Black Onyx [ブラックオニキス];2007/ 03の記事一覧

ここでは、Black Onyx [ブラックオニキス]での 2007年 03月 に掲載した記事を表示しています。
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主従である二人の関係を描いています。
余計な言葉はいらない。
殺伐とした中での慈しみと愛情。二人だけの世界……

個人的に思い入れのある短編です。

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 しばらくすると、女王様は鞭を片手に、薄ら笑いで僕を見つめる。
 ……これから始まる恐怖。
 僕は怖さと寒さで体が思うように動かない。
「いい子になれるよう、ちゃんと躾けてあげるからね」
 そう言うと女王様は、僕に何度も何度も鞭を打ち付けた。
 打たれる度、まるで体中を切り刻まれているかのような激痛が襲う。
 僕は思わず声を上げる。しかし女王様はそんな僕を嘲るように、さらに力強く鞭を打ち据える。
 それから女王様は、手に持っていたカッターを僕の喉元に突きつける。
 体中に少しずつ、少しずつ、浅い傷痕を残していく。
 その度に僕の体は激痛を伴い、痛みで悲鳴を上げる。
 そんな僕の口に、女王様はタオルを噛ませた。
 地面全体を覆う真っ白な雪に、僕から溢れ出た血が点々と痕を残す。
 しかし吹き荒ぶ吹雪が、それを瞬時に隠してしまうのだ。
 何度も打たれ、傷つけられ……
 その度に僕は悶え苦しんだ。叫び声はタオルに吸い取られていく。
 しかし、感謝の言葉は決して忘れてはならない。
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
 寒さと痛さで半狂乱になりながら、僕は女王様にお礼の言葉を述べる。
 僕を飼い、こんな風に遊んでくれる女王様を、僕は心底尊敬している。
 お礼の言葉は僕の本心だ。ありがとうございます、女王様。
 そのまま、僕の意識は遠のいていった。

 気付くと僕は温かい車の中にいた。身体の上にはたくさんの毛布がかけられていた。
「あ……、あっ」
 言葉がうまく出てこない。女王様は、僕をここまで運んでくださった。そのお礼だけは、しっかりと口にしたい。
 するべきだ。
 しかし僕の口から出てきたのは、
「ありがとうございました。ぼ、僕……」
 陳腐な言葉だった。同時に、女王様のご機嫌を損ねてしまってはいないかと様子を窺る。
 運転しながら女王様は笑顔を漏らし、そんな僕に静かに言った。
「いい子だったね。よく頑張ったよ」
 僕はこれ以上ないほどの幸せを感じ、新たな至福の瞬間を――、今この瞬間を存分に味わっていた。



END

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 僕に手錠を施し、温かい車の中で女王様が車を走らせる。
 二月。ここは東北地方の片田舎。
 向かっているのは雪山。人気の無い山奥である。
 外は大雪が降り積もり、風とともに粉雪が舞っている。
 通りすがる車などめったにない。ましてや人など通らない。
 外であるにも関わらず、ここは雪に閉ざされた…閉鎖された世界…
「脱ぎなさい」
 女王様の声に僕の体は硬直する。
「はい……」
 僕は車内で生まれたままの姿を曝け出す。
 時々すれ違う車のドライバーの視線を意識しながら、僕は最高にみっともない姿でそこに現れた。
 車の中はエアコンが焚かれ、心地よい熱風が肌を纏う。
 その心地よさにしばし身を委ね、安堵とこの幸福を謳歌する。
 しかし、そんな至福の時間は長くは続かない。
 ずいぶんと山奥に入ってきた時、女王様は不意に車を止めた。
 運転席のドアを開け、助手席の方に向かって歩いてくる。
 女王様が助手席のドアを開けた瞬間、身も心も凍るような激しい突風が僕を襲う。

 僕は一瞬にして至福の時を奪われた。寒い。寒い。寒い――
 しかし女王様はそんな僕をあざ笑うように、僕を車外へ強引に連れ出す。
 切れるような風の痛み。今にも凍りつきそうな僕の全身。
 冬の冷たい空気は想像以上の勢いで僕を襲ってくる。
 吹き荒ぶ猛吹雪の中、降り積もった根雪の上に女王様は僕を叩きつけた。
 肌の感覚は麻痺し、ただ寒さに震えていた。
 女王様はその情けない姿の僕を笑い、罵った。
 倒れている僕の背中をブーツで何度も何度も踏みつける。
 寒さと冷たさ、そしてブーツでの踏み付けで僕はとてつもない痛みを感じる。
 泥まみれになり、無残に雪の上に横たわる僕に、女王様は「ほら」とだけ命じる。
 それを合図に僕は「すみません」と、また四つん這いの姿に戻り、背中を踏まれ続けるのだ。

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「自分が書きたいものをそのまま書いた」作品です。
猟奇嗜好の私は、こういう題材をもとに制作するとどうしても欲望が前面に出てしまいます。
その結果、淡々とした事実の描写になったり、心情や人物の絡みが上手く表現できなくなったり……
悩みは尽きません(汗)
そんなわけで、本作は非常に濃く、欲望むき出しです。
想像世界でし得ることを極限まで表現したい。そんな風に思っていますが、なかなか難しいです。

今回もまたご愛読いただいた方々に感謝です。
いつでもこの気持ちを忘れずにいたいものです。


[ 初出 ]
女がリンチや暴力で男を従わせる小説2(dat落ち)

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~エピローグ~

 株式会社TORS

 既に勤務時間は過ぎているが、OLたちは更衣室で談話に華を咲かせている。
「ねえねえ、知ってる?目の無い女の噂…」
「あ、前に智香が言ってたやつかな?何でもそれを確かめに行った智香の彼氏…死んじゃったらしいじゃない…すっごい怖くない?」
「私いつも帰るの遅いから、ばったり会っちゃったらどうしよう。そしたら超怖くない?」
 その時、一人黙々と着替えをしていた女が不意にふり返った。
「こんな目隠しをした女が、夜な夜なあの通りを歩いて獲物を襲うらしいよ。」
 そう言って女は黒いレースの目隠しを差し出す。
 その目隠しに生々しい血が点々と付着していることには、誰一人気付かなかった。
 OLの一人が心配そうに呟く。
「私の彼なんて好奇心旺盛だからちょっと心配…そんなの聞いたら真っ先に行っちゃいそう…」
 それを聞いた女は静かにその紅い唇を弓なりに曲げた。


目無し女が目の前来たら
静かに横を通りゃんせ
過ぎたら決してふり向くなかれ
さすればとうに消えうせる
声かけたまいし報いには
汝がとうに消えうせる




END

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 薄れゆく意識の中、女が携帯電話で誰かに連絡をしている様子が目に入った。
「もしもし。遅くにごめんね智香、寝てた?」
 携帯電話を首で押さえ、相手と話しながら、俺の首を紐で絞め続けている。
「あの噂、やっぱり本当だったみたいだよ…今日もまた被害にあった人がいたみたい。若い男二人だって。」
 女は意味深な笑みを浮かべ、その顔を俺に向ける。
 電話の向こうの人物の声は聞こえない。しかし…
 …千佳?…智香?…千華?…「ちか」という響きに何となく聞き覚えがあったが、今の俺にはそんなことはもうどうでもよかった。
 ただ目の前の女にされるがまま、俺は残り少なくなった生の瞬間を見つめ続けていた。
 電話を切ると、女は不意に目隠しを外した。
 !!
 俺は最後の瞬間に、質の悪い…笑えないオチを見せつけられたような気がした。
 吸い込まれるような瞳…その輝きは今まで見たこともないほどの美しさを放っていた。
「お…お前…目の無い女じゃ…」
 女はまたも可笑しそうに高笑いをあげた。
「あぁ、あの噂のこと?死ぬ前にあなたには本当のこと教えてあげる。ふふ…あの噂を流したのはね…私自身なんだ。」
 あどけない声で俺に語りかける。
 そんなこと…俺たちは…こいつに踊らされ…
 自分の愚かさに心底呆れ果てた。しかし真相を悟った時、俺はもう既に自分の死を感じていた…
 女は俺の首を絞めつけたまま、その美しい瞳で俺を見つめ続けた。
 俺は…俺を殺す瞬間の女の瞳に…いつまでも魅入っていた…

『狩りに来たのは私…久しぶりにいい獲物が見つかったわ。』

 女は俺の頭にハンマーを振り下ろす。何度も…何度も…何度も…
 俺の頭が潰されていく…俺のあたたかい血が俺を包み込む…
 そして女は最後に、俺の両目を指で抉り出した。
「ふふ…『目の無い男』の出来上がり…ふふふふ…あはははははは!」
 思考は完全に麻痺していた。ただこの女に召されること…それが運命であると、この時に違和感なく感じられたことが不思議ではあったが…
 薄れゆく意識の中で俺は…常沢の笑顔を思い出していた。

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 ただ一人の女に…されるがままに…

 俺の全身はもうほとんど人間としての機能を失っていた。
 折られた手足の骨は無数。付けられた傷は数えきれない。
 抵抗できないまま静かになった俺の上に乗り、女は俺の全身を舐め始める。
 しかしエロスはもとより、俺は既にバイオリズムそのものを失っていた。
 獣に襲われる恐怖…ただそんな感覚だけが、俺の意識を支配していく。
 女は常沢を絞め上げたものと同じ種類の赤い紐を俺の首にゆっくりと巻きつけた。
「これでお別れね…さよなら…」
 俺の首がじわじわと絞め上げられる…その感覚が不思議と俺に永遠にも似た愉悦を感じさせる。

 こんなに美しい女が…殺人鬼…
 こんな結末…笑い話にもなりゃしない…
 そんな風に思うと可笑しくて仕方がなかった。
 殺される…殺される…殺される…
 俺は再び吐血した。
 俺は俺自身が崩壊していくのを感じながら、ギリギリと絞まっていく紐の感触だけを体全体で味わっていた…

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 遊ぶように、女は俺の肩の脱臼を繰り返す。俺は壮絶な痛みを繰り返し味わわされる。
 終わりのない苦痛…生きしに見る地獄…

 …こいつは…こいつは…狂ってる…。俺を甚振ることを楽しんでいるんだ…
 そう思った時、俺の頭の中は再び恐怖で埋め尽くされた。
 俺は…ここでこいつに殺されるのか?…嫌だ…いやだ!…
 渾身の力を振り絞って俺は女に体当たりをすると、ふらふらと通りを走った。
「だ…誰か!誰か助け…」
 …しかし瞬時に目の前を女が薄ら笑いで立ち塞ぐ。強調された紅い唇の端を持ち上げ、その顔を俺に近づけながら、その掌でそっと俺の口を塞いだ。
「逃がさないよ。お前も…」
 そう言うと女は俺の腹に思いきり膝蹴りを叩き込む。
「うぐっ!…」
 俺は一瞬息が止まり、目の前が真っ暗になった。
 内部に与えられた苦しみに耐え切れず、思わず倒れ込もうとする俺の肩を掴み、さらに何度も膝蹴りを入れる。
 俺は呻き声を絞り出し、嘔吐し、悶絶した。しかし女は容赦なく、続けざまに俺の腹に蹴りを突き刺していく。そう…俺の内臓を破壊するまで…
 とうとう俺は吐血し、その血で女の顔は真っ赤に染まっていった。
 女はそれでもなお、艶かしい微笑みを絶やすことはなかった…。

 まるで糸のように口から血を滴らせている俺の首を片手で掴み、女は俺の後頭部を壁に叩きつけた。
 言い得ぬ衝撃…痛み…。しかし俺は苦しみから声を出すことはできない。
 そして次の瞬間…
 女はナイフを取り出し、俺の陰部に突き立てた…
「ぐがあああああ!!がああああ!!ひ…ひ…」
 地獄…本当に地獄の痛みであった。
 俺の絶叫を心地よく感じているのか、女からは恍惚といった表情が読み取れる。
 ナイフで俺の恥部を何度も突き刺し、弄ぶ。
 傷口を嬲り、新しい傷を作り、執拗に責め続ける…
「こんなもの…なくなっちゃえばいいの。ふふ…壊してあげるよ。」

 痛い…苦しい…殺してくれ…いっそこのまま…殺してくれ…

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「どうするつもりなんだ?…どうして…こんなこと?…」
 問いかけた俺に、女は可笑しそうな声で笑い返した。
「はは。あなた馬鹿?それはこっちの台詞でしょ?」
 …確かにその通りだった。俺は返す言葉もなく、ただ頭の激痛に耐えていた。
 傷口をじわじわと嬲られ、その度に俺は苦痛の表情と声を顕にする。
「ぐ…ああ…ああああ…」
「痛い?そうだね…痛いよね…。」
 女はさらに強く傷口を甚振る。痛みを継続的に受けることで、俺は今にも意識を失いそうになっていた。
 頭から流れてくる血が顔を覆い、俺はもはや目を開けることすらできない状態であった。

 突然、女は俺をうつ伏せにし、後ろから左腕を俺の首に回してまた馬乗りになった。
 そして、そのまま俺は肩をギリギリと絞め上げられる。
「ぐ…く…」
 女はその体勢のまま、右手で俺の肩を掴んだ。
 …背筋が凍りつく…まさか…まさか…
 ゴキッ!!
 聞いたこともない音が俺の耳元で鳴り、同時に俺の肩に燃えるような痛みが襲ってきた。
「ぐがああああああ!!」
「脱臼の出来上がり。初体験でしょ?ふふ…」
 肩の感覚がなくなった。この痛みをどう表現したものだろう。痛い…痛い…
 次の瞬間、女がさっきとは反対の方向に力を入れる。
 すっと、肩の感覚が戻ってくる。
「これで元通り…ふふ…面白いでしょ?」
 その後、また同じように、俺の肩を再び脱臼させるのであった…

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「ひ…ひぃ…」
 情けない声が俺の喉から漏れる。怖い…どうしようもなく怖い…嫌だ…死ぬのは嫌だ…
 この女の常軌を逸した行動…まるで見えない心…
 どうする?…どうしたら…
 逃げよう!…当然の判断だ。しかし…さっき受けた衝撃と恐怖のあまり俺の足は全く動かない。
 そのことをまるで見透かしているかのように、女は不敵な笑みを浮かべながらさらにどんどんと近付いてくる。
「ひ…」
 女は俺の目の前で止まり、俺の動きを体全体で感じているようだった。
「お…お願いします…た…助け…」
 俺は声を振り絞って命乞いをしようとした…その瞬間…

 !!

 閃光のようなものが目の前に走り、頭に強い衝撃を受けた。
 そして俺はそのまま尻餅をつく形で地面に倒れ込んだ。
 頭から生あたたかいものが流れてくる。
 朦朧とする意識の中で、彼女の手の中に見えたのはラジオペンチだった。
「ぐあ…あ…」
 流れてくる血が顔を覆い、目が開けられない…
 倒れ込んだ俺に抱きつくような姿勢で女は馬乗りになる。
 そして、殴打された部分をペンチで抉り始めた。
「ぎいいっやあああああああ!!!」
 この世のものとは思えぬ激痛に、俺は腹の底から叫び声を上げる。
 傷口を甚振るように、女は俺の頭を抉り続けた。

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 …目の前の光景が現実のものであると感じる時…
 俺は自分の感情をどう表現したらいいのだろう…
 恐怖?絶望?驚愕?…どれもそうであるようで違うようでもある…
 おそらく俺には、この現実がまだ受け止めきれていないのだろう。
 常沢…俺、本当はお前のこと…

 女が徐に顔を上げ、こちらに向き直った。
 目はレースで隠されているが、明らかにこちらに注目している…
 その奇妙な雰囲気が俺の思考を瞬時に遮ったのである。
 「目の無い女」…
 確かに好奇心はあった。狩りに行くことに乗り気だった。
 …俺は自責の念を強くした。元はと言えば…と常沢を責めたさっきの自分に嫌気がさした。
「どうやらあなたたちは、私と同種みたいだね…」
 その意味するところは、俺には分からなかった。女はその言葉を最後に、今度は一歩一歩ゆっくりと俺に向かって歩を進めてきた…

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 ……………

 どれくらいの時間が経ったのだろう…。俺は意識を取り戻した。
 目に映ったのは地下道の天井。体が思うように動かない。
 …そうか…俺は…
「ふふふふふふ…」
 背筋が凍りついた。あの女だ…あの女が…まだそこに…
 痛みに耐えながら体を無理矢理起こした時…目の前にはあまりに凄惨な光景が広がっていた。俺は正気を失いかけた。
 血まみれになり、体全体をドス黒く染め上げた常沢の変わり果てた姿。そして…
 女はそんな常沢に馬乗りになり、全身を愛撫するように、体から流れ出る血を舐めていた。
 よく見ると常沢の手足は切断されていた。完全なる肉ダルマ…そんな言葉が頭を過った。
 常沢の首は赤い紐のようなものできつく絞め上げられていた。
 当然、常沢は絶命しているのだろう。
「あ…あ…ぁ…」
 俺の精神は恐怖と絶望で破壊され、無意識に声にならない叫び声を上げていた。

「あぁ、気付いたの…」
 女は俺に向かって冷たく言い放つ。
「次はあなたの番だよ…おとなしく待ってなさい。」
 …
 この世のものとは思えない光景だった…もしかしたらこれはいつものような悪夢の一つでは?…
 現実逃避…しかし俺の体の痛みがそんな妄想を悉く断ち切っていたのだった。
 常沢?…常沢?…
 常沢の姿は今や、見るも無残な肉片となっていた。
 残虐な…あまりに残虐な行為…
 こんなことを…この女が一人で?…一体なぜ?一体どうして?…一体どうやって?…
 そんな俺の心の声を悟ったかのように女は俺に語りかける。
「これから分かるわ…あなたもこいつと同じようにしてあげるからさ…」

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 その瞬間俺は目を疑った。
 女は俺の場所を確認すると同時に、常沢の背中めがけてハイヒールを打ち下ろした。
 !!!!
 ハイヒールが常沢の背中に突き刺さる。そこから血が溢れ、常沢の服がみるみるうちにドス黒く変色していった。
「がああああああああああああああああ!!」
 絶叫が辺りに響き渡る。その声を抑えようとするかのように、今度は背後から覆い被さり、チョークスリーパーの形で常沢を絞め上げ始めた。
「ぐ…ぅ…う…」
 常沢は口から泡のようなものを吹き出し始める。そして間もなく、意識を失った。
「も…もうやめてくれ!お願いだ!やめてくれ!」
 俺がそう言うが早いか、女は今度は俺の目の前に素早く移動した。
 そして俺の後ろ頭を掴むと、そのまま俺の顔面をコンクリートの壁に叩き付けた。
 俺はたまらず声を上げる。
「うがああああああ!」
 鼻が燃え上がっているのかと思うほどの激痛。痛い…熱い…
 この女は一体何者なんだ?…
 俺はこの瞬間になってやっと、自分の置かれている状況を認識し、同時に後悔の念を強くした。
「や…やめ…」
 目の端に映った常沢は泡を吹いてうつ伏せにぐったりと倒れている。
 どうして…こんなことに…元はと言えば常沢…あいつが…
 俺は常沢が憎くて仕方がなかった。こんな思いをするために、俺はここに来たんじゃない…
 壁にぶつけられた衝撃で仰向けに倒れかかる俺の背中めがけて、女は膝を入れる。
 !!
 骨が折れたのではないかと思うほど強烈な突き上げに俺はさらに声を上げる。
「ぎぃやあああああああ!!」
 そして仰向けに倒れ込んだ俺はそのまま気を失っていた。

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 常沢は顔を真っ赤にしながら俺に目線を送って声を振り絞る。
「た…たすけ…」
 その声を聞き、俺は我に返った。それと同時に女もその言葉の意味に気付いた様子だった。
「そう。もう一人、いるのね…」
 女は絞めていた手を緩め、常沢の首から手を離すとほぼ同時に、今度はその手で拳をつくり、腹部を思いきり突き上げた。
「ぐううえええ…」
 常沢は頬を膨らませて目を見開き、腹を抱えるようにして膝から崩れ落ち、悶絶した。
 女は蹲った常沢の背中をハイヒールで踏み台にし、俺に声をかけた。
「もう一人、いるんでしょ?どこなの?」
 どうなってる?…お楽しみはこれからのはず…。俺は状況を楽しんでいた。そう…ほんのついさっきまでは…
 全く予想だにしなかった光景が、そんな俺から言葉そのものを奪っていたのだ。
「あ…あ…」
 俺は驚きのあまり声にならない声を上げていた。全身に冷や汗が溢れているのが分かった。

 常沢は咳き込みながらまだ腹を抱えて蹲っている。
「分かったわ…」
 女はそう言うと、常沢を踏みつけている足の力を強くした。
 ハイヒールが背中に喰い込み、常沢はたまらず声をあげる。
「ぐ…あああああああっ…」
 異常なほどの殺気を女から感じ、俺はとっさに声を出した。
「分かった!分かったよ。俺はここだ!」
 女は項垂れ、目線を常沢に向けたままで俺に向かって落ち着いた声で言った。
「そう…」

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 薄暗い地下道の中。常沢と女が向かい合う形になった。
 俺は常沢から後ろにおよそ三歩ほど離れたところで、その様子を窺う。
「ちょっと、すみません。」
 常沢が声をかける。急に声をかけられて驚いたのだろう。女は声も出さずに立ち止まり、様子を探るようにじっと耳を欹てていた。
 そんな女の心境などお構いなしに常沢は続ける。
「最近この辺りに…」
 言いながら常沢は間違いないと言った合図を俺に目で送る。俺は固唾を呑んだ。
「…目の無い女が通るって噂がありましてね…」
 女は依然黙ったままでいる。
「ちょっとそれ…外していただけませんか?」
 常沢は今にも笑い出しそうな表情で嬉しそうに女に話しかける。
「嫌です…と…言ったら?」
 妙な感覚を覚えた。女が思った以上に冷静な態度でこちらに話しかけてきたからかもしれない。
 常沢は語調を強めて女に詰め寄る。
「じゃあ…無理矢理させてもらうまでです。いい獲物を逃す手はないからね…」
 常沢は女に襲い掛かった。手を振り上げ、掴みかかろうと両腕を伸ばす。

 …!!…

 突然の予想外の出来事に俺は頭の中が真っ白になった。
 女は常沢の手をするりとかわし、杖を持っていない方の手で常沢の首を掴み、力強く絞め上げたのである。
 常沢の表情がみるみる変化していく。俺はあっけにとられていた。
「こ…こい…つ…く…苦…」
 常沢の顔はすでに真っ赤になっている。気付くと常沢の足は、今にも地面から浮き上がりそうであった。
「あなた何者?こんなところで殺されたいの?」
 甘く…だが恐ろしく低く鋭い女の声は、俺の心臓に突き刺さり、俺から動きそのものを奪っていた。
 俺は目の前のその光景に足が竦みあがり、声も出せない。
 女は少し口元に笑みを浮かべているようだった。よく見るとその唇は想像以上に美しく、こんな状況下にありながら俺はその女から目を離すことができなくなっていた。

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 …時間だけが無駄に流れていく…
 常沢はその時間を持て余してか、ほんのたまに通りかかる女にがむしゃらに声をかけまくる。
 不審な目を向け逃げていく女性。…当然だ…
 こんな真夜中に現れる怪しいナンパ男…お前の方がよっぽど噂になるよ…
 半分呆れ返りながらも俺はそれを止めようとはしない。
 そう考えると、俺の方がずっとずる賢いのだろう。
 現に俺はこの状況をどこかで楽しんでいる。夢に見るあの時の感触も、今でもなおリアルに俺の胸を高鳴らせる。
 そんな俺とこいつとは、きっと相性がいいのだろう。

 ……………

 どれくらいの時間が経っただろう。
 半分諦めかけていた俺たちの目の前に、そいつは突如として姿を現した。
 !?
 怪しいことはすぐに分かった。
 年は二十代後半。腰まではあろうかといった長いストレートの後ろ髪。白いワンピース姿…
 そして…レースのついた黒い目隠しのようなもので目の全てを覆っている。
 そのためか、艶かしいほどの赤みを帯びた唇が極端に強調されて見える。
 俺はついその女の美しさに見惚れてしまっていた。同時に俺の中の妄想が頭をよぎり、興奮で体が震えているのが分かった。
 女は盲目者用の杖を突き、ゆっくり…ゆっくり歩いている。時々不敵な笑みを浮かべながら…
「お出ましだ。行くぞ。」
「お、おい…」
 言うが早いか、常沢は隠れていた物陰から素早く身を出すと、女の方へ向かって急ぎ足で歩き始めた。
 俺は慌てて後を追う。
「ちょ…ちょっと待てよ。」
 常沢の耳にはもはや俺の言葉は届いていない様子だった。
「さぁて…今夜の獲物だ…」

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目無し女が目の前来たら
静かに横を通りゃんせ
過ぎたら決してふり向くなかれ
さすればとうに消えうせる
声かけたまいし報いには
汝がとうに消えうせる



 …どこぞのよくあるわらべ唄じゃないか…
 率直な俺の感想だった。しかし常沢は嬉しそうに言葉を並べ立てる。
「面白そうだろ?なぁ?」
 何となく想像はついていた。こいつとは腐れ縁…結論の見えている話に長々と付き合っていられるほど、俺も暇ではなかったのだ。
「それで?用件は?はっきり言えよ。」
 俺は先を促した。常沢からはやはり予想通りの言葉が返ってきた。

『狩りに行こうぜ…久しぶりにいい獲物が見つかったよ。』



 真夜中の地下道。駅から離れているだけあってひと気は全く無く、行き交う車もめったにない。
 ただ静かに歌う風の音だけが俺に静寂を訴え、その度に俺は言いようのない不安を感じるのだった。
「本当にこんなところに現れるのか?」
 俺は不安を悟られないように、平静を装いながら常沢に話しかける。
「さあな。」
 そっけない言葉とは裏腹に、常沢の表情には満ち溢れんばかりの好奇心が見て取れた。
 俺はこういう時のこいつの表情に弱い。童心丸出しの子どものようなその姿…それが俺の心をいつも、こいつの側に繋ぎ留めてしまうのだ。
 俺はいつまでこいつのお守りをしていくんだろうな…
 しかしそんな俺もまた他人から見れば、嬉しそうに目を輝かせている子どものように映るのだろう。

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 常沢の異常に明るい声が電波に乗って俺の耳に届く。
「あぁ、赤堀か。面白えネタがあるんだよ。」
 こいつが面白いという時は決まってロクなことがない。
 ただでさえ俺はこいつと付き合ってやったあの日のことを…あの日のことを夢に見ない日がないのだ。
『こ…殺してやる…殺してやるー!!』
 あのホームレスの声は、一生俺に付きまとうのかもしれない。
 あいつの怨念が憑いているのではないかと本気で思うことすらある。
 こいつはどうしてこんなに軽いんだろう。
 人一人殺した罪悪感というものを、こいつはもっているのだろうか?
 まぁ、俺だけいい子ぶっても仕方のないことだ。
 こいつが少年院送りになっただけで、俺は免罪になったんだ。それに、こいつだって本当は殺すつもりなんかなかったんだろう。
 あのホームレスが素直に金を渡していれば…無抵抗でいたなら…くそっ!もう済んだことだ。悩んでいるこっちが馬鹿らしい。
 そんな俺をよそに常沢は至極、真面目な口調で話し始めた。
「智香から聞いたんだけどな。お前、目の無い女の噂、知ってるか?」

 …目の無い女?…
 嫌な感じを受け、俺は身震いした。当然俺には聞き覚えがなかった。
「いや…全く。何なんだそれは?」
 相槌を打つ。この展開で常沢が調子に乗り、厄介ごとに巻き込まれる。これが俺たちの常。
 これまでずっとそういったことを繰り返してきたはずだが、どうしてもこの打開策が見当たらない。
 大体、自分の彼女が噂で聞いたようなことを真に受けて調子に乗るようなやつを、どうして未だに切り離せないでいるのか…
 俺は自分が情けなくなった。
 予想通り、常沢は得意そうに目の無い女についての話を続けた。

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 漆黒の闇に蔽われたひと気の無い夜中の公園。
 雲の切れ間から少しだけ覗く月明かりだけが、その光景を闇夜に照らし出していた。
 バットと棒切れを持った二つの影…そしてその二人に対峙するように身構えるもう一つの影…
 二つの影は、まるで獲物を狩る飢えた動物のように一つの影に襲いかかる。
 一つの影はそれに抵抗するように手足を振り回していた。
「お…お前ら…こんなこと…こ…殺してやる…殺してやるー!!」
 襲われた一つの影の断末魔のような声だけが空しく辺りに響き渡る…そのことが、かえってこの宵闇の静寂を強調していた。
 そして…再び辺りは無音になった。
 動かなくなった一つの影をしばらく見つめていた二つの影は、やがて静かにその場を離れていった…

 ………

 …目が覚めるとそこはいつもの見慣れた俺の部屋だった。
 時計の針は午前三時を指している。
 ずいぶんと魘されていたのか、喉が乾き、喉の奥にわずかな痛みを感じていた。寝汗がびっしょりと俺の全身を覆っている。
「くそっ!…またあの時の夢か…」
 俺は洗面所でうがいをした後で水を飲み、渇ききった喉を潤した。
 あの日から俺は毎夜、悪夢に苛まれていた。
「あの時のあいつら…必死だったな…。馬鹿馬鹿しい…こっちは遊びなのに…本気になりやがって。」

 ………

 結局俺はそのまま朝まで、再び眠りにつくことはなかった。
 仕方がない…このまま寝ないでバイトに行くか…
 そんなことを考えていた矢先、先日少年院から出所してきた友人の常沢から携帯電話に着信が入った。
 常沢とは一昨日の夜に、久しぶりの再会を祝って杯を交わしたばかりだった。
 また入所時の武勇伝を聞かせられたんじゃたまらない…
 俺は電話に出ることを躊躇した。しかし、やはり俺は通話のボタンを押さずにはいられなかった。
 好奇心?それとも…
「もしもし。」

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オリジナルソングで路上ライブをしていました。学生時代です。
この作品は、当時作った歌詞を改変したものです。
萌える描写より、ミステリー色の方が強く前面に出ていたかもしれません。
盲目の世界、狂った精神の世界、狂気。
そういった人間の内面をソフトに表現したかったというのが本音だったのですが……
創作って難しい、とつくづく感じます。

お読みいただいた方々に感謝するとともに、今後も執筆に励んでいきたいと思います。

●少女Aのキャラ絵 →

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○8月21日
 ほとんど毎日家にいて、考えることは一日中あなたのことばかり。本当はまたあなたとデートしたいよ。
 いろんなところに行きたいね。二人が成長していくために。
 そう思った時……
「馬鹿だよな、お前って。」
 あなたにそう言われたような気がした。あなたが少しだけ笑ってくれたような気がした。
 でも、ふり返ってみると……もういつものあなたに戻ってた。


○9月3日
 私は気付いた。あなたを連れていけば、出かけられるんだ。一緒に出かけよう。
 こんな簡単なことに気付かなかったなんて……私ってやっぱり馬鹿だ。


○9月10日
 今日はあなたとショッピング。
 久しぶりだよね、こうやってあなたとデートするの。
 いつものように鍵をかけてあるから、あなたは逃げたりしない。
 これからもずっと一緒にいてね。二十四時間ずっと一緒にいてね。
 何があってもあなたを放したりしない……


○9月24日
 三ヶ月前のこと、覚えてる? あなたを鍵でここに閉じ込めた日だよ?
 あれからずっと一緒にいたね。

 あなたが引き止める私を拒否したから……だから……
 温かいあなたの血はやっぱり、やさしい香りがしたわ。
 あなたの破片で部屋を散らかした私に、あなたは笑いかけてくれたよね?
 あれからずっと、鍵のかかったこの鞄の中にいてくれた。

 あらためてあなたに伝えます。
「私の愛の全てを、受け止めてくれてありがとう。心から愛しています……」

 顔だけになったあなたへ



END

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○6月25日
 今日はあなたとずっと一緒。私の心の叫びが、きっとあなたに伝わったんだ。
 鍵の向こうにあなたがいつもいる。そのことが私をこんなにも安心させてくれる。
 あなたと二人きりの時間は幸せ。また私の胸はドキドキしてる。

 でもあなたは昨日とはちょっと違う。ずっと黙ったまま……
 どうしてしゃべってくれないの? 楽しくお話しようよ。
 閉じ込めたことを怒ってるの? 私を嫌いになっちゃったの?
 もっともっと側にいたい……そんな私に呆れたの?


○6月30日
 今日もあなたは口をきいてくれない。でも……側にいられるだけで私は幸せ。


○7月2日
 時々は笑顔を見せてほしいよ。あなたの優しい声がまた聞きたいよ。
 でも、私はやっぱり幸せ。あなたが家にいてくれるだけで、私は幸せです。


○7月11日
 今日も鍵の向こうのあなたと会った。
 まだ怒ってるの? それとも、無口になっちゃっただけ?
 あなたは汗をいっぱい流してる……。今日はとっても暑いから無理もないよね。


○7月29日
 最近のあなたはとっても冷たい。ちゃんと私のこと見てくれてる?
 笑いかけても返事もしてくれない……笑ってもくれない……
 今日はそれが苦しくて、あなたに針を刺してみた。
 チクチクと肌に一つずつ穴を開けていく。ものすごく痛いだろうね。声をあげちゃえば楽になるのにね。
 刺した傷跡をさらに抉って……まるで拷問のように……
 それなのに……あなたは意地を張ったままだった。
 ……そんなに私と話したくないの?

 顔色も日に日に悪くなっているような気がするよ?
 気分が悪いなら言ってくれればいいのに……
 本当に意地っ張りなんだから……でも、そんなあなたがやっぱり大好きなの。


○8月9日
 今日もあなたの顔色が悪い。
 口をつけられていない食事を見ていると、あなたのことが心配になる。
 あなたの好きなものいっぱい作ったよ。ちゃんと食べてくれなきゃ病気になっちゃうよ……

 でも……本当に人間の欲望って果てしない。離れていると駄目になっちゃう……
 万が一、鍵を落としちゃったら……なんて考えると……買い物に行くのも怖くなってきちゃった。
 私の頭の中の蟲があなたに襲いかかる……
 あなたは私のもの……私のもの……絶対もう誰にも渡さない……
 蟲にだって嫉妬しちゃうの……でもそれがまた私の可愛いところ……そうでしょ?
 絶対渡さない……渡さない……

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「私の愛の全てを、受け止めてくれてありがとう。心から愛しています……」


○5月16日
 ちょっとあなたを見ただけで、私の胸は大きく高鳴る。
 気付かないふりしてすれ違ってみたり……そんな私がすごく可愛い。

 でも本当は気付いてほしいの……時々私が私じゃないの……
 時々頭の中に蟲が集るの……お願い! 私を助けて!


○6月10日
 いつの間にかあなたと私は、特別な関係になった。
 おとといはデパート、昨日は遊園地。
 いろいろな話をしてくれて、その度にあなたは自分で笑ってて。
 そして今日は私にとっての特別な日……
 初めてのキスの味は、甘くとろけるようなストロベリーの味。
 いつまでも側にいてね。

 でもあなたと離れている時は……頭の中の蟲が出てくるの……
 息ができなくて……指先を噛み切って……やっと少しだけ楽になれる。
 側にいてほしい。人間の欲望ってすごく果てしない。
 この気持ち、あなたにもきっと伝わってるよね。


○6月24日
 今日は初めてあなたが家に来た。そして……二人の愛を確かめ合う。
 幸せな時間。永遠を感じる時間。このまま時間が止まってしまえばいいのにって本気で思う。
 でも時間は残酷なもので、夜になるとあなたは帰ろうと立ち上がった。
 やっぱり離れるのは寂しいよ……お願いもう少し側にいて。

 あなたと離れたくない……放したくない……
 どこにも行かないで?……私の側にずっと……ずっと……
 私の独占欲もまた果てしない。
 私のこの思い……あなたに届いてほしい。

 ……
 気付くと私はあなたを閉じ込めていた。鍵をかけて逃げられないように。
 絶対逃がさない……逃がしてあげない……
 最初は抵抗していたけど、観念したのね。最後にはおとなしくなった。

 夢から覚めた時、あなたは私の側にいてくれた。

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初めまして。作者のryonazです。

「苦しむ女萌え」といったニュアンスで「リョナ」という言葉があることを、最近になって知りました。
自分の中ですごくしっくりくる嗜好でした。加虐性欲を大いに刺激され、思い切って自分もサイト開設をしようと考えました。
しかしながら、やはりリョナは男→女が基本です。これをどうにかして、女側の視点から書けないものかと。
女→男のパターンがあってもいいのでは? と密かに思ってきました。
ですので、勝手に逆パターンものを作りました。そして、この嗜好を、勝手に「逆リョナ」と呼ぶことにしました。

そんなわけでこのサイトのコンセプトは「逆リョナ」です。女から男への責めを主体としています。
自分の中にある歪な思いを一つの作品として表現してみたいと考え、今回の執筆を試みました。

執筆当初は正直、こんな長編になるとは思っていませんでした。
筆を走らせている快感に酔う瞬間があると言うか、無心で書いている感じと言うか……
没頭していく中、気付いたらずいぶんと長い作品になっていました。

駄文ながら内容には、拙い自分なりの趣向を凝らしてみたつもりですが、如何なものだったでしょうか。
良くも悪くも、おそらくこの作品が自分にとっての源流となり、土台となっていくんだろうと何となく感じています。
まぁ、このあたりは私の自己満足の世界ですが。

ご愛読いただいた方々には、この場をもって厚く御礼を申し上げます。
尚、作品についてのご意見、ご感想などありましたら、コメント欄に投稿していただければ幸いです。

●優美子のキャラ絵 →    
●優美子の台詞ボイス →


[ 初出 ]
女がリンチや暴力で男を従わせる小説(dat落ち)
女がリンチや暴力で男を従わせる小説2(dat落ち)
(※作品は、初期の投稿から一部改訂しています。)

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 優美子がにっこりと笑う。
「わりとよく書けてるじゃない。」
 その手には、原稿の束を持っていた。彼女の指は、相変わらず白くて美しい。
 彼女の傍らにいる男は苦笑し、
「気楽に言ってくれるな。これで食ってく苦しみは小説家にしか分からないよ。」
 と軽いため息をついた。
「ふふ、ごめんごめん。あの時のこと、本当にリアルに再現されてるからさ。」
「……あれからもう五年も経つのか……」
 優美子は頷き、側にいる男――信二――の肩にそっと頭を寄せた。
 春の陽射しが降り注ぐ庭を見つめるその目は、どこか哀しみの色を湛えていた。
「うん……。姉の七回忌ももうすぐだよ。」
「京香の……」
 二人はしばし、無言で肩を寄せ合った。
「私もやっと姉の墓前に胸を張って行ける。産む喜びを知らずに亡くなった姉へのね……」
「ちゃんと報告しなきゃな。医者としてじゃなくて、妹としてな。」
 そうして信二は、「『俺の子』を産んでくれてありがとう」と彼女に囁いた。
 見つめあう二人。そこには永遠を誓った愛の形があった。

「それにしても、私が人の命を救う立場になるなんて……笑っちゃうね。」
 そう言って、彼女は足元にいるソレを踏みつけた。
「『正義』……だっけ?」
 彼女は目を細め、紅い唇を弓なりに曲げた。
 優美子が踏みつけている物……それは人間だった。
 全裸で靴下だけを履き、首輪をベッドに括りつけられている。
 信二は、その存在に今気付いたかのような顔をし、そして嗤った。
「ああ、そうそう。よく覚えてたな、優美子。こいつが好きだった言葉。」
 信二が見下ろしているものは、そう……俺だった。
 四つん這いの姿勢のまま、優美子の美しい足を背中で受け止める。
「だってそいつ、一番面白いんだもの。」
「よかったな、竜崎。」
 俺は信二を見上げ、素直に頷いた。
「はい。ありがとうございます。」
「正義はどうした? 本当に情けないな、お前。」
「はい、その通りです。ご主人様。」
 俺の返事などは全く気にせず、二人は外出の準備を始めた。
「これから俺たち、ちょっと出かけてくるから。」
「今日も半殺しにして可愛がってあげるから、帰るまでいい子で待っててね。」
 そう言うと優美子はサッカーボールを蹴るように、無防備な俺の腹を蹴り上げた。
 俺はたまらず崩れ落ちてしまった。そしてすぐにまた、四つん這いの姿勢に戻る。

 太田、影山、田添、山崎……
 かつて番長と呼ばれた男たちもまた、俺と同じ姿でそこにいた。
 廊下の端には、藤村の姿もあった。そこに小倉の姿はない。
 忘れもしないあの日……優美子自らの裁きを受けて……全く羨ましい奴だ……
 そして俺は「他の飼い犬」の恨めしそうな目線を感じながら、誇らしげに優美子の言葉に答えるのだった。

「はい。ありがとうございます。お待ちしております。」



END

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「ふふ……じゃあ、そろそろお別れだね……」
 あどけない笑みを浮かべながら、美しいその顔を俺に近づける。
「お、またやるのか? あんまり増えても邪魔なんだよなぁ。」
「いいじゃない。要らなくなったら、どうとでも始末できるし。」
 ――増える? 始末?……こいつらは何の話をしているんだ?
 悪魔が俺の前に来る。
「どうして……どうして……?」
 それは確かに俺の中から出た言葉だった。どうして?……何が、「どうして」?
 ――もう……何が何だか分からない……
「あなたは……今までで一番楽しかったよ。」
 その言葉が聞こえたと思った瞬間……

 ――!!!――

 ……目の前に閃光が走り、その後真っ暗になった。
「おおおおおお!……うううううえええ!……」
 優美子の強烈な膝蹴りが俺の腹に突き刺さった。
「げえええええおお……」
 俺はたまらず吐血した。
 中にこんなに入っていたのかと思うほど大量の血が、俺の口から押し出される。
「ふふ……肝臓終わったね。……簡単には殺さないから……」
 そして俺は、稲妻のような優美子の膝蹴りを何度も腹に受け続けた。
「腎臓! 胆嚢!……ふふ……苦しい? ふふふふ……」
 本当に、心から楽しんでいる声だった……そして……
 その声と同様に優美子の女神のように美しい顔は……楽しくて仕方がない様子だった。
 女神は……人間だった……あははは……めが……め……あは……
「ぐはああああっ!」「おぐえおえええっ!」「うう……ううぅぅっ……」
 俺は中身を壊されながら……昇天した……
 ――そう……もう俺は、人に非ず……。俺は……廃人だからね……あはははははははは……

 漆黒の闇に包まれた体育館に、男の臓器が一つ一つ破裂していく音が鳴り響いていた……

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 目が慣れてくるに従って、そこに現れた人物の姿が顕わになった。
 そしてそのことが、俺をさらなる混乱に招き入れることになった。
「信二!!」
 俺は思わず声を上げた。
「お前……死んだはずじゃ? 何で?」
「おいおい。俺を勝手に殺すなよ。はは、いい姿だな、竜崎。」
「どういうことだ?……復讐に行ったんじゃ……」
「復讐? あぁ、行ったよ。ほら、そこにいる俺の彼女がね。」
 ……俺は絶句した。

「あれ、言わなかったっけ? 強姦されたのは二人だったんだ。」
 信二は昨日の夕食のメニューでも話すかのように、あっけらかんと言った。
 呆然とする俺をあざ笑うかのように、優美子は付け加えた。
「姉が奴らに殺された時、私もそこにいたの。」

 そう、犯された信二の彼女……それは紛れもない、優美子だったのだ。
 その時唐突に、一度だけ見かけた信二の彼女の顔が脳裏に浮かんできた。
 遠目にも美しかったその瞳、鼻、口は、確かに目の前の女性がもっているものだった……
「彼が言うにはね、あなたは私の復讐をしに行って死んだんだって。信二がそんなかっこいい彼氏だったらよかったのにね。」
 優美子は笑った。
「はは、いいじゃないか。あの時はすぐ妊娠してないって分かったんだからさ。でも俺がそんなお前のために復讐なんて……美談だよなぁ。」

 ……事の真相を悟った俺は、目の前が真っ暗になった。絶望と失望……虚無感……
 彼女もまた姉と同様、強姦の被害者だったのだ。
 姉は殺され、妹――優美子――は助かった。そして復讐した……



「教えてくれ……どうして……どうしてこんなことを……?」
「楽しいからよ。」
 俺の問いに、彼女はあっさりと答えた。
「正当防衛でしょ……正義という名目をかざした虐待に快楽を覚えたってところかな。」
 彼女が小首をかしげて笑いかける。
「言ったでしょ。私も『正義』って言葉が一番好きだったって。」
 俺は脱力し、闇に隠れて見えない体育館の天井をただ見つめるしかなかった。

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「ふふ……」
 優美子は俺に視線を向けたまま、すでに自分一人の力では立ち上がることすらできない俺の両脇を抱え、持ち上げ、体育館の壁にたてかけた。髪をぐいと掴まれ、
「ぐうっ……っはあああっ!」
 強烈なボディブローを叩きつけられる。そう認識した時にはもう、次の拳が内部を抉っている。
 朦朧とする意識で目の前に映ったのは藤村と小倉の無残な姿……そして、頭の中には信二がいた。
 ――すまない。すまない。俺には……もうどうしようもない……
 そう思えたことに、自分自身信じられない思いだった。
 なぜなら、もうすでに俺の中には「恐怖」しか残っていないと思っていたからだ。
 いや、これが俺に残った……最後の理性だったのだろう……

 ――怖い……怖い……怖い……怖い……怖い……



 突然、体育館の扉が開かれた。そこに現れたのが誰なのかは分からなかった。
 無理もないだろう。気付けば体育館を赤々と照らしていた夕日は既に沈み、暗闇に覆われていたのだ。
「優美子。優美子、いるんだろ?」
 何故だろう? その声には聞き覚えがあった。
「あ、来たの? やっぱり場所教えなければよかったかな。」
 ……意外だった。優美子はその人物を即座に判別したのだ。
 何よりそこに現れたのが、優美子の知り合いであるということに絶望感を抱いた。
 俺は縋りたかった……。誰でもいい……助けてほしい……
 暗闇に浮かんだその顔は、俺にはまだ見て取れなかった。

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 正義に憧れ?……姉を殺され?……空しさ?……必死で頑張ってた姉……
 人体についてたくさんのことを学んだ……他人を……生かすために……?
 ……もちろんそうだ……生かすため……生かす?……

 ――!!
 俺はさっきの優美子の言葉が俺の耳を劈くような気がした意味がようやく分かった。
 優美子は……優美子は……姉の側で人体についてたくさんのことを学んだ……
「こ、こ……殺すためにか!!」
 俺は絞り出すように、思わず声をあげてしまった。いや、あげずにはいられなかったのだ。
 ――なんてことだ……優美子は……乱心でも狂気でも……ましてや単なる暴力女でもなかった……
 そのことが俺を、これまで以上の恐怖に陥れた。
 これは……優美子のこの行為は……医術……?
 単にそれが別の目的で活用されているだけのこと……そう、優美子のそれは……

『科学的根拠に基いた人体破壊』

「ひ……ひぃぃ……」
 俺は恐怖した。生まれてこのかた、自分でも聞いたことのないほどの情けない声が漏れた。
 抑えようのない恐怖心。「優美子が人間である」ということへの恐怖……その意味が今、ようやく分かったような気がする。
 悪魔……女神……
 目の前にいる優美子という存在をそう見ることは、ひょっとしたら自分への慰めだったのかもしれない。
 何より恐ろしいのは、これほどまでに冷酷、残忍なものが人間であるという事実……
「人間の壊し方に通じている」
 そのことが、さらに絶望と恐怖の窮地に俺を追い込むのだった……

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 まさに「虫の息」という言葉がしっくりくる。気を抜くとすぐにでも気絶してしまいそうだった。
 第一、自分自身が本当に息をしているのかどうかさえ疑わしい……
 優美子は俺の頭の下からするりと抜けて立ち上がり、苦しむ俺を見下ろした。
 その顔には再び、美しい笑顔がまぶしいほどに輝いていた。
「ここが鳩尾……」
 その指で俺の鳩尾を軽く……ごく軽く突く。
 しかしそれは俺にとっては、地獄の苦しみを齎すものであった。
「ぐっ……」
「ここが肝臓で……」
「あぐ……」
「ここが腎臓……」
「ああああぁ……ぐっ!」
 まるで猫がネズミを弄ぶかのごとく、優美子は俺の体を甚振った。
「私の姉ね……女医だったの。そんな姉を誇りに思ってた。人の命を救う姉の姿がね。」
 俺には優美子の真意が理解できなかった。何を? 何を考えているんだ?
「でもある時突然……人間って簡単に壊れちゃうんだよね……」
「……」
「空しかったなぁ。本当に、空しくて……」
 優美子の顔は変化し、悲しみとも怒りともつかぬ表情が俺の目に飛び込んできた。
 俺の腹に指を突き刺し、さっきよりも強く力を込めていた。
「ぐあ、あ、あ……あ……」
 激痛が俺を襲う。そんな俺を見ながら、尚も優美子は続ける。
「必死で頑張ってたの……必死でね。いつも見てたんだから……姉の姿を……」
 優美子は再び俺の腹を踏みつけ、少しずつ体重をかけてくる。
 それと同時に俺の、声にならない声も喉の奥から搾り出される。
「ぐうう……ぇ……ええ。……え……ぇ……」
 ……と、突然優美子から表情が消えた。冷たい……いや……虚無……?
 その表情からは全く感情が読み取れなかった。そして……
「私は姉からたくさんのことを学んだの。人体について……本当にたくさん……この意味……分かる……?」
 俺は激痛に耐えながら、その優美子の言葉が痛烈に耳を劈くのが分かった。

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