Black Onyx [ブラックオニキス];2007/ 04の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2007年 04月 に掲載した記事を表示しています。
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 この夜の霧は深かった。
 己が足元すら覚束なくなるような、暗い闇が辺りを覆い尽くしていた。
 椿は、そっと手の中の小刀を握りしめる。
 身を包む忍者装束は紅を基調としたものだ。炎を模した刺青が、その脚に施されていた。
 椿の目の前に立ちはだかる嵯峨原城は、戦の緊張に包まれている。
 震えそうになる自分に、「これは任務だ」と言い聞かせた。
 三国の勢力争いは日に日に勢いを増し、もはや話し合いでの解決などは望むべくもなかった。
 嵯峨原城を巡る戦の中では毎夜、武士達の多くの血が流されていた。
 椿は忍びとしての自分の役割をあらためて肝に命じると、ゆっくりと城に向けて足を運んだ。
 …………
 潜入した城の中は異常なまでに静まり返っていた。
 そのことが、かえってこの戦の緊張感と物々しさを表現している。
 暗雲が立ち込める中、至る所に武士達の姿が見える。
 椿は身を屈め、ひっそりと任務に向けての行動を開始しようとしていた。


 月明かりだけが城の中をうっすらと照らし、その輪郭をぼんやりと映し出している。
 城の門は開かれていたが、一人の武士がしっかりと見張りに付けられていた。
 緊張と不安で鼓動が高鳴る。その鼓動が相手に聞こえてしまいはしないかと内心震えていた。
 椿は門の前の武士に近付き、相手を注視しながらに視界に入らないようそろそろと背後に回りこむ。
「…ごめんなさい…」
 背後から武士に耳元でささやくと、椿は逆手に持った小刀で武士の喉元を切り裂いた。
「く…」
 ほとんど声もなく武士は息絶え、その場に崩れ落ちた。
 手がいつまでも震えている…。人はこんなに簡単に死んでしまうのだ…
 武士の亡骸をしばらくじっと見つめ、椿はさらに城の奥へと足を踏み入れた。


 門を潜ると目の前には高い城壁で囲まれた嵯峨原城がその姿を現す。
 城の至る所に武士が配置され、それぞれが提灯を持って見張りをしている。
 椿は一瞬怯んだ。先ほど人を一人、難なく殺めてしまった罪悪感や恐怖感が一体となって椿を包み込んでいた。
「これが私の任務…。大名塚本を暗殺するまでは…帰れない…」
 椿はあらためて自分にそう言い聞かせ、決意を固めた。

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執筆に苦労。それが、第一の率直な感想です(汗)
書き始めた頃は、設定だけが私の中に鮮明に確立されていました。
しかし同時に、気弱な「僕」の性格や人柄などがなかなか捉えきれず……
私の手をどんどん離れていく感覚が、常に纏わりついてました。
動機は「ソフトな作品も書いてみたいなぁ」と、ただそんなものでした。
今回の「鬼畜度」は★☆☆☆☆です。
(鬼畜度については、専ら作者の独断です。ご了承ください。)

何はともあれ、無事? こうして一つの作品としてまとめ上げることができて、一安心といった感じです。
読者の皆様にとっては、またまたつっこみどころ満載で(汗)
ご要望等も多々あるかとは思いますが、どうぞご容赦ください。

ご愛読いつもありがとうございます。
これからまた、新しい作品の創作に取りかかっていこうと思っています。

●怜奈のキャラ絵 →
●怜奈の台詞ボイス →

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 怜奈さん、もう許してください。僕は…これ以上できません。

 …本当に?…

 考える度に分からなくなる。本当にこれ以上できない?
 僕は彼女に痛みや苦しみ、羞恥や快楽を与えられる。その度に…常にそれ以上を望んでいるんじゃ?…
 自問する。鞭の音が響く。その感触が心地いい。
 僕は自分に正直になっているのだろうか。自分に嘘をついてはいないだろうか…
 身体はこんなにぼろぼろなのに…。僕の下半身がそんな僕をあざ笑うように元気になってくる。
 きっと…きっと…。強く優しく温かい…そんな怜奈さんを…僕は求めているんだ。
 そう思った時、心の中にずっと引っかかっていた何かに区切りがついた気がした。
 ふっと…力が抜けたような気がした。
 自然のまま…ありのまま…。怜奈さんにされるがまま…。
 僕は彼女に身を委ねた。


 僕の身体が変わっていく…。もう僕は…きっと怜奈さん無しでは満足できない…。
 僕は主人…彼女は雇われメイド…でも…
 もうそんなことはどうでもいいのかもしれない。
 ここに怜奈さんがいる。そして僕に幸せを与えてくれる。それがきっと全てなんだろう。
 このお付きのメイドに打ち据えられながら、その感触に身を委ねながら、僕は彼女に言葉をかけた。
「ありがとうございます。」

 これが僕たちの形だ。



END

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 夜はまたいつものように怜奈さんが食事を作ってくれる。
 さっきのお風呂で濡れたため、彼女は別のメイド服に着替えていた。
 食事が終わると彼女は決まって僕を縄で縛りつける。菱縛りと言うのだそうだ。
 彼女の前で全裸になることに抵抗を感じなくなったのはいつからなんだろう。
 生まれたままの姿でいる僕の体全体に、慣れた手つきで縄をするすると這わせていく。
「ご主人様の…いつ見ても小さくて可愛いですよね。」
 僕はその言葉にまた赤面する。そんな僕の姿を見て彼女はまた僕を抱きしめて愛でるのである。
「はい。出来上がり。」
 身動きが取れなくなった僕の全身を、舐めるように見回す怜奈さん。これがどうしようもなく恥ずかしい。それなのに…
 いつもそうだ。いつもこの瞬間…僕の下半身はパンパンに膨れ上がってしまう。

 僕は自分の身体が日に日におかしくなっていくような感覚が怖い。僕の身体は…普通じゃなくなってしまっているのだろうか…

 そんな僕の気も知らず、彼女は僕に首輪を施し、同時に手枷と足枷で僕をベッドに縛り付ける。
「気持ちいいですか?ご主人様。」
 …そんなこと言われても…。
 いつもこの質問には困る。自分自身が分からなくなる。
 でも僕の下半身は既に、はちきれんばかりのみっともない姿を晒している。
「はい…多分…気持ちいいんだと思います…」
 彼女はその言葉を聞くと僕に覆い被さり、全身を舐め回す。これはすごく気持ちがいい。
 メイド姿がすごく可愛らしい。時折覗く下着や胸の谷間に僕はドキドキする。
 そして何といっても僕に向ける無垢な笑顔が大好きだ。
 僕は…僕は…怜奈さんに特別な感情をもっている。確実に…
 でもやっぱり…これって正常な関係なんだろうか?
 一通り彼女の愛撫が終わると今度は彼女が鞭を持ってくる。いつものように僕はこの瞬間に心底怯える。
 また…やっぱり痛いことされるんだ…
 仰向けに寝ている僕のお腹を足の裏で踏みつけ、鞭を片手に僕を見下ろす。
「ご主人様。今日もたくさん傷つけてあげますからね。」
 そう言うと同時に怜奈さんは僕の身体に鞭を叩きつける。何度も…何度も…
 その一発一発が僕を打ち付ける度、僕は絶叫する。
 どうして…どうしてこんなに痛いんだろう…痛い…でも…
 どうして僕の下半身はその度にさらに膨れ上がってしまうんだろう。
 彼女は何度も何度も僕に鞭を打ち据える。
「どうですか?ご主人様。痛いですか?それとも?…ふふふ…」
 僕は何を思えばいいんだろう…もちろん痛い…でも…
 さらに鞭が何度も僕に襲いかかる。
「あら。また今日もこんなに膨れ上がっちゃいましたね。ふふ…ご主人様、可愛いです。」

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「あはは!ご主人様ったら『許して』なんておかしい。こんなに面白いのに!」
 怜奈さんには敵わない。到底僕には抵抗する意志も力もないのだ。
「それじゃあ、お背中流しますね。」
 そう言うと彼女は僕の全身を洗い始める。一日の疲れが一気に取れるようで心地がいい。
 もちろん下半身も念入りに洗ってくれる。馴れた手つきで両手を僕の恥部に這わせ、隅々までボディソープを行き渡らせる。
 股間を擦られ、いつも僕は陰部を大きく膨らませてしまう。
「あ、大きくなりましたね。いつも洗いやすくしてくださってありがとうございます。」
 悪戯心なのか…それとも本気で言ってるのか…
 しかし僕にはそれに対して返す言葉を持ち合わせていない。
 恥ずかしさではない…もちろん怒りでもない…。好奇心旺盛な彼女に対する刺激が怖いのだ。
 彼女の為すがまま…僕はされるがままにその行為の全てを受け入れる。
「流しますね。」
 シャワーを僕の全身にかけていく。その時彼女はいつも僕の後ろ髪を掴み、前から両足で僕の身体を挟み込みがっちりと固めるのだ。
 僕はその間身体を動かすことはできない。…というより僕には怖くて抵抗する意志など微塵もないのだが…
 身体中のボディソープがシャワーで少しずつ流されていく。その間、彼女は僕の顔を興味深く笑顔で見つめている。…何をされるんだろう…
 僕の不安の予想通り、怜奈さんは僕の顔にまでシャワーをかける。顔を背けようとしても髪を掴まれているので動かすことはできない。
 口にたっぷりとシャワーをかけ続ける。…く…苦しい…苦しい…
「ゆ…許し…ゆぶしぶぇ…ごほ…くださ…ごぼごぼ…」
「どうしましたか?気分でも悪いですか?」
 僕は必死で抵抗し、酸素を求める。そんな僕を見てまた彼女は屈託のない笑顔で笑うのだった。
「またご主人様ったら『許して』なんて言ってる。あはは!可笑しい!!」
 …僕はこんな日常的に行われる行為に慣れてきているのだろうか…それとも?…
 身体中のボディソープが流れ終わったころ、僕は清潔になった自分の身体に気持ちよさを感じると同時に、下半身は大きく膨らんでいた。これもまた僕にとっては自然なこととなっていたのだ。
「じゃあ仕上げのマッサージをしますね。」
 そして彼女は僕の膨らんだ陰部を口いっぱいに頬張る。その快感に僕は三分ともたないうちに射精してしまうのだった。

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 家に帰ると僕は全身にびっしょりと汗をかいていることに気が付いた。
 あんな状態では無理もないだろう。僕はロングコートを脱ぐと怜奈さんに手渡した。
 彼女は黙ってコートをハンガーにかけ、僕の頭を撫でる。
「ご主人様。とっても頑張りましたね。すごく可愛かったですよ。」
 その言葉に僕は照れる。怜奈さんの屈託のない笑顔を見ていると、やっぱりこれでよかったんだと心底うれしくなる。
「お風呂沸いてますから、お入りください。」
 そう言うと彼女は俺の身体に、猫のように顔を擦り付けてくる。
「よろしければ…あの…お背中を流させていただきたいんですけど…」
 うつむいたまま頬を朱に染める彼女が本当に愛らしい。僕に断る理由など到底なかった。

 僕は生まれたままの姿で浴槽に浸かる。怜奈さんはその長い髪を後ろで束ね、靴下だけを脱いで浴槽の横にしゃがみこみ、そんな僕の姿を横でじっと見ている。
 間近で見る彼女のまつ毛は長く繊細で、僕は照れを隠すことができない。何より一番正直なのは僕の下半身だ。
 僕はどうにかそれを隠そうと彼女から顔を背けた。
 しかし彼女はやっぱりそのことには気付いていたようだった。
「どうして斜めになってるんですか?ふふ…もしかして大きくなってたりして…」
 怜奈さんの言葉に僕は言葉を失う。またも恥ずかしさから顔を背ける。
「何でもないですよ…」
 僕は悟られないようにと虚勢を張る。そんな僕に彼女はいつも以上に厳しい視線を投げかけた。
 そして…
 彼女は急に僕の髪を掴んで浴槽に顔を沈めてきた。彼女の笑い声が遠くの方から聞こえてくる。
「ほらー。溺れちゃいますよー。ご主人様、早く出てきてください。」
 言いながら彼女は手の力を強める。僕は苦しさからもがいた。
 しばらくして彼女は僕の頭を引っ張り上げ、僕はやっと水面上に顔を出すことができた。
「ご…ごほっ…ごほっ…やめ…何するんですか…」
 怜奈さんは僕の動揺を完全に楽しんでいる様子だった。
「え?ご主人様…もう一回やってほしいんですか?」
「い…いやそんな…ごぼぼっ…」
 また同じように沈められる。怜奈さんの悪戯は本当に度が過ぎている。
「楽しいですよね?ご主人様?」
「い…いや…だから…」
「え?まだやってほし…」
「いえ!ご…ごめんなさい。もう…もう許してください。」
 僕の言葉に彼女はまた可笑しそうに笑った。

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 ありふれた風が心地よく吹く昼下がり。
 昼食を済ませた僕たちは一緒にショッピングに出かけた。
 もちろん僕の服装はロングコートと首輪だ。今回は彼女が僕に下着を着けてくれた。いつものように首輪を気にした僕はコートの襟を持ち上げる。
 準備が整ったころ、怜奈さんは僕に身体を摺り寄せてオネダリをしてくる。
「ご主人様…これ…。」
 …それは僕たちだけのキーワードなのだ。
 いつも通り、僕が前を、そして僕の三歩後ろをお付きのメイドが歩く。
 何の変哲もない。二人で仲良く散歩。ただ違っているのは…僕のパンツの中にバイブが入っていること…
 彼女は嬉しそうにバイブのリモコンを持っている。
 時々その勢いを強めたり弱めたり…そしてその度に僕の反応をまじまじと見つめてまた嬉しそうにくすくすと笑うのだった。
 僕は自然と、幾分前かがみになってしまう。明らかに不自然な姿勢。
「面白い立ち方ですね。ご主人様、どこが具合でも悪いんですか?」
 彼女は小悪魔のような笑顔でそんな僕を見つめる。僕はこの笑顔に弱い。
「いえ…」
 僕は何事もなかったように怜奈さんと出かける。

 店の中でも僕は落ち着かなかった。自分の格好もそうだが何より…
 …ヴィーーーーーン…
 く…ひぃぃ…
 時々僕の股間を刺激するこの振動に力を奪われる。
「どうしたんですか?やっぱり調子悪いんじゃないんですか?」
 僕が悶える度に怜奈さんは僕ににこにこして近付いてくるのだった。
「だ…大丈夫ですよ。平気ですから…」
「……」
 あうっ!!…
 平静を装う僕の言葉と態度に反応し、彼女はバイブの勢いを増す。
「そうですか。ふふ…じゃあ心配要りませんね。」
 悪戯混じりに彼女が笑う。僕は膨らんだ下半身を必死で隠しながら顔を赤く染め上げていた。

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 ……
 日曜日の午前中は散歩を日課にしている。
 僕はいつものように怜奈さんに首輪を付けられ、全裸に薄手のロングコート一枚で外出する。
「その中身、他人に見られたらどう思われるんでしょうね。」
 彼女がいたずら半分に僕に問いかけ、笑う。
 僕は気恥ずかしさから頬を朱に染める。そんな僕を見てまた彼女はくすくすと可笑しそうに笑うのだった。
 僕が前を、そして僕の三歩後ろをお付きのメイドが歩く。ゆっくりと、静かに。
 他人から見たら僕たちはカップルのように見えるのだろうか?いや、むしろ亭主関白のカップルか?それとも…
 僕は自分に付けられた首輪ができるだけ隠れるように、コートの襟を持ち上げる。
 それを見た彼女は笑顔のまま僕の臀部に蹴りを入れる。気にしていることが彼女にばれた恥ずかしさで、僕の頭は真っ白になる。
「駄目ですよ…ご主人様。」
「はい。ごめんなさい。」
 普通のカップルとは大きく違っているところ…ご主人様と…奴隷…一体どっちなんだろう?
 僕は彼女の意思の赴くままに歩く。変態そのものの格好で、平然とした顔を装いながら。

 散歩の途中で彼女は、いつものように自動販売機で飲み物を買う。そしていつものように、銀の器にそれを入れて地面に置くのだった。
「はい。どうぞご主人様。美味しいですよ。」
 にっこりと僕に笑いかける怜奈さんは本当に可愛らしい。彼女の瞳をこんなに間近で見られることを、僕は心底幸せに感じていた。
 家から百メートルも離れていない近所の公園。木陰に腰を下ろした彼女は僕の様子をじっと観察するように見ている。
「ありがとうございます。」
 僕は器から飲み物を飲む…と言うよりは舐めると言ったほうが適切だろう。
 彼女の足元で四つん這いになり、地面に置かれた器に顔を近づける。彼女はそんな僕の背中に両足を乗せて足置きにする。この瞬間、何故か僕はこれ以上ないほどの幸福を感じるのだ。
 全て飲み終わるまでにはさすがに時間がかかる。僕は誰かに見られはしないかといつものように動揺をちらつかせる。
 その度に、彼女は僕の背中をさらに強く踏みつけるのだった。

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 キッチンでは怜奈さんが、すでに調理済みの食器を洗っているところだった。
 居間のテーブルには僕の朝食がすでに準備され、銀の器に入れられている。
「あ、ご主人様。」
 声をかけた怜奈さんとこうしてあらためて並んでみると、二人の身長差は僕の方が若干高い程度だ。
 彼女は僕に気付くと静かにテーブルについた。
 僕はいつものように彼女の足元に跪き、四つん這いの姿になる。
「さぁ、お食事にしましょう。」
 怜奈さんは銀の器の数々を徐に地面に置く。そこには手の込んだ彼女の特製料理が盛られている。
 僕が食事の方に体を向けると、彼女はその食事の一つを足で思いきり踏みつけた。
「さ、どうぞ召し上がれ。お口に合うといいんですけど…」
 僕は食べ物で汚れた彼女の足を掃除するように、足全体を舐め回す。その度に彼女は純粋なまでに白いその足で僕の顔を撫で回すのだ。
 僕たちにとっては日常の何気ないワンシーン。でもそれは明らかに常軌を逸したワンシーン。

 いつからこんな関係になっているんだろう。これが当たり前の生活?…いや、絶対違う!
 メイドの怜奈さんとの関係はどう考えても不思議だ。でもそれが僕たちの中では既に当然のように定着している。自分自身戸惑いを隠せない。第一怜奈さんはこのことをどう思っているんだろう。
「美味しいですか?ご主人様。」
 僕は怜奈さんの足から食事を取る。口の周りが食べ物で汚れる。
「あらあら、ご主人様ったらこんなに汚しちゃって…」
 彼女は僕の髪を掴んで顔を引き上げ、その舌で僕の顔についた食べ物を舐め回す。
 小さく柔らかい唇の感触が、僕の顔全体を包み込む。
「はい、綺麗になりましたよ。」
 僕はそんな怜奈さんが愛しくてたまらない。世間から見てどうかなんてどうでもいいのかもしれない。
 現に僕は今幸せだ。それだけはちゃんと分かっている。
 ただ僕の中にあるモラルとかあくまで人間であるという観念とか、そういったものが完全に僕を解放してくれないのだ。
 これでいいのだろうか…。それは常に僕の中にある葛藤だった。

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「起きてください、ご主人様。」
 薄手のレースのカーテンを貫き、木漏れ日が部屋を白く輝かせる。
 心地よい鶯のさえずりと近くを流れる川の音。
 まぶしい光に押さえつけられようとする瞼に抗い、僕はベッドの上でその目をこじあけた。
「おはようございます。朝ですよ。」
 白と黒で構成されたレースつきのワンピース。白いレースのついたカチューチャ。いわゆるメイド服を身に纏った女性がにっこりと笑って僕に声をかける。
 潤んだ切れ長の瞳に、血の通った紅々とした唇。整った目鼻立ちにどこか愛嬌を感じさせる表情。髪はロングのストレートで腰まで長く切りそろえられている。
「怜奈さん…今日は日曜日じゃ…」
 僕は寝ぼけ眼のまま、ベッドの上で春の日差しにしばし身を委ねた。
 人里離れた山奥に建てられた大邸宅。僕の通う高校からは随分と離れた不便な場所に建っている。
 半年前に母と死別してから、僕は父と二人でここで暮らすことになった。
 父は司法書士で、仕事が忙しくなるとほとんど家に寄りつかなくなる。
 だからこの家には家事全般を担当する僕の「お付きの人間」が存在する。
 腰まで伸びたストレートの髪にレースの飾りをつけた、僕専門のメイドだ。

「ご主人様。お食事のご用意ができていますので、すぐに居間の方へお越しください。」
 彼女は僕の頭をやさしく撫でてから寝室を出て行った。
「あの…ご主人様はやめてください。雄太でいいですから。」
「申し訳ございません、ご主人様。」
 …いつもこんな調子…
 ぼうっとした頭を掻きながらしぶしぶ着替えを始める。
 休みの日くらいもう少しゆっくりと寝たいんだけどな…
 そんなことを考えながら鏡の前に立つ。
 短く切りそろえられた髪の毛には、寝癖がついてしまっている。
 撫肩で筋肉一つついていない華奢な身体。弱々しい目。
 百六十センチそこそこの身長。いつだって冴えない表情。
 …はぁ…
 僕はあらためて深いため息をついた。
 まだ開ききらない目を擦りながら、僕はゆっくりと居間へと足を運んだ。

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小説だから実現しうる、あり得ない空想の世界。
そういったものを制作してみたいと、事あるごとに考えていました。
今回の作品では世の中の設定をむちゃくちゃに改変するところから始めました。
私の頭の中で創られたとんでもない世界が舞台なので、少々とっつきにくいところがあったかもしれません。

今回もまた、たくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

●凛のキャラ絵 →  


[ 初出 ]
女がリンチや暴力で男を従わせる小説2(dat落ち)
(※作品は、初期の投稿から一部改訂しています。)

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「あなたがまだよくご存知ないのは仕方がないことです」
 刑事はそう前置きし、言葉を続けた。
「あなたの犯した罪は、殺人および公務執行妨害、加えて……正当拷問自白法拒否罪だということです。適用される刑罰は、こちらも新法案である拷問刑です。執行猶予はもちろんつきません」
「な、何? 拷問……刑、だと?」
「運がいいですね。あれだけの凶悪殺人を犯しておきながら、死刑は免れたわけですから」
 意味が分からない。自白しなかったんだから、証拠不十分で免罪じゃないのか?
「要するに、あなたは合法である『正当拷問自白法』違反により、これから一生、拷問を受け続けることになった。そういう刑罰だとご理解ください」
 ――な、な……そんな、馬鹿な……
「ま、法律違反ですからね。刑罰はきちんと受けていただきます」

 ――う、あああああああああ!!!!


 --------------------------数年後--------------------------

「お、俺がやったんだ。俺が、女八人を強姦した挙句に殺したんだよ!」
「そうですよね。分かりました。さて、それでは早速、今日の拷問を始めます。来なさい」
 ――嫌だ。嫌だ。もう、こんな風に毎日拷問される生活は……嫌だ!
 ――誰か! 誰か助けてくれ!……もう死んでしまいたい。こ、殺してくれ! 死刑にしてくれ!!
 またいつものように、女と二人きりで小部屋に閉じ込められる。
「今日のメニューは爪剥ぎと抜歯、それから右腕の骨折です。担当刑事の後藤由香利です。よろしくお願いします」

 それはまさに、俺にとって死を超える恐怖。この世に見る地獄であった。



END

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 気付くと俺は独房に入れられていた。
 ――俺は、どうなったんだ?
 体中が痛むが、傷の手当てがしてある。
 ――生きてるんだ。い、生きて……、はははははははは。
 腹の底から笑いがこみ上げてきた。声も出さずに、心の中で大声で笑った。
 ――俺は生きてる。生きてる! クソ刑事どもに、俺は勝ったんだ。はっ、ざまーみやがれ! あはははははは!! うっ……
 まだ体中の痛みはチクチクと俺を襲う。有刺鉄線の傷は一部治りかけていた。
 気絶してから数日は経っているらしい。だが今俺は、自白しなかった自分が誇らしくて仕方がなかった。
 ――絶対、ここから逃げ出してみせる。逃げ出してみせる!
 ぼんやりと独房の天井を眺めていた。証拠は絶対に不十分だ。確かに全てを隠しきることは不可能だった。だが、俺は自白をしなかった。刑事を二人も殺したが、それは身を守るために仕方なくしたこと。情状酌量の余地は十分にあるはずだ。
「くくくく」
 笑いが声となって漏れる。
 ――政府のクソ野郎ども。国家権力の奴隷ども。俺を裁くことは不可能なんだよ。あははははははは!!

 しばらくすると刑事が二人、独房の鍵を開けに来た。俺の両脇を抱え、またあの小部屋に連れて行く。
 ――ま、まさかまだ、続けるのか?
 あの女の拷問を思い出し、身震いをする。恐怖心が、再び芽を出す。
 ――だが俺は、絶対に言わない。絶対に……
 そんなことを考えている矢先、一人の刑事が口を開いた。
「まだ続くと思ってますか?」
 虚をつかれた。心の奥を見透かされたようで不快だった。
「いくら拷問されたって、俺は本当のことしか話せねえよ」
 俺の言葉に、刑事はやっぱりといった顔つきで俺に語りかけてきた。
「あなたの裁判は終わりましたよ。何日も気絶していたので略式裁判となりましたがね」
 刑事は淡々と俺に告げた。
 ――略式、裁判?
「あなたは、新法案発足後、初めての違反者となります。よって、正当拷問自白法拒否罪が適用されることになりました」
 ――こいつは何を言ってるんだ? どういう意味だ?
 何が何だかさっぱり分からない。俺は混乱し、戸惑いを隠すことができなかった。

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「ごほっ……、うええっ! げえええええ!!」
 搾り出すように、俺は吐血を繰り返す。破壊された内部の苦しみは俺から戦意そのものを奪っていた。
 ――もう、抵抗できない……
 仰向けに倒れ込んだまま、しばらく天井を見上げる。女は立ち上がり、何やら道具を取り出している様子だった。
 ――いったい、今度は何を……?
 無表情のまま、女は倒れている俺の目の前に立ちはだかり、俺の腹を足で踏みつける。それと同時に凄まじい激痛が再び俺を襲う。
「もう諦めてくださいね。あなたは反抗的すぎました。とても残念です」
 そう言うと女は、既に無抵抗を余儀なくされた俺の身包みを全て引き剥がす。俺は羞恥心から自然に身体を縮こめた。その時、女の手にしているものが目の端に映った。警棒だ。しかし、単なる警棒ではないことは遠目にも明らかだった。
 そこには有刺鉄線が万遍なく施されていた。世にも恐ろしい武器が、俺の恐怖心を煽る。
「ま、まさか、まさか……、や……」
 女の目は据わっていた。俺を直視しながら、その警棒を俺の身体めがけて思いきり振り下ろした。
「ぎぃやぁああああ!!!」
 とてつもない痛みに一瞬我を忘れる。しかし女の手は休まることを知らなかった。
 頭、肩、腕、腹、腰、太腿、脛。あらゆる部位に凶器が振り下ろされる。心持ち、女の表情に狂気にも似た笑みらしきものが浮かんでいるように見える。痛い! 痛い!!
 俺は必死で身体を丸めた。殴打を続けられ、俺の身体のどこからともなく鮮血がほとばしる。
 ――殺される!
 直感的にそう感じた。
 倒れた俺の目の前には、死んだ刑事の顔があった。少し開いた目からは、既に光は感じられない。
 ――死んだら俺も、こいつらと同じような姿に……。嫌だ!! この女には……、この女にはもう、逆らってはいけないんだ。従う……、従う!!
 女はそれから俺の身体に再び馬乗りになり、体中を鉄線でチクチクと甚振り、抉り始めた。反対の手で喉元は完全に押さえつけられ、声も出すことができない。
 俺はこの時初めて後悔を知った。この女には、逆らってはいけなかったのだ。
「体全体を抉っていきますね。あなたは、どこまで耐え切れるのかしら……。ふふふふ」
 身体中のいたるところに有刺鉄線が突き刺さり、俺の皮膚は鉄線に抗うことなく裂けていく。
「ここ、痛いんでしょうね。男性が、一番感じる部分ですものね」
 女は、俺の陰部にまで鉄線を近付ける。そして――
「ぐ、ぎぃやああああ! ああああ、がああああ! うああああああ!!」
 ――待ってくれ、許してくれ! もうやめてくれ! 話す! もう何でも話すから……
 そう考えた俺の口からは、もう既に言葉は発せられなかった。出せるのは、叫びだけ。身体の全てが崩壊していく。
 俺は、とうとうその場で気を失った。

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「あなたは私を怒らせました。覚悟は……できていますね……?」
 ――く、くそ、くそおおっ!
 女は俺の方を向いたまま、銃を持った手を後ろに向ける。
「ま、まさ、か。や、やめ……」
 地味な銃の音が二発。銃弾は俺の両方の太腿を打ち抜いていた。この世のものとは思えない痛みがまたしても俺を襲う。
「ぎゃあああああああ!!!」
 四肢崩壊。
 もはや俺は自分で身体を動かすことすら出来なくなっていた。女は俺の太腿に出来た穴に手を突っ込み、ぐりぐりと弄ぶようにそこを甚振る。その度に俺は絶叫し、気付くと俺の喉は枯れ果て、まともな声も出せないほどになっていた。
「もう時間がありません。このままでは、あなたは出血多量でいずれ死亡してしまうでしょう。最後にもう一度、聴きます。串田区連続凶悪殺人犯は、あなたですね」
 あまりの痛みに、女の問いかけは耳の奥の方でかすかに聞こえる程度だった。しかし絶対に自白はしない。そう誓ったことは忘れてはいなかった。
 ――こうなったら、意地を張り通してやるからな。そして……、こんな拷問では何も解決しないことを、世に訴えてやる。そして俺は……無罪放免だ。世間の同情、というおまけつきでな……あぁ、ぐっ!
「事実は、変わらない。俺は……無罪だ」
 太腿の痛みは、和らぐことなく俺に襲いかかる。俺は出血のためか、だんだんと意識が朦朧としてきていた。
 女は俺の変わらない態度に呆れ果てていた様子だったが、俺への拷問はその後も止むことはなかった。左の腕で俺の喉を押さえ込み、今度は執拗に腹を責め続ける。
「ぐ、え……おえええ! うぐぅ……! は、ぐううっ!……あうぅぅ、……ぐぶぅ!」
 内臓に響くほどの強烈なパンチを何度も腹に受け、その度に俺は声にならない声を上げた。鳴り止まないパンチの音が室内に響き渡り、とうとう俺は血の混じったゲロを吐き出した。
「あなたが悪いんですよ。本当に……こんな強情な人、初めてです」
 感心だろうか。それとも呆れ返りだろうか。女の言葉は、俺の脳をかすめて消えていった。
 腹責めの苦しみは想像をはるかに超え、俺は次第に壊されていく内部の感触を味わわされていた。

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 俺は半分我を見失っていたのかもしれない。恐怖心がそうさせたのか、それとも別の原因があるのかそれは俺自身にも分からなかった。ただ、俺の中の声がしきりに叫んでいた。
『殺せ! こいつを殺せ!』
 俺は馬乗りの体勢のまま、唯一使える足で女の身体を力いっぱい絞めつけた。
「うっ……ぅ……」
 女が呻き声を上げる。その声が、持て余していた俺の性欲を結果的に高ぶらせることになった。
「お前を殺してから、たっぷりと犯してやるよ。へへ、すぐに楽にしてやる」
 俺は、女の身体をさらに強く絞め上げながら、その上で跳びはねて女を何度も踏みつけた。女は苦しそうにまた声を漏らす。俺は我慢ができなくなり、女の尻に自分のモノを擦りつけた。デニムのミニスカートから覗く白い下着が、俺の欲情をいっそう掻き立てる。
「な、何を――」
 戸惑いの声が心地いい。そしてまた女を絞め上げる。女が苦痛の声を上げる。その循環に俺は興奮し、激しくモノを擦りつけながら……、やがて果てた。
 ――ふふ、お楽しみはこれからだ。
 俺は、片足で女の背中を踏みつけたまま立ち上がった。そして、思いきり女の腹に蹴りを入れた。
「ぐふっ!……う、ごほっ!」
「お前もこれから殺してやるよ。めちゃくちゃに暴行してな。はははは!」
「あなた……。こんなことして、ただでは済みませんよ」
 心なしか、女の声には余裕が感じられる。それがいっそう、俺の破壊願望に火をつける。
 ――あの女どもと同じように、お前も、……死姦してやるからな。
 心の中で呟きながら、俺は何度も女の腹を蹴り続けた。
「ほら、苦しいだろ? さっきの俺の痛みだよ。くくくく」
 女は苦しみながら、しかしどこか余裕の表情で俺を見上げて言った。
「ちょっと、あなたを甘く見すぎていたみたいです。殺されても、文句は言わないでくださいね……」
 ――ちっ、口の減らない女だ。まあいい。これから存分に甚振って……
「っ!」
 華麗な躍動が目前に見えた。女は俺の足の下からするりと身を脱し、俺の両足を自分の両足で挟み込んで力を加えたのだ。俺は意表を突かれ、もんどりうってその場に仰向けに倒れ込んだ。
 ――し、しまっ……
 気付くと女は手に銃を握りしめ、再び俺に馬乗りになり、もう片方の手で俺の首を押さえ込んでいた。

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 俺に馬乗りになったまま、女は俺の首を絞め続ける。
「そろそろ自白してください。私もあなたを殺したくはありませんから」
「ばかな。刑事が、人殺しなんて……」
「分かっていませんね。あなたは刑事二人を殺したんですよ? 私の目の前で。これを本当の正当防衛と言うんです」
 俺の目の前には、二体の死体がまだ先ほどと同じ形で転がっている。
 ――確かに、俺はこの刑事二人を……。いや、それは違う。俺だって、さっきまで拷問を受けていたんだ。俺の方こそ、正当防衛じゃないのか?
 そんな俺の考えを見透かしたように、女は続ける。
「刑事による拷問は、今や『合法』なんです。あなたは列記とした殺人犯、公務執行妨害現行犯。それ以外の何者でもありません」

 女はさらに絞める力をじわじわと強くしてくる。苦しい……
 ――畜生。俺たちには、もはや自衛権もないのか。……絶対に間違ってる。こんなやり方、絶対に間違ってる!
 仰向けになったまま両足を振り上げ、女の身体を背後から掴もうとする。しかし、女はその度に身をかわし、さらに力強く俺を絞め上げる。
「む、ぐぐ……ぐ」
 苦しさから、声もまともに出すことが出来ない。
「足がうっとおしいですね。その足も――」
 背筋が凍りついた。
 ――これは、恐怖心? この俺が? まさかこんな女一人に、恐怖を感じているというのか?
 女は力を緩めた。それから女は身体を反対方向に向け、俺の足に目線を落とした。
「ひ……ひっ、ひぃぃ!」
 自分でも驚くほどの情けない声が漏れる。
 ――やめてくれ。もう折るのは……やめてくれ!
 女はふり返り、俺の顔を見て笑みを浮かべる。
「怖いんですか? 大谷さん。ふふ、顔が怯えてますよ?」
 ――っ!……馬鹿にするな! こ、この俺を……。こ、殺してやる!
 俺は無我夢中で身体を起こし、女に頭突きを見舞った。一瞬怯んだ女の隙を逃がさず、俺は背後から女に覆いかぶさるように倒れ込んだ。うつ伏せになった女の上に、今度は俺が馬乗りになる形になった。
 ――くく……。形勢逆転、だ。

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 鈍い音が、狭い室内に響き渡った。
 俺の右腕は、女に捻り上げられたことで折れてしまったのだ。激しい痛みが俺を襲う。
「うわああああああああ!!!」
 俺は絶叫した。
 今まで体験したことのない痛みだ。痛い。痛い。当然、銃は俺の手を離れ、空しく地面に落ちた。俺は反対の手で女の脇の下から手を入れ、女の首を押し返すように力を入れた。
 ――何とか、この状況を打開しなくては。
「うぐっ!!」
 だが、女は隙を見せなかった。脚を大きく後ろに引き、俺の腹に膝蹴りを入れてきたのだ。俺はたまらず身体をくの字に曲げる。俺の頭が下がった瞬間を見計らい、女は続けて俺の顔面に膝蹴りを入れた。
「がああああっ!!」
 弾かれたように俺の身体は宙に舞い、仰向けに倒れ込む。それと同時に女は俺に馬乗りになり、今度は両手で俺の首をしっかりと掴んで絞め始めた。
 ――く、くそっ。こんなところで……、こんなところで!
「さぁ、白状してください。串田区連続凶悪殺人犯はあなたですね」
 こんな状況下でも、こいつは冷静に仕事をしてやがる。くそっ、気にくわねえ!! 絶対に口は割らない、……割らない!
 俺は沈黙を守っていた。
 ――屈したら負けだ。俺は、絶対に逃げ果せてみせる。
「し……しらね、っつってん、だろうが……」
 絞められたまま、擦り切れるような声を上げる。しかし女は、そこでまた力を強くする。
 俺は、左手で女の顔面に殴りかかった――が、寸でのところでかわされる。そして女は、右手で俺の左腕を押さえる。
「その危ない左腕も、壊しておきましょうか」
 冷静な女の口調に寒気を覚えた。
 ――まさか……まさか……
「ぐ!」
 女は俺の手首を掴んで捻り上げ、膝で俺の腕の関節を思いきり強打した。関節とは逆の方向に。俺はもう片方の手の機能も奪われた。またも激しい痛みが俺を襲う。
「ぎゃあああああああああ!!!」
 再び絶叫が響き渡る。両手を奪われた俺には、もはや抵抗する余力はなくなってしまった。
「ふぅ……。さ、続けましょうか」
 あまりに淡々とした女の言葉。まるで単純作業に取り組んでいるように、残酷な行為を平然と行う。
 俺はこの時、この女の底知れぬ恐ろしさを垣間見たような気がした。

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「正直、口実ができて安心しました。これで私もあなたを捕らえるために、本気を出せますからね」
 意外にも女には安堵の表情が浮かび、肩の力が抜けたような仕草を見せている。
 ――こいつ、手加減してたとでも言うつもりなのか? 全く、どいつもこいつも……
「ふん。あんたは、まだ状況が分かってないらしいな」
 女は黙って俺の目を見つめている。さっきまでの緊張した感じではなく、むしろリラックスした雰囲気が女から読み取れた。その仕草が俺の癪に障る。
 ――こいつ……、俺が怖くないのか?
 俺は再び銃を握りなおすと、銃口の焦点をしっかりと女に向けた。
「ほら、命乞いしてみろよ。泣き叫んで許しを乞うなら、犯すだけで許してやるからよ」
 言葉とは裏腹に、俺のこめかみ辺りから汗が滴ってくる。
 ――どうしてだ? 女一人に、俺がびびっているとでも?……馬鹿な!
 立場は圧倒的に俺が有利。しかし不思議と女から滲み出る自信や威圧感が、俺に言いようもない不安を与えているのも事実だった。
 ――不快だ。こんな女一人に……、何をしてるんだ俺は。
 その不安を振り払いたくて、女の足元に向けて威嚇射撃をしようとする。その時――
「あっ!」
 一瞬の出来事だった。女は俺が引き金を引く瞬間に身を屈めて俺との距離を縮め、銃を握った俺の右手を左手でしっかりと握って銃口を上に向けさせていた。放たれた弾丸は宙を舞い、天井に突き刺さっていた。
 女は反対の右腕を俺の首に当て、壁との間に俺の首を挟みこんで俺を押さえつけた。こんな状況にも関わらず落ち着いた表情を浮かべ、また俺をじっと見つめている。
 ――このアマが……くそっ、くそおっ!
 俺は状況の変化に焦った。しかし、このチャンスを逃すわけにはいかない。女を何とか押しのけようと渾身の力を入れる。しかし驚いたことに、女の体はびくともしなかった。
 ――何て馬鹿力なんだ、この女は?
 焦りが焦りを呼ぶ。お互いに身動きが取れないまま、相反する力が均衡を保つ。いや……。俺は気付いていた。わずかながら、いや、きっと、相当な力の差があることを。
 女は銃を持った俺の腕を捻り上げ、俺の背中の後ろに持っていく。
 ――銃は、絶対離さない!……ぐ、あああああああ!

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「ぐあっ! 何を?」
「こ、この……」
「う……」
 ふらつく三人の隙をつき、俺は色黒の腰から素早く銃を引き抜く。少し離れて銃を構え、三人に対峙する。
 股間に激痛が走る。俺は腹の中にまで込み上げてくるその痛みに必死で耐えた。
 一瞬の油断が命取りになる。俺は固唾を呑んで、三人を凝視し続けた。
 刑事二人は突然のことにあっけにとられたのか、しばし無言のままで戸惑っている様子だった。
「き、きき貴様、こんなことして……」
 言葉を言いかけた色黒を、ジジイが手で制する。
「大谷さん。暴力はいけません。さぁ、その銃を、とりあえずこちらに。穏便に、ね」
 こいつは本当の馬鹿だ。さっきまで暴力でカタをつけようとしてたのはどこのどいつだ。俺はこの刑事二人に対する蔑みの気持ちをいっそう強くした。
 ――こんなやつら……、殺してやる、殺してやる……
「おいおい。さっきまでの威勢はどうしたんだよ、え? 刑事さんよ!」
 俺は躊躇いなく、色黒の右足の太腿を撃ち抜いた。
「ぐあああああああ!!」
 色黒の絶叫が心地よく響き渡る。
 ――くくっ、俺を馬鹿にするからこうなるんだよ。
「お、落ち着け。私たちは、何も君を殺そうとかね、そんなことを考えているわけじゃ……、っ!」
 俺は、ジジイの頭を撃ち抜いた。目を大きく見開き、ジジイは絶命した。
 ――くくくく。
「あ、……ああ、た、助けてくれ……ください。おおお願いです、た……」
 俺は薄ら笑いを浮かべながら、銃口を色黒に向けなおし、その胸を撃ち抜いた。
「ふ、ふふふふふふ……、はははははは!」
 俺は可笑しくて仕方がなかった。
 ――俺の報復はきついだろ? ざまーみやがれ。
 女は壁に寄りかかり、じっと俺を見つめている。その瞳には光が感じられなかった。目の前で人が二人も殺されたんだ。無理もない。俺は勝利を確信し、銃口を今度は女に向けた。
「最後に言い残したことはあるか? 婦警さんよ」
 俺は余裕の笑みで、ゆっくりと女に近付いた。
 しかし女は、そんな俺を見つめながら、落ち着いた声で言った。
「殺人および公務執行妨害の現行犯で、あなたを逮捕します」
 ――ふん、今更何を。これは正当防衛だ。俺はこれからも逃げ延びて見せるからな。
「だったらどうだって言うんだ? お前に俺は捕まえられねーよ」
 俺は、ニヤけながら女を見つめる。よく見ると本当にいい女だ。
 ――できるならこいつもレイプしてやりたいものだがな……くくくくく。

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 そんな時、色黒がまた馬鹿げたことを言い始めた。
「同時に『男』も責めてやれや。くく、分かるだろ? 金玉だよ、金玉。はははは」
 ――何言ってるんだこいつ……。マジで、マジで正気か?
 今さらだが俺は、こいつは本当に、生理的に受け付けない。汚らしい上にゴツイしオヤジ臭がきつい。それにこの下品な言い方。俺は憎しみから、思わず横にいる色黒に唾を吐きかけていた。
「こいつ! 馬鹿な奴だ! おい、やってほしいってよ。ほら、やれよ! 命令だ!」
 女は少し頬を朱に染めながら、それでも命令と聞くと、その視線を鋭くした。
「分かりました。絶対、白状させますから」
 そう気丈に応える。
「ちょ……、本気か? ま、待……」
 女が、脚を思いきり後ろに引いた。そしてその膝が、俺めがけて飛んできた。
 ――はぐうっ!!
 下半身に衝撃が走る。内臓を揺さぶられるような感覚が俺を襲う。激しい痛みが俺の内部に響いてくる。
「ぐああああああ!!」
 痛い。……痛い。
 俺は股を閉じて腰を引き、情けない格好で押さえつけられたまま飛び跳ねる。その間にも、女は俺の首を再び絞めあげる。
「ぐ、くう……」
 また膝蹴り。
「ぐっ! こ、おおおお……あ」
 両手に握った鎖で首を絞めながら、俺の下半身に膝蹴りを何度も叩き込む。その度に俺は苦悶の声を上げ、そしてその声は絞められることで抑えられる。
 俺は痛みと苦しみを同時に与えられ、もはや息をするのも困難な状態になっていた。両脇の馬鹿二人は、そんな俺を見てニヤニヤとした気持ち悪い表情を浮かべている。
「こんなこと、いつまで続けるんだ? いくら痛めつけたって、俺からは何も出ない」
 俺の必死の叫びには、誰も応えない。しかしその瞬間、俺は感じた。
 そう。色黒が腰に装備している、――銃。気持ち悪い表情で、明らかに気を抜いている二人。俺の体もいつかは尽きるだろう。チャンスは今しかないのだ。
 俺は渾身の力を両腕に込めて、両脇の二人を目の前に引き合わせた。二人は虚をつかれたためか、意外にあっさりと体をふらつかせ、お互いに頭をぶつける。同時に、俺は女を力いっぱい蹴り飛ばした。女はよろけ、後ろの壁に体を叩き付けた。

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 当然と言えば当然のこと。
 俺に対する拷問は、ここで終わりではなかった。
「仕方がありませんね。では、例のアレ、いきましょうか」
 ――例の、アレ?
 引っかかる言い方だ。俺は内心怯えていた。
 しかし、自白を強要するこの方法は、絶対に許すべからざる行為だ。……クソ政府が。その思いが俺を常に支え続けていた。
 女が俺に近付く。刑事二人は、先ほどと同じように俺を両脇から支える。
 ――今度は、何をする気だ?
 そんな不安を他所に、女はまた俺に近付く。さきほどよりも、さらに緊張の観を高めているようだ。
 ――何を?
 女は、俺の首に鎖を巻きつけ、喉元で交差させて両手で先端をしっかりと握った。少しずつ、少しずつ……、じわじわと絞め付けられていくのが分かる。
 ――っ! く、苦し……
 俺は、既に声を出すことが出来なくなっていた。
 ――くそ……このアマ……
 しばらくすると、女は力を緩める。
「がはっ!……はぁ……はぁ……」
 俺の喉元に詰まっていた二酸化炭素が一気に吐き出され、同時に多量の酸素を欲して自然と呼吸が荒くなる。
「ご、ほっ……、て、てめえ……、はぁ……な、何しやがる!」
 俺は、怒りを抑えきることができなかった。そんな俺に、女は真剣な表情で言葉を発する。
「正直に言えば、ここで終わりにします。白状するまでは続けます」
 両脇の二人は、そんな俺たちのやり取りを笑みを堪えながら見ている。
 ――く……どこまで非道なんだ、こいつら。一生、許さねえからな。
「どうしますか? 正直に言いますか? それとも、もっと苦しい思いをしますか?」
 女は無機質に、そう俺に問いかける。
「ふざけるな! このクソアマが! 俺は最初から本当のことを言ってるんだよ。白状もなにもあるか!」
 落胆した表情を見せ、一時女は肩を落とす。そして、すぐにまた真剣な表情で俺に向き直る。再び、俺の首は女の手で絞め上げられる。さっきよりも多少絞める力が強くなっている。
 ――苦しい……、くそっ、こいつ……
 また力が緩まる。女は俺に問いかける。俺は咳き込みながらシラを切る。再び絞め付けられる。
 我慢比べ。
 ――これは忍耐勝負だ。俺は……絶対負けない!!
 しかし俺は、自分の体が次第に衰弱していくのが分かっていた。このままでは埒が明かない。

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 ――やってしまって? 殺し……? おいおい、マジで何言ってんだよ。こいつら正気か?
 女は、じわじわと俺との距離を縮めてくる。
「おい……冗談だろ? なぁ?」
 しかし女は眉一つ動かさず、それこそ真剣な眼差しを俺に向ける。額には若干の汗が滲んでいるように見えた。
 ――冷や汗? まさかな。まさか……、冗談なんかじゃないのか?
 俺は恐怖を覚えた。何より、この女の真剣な表情が「本気」であることを物語っているように見えた。女は身動きの取れない俺の腹に向け、強烈なボディブローを入れた。
「うぐうっ!……く」
 女が口を開く。
「正直に言ってください。あなたは、串田区内で若い女性計八人を襲った連続殺人犯に間違いありませんね」
 若干緊張しているように思えたものの、落ち着いた口調で女はそう話した。俺は一瞬戸惑ったが、すぐに嘘の返事をする。
「だか……ら、……違う、って言ってんだろ。何度言えば……、っ! がはああ!!」
 言葉の途中で、さらに女のボディブローが入る。鳩尾を抉るように、拳で内部を捻ってくる。
「正直にお願いします。これ以上、苦しみたいですか?」
「じょ……、冗談じゃねえ。嘘、じゃねえ、って、何度も……、ぐうえええ!!」
「正確に」
「違うっ……、ぐはあああ!!! ち、ちが……っは! ぐうおおお! ぐぶうぅ!!」
 容赦ない腹パンチの嵐が俺を襲う。俺は内部の苦しみに、今にも吐き出しそうになっていた。

 苦しみが絶頂に達した頃、俺を押さえつけていた二人が女を手で制す。
「はい。とりあえずそこまでで」
 貫禄ジジイが、そう女に語りかける。
 俺は、ほとんど虫の息だった。しかし、休む暇もなく俺を襲ってくる地獄のような苦しみから一時的にでも解放され、俺は内心ほっとしていた。
「はぁ、っ、はぁ……ごほっ! ごぼおっ!!」
 俺は咳き込み、息遣いも荒くなる。継続的に繰り出されてきた女のパンチに跪きそうになりながら、それでもここまで必死で耐えた自分を褒めたかった。だが――
「さて、と。……そろそろ、認める気になりましたか?」
 貫禄ジジイが、今にも笑い出しそうな顔で俺の顔を覗き込む。俺はそのジジイの表情に心底腹が立った。
「へっ、馬鹿……言ってんじゃねーよ、この……、クソジジイが」
「貴様! 犯罪者が偉そうな口を叩くんじゃない!」
 啖呵を切った俺に、色黒が罵声を浴びせる。
 ――本音が出やがった。
 最初からこいつらは、俺を犯罪者だと決めつけてやがる。その態度がどうしても気に入らなかった。
 絶対に口は割らない。それは、既に俺の信念となって、俺自身を包み込んでいた。

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 俺は馬乗りのまま、女の顔面を力一杯殴りつけた。女は鋭い目で俺を睨みつけている。
「お前も、あの女たちと同……」
 途中で言葉を切る。進んで自らの立場を悪くする必要はない。俺のこの行為の理由はただ一つ。そう、正当防衛だ。俺はまだ容疑者だ。自衛権があるはずだ。
 自分自身を納得させると同時に、俺はさらに何度も女の顔を殴りつけていく。もう一発、もう一発――
 その時、女は腰を力強く突き上げた。その衝撃で俺はバランスを崩し、前のめりに倒れ込む。
 あっという間の出来事だった。
 女はそのまま身をよじり、するりと俺の左腕を取ると、すぐさま腕拉ぎをかけてきた。あまりに滑らかな動きに、俺は何も抵抗することができなかった。女が絞め付けを強くする。
「が、あああああ!!」
 突然、小部屋の戸が徐に開き、さっき俺を取り調べた刑事二人が入ってきた。
「おうおう。瀬川刑事、派手にやっとるなぁ。ほな、ちょっと手伝いましょか」
 色黒のレスラー刑事が、楽しそうにもう一人に話しかける。
「ふむ、そうだな。このお方は、なかなか強情なようだ」
 色白の貫禄ジジイがそう答えると、二人は俺を女から引き剥がし、互いに俺の右腕、左腕をそれぞれ押さえ込み、壁に押し付けた。
「な、何の真似だ?」
 女は口から一筋の血を流し、なおも俺を睨みつけている。その口元には、少しだけ笑みがこぼれているようにも見えた。
 刑事達に押さえつけられ、身動きが取れず、訳も分からないまま、俺はしばしそこに立ち尽くす。見かけによらず、この二人は力がある。
 ――腐っても刑事だな。……微塵も動けねえ。
 そんな俺の目の前に、女が立ちはだかる。一瞬、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
 ――まさかな? 国家権力の名の下で、そんなこと。
「お、おいおい。何をしようが、俺は無実なんだよ! 俺からは何も聴き出せやしない。早いとこその手を離せよ」
 俺は自分の心境を隠そうと、刑事二人に啖呵を切った。
「おやおや、これは威勢のいい」
「ふざけやがってこのガキが! その空元気がいつまでもつか楽しみだな」
 刑事二人が、俺の言葉に反応する。それから、貫禄ジジイの方が女に命じた。
「では、瀬川刑事。やってしまってください。くれぐれも、殺してしまわないように」

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 ……どう出て来る?
 目の前の女を注視しながら身構える。
 さっき受けた一撃でこの女が只者でないことが分からないほど、俺も馬鹿ではない。俺から目線を外さず、なおも微動だにひとつしない女。
「言っておくが……、俺は強えぜ。甘く見てると、寝首をかかれることになるかもな」
 この挑発が果たしてどういう結果をもたらすか。神経を張り詰める。
 次の瞬間、女の身体がふっと横に揺れた。
 ――来る!!
 俺は構えを解かぬまま、目だけで女を追う。
 ――右か!!
 予想は的中した。しかし――
 ガードをしようと右腕を上げた隙を突き、がら空きになった鳩尾めがけて彼女の蹴りが鋭く突き刺さった。
「が……、く、っはっ!」
 俺はたまらず蹲る。女はすかさず、続けざまに俺の背中に踵落としを見舞う。
「ぐがああああ!!」
 俺はその場に突っ伏し、それでも目線を女から逸らさないように、キッと睨みを効かせていた。
「こ、これが新しいクソ法案の結果かよ。これが、正しい方法なのかよ……。お前は、政府の飼い犬か? 奴隷か? あ? 答えてみろよ」
 女は挑発に乗ることなく、依然として黙って俺を見つめているだけだ。
「この……アマが!」
 高ぶる感情で、俺は自制が効かなくなっていた。気が付くと俺は、女に向かって頭から体ごと跳びかかっていた。ドスンという鈍い音が響き、俺と女は絡みつきながら地面に倒れ込んだ。すかさず俺は、精一杯の力を込めて女に馬乗りになる。
「はっ、っははははは!」
 俺は笑った。こうなったら、この雌をめちゃくちゃに痛めつけてやる! 俺は八人も殺した大犯罪者だ。罪を認めてしまったら死刑は確実なんだ。絶対自白はしない。この場を、絶対切り抜けてみせる!

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「あんた、来るとこ間違ってねーか? それとも、お姉ちゃまがボクを自白させてくだちゃるんでちょうか?」
 俺はふざけて笑い飛ばした。可笑しくて仕方がなかった。
 容疑者を拷問にかけることを許容し、自白を促す政府のクソ新法案。表向きはどうあれ、犯罪を防ぐための見せしめ法案に間違いはないだろう。俺は腹を括り、この法案に対してどう対決するか、これまで考えてきた。
 絶対に、服従などしない。
 この間違った政治に警鐘を鳴らすとかそんな格好いいものではない。ただ俺のプライドが、決してそのような悪法に屈することを許さなかっただけのこと。それが――、それが?
 俺は再び笑った。馬鹿馬鹿しくて仕方がなかったのだ。

 女は依然、俺の方を見ながら真顔でじっと俺を見つめていた。そして次の瞬間――
「……っ!」
 俺の視線は強制的に上へ向けられた。
 どうやら、彼女が繰り出したアッパーカットが俺の顎にジャストミートし、俺は宙に浮かんでいた。――ようだ。
 ――ば、馬鹿な……、そんな……?
 きっと今の俺は素っ頓狂な表情をしているのだろう。無理もない。突如現れたか細い女に突然パンチを喰らわされた挙句、こうして仰向けになって無様な姿を晒しているのだから。
 女は黙ったまま真顔で俺をまっすぐに見つめている。
「……へっ、愛想、笑いの、一つもなしに……いきなりこれかよ」
 俺のふざけた態度を見ても、彼女の姿勢は変わらない。
「申し遅れました。担当の瀬川凛です。よろしくお願いします」
 眉一つ動かすことなく、形式的な挨拶をする。
「ふん。っ……、気の強え姉ちゃんだな」
 俺は、内心どうしたものかと考えを巡らせていた。予想はしていたが、油断しすぎたようだ。ただの女を間違えてこんなところに連れて来た、なんてことになれば、笑い話の一つにもなりはしない。露出の多い服装は、おそらく動きやすさ重視。決しておふざけではないのだ。
 このまま黙ってこんなのを受け続けたら身がもたない。
 絶対に服従しない。それが俺の最大の目標なのだ。

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「もう調べはついてるんだよ、大谷さん」
 取調室には刑事が二人。俺と向かい合ったその「黒いほう」が俺に話を切り出した。体格はレスラーのようであり、見ているだけで暑苦しい。
 もう一人の刑事は窓際に立って遠くを見つめ、何やら黄昏ている。そちらの「白いほう」は、肌だけでなく髪も白い。定年間際の刑事といった感じだ。だが見た目とは裏腹に、目の前で怒鳴るこいつよりも幾分貫禄が感じられる。
「女八人か。ハッ……しっかし、ようこんなにもやったなぁ。惨いこっちゃ」
 色黒は容疑者である俺に対して、まるで犯人扱いだ。まぁ、それに間違いがないことは、俺自身がよく分かっているんだが。

「これ以上シラを切るようであれば、致し方ありませんかな……」
 それまで口を閉ざして黄昏ていたもう一人の刑事が、静かに口を開く。
 ――来たか。
 予想通りの結果に、俺は驚きもしなかった。なぜなら、ここからが俺の勝負……
 政府の確立したクソ法案、『正当拷問自白法』との対決なのだから。

 連れてこられたのは、窓一つ無い小部屋だった。
 いや、小部屋という洒落た名前をやるにはあまりにも役者不足か。壁はコンクリート丸出しで、テーブル一つ無い。
 俺たちの人権はいったいどうなってるんだ? 弁護士を雇う権利くらいあって当然だろうに。全く、嫌な世の中になったもんだ。
 そんなことを考えながら、狭い部屋の隅々を探るように見回す。その時、ひとりの人物が俺の前に姿を現した。
 ――お……、女?
 驚いたことに、そこに現れたのは、こんな薄汚く狭い部屋とは到底不似合いな美しい女だった。ノースリーブ一枚の上半身。デニムのスカートに短めのブーツ。
 露出度の高い服装を纏ったその女に、俺は思わず性欲を掻き立てられる。
 俺は驚きの反面、期待の外れた嬉しさからその美しい女を舐めるように見回した。

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 新法案を巡り、国会では連日、与野党間の激しい攻防が行われていた。
「大臣はこの法案についていったいどうお考えなんでしょうか?」
「『目には目を、歯には歯を』――ハムラビ法典を知らないわけではありますまい。現代は猟奇殺人や愉快犯、放火など実に嘆かわしい事件が相次ぐ時代となってしまっているのです。この時代を立て直すには、もはや古代に学ぶより他はありません」
「この法案が現代にどのような影響を与えるのか。この法案を成立させることによるメリットをお聞かせいただきたいのです」
「犯罪者による、自白率の増加ですよ」


「新法案『正当拷問自白法』与野党合意の上、成立」
 新聞の一面に大きく記事が載っていた。諦めかけてはいたが、それでも俺は少しの希望をもってこの議論を見つめてきた。が、結果は可決。
 現実にこの法案が成立してしまったことは大きな問題だ。
 なぜなら俺は、犯罪者だから。
 事実は、紙切れ一枚で決まる。だったら俺が、黙秘を突き通せばいい。自信は十分あった。
 この法案が可決するまでは……

 俺が警察に目を付けられるのに、それほど時間はかからなかった。
 世間で言うところの凶悪犯罪だ。証拠の全てを隠滅することなんて到底無理だった。だが……、だが俺は、絶対に逃げ延びてみせる。

 連れて来られたのは、警察署の取調室だった。
 ここの構造は、刑事もののドラマなどで見るものとさほど変わらない。ドラマの演出もなまじっか嘘ではないのだと感じる。制作者側の人間もきちんと取材しているのだろう。装飾の一つもなければ、面白い置物すら置いてない。全くもってそっけない部屋だ。机が一つ置いてあり、俺と刑事は向かい合って座らされる。
 刑事は表情が読み取られないよう、そして、刑事が容疑者の少しの表情の変化も読み取ることができるよう、容疑者の顔を照らすライトや窓の位置の工夫がしてあるらしい、と、どこかで聞いたのを思い出した。

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