[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
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メリークリスマス!
よき聖夜を。

今年もあとわずかですね。
寒い日が続きますが、皆様、くれぐれもご自愛ください。
これからも、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞご贔屓に。

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「メリークリスマス!」
 帰宅した僕を、彼女の明るい声が迎えた。
「お!」
 思わず声が漏れる。彼女のワンピース姿に目を奪われたからだった。
 丈が短い。赤と白を基調としているのは、サンタクロースを意識してのことだろう。長袖であることも相俟ってか、大胆に覗く生脚は強調され、僕にはとても艶やかに見える。足先を包むフリルのついた白いソックスも、とても可愛らしい。しばし見惚れる。
 と――、
「あっ!」
 僕は、さらに大きな声を上げた。
「どう?」
 彼女の隣には大きなクリスマスプレゼントが置かれていた。中身の質感はあまりに繊細で滑らかで、僕は一瞬で虜にされてしまった。
「欲しい?」
 一も二もなく、僕は頷いた。
「じゃあ、あげる」
 僕はつい彼女の前に、無防備に手を出してしまい、
「――うっ!」
「あっははは。ひっかかった!」
 鳩尾を抉る強烈なボディブローをもらってしまった。たまらず身体をくの字に折る。この彼女の悪い癖は、今に始まったことではない。彼女は、ふらつく僕の首を捕まえて脇に抱えると、さらに膝で腹を打つ。
「うえっ!」
 漏れる僕の声を聴き、彼女はとても嬉しそうに笑う。
「ぐえ……、あ」
「あっはは!」
「ううっ」
「そろそろ吐く? ここ? ここ?」
「うっ!……ぐふうぁっ!」
 呼吸ができない。食べたものがせり上がり、喉を刺激する。涎が垂れる。
 彼女が手を放したとき、僕は咄嗟にうずくまった。身体を横に倒し、唸る。彼女は爪先で僕の脇腹を追撃し、
「終わり?」
 仰向けになった僕の顔を、その大きな瞳で見つめた。
 満足そうな笑みだ。息があがっている。そんな彼女を見て、僕もまたにっこりと笑った。
 ――と、
 ふと、彼女の口元が悪戯っぽい形に歪んだ。
「……え?」
 高く持ち上げられていく脚が視界に入る。彼女のその動きは、実に優雅で、ゆったりとして見えた。が、なぜか言葉を放つ余裕はなかった。
「ああっ!」
 気づいた時には、彼女の足がプレゼントに叩きつけられていた。
「あぁ……あああ!」
 ……潰れてしまった。
 さっきまで美しかったプレゼント。
 素敵だと思っていたんだ。

 その、箱詰めの彼の美貌が――



END

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「彼女のもつ内外の魅力を詳細に描けない!」
よく考えれば、このカラクリでは当たり前のことなんですよね。
(もちろん、上手な作者さんであれば他愛ないことなのだと思いますが。)
私のレベルでは……(汗) いやぁ、参りました。
それでも、描きたいものは描きたい。その気持ちだけで、なんとか仕上げました。

M男クンとはコンナモノ。
ソウ言い放ち、ソレを否定してくれるようなツヨイ子を探シテみたくなり、ほらヤッパリねと苦笑スル。
そんなイジワル心が芽を出して、この春もマタ、こうしてひとつの作品を咲カセました。

ふと――
「長く続けてきたものだなぁ。」
と。
温かいような、切ないような、気持ちいいような、懐かしいような、そんな様々な感情を覚える瞬間が、多々あります。
しつこく、何度も申し上げていることですが、ご来訪くださる読者様方のお陰です。

「やめないでほしい!」
メールを下さった方、ありがとうございます。
こんな挨拶をいつも書いているから、誤解の原因のひとつになってしまうのでしょうね。
まだまだ、現役をやめるつもりなどさらさら無い管理人です!
これからも、男性たちを可哀想な目に遭わせていく所存です!
今後とも、Black Onyx [ブラックオニキス]を、どうぞよろしくお願いいたします。

本作もまた、ご覧くださった方々に深く感謝申し上げます。

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 女は微笑を浮かべた。
 眼前にある男の首を掴み、身体ごと壁にぐいと押し付ける。
 男にとって我が家の壁は、ひどく背中に冷たかった。喉を圧迫する力がじわじわと強くなっていく。苦しい。それでも彼に許されているのは、ただ受け入れることだけだった。なぜなら彼が、彼女と主従関係を結んでいる雄奴隷だったからだ。男は彼女を主様と呼び、女は彼を――尤も呼ぶことさえほとんどなかったが――雄と呼んでいた。
「うぅ……」
 男が呻き声をもらす。それを聞いた女は「ふふ」と声をあげ、さらに力を強めた。セミロングに整えられた彼女の髪は明るめに染められ、首筋を包むようにカールしていた。小首を傾げて男を見つめた際に、わずかにその髪が乱れた。それをかきあげると、薄い桃色のグロスをひいた唇を頬に這わせ、すいと男に身体をすり寄せる。それは、彼の反応を見るためだった。
 女の着ているギンガムチェックのオフショルダーワンピースは、両肩の出る大きなネックラインが特徴だ。ストッキングやソックスの類を何も着けていないため、下半身は生肌の脚線や紅いペディキュアの施された爪先が露わになっている。つまり、男が視線を落とせば彼女の胸は容易に覗けるし、足脚もまた見放題なのだ。男の視線の先というものは、男が考えている以上に素直でわかりやすい。彼女の行為は、それを知ってのことだった。だが、彼はそれをしなかった。忠誠心ゆえか苦しみゆえかは彼女にも即断できぬことではあったが、少なくとも男に邪な気持ちが見られなかった――それだけで、彼女は満足だった。
「ぐ……、っぐ……」
 やがて、男の身体が痙攣を始めた。と――、女はそこで一度、掴んでいた手を放し、腕を首に巻き付ける。チョークスリーパーだ。同時に胴体は彼女の両足に絡め取られ、彼の身体はがっちりと固定されたまま床に倒された。
 男の瞳は、もはや何も見てはいない。既に意識が混濁しているのだろう。その瞳には光がなかった。彼の身体が激しく脈を打ち始める。口からは泡のようなものが溢れ、
「ぶぶ……、ぶ」
 と、声ではない音が鳴る。女はそんな彼の様子を見ながら哄笑した。苦しむ彼の姿を見ることは、彼女にとって最高の愉悦だった。性的な熱情を揺さぶられ、女はその力をますます強めていく。が、それはあくまでもゆっくりと、じわじわと実行されていった。陰湿な。執拗な。そういった言葉がしっくりくる責め方だった。男は手足をばたつかせ、もがき、何かを伝えようとしているようだ。しかし、
「ご……。か、ご……」
 聞こえてくるのは、ただの音。
 女は、暴れる彼を押さえつけることを、純粋に、かつ、静かに楽しんでいた。しっかりと決まったチョークスリーパーには、ごく僅かな隙も無い。彼女は口の端を持ち上げ、冷たさを湛えた瞳で男を後頭部からじっと見下ろし、喉を潰さんばかりに絞めては時折ゆるめ、また絞めては弛め、絞めて、弛めて……、絞めて、絞めて、絞めて――
 ――数分後、音が止んだ。さらに数分後、いびきのような音が出始めた。相変わらず痙攣は続いている。さらにじわじわと絞めていくと、いびきも痙攣も、次第に小さくなっていった。
 やがて、いびきも痙攣も無くなった。
 いびきの音と同じく、呼吸の音も無くなった。
 痙攣の動きと同じく、心臓の動きも無くなった。
 雄が、雄でなくなった。
 生物ですらなくなった。

--------------------------

 主様からのそのメールを凝視し、僕は唾を嚥下した。
 ――なんとなくのイメージくらいはできた?
 以降、そう続けられた言葉が、ひどく淡白に思えた。
 怖い……
 怖い。怖い……怖い!
 パソコンの画面を見ながら、僕はしばらく硬直した。唇だけが微震している。つ――、と、一筋の汗が、こめかみから頬を伝っていく。
 最初に発しようと思っていた挨拶は、何度も練習した。
『お目にかかる機会を頂けましたこと、恐悦至極に存じます』
 想像上の自分は、僕の理想とする奴隷そのものだった。
『醜く名もない下等生物の雄でございます。取り柄ひとつない汚いこの雄ですが、精一杯、奉仕させていただきます』
 だが、それら数々の想見は、
『主様。もったいないご命令をありがとうございます。舐めさせていただきます』
『ぐうっ! あぁっ……、はい、痛いです。苦しいです。ありがとうございます』
 ……瞬く間に崩れていった。
『申し訳ありません、主様! わたくしが愚かなばかりに……う、……があ!』
 そう。きっと、こんな言葉を交わす暇など無いのだ。
『あ、……あぁ、そ、そこは……は、はい……、主様、き、気持ちいいです。はい』
『主様。逝かせていただき、ありがとうございました!』
 全てが、僕のエゴだった。
 ――多分、あなたがメールを見終わる頃には、そこに着けるよ。近いしね。
 メッセージは、そう締めくくられていた。

 トントン。

 まもなく聞こえた、静かなノックの音。続けて響いた、知的な雰囲気を醸す女性の声。
 躊躇する。混乱する。おののく。
 あれほど待ち焦がれた今日。
 ここで返事をすることが、何度夢見たかわからない最高の瞬間の実現になると、わかっているはずなのに――



END

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謹んで新年のお祝詞を申し上げます

旧年中は大変お世話になり厚く御礼申し上げます
本年もどうぞよろしくお願いいたします

平成二十五年 元旦


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 ひと気はなかった。
 入り組んだ住宅街。高めの塀に囲まれた狭い道。出会い頭――
 目の前に現れた男性の腹をめがけ、私は渾身の力で拳を突き出した。
「ぐあ!……んっ……ぐ、ううあっ!」
 腹を抱え、よろめき、苦悶の声を絞り、
「う……っふ」
 すっと脱力する。瞳はくるりと反転し、やがて目は閉じられた。
 頽れる姿が艶かしい。気絶した口元を伝って流れ出てくる液体に興奮を抑えられない。下着が濡れてくる。が、その愉悦に浸っている余裕はなかった。
 影がふたつ。――警察官だった。
 事の一部始終を見られていたのかもしれない。目を付けられ、見張られていたのかもしれない。息を切らして駆け寄ってきたにもかかわらず、警察官たちの態度は落ち着いていた。
 言い逃れできない。

 こんなはずじゃなかった。

「あ、あの、……私!」
 抑えきれなかったのだ。どうしても、どうしても……
「許して……」

 こんなはずじゃなかった。

 後悔しても、もう遅い。
 彼らの持った手錠が、カチリと音を鳴らし、
「零時三分、現行犯!」
 気絶した男性の腕を拘束した。
 ――え?
 彼は窃盗の常習犯だった。
「お見事ですね。武道のご経験でも?」
 そんな問いに、大した意味はないのだと理解するのに時間がかかった。
 重ねて、
「逮捕へのご協力、ありがとうございました」
 柔らかい口調。
「表彰させていただきたいので、よろしければ署まで」
「ああ、もちろんすぐにとは言いません。新年早々お忙しいでしょうし」
「お時間ができましたら、ぜひご連絡ください」
 あっという間の出来事に思えた。彼らの言葉は、するすると耳を抜けていくようだった。
 連絡先のメモを残し、警察官たちは犯人を引っ張りその場を離れていった。

 こんなはずじゃなかった。

 ……なんだか、とても不愉快だった。



END

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 こんなはずじゃなかった。

 気付かれぬように、そっと苦しめることに意味があったのだ。
 私が男性の苦痛の声や表情などといったものにいつから興奮を覚えるようになったのか、定かではない。もちろん、おかしな性癖だ。記憶を探ろうとしたことは幾度もあった。が、二十歳を過ぎてもなお、その答えらしきものは見つからない。
 ドS。
 最近になって市民権を得てきたこの俗語を使って己を表現するのが、一番手っ取り早く、気楽に思えた。だが、それでは説明がつかないことがあまりにも多すぎた。
 朝の電車は混雑するから、わざと乗る。自分で言うのはいささかおこがましいが、男性は私に少なからぬ魅力を感じるらしい。下心のある男性への接近と誘惑には事欠かない。身体を密着させ、下半身を指先でなぞる。男性がそこでふっと恍惚の表情を見せる瞬間に、肘や拳を鳩尾に埋めるのだ。
「――っ」
 自然と苦悶の声が上がる。当然、気付かれては意味がない。偶然を装う。言い訳ができる程度に加減する。必要があれば「すみません」と声をかける。そうすれば、ほとんど怪しまれることはない。
 ヒールで男性の足を踏み付けたこともあった。胸を押し当て、困惑を湛える男性の表情を見つめ続けたこともあった。男性の股に膝を擦りつけることもあった。全て、さりげなく。だが、やはり実際に行動を起こすときには、いつも破裂するほど心臓が激しく音を立てた。苦しいし、緊張する。けれど、その行為が私にもたらす愉悦は、並大抵ではないのだ。
 誰にも迷惑をかけずに済むようになるのなら、それに越したことはないのかもしれない。
 心の病?
 もしそうであるなら、私は治療なんてしたくない。治ることが怖い。この快楽を失ってしまうかもしれないのなら、私は病気のままでいい。

 大晦日。
 除夜の鐘が響いてくる中、私は走っていた。
 趣味だ。擦り切れるような寒風が心地よく感じるくらい、身に着けた上下セットのトレーニングウェアは暖かかった。ビビットピンクを基調に、黒の縦ラインの入ったものだ。風を通しにくく、裏がメッシュのウインドブレイカータイプ。素足に直接、白のスニーカーを履いて走るのが、私の日課だった。大晦日の夜だからといって変わるような習慣ではない。
 ただ――
 今日は妙に、例の衝動が強かった。

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時計の針は進んでも、私はあそこに立ったまま。
あの時、あの場所、あの人と。
心を掴むのは、温かい手でしょうか。それとも、冷たい鎖でしょうか。

お陰様で、当サイトも今年で四回目のクリスマスを迎えることができました。
ご来訪くださっている皆様に、心より感謝申し上げます。
いつもたくさんのご感想、応援、ご助力、本当にありがとうございます。

皆様が、よき聖夜を迎えておりますように。

Merry Christmas!!

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 貴女は、実に残酷な方でした。
 それ故、私にとっての絶対的な支配者であり続けていらっしゃるのでしょうね。
 上品で、清楚で、神々しく――
 まるで別次元にでもいるかのような、そんな錯覚に陥ったこともしばしばでした。

 父の死後、貴女があの殿方と家を出て行ってから、どれほどの時間が経ちましたでしょうか。私の時間は、あの時のまま……、止まったままです。貴女に恋い焦がれ、未だに、そこに留まっております。
 残念なことに、貴女から頂戴したお言葉の全てを思い出すことはできません。ただ、
「無様な子」
 と、笑みの中に光る冷徹な視線で私を粉々に砕かれたことだけは、今でも鮮明に覚えているのです。
 私に価値を与えてくださったことが、とても嬉しかったのです。
 おっしゃる通りでした。
 私は今でも、人間のように生きていることに罪悪感を抱いております。言葉を話すことですら、なにやら一廉の者のように振る舞っているようで苦しく、羞恥心に苛まれてしまいます。
 母上様。ご教授くださり、本当にありがとうございました。
 そのお言葉を頼りに、今、私は何とか生きております。

 貴女は、父との情事の際には、いつも私をお呼びになりましたね。そのときの貴女のしなやかな肢体や官能的な躍動と、まるで私がそこに存在しないか、存在することをとことん蔑んでいるかのような貴女の態度が混同し、ひとつの記憶となり、今も私を縛りつけているのです。
 まだどこかで、貴女の影を探しております。今でも、貴女にとてもよく似た姉様に褒めていただきたいと思うのです。
 姉様に懇願しては、光沢を湛えるブーツを嗅がせていただいたり、舐めさせていただいたりしています。姉様が殿方と交わる姿を座して拝見し、無視していただいたり、罵倒していただいたりしています。冗談のつもりか、貴女の気質に似たのか、
「ほら」
 と、爪先で小突かれたときなどは、欣喜雀躍の思いに震え、その快楽に昏倒してしまうほどです。
 いずれにおいても、謝辞を申し上げております。もちろん、心より。

 ですが――

 きっと私の瞳は、いつでも、あのクリスマスの日を見ているのだと思います。
 心の底に、あのブーツがあるのだと思います。
 決して消えない。決して褪せない。
 それが、私の真実なのです。


 虚無感と渇望。
 貴女が下さった、永遠のクリスマスプレゼントです。



END

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 母上様。
 ああ、かの歓楽街で女王様の名をほしいままにされていた気高く美しい貴女を、私がどれほど物狂おしい思いで仰ぎ見てきたことか。
 図体の大きな父と、華奢で繊細な母上様。しかし私の目には、母上様のほうが、父の何倍も大きく映ったものです。五つほど歳の離れた姉様も、とても高いところにおられる印象でした。あの頃から、私は女性という存在に何か特別な眼差しを向けていたように思います。
 おそらく母上様、貴女はお気づきだったのでしょう。そして、気づかぬふりをすることで、あえて何もしないことで、私がどれほど苦しみ、悶え、また、どれほど心を乱し、恋い焦がれるかもご存知だったのでしょう。
 貴女は、私を蔑視していた。
 貴女は、私を弄んでいた。
 貴女は、私を無視していた。
 だから、私は、貴女を崇拝した。

 光沢を湛える黒い編み上げハイヒールロングブーツを、貴女はよく身に着けておられました。アスファルトを鳴らすコツコツという響きが、毎日、貴女の帰宅を私に知らせました。昼間のお出かけから歓楽街へとお仕事に行かれるまでの、束の間の時間ではありましたが――
「ただいま」
 貴女はその艷めいたお声で、幼い私を心から癒してくださいました。残業の多い父、帰りの遅い姉様。留守番の多かった私は、貴女のその声をいつも待っていた気がします。ですが、私にとってのそれは、喜びと同時に、恐怖を伝えるお声でもありました。
 玄関先で正座し、深く頭を下げさせていただくのが家のしきたりでしたね。私は、そのときに手の甲に突き立てられる鋭く尖ったヒールの先端や、顎を小突く爪先が恐ろしくて仕方なかったのです。それでも、そんな心の内など、高貴な母上様に語れるはずがありません。
 はじめは、我慢していました。ひとしきり苦しんだ後に頂戴する、貴女の笑顔と優しいお言葉が、私にとっての宝でしたので。ですが次第に、その黒光りするお履物に、言いようのない妖しい表情を感じるようになっていきました。それは、今考えると、愛しさや欲情といったものに似ていたのかもしれません。
 いつのまにかブーツが、耐える対象から、求める対象へと変わっていました。

 母上様。
 私は、これらの全てが、貴女の企みだったのではないかとさえ思っております。
 クリスマスに用意する靴下がブーツに変わったのは、この年のことではなかったでしょうか?
 毎年楽しみにしていたプレゼント。
 私の記憶では、その年、そこには何も入っていませんでした。いえ……正確には、恐ろしいまでの虚無感と渇望が入っていた、と言えましょうか。不思議でした。ですが、贈り主が貴女であるということを考えれば、おかしなことなどない気がするのです。
 容れ物自体がプレゼントだった。歪んだ目的としての役割を携えて、私の目の前に現れた。私は魅了され、高揚し、下品なモノを擦りつけ、白濁液を勢いよく飛ばした。
 ……貴女の思惑通り。違いますか?――母上様。
 エナメルブーツの蠱惑的な黒が、今でも、私の脳裏に焼き付いているのです。

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