武力の前に敗れていった。
 老師もその時に逝った。椿も片腕を失いかねないほどの怪我を負った。
 軍を指揮したのは、隣国の大名、塚本権三…。
 彼の城の名は、嵯峨原城。黒くそびえるその城に巣食う大名をこの手で殺す。
 それが、今回の任務。
 椿は頬をつたう涙を拭った。

 ――私は任務のために生まれたのだ。

 椿は立ち上がり、城の内部へ静かに歩を進めていった。



 暗闇はいっそう辺りを包み込み、霧もますます深くなってきた。
 城内の階段を一歩一歩摺り足で上がっていく。壁を背に忍んで歩く。
 ふすまの前にさしかかった時、その向こう側に人の気配を感じた。
 腰を屈めて向こう側の様子を探る。どうやら部屋の中にはその一人だけが待機しているようだ…
 椿は迷わず小刀を逆手に持ち、後ろ手にふすまを突き刺した。
「うが…」
 低い小さな声が漏れる。
 …また一人、出来上がり…
 ふすまを突き刺した小さな穴から血飛沫が漏れ、小刀から血が滴り落ちる。
 敵を殺す度に、椿の使命感が満たされていく。素早く、迅速に、美しく。
 老師から教わった以上の技を、椿は実践の中で覚えていった。
 小刀を素早く抜き取ると、ふすまの向こう側からどさっと人の倒れる音がする。
 ふふ…おやすみ…
 小刀を軽く振って血を払うと、椿はまた壁を背に城の最上部へ向けて進み始めた。

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 …肩が痛む…気付くと先ほど斬られた肩から出血していた。
 予め用意してきた布を肩に巻きつけ、手当てをする。
 …これ以上…続けられるかしら…
 椿は自問した。嵯峨原城内部からはまだ多くの声が聞こえてくる。
 …できるの?…私に…
 椿は暗闇に包まれながらその場に座り、考え込んだ。
 頭が朦朧とする。草陰に座り込み、身を隠したまま椿は意識が遠のいていった。



 椿の育った潮鳴の里は、これまで何人もの忍者を輩出してきた。
 古来より世に送り出した忍びは数知れない。
 自分の親の顔すら知らない椿にとっては、潮鳴の里が全てであった。
 椿は幼い頃から忍術についてたくさんのことを学んできた。
 老師が椿に声をかける。
「ばかもん!こんなことでへこたれておってどうする!忍びの道は険しく…そして厳しい…」
 老師はいつも叱るばかりで、褒め言葉はほとんど口にしない。それでも、何かあった時に密かに助けてくれていることを椿は知っていた。
「やーい、やーい。つばきのへなちょこー。」
 いつも憎まれ口を叩いてくるのは、同じ里で育った仲間の男の子だ。彼も椿と同じ孤児で、里の子どもとして育てられていた。
 …へなちょこ…いい度胸じゃない!…私の本気見せてあげる!
 老師の下、二人は忍具を手に競り合う。一人前の忍びになる為に。励まし、励まされ、時には組み手の相手として真剣に闘った。
 稽古は毎日夕暮れになるまで続いた。
 ある時、彼がぽつりと言った。
「…なぁ、つばき?お前、夢ってあるのか?」
 疲れ果てた身体の椿は、草むらから起き上がることもできない。それは彼も同様で、二人で倒れ込んでいる時のことだった。
 彼の表情は見えない。
「俺はよ。いずれ立派な忍びになって、大名に天下を取らせるんだ。そして戦が終わったら、必ずここに戻ってくる。この潮鳴の里にな。」
 椿も彼も、物心つく前からこの里にいた。生まれた場所は知らないけれど、ここが二人の故郷なのだ。
「はくしん…」
 呼びかける椿の声に、返事はなかった。ただ黙って、二人で空を見上げた。

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 一人…二人…武士は自分の持ち場をそれぞれに徘徊している。
 椿は足音に注意しながらそっと屋根に登り、その動きを見極める。
 一瞬の油断が命取りになる…
 椿は機を見計らう。屋根の上から武士の頭上に飛び降りると、身に着けていた鎖を首に巻きつけ、力いっぱい両手を引く。
「ぐ…が…」
 首が引きちぎれんばかりの感触が鎖から手に伝わってくる。
 続けて一段高みの城壁に跳び移り、その上を歩いているもう一人の武士を引きずり降ろす。
「うわっ!」
 引きずり降ろすと同時に椿はその長い生脚を相手の首に巻き付け、吊り下げた。
 ここでも二人の武士を絶命させることに成功した。
 鼓動が高鳴っているのが分かる。失敗は許されない…
 殺した二人の見開かれた目が胸に突き刺さり、椿は思わず目を背けた。


 城へと登る階段。奥へ奥へと歩を進めるにつれて、重々しい雰囲気が辺りを包んでいく。
 椿は腰を低く構え、そろそろと城の内部目指して一歩一歩進んでいった。
 …その時…突然目の端にキラリと光るものが見えた。
 危険を察知し、脇へ転がり身をかわす。そこには一人の武士がこちらを向いて立っていた。
「??…曲者!!」
 …しまった!
 武士が刀を構える。椿は瞬時に武士に跳びかかり、腹部を思いきり蹴り飛ばした。
 うっ…
 どうやら弾みで刀が触れ、肩を少し斬られた様子だった。
「ぐはっ!…お…おのれええ…」
 武士は腹を抱えつつ、体勢を整えるように刀を握りなおす。
 …椿はその時既に、武士の背後に回っていた。
 するりと武士の首に鎖を巻きつけると、背中合わせに立った。
「…さよなら…」
 椿は身体を軸に、荷物を背負うように背中合わせに鎖を力いっぱい前方向に引っ張った。
 武士が目の前に倒れ込むと同時に、椿はその背中に勢いよく小刀を突き刺した。

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