[18禁] 逆リョナ小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
「――いいって?」
 瑞々しく潤った女のきめ細かい肌が、君の身体を包んでいた。
 先ほどまで、君は肩を落としていた。今は一転、虚空を見つめている。
「もう、どうでもいいんだ。放っておいてくれ」
「そっか」
「…………あぁ」
 それが、ひどくか細い声だったため、彼女はつい苦笑してしまう。
「そんな言い方されてもね」
「言い方?」
「遠慮は、愛情を要求する手段だから」
 彼女は君の背中に爪を立て、つ――、と肌を裂いた。爪痕が白く残り、じわりと血が滲む。行為を繰り返されるたび、君は苦痛の声をあげては、それを噛み殺す。悶声の合間に、
「殺してくれ」
 君は、幾度もそう口にした。
「想像通りの言葉。この世がダメだから、あの世に縋る?」
「違う! 俺が、……俺のほうから、死を選ぶんだ!」
「どうして?」
 そよぐ風が彼女の髪を靡かせ、君に甘い香りを運んでくる。
「愛想が尽きたんだよ、この世に」
「この世を捨てるの?」
「ああ」
「違うよ」
 彼女は、柔和な笑みを君に向けたまま、しかし、
「この世が、あなたを捨てるの」
 ばっさりと君の言葉を否定した。
「――え?」
「そんなことをしてみても、この世は、決してあなたを認めはしない」
 君の表情が、みるみるうちに青ざめていく。
「……何を、言ってる?……馬鹿な。……死ぬんだぞ!」
 情動が君を襲い、
「真似できるのかよ。……そんな勇気が、お前にあるか!?」
 君は震えた声を張り上げる。
 彼女は表情を変えぬまま、
「この世を否定し――」
「…………」
「死の素晴らしさを誇示し――」
「…………」
「そこに足を踏み入れた偉大な強者である自分は救われる者、そこに踏み入らない、あるいは、踏み入ることのできない卑小な弱者は救われない者――と、あなたはこう叫ぶのでしょうね」
 冷然と言葉を連ねた。
 もう何本刻まれたか分からない君の背中の爪痕が、またひとつ増えた。

Back | Novel index | Next
 ふたりの間を、やわらかな風が吹き抜けた。
 女は、そのすらりと長い脚で君の身体を絡め取りながら、
「他人に反発心をもっているのに他人に従い、他人を信じないのに他人を頼る」
 両手で、君の頬を優しく包み込んだ。
「嫌われることや傷つくことが怖いから、苦笑いで引き受ける。そして、断れない自分に言い訳する。悔しい思いを、人間愛という綺麗な言葉で塗り潰してね。それが――」
 わずかに間を置き、
「この世にあって幸せだと叫ぶあなたが、この世を否定しているという矛盾を生む理由だよ」
 彼女は結論付けた。さっきも言ったように――、と、前置きをしてから、
「それが答え」
 静かに、先ほどの言葉を繰り返した。

 言葉を失い、
「うぅ……」
 と、肩を落とす君の首元に、彼女の両腕がするりと巻き付いた。彼女の体温が、次第に、抱かれた君へと伝わっていく。彼女の右手はいつしか君の首元を離れ、腹部に宛がわれていた。
 トン。
 さり気なく放たれた掌底は、君の中身を掻き乱し、
「う……、えええっ……」
 君はそこで嘔吐した。
 彼女の右手が再び動く。指先が、君の身体を執拗に這いずり回った。君の身体は嬌声を上げ、局部がじわじわと肥大していく。やがて彼女の指は、君の指の中に収まった。ふたりの指が美しく絡んでいる。彼女は再び、そっと君を抱き寄せた。
 彼女はその間、ずっと黙ったままだった。
 君の涙が、頬を伝って流れ落ちていく。泣きじゃくる君の声が、静かなこの場所に響いた。
 この世を否定しなければ、君はもう心のバランスを保てない。矛盾していても、論理的でなくても構わない。自分の考えることが事実――そう思い込まなければ、君の心が崩壊してしまう。そのことを、彼女は熟知していた。
 君は項垂れた。
 ふと顔を上げれば、そこにはさっきまでの君とは違う表情が浮かんでいる。
 彼女が微笑み、君の唇を奪う。二、三秒ほどで、ふたりの顔は離れた。二人の口を繋ぐ唾液の糸は儚く切れた。
「あなたは、心の底では自分の不幸を知っている」
「…………」
「認めてほしいんだよね?」
「……もう、……いいんだ」
 それが、ようやく君の口から出た言葉だった。

Back | Novel index | Next
 女はその切れ長の瞳で君を見下ろし、
「ぐうぅ……」
 今度は腹を、ぐいと踏み付ける。
「もちろん、あなたは頑張ってきたよ。……だから報われない」
「な、にっ! ぐ……、あああぁ」
「迎合も、誇張も、あなたの弱さゆえ。不憫だね……、本当に……」
 すらりと伸びた長い脚が、さっきよりよく見えた。その脚を包む靴の底は、君の腹にじわじわと負荷をかけ、やがて、ずぶずぶと埋まっていく。圧迫感によって、君の言葉は断続的なものへと変わる。
「う、ぐぅ、うるさ、いっ!……、お、まえに、……ぐ。何が分か……っぐあ!」
 踏み躙りながら、彼女は舌を覗かせ、己の唇をペロリと舐めた。それからゆっくり、滔々と言葉を発する。まるで流麗な詩のようだ。
「あなたは結果的に、自分を苦しめただけ。期待する効果なんてなかった。むしろ、好かれようと思えば思うほど、そうなるように行動すればするほど、あなたからはだんだん人が離れていった。それは、その努力が、自己犠牲のうえに立っているから。自分のためではなくて、他人のための努力だから。利用されるだけされて、そのぶんだけ軽く扱われて、心の底では馬鹿にされて、あなたには不満や憎しみが積もって……」

「――それでも、あなたは、笑っていたんでしょう?」

「っ……!」
 慈愛に満ちた、それでいてどこか冷たさを帯びた視線が、君の心を貫いた。

 女はしゃがみ、君を優しく抱き起こした。目線の高さを合わせ、
「あなたがしてきたのは、逃げるための努力。不安を隠すための努力」
 君の耳元で、
「気に入られたいから、認められたいから、頑張った」
 囁いた。
 君は悔しくて、彼女の言葉をなんとか否定したくて、
「そんなくだらない奴らに気に入られて、こんな世の中に認められて、嬉しいもんか!」
 声を荒げた。
「……この世が腐ってるんだ。どうしようもなく!」
 そうするしかなかったのだ。もちろん、彼女にはその意味がよくわかっていた。
「それが答え」
 彼女は美しい微笑を湛え、君の顎を指先でくいと持ち上げた。そして、ふっ――、と君の耳に息を吹きかける。
 唐突なその行為に、君は戸惑った。

Back | Novel index | Next
 幸福は存在しない。
 だから、君は、
「幸せだ!」
 精一杯、そう叫んだ。
 時も所もわからぬまま、君は大の字になって寝転び、見知らぬ女を見上げていた。背の高い、黒髪のよく似合う、清楚で神々しい雰囲気を纏った女だった。
 君の言葉を耳にしたとき、彼女は、
「そう。そんな風に、無理やり言わなければならないほど――」
 口元にわずかな笑みを浮かべながら、
「……不幸なのね」
 君の喉を強く踏み躙った。
「ぐっ……あ、ああ……っ」
「可哀想に」
 膝上まで覆う靴が、皮特有の音を奏でながら君を苦しめる。うめき声とともに、君の口からは涎が零れてくる。呼吸困難に陥りそうになり、必死で彼女の足の下でもがいている。それでも君は、
「無理やり、じゃ……ない」
 言葉を絞り出した。妥協できない思いが、君を突き動かしていたのだ。
 しかし、目の前に立つ女が心を乱すことはない。
「孤独なのね。恐ろしいまでの絶望を、あなたから感じる」
「馬鹿な。俺は幸せだ!」
「幸せなら、わざわざそれを謳ったりしない」
 彼女は大きなため息を吐き、
「あなたの声は、心の悲鳴なの」
 捕らえていた君の喉を解放する。間もなく、君は激しく咳き込んだ。
「本当は気づいているんでしょ?……願うほど、あなたは愛してもらえなかった」
 その言葉につられるように、
「……俺は、頑張ってきた」
 君はポツリと零す。
 それが引き金となり、
「なのに、不幸になるなんて……、許されるわけがない。努力は絶対に……、絶対に、報われるはずなんだ。報われなきゃならないんだ! だから……、今でも俺は、自信をもって言える。思える。俺は、幸せだ。……幸せだ。幸せだ!」
 言葉は勢いよく流れ出た。
 目に涙、口に涎を光らせながら、君はその声を次第に大きくしていった。

Back | Novel index | Next
催涙雨。
全国的に雨の多い七夕でしたね。
織姫と彦星の流す涙に打たれてみました。
寂しくも、いつもと変わらぬ雨でした。

作品を気に入ってくださった方は、ぜひ拍手のクリックをお願いします。
よろしければ、ランキングバナーのクリックにもご協力ください。
FC2Blog Ranking

Back | Novel index | Next
「短冊かい?」
「うん」
「そうか。今日は七夕か」
「お父さん、忘れてたの?」
「ああ。すっかり」
「ん、できた!」
「そうか。笹は、どこかにあったかな?」
「うん、あるよ。私が持ってくるからいいよ」
「えっと、確か、んと、あ、そうだ! 物置にしまっておいたと思うな」
「それって、去年のとかじゃないの?」
「あ、そうか。古いとダメなのかな。じゃあ、どこにある? 持ってくるよ、お父さんが。今ほら、お父さん暇――」
「……あのさ、お父さん」
「ん?」
「せめてそのお茶飲み終わってからにしてよ、もう、せわしない」
「そうか?」
「うん。お父さんのそういうバタバタした感じ、正直、趣がなくて冷める」
「うあっ!……きついなあ、心音は。……はい、わかりました」
「ふふ、よろしい。その間にさ、お父さんも願い事、書けば?」
「お父さんは、……いい」
「どうして? お願い書かないと、叶えてもらえないよ?」
「……書いてきたんだ。これまで。先立った郁実――、っと、心音のお母さんに逢いたいって。……話せなくてもいいから、夢の中だけでいいから、一目でいいから、声だけでもいいから――そりゃあ、……何度も、……な」
「……逢えたの?」
「はは。残念ながら、毎年欠かさず書いたんだけどね。願いは叶えてもらえなかった」
「そう……」
「――あっ! あ、いやいや、ごめんごめん、悪かったよ。心音は良い子だし、可愛いからさ、きっと願いは叶えてもらえると思う。お父さんはほら、趣が無かっただけで――」
「可愛いは関係ないでしょ?」
「あ、えと、あ、と、そっか、でも――」
「ふふ」
「え?」
「なんか、そういうところも、お父さんらしいなあって」
「……んーっと」
「褒めてるの。お父さん見てると、何か、イライラするのも馬鹿らしくなる」
「そっか。……じゃあ、とりあえず喜んでおこうかな、はは」
「ねえ」
「ん?」
「私が、お父さんの願い事、代わりに書いてあげるよ」
「あっはは。孝行な娘に恵まれたもんだ」
「お父さんが早く死にますように――」
「――え?」
「お母さんが逢いにきてくれないんだもん。名案でしょ?」
「わっははは。いや、こりゃ参ったな」
「何よ。お父さんのさっきの話、聴いてちょっと感動してたんだけどな、私」
「あ、いや、ごめんな。ただほら、お父さんもまだまだ若いつもりだしさ」
「死ぬのは嫌なの?」
「まあ、そうだね。まだ死ねないかな。心音の成長もまだまだ見たいしね」
「そっか」
「だから、お父さんのことはいいんだよ。心音のお願いだけで」
「……早まったなあ」
「え?」
「願い事」
「ん? どんな願い事した、ん――、っ!」
「……ふふっ」
「こ……、ぐ……っ! あ……」
「いつもうるさいお父さんの――」
「っ……、は、かはっ!」
「――お茶に盛った毒が、早く効きますように」



END

Back | Novel index | Next
 愛奴。
 あなたに、ささやかな贈り物を差し上げましょう。

「――逆らいなさい」

 命令です。
 本来であれば、絶対のもの。
 ですが、今回これに従うか否かは、あなたが決めていいですよ。
 ほら。……はやく。

 ……命令に従うのですね。
 私に逆らう奴隷は必要ないです。去りなさい。

 どうしたのですか? そんなに動揺して。
 訂正したいのですね。構いませんよ。
 では、

 ……命令に従わないのですね。
 私の命令に背く奴隷は必要ないです。去りなさい。

 あらあら、そんなに泣きじゃくって。
 可愛い子ですね。

 冗談ですよ。
 今日は、エイプリルフールではないですか。
 驚き、必死になって慌てふためくあなたの表情。
 とても無様で素敵でした。

 じゃあ、嘘はここまで。
 早く去ってくださいな。



END

| Novel index |
謹賀新年

なんとなく、彼女とは気が合いそうです。
会えるなら、いろいろと話してみたいなぁ……
――と、そんなことを考えながら執筆していました。
可愛らしい彼女の姿をご覧いただけていれば幸いです。

昨年は、たくさんのご来訪を頂き、誠にありがとうございました。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

Black Onyx [ブラックオニキス]管理人 ゆきな梨央

作品を気に入ってくださった方は、ぜひ拍手のクリックをお願いします。
よろしければ、ランキングバナーのクリックにもご協力ください。
FC2Blog Ranking

Back | Novel index | Next
 寒い。
 波風が、さっきより泣き声を大きくしている気がした。
 早く確かめて帰らないと……、早く見つけないと……、凍え死んでしまいそう。
 埋めたのは、……このあたりだったよね。
 ……うん、そうだよね。そう。……多分。そう。うん。ねえ、そうでしょ? そうだったよね?
 掘って、掘って、どんどん掘って――
 ――いた!
 安堵の息が漏れた。表情が綻ぶのがわかる。
 カケルくん。ヒトシくん。ソウイチロウくん。
 確認作業は、とても苦しい。今日いたからといって、明日もいるとは限らない。
 万が一、誰かが掘りおこしてしまったら……。万が一、波が土ごと彼らを拐っていってしまったら……。万が一、この元彼たちが土から這い出して逃げてしまったら……
 不安は尽きない。
 妄想が膨らんでいく。胸が高鳴り、唇が震える。寒い。寒い。いるよね? あれ? さっき……、いたよね?
 ――もう一回だけ、確認しよ。
 土をかけ終わった場所を、再度、掘って、掘って、掘って――
 蛙がいた。さっきは見つからなかった。冬眠してる。迷惑な蛙。こんなところで春を迎えられたら、元彼たちが驚くだろうし、邪魔にもなるだろう。だから、きちんと踏み潰しておいた。二度と目覚めないように。何度も何度も踏んだ。中途半端では安心できないから、中身が全部出てペッタンコになるまで、丁寧に、しっかりと。
 そのときになって、はじめて自分が裸足だったことに気づく。
 ……どうして、履いてないんだっけ? あぁ、足、……こんなに汚れちゃったじゃない、このバカ蛙!……うぅ、手が冷たい。きつい。つらい。……助けてよ。ねえ、誰か。誰か!……って、誰もいないよ、当然。ははっ。
 ――あ、そうだった。カケルくん? ヒトシくん? ソウイチロウくん?
 掘って、掘って、掘って……
 ――いた! やっぱり、いた! ほら、いた! いたでしょ? ほらねっ!
 安心を胸に刻み、きちんと埋めなおす。そうしてはじめて、わたしは帰宅することができる。

 毎日、毎日、毎日、毎日、わたしは穴を掘った。掘り続けた。
 不安だから……、ただひたすら。
 ――いた!
 おとといも、昨日も、やはり元彼たちは、そこにいてくれた。
 まるで、デートの待ち合わせのように。……あ、それじゃ三股になっちゃうか、ごめんね、あははは!
 胸がすうっと軽くなる。こんなにも不安に押し潰されそうなのに、確認するだけでここまで安心できる。わたしはなんて幸せなのだろう。……とても、幸せ。幸せ者だよ。こんなに容易いもの。ね? そうだよね? わたし、幸せだよね? ねえ?
 あぁ……寒い。寒い、寒い、寒い。もう、寒いよ、うぅ……、う……うふ、ふふっ。はは、……ははっ、あっはははははははっ!
 
 それなのに……
 ――あ。
 平和な日常というものは、こんな風に、あっという間に崩れてしまうのだ。

 ……いない。

 いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。
 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

 その時、除夜の鐘の音が、風に運ばれてきた。
 今日は、大晦日。

 ――あぁ、そっか。

 きっとお参りに出かけたのだ。
 そんなことにも気づかなかった自分が、なんだかとても可笑しくて――
 わたしは大声で笑った。



END

Back | Novel index | Next
ネット越しの甘いコミュニケーション。
ただし、基本は自己責任です。
トラブル等には、十分お気をつけくださいね。

作品を気に入ってくださった方は、ぜひ拍手のクリックをお願いします。
よろしければ、ランキングバナーのクリックにもご協力ください。
FC2Blog Ranking

Back | Novel index | Next