[18禁] 逆リョナ小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
 私は再度、嶺岸さんの左手を掴む。彼は条件反射のように身体を震わせ、
「ご、ごめんな……さいぃ……。許して……くださいぃ……」
 と、今にも消え入りそうな声で訴えた。その姿は本当に弱々しかった。彼を愛しいと思う心が、私の中で膨れ上がってくる。
 ……私がこの人を素直にさせてあげないと……
 そういった気持ちがどんどん込み上げてくる。きちんと躾ければ、きっと素直になれる。そう信じて、私は彼に自分のできる限りのことはしてあげたいと思った。
「早く自白しましょうね。」
 言いながら私は、既に小指と薬指の折れた彼の左手を持ち上げ、中指を折った。「ぎゃああああ!」という絶叫が取調室を覆う。そして再び罪を問うが、彼の答えはやはりNoだった。今度は彼の人差し指に手をかける。
「やめ……やめて……。お願いします――」
「――自白したらすぐに終わりますよ。」
 努めて優しく声をかけ、私は人差し指を折る。
「ぎぃや……っあああっ……」
 彼の絶叫を聞きながら残った親指に両手をかける。
「自白してください。」
 私は彼の左手の親指の関節に力を込める。彼は顔面蒼白になり、その口からはもはや言葉すら出てこなかった。ただじっと目を瞑り、その時が来るのを待っているような感じがした。
 バキッと乾いた音が室内に響く。
「ぐううああああっ!……あぐぅ……ぐぅぅ……」
 左手の全指の骨を折っても、彼の答えは変わらなかった。
 彼はぐったりと身体の力を抜いて気を失った。当然足に力が入らないから、チェーンが彼の首を持ち上げる形になる。チェーンがミシミシと音を立て、彼の口からは泡が吹き零れてきていた。
 私は脱力したまま、彼の首からチェーンを外した。
 彼に気持ちが伝わらないことが悔しくて仕方がなかった。やりきれなさが込み上げてくる。
 チェーンから解放された彼は、潰れるように床に倒れ込んだ。彼の口から流れ出す血液が床にじわじわと広がっていった。
 ふと気付くと、私の白いプリーツスカートにも彼の血が付着していた。購入したてだったから、すごく残念だった。でも、これも仕事だから仕方がない……。そう自分に言い聞かせるけど、やっぱりそのショックはとても大きかった。
 私はぐったりと倒れ込んだ彼を背負い、取調室の隅に置かれた拷問器具に固定した。彼が気を失っている間に着々と準備を進める。
 凛先輩なら、肉体一つできっと自白させられるのに。私はまだまだ力不足みたい。
 ……自分の力の無さが恥ずかしい。私の思いを彼に伝えられないことがもどかしい。
 私がライターで彼の睾丸をしばらく炙ると、彼は悲鳴を上げて飛び起きた。手足が拘束されていることに驚いたのか、彼は不安そうに、キョロキョロと目だけで周りを見回していた。
 ちょうど背凭れに寄りかかって座っているような姿勢だ。全裸の彼がもがく。しかし拘束具は彼の身体をがっちりと固定しているため、身動きを取ることはできない。
 彼が再び悲鳴を上げたのは、自分の睾丸をしっかりと挟み込んでいる万力を見た時だった。

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 私が嶺岸さんの身体を殴ると、彼は絶叫とともに目を覚ました。
 寝ている間に上着を捲っておいたので、彼の上半身は半裸だった。本当は剥ぎ取ってしまおうと思ったけど、チェーンで首を通すことができなかった。そのため、上着は彼の首元にマフラーのように巻きついていた。
「おはようございます。」
 元気な声で挨拶をしたけど、彼は私の顔を見るなり驚愕の声を上げて震えた。そしてうわ言のように、
「やってない……やってない……やってない……やってない……」
 と、絶え間なく口にする。
 "良薬口に苦し"、"冷酒と親父の言葉は後で効く"
 知っているいろいろな言葉を思い出しながら自分を励ましてみる。でもやっぱり、心を開いてくれないことは正直辛い。けれど……
 ……彼を絶対に見捨てたりしない。
 その決意だけが、今の自分の気持ちを奮い立たせてくれていた。
 彼は殴られたお腹の肉に大きな引っ掻き傷ができているのに気付くと、再度怯えた声を上げた。傷口からは血が滲んできていた。
 彼は貧血を起こしたのか、足元がふらつく。当然、首にかかったチェーンは、彼が倒れることを許さなかった。
 私はふらふらと立っている彼のお腹を再度、思いきり殴った。捻りを加えて内蔵に衝撃を与えるようにする。彼は「ぐぶっ……」という呻き声を漏らす。身体を少しくの字に曲げ、再びチェーンに引き留められる。彼の身体に二つ目の傷ができた。そこからも血がじわじわと滲み出していた。
 私は拳を握り締め、中指に付けたダイヤの指輪をじっと見つめた。指輪にはハートの形を模した小さなダイヤが散りばめられていて、それぞれ先の方が鋭利になっている。あらためて近くで見るととても綺麗だ。私はしばらくその輝きに見惚れる。
「このダイヤ……結構、威力あるんですよ……」
 言いながら、再度彼のお腹を殴る。彼は呻き、呼吸を荒げる。でも、私の言葉は彼の頭には届いていない様子だった。
 ……こんなに辛い思いをしてまで、どうして意地を張るんだろう?
 私は何度も何度も彼のお腹を殴った。やがて胃液と思われる液体が、糸を引くように地面に零れてきた。ふと顔を上げると、まるで精気を失ったかのようにやつれた彼の表情が見えた。
 ドクンと私の中で何かが反応する。いつもの悪い癖だろうか……
 それから私は無我夢中で、彼のお腹のあらゆる箇所を殴った。おそらくその度に、彼は地獄に瀕した亡者のような声を上げていたんだと思う。でも、私の耳にはそれは聞こえてこなかった。ただ夢中で、彼の腹部を殴り続けた。
 やがて私の腕に赤い液体が勢いよく流れてきた。そこで私ははっと我に返ったような気がした。再び目を上げると、彼は咳き込み、口から大量の血液を噴き出していた。ふと彼の腹部を見ると、私が抉った傷痕は彼のお腹に大きなハート模様を象っていた。
 ……無意識に、彼のお腹に絵を描いてしまってたみたい。
「見てください。可愛い絵ができましたよ。」
 私の声を聞いた彼は、虚ろな目のままビクリと身体を震わせた。私はその大きなハート模様の内側に、もう一つの小さなハート模様もサービスで付け加えておいた。

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 嶺岸さんは再び失禁したようだった。乾き始めたズボンの前部が再び湿ってくる。
「ゆ、許してください。本当に――」
 と泣きながら訴える彼の言葉をかき消し、私は再度、彼に問う。
「あなたは京握区内で、無差別に罪のない多くの人たちを殺傷した爆弾魔――」
「違う!」
 彼の声もまた、私の言葉を途中で遮った。きっとこの人は小さい頃から、こうやってなかなか素直になれなかったんだと思う。私は一つ大きなため息を吐き、それから彼の湿ったズボンのベルトを外す。
「や、やめ……何を?」
 と言いながら彼は身を捩って無駄な抵抗をする。私はその問いかけには答えず、力ずくで彼のズボンを下げた。彼は恥ずかしいのか、その両足を精一杯内股にしていた。彼のモノの先にはまだ少し黄色い液体が残っていた。
「こ……こんなこと……」
 彼は脱力したようにふらつく。そして首のチェーンを意識してまた頑張って立ち上がる。そんなことを何回か繰り返していた。私はその様子をじっと見つめていた。彼の必死な行動になぜか色気を感じる。
 ……彼は本当は純粋ないい人。ただ、なかなか素直になれないだけ……
 私は自分に言い聞かせた。彼がきちんと自分の口で自白できるまで、私も精一杯やらなくちゃ!
「もう一度聞きますね。あなたは――」
「何度聞いても答えは同じなんです。やってない。やって……あぐぅ!」
 私は彼の睾丸をしっかりと握り締め、その手をぐいと下に引いた。睾丸の痛みで彼が身体を下げると、首回りのチェーンがギシギシと音を響かせて彼の首を絞める。
「ちゃんと言えるまでやり直しです。あなたが犯人ですね?」
「ぅ……だから、それはちが……うぐうっ……」
「はい。もう一度。あなたが犯人ですよね?」
「はぁ……。はぁ……お願いですから……ぐあっ!」
 何度か繰り返したけど、彼はやはりなかなか素直になれない。それがすごく切なかった。態度も従順になってきたし、言葉遣いも最初に比べて随分と丁寧になった。でも、認めることだけができない。
 彼は息遣いを荒くし、涙を流して訴える。気付くと彼の睾丸は赤く充血し、首回りも傷だらけになっていた。そこまでして隠さなければいけないのなら、最初から犯罪なんて考えちゃダメなのに……
「嶺岸さん。」
 私は努めて優しい口調で彼に問いかける。でも彼はガタガタと身を震わせるだけで、返事をすることができない。私は睾丸を握る力を少し強めた。そして再度呼びかけると、彼は震える声を振り絞って「はいぃぃ……」と力なく返事をした。
「私が最近、素敵だなって思った言葉があるんです。」
 と、私が言葉を続けると、彼はまた「はひぃ」と弱々しい声で答える。私は続ける。
「"隠していいのは、自分の行った善事だけ" 意味は、分かりますよね。」
 私は彼の顎を持ち上げ、瞳を覗き込んだ。彼は怯えた犬のような目で私を見ながら、しきりに首を縦に振る。でも、私がそれから再び自白を促した時には、彼はやはりその首を横に振った。
 脱力した。悔しさが込み上げてくる。
 私は睾丸を握る力を一層強め、彼の身体を思いきり下へと引っ張った。彼がもがく。悲鳴を上げる。でも今は絶対に彼を許してはいけないと思った。
 彼はやがて口から泡を吹き、失神した。

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 嶺岸さんの必死な形相が可愛かった。
 大きな声で何かを訴える様子は、駄々をこねる子どもみたいで愛しかった。思わずぎゅってしたい衝動に駆られる。……反省。でも、自分の罪を認めない態度はやっぱりよくない。自白をしない悪い子にはお仕置きが必要だよね。
 私は彼の左手をぐいと捻り上げる。
 小指の骨を第二関節から折ると、彼は絶叫した。その時点で私を掴む力は緩んだけど、念のため薬指の骨も同じように折ってあげた。再び彼は絶叫して私から身体を離す。彼は蹲ったままで呻き声を上げていた。
 何とか落ち着いてくれたみたいでまずは一安心、かな。
 彼は左手を押さえ、床に膝をついたままで涙を零していた。心なしか、さっきよりも元気がなくなっているような気がする。怯えた目で私をじっと見つめている。私が近付こうとすっと足を前へ出すと、彼は「ひっ」と声を上げて後ずさる。その行動がすごく可愛くて、私はつい何度かその仕草を繰り返す。その度に、彼もまた同じ仕草を繰り返す。
 ……この人ならきっと、ちゃんと自白して反省できるはず。
 でも彼は、それを認めることができなかった。私の問いに対しては「やってないんです。信じてください」の一点張りだった。
 ……まだちゃんとしたいい人にはなれてないみたい。少しがっかりしたけど、私がちゃんと自白できるようにお手伝いしなくちゃ……
 私はそう心に決め、彼につかつかと近付いていった。
 側に寄ると、彼は身を縮めて肩を震わせた。弱々しい声を上げながら嗚咽を漏らす様子を見ていると、また身体が火照ってくる。怯える様子に興奮してしまうこの癖は、未だに治っていない。私は思わず笑みを零していた。
「ちゃんと素直な人になれるまで、しっかり痛めつけさせてもらいますね。」
 そう言って私は再び彼の左手を持ち上げ、中指にも手をかける。彼は絶叫した。声が震えている。
「や、やめろ!」
 と言いながら私の手を振り払い、まるで芋虫のように這いながら壁際へと向かう。彼の足はガクガクと震えていた。恐怖のあまり足に力が入らなくなっているようだった。そんなに自分の犯した罪に怯えるなら、最初からやらなければいいのに。
 ……もう、困った人。
 私は彼を見下ろしながら、その後をゆっくりと歩いて追った。
 彼が必死で声を絞る。
「く、来るな!」
「ダメです。ちゃんと自白するまでは。」
「俺はやってないんだ。」
「あっ。まだそういう態度なんですか? そういうのよくないです。」
「信じてくれ……ください! こんなことしても、俺……僕は本当に――」
 その時、彼に追いついた私は、彼の髪を掴んで強制的に立たせた。力が入らないのか、手を放すとすぐに膝から崩れ落ちてしまう。なかなか自分で立ってくれない。
 私はチェーンネックレスを外して彼の首にかけ、同時にそれを窓にある格子に潜らせて彼の身体を固定した。少し爪先立ちをしてやっと首回りに余裕ができる高さだ。
 崩れたら首を吊ってしまうその姿勢になって、ようやく彼は震えながらも足に力を入れ始めた。

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 机に置かれた火のついたタバコを手に取る。
 私は刑事さん二人をかき分け、暴れる嶺岸さんの首筋にタバコの先をぐいと押し当ててみた。
「ぐああああっ!」
 叫び声とともに、彼がエビみたいに大きく身体をのけぞらせる。その反動で彼は刑事さん二人の手を離れる。私はすかさず持っていたタバコを捨て、同時に彼のお腹に力いっぱい拳を叩き込んだ。
 彼は呻き声を上げ、そのまま床に倒れ込んで悶絶した。
 ……バタバタしてる姿がちょっと可愛い。
 刑事さん二人は「ふうっ」と大きく息を吐きながら呼吸を整え、襟元を正し始めていた。
 私は転げ回る彼の喉元をブーツの底で踏み付けて押さえ込みながら、
「担当の後藤由香利です。よろしくお願いします。」
 と、自己紹介をする。
 取調執行人としての仕事がこれから始まるのだと思うと、胸のドキドキが収まらない。私は自分の緊張を解すように、大きめの声で彼に告げたつもりだった。けれど彼はその言葉がまるで聞こえていないかのように、目を大きく見開いたまま、顔を真っ赤にして痙攣し始めていた。
 ……せっかくの自己紹介なのに、タイミング悪いな。
 一呼吸ついた刑事さん二人は、まるで何事もなかったかのように彼に背を向け、
「では、ひとつよろしく頼むよ。」
「お願いしますね。」
 と、私に声をかけた。私が「はい」とだけ答えると、彼らは無言のまま取調室を出て行った。
 ドアの閉まる音を背中で聞きながら、私は嶺岸さんの喉仏にさらに体重を乗せる。彼はやがて口から泡を吹き、ぐったりと全身の力を抜いた。失禁し、ズボンの下半身がじわじわと濡れていく。
 ……ちょっとやりすぎちゃったかな。これから尋問しなきゃいけないし。
 私は足を彼の喉元から放す。周囲を見回すと、ちょうど刑事さんが残していったライターが目に入った。手に取り、彼の耳を炙る。肉がじりじりと焦げる音を立て始めた頃、彼は悲鳴を上げて飛び起きた。何が起こったのか分からないといった様子で耳を押さえている彼の姿が滑稽で面白い。
 私は再度、自己紹介をした。今度はちゃんと聞いてくれたと思う。
「じゃあ、早速質問させていただきますね。」
 呆然としている彼に向かって、私はさらに言葉を続ける。
「あなたは京握区内で、無差別に罪のない多くの人たちを殺傷した爆弾魔ですね。」
 その言葉を聞いても彼は無言のままだった。相変わらず耳を押さえたまま、身体を震わせ始める。
 私がさらに「答えてください」と言った時、彼が突然私に飛びかかってきた。
「ふざけんな! 俺はやってねえ!」
 と怒声を吐きながら、私に掴みかかる。
 とてもそんなことをするような人には見えなかったので、すごくびっくりした。何より、私はこの時あらためて、処刑人と取調執行人の違いを実感していた。私が今まで拷問してきた人たちは皆『違反者』という肩書きをもった人たちだった。そんな彼らには法の下、適切なメニューが与えられていた。態度も基本的には従順だった。私はそういう人たちに、メニューの一つ一つを与えていただけ。でも、今は違う。目の前の彼もそうだけど、ここに来る人たちは皆、まだ自白もしていない容疑者なのだ。こうやって襲いかかってくることも多々あるのだろう。
 彼のお陰で、私はまた一つ勉強することができた。

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 ***

 人事異動が終わって、新しい部署に回された。私は今年度、晴れて『正当拷問自白法違反者処刑人』から『正当拷問自白法取調執行人』へと昇格になった。
 刑事としてのランクアップはもちろん嬉しいけど、それについては正直まだ実感がない。それよりも私が何より嬉しかったのは、憧れの凛先輩と同じ部署で働くことができるようになったということ。
 さっきも私を気遣って電話までしてくれた。本当に素敵な先輩だと思う。先輩も言ってたけど、これから一緒に仕事をすることもあるんだろうなぁ。そう考えると、すごく楽しみ!
 今日は初日だから本当に緊張したし、正直疲れたけど、でもやっぱりやり甲斐のある素晴らしい仕事だと思った。
 私の手で一人でも多くの悪人を自白させてみせる。そしていつか、全ての悪人をこの世から消してみせる。何より私は今、刑事として働けることがすごく嬉しい。悪人を懲らしめることがすごく楽しい。
 この気持ちを持ち続けている限り、私はこれからも仕事を続けていけると思う。


 容疑者 嶺岸秀一 二十四歳

 
 取調室の前に立った途端、すごく荒っぽい声が聞こえてきた。
「違う……。違う! 俺はやってねえ! やってねえんだよ!」
 私は気を引き締め、身に着けたミニスカートの裾を整える。この白のプリーツスカートは、買ったばかりのお気に入り。動きやすさを考えて、上半身には淡い黄緑の半袖Tシャツを選んだ。高めのヒールのついた薄いブラウンのブーツは膝丈サイズ。このコーディネートは、春を意識したものだ。アクセサリにも気を遣って、今日はネックレスとダイヤの指輪を身に着けてみた。
 案内係の警官の「よろしくお願いします」という言葉に「はい!」と短く元気に返事をした後、私はドキドキしながら取調室の扉を開いた。
 室内を覆う煙の臭いがきつかった。机上の灰皿の上には火のついたままのタバコが適当に置かれていて、煙がモクモクと出ていた。正直ケムかった……
 紫煙の向こう側に、うっすらと男性二人の姿が見える。どちらも取り調べに当たっていた先輩刑事さんだ。でも、まだ部署に配属されたばかりで顔を見ても名前が浮かんでこない。後で勉強しておかないと……。次いで、その二人の刑事さんが、必死で取り押さえようとしている人物の姿が目に入った。
 白んだ狭い部屋の中で目を凝らしてその顔を確認する。彼の第一印象は、私の想像とは全く違っていた。茶髪でもなければロン毛でもない。顔立ちには幼さが残り、純真な雰囲気を感じさせる。細身の身体に普段着をまとった彼は、真面目を絵に描いたような青年だった。
 正直、私にはとても罪を犯すような人間には見えなかった。
 刑事さん二人は私が入室したことを確認すると、
「後藤くん! こいつを取り押さえてくれ!」
 と、私に声をかけてくる。その声はとても切迫したものだった。
 私は表情を引きしめ、彼らのいる方へと急いだ。

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 冷えた空気が火照った身体に心地よかった。
 思った以上に疲れていたらしい。ゆっくりとお湯に浸かったことで、手足が幾分軽くなっているのが分かった。
 浴室の照明を切って部屋に入り、すぐさまドレッサーへと向かう。ちょっと前までは、こんなバスローブ一枚の姿では寒くてたまらなかった。あらためて、季節の移り変わりの早さを実感する。
 髪を頭の上で軽くまとめ、化粧水を手に取る。それをコットンに多めに含ませ、頬を丹念に撫でていく。化粧台の前には、たくさんの美容液や化粧品が並んでいる。それらを使ってお肌のケアに勤しむ。
 一通り終わって顔のお肌チェックをしている頃、小さなケータイが私を呼んだ。掌の半分ほどの大きさのそれを手に取る。着信表示には大切な先輩の名前が浮かんでいた。
「はい!」
 喜びと期待でつい大きな声を出してしまう。
「もしもし、由香利――」
 甘くて優しい声が身を包む。
 さっきまで感じていた疲れがまるで嘘だったかのように、身体中に元気が漲ってくる。
「凛先輩、こんばんは! おつかれさまです!」
「うん。今日は本当におつかれさま。正直、疲れたでしょ?」
「はい。でも、先輩から電話をもらったら急に元気になっちゃいました。」
 通話口の向こう側から、苦笑にも似た笑い声が聞こえる。
「……どうだった?」
「そうですね。初めての仕事だったので、いろいろと新しい発見がありました。」
「どんな?」
 凛先輩のその言葉を聞き、あらためて今日の出来事をふり返ってみる。その時になって初めて、今日の日記をまだつけていなかったことに気が付いた。そのことを考え込み、しばし沈黙してしまう。
 再度、先輩の言葉が通話口から聞こえてきた。
「あ、いきなりそんなこと聞かれても困っちゃうね。ごめん。」
 黙り込んでしまったことで心配をかけてしまったのかもしれない。慌てて口を開く。
「ごめんなさい。いろいろとあったんですけど。」
「一口では言えないよね。本当、無理しなくていいから。またゆっくり聞かせてね。」
「ありがとうございます。これからも頑張ります!」
「――ん……あの、さ……。……あまり気張らなくていいからね。」
「ご心配、ありがとうございます! 嬉しいです!」
「もし辛かったら――」
「全然! 今日もすごく楽しかったので!」
「……そう。……それならいい。これから一緒に仕事をする機会もあると思うから、よろしくね。」
「はい。こちらこそです。どうぞよろしくお願いします!」
 そこで通話は途切れた。
 凛先輩から直接電話してもらえたことで、心までリラックスできていることに気付く。あらためて先輩に対する感謝の気持ちが膨れ上がってくる。心地よい気分で机に向かい、私は一冊のノートを手に取った。新しく買った分厚いノートの表紙には『由香利ノート』と記してある。表ページの見開きに書いた『正当拷問自白法 執行記録』という大きな文字を見ていると、今日の仕事の光景がまざまざと脳裏に浮かんでくる。私は夢中になってノートにペンを走らせた。
 ノートを書き終えた時、私の胸はなぜか大きな高鳴りを見せていた。
 ふと時計を見上げる。針は深夜一時を指していた。
 ――こんなにドキドキして、眠れるのかな?……でも明日も仕事! 寝不足は美容の敵!
 そんなことを考えながら、私はベッドに潜り込んだ。

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『正当拷問自白法』に出て来た、凛の過去の物語です。シリーズ第三弾として執筆しました。
愛とは、正義とは、拷問とは。
凛の数々の葛藤を表現したかったのですが、いかがでしたでしょうか。

過去の重い経験から、凛は成長していきます。
凛は今後、何を思って職務を行っていくのか。
この後登場することになる後輩である後藤由香利。彼女をどう教育していくのか。
ちなみに凛はこの後であの例の大物、大谷悟さんと出会うことになるのですが。
その辺りを含めて、シリーズものとして楽しんでいただければ幸いです。


メールフォームからご意見やご感想を送ってくださっている方々、本当にどうもありがとうございます。
大変嬉しく思うと同時に、それが時には励みになり、時には勉強になっています。
ただ、返信が必要な場合はメールアドレス記載をお忘れなく。
感想などはブログのコメント欄でも受け付けています。よろしければどうぞ、そちらにも書いてやってください。
また、ブログランキングやウェブ拍手などにご協力いただいている方々にお礼申し上げます。
応援の声をいただくと、本当にやる気が出ます。
今後も、お付き合いをどうぞよろしくお願いいたします。

●凛のキャラ絵 →  

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 男の刑事二人が取調室に入ってきたのは、その時だった。
「お、終わったんか。自白はしたんかいな?」
「終了なら、報告せないかんな。」
 二人の言葉は凛の頭にはしばらく入ってこなかった。ぼうっと気が抜けたように立ち尽くす。それは、これまで凛が見せたことのない、気力を失った表情であった。
「……自白……終了です。」
 そう一言だけ告げる。凛は涙を拭い、男の身体をそっと抱きしめた。
 刑事たちは何が何やら分からず、ただしばらくの間、凛と男を交互に見回すことしかできなかった。



 人を愛するということ。己の中の正義を守るということ。
 プライベートの時間。職務を全うする使命。
 凛は自分の中のさまざまな思いと向き合い、心に深く刻んだ。



 この世に犯罪は尽きない。
 本日も、また新たな容疑者が連れて来られている。彼女の仕事は、拷問し、自白させること。
 凛は、取調室の扉を開けた。
 容疑者に対し、淡々と挨拶した。
「担当の瀬川凛です。よろしくお願いします。」
 深々と頭を下げる。
 容疑者は凛を見て、驚きの声を上げた。
「あ…あれ? お前、凛じゃないか! わかるだろ、兄貴だよ。助けてくれよ!」
 凛はそれには答えず、男の喉元に手をかけた。
「なぁ、凛……冗談だよな?」

 凛には既に迷いはなかった。



END

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 男が凛の顔に向かって、よろよろと手を伸ばす。反撃かと思い凛は警戒したが、彼の手は凛に害を為すつもりはないようだった。指先を凛の耳の側にまで伸ばす。
 虫の息で、男は言葉を絞り出した。
「……覚えてるか? 去年のクリスマスに買ったプレゼントを……」
 凛の瞳が、一瞬大きく揺れた。
 彼女の耳に付いたプラチナのピアスがキラリと光る。
「大切にしてくれてるんだな……。ありがとう。」
 男は本当に嬉しそうに微笑んだ。身体の痛みや苦しみを忘れたかのように清々しい笑顔だった。それは、凛が一番よく知っている彼の、古嶋隼人の顔だった。
 凛は攻撃の手を緩めた。そして、静かに男に語りかけた。
「私は……」
 声が震える。
「……私は、あなたの恋人である瀬川凛です。ただ、同時に私は警察官でもあります。」
 凛は彼に対し、真っ直ぐな視線を向けていた。淡々と彼女は言葉を続けた。
「容疑者に自白をさせるのが、私の仕事です。それが……私の正義です。」
 男は項垂れた。しばらくの間、沈黙が二人を支配した。
 どのくらいの時が経ったのだろう。
 男がポツリと呟いた。
「殺すしか……なかったんだ……。」



「あいつは……ずっと凛をストーカーしてたんだから……。」
「…………」
「俺もずっと嫌がらせを受けてた。本当にしつこくて、陰湿な……。」
「…………」
「あんなやつ……死んで当然なんだ……。」
 男がとうとうと言葉を吐き続ける間、凛は口を挟まなかった。
 ただ、哀れみにも似た目で彼を見つめていた。
 ずっと冷静な顔だった凛の瞳に、涙が溜まっていく。
 男の頬にそっと手を沿え、彼の口を自らの唇で塞いだ。
 突然の出来事に男は言葉を失う。途惑いつつ、彼は目を閉じた。おそらく最後のキスだろう。口付けを交わす二人の姿は、愛し合う恋人同士そのものであった。
 唇を離した時、そこには柔らかい笑顔の凛の姿があった。
 凛はしばし彼を優しく見つめた後、表情を引き締めた。

「それでも……殺人は、罪です。」

 男は顔を歪め、やがて泣き崩れた。

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